Clinical Case Study Genetic Testing for Developmental Delay: Keep

Clinical Case Study
Genetic Testing for Developmental Delay: Keep Searching for an Answer
David T. Miller1,2,4,a, Yiping Shen1,4, David J. Harris2,4, Bai-Lin Wu1,4 and Magdi M. Sobeih3,4
1
Department of Laboratory Medicine, 2 Division of Genetics, and 3 Neurolinguistics Clinic/Behavioral Neurology in
Department of Neurology, Children’s Hospital Boston, Boston, MA; 4 Harvard Medical School, Boston, MA.
a
Address correspondence to this author at: Department of Laboratory Medicine, Children’s Hospital Boston, 300
Longwood Ave., Boston, MA 02115. Fax: 617-730-0338; e-mail [email protected].
臨床症例研究
発達障害の遺伝子診断に、答えを求めて
症例
アイルランド系とイギリス系とフランス系の血を持つ 6 歳の女の子が、発育遅延の検査を受けるために、ある
小児神経外科医のところに紹介されてやってきた。彼女は表出性の言語発達の遅滞と、発音の著しい不明瞭さ
を呈しており、家族の話によると言葉を話し始めたのも三歳になってからだったとのことである。正式に検査
(Clinical Evaluation of Language Fundamentals-Preschool)を受けさせてみたところ、5 歳 6 ヶ月の時点で 3 歳 4
ヶ月の子供相当の言語能力しかないことが判明したそうだ。またウェクスラー式幼児用知能検査の結果は、IQ
値 64 だったという。歩き始めたのも 17 から 18 ヶ月目にかけてらしく、運動発達に関しても全体的に遅延が
見られた。発達が退行することはなかったという。彼女の母親と母方の叔父には学習障害の病歴があり、母親
のいとこは先天性脊髄髄膜瘤を持って生まれてきたらしい。
彼女は体外受精を経て、合併症のない妊娠の末、満期分娩で生まれた。彼女は生後 10 日で、房室管の先天性
形成不全 1 および大動脈縮窄症が診断され、大動脈の縮窄は即日、緊急手術により外科的に修復された。房室
管の奇形は、生後四ヶ月になった時点で外科的に修復された。彼女には粘膜下口蓋裂の患者によく見られる口
蓋垂裂が見られ、また食道影を行ったところ嚥下障害も見られた。嚥下障害のため、彼女は食欲不振に陥り、
誤嚥もしばしば見られた。乳児の時点では彼女は挿管による合併症と見られる真性の声帯麻痺も患っていた。
また、胃食道流が発症したため、彼女にはラニチジン(ザンタック)が投与された。そして生後 7 ヶ月で、尿
路の感染症にかかり、回復後も後遺症と見られる軽度の膀胱尿管逆流をしばらく患った。ただ、自閉症の可能
性を示す発作等の病歴は、(言語発達障害を除き)まったく報告されていない。
1
彼女の身体検査において特に目立った特徴としては、両眼隔離症を思わせる離れた目、球状に膨らんだ鼻、高
いアーチのある口蓋、そして小指の斜指症などが挙げられる。彼女の神経外科医が MRI で確認したところ、
脳梁の軽い菲薄化、および側脳室と第三脳室の隆起が見られた。どれも非特異的な所見であった。彼女が生後
間もない頃、彼女の心臓の奇形や発育障害の原因を突き止めるべく、いくつもの遺伝子検査が行われた。彼女
には先天性房室管形成不全と大動脈縮窄症の病歴があるため、22q11.2 染色体の微小欠損によって引き起こさ
れる 22q11.2 欠失症候群(またの名を軟口蓋・心臓・顔症候群)の疑惑が浮上した。22q11.2 染色体の FISH 法
(蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法)の解析結果は、正常と出た。追って核型の G バンド染色検査、ヌ
ーナン症候群の検査(遺伝子 PTPN11 の配列解析)、および脆弱 X 染色体の検査などを行ったが、どれも結果
