自立活動だより - 西条特別支援学校

自立活動だより
平成 27 年7月 29 日発行 No.1
広島県立西条特別支援学校自立活動部
肢体不自由のある子どもの多くは脳性損傷によるものが多く,そのために運動機能の障害だけでなく
てんかんや知的障害,言語障害等の様々な障害を伴う場合があります。障害特性が学習に及ぼす影響を
理解し,学習を積み上げていけるよう,指導の工夫をすることが大切になります。
そこで,今年度の自立活動だよりでは「肢体不自由児の認知特性」をテーマとし,まとめていきたい
と思います。
赤ちゃんの認知発達について
認知発達の初期の段階では,感覚や運動を同時に用いて,自分の身体を動かしながらものを触ったり
動かしたり見たりして外界の世界を探索することで発達していくと言われています。
<~1 ヶ月まで>
手のひらに触れたものを,
反射的につかむ。
反射的な反応
手に触れたものを何でもつかみ
ます。
<1 ヶ月~4 ヶ月>
指を吸う→快感→また指を吸う
自発的な運動
など,快を得るため反応を繰り
返す。
ガラガラなどを鳴らそうとして
<4 ヶ月~8 ヶ月>
偶然紐を引く→ガラガラと鳴る
目的的な動作
意図的に動かして鳴らせるよう
になります。
→また紐を引く
意図的な外界とのかかわりの始まり。
手が自由に使える
ようになり,色々
<8 ヶ月~12 ヶ月>
新しいおもちゃに触れる,叩くなど
新しいものに対する探索活動。
探索行動
なおもちゃを手や
目を使って遊べる
ようになります。
肢体不自由の障害特性が認知発達に及ぼす影響について
以上のことを踏まえ,次に肢体不自由の障害特性が認知の発達にどのような影響を及ぼしているかに
ついて,まとめました。肢体不自由のある子どもの困難さを軽減し,認知の発達を促すために,その特
性を正しく理解し,適切な指導を行えることが大切になります。
①動きの難しさによるもの
身体の動きの困難さから,自発的な運
例えば・・
動(自分の身体を動かして姿勢変換する
姿勢を保持する
等)や目的的な動作(ものをつかんだり
ことが難しく,身体
動かしたりして遊ぶ等)が制限されてし
が傾きやすい。姿勢
まいます。
を保つことに一生
また,座位で足をふんばることや姿勢
懸命で手を使った
を保つことの困難さが,腕を思うように
作業が難しい。
動かして操作することやものを見て認識
すること等の困難さにつながります。
②感覚の活用の難しさによるもの
例えば・・
身体を自分で動かす経験が少ないと,いろいろな感覚を感
じる経験が不足し,感覚が過敏になったり,感じにくくなっ
手にものや人の
手が触れると,全身
に緊張が入り,手を
強く引っ込める。
たりします。その上,緊張や反射があると,様々な感覚をう
まく受け止められずに,誤学習や未学習が生じます。
さらに,肢体不自由もある子どもの多くに,視覚で環境を
認識したり,情報を処理することの困難さが見られます。
これらの場合,感覚を使った環境からの情報の収集が難し
くなります。
③経験や体験の不足によるもの
①②のような難しさがあるために,肢体不自由のあ
る子どもは直接的な経験や体験が少なくなります。具
体的には,子どもが実際にものに触れたり,動かした
り,見たりできるような経験が少なかったり,緊張や
反射により経験したことを感覚で受け止めにくいた
めに経験の蓄積が難しくなったりします。
参考・引用文献
肢体不自由教育の理念と実践
筑波大学付属桐が丘特別支援学校 編著
「わかる」授業のための手だて
筑波大学付属桐が丘特別支援学校 著
障害の重い子どもの授業づくり Part2
飯野順子 編著
次は,認知発達と姿勢の関係についてです。
認知発達に姿勢が関係しているの?
