1 研究主題について これまでの研究について これまで本校道徳部では,道徳の時間に育成すべき基礎・基本の学力を,小学校学 習指導要領の道徳の時間の目標に示されている道徳的実践力と位置づけて研究してき た。 2001年の研究では道徳的実践力を育成するための視点を道徳的価値の自覚を深 めることとした。そして,道徳的価値の自覚を深めることを,学習指導要領に示され た道徳教育の内容について,子どもがこれまで知らなかった考え方を知ったり,理解 したり,納得したり,あるいは,より深い考え方ができるようになったりすることで あ る と し た 。平 成 十 年 の 学 習 指 導 要 領 改 訂 ま で の 授 業 は「 道 徳 的 価 値 の 自 覚 を 深 め る 」 という視点が不十分であったため道徳の授業として成立するかどうか曖昧であること を本校道徳部が指摘した。また,小学校学習指導要領に道徳的価値の自覚について述 べられているが,どのような子どもの姿を目指すのかまでは示されておらず,その時 間にどの道徳的価値のどの部分をどの程度自覚させるのかが曖昧であることも指摘し た。 そこで,1時間で達成可能なねらいを設定した上で,授業前と授業後の子どもの具 体的な変容の様子を指導案に記述し,対比的に見取れるようにした。そのことで,授 業評価の観点を明確にし,客観性を高めようとした。また,授業後に子ども達が書く 道徳ノートの「分かったこと」の記述や満足感,充実感を推し量るための記述から道 徳的価値の自覚の深まりを見取り評価しようとした。 研究主題について 道徳的価値の自覚を深める授業 ~新しくなった自分の見方や考え方のよさに気づく~ 小 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 道 徳 編 に は ,「 道 徳 的 価 値 の 自 覚 に つ い て は , 発 達 段 階 に 応じて多様に考えられるが,例えば,次の三つの事柄を押さえていくことが考えられ る。一つは,道徳的価値についての理解である。道徳的価値が人間らしさを表すもの であるため,同時に人間理解や他者理解を深めていくようにする。二つは,自分との かかわりで道徳的価値がとらえられることである。そのことにあわせて自己理解を深 めていくようにする。三つは,道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思い や課題が培われることである。その中で自己や社会の未来に夢や希望がもてるように す る 。」 と あ る 。 し か し , こ れ ら の こ と を ふ ま え て 実 際 の 授 業 で ど の よ う に 指 導 す れ ばよいのか具体的にイメージしにくいと考える。なぜなら,道徳的価値を深めること や,自分なりに発展させていくことが,実際の授業に照らし合わせたとき手立てが曖 昧だからである。そこで本校道徳部では,本校の研究主題である「創造性を育成する 授業」ことを踏まえた上で,授業として具体化することを目的として研究を進めるこ とにした。 本年度の本校の研究テーマは「創造性を育成する授業」である。そこで,本校道徳 部 で は そ の テ ー マ を 受 け ,「 道 徳 的 価 値 の 自 覚 を 深 め る 授 業 」 を 教 科 主 題 と し て , 創 - 1 - 造性の育成について「自分にとっての新しさを得ること」に着目し,研究を進めるこ とにした。 道徳における「自分にとっての新しさ」とは,子どもが道徳的価値について自分の 見方や考え方を再構成したり,今まで知らなかった考えを知ることでその価値につい て多面的に見ることができるようになったりして,道徳的価値についての理解を深め ることである。これは,上記「一つ目の事柄」に当たる。 道徳的価値の自覚とは,新しくなった自分の見方や考え方のよさに気づくことで, 「自分にとっての新しさを得ること」だと考える。これは,上記「二つ目の事柄」に 当たると考える。 授業によって道徳的価値に対する子どもの理解が深まり,子ども自身がその新し くなった自分の見方や考え方のよさに気づいたとき,つまり道徳的価値の自覚が深 まったとき,創造性が育成され,上記「三つ目の事柄」の,道徳的価値を自分なり に発展させていくための思いを培ったり,意味ある課題の生成を促したりすること につながると考える。 新しくなった自分の見方や考え方のよさに気づくとは 道徳の時間に取り扱う内容については,子ども達はそれが大切だと言うことは知っ ていることが多い。