公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【ホウ酸団子)】Ver.1.03 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 ホウ酸団子 1.概要 ホウ酸に玉葱、小麦粉、砂糖、牛乳を混ぜて作るゴキブリ駆除剤。市販品のホウ酸含有 量は 5∼70%と製品により異なるが、15%前後の製品が多い。自家製(手作り)のホウ酸 団子では 50%以上含有するものが多い。また、市販のアリ駆除剤にはホウ酸またはホウ砂 を 3∼5%含有する製品がある。6) 5 歳以下の小児による事故が特に多く、そのほとんどはゴキブリの通路となる部屋の隅 や床に置いていたものを口に入れる事故である。そのほか、自家製のホウ酸団子は家庭で 容易に作ることができ、お菓子やマッシュポテトなどの食品と間違えて成人や高齢者が誤 食する事例も報告されている。6) 殺虫作用は一般の殺虫剤と比較して非常に遅効性で、ホウ酸製剤を食べたゴキブリは脱 水状態に陥り、最後には乾燥死する。ホウ酸製剤の安定性については、包装された製品の 状態での有効成分の分析により、長期間(3 年以上)にわたって安定であることが確認され ている。 5) 2.毒性 ・ホウ酸の毒性は個人差が大きく、最小致死量、最大耐量は確立されていない 9) が、 体重 30 kg 未満ではホウ酸として 200 mg/kg 以上、体重 30 kg 以上ではホウ酸として 6.0 g 以上で症状が出現する可能性があると考えられる(1988 年発表の米国中毒セン ターにおける急性経口摂取 784 例の review 10) による)。 ・ホウ酸を高濃度に含有する製品や自家製ホウ酸団子では、1 個に小児経口致死量に相 当するホウ酸が含まれ ることがあり、少量の 誤飲でも中毒症状が発 現する可能性があ る。6) ・急性摂取による重篤な症状や死亡はまれである 2) が、認知症の高齢者が大量に摂取 した場合などは危険である。6)7)8) 3.症状 ・主な症状は、経路によらず消化器系症状(悪心、嘔吐、下痢)、皮膚症状(紅斑、落屑) である。重症例では、脱水による循環虚脱、中枢神経興奮あるいは抑制、痙攣発作、急 性腎不全等をきたす。 9) ・通常、嘔気、嘔吐は早期に出現し、皮膚症状は 3∼5 日後に最も顕著となる。 9) 消化器系:一般に悪心、嘔吐、下痢をきたす。激しい腹痛、出血性胃腸炎、 吐物、糞便は青緑色になることがある。 神経系:消化器症状ほど頻度は高くないが、頭痛、嗜眠、不穏、振戦、痙攣、反射異 常、昏睡が起こる。 肝・腎:腎障害、尿細管壊死により乏尿、蛋白尿から無尿をきたす。まれに肝障害(黄 疸、肝腫)の報告あり。 呼吸・循環器系:重症では脈拍微弱、頻脈、チアノーゼ、血圧低下、重度脱水、循環 虚脱、過呼吸、呼吸停止をきたす。 その他:エリテマトーデス様の紅斑(手掌、足底、臀部、陰嚢にみられ、外耳道や咽 頭にもおよぶ)、3∼5 日目に落屑。 低体温あるいは発熱することあり。代謝性アシドーシス。 4.処置 1/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【ホウ酸団子)】Ver.1.03 家庭での応急手当 希釈:牛乳または水を飲ませる(120∼240 mL、幼児 15 mL/kg 以下) 医療機関での処置 ・解毒剤・拮抗剤なし ・基本的処置:胃洗浄 活性炭:ホウ酸吸着能が高くないことが推定されること 15)、殆どの 患者が嘔吐することから、ルーチンに活性炭を投与すること は勧められない 9)。 下剤:ホウ酸中毒では下痢を生じるため、通常投与しない。 ・対症療法:電解質バランスの維持、特に脱水に対する補液が重要となる。 ・特異的治療法:血液透析(腹膜透析を含む)はホウ酸の除去に有効であり、通常の 治療に反応しない重症患者、難治性の重篤な体液電解質異常をきた している患者の管理に血液透析が勧められる。 9) 5.確認事項 1)製品について(製品名、ホウ酸含有量) :自家製(手作り)ホウ酸団子の場合は、1 個 につき何 g のホウ酸を使用したか確認する。 2)摂取量:認知症の高齢者の誤食では大量摂取もあり得るため、摂取状況を十分に確認 する。6) 3)症状の有無:嘔吐、その他の変化。 6.情報提供時の要点 1)ホウ酸団子を食べたりかじったりした場合は、念のために受診を勧める。 2)悪心、嘔吐等の消化器症状がみられる場合は受診を勧める。 6) 3)消化器症状に遅れて、皮膚症状や腎障害(乏尿、無尿等)が出現することがあるので、 数日間は注意深い経過観察が必要である。何らかの症状が出現した場合は、直ちに受 診するよう勧める。 4)ホウ酸は、容易に入手でき、古くから洗眼、うがい、皮膚・粘膜の消毒などに使われ てきたことから、その毒性に対する認識が不十分で安易に扱われやすい点に注意が必 要である。 5)ホウ酸の中毒症状としては、皮膚症状(エリテマトーデス様の紅斑)が特徴的な症 状 である。 7.注意 ホウ酸として ホウ酸は白色粉末なので砂糖や内服薬と間違って摂取したり、また、洗眼に用いられ る水溶液は無色無臭のため水と誤認して大量に摂取したりすることがある。 8.体内動態 ホウ酸 吸収:健康な皮膚面からも吸収されるが、消化管、粘膜、傷のある皮膚からとくによ く吸収される。 分布:脳、肝、腎に分布する。 排泄:主な排泄経路は腎臓であり、12 時間以内に 50%が尿中へ排泄されるが、85∼ 100%の排泄には 5∼7 日以上かかる。 9.中毒学的薬理作用 ホウ酸 2/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【ホウ酸団子)】Ver.1.03 全身毒性を引き起こすメカニズムは不明である。 