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◆ 2015 年 11 月 2 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 倒産法 No.28
文献番号 z18817009-00-150281277
自己破産申立てを受任する等した弁護士の債務者財産保全に関する義務
【文 献 種 別】 判決/東京地方裁判所
【裁判年月日】 平成 26 年 4 月 17 日
【事 件 番 号】 平成 23 年(ワ)第 14471 号
【事 件 名】 損害賠償請求事件
【裁 判 結 果】 請求一部認容
【参 照 法 令】 民法 709 条
【掲 載 誌】 判時 2230 号 48 頁
LEX/DB 文献番号 25519307
……………………………………
……………………………………
2 平成 21 年 12 月 25 日、Yは、Aを代理し
事実の概要
て、本件破産申立てを行った。平成 22 年 1 月 13
1 平成 20 年 12 月 1 日、株式会社Aは、株
日、Aは破産手続開始決定を受け、その破産管財
式会社Bとの間で、指定自動車整備事業(いわゆ
人としてXが選任された。本件は、XがYに対し、
る民間車検場事業。以下「本件事業」という) を代
不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する不法
行為の後の日である平成 22 年 1 月 13 日から支
金 1,100 万円で譲渡する旨の契約を締結した(以
下「本件事業譲渡契約」という)
。Bは、平成 21 年
払済みまでの遅延損害金の支払いを求めて訴えを
1 月 30 日以降に、本件事業の譲渡代金を、Aの
提起したものである。本件でXは、(1) Yが本件
代表取締役である甲の指定した乙の銀行預金口座
破産申立てを受任した平成 21 年 1 月 23 日から
Aが破産手続開始決定を受けた平成 22 年 1 月 13
に何度かに分けて振り込んだ。振り込まれた譲渡
代金のうち、約 392 万円は甲の乙に対する債務
の弁済として乙が取得し、約 539 万円は甲の株
日までの間にAの銀行預金口座から引き出された
約 2,274 万円のうちB又は甲が費消した約 1,605
式会社Cに対する債務の弁済としてCに送金さ
れ、約 169 万円は甲が費消した。
万円及び (2) 本件事業の譲渡代金として乙の銀行
預金口座に振り込まれた約 1,100 万円の合計額か
平成 20 年 12 月、Bとの間で顧問契約を締結
ら、(3) Xが乙及びCに対して提起した本件事業
していた弁護士Yは、Bの代表取締役である丙か
ら甲を紹介された。Yは、平成 21 年 1 月 19 日
譲渡代金に係る金員の返還請求訴訟における裁判
上の和解により両者から支払いを受けた合計 328
に甲と面会し、同月 23 日にAの自己破産の申立
万円を控除した残額である約 2,377 万円が損害で
て(以下「本件破産申立て」という)を受任すると
あると主張した。
ともに、そのいずれかの日に、甲から本件事業を
譲渡したことを口頭で伝えられた。同月 28 日、
判決の要旨
Yは、Aの債権者に受任通知を発した。同年 2 月
6 日、Yは、本件事業譲渡契約の相手方がBであ
ることを知ったが、譲渡代金の支払状況について
請求一部認容。
1 本件事業の譲渡代金について
甲から明確な説明を受けることはできず、またこ
「自己破産の申立てを受任し、その旨を債権者
の点についてBに問い合わせるようなこともしな
かった。同年 5 月 27 日、Aの債権者の代理人弁
に通知した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、
護士は、Bの従業員から、本件事業の譲渡代金が
務者の財産の散逸を防止するための措置を講ずる
Aには支払われていないことを聞かされていた。
法的義務を負い、これらの義務に違反して破産財
速やかに破産手続開始の申立てを行い、また、債
団を構成すべき財産を減少・消失させたときは、
vol.18(2016.4)
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新・判例解説 Watch ◆ 倒産法 No.28
不法行為を構成するものとして、破産管財人に対
立ての費用に充てたことが認められる。
し、損害賠償責任を負うものと解される。
上記認定のとおり、Yは、平成 21 年 1 月 23 日、
そうすると、同日までは、本件破産申立てをす
Aから自己破産の申立てを受任し、同月 28 日、
債権者へのその旨の通知を発したこと、同月 23