しかし,なぜそれが大切なのかの理由を問われれば,こうしなく てはならないと一般的に言われているからであるとか,そうしないと怒られるからと 答えることが多い。あるいは幼い頃からのしつけによって習慣化されている場合もあ るだろう。それでは道徳的価値について深く理解しているとは言えない。道徳的価値 の理解をより深めるためには,その価値がなぜよいのかという理由について考える必 要があると考える。例えば,資料を読んで話し合っていくうちに,登場人物のとった 行動や心の動きが自分の持っている見方や考え方ではぴたりと当てはまらない場合が あ る 。そ こ で 教 師 が「 な ぜ そ う し た の だ ろ う 。」と か「 ど う し て そ う 考 え た の だ ろ う 。」 と発問し,子ども達にそのことについて深く考えさせる指導の工夫を行うことで,子 ども達は新しい見方や考え方に気づいていく。そして,子ども達がその気づきに納得 できたとき,子ども達の見方や考え方が新しくなったと考える。 しかし,それだけでは自覚が深まったとは言えない。子ども達自身がその新しくな った自分の見方や考え方のよさに気づき,新しくなった自分の見方や考え方に気づけ た自分自身のよさを感じる必要がある。ただ変わったというだけでなく,その二つの よさに気づくことで道徳的価値の自覚が深まり,様々な場面で道徳性を発揮すること につながると考える。 2 研究の内容について 見方や考え方を新しくするために ① 読みを深めて新しい考え方の視点を与える 話し合い活動は,子どもがお互いの意見を交流し合うことで,自分の意見との共通 点や相違点を知ることができる。登場人物の行為の理由や気持ちを焦点化して話し合 っていくうちに子ども達はこれまでの自分の見方や考え方だけでなく,自分とは違う - 2 - 友達の意見を手がかりにして考えを深めたり,反論することで考えを整理し確認した りすることができると考える。話し合う際には,子ども達が課題に対して必要感を持 つことが大切である。子ども達は登場人物と自分とのつながりを意識できたとき,登 場人物の心情について考えようとすると思われる。そのために,導入時に登場人物に 対する共感を高めておく必要がある。そして,話し合い活動で子ども達は課題解決の ための方法を試していくと考える。 しかし,話し合い活動は子ども達の意見だけではなかなか深まらない。資料の表面 的な心情を発表して終わってしまいがちである。また,なかなか意見が出なくて話し 合いが停滞してしまうような場合もある。そこで,子ども達のそれまでの見方や考え 方だけでは当てはまらない部分を焦点化する補助発問を行う。このことにより,登場 人物の行為の原因や気持ちの背景について考えたり,気づいたりできるようになるこ とをねらう。 これまでの授業でも補助発問を行ってきたが,本研究では資料の中で登場人物の気 持ちを考える上でのポイントとなる箇所を示し,適切な発問をすること子ども達の読 みが深まると考える。子どもは資料の内容を読み取るだけの読み方(浅い読み)にな ることが多いので,浅い道徳的価値しか見とれないことが多い。教師が資料を読んで 子どもが気づかなかった道徳的価値の深い側面に気づき,そのポイントとなる箇所を 示し,適切な発問をすることで子ども達の読みが深まると考える。例えば,資料の葛 藤場面で悩むことができている登場人物の素地について焦点を当てることなどが,読 みを深める手がかりの一つになると考える。 このように読みを深めて行った話し合い活動で,友だちの様々な意見について考え ていくうちに,子ども達がその道徳的価値についての見方や考え方を再構成したり, 多面的に見ることができるようにする。そのことが,子ども達の見方や考え方が新し くなることだと考える。 新しくなった自分の見方や考え方のよさに気づくために ① 授業前の子ども達の理解の状態を正確に把握する 授業を通して子ども達の見方や考え方が新しくなるためには,まず授業前の子ども 達がその道徳的価値についてどの程度理解しているか正確に把握しなければならな い。授業前の子ども達の理解の状態が分からなければ子どもの心を揺さぶる発問がで きないし,本当に見方や考え方が新しくなったのか分からないからである。授業前の 子ども達の見方や考え方を正確に把握することで,見方や考え方をどの程度まで深め るのかが,より明確にでき,目の前の子ども達にどのような発問するかを考える手が かりになると思われる。そこで,これまでも日頃の指導や子ども達の様子から実態を 把握していたが,より正確にその時間に取り扱う道徳的価値についてどの程度理解し ているかを把握する手立てを考える。そのための手立ては以下のようなものである。 a. 