リ・スキル - 中高年人材の生産性と競争力向上のために - マーサージャパン WEF チーム 2014 年 2 月 報 告 書 要 旨 はじめに このレポートは、2014 年 1 月に世界経済フォーラム(WEF) の年次総会で報告され た”Education & Skills 2.0: New Targets and Innovative Approaches” (World Economic Forum) のうち、日本における中高年人材活用の課題と解決のための提言の元となった調査・分 析の結果をマーサージャパンとしてまとめたものである。 日本では、先進国の中でも最も早く高齢化が進んでいる。しかし、この課題が日本経済の成 長と日本企業の競争力に与える影響が懸念されるようになって約 20 年が経過した今でも、具体 的な取り組みが進んでいるとは言い難い。 一方、この課題は、日本や欧州の先進国だけでなく、日本を超えるペースで高齢化が進みつ つある韓国、そして、生産人口が既にピークアウトし、65 歳以上の人口が 2030 年までに現在の 3 倍の 3 億人に達する中国にとっても解決すべき重要課題となった。 課題先進国である日本が、この課題にいち早く解決策を見出すことは、日本企業の競争力と経 済の成長を中長期的に高めるだけでなく、同じ課題を抱える他国に解決のモデルを示すことにも なる。 30 社を超える日本企業・団体のヒアリングを含む調査から、我々が見出したキーワードは 「リ・スキル (Reskilling)」である。「リ・スキル」とは、個人が、年齢にかかわらず成長することを 志向し、新たなスキルを身につけたり、経験領域を含むより広い領域で保有するスキルを活用す ることによって、個人として生産性や競争力を高め、より大きな価値を生み出すことができるよう にする、ことである。 「リ・スキル」には、中高年個人の意識の転換と行動変革が必要なのは大前提だが、企業によ る伝統的な人材マネジメントからの転換と、政府による新たな視点からの労働政策が、それと一 体となって実施されることで、今後、高齢化と人口減が進む中でも日本が経済成長を持続するた めの大きな力になると期待できる。 この調査・分析は、世界経済フォーラムの Education and Skills Committee の委員で、慶應義 塾大学大学院メディアデザイン研究科の石倉洋子教授と協同で実施したものである。石倉教授 には、2014 年の世界経済フォーラムでこのテーマを取り上げることが決まった段階から協同の お誘いをいただき、インタビュー先企業・団体のご紹介から、ケースの分析、解決の方向性をまと める議論等で様々な刺激的な示唆をいただいた。ここに感謝の意を表したい。 本レポートが、中高年人材の活性化に取り組む多くの日本企業・団体、政府等の関係者、そし て中高年個人に、課題を直視する視点を示し、中高年人材の生産性と競争力を向上する具体的 なアクションを検討するためのヒントとなれば幸いである。 マーサージャパン WEF チームを代表して 中島 正樹 1 要 旨 「中高年人材の活性化」は、多くの日本企業で重要な経営課題として認識されているが、未だ 有効な解決策が見出されているとは言えない。 解決に向けた具体的な取り組みが進まない根本原因は、年齢による個人の能力の衰えにある のではなく、高度経済成長期に労働力確保の観点から整備された日本企業の人材マネジメント と雇用慣行、労働市場の流動性を低位安定させた労働政策、そして会社の提示するキャリアシ ナリオを甘受する個人の「一所懸命」の就社観の 3 つが強固に噛み合って容易にほどけないこと にある。 我々マーサージャパンが 30 社を超える日本企業・団体の調査を行ったところ、まだスケールこ そ小さいものの、目的を明確に意識したユニークな取り組みによって、中高年人材が年齢にかか わらず成長することを志向し、新たなスキルを身につけたり、経験領域を含むより広い領域で保 有するスキルを活用することによって、個人として生産性や競争力を高め、より大きな価値を生 み出しているケースが見出された。 それらの分析から導き出された「中高年人材の活性化」の成功要因(KFS: Key Factors for Success) は以下の 5 つである。 KFS (1) 個人に「成長」を求める場づくり KFS (2) 経験領域を含む、より広域で活用可能な個人のスキル・適性の特定 KFS (3) 個人の志・動機の振り返り・再確認と成果に対する評価・認知 KFS (4) 人と事業の要件を見極めた上での柔軟なマッチングと成長の支援 KFS (5) 組織を超えたオープン化、これによる上記 KFS (1)から(4)の強化 2 それぞれの成功要因をばらばらに施策に落とし込み、実施しても十分な成果は期待できない。 これらの成功要因を複数組み合わせ、かつ、企業・個人・政府が連携して包括的に取り組むこと が重要である。 具体的には、企業・個人・政府はそれぞれ、「成長」「仕事の要件と人材の能力の客観的な評価」 「育成のための投資」の 3 つの基本的方向性で一貫した、以下の意識・行動・施策の変革を一体 的に進めるべきである。 