9)12)13)14) 細胞毒として作用している可能性があり、最も影響を受けやすい組織は消化管粘膜、 脳・骨髄、肝臓、腎臓であると推測される。 13)14) その他、脱水作用を持つ。 9) 10.治療上の注意点 1)摂取後まもなく悪心、嘔吐が生じた場合は、遅れて出現する可能性のある症状(皮 膚 症状や腎障害(乏尿、無尿等))に十分注意して経過観察すること。 2)血液浄化法のうち、血液潅流(DHP)の有効性に関しては不明である。 3)皮膚症状の落屑は、発疹部位だけでなく口唇周囲、肛門周囲、口腔粘膜にも認められ、 新生児の場合、ブドウ球菌による中毒性表皮壊死と誤診されることあり 4)脱水、循環不全、ショック、尿細管壊死が死亡(発症後 5 日目位)原因となりうる。 12.参考文献 1)産業中毒便覧(1981) 2)Poisindex(2004) 3)Clinical Management of Poisoning and Drug Overdose(1983) 4)急性中毒情報ファイル(1996) 5)小川謙吾,村上幸雄,井上辰興,他:害虫忌避剤と誘引殺虫剤.日本家庭用殺虫剤 工業会,家庭用殺虫剤概論.(第 3 版).日本家庭用殺虫剤工業会,大阪,2007, pp45-50. 6)家庭用化学製品による急性中毒中毒に関する電話相談トリアージアルゴリズム A11 ホウ酸含有誘引殺虫剤 厚生労働科学研究費補助金 化学物質リスク研究事 業「家庭用化学製品のリスク管理におけるヒトデータの利用に関する研究」研究 班財団法人日本中毒情報センター 7)宮崎哲次, 屋敷幹雄, 岩崎泰昌,他:ホウ酸中毒死の一例.法医学の実際と研究 1992;35:173-176. 8)佐 藤 文子 ,斎 藤剛 ,瀬 戸良 久,他:ホ ウ酸 団 子 を摂 取 して 死亡 し た一 剖検 例.日 本法 医学 雑 誌 2005;59:181-182. 9)BORATES. (Last Modified: January 28, 2013) In: POISINDEX(R) System (electronic version). Truven Health Analytics, Greenwood Village, Colorado, USA. Available at: http://www.micromedexsolutions.com/ (cited: 2014-03-05). 10)Litovitz TL, Klein-Schwartz W, Oderda GM, et al: Clinical manifestations of toxicity in a series of 784 boric acid ingestions. Am J Emerg Med 1988;6:20913. 11)浅利靖:-3- 基本治療 1) 消化管除染 活性炭・緩下剤 簡潔版.日本中毒学会,急性中毒 標準診療ガイド.じほう,東京,2008,pp26-29. 12)Paul M.Wax:CHAPTER 102 ANTISEPTICS, DISINFECTANTS, AND STERILANTS.Lewis S.Nelson, Neal A.Lewin, Mary Ann Howland, Robert S. Hoffman, Lewis R. Goldfrank, Neal E. Flomenbaum, Goldfrank's Toxicologic Emergencies 9th edition. McGRAWHILL, New York, 2011,pp1345-1357. 13)Young-Jin Sue, Kathleen A.Delaney: Chapter 92 Antiseptics, Disinfectants and Sterilizing Agents. Ford Marsha, etc, Clinical Toxicology. W.B. Saunders Company, Philadelphia,2001,pp749-756. 13*)Young-Jin Sue, Kathleen A.Delaney (訳:武居裕子):92 章 防腐剤・消毒剤・滅菌剤. 内藤裕史監訳,化学物質毒性ハンドブック 臨床編 第 2 巻 (Clinical Toxicology (WB Saunders, 2001)).第 2 巻.丸善,東京,2003,pp886-893. 14)Olga F.Woo: BORIC ACID, BORATES AND BORON. Kent R.Olson (eds):Poisoning & Drug Overdose 3rd edition. Appleton & Lange, 1999,pp111-112. 3/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved. 公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報 【ホウ酸団子)】Ver.1.03 15)Oderda GM, Klein-Schwartz W, Insley BM.: In vitro study of boric acid and activated charcoal. Journal of Toxicology Clinical Toxicology. 1987;25:13-19. 13.作成日 20041008 Ver.1.00 20151102 Ver.1.03 ID M70091_0103_2 4/4 copyright © 2009 公益財団法人 日本中毒情報センター All Rights Reserved.
© Copyright 2024 Paperzz