' Title Author(s) Citation Issue Date URL Rights ' アメリカにおける獣医学教育(文部科学省在外研究員 留学報告) 山田, 一孝 日本獣医師会雑誌, 55(4): 259-263 2002-04-20 http://ir.obihiro.ac.jp/dspace/handle/10322/2938 日本獣医師会 帯広畜産大学学術情報リポジトリOAK:Obihiro university Archives of Knowledge │資料│ アメリカにおける獣医学教育(文部科学省在外研究員留学報告) 山田一孝(帯広畜産大学畜産学部獣医学科) 文部科学省在外研究員として 1年間アメリカの U n i v e r s i t yo fC a l i f o r n i a,D a v i s (UCD a v i s ) に留学す る機会を得た アメリカでの 1年間は,本来研究に専念するために与えられた時間ではあったが,アメリ カの獣医学教育や臨床の現状について垣間みる機会にも恵まれた.研究成果は学術論文で報告することと して,本稿では,私が見たアメリカにおける獣医学教育について紹介したい. ントに忙しい.毎日,平均して小動物 7 5頭,大動物 U n i v e r s i t yo fC a l i f o r n i a,D a v i s,V e t e r i n a r yMedi c a lTeachingH o s p i t a l (獣医教育病院) 0頭が入院しており,診療科ごとに入院室を持つ. (馬) 9 治療に際しては,まず獣医師から検査および治療費用の UCD a v i s獣医教育病院には 27の臨床講座(表1)が 0 0人(後述す あり,診療業務を担当している.教官約 1 見積もりが提示される.血液検査, X線,超音波など検 査費用についてクライアントは了解済みなので,積極的 るがマンパワー約 50% が診療業務に従事),レジデント に検査ができる点で仕事はやりやすい.費用を理由に積 0人,テタニシャンおよび事務職員は (有給研修医)約 8 極的な治療を渋るクライアントは大学病院ではご遠慮で 約2 50人,総勢 400人以上から構成される病院である. ある. 獣医教育病院案内の冒頭に, I 本獣医教育病院は教育 私が所属した放射線科は, X線,超音波, CT ( 図1 ), と研究を目的としており最高の治療を提供しますが,費 MRI ( 図2 ),核医学検査(図 3 ) による診断を業務と L 用と時間を要します.診療費用は開業医と比較して安く ており,教官 6人,レジデント 5人,テタニシャン 9人 , はありません.Jと述べられている.年間の診療頭数は タイピスト(口述した読影所見をタイプする人) 2人の 3, 500,猫 3, 300,馬 4, 900,エキゾチック 1 , 200,そ 犬1 計2 2人からなる組織である.放射線科で 1日に扱う症 の他(牛,山羊,羊,豚) 1 , 500頭で, 2000年度の売り 例数は小動物 X線 4 0頭,小動物超音波 20頭,大動物 X 5, 917, 207ドル(約四億円)である.病院運営 上げは 1 線1 口頭, MRI2頭 , CT3頭,核医学 2頭ほどである. 費の 65%を病院独自の売り上げで賄い, 35%について 日本の大学の多くは獣医放射線学は外科の一部である カリフォルニア州からサポートを受けている. UC が,アメリカでは放射線科の役割肋ミ確立している.動物 Davis獣医学部では,基礎獣医学の教官が約 90人,臨 00人である(帯広畜産大学は基礎教官が 床教宮が約 1 病院の求人広告にも, 1 8人,家畜病院専任教官を含め臨床が 1 4人).基礎の教 をたてること治宝できる. I 放射線専門医求む!Jといった ものがよく見かけられ,放射線専門医は読影だけで生討 官も獣医教育病院から材料の提供を受けるため,獣医教 CTや MRIによる断層画像検査は日常の診療の一貫に a v i s 育病院との関わりが深い.このことからも, UCD 組み込まれ,欠かさざる検査手段としての地位を築いて の獣医学部は,基礎,臨床にかかわらず獣医教育病院を いる.これら検査により,脳腫擦のルールアウトや前庭 中心に物事が進んでいる. 疾患と中枢神経系疾患の類症鑑別に利用されている.