佐田岬半島は発電風車地域 青春18切符で見学

佐田岬半島は発電風車地域
青春1
8切符で見学
市民エネルギー研究所 井田 均
時刻表を見ていた。四国の西端に佐田
36分品川発のムーンライトながら9
1号。
岬半島があり、そこから九州にフェリー
列車で日付けが変わる小田原までの切符
が運航している。乗ってみたいと思った。
は別に買っておく。この日の列車は満員
数日後、日本経済新聞に1ページのカ
だった。ビ−ルなど飲みながらウツラウ
ラー広告が載った。発電風車が数基写っ
ツラ。
ている大和ハウスグループの広告で、
朝の5時55分、終点の大垣に着く。す
「四国最西端の愛媛県佐田岬で、豊かな
ぐに接続する鈍行列車に乗る。この列車
風を利用しています。同じ社会に生きる
はわずか4両なので10数両あったムーン
一員として、自然環境を守ります」と
ライトながら91号の客の大部分は立った
あった。
まま。私は列車のスミにへたりこんでい
この年(2007年)は JR が発足して20
た。米原で乗り換え。大阪、加古川と通
年で、例年この季節に発売される青春18
過するうち、日は昇り昼の気配。相生、
切符が、例年の5日間1万2700円よりや
岡山と移動する。岡山で瀬戸大橋線に乗
すい8000円で購入できる。この切符を利
り換え、茶屋町へ。ここで宇野線に乗り
用して佐田岬半島に行こうと思った。
換え宇野へ。宇野港で不味いカレーを食
大和エネルギーに電話する。大和グ
べ高松行きのフェリーに乗る。高松港に
ループが建設した風車は、三菱重工業製
着いたのは4月1日の午後2時半過ぎ
の1000kW 風車9基で、前年2
006年の12
だった。さすがに疲労の色が濃く、高松
月20日から四国電力に売電しているとい
駅近くのビジネスホテルに倒れこむ。
う。また同じ写真の遠方に写っている風
翌日は四国内を移動しただけで終わっ
車数基は、地元自治体の伊方町の第三セ
た。高松は四国の東の端では無い。そこ
クターが建設したものだという事も聞け
を朝の9時前に出て、乗り換えを続け、
た。伊方町にも話が聞けた。
西の端の八幡浜に着いたのは夕方4時半
だった。
一日で四国の高松まで
ホテルから伊方町の担当者に電話する。
青春18切符が18歳を超える人でも使え
風車を見学するのに1日に3本しかない
る事はいわずもがなである。切符の販売
路線バスを利用してでも可能かどうかを
は春は3月中だが、使えるのは4月10日
確認するためだ。取材の後は、佐田岬半
までだ。
島の突端に近い三崎港から九州の佐賀関
東京を出たのは3月31日の深夜、23時
までフェリーに乗りたい。
−7−
風車は人里はなれた僻地に建
設される事が多い。バスがある
ことは稀でタクシーを使わざる
を得ないケースがほとんどだ。
電話に出た担当者は、バスだ
と停留所から2、3 km 歩かな
ければならない、と言う。しか
もタクシーを使って三崎港まで
行っても、せいぜい5、6千円
だと言う。貧乏旅行の禁を破っ
てタクシーを利用してもいいか
大和グループが建設した1
000kW風車群
な、と思わせる話だった。
だ。初乗り料金は10円違うだけだが、料
タクシーを奮発
金全額では相当違うだろうとの判断から
翌朝は、バスが八幡浜駅前を出る9時
だ。乗ったタクシーの運転手は1台目の
54分より1時間前にホテルを出た。駅前
運転手に仁義を切って走り出す。
の並んだタクシーの2台目に乗る。1台
「発電風車がたくさん見える所まで」
目が中型車、2台目が小型車だったから
と言う。運転手は、伊方原発の見学を勧
−8−
めるが断る。しばらく進む。右へ曲がる
ぶ。その右には八幡浜へと続く海が広
と伊方原発と言う地点を通過。もっと進
がっている。
むとはるか彼方に風車が見えた。それを
振り返ると、半島の先の方角に、先ほ
通り過ぎさらに進む。
ど見た大和グループの9基の三菱重工業
「風車の方にも行って下さい」「はいよ。
製風車を手前に、多数の風車が見える。
分かった」
写真を撮る。
車は半島の先へ進む南側の道から外れ、
さあ、もういいだろう。タクシーに乗
半島の背骨へ登る道へと入る。風車を建
る。ふとメーターを見ると7000円近くに
設するための道かとも思ったが、それに
なっている。三崎港までの半分は来たと
しては使用開始後の年月を感じさせる。
思うが、このままだと料金は1万円を超
えるだろう。伊方町の職員の情報とはか
風車群を撮影
なり差がある。
少し行くと、前方に10基前後の風車が
内心のアセリを隠して、
「近くのバス
固まって立っていた。タクシーを降りる。
停まで」と言い、バスの待ち時間が1時
写真を撮りながら歩いて行く。あ、大和
間以内であることを確かめ、川之浜口と
グループの風車だ。ナセルに赤い丸が描
言う停留所で降ろしてもらう。
いてある。8基が見えた。いや、9基の
停留所は海岸べりだが、入り組んだ地
はずだ、とよく見ると、1基だけ離れて
立っていた。
ひとしきり写真を撮り、再びタクシー
に乗る。少し行くと看板。
「風のまちか
ら」「せと風のパーク」とあり、左方向
へ「←」が描いてある。当然タクシーは
左折。短い登り坂を経て開けた広場ヘ出
る。ここが「せと風のパーク」だ。タク
シーを降りて歩く。さらに細い道を上る
と、見晴らしの良い高台へ着く。東の半
島の根元の方向に10数基の風車が見えた。
一基のタワーには大きなカブトムシの絵
が描いてある。三菱重工業製の1000kW
風車であるのは間違い無い。これらは伊