は正常と出た。
彼女が 3 歳になった頃、彼女の専門医は外部の施設に彼女のゲノムのアレイ CGH(Comparative Genomic
Hybridization)解析を依頼した。アレイ CGH とは、BAC(細菌人工色体)のクローン 2600 個を使用し、 1 Mb
間隔で全ゲノム領域を解析するスペクトラル・ジェノミクス社製の手法である。スクリーニングの結果、クロ
ーン RP11-1K11 番の 8p23.2 領域(chr8: 4 596 114–4 755 793; human genome build 18)から、クローン RP1123H1 番の 8p22 領域(chr8: 15 027 287–15 191 603; hg18)までにかけて、DNA コピー数の増幅があったことが
判明した。この 8p22p23.2 領域での増幅の規模は、およそ 10.6-Mb 程のものである。また彼女の親のゲノムに
は、8p22p23.2 領域での DNA コピー数の変化が見られないため、おそらく彼女の DNA の変異は彼女の代で発
生したものなのだろう。
その 2 年後、新しく開発された高解像度全ゲノム領域オリゴヌクレオチドマイクロアレイ(244K array G4411B;
Agilent Technologies 社)技術を使い、彼女のゲノムが再度解析にかけられた。この解析でも 8p22p23.2 領域で
の DNA 複製は検知された。だが今回は更に、その病変の規模がちょうど 11.5-Mb のものであると判明し(hr8:
3 969 033–15 475 755; hg18)、第 22q11.2 染色体にも 3.0-Mb の複製が検出された(chr22: 17 086 001–20 131
661; hg18)(図 1)。
2
図 1. アレイ CGH によって判明した、DNA コピー数の変化 (Agilent 244k)
(A), 患者のゲノムの 8p22p23.2 領域複製(矢印)と、過去に報告されている複製の比較対照
(B), 患者のゲノムの 22q11.2 領域複製(矢印)と、典型的な反復性 3-Mb 欠損・複製領域の比較対照。染色体
上の位置は動原体(cen)と染色体末端部位(tel)に対して、相対的に表示。染色体バンドの位置番号は、動
原体から遠くなるにつれて高くなる。尺度は Mb(メガベース)。
3
考察
近年の臨床試験の進歩により、発達遅延や顔面形成異常、そして自閉症スペクトラム障害などの病気の診断の
精度は確実に上がっている。従来、発育遅延を患う子供の多くは、診察においても病歴においても、これとい
った兆候を見せるわけではないため、発育遅延だとハッキリ臨床診断するのは難しかった。今後はそういった
患者の診察には、今回行ったような臨床試験が診断評価の欠かせない要素となることだろう。今回のようなケ
ースに関しては、G バンド核型解析、脆弱 X 染色体解析、アレイ CGH 解析、および神経画像検査などといっ
た臨床試験の使用が推奨されている(1)。
ゲノムのコピー数の変異を検出できるマイクロアレイ CGH 解析は、他のどの臨床試験よりも、今までは原因
不明とされてきた発育遅延や知能発育不全のケースの病状診断を、可能にしてきた。また、特発性知能発育不
全を患う患者の 3、4%は、G バンド核型に異常が見られることが報告されている(2)。ST-FISH 法(サブテロメ
ア FISH 法)を使えば、超微視的な規模での遺伝子複製や欠失を検出することによって、更に診断材料を集め
ることが出来る。ST-FISH を用いた最も大規模な調査では、それまでの解析技術では正常とされてきた核型
11688 件のうち、2.6%の核型に病原性を持つと推定されるゲノム損傷が検出された(3)。
広範囲のゲノム領域を解析できる染色体のマイクロアレイ CGH 解析は、発育遅延や知的障害を患っている患
者に関して言えば、従来の染色体 G バンド法や ST-FISH 法などに比べて、診断率が高いという研究報告が複数
出ている。従来の手法では正常とされてきた患者の核型に、臨床的に関連性があるであろうゲノム領域に絞っ
てマイクロアレイ CGH で解析を行ったところ、多いところで 8%の患者の病原を突き止めることが出来たとい
う(4)(5)。この診断率は、より多くの臨床研究室が、全ゲノム領域のアレイ解析を実施するようになれば更に
上がるだろう。発育遅延や知的障害の患者に対する臨床的感度に関して言えば、マイクロアレイ CGH は数あ
