日本消化器外科学会 第 67 回日本消化器外科学会総会【2012 年 7 月】 1 要望ビデオ 10 : 腹腔鏡下低位前方切除における切離吻合の工夫 2 司会:緒方 裕(久留米大学医療センター外科) 日時:2012年7月18日(水)10:30∼11:30 会場:第14会場(富山県民会館3F 304 特別会議室) RV-10-1 腹腔鏡下低位前方切除における切離吻合の工夫 − Single-fire resection − 濱元 宏喜:1 奥田 準二:1 田中 慶太朗:1 近藤 圭策:1 浅井 慶子:1 茅 野 新:1 山本 誠士:1 鱒渕 真介:1 内山 和久:1 1:大阪医科大学一般・消化器外科 RV-10-2 当科における完全腹腔鏡下前方切除術 久田 将之:1 和田 建彦:1 石崎 哲央:1 河北 英明:1 村越 雄介:1 土田 明彦:1 青木 達哉:1 1:東京医科大学第 3 外科 はじめに近年低侵襲手術の普及に伴い,直腸癌においても腹腔鏡下による低位または高 我々は,癌手術の原則を遵守した適切な手技のもとに直腸癌にも積極的に適応を拡大 位前方切除術が一般的に行われるようになってきた.しかし,病変を取り出す際は小開 し,2011 年 10 月までに直腸 Ra/Rb 癌 869 例に対して腹腔鏡下手術を行った.腹腔 腹を置かざる終えずさらなる低侵襲手術に向けて工夫が必要であると考えられる.今回 鏡の近接視・拡大視効果は狭い骨盤腔内でこそ真価を発揮するといわれるようになった 我々は,病変部を経肛門的に摘出することにより完全腹腔鏡下高位前方切除術を行った が,低位での的確な直腸切離と安全な吻合には未だ問題点や注意を要することが多いの 症例を経験したため,手術ビデオを供覧し報告する.症例 63 歳 女性 s 状結腸に が現状である.我々は,腹腔鏡下の的確な直腸切離と安全な吻合には, 【1】下部直腸の 径 2.5cm 大の type2 病変を認めた.Clinical stage MP N0 H0 P0 stage1 の診断 十分な剥離授動,【2】切離予定部の直腸間膜の適切な処理,【3】一回のファイアリン にて手術施行した.手術所見定型的 5 ポートで開始,IMA 根部にて結紮し D3 郭清 グでの確実な直腸切離,【4】緊張や捻れがなく,血流の良い吻合,【5】腹腔鏡下の吻 を行った.腸管の授動を十分行い,腹腔鏡下にて間膜の処理を行った.腫瘍の肛門側を 合部の確認と dog-ear 部の補強縫合,【6】術中内視鏡によるリークテストと吻合部の 1 − 0 ループ針にて抱合閉鎖後,直腸洗浄を行った.直腸固有間膜を処理後,腸管を チェックに留意している.この中で, 【1】の下部直腸の十分な剥離授動には,直腸 S 状 離断し腫瘍を径直腸径肛門的に体外に脱出させ腫瘍口側の離断と辺縁動脈の処理を行い 部を臍帯結紮紐で腸間膜ごと縛って助手が牽引して術野展開することがポイントとな は切離予定部位の直腸間膜を前壁から両側壁,そして後壁へと全周性に適切に処理する 29mm 自動吻合器のアンビュルヘッドを挿入し体内に完納した.直腸断端は鏡視下に て 2 − 0 モノフィラメントにて縫縮を行い閉鎖した.骨盤腔を十分に洗浄後吻合は自 動吻合器にて single staple の吻合を行った.手術時間は 285 分出血量は少量であっ た.術後,3 日目より経口摂取開始,術後 10 日目に経過良好にて退院となった.最終 病理は mp,n0,RM0,PM0,DM0 肛門側断端は 78mm であった.術後再発なく経過良 ことが大きなポイントとなる. 【3】の直腸切離では着脱式腸鉗子をかけて直腸を扁平に 好であった.結語 今回我々は完全腹腔鏡下高位前方切除術を行った症例を経験した. し,低位の右下腹部ポートから echelon flex 60 GOLD を使用して一回のファイアリ 完全腹腔鏡下低位または高位前方切除術はより低侵襲な手術として認容できると考えら ングで確実に直腸切離(single-fire resection)することを原則としている.また,直 れたが,腸管を体内で離断すること,腫瘍を経直腸肛門的に脱出させることを行うに当 腸断端の dog-ear 部を結腸漿膜筋層へ縫合することによる吻合部補強縫合と超低位吻 たり手術的適応を十分に検討する必要があると考えられた. り,右側ではパラレル法,左側ではクロッシング法,そして肛門管近傍ではパラレルク ロッシング法が極めて有効である.また,直腸壁や精嚢前立腺を鉗子で直接圧排して損 傷しないように臓器保護具のエンドサポート J を開発して適切に圧排している. 【2】で 合例などには経肛門減圧チューブを留置している.これらの工夫により最近 1 年での 縫合不全は 0.8%(1/118) に減少した.