教師が一度資料について記述内容のみに着目して読むことで,取り扱う道徳的 価値について子どもが一人で読んだとき何に気づき,何に気づかないかを想定す る。 b. 事前アンケートから子どもの理解の状態を見取る。 - 3 - aのようなよみだけでは想定が困難な場合,子ども達に具体的な葛藤場面につ いてアンケートをとり,そこから子ども達の理解の状態を見取る。 日頃の指導や子どもの様子にこれらのことを加えることで,より正確に子どもの理 解の状態を知ることをねらう。 ② 変容の前後で同じ発問をする 新しくなった自分の見方や考え方のよさに気づくためには,その時間に取り扱った 道徳的価値について,変容前に子ども達がどのように考えていたのかを子ども自身が 知る必要がある。そこで,変容前の発問で子ども達はその価値について,自分がこれ までどのように考えていたかを知ることができるようにする。 話し合い活動など見方や考え方が新しくなった後,変容後の発問をする。 そのことで,子ども達は同じ発問について考えるので,授業前と授業後の自分の見 方や考え方の違いを直接比較することができるので,子ども達はより自分自信の変容 に気づくことができると考える。そして,子ども達が新しくなった自分の見方や考え 方のよさに気づくことが,手応えを実感する課題解決であると考える。 実践事例Ⅰ 4年「信頼のきずな」2-(3) ( 資 料 名 「 絵 は が き と 切 手 」) (1)本単元について 本時で取り上げる道徳的価値は第3学年および第4学年の内容2-(3)に含ま れるもので,友だちと互いに理解し,信頼し,助け合うということである。 本資料「絵はがきと切手」は主人公のひろ子が,転校していった仲良しの友だち の正子からきれいな絵はがきを受け取り,返事を書こうとする話である。しかし, その絵はがきは普通より大きめだったため,受け取った兄が不足料金を払わなけれ ばならなかった。ひろ子は返事を書こうとしたが,兄が言った「不足のことを教え て あ げ た 方 が い い 。」 と い う 言 葉 が 気 に な っ た 。 そ こ で 母 に 相 談 す る と 「 お 礼 だ け に し た ら 。」 と 言 う が , 兄 は 「 言 っ た 方 が い い 。」 と 譲 ら な か っ た 。 そ の 二 つ の 考 えの中で迷うひろ子だが,しばらく考えた後,料金不足のことを書き足そうと決心 するというものである。 社会生活の中で友だちとはとても大きな存在である。自分が困っているときには 助けてくれたり,なぐさめてくれたりする。また,親や先生に言えないことでも, 友だちに話すことができる。友だちというものは,自分にとって安心して楽しく過 ごすためにとても大切なものである。しかし,ただ単に気が合うからや,利害が一 致するからなどの理由で表面的な友だち,友情関係であることもある。 本当の友情とは,信頼し助け合い励まし合いながら,ともに人間的に成長してい くことができることである。そのためには互いの長所を認め合い,欠点を指摘され れば直そうと努力する必要がある。信頼関係が土台にあれば忠告されても腹を立て ずに受け入れることができる。 忠告という行為は単に相手の欠点や過失を指摘するだけではない。相手のことを 真剣に考え,思いやることが大切である。そういった信頼関係の上に忠告という行 為が成り立ち,友だち同士が互いに励まし合い,忠告し合ってさらに友情が深まる - 4 - と考える。 この時期の児童は気の合う複数の友だちとグループをつくって行動することが多 くなる。そして,グループの中でさらに仲の良い友だちとの間に友情らしきものが 芽生えてくる。ただし,この時期の友情は,仲良しから発展したもので,互いの悪 い点はあまり口にしない。そのことで気まずい思いをしたり,けんかをしたりした くないからである。相手の気持ちや立場を考えて,本当に思いやって間違いを指摘 することが,本人のためになり本当の友情を育てるために大切なことなのである。 そして,児童がお互いに信頼し,助け合って,忠告し合って本当の友情を育ててほ しいと考える。 (2)創造性を育成するために 本時のねらいは「友だちと信頼し,助け合い,忠告し合って友情を深めていこう とする心情を育てる」である。児童は友だちと仲良くすることや協力することが大 切であることは理解している。しかし,相手のことを十分に考えることができずに 衝突することがある。また,相手の悪いところを指摘して気まずくなることをおそ れ,忠告することができないことや,忠告を受けても素直にその忠告を受け入れる ことができないこともある。