方町の第三セクターが建設・所有してい
るものだ。佐田岬半島の付け根に向けて
せと風の丘パークから東を見るとたくさんの風車
が見えた
次第に高度を下げながら11基の風車が並
−9−
形で海とは距離がある。北側
には山が迫り、山の上には先
ほど見た大和グループの9基
の風車が並んでいるのを見上
げる事ができる。写真を撮る。
やがて来たバスに乗ると、
400円の料金と数十分の時間
で三崎港まで行けた。
フェリーの中からも風車が
やがて来たフェリーに乗船。
船内でぼんやりしていると、
三崎港から乗ったフェリーから見えた三崎ウインドファーム事業の
1000kW風車群
見えた佐田岬半島の尾根の上
に風車が並んでいた。あわて
て甲板に出る。
そこから2 km 西へ行った地域に東京
全部で20基もの風車が並んでいる。
のユーラスエナジーが計画中のスペイ
フェリーの速度は比較的ゆっくりで、落
ン・ガメッサ社製2000kW 機4基を建設
ち着いて撮影する事が出来た。風車群は
する瀬戸ウインドファーム。これはユー
佐田岬半島の先端にある灯台の近くまで
ラスエナジーに確認した所、2007年の5、
続いていた。
6月完成予定で建設中だという。
東京へ戻ってから伊方町に聞いたとこ
さらに、せと風の丘パークの東方500m
ろによると、この20基の風車群は、伊方
の地点に、伊方町直営で建設する850kW
町の第三セクター、三崎ウインドパワー
風車2基の計画がある。これはデンマー
株式会社が、三崎ウインドパーク事業と
クのベスタス社製を予定している。半島
して、2007年3月1日から四国電力へ売
の東側付け根のやや北に寄った地域には、
電を開始したばかりだという。
芦原製作所が伊方ウインドファーム事業
佐田岬半島を持つ伊方町には、建設
として、2007年5月に着工予定のドイツ
中・計画中を含めると全部で60基の発電
のフライベラー社製1500kW 風車12基の
風車があるという。
計画がある。あと、道の駅に1
000kW 風
内訳はまず、せと風の丘パーク周辺に、
車1基の建設計画があり、これらを合計
大和エネルギー建設の9基を含め20基。
すると20基になる。
大和エネルギー以外も、全て三菱重工業
それと佐田岬半島の先端部に近い地点
製の1000kW 風車で、2005年10月から売
の三崎ウインドパークの2
0基。
電を開始している。
総 計60基 の 発 電 能 力 合 計 は 6 万
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9580kW。年間1億7
700kWh の電力を生
へと拡大した。2000年度末には2875kW、
み、一般家庭の年間消費電力量で計算す
2001年度は建設が無く、2
002年度末には
ると、約4万1800世帯分を賄う、と伊方
3155kW、2003年 度 末 に は 1 万5
655kW
町では説明している。
へと増加。2004年度末は1万7355kW、
2007年 現 在 で 日 本 最 大 の ウ イ ン ド
2005年 度 末 に は 一 挙 に 3 万7355kW、
ファームは福島県の布引高原ウインド
2006年度末にはさらに7万8355kW へと
ファームの6万5980kW だから、佐田岬
拡大した。
半島は、1つのウインドファームではな
この他、建設中のものが4万5000kW
いとはいえ、1地域としては我が国最大
あり、四国電力の供給区域外だが、送電
の風車集中地域であるといえる。
線の関係で四国電力へ送られて来る淡路
総計60基、7万 kW 近い発電能力。送
島南部の3万7
500kW が、2007年5月に
電線に不安はないのか、訊ねてみた。
送電開始予定だという。この間、2005年
答えは伊方原発だという。
3月からは事業計画の受付を中止してい
原発の送電線の容量に比べれば、風車
る。
が作り出す電力量など多寡が知れている
2006年11月にそれまで出されていた事
のだろう。原発の安全性に疑心を持つ私
業計画の中で、中止になってアキが出来
としては複雑な心境だ。
た3万 kW について、2007年2月に募集
フェリーは佐賀関港に着く。バスで
の説明会を開き、9月から10月にかけて
JR の幸崎駅へ。この日は下関まで。翌
募集する。
日は滋賀県の琵琶湖のほとりの大津まで。
発電した電力の買上価格については、
東京に戻ったのは、予定通り5日目の夕
相対で決めていた。2007年秋に募集する
方だった。
3万 kW については、2万 kW を入札、
1万 kW を相対で決める方針だという。
四国電力に話を聞く
四国電力は、風力発電の拡大に熱心だ
東京から四国電力に電話で聞いた。
とは言いがたいが、少しずつ広げている
四 国 電 力 の 発 電 規 模 は6
86万1000kW
という印象だ。
(2006年3月末)。風力発電はその3%に
今回四国を旅してみて、車窓から民家
相当する20万 kW に制限している。北海
の家々に太陽光パネルをたくさん見た。
道電力が1999年に入札制度を導入した時
四国の人々はエコ・エネルギーに好意的
と同じ数字だ。だが北電はその後5%へ
だとの印象を持った。四国電力がほんの
とワクを拡大している。
少しだけ拡大への姿勢を示せばなあ、と
四国電力管内に発電風車が最初に建設
思った。
されたのは1995年の250kW。その後3年
間は建設がなく、99年度末には1450kW
−11−