認知発達にとって欠かせない視覚を使った探索や上肢の操作は,姿勢の発達や支援によって促されま
す。また,認知発達によって,姿勢がさらに調整のとれたものになっていくのです。このことは,赤ち
ゃんの成長をイメージすると分かりやすいです。例えば,両手をついてようやくお座りができるように
なった赤ちゃんは,目で探索して好きな玩具を見つけると,片手を床から離して
その玩具に手を伸ばそうとします。その繰り返しの中で,両手を離しても姿勢が
安定するようになります。両手で遊ぶようになると,さらに認知発達が促されま
す。両手を使うことで,姿勢もどんどん安定します。この一例からも分かるよう
に,認知発達と姿勢の発達は,お互いに必要不可欠であると言えます。
学習に適した姿勢とは?
手元の見やすさや上肢の操作のしやすさから,座位姿勢が学習に適していると言われています。ここ
では,学習に適した座位姿勢と適さない座位姿勢について説明します。
<学習に適した座位姿勢:骨盤がやや前傾した姿勢>
手元を見やすい。
頭が自由に
動かせ,視野も
上肢が使いやすい。
広がる。
<学習に適さない座位姿勢:骨盤の過度な後傾や背中が丸まった姿勢>
上肢の操作がしにくい。
手元が見にくい。
骨盤と股関節の角度が大きくなって(骨盤の後傾)
全身が伸びきった姿勢
骨盤の後傾に加え,背中が丸まった姿勢
※筋緊張が低い場合にみられやすい。
※全身の伸展緊張が強い場合になりやすい。
肢体不自由のある児童生徒が学習する上で,姿勢を整えることはとても重要なことです。もう一度,
学習している児童生徒の様子をよく観察し,見やすい姿勢,手を操作しやすい姿勢について考えてみ
ましょう。
学習に適した座位姿勢が難しい場合の支援や注意点
肢体不自由がある場合,次に挙げた理由により,前述した学習に適した座位姿勢をとることが難しい
場合も多くあります。そこで,ここでは,それぞれの場合での支援や注意点について説明します。
<首がすわっていない場合>
頭が下がった姿勢では,見たいものが見えなかったり,相手の顔が見えないため
にコミュニケーションも難しかったりして,効果的に学習することができません。
このような場合,例えばベンチ椅子等を利用し,指導者が後ろから支援しながら前
傾姿勢をとることができるように工夫しましょう。また,ネックホルダーの利用も
考えられます。
ネックホルダー
<低緊張の場合>
座位は上半身の伸展姿勢であるため,低緊張であると座位をとることが難しく,
胸ベルト
背中が丸まった姿勢になりやすいです。このような場合は,肩ベルトや胸ベルト
の活用が考えられます。ベルトで体幹をしっかりと支え,丸くなることを防ぎま
す。ただし,肩ベルトや胸ベルトを使用する場合,ベルトをきつく締めすぎて,
上肢の操作を邪魔しないように注意する必要があります。
<全身の伸展緊張が高い場合>
脳性まひ痙直型のように全身の伸展緊張が高い場合,全身が伸びきった
姿勢になりやすいです。この場合は,原則として,緊張と反対の動かし方
や姿勢をとらせ,筋緊張を弛めて正しく座ることができるよう支援する必
要があります。そのため,学習中も常に姿勢に気を配るようにしましょう。
また,あぐら座位も筋緊張を弛めるために効果的な姿勢であると言われて
います。
<筋緊張の変動がある場合>
脳性まひアテトーゼ型のように,筋緊張の変動により一定の姿勢を保持することが難しく,姿勢を固
定するために左右非対称の姿勢になりやすいです。このような場合,転倒に注意するとともに,安定し
た学習姿勢をとる必要があります。また,学習に適した座位姿勢には,左右対称の姿勢は大前提であり,
左右対称の姿勢がきちんととれているかという視点をもつことが重要です。
<座位自体が難しい場合>
座位姿勢によって,全身の筋緊張を促進し,呼吸に負担をもたらす児童生徒も
います。このような場合,側臥位姿勢での活動が有効的なこともあります。側臥
位姿勢でも,手の操作,手元を見ることが可能だからです。
参考・引用文献
肢体不自由児の姿勢 -認知発達との関連を中心に- 川間 健之介 特殊教育学研究 39(4),2002
脳性まひ児の発達支援 調和的発達を目指して
木舩憲幸
北大路書房
肢体不自由のある子どもの姿勢づくり
日本肢体不自由児協会