そのような表面的な友だち関係ではなく,相手の立場 に立って思いやることで信頼関係をつくり,助け合い,忠告し合ってお互いに成長 していけるような本当の友情を育てることが大切であると考える。児童は友だちと よりよい関係を築きたいと考えている。課題「ひろ子は伝えるべきか知らせないべ き考えよう」はどのようにしたら本当に友だちのためになるのかを,自分のことと してとらえて考えることができるので,学習者にとって必要感の持てる課題になる と考える。 そして,料金不足のことを書こうか書くまいか迷うひろ子の気持ちに共感させる ことで友だち関係について考えさせたい。その際,母の「せっかくきれいな絵はが き を 送 っ て く れ た の に 相 手 に 悪 い 。」 と い う 考 え と , 兄 の 「 友 だ ち だ か ら こ そ 間 違 い を 言 っ て あ げ た 方 い い 。」 と い う 考 え の ど ち ら も , 相 手 の こ と を 考 え た も の で あ る こ と を 押 さ え た い 。 児 童 は ,「 伝 え る 」「 知 ら せ な い 」 の ど ち ら の 考 え が 本 当 に 正子のためになるのかを試行錯誤したり,友だちの意見と比較したり,出た意見を もとにして自分の考えを吟味したりすることで,なぜ互いに信頼し,助け合い,忠 告し合うことが大切なのか理解できると考える。そして,言いたくないという考え には自分が悪く思われたくないという自分を守ろうとする気持ちが働きやすいこと に気づくだろう。児童は本当の友情というものについての考えをさらに深めること ができると考える。 話し合いを通して,児童一人一人が自分の考えを深めた後,これまでの自分を振 り返る時間を設ける。自分が忠告したときや,忠告を受けたときの気持ちを振り返 ることで,自分がこれまでできていなかったことについて気づかせたい。そして, 友だちと互いに人間的に成長していけるような関係をつくるために,本時で学んだ 本当の友情というものが大切であることに気づくことができるようにする。友だち とは自分にとって一緒にいて楽しく都合の良い相手という考えから,お互いに人間 - 5 - 性を高め合っていくものという考えに変わっていくことを理解することで,学習の 手応えを実感することができると考える。また,この学習で分かったことや考えた ことなどを書くことで,本時で学習したことを再確認したり,後から読み返すこと で自分を振り返られるようにしたい。 図1 目ざす子どもの変容 授業前の子どもの様子と考え方 授業を通して高めたい子どもの考え方 ・相手の気持ちを考えたつもりに ・自分の都合ではなく,相手の気 なっているが,自分の都合を考 持ちを考えて行動することが大 えてしまっている。 切だと分かる。 ・相手の立場をしっかりと考えて ・相手の立場をしっかりと考えて, いないため,どうすることが相 どうすることが本当に相手のた 手にとって本当によいことなの めになるのか分かる。 か分からない。 (3)ねらい 友達への忠告は,相手の気持ちや立場を考えてすることに気づかせる。 (4)本時の展開 学習活動 ○支援 1.本時の課題を確認する。 ○ ・ 困ったときに助けてく 一緒に遊んだとき ・ 励ましてくれたとき 発問「友だちがいてよかったなあと思ったこと は あ り ま す か 。」 に よ り 友 だ ち に つ い て 考 え る こ れたとき ・ ◆評価基準 とができるようにする。 2.資料「絵はがきと切手」 を読んでひろ子の気持ちに ついて話し合う。 ○ 正子さんから絵はがきを ○ 発問「ひろ子が受け取ったはがきは どんなは 受け取ったとき が き で す か 。」 に よ っ て , そ の は が き は 転 校 し て ・転校していった仲良しの いった仲良しの正子からのもので,正子が好意で 正子さんからのはがき。 ・きれいな絵はがき 送ってくれたものであることに気づかせる。 ○ ・ 大 き な 絵 は が き 。( 料 金 はがきが大きすぎて料金不足だが,気持ちのこ もったものであることを押さえる。 不足) ○ 返事を書こうとしたとき ○ 発問「返事を書くとき,兄の言ったことが気に - 6 - ・70円の不足のことを書 なったのはひろ子がどう思っていたからでしょ いたら正子がいやな思い う 。」 に よ り , 料 金 不 足 の こ と を 書 き た く な い ひ をするのではないか。 ろ子の気持ちに気づかせる。 ・料金不足のことを教えて あげた方が良いのではな いか。 ・どうしたらいいか分から ない。 課題「ひろ子は伝えるべきか伝えないべきか考えよう」 ○ 母や兄の言葉を聞いたと ○ き 変容前の発問「ひろ子は伝えるか,伝えないか ど ち ら が い い で し ょ う 。」 