検 カリフオ 1レニア州の面積は日本とほぽ同じで,人口は ) は日本の病院に比べると高額であり,頭 査費用(表 2 3, 200万人(日本の約 1 / 4 ) である.カリフオルニア州 部 MRI検査は 735ドル(麻酔費用除く)であるが,そ a v i s市の人口は 6万人.いわゆ 唯一の獣医学部のある D る地元とは Y olocounty (帯広でいう十勝)で,人口は 表1 U n i v e r s i t yo fC a l i f o m i aD a v i s獣医教育病院診療科 1 5万人.帯広畜産大学のある帯広市とほぽ同じ規模で 麻酔科 酪農科 ある.受診動物は Y olocountyから約 45%,D a v i s市 内からが約 30%である.まれに州外からの受診動物も 馬外科 免疫微生物科 腫蕩科 霊長類科 小動物外科 いたが,半分近くは地元の受診動物である. Y oloc o u n - t yには 2 2の開業医があるが,大学病院における受診動 物のほとんどが開業医からの紹介であることからも,開 業医と大学が競合することはない.診療はすべて予約制 である.そのため暇な日や特に忙しい日がなくコンスタ 2 5 9 行動学科 循環器科 歯科口腔皮膚科 外科 魚病科食用動物内科 馬内科 食用動物外科 限 科病 理 放射線科 小動物救急科 獣医生殖 エキゾチック科 器科 臨床病理科 馬繁殖科 実験動物科 神経科 家主ん科 小動物内科 表 2 おもな診療費用 ( 2 0 0 1年度, 1ドル=1 2 0円) 般 X線搬影 脊髄造,; 腹部超音波 超音波ガイドバイオ プシー c r :illd~ C T CTカ イドノ〈イオフー P ンー M悶 図 1 X線 CT 検査庫 鳴の CT検査も日常診療の一環に組み込まれている 馬は平均して迎に 1症例の検査が実施される 2 2 5ドル ( 2 7 . 日目 円) 3 5 5ドル ( 4 2 . 6 0 0円)+造影剤 660ドル ( 7 9 . 2 日3 円) 7 3 5ドル ( 8 8 . 2 0 0円) 核医学 他施設で搬影した阻 像のi B ' e 影 診察費 丈入院 1日 吸入麻酔 : i t 70-135ドル ω.000-16.2∞円) 時間外一体 1 0 0ドル 0 2 . 0 0 0円)追加 3 3 0ド ル ( 39β0 0 ' 1 ' ' [ ) 1 3 0ド ル ( 1 5 . 6 0 0円) 1 6 5ド ル ( 1 9 . 8 0 0円) 手 術 肝内門脈i シャント 開頭手術 椎弓切除 生 体T f移植 避妊手術 ( 麻酔, 入院を含む) 安楽死 造 影 律7 5ドル ( 9 . 0 0 0円)追加 1 4 0ド ル 06.8日3円) 5 0ド ル ( 6 . 0 0 0円) 30-50ド ル ( 3 . 6 0 0 6 . 0 0 0円) 29-120ド ル ( 3 . 480-1 4 . 4 0 0円) 100-290ド ル 02叩 0-34.800円) 緊急一律55ドル ( 6 . 6 0 0円)追加 時H J I外一体1 6日ドル ( 1 9 . 2 0 0円)追加 8∞ドル 9 4 0ドル 8 8 0ドル 2 . 8 0 0ド ル 85ドル ( 9 6 . o o 0[ I [ ) ( 1 1 2 . 8 0 0円) ( 1 日5 . 6 0 0内) ( 3 3 6 . 0 0 0円) ( 1 0 . 2 00円) j 眠 不 サ ~t~ 'LT の下で学生が執万するためである 日本の大学附属 病院と予算システムに違いがあるが,私が強く感じたこ 図 2 MR I 検査風景 磁場強度は 0.4テスラの低磁場 , t I '' 電導型装世.写真の 受診動物は水族館より搬入された s e al i onである とは高度獣医療にはコストがかかるということである. これだけのコストをクライアントに分担してもらうこと で設備投資,人 f ' l貨を補うことができ,高水準の獣医療 を提供しているのである 税金でユ運営されている日本の 大学附属病院が街の動物病院と価格競争をしていては, 以医学の発展は厳しい. 獣医教育病院ではレジデントの貢献が大きい レジデ ントは,放射線科では放射線専門医を目指す 4年間j のプ ログラム(大学によっては 3年) に在籍中の研修医であ る.初年度は小動物の X線読彩と超音波, 2年目で大動 物の読影と核医学, 3年目で MR Iと CT,最終学年で画 像診断全般を担当する 5人のレジデントは交替で夜間 時間外当番とは何 と土日の当番をもっ.