第1回 - 認知システム工学研究室

System Design & Management
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コンピュータモデルで
社会を観る
工学部システム創成学科
古田一雄
システム創成B
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こんな社会はイヤだ
–
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–
–
ダイヤ改正のたびに電車が混むようになる
年金の支払記録がなくなる
酒酔運転を厳罰にしたら轢逃げが増える
イージス艦の事故が防衛大臣に伝らない
計画停電で帰宅難民が出る
救援物資がなかなか被災地に届かない
• こうなるのは社会機能のデザインが杜
撰だから
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社会機能とは
• 社会機能 = 社会の仕組と働き
– 社会を動かす組織
– 社会を動かすルール
– 資財の流れ
– 人々の間のコミュニケーション
• 豊かな生活は現代文明のおかげ
現代文明 = 社会機能 + 科学技術
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工学と社会機能デザイン
• 間違った分業意識
– 理系 ⇒ 科学技術(製品)のデザイン
– 文系 ⇒ 社会機能のデザイン
• 従来(文系)の社会機能デザイン
– 過去の経験による修正の積み重ね
– 現在の複雑化した社会では限界
• 科学技術は社会機能デザインにも
使えるのではないか
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これからの社会機能デザイン
• 数理社会モデリング
–
–
–
–
数理的手法による社会のモデル化と予測
理工学の分野で洗練された手法の応用
社会動態の予測の定量性と精度が向上
合理的な社会機能デザインを可能にする
• 数理社会デザイン
– 数理社会モデリング
– 社会機能デザイン
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従来型科学の限界
• 要素還元の成功
物質 → 分子 → 原子 → 素粒子
→ クウォ-ク
生体 → 臓器 → 細胞 → 生化学
→ ゲノム
• 現代の難問
地球環境問題の解決
脳機能の解明
災害に強い都市造り
・・・・・・
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システムとは
• 自然システム
環境
– 太陽系
– 生態系
– 人体
システム
• 人工システム
要素
– 工場
– 大学
– 市場
相互作用
• 複合システム
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複雑性・全体性の科学
• なぜ要素還元主義ではダメなのか
– 相互作用を境界条件で近似せざるを得ない
– システム全体としての秩序が消えてしまう
– 分野ごとに研究がタコツボ化しやすい
• コンピュータモデルによる複雑系の解明
– コンピュータ集積度・性能は18ヶ月で2倍に
(ムーアの法則)
– 複雑性・全体性をあまり落さずに対象の「モ
デル」をコンピュータ上に造ることができる
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モデルとは
ファッションモデル
プラスチックモデル
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モデルとシミュレーション
• モデル
– 人が世界で起る様々な出来事を理
解、予測するときに、対象のある重
要な特徴を抽出して表現・代表させ、
それ以外を捨て去ったもの
• シミュレーション
– モデルを用いることによって、複雑性・
全体性をあまり落さずに対象の振舞
いを解明・理解するための方法論
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シミュレーションの方法と特徴
• シミュレーションの特徴
– 解析的に解けない問題が解ける
– 現実に体験できないことでも試せる
– 条件を変えて何度でも繰返せる
• シミュレーションの方法
– 模型、プロトタイピング、模擬訓練
– 思考実験、メンタルシミュレーション
– コンピュータシミュレーション
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シェリングの分居モデル
• 近所づきあいから自己組織化によ
り秩序が現れる現象のモデル
– 米国の大都市ではなぜチャイナタウ
ンやリトルトウキョウが発生するのか
• 社会科学へのマルチエージェント
シミュレーションの最初の導入例
(1969)
– チェスボード、コイン、ダイスによるマ
ニュアルシミュレーション
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分居モデルの概要
1. 1¢貨23枚、10¢貨22枚を
チェスボードにランダムに配置
2. 周囲に自分と同じコインがある
比率以上あればそのまま
3. そうでなければ空いているマスに
ランダムに移動させる
4. 2~3を繰返す
※ 「ある比率」がそれほど高くなくて
も分居が進む
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分居の進行
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アクセルドッドの文化変容モデル
• コミュニケーションによって文化を
共有するコミュニティが形成される
モデル
– 文化は社会に流布するのになぜ社
会は画一的にならないのか
• コンピュータシミュレーションを社会
科学に適用した代表的研究
(1997)
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文化変容モデルの概要
• N×Nの升目に個人が配置された
世界を社会とする
• 各個人はm桁の数値で表される
文化を持っている
– 各桁は文化を特徴付ける異なる要
素を表す
– 同じ値を持つ要素(桁)の割合によっ
て文化の類似度を定義する
• 各個人は上下左右の隣人と相互
作用する
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文化変容モデルの動作
1. 社会の全個人にランダムに文化
を割振る
2. ランダムに個人を選び、さらにそ
の隣人をランダムに1人選ぶ
3. 隣人の文化との間で値が異なる
桁をランダムに1つ選ぶ
4. 文化類似度の確率で、選んだ桁
を隣人と同じ数に書き変える
5. 2~4を変化しなくなるまで繰返す
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文化の変容(普及)
92763
01236
62047
92763
01236
62047
73457
03754
82746
73457
03714
82746
81037
53914
93712
81037
53914
93712
確率
0.4
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安定したコミュニティの形成
• 全員が同じ文化を共有するクラス
タ(コミュニティ)が出現する
• 収束状態では隣接するクラスタ間
に文化的共通要素が全くない
• 文化を特徴付ける要素数(桁数)
が少ないほど、各要素あたりの多
様性が大きいほど、生残るクラス
タ数は多くなる
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今日のまとめ
• 世の中の困った問題の解決には、
数理社会デザインのアプローチが
有望
• 社会システムが全体として示す挙
動や秩序は、相互作用のルールか
ら必ずしも自明ではない
• コンピュータモデルは、こうした創
発的現象を理解するための有力な
ツール
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http://www.cse.sys.t.u-tokyo.ac.jp
/furuta/teaching/dis/
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