以上,single-fire resection を信条とする腹腔鏡 下低位前方切除における切離吻合の工夫をビデオで供覧する. RV-10-3 反転法を利用し無小切開で行う腹腔鏡下直腸低位前方切除術 RV-10-4 当院の腹腔鏡下低位前方切除における切離吻合の工夫 松本 潤:1 宅間 邦雄:1 小坂 至:1 大塚 英男:1 1:東京都立多摩総合医療センター外科 小倉 直人:1 三浦 啓寿:2 筒井 敦子:2 内藤 正規:1 池田 篤:1 中村 隆 俊:2 佐藤 武郎:1 渡邊 昌彦:2 1:北里大学東病院消化器外科 2:北里大学外科 【目的】腹腔鏡手術の利点である腹壁損傷の少なさを生かすため,腹壁に小切開をおか ない腹腔鏡下直腸低位前方切除術 (無小切開 Lap-LAR) を考案した.今回合併症も検 当科における腹腔鏡下直腸手術は,2009 年 12 月までは下腹部正中に小切開をおく 6 討したので報告する.【対象と方法】対象は低位前方切除症例で Ra では腫瘍径 3cm ポートで行っていたが,2010 年 1 月より臍部縦小切開を用いた 5 ポートで行ってい 以下,Rb では早期癌とし,術前検査でリンパ節転移や遠隔転移のないものとした.臍 る.(超)低位前方切除で症例により一時的人工肛門造設が必要な場合には,人工肛門 部に 12mm,他に 4 個の 5mm ポートの 5 ポートで手術する,直腸は腫瘍の位置に 造設予定部に小切開を用いた 6 ポートで行っている.当科では通常は術者,第 1 助手, より肛門挙筋の高さないし肛門管直上まで十分に剥離する.鉗子を肛門から挿入し口側 第 2 助手(カメラマン)の 3 人で手術を行っているが,安定した視野の確保,術野の 切離断端の直腸を把持して直腸を反転させ肛門から引き出す.このさい腹腔側から鏡視 展開のため定型化を目指している.直腸手術の場合には,骨盤内操作において視野展開 下に観察すると同時に肛門側からも示指を挿入して反転状態を確認する.スムースな反 の困難さに遭遇することが多く,特に男性,狭骨盤,肥満症例においては視野展開に工 転ができなければ通常の Lap-LAR に変更する.反転直腸を直視下で十分洗浄後,引 夫が必要であり,特に第 1 助手の役割は大きいと思われる.最近はポートの数を減ら き出した直腸の口側断端を開放しここから自動吻合器のアンビルヘッドを腹腔内に挿 す reduced port surgery が注目されているが,当科では安全かつ確実な手術手技を行 入する.アンビルヘッドは経肛門的に腸管外を通過する.肛門側直腸の切離は自動縫 い,定型化を目指し,今後の鏡視下手術の普及,教育のため,ポート数は現状のままで 合器で直視下に行う.口側吻合部へのアンビルヘッド挿入は鏡視下に腹腔内でタバコ 行っている.ポートサイズの縮小はデバイスの発展もあり今後検討している.低位前方 縫合をかけ行う.【結果】29 例に無小切開 Lap-LAR を試み 25 例で完墜した.この 切除においては直腸の剥離授動は骨盤底まで確実に行うことによって安全な切離吻合 25 例の年齢は 65.7(45-81) 歳,男女比は 15:11,BMI は 22.6(18.3-29.2),手術時間は 292(202-440) 分,出血量は 137(10-665)ml であった.内腸骨静脈出血と巨大子宮筋腫 の 2 例が開腹に移行し,2 例で小切開をおいた.4 例に予防的ストマを増設した.2 例に縫合不全が生じたが他に SSI 発生例はなかった.全 29 例の術後平均在院期間は 13.6(8-49) 日だった.晩期合併症として吻合部狭窄を 2 例に認めた.吻合部口側腸管 の血行障害が原因と思われた.最近の直腸 DST 再建例 59 例で吻合口側の洗浄細胞診 をおこなったが陽性 2 例はいずれも高度進行癌だった.【まとめ】無小切開 Lap-LAR が施行可能である.直腸の切離は自動縫合器で 1 回にて切離することに拘らず,計画 的に 2 回で切離する方法ととることもある.骨盤内視野確保のため,直腸の頭側への 牽引は通常助手の右手鉗子で牽引するが,視野展開には術者の 2 本の鉗子と助手の 1 本の鉗子のみであり,手術困難症例の場合には視野確保に工夫を要する.現在,我々が 行っている直腸牽引や骨盤内視野展開のための工夫,切離吻合の工夫を若干の解説を加 えビデオを供覧する. の該当症例では感染や癌細胞散布の可能性は許容範囲と考える.口側腸管の血行障害に 留意する必要である. 第67回 日本消化器外科学会総会 日本消化器外科学会 The Japanese Society of Gastroenterological Surgery 日本消化器外科学会 第 67 回日本消化器外科学会総会【2012 年 7 月】 RV-10-5 腹腔鏡下直腸前方切除術における大腸内視鏡を併用した安全 2 RV-10-6 腹腔鏡下低位前方切除術における切離吻合の工夫 な切離と吻合 小澤 平太:1 北村 東介:1 松井 孝至:1 固武 健二郎:1 1:栃木県立がんセンター外科 木村 文彦:1 柳 秀憲:1 相原 司:1 別府 直仁:1 生田 真一:1 吉江 秀 範:1 飯田 洋也:1 岡本 亮:1 友松 宗史:1 山中 若樹:1 1:明和病院外科 【目的】腹腔鏡下直腸前方切除術 (以下,本法) における術中大腸内視鏡 (以下,CF) 腹腔鏡下直腸癌手術は開腹術にくらべ良好な視野が得られるため,急速に普及してきて 併用の意義を明らかにする.