きて,放射線の l をするのであろうかつ である [ 2 [ 3 核医学検査 f 去の馬 受診動物は検査後専用の隔離入院室で管理され また,レジデントは診療ばかりではなくマン パ ワーの 20%の研究テーマも持つ.レジデントは専門 医 る れでも毎日検査の症例がある まさに緊急忠者の読影をするの の資格試験にむけよく勉強するし,それにもまして感心 獣医教育病院の診療費用 するととは,ここ UCD a v i s獣医教育病院では,獣医師 が高いことは,高度獣医療を期待するクライアントのみ 免許をもったレジデントを 4年間飽きさせないだけの症 を対象とする結果でもある 避妊手術が麻酔,入院を含 例数と知識の泉がある.これは,何よりも教官がレ γ デ めておドルと低価格である理 由 は,教育目的で教官の ントに教え続けるだけの勉強をしているということに他 260 表 3 放射線科での診療の流れ l 2 3 4 ることはない.役割分担という考え方が11/賦しているこ 各診療科から検査依頼 テクニシャン浩司最影 レジデントが読影所見をカセットテープに録音 ただちにタイピスト力者テープおこし,プリントアウト i si s ap r e l i m i n a r yr e p o r tw h i c hh a sn o ty e t Th 酔は麻酔科が担当するため,放射線科の獣医師は麻酔に r e c e i v e df i n a lr e v i e w 対して責任を負わず読影に専念できる.医学部をみれば この時点での診断をもとに治療は進行する. 5 . 翌朝のラウンドで教官がレビューしサイン 6 . タイピストが修正1.-,最終記録としてサーバーに残る とは,サッカーよりもアメリカンフットボールが盛んな この国ならではであろう.プロ野球でいう指名打者制度 もアメリカらしい発想である. MRIおよび CTの際も麻 明らかであるが日本の獣医学にも麻酔科医は必要であ る.動物だから麻酔にマンパワーを必要としない理由は なく,日本の獣医学領域に麻酔の専門医の導入を提案し たい. ならない. 実に不思議なことにアメリカの犬はおとなしい 従順 放射線利の一日は朝 8時の「ラウンド」と呼ばれる症 でよく命令を聞く . X線撮影では [ 'ComeOnJ といっ 例検討会から始まる.ラウンドで前日のレジデントの読 ' S t a y Jと て撮影台を叩くと犬は撮影台に飛ひ、乗る L, [ 影所見が教官のレビューを受けて最終記録となる.複数 命令すればじっとしている.信じられないが本当の話で の教官が検査結果に目を通すことで誤診の可能性が低く ある なる.レジデントは昼休みもとらず 5時まで座ることな えることもなくサンドパックで保定するだけであった. く働く.そして夕方 5時にパタリと診療を終え速やかに 超音波検査では 20分もの問仰臥でおとなしくプロープ 毎朝のラウンドの他に,週 1回読 をあてさせる.講義室のドアには犬立ち入り禁止のサイ 影練習会が開催される.放射線科専門医とレジデントの ンがある.それでも授業にはいつも犬がいる.犬も吠え 当番へと切り替わる ほとんどの症例は鎮静を必要とせず,人の力で抑 総勢 1 1人がそれぞれの解釈について議論する場は壮絶 ることなくおとなしく授業を聞いているのである.多く である.放射線の専門医でありながら常にブラッシュ 7 の家庭で犬か猫が飼われており(人口当たりの犬・猫の 7プの機会にさらされている. 飼育数は日本の約 5倍),動物に対する思い入れは格別 放射線科での診療の流れを表 3に示す. に深いようである.ケーブルテレピにはペットチャンネ 記録(臨床経過,検査結果,請求額,見積額,支払い ルたるチャンネルがあり,日本でいう「動物病院 2 4時」 状況)はすべてひとつのサーバーで一括管理されてお のような番組が一日中放映されていた さらに,アメリ り,病院内はもちろんパスワードさえあれば自宅からで カでは獣医師の社会的地位も高く報酬もよい.カリフォ もインターネット回線を介して情報をみることができ J レニア州における小動物病院の新卒獣医師の年収の相場 る 記録はクライアントからの要求があればクライアン は 4万ドル ( 4 8 0万円), 1 0年目の勤務獣医師で 8万ド トに手渡す.