急性鼻副鼻腔炎へのステロイド点鼻薬の可否

Q
26
急性鼻副鼻腔炎へのステロイド点鼻薬の可否
UIZ
通年性のアレルギー性鼻炎で耳鼻咽喉科診療所に通院している52 歳の
男性Tさんが、臨時で受診した後に処方箋を持って薬局を訪れました。
病状を確認すると、Tさんは次のような質問をしました。
最近、鼻が詰まって息苦しかったのですが、
数日前から熱っぽくて、頭痛もするし、鼻汁
も濃いのが出ていたので、先生に診てもらい
ました。そしたら「急性鼻副鼻腔炎という病
気だから抗生物質を出す」と言われました。
熱が出て頭痛がするのに、鼻の病気なのです
か。それと、いつもの点鼻薬は、抗生物質
を飲んでいる間は差さない方がいいの
でしょうか。鼻詰まりがつらいので、
できれば使いたいのですが……。
処
方
箋
(1)クラビット錠 500mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後 5日分
( 2 )ムコダイン錠 500mg 1回1錠(1日3 錠)
1日3回 朝昼夕食後 5日分
※薬歴によると、 Tさんは10年ほど前にアレルギー性鼻炎を発
症し、ここ数年は通年性のアレルギー性鼻炎で通院している。
アレルギー性鼻炎に対しては、
アルデシンAQネーザル50μg
(一
般名ベクロメタゾンプロピオン酸エステル)が処方されている。
Q1
Q2
急性鼻副鼻腔炎において、膿性鼻汁が何日間以上持続すると
細菌感染と診断されるか。
(1)5日間以上 (2)7日間以上 (3)10日間以上 (4)14日間以上
アルデシンAQネーザルを使用しているアレルギー性鼻炎患者が
急性鼻副鼻腔炎を発症した場合、同薬の使用は継続してもよいか。
(1)使用を継続してもよい (2)使用を中止する
83
日経 DI クイズ 15
Quiz 26 の答
A1
A2
出題と解答 ● 今泉
真知子(秋葉病院[さいたま市南区]薬剤科)
いとされるマクロライド系薬だが、
15員環のアジスロマイシン水和物
(3)10日間以上
(ジスロマック)はインフルエンザ
菌に対して良好な感受性を持つこと
や、高用量単回投与が可能であるこ
(1)使用を継続してもよい
とから、細菌性鼻副鼻腔炎に有効と
される(適応は成人のみ)
。
鼻腔と副鼻腔は自然孔と呼ばれる
細菌性鼻副鼻腔炎は、肺炎球菌、
さて、 Tさんが「できれば使いた
細いトンネルでつながっており、こ
インフルエンザ菌、モラキセラ・カ
い」と希望しているステロイドの点
れを介して副鼻腔の換気とともに、
タラーリスが3大起炎菌とされてい
鼻薬であるが、海外では単独あるい
副鼻腔内の分泌物や異物が鼻腔に送
るため、抗菌薬はそれらに感受性を
は抗菌薬との併用で急性鼻副鼻腔炎
り出されている。しかし、ウイルス
持つペニシリン系薬が第一選択とさ
の治療効果が認められている。ただ
や細菌が鼻腔に侵入すると、鼻腔粘
れている。Tさんに処方されたレボ
し、 Tさんの使用しているベクロメ
膜が炎症を起こし、自然孔が塞がる。
フロキサシン水和物の1日1回投与
タゾンプロピオン酸エステルの点鼻
すると、副鼻腔粘膜の自浄作用が損
製剤(商品名クラビット)やメシル
薬(アルデシンAQネーザル他)の
なわれて、炎症が引き起こされる。
酸ガレノキサシン水和物(ジェニナ
適応疾患には鼻副鼻腔炎が含まれて
このほか、自然孔が塞がる前に、ウ
ック)
、モキシフロキサシン塩酸塩
いない。そのため今回、医師は同薬
イルスや細菌が直接、副鼻腔に侵入
(アベロックス)などのニューキノ
を処方しなかったものと推察される
して炎症を起こすこともある。
ロン系薬は、ペニシリン耐性菌にも
が、 Tさんがアレルギー性鼻炎の治
急性鼻副鼻腔炎は、鼻閉、鼻漏、
良好な感受性を示す。そのためニュ
療のために処方されているステロイ
後鼻漏、咳嗽といった呼吸器症状を
ーキノロン系薬は、中等症でペニシ
ド点鼻薬を抗菌薬と併用することに
呈し、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感な
リン系薬による治療効果がみられな
は問題がなく、急性鼻副鼻腔炎の治
どを伴う。急性副鼻腔炎と呼ばれる
い成人症例の第二選択薬、または重
療にも有効と考えられる。
こともあるが、副鼻腔における急性
症例に対する第一選択薬の一つとし
炎症の多くは急性鼻炎に引き続き生
て推奨されている。