に よ り , 初 め の 見 方 や 「母」伝えない (せっかく送ってくれた 考え方を知ることができるようにする。 ○ の に , 相 手 に 悪 い 。) 母と兄の考えを示し,どちらの考えも相手のこ とを考えたものであることに気づかせる。 ・正子さんを傷つけたく ○ ない。 ひろ子が書くことでどうなることを恐れている のかを押さえることで,書くことが自分にとって ・せっかくの絵はがきを 都合の悪いことであるという気持ちがあることに 喜んでいないみたいに 気づかせる。 思われる。 「兄」伝える (言ってあげた方が相手の た め に な る 。) ・言ってあげるのが友だ ちの役目。 ・他の人に出して注意さ れたら正子さんがかわ いそう。 方法を試したり確かめたりする子どもの姿 ・「 伝 え る 」 と 「 伝 え な い 」 の ど ち ら が 正 子 に と っ て よ い の か , 母と兄の考えをもとに考えている。 ・自分ならどうするか考えている。 ・ 他 の 意 見 を 認 め な が ら ,友 情 に つ い て の 自 分 の 考 え を 深 め て い る 。 ○ 変容後の発問「ひろ子は知らせか,知らせない か ど ち ら が い い で し ょ う 。」 に よ り , 自 分 の 見 方 や考え方が深まったことに気づかせる。 - 7 - ○ 正子に料金不足のことを ○ 発問「ひろ子が料金不足のことを書き足そうと 書き足そうと決心したとき 思 っ た の は な ぜ で す か 。」 に よ り , 正 子 の 立 場 に ・間違いを教えるのも友だ 立って考えているひろ子の気持ちに触れさせるこ ちの役目。 とで,本当の友だちとはどういうものか深く考え ・正子さんなら忠告して ることができるようにする。 も,私の気持ちをきっと ◆ 分かってくれる。 ひろ子が,正子の気持ちや立場について考え ていることに気づくことができる。 3.今日の学習で分かったこ とや考えたことを書く。 ○ これまでの自分の友だち関係を振り返ること で,道徳的価値の自覚を深め,実践しようとする 意欲を高める。 ◆ 自分の生活に当てはめて考えることができ る。 (5)指導の結果 本時のねらいは「友達への忠告は,相手の気持ちや立場を考えてすることに気づ か せ る 。」 で あ る 。 こ の ね ら い に 対 し て 子 ど も 達 の 自 覚 が ど の 程 度 深 め ら れ た の か を評価するために,授業の終わりに書かせた道徳ノートの内容を分析する。道徳ノ ー ト に は 「 今 日 の 学 習 で 分 か っ た こ と を 書 き ま し ょ う 。」 と 書 か れ て あ り , 書 か れ た内容を分析することで,本時の学習で子ども達が道徳的価値についてどの程度自 覚を深められたのか判断することができると考える。 本研究道徳の授業を通して,子どもたちが新しくなった自分の見方や考え方に気 づくことができたかが評価の重点である。そこで,子どもたちの書いた道徳ノート を次のように分類した。 ア 相手のことを考えて忠告した方がよいと書いている。 ・・・・・・18人 イ 友 だ ち だ か ら 忠 告 し て も 分 か っ て く れ る と 書 い て い る 。・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 2 人 ウ 忠 告 す る こ と は 大 切 だ が 理 由 は 書 い て い な い 。・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 人 エ その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3人 アの視点で書かれた道徳ノート Aは手紙に書くとしているが,その理由に「もし,正子さんが他の人にそのはがき を 送 っ て 『 足 り な か っ た で す 。』 と 言 わ れ て , 正 子 さ ん が き ず つ い た ら か わ い そ う だ から」と書いている。これは本時のねらいに気づいていると評価できる。 また,Bは「友だちが気を悪くするかもしれないけど,言ってあげた方が友だちの - 8 - た め に な る 。」 と 書 いてあり, これも本時 のねらいに 気づいてい ると評価で きる。 どちらも, 正子さんが 同じ失敗を A 繰り返さな B いように相 手のことを 考えるとい う 明 確 な 理 由 を 示 し て い る の で ,見 方 や 考 え 方 が 新 し く な っ た と 考 え る 。