記録の最後には「かわいいドロシーはとて ル (960万円)とのことである.教育に要した費用とク も協力的でした.私たちはドロシーのことが大好きで ライアントに対する責任を考えると当然のことであろ す.もし今後何か問題があったら遠慮なく連絡して下さ う.アメリカに来た当初は, ['なぜ日本とアメリカの獣 いJ['ラッキーを助けることができなくてとても残念で 医学はこれほど違うのか す.今回は私たちを信頼してくれてありがとうございま があった.クライアントの治療に対する積極性,犬の態 したJ といった文章で締めくくられる. 度,後述する学生の勉学態度,獣医師の社会的地位,何 日本の大学附属家畜病院で学生がこなしている雑用を UCDavis獣医教育病院ではテタニシャンが行う.ここ ? Jについて頭を悩ませたこと から何まで違うのである.これは国政によるものばかり ではなし文化的な差によるところも大きい. では学生はお客様で学生のマンパワーは期待されていな い.つまり,学生がいないと擬影ができなかったり,学 アメリカの獣医学教育 生の授業が終わるのを待って脊髄造影を行うことはな アメリカの獣医学部は 4年制大学卒業後のプロフェッ い.日本の大学病院の現状では X線写真現像,血液検査 ショナルスクールとしての 4年間の過程である.つま や調剤は学生が,ときには教官が行う.本来であれば学 り,獣医師免許取得には日本では高校卒業後 6年間の教 生は勉強に,教官は教官でなければできない仕事に専念 育が必要であるが,アメリカでは高校卒業後 8年間の教 するべきである.診療においても役割分担が確立してお 育が必要とされる.アメリカでの獣医学教育は,まさに り,獣医師がテタニシャンの仕事に手を出すことはな 今日本が目指している獣医学教育の姿そのものであろ い.撮影はテクニシャンの仕事,獣医師は読影が仕事で う.競争率約 1 0倍の難関を突破して UCDavis獣 医 学 ある 部に入学した 120人の学生は,小動物,大動物(馬), もうひとつの役割分担として脊髄造影に際して撮 影と読影は放射線科で,脊髄腔穿刺は神経科で,麻酔は 食用動物(おもに酪農牛),エキゾチック,混合のコー 麻酔科で行う.放射線科医は読影に専念し直接動物を診 スのいずれかのコースを選択する.人数はそれぞれ 69, 2 6 1一 一 一 ? Jから ? J学生が一斉に 5 .3 .1 .3 3人 ( 1 9 9 9年度卒業生 1 1 1人)で,半数以上 では「この X線像は正常ですか? 異常ですか の学生が小動物のコースを選択している.いずれのコー 始まり. i 次にどの検査が必要ですか スを選択しても国家試験は同一である.ちなみに授業料 「超音波!Jすると先生が「ごめんなさい.今,超音波 はカリフォルニア州出身者で年間 9 . 2 5 0ドル ( 1 1 1万 が壊れています.何をしますかっ 1 . 7 0 5ドル ( 2 6 0万円)である. 円).州外出身者で 2 った具合である 1年生の授業でも学生が X線像を読み 「気胸!Jとか「脊椎症 UCD a v i sでは獣医学部 1年生から放射線学を履修す る.その理由として, Ji 二重造影!Jと言 ! Jと回答する. 3年生の授業と もなると,学生が「この症例は核医学の適応かけとか ? Jなどの 1.画像には触れる機会は多いほどよい 「条併を下げれば骨片が見えるのではないか 2 . 繰り返すことで記憶が確かとなる. 質問が普通に飛ひ交う.熱心な学生は自分のポインター 3 . 解剖をはじめ基礎の科目と平行して学ぶことで臨 を持って来て自らスライドを指示して質問する.学生は 床と基礎がつながり理解が深まる. 教官からの問いかけによく答えるし,冗談に対してよく 4 . 講義で読影を学び,病院での臨床実習で使う. 笑う.参加していて授業が実に楽しいのである.出欠を とらないにもかかわらず,朝 8時からの授業に遅れてく という考えである. X線W I剖学の授業では,無味乾燥な解剖学用語をただ る学生もいないし,寝ている学生も 1人もいない.残念 ひたすら暗記させるのではなく,解剖!と放射線像と臨床 ながら学生の学ぶ態度も日本とは違う. の疾患、を関連させて教える.たとえば,後肢骨格の授業 3年間講義を受けた後,学生全員が最終学年の一年間 では股関節脱臼を,脊柱では椎間板ヘルニアを,非選択 合計 37週間のスケジュールで各診療科をローテーショ 的血管造影で循環器の生理や動脈管開存,心室中隔欠損 ンし,密度の濃い臨床教育を受ける.