事件その6 原野商法第②話 ㈱内藤建設(年商1億5,000万円、平成7 年設立)の内藤社長は、友人でもあった『崎田開 発㈱』の崎田社長から、詐欺的手段で北海道の阿 寒湖周辺土地500坪を250万円で購入させら れ、いずれ買い戻すという約束も反故同然にされ てそのまま泣き寝入りしていたのだが、先頃、『東 洋住宅㈱』という会社がこのクズ同然の土地の売 却を持ちかけてきた。内藤社長は、(俺の個人貯金 から250万円も出してるんだ、せめて100万 円でも戻ってくるんなら…)と思い、同社の担当 者を呼ぶことにした。 翌日、㈱内藤建設にやってきたのは、紺の背広 をきた50歳前後の男性。彼は、『東洋住宅㈱ 営 業主任 山崎進』という名刺を差し出した。 「ウチの会社は、北海道の土地販売ではかなり 実績を築いていまして、今回、内藤さんだけでは なく、阿寒湖周辺に土地を所有していらっしゃる たくさんの方々にお声をお掛け致しております。」 ひ内藤社長は、その山崎なる人物の話にしばらく の間耳を傾けていた。そして、その物腰と話の内 よ 容から、当初抱いていたかすかな疑いはすっかり 消え去っていた。 「あのーそれで、東洋住宅さんは、私が所有し ている阿寒湖周辺の土地をどんな方法で売却され るんですか?」 「まず、この付近一帯の土地所有者の了解をと ります。まぁ、現時点でも7割近くの地主さんか ら取ってるんですがね。」 「全部の地主の賛同を得るなんて出来ますか ね?」 「いや、それは無理だと思います。私以外の弊 社の当物件の担当社員の話では、地主さんの中に はこのまま所有しておきたい、とか、とにかく売 却を東洋住宅に任せる気持ちはない、なんて仰ら れる方もおられるようですし・・・」 内藤社長は、良いことばかりではなく、どちら かというと東洋住宅側にとっては不利な情報でも 正直に伝える言い方に増々好感を覚えた。 「実のところ私も迷っています。 」 「そりゃそうですよね。」 「それで、売却するとしたら幾らぐらいになり そうですか?」 「これはハッキリしていますよ。 」 「え!そうなんですか!」 「はい。一応、坪1万5千円と考えています。 この場合の弊社の販売手数料は10%です。そし て、もし、この価格で売れなかった場合は、弊社 が1万円で買い取り、この際の販売手数料は5% だけです。 」 (これは、いい話だ!!) 内藤社長は、努めて顔に出ないように気をつけ たが、口元が緩んでくるのはどうしようも無かっ た。諦めていた250万円の土地を、うまくいけ ば750万円で売ることが出来る。販売手数料を 差し引いても675万円となり、425万円の儲 けがでるのだ。 「だめな時でも御社の方で買い取って頂けるん ですね?」 「まず、坪1万5千円で売れないことはないと 思いますが、万が一、売れなかった時はそうさせ て頂きます。」 「では、お願いするかな。 」 もし、売れなかった時でも東洋住宅が500万 円で買い取ってくれる。この際の販売手数料は 5%だから25万円で、この場合でも225万円 の儲けを確保出来ているわけだ。 「では、弊社にお任せ頂きますね?」 「よろしくお願いします。 」 「そうしましたら、まず所有土地の測量をしな ければなりません。きちんと境界石を入れ、土地 の位置と場所を確定しなければ買主はお金を払わ ないのです。この測量には40万円の費用がかか り ります。 」 (なんだ、そんな事かぁ・・・) と内藤社長は内心がっかりしたがやはりお願い することにした。何故なら、このクズ同然の土地 代金250万円は高い勉強代と思って完全に諦め ていたのだ。測量代が40万円であっても売って もらえば儲かるのだ。 「では、40万円の測量費用を頂けますか?」 その時、一瞬、内藤社長の脳裏に不安がよぎっ た。今日会ったばかりの人物に40万円の現金を 預けることに躊躇いを感じたのである。そして、 彼は、日頃から懇意にしている『佐賀司法書士』 を顔を思い浮かべたのだ。 内藤社長は、“即金でお願いします”、と粘る業 者を懸命に説得して帰し、直ぐさま、佐賀司法書 士事務所に向かったのである。 ワンポイントアドバイス ※これは、最近現実に起こった詐欺未遂事件です。 当事者が顧問にしていた司法書士は、この相談を受け るとすぐに詐欺と見抜きました。何故なら、不動産の手 数料は売買価格が400万円を超えた場合、3%+6 万円+消費税が上限になるのです。そして、提携して いる調査会社にこの会社を調べさせた所、原野商法 の被害者に転売を持ち掛け測量代を詐取する詐欺師 集団と判明したのです。
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