【対象】2010 年 10 月から 2011 年 11 月の間に当セン いる.しかしながら,直腸の切離吻合手技は難しく,特に下部直腸癌では縫合不全率が ターで本法を施行した直腸癌 25 例.【方法と工夫】腫瘍の肛門側切離線を正確に把握 値)23.9(17.4-33.8),[腫瘍部位]RS:Ra:Rb 9:9:7,[術式] 高位前方切除術:低位前 10% 以上という報告もあり,最も重要な課題である.当院では 2007 年から 2009 年 まで開腹の直腸癌手術を 249 例施行後,2009 年から腹腔鏡下直腸切除術を本格導入 した.2011 年では直腸癌症例の約 9 割(67 症例中 59 症例)で腹腔鏡手術が行われ た.腹腔鏡手術の内訳は低位前方切除術 DST (Double stapling technique):35 例, ISR 手術:20 例,Lap-Miles:4 例であった.DST 症例では 3 例(8.5%)の縫合不 全を認めた.当院では腹腔鏡下直腸癌手術の際,次の 3 点に留意している.1) Total mesorectal excision (TME) に則した正確な層で直腸の授動を行うことが肝要である. 低位症例では,切離腸管の可動性を良くするために肛門管内まで剥離し,hiatal ligament も切離している.当院では助手が綿テープで直腸全体を頭側に牽引し,5 本 指の扇型のエンドリトラクト II(通称:熊手)を用いて直腸を幅広く圧排し,切離ライ 方切除術 6:19,コンバート 2 例,[郭清]D2:D3 13:12,[covering ileostomy] あ ンに充分な緊張をかけるようにしている.このことにより,直腸間膜の脂肪が多い症例 り:なし 7:18, [手術時間]*252 (144-439) 分,[出血量]*20(0-2276)g であった.縫合 や狭骨盤や局所進行直腸癌症例でも骨盤深部での剥離が容易となっている. 2) 直腸 し,かつ重篤な縫合不全や術後吻合部出血の回避を目的とした安全な切離吻合のため に,われわれは以下の点に留意している (ビデオ供覧).1. 肛門挙筋群が露出するまで 十分に直腸を剥離授動すること.2.CF で腫瘍肛門側を正確に把握し切離予定部位を マーキングすること.3. 自動縫合器での直腸切離を 2 回以内にするために,狭骨盤 症例では 45mm カートリッジを 2 回使用し自動吻合器で交差部を確実に打ち抜くこ と,2 回目のカートリッジを使用する前には剥離を追加すること.4.DST 吻合後に CF によるリークテストと吻合部出血の確認をすること,などが重要なポイントである. 【結果】[平均年齢]61.6 ± 12.1 歳,[性別] 男性 18 例女性 7 例.[BMI]*(*以下,中央 不全を 2 例 (8.0%) に認め,1 例は術後 13 日目に人工肛門を造設したが,1 例は発熱 切離は腸管軸にできるだけ直交して切離できるように,低位症例では 1 回切りにこだ した直後に経肛門ドレーンを挿入したことにより保存的に軽快した.リークテスト陽 わらず,45mm linear stapler の計画的な 2 回切りを目指している.腸骨の弓状線に 性は 1 例で covering ileostomy を施行した.吻合終了後に確認のための CF を施行 当たらずに小骨盤内にアクセスできるようにトロッカー位置は足側正中寄りにしてい し,1 例に吻合部出血を認めたため手術中に CF で止血した.[病変部位別の肛門側切 る.また狭骨盤のために切離デバイスが入らない症例では無理をせず,経肛門的に腸管 離長 (mm)]*は RS:Ra:Rb 30(7-70):25(13-45):23.5(16-35) であった.【考察】本法では を切離するようにしている.3) 吻合後の腸管の緊張をとるために口側腸管は充分に授 自動縫合器 2 回以内での確実な直腸切離が肝要である.また吻合後に CF を施行する 動している.以上の 3 点に留意した腹腔鏡下低位前方切除術における切離吻合の工夫 ことで重篤な縫合不全や術後吻合部出血を回避することが可能であり,本法に有用であ をビデオにて供覧する. ると思われた. 第67回 日本消化器外科学会総会 日本消化器外科学会 The Japanese Society of Gastroenterological Surgery
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