じ、ほとんどが急性鼻炎を伴ってい
なお、 3大起炎菌での感受性が低
参考文献
1)
『急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010年版』
(日本鼻科学会編)
るため、最近は急性副鼻腔炎(acute
sinusitis)ではなく急性鼻副鼻腔炎
(acute rhinosinusitis)という疾患
名が適切であるとされている。
細菌による急性鼻副鼻腔炎は、ラ
イノウイルスやアデノウイルス、エ
コーウイルスなどによるウイルス性
の鼻副鼻腔炎に続いて発症すること
が多い。急性ウイルス性鼻副鼻腔炎
は、特別な治療をしなくても10日
以内に治癒することから、膿性鼻汁
が10日間以上持続する場合、また
は5 〜 7日後に悪化をみる場合は、
細菌の二次感染による急性細菌性鼻
副鼻腔炎と診断される。
こんな
服薬指導を
鼻が詰まって息苦しかったり、頭痛がしたり、つらい
ですね。鼻の奥には、鼻腔と副鼻腔という空間があって、
その間は細いトンネルでつながっています。急性鼻副鼻腔炎は、鼻腔
から副鼻腔に、空気と一緒にウイルスや細菌が入り込んで炎症を起こ
す病気です。炎症がありますと熱が出ますし、副鼻腔は額の辺りにも
広がっていますので、鼻の病気ですが頭痛がすることがあるのです。
Tさんが普段使っているステロイドの点鼻薬は、アレルギー性鼻炎の
治療薬ですが、炎症を抑える効果があり、海外
では抗生物質と一緒に急性鼻副鼻腔炎の治療
に用いられています。ですから、安心して一
緒に使ってください。抗生物質のクラビット
は1日1回服用で5日分出ています。症状がよく
なっても、5日間はきちんと飲んでくださいね。
84
日経 DI クイズ 15
症例に学ぶ
医師が処方を決めるまで
3慢性便秘
講師●水城
啓 (けいゆう病院[横浜市西区]消化器内科)
塩類下剤で薬効を実感させる
坐薬による排便の習慣付けも有効
便秘には明確な定義が存在しないが、その症状は患者にとって不快なものである。
「便秘の改善には食事や運動などの生活習慣の見直しが第一であり、薬物療法は補助」と話す
水城氏に、薬物療法のさじ加減について症例を挙げて解説してもらった。
便秘は、糞便の腸管内への異常な停留あるいは腸管内
でいることが多く、便秘の治療においては便通に関する
通過時間の異常な延長があり、便通の回数と排便量が減
患者教育も大切になる。
少した状態を指す。その定義について、日本内科学会で
図1 に大腸内での便の生成過程を示す。内容物が小腸
は「便通の回数が週3日未満、または毎日排便があって
から上行結腸に入る際には液体であるが、徐々に水分が
も残便感がある」としており、日本消化器病学会は「便
吸収され、粥状、半固形状となり、直腸に到達するとき
通が数日に1回程度かつ排便間隔が不規則で、便の水分
には固形状になる。
含有量が低下している状態」としているが、明確なもの
通常、食物は摂取してから24 ~ 72時間後に便として
はない。
排泄されることから、必ずしも毎日排便がなくても問題
便通の回数の減少は、確かに便秘の症状ではあるが、
はない。しかし、
「1日1回便通がないと便秘」などと誤
便秘を訴える人では「排便は毎日あるべき」と思い込ん
解している患者は少なくないため、不安に感じないよう
誤解を解くことが重要である。
便秘は、表1 に示したように急性と慢性に分けられ、
図1●大腸における便の生成過程
約
∼
72
時間後
排便
24
性便秘と、過敏性腸症候群(IBS)の割合が高い。
慣への指導を行い、その上で薬物治療を行う。便秘に用
いる薬剤には、便塊を軟化させる浸透圧性下剤や膨張性
約 時間後
直腸
上行結腸
食事してからの
到達時間 約18時間後
った器質的異常がなく腸自体の働きが原因で起きる機能
慢性便秘の治療では、患者の食生活や運動など生活習
半固形状
液体
約 時間後
固形状
間後
半粥状
時
粥状
9
小腸
半流動体
時 間後
5
約
約
約8時間後
7
多くは慢性に該当する。慢性の便秘は、潰瘍や炎症とい
下剤、腸管の蠕動運動を亢進させる大腸刺激性下剤と副
12
口から摂取した食物は約 5 時間後に大腸に至るが、その際
の性状は液状である。ヒトが 1 日に摂取する水分量は食物中
の水分も含めて約 3L だが、胃や十二指腸で消化液が加わるこ
とで、小腸に到達する消化物には 8 ~ 10L の水分が含まれる。