このシステムは日 までをも同時に教えるのである 本の医学部の制度と同様である また,授業用のスライ たとえば小動物を専攻 ド,画像フィルム,プリントは放射線科の備品としてあ する学生は,臨床病理 ( 1週).病理 ( 2週).麻酔科 ( 2 り,さらに,学生用 7イルムリーデイングルームでは, 週).救急 ( 2週).集中治療 ( 2週).内科 ( 7週).外科 授業でスライドに示されるフィルムが秋コース第何回目 ( 6週).放射線科 ( 2週)が必修の履修平ー目である.ま の授業の 7イルムと書かれた封筒に入っており,学生は た,選択必修として 6診療科(循環器科,歯科,皮膚科, いつでも問覧することができる.これらの材料は放射線 神経科 .n 重傷科,限科)の中から 3診療科をそれぞれ 2 科の教官であれば誰でも使うことができ,基本的には教 週履修し,その他に選択科目を 7週履修する.放射線科 材 官の誰でも同じクオリティーの授業が可能である. i は毎 2週ごとに 6人の学生がローテーションに加わる. 料はたくさんあるが授業する時聞がない」とはなんとも ここで学生は 羨ましいかぎりである.教官はもちろんレジデントから 日巡回する.驚いたことに夏休み期間中にも,多くの学 i x線撮影J .i x線読影J .i 超音波Jを毎 テタニシャンまで全員体制で教育にあたる.放射線科だ 生は希望 Lてローテーションに加わるのである. i 授業 0人の体制であり,質のみならず数の面からも けでも 2 料払っているのだから学べるだけ学ばないと損 j といっ 日本とは圧倒的な差がある.レジデントも授業を行う機 た考え方であろうか.内科と外科のローテーションの学 会があるが,ここでレジデントは教育能力について諮ら 生はそれぞれ自分の担当する患者をもっ.服装に関して れ,後の進路についてセレクションを受けているように カジュアルなカリフォ J レニアであるカえクライアントと も感じる. 接する学生はネクタイに革靴である.ここで学生はクラ 4年間の放射線科の教育は 1年から 3年生までは読影 イアントから菓告をとるところから訓練を受ける.在、は が中心で,授業の形式はいわゆる通常の「レクチャー」 帯広畜産大学の学生にクライアントと責任のある会話を デイスカッション」という 2人で行う授業の の他に. i a v i s獣医教育病院では「ここまでさ させていないが, D スタイルがある.日本で行っている実習形式の授業はな せるかリと思うほど,学生とクライアントが話をす く,動物の保定や特殊 X線検査手技は最終学年の 4年次 る.どこまで許されているのか? 学生によって許容範 の臨床実習で学ぶ. i レクチャー」形式の授業では,そ 囲が違うのか? 詳細はわからないが,学生が裏告をと 1 ) 撮影方法. ( 2 ) 正常解剖, れぞれのテーマについて ( るばかりではなく,治療方針や予後ついて説明している ( 3 ) 疾忠例について講義を受ける.また,正常バリエー 様子には驚く.学生は臨床実習を楽しんでいるようであ ション,未成熟動物の画像,代替検査,類症鑑別,治療 る 法,その疾患に関連した話題が豊富で,毎週毎週,学生 教育,研究と診療のバランス を飽きさせることがない. i デイスカッション」形式の 多くの臨床教官は勤務日数の 50%が診療. 50%が研 授業はまさにテレピ番組の「笑っていいとも」を思い起 こさせる 教官は授業をインターラクテイプに組み立 究に当てられている.そのため「診療が忙しくて研究に て,授業をショーとして演出する. 1年生の学生の授業 手が回らない j という根本的な問題がない.臨床研究は 2 6 2 実際に診療をしていないと実践できないことは疑う余地 上するであろう. のないところであるが,ここでは診療と教育,研究を両 日本の獣医学教育への提案 立させることができる体制があった.教官たちは,症例 が集まる一発表するー予算が付く 症例が 当初,私は刺激を受ける気持ちでアメリカに行った 集まるというよい循環に自分たちがいることをよく知っ 道具を買う が,実際は UCD a v i sの獣医学教育の充実ぶりには衝撃 ている.専門領域は狭いが,基礎研究から臨床へのフィ を受け続けた.