感染対策それは愛 ICTニュース2013年11月号 ★付録:当院アンチバイオグラム(ポケット版)★ 今月は本号発表と同時に、「当院アンチバイオグラム(2012年)」を各診療科に配布しており、その特集です.アンチバイオグラムが足り ない、その他の職種の方でも抗菌薬適正使用の勉強のために活用したいという方は感染制御センターにご連絡ください. アンチバイオグラム(ポケット版)できました! アンチバイオグラムとは、種々の細菌の抗菌薬に対する感受 性(効く可能性)を一覧表にしたものです.そして数字(%)で表 した感受性は2012年に実際に当院で検出された細菌に対して のデータなので、感受性(効くか効かないか)を予想する上でこ れに勝るデータはありません.各診療科に配布しましたアンチ バイオグラムを手にとって見てください.例えば、市中肺炎の多 くを占める肺炎球菌は当院では98%の率でペニシリンGで治療可 能です.地域によっては耐性肺炎球菌が増えていると話題にさ れたりしますが当院ではこの程度です.一方、緑膿菌にはカル バペネムやニューキノロンというイメージがあるかもしれません が、当院では残念ながらチエナム73%、メロペン78%、シプロフロキサシ ン77%、クラビット78%と案外あてにならない数字です.当院で出 る緑膿菌にはゾシン93%、モダシン(セフタジジム)90%がよい選択に なります.当院の嫌気性菌にはユナシンSでほとんど感受性があり、 唯一79%のB.fagilis groupの一部にはゾシン(94%)、アスゾール(メ トロニダゾール)がよい適応です. もちろん、感染症と診断した段階で菌がわかるわけではない ので、感染症と診断した以上、自分がどんな菌をターゲッ トにして抗菌薬を出すのかを意識する必要があります.その 予想した菌に対してアンチバイオグラムを用いて抗菌薬を選ぶ のが本当のempric therapyということになります.「これまでなん となく使ってきて成功体験が多いから」というのとは違います.も ちろん原因菌の予想がはずれる、あるいは確定できないことは 多々あります.それは恥ずかしいことではありません.菌の種類 は星の数ほどありますから...ですが、抗菌薬を投与している のにターゲットの予想菌名を1つも挙げられないことは恥ずかし いことです.そこで、まずはアンチバイオグラムでとりあげた当 院でよく検出する菌などから予想してはいかがでしょうか.「この 臓器・病態でもっと特異的に予想される○○菌の情報はないの か?」というレベルの高い先生は、unicareから →メインメニュー →08検査・放射線関連→04感染症情報→薬剤感受性率に 入ってください.例えば淋菌(Neisseria gonorrhieae)を予想し てその感受性を調べたい場合は「対象菌」からその菌を選んで 実行すれば、過去1年間の当院の淋菌に対する感受性を見る ことができます.稀な菌の場合は期間を長くしてみてください. または細菌検査室(7213)にお気軽にご質問ください. アンチバイオグラムの使用法および抗菌薬選択のヒントをアン チバイオグラムの裏に載せました.患者さんの背景やこれまで の治療過程などcase by caseで抗菌薬選択の判断は異なるで しょうが、①検体を採ること、②原因菌を予想すること、③ 原因菌が判明したらde-escalationすること、この3つは現 在の高度医療において避けられない時代であることは間違い ありません. 抗菌薬適正使用のヒント 「MICのタテ読みは無意味!」 今月は感受性結果、とくにMIC値についてです.結論から 言いますと、あの数値は見る必要ありません.システムの変 更が可能であれば表示しないようにしたいくらいです.同じS (感受性あり)ならば、MICの低いものを選ぶのではなく、Sの 中からできるだけ狭域な抗菌薬を選んでください.ときどき、 MICの低いものの方が相対的に効きがよいと誤解している先 生がいます.そしてカルバペネムやニューキノロンでMICが低い数 値になっているこ とを理由 にそれらを選択 、あるいは deescalationしない理由とすることも間違いです.MICを理由に 相対的にペニシリン系やセフェム系が劣るという感覚が間違いで、 同じSなら効きのよさ(菌が死ぬ速度)はペネムやキノロンと比べ て同等かそれ以上です(とくにペニシリン系).ただし、そのペニ シリン系・セフェム系の効果を十分に得るコツは、最大回数で最 大量を投与することです.それらの日本の保険適応(今日の 治療薬に書いてある量)は世界の常識からみて異常なくらい 低めに設定されているのです .ペントシリン( PIPC) とゾシン (PIPC/TAZ)は似たような成分なのに断然後者の効きがよく 感じるのは後者が4.5g×3回という適切な使用量だからです. ちなみにMICはどちらも同じ値であることが殆どです. MICのタテ読み(抗菌薬の相対比較)に意味がない理 由 は 、 ① MIC の 表 示 は 米 CLSI ( Clinical and Laboratory Standards Institute)のブレイクポイントに基づいているが、日 米で保険適応の投与方法が違う.②臓器移行性の考慮がま るでなし.③血中濃度は時々刻々と変化するがMICを越えて いる時間の幅について考慮されていない...等にまとめら れますが、では逆にMICをどう使うのか...私も勉強中です. ●ICT川柳 「ああ残念 もうクラビット 入ってる」 抗菌化学療法セミナー(講習会参加シール有) クラビット(LVFX)は内服の抗菌薬としては最高傑作のひとつで す.ニューキノロンの移行性から尿路感染はもちろん、市中肺炎な どはマイコプラズマ等の異型肺炎を含め殆どカバーできてしまいま す( 弱点:小児 ・ 妊婦は×.嫌気性菌 には今一 ) .発売当初は 100mg3錠分3だったのが、PK-PD理論から、500mg1錠分1に変更 された点も非常に評価できます.ただ残念なのは、その利便性があ まりにも高いために一般診療において検体が採られず(菌の予想 がされずに)投与されていることが多々あるのです.例えばそのよう な状況で「よくならない」と紹介された場合、LVFX投与後に検体を 採っても(もちろん採りますが)、検体培養はほとんど何も生えてこな い可能性大です.本当に感染症だったかも含め、原因菌を謎につ つんでしまい、さらには広域過ぎて耐性菌も生みやすく、何がなん だかわからなくなってしまう発端となります.また、抗酸菌にもある程 度効いてしまうので、抗酸菌培養結果にも偽陰性を招き、最終的に は結核を見逃す原因にもなります.個人的にはニューキノロンを検 体提出前に投与するのは禁じて欲しいと思っています. 日時:11月21日(木)、22日(金)18:00~(同じ講習です) 場所:外来棟5階大会議室 テーマ:抗菌薬の使い方 とくに若い医師・研修医にお勧めです. ★本稿に開示すべき利益相反はありません. ★ご意見・感想・質問はお気軽に下記へご連絡ください. 感染制御センター 齋藤紀先 [email protected]
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