さ ら に B は , 「もし友だちがまちがったことをしていたら友だちが気を悪くするかもしれないけど, 言ってあげてみようかな」と書いている。これは授業を通して新しくなった自分の見 方や考え方のよさに気づくことができたからだと考える。その他の子どもについても 「相手を気遣う」や「他の人に悪く言われる」などあり,忠告する理由として相手の ことを考えることを書いていた。 イの視点で書かれた道徳ノート Cは「最初のほうはきあ傷つくから料金不足のことを書かないほうがいいと思って い た け れ ど , 今 は 自 分 の こ と を 分 か っ て く れ る か ら 大 丈 夫 だ と 思 っ た 。」 と 書 い て い る。これは「書かない方がいい」から「書いた方がいい」に見方や考え方が変わって いる。しか し,理由の 「自分のこ とを分かっ てくれるか ら」という 部分は,忠 告して相手 との関係が 悪くなるの がいやだと C いう自分を 守ろうとす る考えから, 完全に抜け - 9 - D 出していないと評価できる。 Dは「正子さんを信用して,本当のことを教えてあげよう。そういうことが本当の 友 だ ち で は な い か と 思 い ま し た 。」 と 書 い て い る 。 友 情 に つ い て の 考 え は 深 め て い る が,相手の気持ちや立場を考えると言う点の深まりが十分でないと評価できる。 「 友 だ ち だ か ら 分 か っ て く れ る 」 と い う の は , C 33の 「 友 だ ち だ か ら 正 子 さ ん の た め に 言 っ て る っ て 分 か っ て く れ る 。」 と い う 意 見 に 影 響 し た と 考 え ら れ る 。 本 時 で は ひろ子さんが正子さんの気持ちや立場をどう考 え る か が 問 題 に な る の だ が ,「 友 だ ち だ か ら 分 かってくれる」と正子さんの気持ちを決めつけ てしまい,見方や考えを深められなかったと考 える。つまり,こちらが相手の気持ちや立場を 考えなければならないのに,友だちということ で感じ方を任せてしまっている。そういう意味 では子どもたちの理解の状態の把握が十分でな かったと考える。 ウの視点で書かれた道徳ノート Eは行為のみを書いている。実際にこういう 場面に出会ったらどうしたらいいのか分かって いるが,理由については書かれていない。相手 E の気持ちや立場を考えるところは理解が深まっ ていないと考える。 エの視点で書かれた道徳ノート F は 友 情 に つ い て 書 い て あ り ,「 友 だ ち と い うのは,やさしくて,とても明るい」としてい る。しかし,本時のねらいである「友達への忠 告は,相手の気持ちや立場を考えてすることに 気 づ か せ る 。」 に つ い て は 気 づ い て い な い 。 本 当の友情には,相手の気持ちや立場を考えるこ とが大切であり,そのことについては理解が深 まっていない。 3 考察 読みを深めて新しい考え方の視点を与える 子どもたちの話し合い活動が停滞する場面で F 資料のポイントとなる箇所を示すことで子ども たちは新しい視点を得て,それを考える手がか りにできたと思われる。本実践では,友だちだ からという理由で「伝える」をほとんどの子どもが選択した。なぜ友だちだから「伝 え る 」 か は 前 に 「 そ の 人 の た め に な る か ら 」 と い う 理 由 が 出 て い た 。 し か し ,「 伝 え - 10 - ない」理由も「相手に失礼」や「気を悪くする」で,子どもたちは正子さんのためだ と 考 え て い た 。そ の た め , 「同じ正子さんのためなのにどうして伝えるを選んだのか」 という発問をしたのだが,その発問によって子どもたちの話し合い活動が停滞してし まった。そこで「正子がいやな気持ちになる」と言う箇所を示し,知らせたくないと いう気持ちには自分が嫌われたくないなどの思いがあることに気づくようにした。 このように読みを深めて新しい考え方の視点を与えるというのは一定の成果があっ た。しかし,EやFなどのように,本時のねらいに気づけていない児童もいる。発問 や焦点化する部分が適切だったかを検討する必要がある。 授業前の子ども達の理解の状態を正確に把握する 今回の実践では子ども達の理解の状態を正確に把握することができていなかった。 それは道徳ノートの評価からも見取ることができる。もっと正確に子どもの理解の状 態を把握しておけば,授業での子どもの想定や発問を適切にすることができたと考え られる。