ここで 6 ~ 8L の水分が栄養素とともに吸収され、その残りが大
腸をゆっくり移動しながら便へと変化していく。
大腸では 1 日に 1 ~ 2L の水分が吸収され、液状だった内容
物は摂食から 18 時間後には固形状となり、24 ~ 72 時間後に
便として排泄される。正常な便の組成は75%が水分である。
18
日経 DI クイズ 15
医師が処方を決めるまで ■ 慢性便秘
交感神経刺激薬のほか、抗コリン薬や消化管運動機能調
表1●便秘の分類
。効果が不十分
整薬、漢方薬などがある(20ページ表2)
一過性便秘(環境の変化など)
機能性便秘
な場合には、作用機序の異なる薬剤を追加する。同一薬
剤を長期間連用すると薬剤に対する耐性が生じやすいの
機能性イレウス
(腹腔内急性炎症など)
急性便秘
で、患者の様子を見て薬剤の種類を変更することがある。
急性偽性腸閉塞症
器質性便秘
機械的イレウス
(大腸癌、癒着、内ヘルニアなど)
私が薬物療法を行う場合は、まず浸透圧性下剤や膨張
性下剤といった緩徐なものを投与量が多めでもしっかり
使い、効果不十分な場合に、機序の異なる薬剤を併用す
ることを基本としている。
以下、日常診療でよく遭遇する慢性便秘の薬剤選択を、
症例を通して解説していこう。
機能性便秘
腸軸捻転
弛緩性便秘
直腸性便秘
過敏性腸症候群
痙攣性便秘
(便秘型)
神経疾患、内分泌代謝疾患、膠原病
慢性便秘 症候性便秘
など
薬剤性便秘
抗うつ薬、止痢薬の過量服用など
瘢痕性狭窄(クローン病など)
器質性便秘
弛緩性便秘にはまず塩類下剤
術後狭窄
腫瘍性狭窄
最初の症例は、弛緩性便秘の70歳の男性である。弛
緩性便秘は加齢に伴って腸が便を押し出すのに必要な筋
力が低下し、腸の蠕動運動が鈍くなる病態である。男女
15滴)
、就寝前服用で追加する。同薬は服用量を調整し
問わず高齢者が来すことが多い。本症例は内科的疾患は
やすく、センノシド(プルゼニド他)よりも副作用の腹
なく、常用薬もない。これまでに便秘になったことはな
痛が少ない印象がある。
かったが、ここ3カ月ほど排便に時間がかかるようにな
また、抗コリン薬は一般的に副作用として便秘を起
り、以前は毎日だった排便回数が2 ~ 3日に1回程度に
こすことが知られているが、メペンゾラート臭化物(商
なったため、当院を受診した。
品名トランコロン他)やチキジウム臭化物(チアトン他)
便秘以外の症状は見られなかったため、弛緩性便秘と
は、腸の蠕動運動を緩やかにし、痛みを和らげる作用が
診断した。また、腎機能には問題がなかったので、浸透
ある。そのため、IBSで便秘と下痢を繰り返す患者に用
圧性下剤のマグラックス(一般名酸化マグネシウム)を
いる。
投与した。
最近では新薬として、腸管内の水分分泌を促進させて
排便を促すルビプロストン(アミティーザ)が2012年11
症例1●最近排便に時間がかかるようになった70歳男
性
月に登場した(22ページ別掲記事)
。これまでの薬物治
療で十分な効果が得られなかった症例への治療効果が期
〈初診時の処方箋〉
マグラックス錠500mg 朝1錠、昼1錠、夜2 錠(1日4 錠)
1日3回 朝昼夕食後 14日分
待されている。
毎日排便するようになれば薬を自己調節
本症例で、マグラックスの1日投与量が2.0gであるこ
初診から2週間後には「毎日便が出るようになったが、
とを、多いと感じる読者がいるかもしれない。しかし弛
少し軟らかいような気がする」とのことで、マグラック
緩性便秘では、最初から十分な量(1日1 〜 3g)を服用し、
スの1日服用量を1.5gに減量した。患者には、
「1日1回
薬効を実感してもらうことが、治療をスムーズに進める
出ているときは毎食後の服用ではなく、昼食後を抜いて
コツとなる。
1日2回の服用でもよい」と指導した。この症例のように、
なお、弛緩性便秘で、酸化マグネシウム単独では効果
処方箋に1日3回と記載されていても、実は医師から服
が弱い場合には、大腸刺激性下剤のピコスルファートナ
用量を自分で調節するよう指導されていることもあるの
トリウム(ラキソベロン他)の液剤を0.6 〜 1mL(10 〜
で、服薬指導時に確認するとよいだろう。
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日経 DI クイズ 15