社会と獣医学の関わり方があまりにも違 ードパックまで研究を総論で理解しており,マウスの笑 うため,アメリカで行われている「臨床」をそのまま日 験を「臨床と耳障離した基礎実験」と軽く位置づけること 本の獣医学に導入することは難しい.しかし,なんとか はない 大学教官一人一人の能力は日本人もアメリカ人 してアメリカの「獣医学教育」を日本に輸入できないも とさほど変わらないはずであるが,チームワークの巧み のであろうか.もちろん,それには「お金」が必要であ さは異なる.ここでは MRIで実験する場合は NMRの る.授業で使われるスライドやテキストを見て,これを . 実験動物を使うときは実 専門家がマンパワーを供出 L 完成させるのに莫大な時間と労力を要したことは容易に 験動物の専門家が,神経をテーマにするときは神経科の 想像がつくからである.獣医学教育の充実を日本囲内の 獣医師がマンパワーを供出する.そしてお互いがお互い 努力だけで解決するよりも,グローパルな視点で,すで を利用し,共同研究を行う に海外に存在する材料を利用したいものである.たとえ 日本の国立大学臨床講座では教授,助教授,助手それ ば,交通費,滞在費と労力に見合う講演料を準備するこ ぞれ l人の体制で. I 消化器j から「循環器JI 神経」ま とで非常勤講師として海外の専門家を招くことは実現可 で,しかも「大動物」から「小動物」までカバーしてい 能ではないか.その際,学生が一方的に講義を受けるの る 外科教官の場合はマンパワーの点で事態はなおさら ではなく,大学教官が聞に入り,教材(スライド,プリ 一層深刻である.今,日本の獣医学教育は過渡期を迎え ント)の翻訳など授業の理解を深める役割をすれば,教 ている.欧米の獣医学教育と同等の水準に近づけること e l e 育のソフトウエアが日本の大学にも残る.また, t が目標である それには東京大学の唐木先生がホームペ r a d i o l o g y (遠隔獣医療)を利用することで,手軽に専 ージ上で,日本の獣医学教育をアフリカのダイアモンド 門家の診断を導入すれば,日本の獣医学レベルの向上に に例えて説明されているよう,スケールメリットの考え 貢献することは間違いない. 方が重要である.日本の獣医学教育機関は規模地刈、さい また,多くの日本人が研究を目的としてアメリカに留 ために十分な教育が施せないが,これらが集まれば教官 学に来ている はそれぞれの専門性に専念できることになりスケールメ 臨床を学ぶというよりも論文を書くことが留学の主たる リットの役割j が果たせる 医学部の日本人留学生においても同じく ここで大切なことは,日本で 目的である.私自身,在外研究員として研究を目的に 教官 3 0入学生 30人体制の規模をただ大きくしただけで UCD a v i sへ来た.アメリカに来た当初は,研究と臨床 は,現状よりはよいであろうが獣医師免許をもった教官 と明確に区別はしていなかった.研究と臨床は関連して が動物の撮影,現像,さらには血液検査をする状況は変 いることは事実であるが,限られた期間に達成すべきも わらない.欧米なみの臨床の充実を図るのであれば,教 のとしては明らかに別物である.英語の不得手な日本人 官数と学生数の比率とともに,レジデントやテタニシャ でもアメリカで論文を書くことはさほど難しいことでは ンの数も考慮に入れる必要がある. ない.しかし,臨床の現場で専門用語とスラングが大声 驚いたことにアメリカの大学では,年齢やポジション で飛び交う中,臨床を学ぶことは困難の極みである.正 にかかわらず教官によって給料が違うとのことである. 直なところ,病院から家路につく時はホッとしたもので 人材が企業に流れないように俊秀な教官には業績に応じ ある.大変な労力を伴うことではあるが,日本人が将来 た給料を払うとの説明である.カリフォルニア大学に の日本の獣医学向上のためにアメリカで専門分化した臨 は,企業からヘッドハントされて来る教授もいるとのこ 床獣医学を学ぶことも大いに価値のあることだと思う と.日本でも企業の研究所で結果を残した人材,たとえ これからの獣医学教育の充実に向けて,若手獣医師がア ば製薬企業安全性研究所の所長を毒性学講座の教授とし メリカの大学で研究ではなく臨床を学ぶプログラムを提 て大学に迎え入れることがあれば,大学の研究基盤も向 案したい. 2 6 3
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