この手立てについては,具体的にさらなる研究を進めていく必要がある。 授業の中で同じ発問をする 今 回 の 実 践 で は 「 ひ ろ 子 は 伝 え る べ き か 伝 え な い べ き か 。」 と い う 発 問 を 二 回 行 っ た 。 初 め は 「 伝 え る 」 2 5 人 ,「 伝 え な い 」 1 4 人 だ っ た が , 二 回 目 は 「 伝 え る 」 3 6 人 ,「 伝 え な い な い 」 3 人 だ っ た 。 こ の 人 数 の 変 化 は 子 ど も 達 の 見 方 や 考 え 方 が 新 しくなったからだと考える。また,道徳ノートの「初めは伝えないほうが良いと思 っ た が , 考 え が 変 わ り 伝 え る ほ う が よ い と 思 っ た 。」 や 「 初 め は 伝 え る こ と は 失 礼 だ と思ったが,相手のために伝える」などの記述から授業の中で同じ発問を二度する ことは子ども達が新しくなった自分の見方や考え方のよさについて知る上で有効だ ったと考える。しかし,授業のいつぐらいにこの発問をするのか,そしてどのよう な発問をするのかがこれからの課題になる。 - 11 - (資料①) 絵はがきと切手 (『 4 年 生 の ど う と く 』文 渓 堂 ) ① 「 ゆ う び ん で す 。 不 足 料 金 , お 願 い し ま す 。」 げんかんの方から,声が聞こ えてきました。 ひろ子が出ていこうとすると,ちょうど高校生の兄が帰ってきました。 「 七 十 円 足 り ま せ ん 。」 ゆうびん屋さんは,こう言って,兄に一まいのゆうびん物をわたしました。 兄は,それを受け取って,ゆうびん屋さんに七十円わたしました。兄は, ゆうびん物をひろ子にわたしながら, 「受け取り人に,お金をはらわせるのは失礼だな。こんなに大きいのは, ゆうびん局では,はがきとしてはあつかわないんだよ。定形外ゆうびん 物といって,百二十円の切手を貼らなければいけないんだよ。その人は, ひ ろ 子 の 友 達 だ ろ う 。 教 え て あ げ た ほ う が い い よ 。」 と言いました。 それは,九月の初め,転校していった正子から来たもので,ふつうのは がきより大きめの絵はがきでした。 ひろ子と正子は,一年生のときからの仲よしです。 はがきには次のように書いてありました。 ひろ子さん,お元気ですか。 わたしは,このあいだ,蓼科高原 に行ってきました。そのときの景色 が,とても美しかったので,お送り します。来年の夏休みには,ぜひ, とまりに来てください。 そして 「未納不足 七十円 松本局」 - 12 - と書いたゴム印がおしてありました。 左上には,五十円の切手がはってありました。 ひ ろ 子 は , 高 原 を 歩 い て い る 正 子 の こ と を 考 え ,「 わ た し も 行 っ て み た い な あ 。」 と 思 い ま し た 。 ② 返事を書こうと,紙とえんぴつを用意しました。すると,さっき,兄の 行ったことが気になってきました。 正 子 が , せ っ か く き れ い な 景 色 を 見 せ た い と 送 っ て く れ た の に ,「 七 十 円 の 不 足 で し た 。」 な ん て 書 き た く な か っ た の で す 。 そ ん な ふ う に 書 い た ら , 正子がきっといやな気持ちになると思いました。 台所で食事の用意をして いた母に,相談してみました。 ③ 「 お 礼 だ け 言 っ て お い た ほ う が い い か も し れ な い わ ね 。」 と母は言ってくれました。しかし,兄が,そばでそれを聞いていて, 「だめ,だめ,ちゃんと言ってあげたほうがいいんだよ。それが友達とい う も の だ よ 。」 と言ってゆずりません。 ひろ子はまよってしまいました。 ④ 自分の部屋にもどって,一人でいろいろ考えているうちに,正子とすご した日々を,なつかしく思い出しました。 正子さんは,ほかの人にも,この大きすぎる絵はがきを五十円で送 るかもしれない。 そう考えたひろ子は,手紙の最後に,百二十円切手をはらなければなら ないことを書き足そうと思いました。 正子さんは,きっと分かってくれる。 そう思って,手紙を書き始めました。 - 13 - (資料2)授業記録「絵はがきと切手」 T みんなが友だちがいてよかったなあと思うのはどういうときですか。 C1 みんなと遊ぶとき。 C2 なやんでいるときに助けてくれるとき。 C3 協力してくれるとき T グループで協力していますね。