21 年 1 月 30 日に振り込まれた金員について、上
日までには、Aが本件事業を譲渡したことを甲か
ら告げられ、また、同年 2 月 6 日には、……本
い。
件事業譲渡契約の相手方がBであることを認識し
たこと、譲渡代金の支払状況について甲から明確
降に乙の銀行預金口座に振り込まれた合計 942
万円……から和解金として受領した合計 328 万
な説明を受けることができず、この点についてB
円……を控除した残額である 614 万円について、
に問い合わせるようなこともしなかったこと、以
損害賠償義務を負うというべきである。」
ることができなかったというほかないから、平成
記義務の違反による損害と認めることもできな
以上によれば、Yは、平成 21 年 2 月 26 日以
上の事実が認められる。また、YはBの顧問弁護
士であったこと、本件破産申立てはBの代表取締
2 Aの銀行預金口座からの引出しについて
役である丙に紹介された甲から受任したものであ
引き出された金員の一部は、本件事業によって
ることのほか、
Aの債権者の代理人弁護士ですら、
発生した売掛金等の弁済としてAの預金口座に振
本件事業の譲渡代金がAに支払われていないこと
り込まれたものであるところ、本判決は、「本件
をBの従業員から知らされたこと、以上の事実も
事業譲渡契約の締結日……よりも前に生じたか否
認められ、これらの事実からすると、Yは、Bに
かを問わず、売掛金等は全てAからBに移転した
問い合わせれば、本件事業の譲渡代金がAに支払
われていないこと及び同月 30 日にはそのうちの
と考えるべきである」から、Aの預金口座から引
157 万 9,580 円が乙の銀行預金口座に振り込まれ
はいえない」としてYの責任を否定した。
き出された金員は「破産財団を構成すべきものと
たことを知ることができたというべきである。そ
して、乙の銀行預金口座への振込みを止めるよう
判例の解説
YがBに求めれば、Bがこれを拒否したとは考え
難く、少なくとも同年 2 月 26 日以降の乙の銀行
一 はじめに
預金口座への振込みは防止することができたと認
近時、破産手続開始前の債務者による財産散逸
められる。
について、申立代理人の不法行為責任を認める
したがって、Yは、債務者の財産の散逸を防止
裁判例が現れている(東京地判平 21・2・13 判時
するための措置を講ずる義務に違反したものであ
2036 号 43 頁(以下「平成 21 年判決」という)
、東
り、過失があるというべきである。」
「他方、同年 1 月 30 日に乙の銀行預金口座に
京地判平 25・2・6 判時 2177 号 72 頁(以下「平成
25 年判決」という))
。これらの裁判例では、破産
振り込まれた 157 万 9,580 円については、事業
事件を受任するなどした弁護士が、債務者の責任
譲渡の相手方がBであることを同日までにYが知
財産の保全に関して一般の第三者に課される同種
り、又は知ることができたと認めるに足りる証拠
の義務1) とは異なる特別の法的義務2) を負うの
はないから、Yがこの振込みを防止することがで
か、またその内容はいかなるものであるかが問題
きたとはいえない。」
となっている。まだあまり議論のない新しい問題
「Xは、速やかに破産手続開始の申立てを行う
であり、本判決はこの問題に関する新たな事例を
義務にYが違反したとも主張する。
付け加えるものである。
しかし、……Aには、本件破産申立ての費用に
充てるための資産がなかったことから、Yは、こ
二 義務の根拠
れを捻出するため、Aを代理して、D株式会社に
対して過払金の返還を請求し、平成 21 年 8 月 12
本判決は、自己破産申立てを受任し、受任通知
日、57 万円の支払を受けて、これを本件破産申
てを行う義務(以下「適時破産申立義務」という)
2
を送付した弁護士は、速やかに破産手続開始申立
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新・判例解説 Watch
新・判例解説 Watch ◆ 倒産法 No.28
及び債務者財産散逸を防止するための措置を講ず
務の発生を認めているようにもみえるが、決定的
る義務(以下「財産散逸防止義務」という)を負い、
ではない。第三者に対する法的義務の発生には法
これらの義務違反により破産財団を構成すべき財
的関係ないし事実関係に対する弁護士の一定の関
産を減少・消失させたときは、破産管財人に対し
与が必要であるが9)、破産事件以外の場面におい
て、不法行為に基づく損害賠償責任を負うとす
て第三者責任を認めた裁判例をみても弁護士が第
る。しかし本判決からは、自己破産申立受任及び
三者に対して直接信頼や期待を抱かせる行動をし
受任通知送付と法的義務発生の関係は明らかでは
