●学会参加印象記 米国バイオマテリアル学会に参加して 関西大学化学生命工学部化学・物質工学科 岩 泰彦 Yasuhiko IWASAKI 2010 年 4 月 21 日 ∼ 24 日,米 国 バ イ オ マ テ リ ア ル 学 会 ・ 論 文 部 門: コ ロ ン ビ ア 大 学 の Gor dana V unjak- (Society for Biomaterials)年次大会がワシントン州シアト Novakovic 先生(生体高分子を利用した組織工学用足 ルのワシントン州コンベンションセンターで行われまし た。毎年この時期に開催される本大会は,バイオマテリア ル関連の定期大会として最大規模の会議の一つであるた 場材料の開発に関する研究) 授 与 式 に 引 き 続 い て,ワ シ ン ト ン 州 立 大 学 の Allan Hoffman 先生の基調講演が行われました。Hoffman 先生は, め,世界各地から大勢のバイオマテリアル研究者が集まり “There May Be a Smar t Polymer in Your Biomaterials ます。今年はバイオマテリアル研究の世界的拠点であるシ Future!”と題し,環境に応答して状態を変化させるスマー アトルが開催地であり,また,バイオ接着で著名なノース トポリマーを使った Drug Delivery System(DDS),バイオ ウェスタン大学の Phillip B. Messersmith 先生が大会長で コンジュゲーション,バイオチップなど,ご自身の研究を あったこともあり,例年に比べ多くの研究発表が行われ, 中心にスマートポリマーに関するレビュー講演をされまし とても活気にあふれた会議となりました。 た。マテリアルサイエンスを大切にしながら,常にバイオ 大会初日のオープニングセレモニーでは,Messersmith 大会長の挨拶の後,本年度の学会賞の授与式が行われまし た。バイオマテリアルサイエンスの発展に長年貢献した研 マテリアル研究を先導されている Hof fman 先生にあらた めて感銘を受けました。 本大会における一般発表の件数は,口頭発表が 261 件, 究者に与えられる Founder’s Award は,バイオマテリアル ポスター発表が 616 件でした。ポスター発表の件数は昨年 を志向したポリウレタン研究の第一人者であるオハイオ州 ,この数からも若い研究者が大勢出 のほぼ倍となり(図 1) 立大学の Stuart Cooper 先生に授与されました。また,バイ オマテリアル研究において特に優れた成果をあげた研究者 に贈られる Clemson Award には,基礎部門,応用部門,論 文部門の 3 部門があり,それぞれ,次の先生方が受賞され ました。 ・ 基 礎 部 門: デ ュ ー ク 大 学 の William Reicher t 先 生 (細胞とマテリアルの相互作用に着目したバイオマテ リアルの機能評価に関する研究) ・ 応用部門:メイヨー医科大学の Michael Yaszemski 先生(整形外科領域への組織工学技術の応用に関する 研究) ■著者連絡先 関西大学化学生命工学部化学・物質工学科 (〒 564-8680 大阪府吹田市山手町 3-3-35) E-mail. [email protected] 図 1 ポスター会場 人工臓器 39 巻 3 号 2010 年 239 席していることがうかがえます。おおまかな発表分野とし て,細胞とバイオマテリアル,細胞療法,循環器,DDS,イ ンプラント,ナノマテリアル,歯科用マテリアル,眼科用 マテリアル,整形外科用マテリアル,表面 / 界面,組織工学 などがあげられ,これらがさらに細分化された 50 を超える カテゴリーが設置されていました。全てのセッションが同 一のフロアで行われたので,多様なバイオマテリアル研究 に効率よく触れることができました。 また,会期中盤から後半にかけて,チュートリアル形式 のセッションも幾つか催されました。筆者は Messersmith 先生が司会を務められた「Chemo-selective Chemistr y」に 参加しました。講師は,シカゴ大学の Steve Kent 先生,コ ロンビア大学の Jeffer y Koberstein 先生,Korea Advanced Institute of Science and Technology(KAIST)の Tae Gwan 図 2 Buddy Ratner 先生のご自宅にて 左から石原一彦先生(東京大学),Buddy Ratner 先生(ワシントン州立大学), 筆者,青柳隆夫先生(独立行政法人物質・材料研究機構) Park 先生が担当し,有機化学的な思考に基づく特異反応を 利用した生体分子の化学修飾,分子センシング界面の設計, 標的医薬への応用などについて様々な方法がわかりやすく 会に巡り会えることです。今回は,学会 2 日目の夕刻にワ 解説されました。近年のバイオマテリアル研究では,バイ シントン州立大学の Buddy Ratner 先生のご自宅で催され オロジカルな視点で研究が進められることが中心になり, たホームパーティーに,筆者は幸運にも出席させて頂き 新しいマテリアルの開発への興味が薄れているように思わ ました(図 2)。出席者リストは 100 名を超え,各所にス れます。このチュートリアルで紹介された技術が実際の医 ケールの大きさを感じながら,最高のロケーションで著 療に適用されるには更なる検討が必要になると思います 名な先生方とお会いできたことはとても良い思い出にな が,マテリアル設計に重点を置いたお話はとても興味深く, りました。 バイオマテリアルの研究において基礎研究と応用研究のバ 2011 年は 4 月 13 日∼ 16 日の 4 日間,フロリダ州のオー ランドで開催される予定です。次回も様々なセッションが ランスが大切であることを実感しました。 国際学会に参加するときに,私自身とても楽しみにし 企画され,研究のアクティビティーを活発に議論する場と ていることは,世界的な視野で自らの研究を見つめ直す なることでしょう。オーランドでの大会にも日本から多く 時間が持てることと,普段ではなかなか経験できない機 の研究者が参加されますことを祈念しています。 240 人工臓器 39 巻 3 号 2010 年
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