他にもいろいろあると思いますが今日の話に入りた いと思います。今日やる話は絵はがきと切手です。 それでは一度読みます。 資料を一通り読む T 主人公はだれですか C4 ひろ子さん。 T 他に誰か出て来ましたか。 C5 お兄さん C6 お母さん C7 正子さん T 正子さんはどういう人ですか。 C8 ひろ子さんの友だち。 T そうですね。それではもう一度読みますのでひろ子さんの気持ちを考えながら聞き ましょう。 ①を読む T ひろ子さんのところに一枚のはがきがとどきましたね。 どんなはがきでしたか。 C9 仲良しの正子さんからのはがき。 T そうですね。ふつうのはがきでしたか。 C 10 きれいな景色の絵はがき。 T でも,ちょっと困ったことがあったんですね。どんなことですか。 C 11 七十円料金不足でした。 T それでははがきを受け取ったとき,ひろ子さんはどんなことを思いましたか。 C 12 久しぶりだからうれしかった。 C 13 わざわざなんだろう。 T それでどんな内容だったんですか。 C 14 きれいな景色を送ってくれた。 T そうですね。他にありますか。 C 15 わざわざ手紙をありがとう。 C 16 行ってみたいなあ。 T きれいなところですからね。 - 14 - でもこの手紙は料金不足だったんですね。 それでは続きを読みます。 ②を読む T ひろ子は返事を書くとき,なぜ兄の言ったことが気になったのでしょう。 C 17 料金不足を教えたほうがいいのか,教えないほうがいいのか分からないから。 T 他にありますか。 C 18 せっかく送ってくれたのに書きたくない。 C 19 他の意見。書いたら失礼。 T 書きたくないけど迷っているんですね。 それでは続きを読みます。 ③を読む T ひろ子さんはお母さんに相談に行くんですね。 じゃあお母さんはどう言いましたか。 C 20 せっかく送ってくれたんだからそういうことは書かないほうがいい。 T そういうことってどういうことですか。 C 21 料金不足のこと T そこへ兄が来たんですけどなんて言いましたか。 C 22 友だちだから伝えてあげたほうがいい。 T それでは,みんなは伝えるか伝えないかどちらがいいと思いますか。 伝える・・・25人 伝えない・・・14人 T それでは,伝えないに手を挙げた人,どうしてですか。 C 23 書いたら相手がかわいそうだから。 T なぜかわいそうなんですか。 C 24 せっかく送ってくれたから。 T 他にありますか。 C 25 相手に失礼だから。 C 26 相手が気を悪くするから。 T じゃあ次は伝えるに挙げた人に聞きます。どうして伝えるのですか。 C 27 他の人に送って言われないように,先に言ってあげる。 C 28 友だちだから。 C 29 仲良しだから。 T なぜ仲良しだったら言うの。 C 30 言ったほうがその人のためになるから。 T でも言ったら嫌われるかもしれないよ。 C 31 それでも言う T なぜ - 15 - C 32 言わなかったら正子さんが困るかもしれないから。 T 他の人は C 33 友だちだから正子さんのために言ってるって分かってくれる。 T もう一度聞きます。 伝えるか,伝えないか,とちらがいいと思いますか。 伝える・・・36人 伝えない・・・3人 T こっちの気を悪くしないようにっていうのはだれのためですか。 C 34 正子さん T じゃあ伝えるのはだれのためですか。 C 35 正子さん。 T なぜ同じ正子さんのためなのに伝えるの。 C ・・・ T ここに正子さんがいやな思いになると書いてありますが,正子さんがいやな思いを し て を し て い や な の は だ れ で す か 。。 C 36 ひろ子さん T なぜいやなのですか。 C 37 正子さんに悪いと思うから T 他にありますか。 C 38 正子さんに嫌われたくないから。 T 伝えないのは本当に正子さんのためですか。 C 39 ひろ子が伝えたくないから。 T ひろ子さんは自分がいやだから伝えたくなかったんですね。 それでは続きを読みます。 ④を読む T ひろ子が料金不足のことを書き足そうと思ったのはなぜですか。 C 40 友だちだから料金不足のことを言っても大丈夫。 C 41 自分の気持ちを分かってくれる。 T どんな気持ち。 C 42 自分のために言ってくれている。 T 他にありますか。 C 43 友だちだから教えてあげよう。 T ひろ子さんは相手のことを考えて,教えてあげようと思ったんですね。 それでは道徳ノートを書きます。 道徳ノートに「分かったことを」を書かせた。 - 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