たことまでは要求されていない
ない。
己申立てを認める根拠の一つには債権者の利益
自己破産申立てを受任した弁護士は、否認権(破
保護があることからしても
160 条以下)や刑事罰(破 265 条・266 条)などの
ては総債権者に対する法的義務の発生根拠は自
趣旨を踏まえ3)、債務者が責任財産を減少・消滅
己破産申立受任のみ
させることがないように適切な助言・措置を講じ
ろう
12)
10)
。破産法が自
11)
、破産管財人ひい
で足りるというべきであ
13)
。
る委任契約上の義務を債務者に対して負っている
ことについて異論はない。問題は、申立代理人は、
三 義務内容
破産管財人ひいては総債権者に対しても債務者財
本件では、本件事業の譲渡代金が散逸したこと
産保全に関する法的義務を負うのかである。平成
21 年判決は、自己破産申立てを受任した弁護士
について、Yに財産散逸防止義務又は適時破産申
は破産手続の目的実現に協力する公益的責務を負
財産散逸防止義務について、従来の裁判例では、
うとしてこれを肯定する。学説には肯定説4)と否
弁護士が債務者へ適切な指示を与えることや債務
5)
立義務違反が認められるかが検討されている。
があるが、肯定説は弁護士に課せられた
者に代わって印鑑・預金通帳等を管理することな
公正誠実義務6)(弁 1 条 2 項・30 条の 2 第 2 項、弁
ど、もっぱら債務者に対する行為が問題となって
護士職務基本規程 5 条) をその理由に挙げる。こ
いた。それに対して本判決は、YはBに対して事
れは、公正誠実義務として弁護士は、依頼者が違
業譲渡代金の振込み先を問い合わせかつ乙への振
法な行為に及ぶことがないよう説得等により避止
込みを止めるよう働きかけるべきであったとし
させる義務を第三者に対して負う場合があるとい
て、債務者以外の第三者に対して一定の行為を行
定説
7)
う理解
に基づくものであると思われる。
う義務を認める。ただし、YがBの顧問弁護士で
受任通知送付と法的義務発生の関係については
これまであまり議論がない。平成 21 年判決は、
あり、丙がYを甲に紹介したなど、YがBに振込
受任通知送付により債権者は個別債権回収を控え
い状況にあったという特殊な事案の下での判断で
ることになるところ、破産申立てが長期間にわた
。また、義務
の程度という点においては、本判決は平成 21 年
み中止を求めればBがこれを拒否したとは考え難
あり、その射程は限定的である
り行われずまた債務者財産散逸を防止する措置が
14)
講じられないとすると、債権者が著しく害される
1 月にYが事業譲渡の事実を知った時点ではな
のみならず倒産法制を設けた趣旨を没却すること
く、同年 2 月に事業譲渡の相手方がBであるこ
にもなりかねないとする。学説には、受任通知を
とを現実に知った日以降に限定してYの責任を肯
受けた債権者の信頼、期待を裏切った申立代理人
定しており、必ずしも高度の調査義務を課してい
は債権者や破産管財人に対する損害賠償責任を負
る訳ではないことにも注意を要する。
い得るとする見解がある8)。しかしいずれも、自
適時破産申立義務について本判決は、Aに破産
己破産申立受任により法的義務が発生しているこ
手続開始申立費用に充てるための資産がなかった
とを前提としている。そのため、受任通知送付に
としてYの義務違反を否定する。一般論として
独自の意義があるのかは必ずしも明らかではな
は、債務者による財産散逸の弁護士によるコント
い。
ロールには限界があり、速やかに破産手続開始が
本判決は一見すると自己破産申立受任に加えて
申し立てられることが望ましいことはいうまでも
受任通知が送付されたことによりはじめて法的義
ない。しかし、申立てに際しては一定の事実調査
vol.18(2016.4)
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新・判例解説 Watch ◆ 倒産法 No.28
が要求されているところ、その間の財産散逸につ
(東京弁護士会ほか、2011 年)321 頁。佐藤鉄男ほか「倒
産手続の担い手」民訴 61 号(2015 年)119 頁[岡伸浩]。
いての事後的な責任追及の可能性による弁護活動
6)公正誠実義務が法的義務であるかについては議論があ
への萎縮効果を生じさせないためには、破産手続
る(日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法〔第 4
開始申立てに必要となる事実調査の範囲や内容に
版〕』(弘文堂、2007 年)12~13 頁参照)。
ついて弁護士(会)と裁判所の間で共通認識を形
7)日本弁護士連合会弁護士倫理に関する委員会編『注釈
15)