企業への提言 1) 成長戦略を実現するための人材戦略を具体的に示す 2) 3) 年功ではなく、仕事の要件と人の能力を客観的に評価して配置・登用する 中高年社員こそローテーションして育成する 個人への提言 1) 「志」を再確認し、年齢に関係なく成長を目指す 2) 3) 肩書や年次で仕事をしない 市場価値を意識し、35 歳から毎年キャリアを見直す 政府への提言 1) 2) 3) 「日本再興戦略」に中高年人材をマッチングするオープンプラットフォームを作る リ・スキルのロールモデルを表彰し、特定分野を超えて活用できる能力の評価基準を作 る 職業訓練を見直し、中高年人材へのリ・スキル促進投資を増やす これによって、日本は、高齢化と人口減が進むなかでも経済成長を持続できる国の人材マネジ メントのモデルを、世界に提示することができる。 3 (資料) ケース分析 (まとめ)KFS による各社分析 1. ダイキン 2. 日本 IBM 3. 東大モノづくりインストラクター養成スクール 4. NEC 匠塾 5. いろどり 6. ミュージックセキュリティーズ(セキュリテ) 7. オリックス 8. 東日本旅客鉄道(JR 東日本) 9. アルプス運輸建設 10. 前川製作所 11. 良品計画 12. 星野リゾート 4 (まとめ)KFS による各社分析 * KFS: Key Factors for Succes (成功要因) 5 マーサージャパン WEF チーム 中島 正樹 (全体統括、パートナー) 井上 康晴 (以下、組織・人事変革コンサルティング部門所属) 垣内 まどか 金子 友美 亀長 尚尋 鈴木 陽子 武本 寛 沼田 真理子 胡 誠麟 藤野 淳史 前川 尚大 安尾 真明 吉田 継人 米澤 元彦 (50 音順) 6 ≪参考資料≫ Education & Skills 2.0: New Targets and Innovative Approaches 2014 年世界経済フォーラム年次総会(通称:ダボス会議)で報告されたレポート 本報告書全文(フル・レポート)をご希望の方はお問い合わせください: マーサー ジャパン株式会社 広報 小原 香恋 Karen Ohara Tel: 03-5354-1674 [email protected] 組織・人事変革コンサルティング部門 Tel: 03 5354 1540 [email protected] http://www.mercer.co.jp/humancapital * * * マーサーについて マーサーは組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野でサービスを提供するグローバル・コンサルティン グ・ファームです。全世界約 20,000 名のスタッフが 40 カ国以上約 180 都市の拠点をベースに、140 カ国 以上で、25,000 超のクライアント企業のパートナーとして多様な課題に取り組み、最適なソ リューションを 総合的に提供しています。 日本においては、35 年余の豊富な実績とグローバル・ネットワークを活かし、あらゆる業種の企業・公共団 体に対するサービス提供を行っています。組織変革、人事制度構築、福利厚生・退職給付制度構築、M&A アドバイザリー・サービス、グローバル人材マネジメント基盤構築、給与データサービス、年金数理、年金資 産運用など、「人・組織」を基盤とした幅広いコンサルティング・サービスを提供しています。 マーサーは、ニューヨーク、シカゴ、ロンドン証券取引所に上場している、マーシュ・アンド・マクレナン・カン パニーズ(証券コード: MMC)グループの一員です。 マーサーについての詳細は、以下をご参照ください: マーサー ジャパン http://www.mercer.co.jp Mercer(Global) http://www.mercer.com マーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズについて マーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズ(ニューヨーク証券取引所コード: MMC)は、グローバルプロフェッ ショナルサービスを提供する企業グループとして、顧客企業にリスク、戦略、人材分野の助言とソリューショ ンを提供しています。 マーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズはマーシュ(保険仲介とリスクマネジメント)、ガイカーペンター(再 保険仲介・コンサルティング)、マーサー (組織・人事マネジメント・コンサルティング)、そしてオリバーワイマ ン(戦略コンサルティング)から構成されており、年間総収入 110 億米ドル超、全世 界に 53,000 名の従業 員を擁し、100 ヶ国以上で顧客に分析、アドバイスを行い、各種取引を支援しています。 当グループは責任ある企業市民として事業展開しているコミュニティに貢献しています。詳しい企業情報に ついては www.mmc.com、今日企業が直面する課題に取り組む当グループの国際的な実務能力とソリュ ーションについては www.PartneringImpact.com をご覧ください。 7
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