。また、弁護士が債務者
弁護士倫理〔補訂版〕』(有斐閣、1996 年)33 頁、加藤
による財産散逸行為を認識している場合、その事
新太郎「弁護士の責任」加藤雅信編『新・現代損害賠償
成する必要があろう
法講座 3』(日本評論社、1997 年)362 頁。
実を申立て後に裁判所や破産管財人に対して通知
する義務があるのかも問題となる
8)中山=金澤・前掲注4)15 頁[樋口]。
16)
。
9)加藤新太郎『弁護士役割論〔新版〕』(弘文堂、2000 年)
364 頁。
四 「破産財団を構成すべき財産」
10)東京地判昭 62・10・15 判タ 658 号 149 頁。
11)東京弁護士会倒産法部・前掲注4)29 頁[綾克己]。
本判決は、Yの義務違反による「破産財団を構
特に法人債務者の場合、債権者保護の意味合いが強い
成すべき財産」の減少・消失が損害であるとする
(山本克己編著『破産法・民事再生法概論』(商事法務、
が、その意義は必ずしも明らかではない。本判決
2012 年)62 頁[山本克己])。
は、Aの口座から引き出された本件事業により発
12)なお、平成 25 年判決は、正式な委任契約締結前にも
生した売掛金等債権に係る金員について、本件事
弁護士は依頼者の相談内容等に応じた善管注意義務を負
業によって発生した売掛金等債権は全て事業譲渡
うとする。
13)松下・前掲注4)1077 頁注 11 は、債務者が債務超過
よりBに移転したため「破産財団を構成すべき財
であることにつき善意の申立代理人の損害賠償責任を否
産」とはいえないとする。しかし、本件では債権
定する。しかし、債務整理の受任通知送付行為が支払停
譲渡について第三者対抗要件の具備は認定されて
止にあたると評価されることを前提とすると(最判平
おらず、破産手続の開始時期によっては債権譲渡
24・10・19 判時 2169 号 9 頁)、債務超過の認識まで必
を破産管財人に対抗できなかった可能性があり、
要とすべきかについては疑問が残る。
14)明確に認定されている訳ではないが、本件事業を譲渡
また売掛金等のBへの交付は偏頗行為否認の対象
したAは既に業務を停止した法人であったことも本判決
にもなり得る。したがって、売掛金等債権が事業
の判断に影響を与えている可能性がある。そのような場
譲渡の対象であることから直ちにそれが破産手続
合、債務者の業務遂行・財産管理権を広範に制約しても
において破産財団を構成すべき財産ではないとい
特段支障が生じない。なお、従来の裁判例の債務者も同
うことはできない。
様に既に業務を停止した法人であった。再建を目指す債
務者や自然人債務者の場合にどこまで債務者の業務遂
●――注
行・財産管理権を制約すべきかは難問である。
1)債務者の責任財産を故意に減少させた場合、債権侵害
15)平成 21 年判決は、申立遅滞の原因として債権者から
を理由とする不法行為責任が成立し得る(中田裕康『債
の債権調査票の返送が遅れた旨の弁護士の主張を、債権
権総論〔第 3 版〕
』
(岩波書店、2013 年)286 頁)
。
者一覧表の提出は申立て後に提出することも認められる
2)弁護士倫理違反は別途問題となる(日本弁護士連合会
として退けている(破 20 条 2 項)。
倒産法正当検討委員会編著『倒産処理と弁護士倫理』
(金
16)破産管財人に否認対象行為に関する資料等を引き継ぐ
融財政事情研究会、2013 年)44 頁[石岡隆司])。
ことが望ましいとしても、弁護士に課せられた秘密保持
3)個人債務者の場合、免責不許可の理由にもなり得る(破
義務(弁 23 条)との関係が問題となる。再生債務者の
252 条 1 項 1 号・3 号)
。
代理人については、告知義務を肯定する見解(伊藤眞『破
4)中山孝雄=金澤秀樹編『破産管財の手引〔第 2 版〕』
(金
産法・民事再生法〔第 3 版〕』
(有斐閣、2014 年)796 頁)、
融財政事情研究会、2015 年)14 ~ 15 頁[樋口正樹]、
開示につき再生債務者を説得できない場合は辞任すべき
』
東京弁護士会倒産法部編『破産申立マニュアル〔第 2 版〕
であるとの見解(門口正人ほか編『新・裁判実務大系 (21)』
(商事法務、2015 年)114 頁[蓑毛良和]
。再生債務者
(青林書院、2004 年)326 頁[小林信明])などがある。
代理人について同様の義務を肯定するものとして、松下
祐記「再生債務者代理人の地位に関する一考察」伊藤眞
北海道大学准教授 栗原伸輔
先生古希記念『民事手続の現代的使命』
(有斐閣、2015 年)
1069 頁。
5)内藤満ほか『クレジット・サラ金処理の手引〔5 訂版〕』
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