るゲノム解析手法の中でも群を抜いている。ここで、2 つの疑問が生じる。1 つは、このケースの 8p の大規模
な遺伝子複製は、G バンド染色法なら検知できたかもできたのではないか?という疑問で、二つ目は、先の
BAC アレイでも 22q11.2 地点の複製は、検出できたのではないか?という疑問だ。最初の疑問に関しては、臨
床検査において同じ規模の複製がまったく検知されなかったという報告例が出ている。2 つ目の疑問に関して
は、ある調査では隣り合った 2 つ以上の BAC クローンが同じコピー数の変化を見せたときのみ、陽性反応が
出たという調査報告が出ている。おそらくその領域の検査方法や、アレイ解析の実行、および結果の解釈など
に、技術的な限界があったのだろう。
この患者のゲノムには、二つの比較的大きな染色体の複製が特定された。最初のアレイ CGH 解析の結果を考
えると、この患者の学習障害は、この患者の 8p22p23.2 地点の比較的大きな複製によって引き起こされたもの
と考えるのが妥当だろう。この患者においては、8p23.1 から 8p23.2 までの領域の 2 つの反復する複製が、遠
位の複製と重複している。より遠位の多重複製は、言語発達障害、自閉症、および学習障害などと関連付けら
れている(6)。より近位の細かい多重複製は、学習障害のある患者と関連付けられているが、患者の健康な家
族のゲノムにも存在することが知られている(7)。また 8p22p23.2 の複製を持つ患者が、房室管の先天性形成
異常を患ったケースも報告されている。
この患者のケースに見られたような房室管の先天性形成異常は、遺伝的には染色体 22q11.2 の欠失によって引
き起こされることが最も多い。こういったケースの大抵は、メタフェーズ FISH 法によって精査される。だが、
大概複製された遺伝子は、遺伝子の元の位置に隣接しているため、その複製はインターフェーズ FISH などを
行わなければ識別することはできない。ハイブリダイゼーションを使用する、MLPA(Multiplex ligation4
dependent probe amplification)法や、アレイ CGH 解析などといった最新の手法を用いれば、こういった複製は
簡単に検知することができる。実際これらの新技術の躍進により、今までは知られていなかった遺伝子複製症
候群がいくつも新たに発見された。今回の 22q11.2 症候群も、その新しく発見された症候群の一つである(8)。
22q11.2 症候群は、表現度、浸透率ともに可変であり、ディジョージ/軟口蓋・心臓・顔症候群と共通の特徴
をいくつか持つ。典型的な症状としては、両眼隔離症、広い鼻梁、内眼角贅皮(蒙古襞)のしわ、小指の斜指
症、尿生殖器の異常、低血圧、脊柱側湾症、発作、および脳波の異常などが挙げられる。これまで少なくとも
65 件のケースが確認されている(9)。表現型も人によってさまざまで、まったく症状を見せない患者の例も報
告されている。
正式な学校教育を受け始めると、この患者の症状や困難はますます明白になっていった。著しい言語発達の遅
延が、学習障害へと発達していった。彼女にとって授業の内容を理解することは難しく、問題行動も増えてい
くに連れて、多動症候群の疑いもあがってきた。さらに授業で新しいことやる際に、不安神経症が引き起こさ
れることもわかってきた。彼女の症状を特徴づけしていくうちに、これらの症状は知的障害に関して、一次性
のものではなく二次性のものである可能性が浮上した。更なる検査を行ったところ、IQ からすると彼女は軽
度から中程度の精神発達遅延を患っていることがわかった。彼女の症状は彼女の認知障害による二次性のもの
かもしれないが、22q11.2 症候群の患者にも、集中力の欠如、多動性障害、衝動性、および攻撃性などの性状
が報告されている。臨床で向精神薬を処方するかどうか決める際には、こういった根本にある遺伝性の疾患の
可能性も、考慮することが肝要である。
22q11.2 の複製や欠失は、非対立性相同的組み換え(NAHR、Non-allelic Homologous Recombination)と呼ばれる、
隣接する分節状に複製された遺伝子配列の組み換えプロセスにより仲介される(10)。この症候群に見られる表
現型の可変性の理由はまだ解明されていない。考えられる要因としては、22q11.2 近辺の領域に対するほかの
遺伝子の発現への影響、エピジェネティックな因子の影響、および環境の影響などが挙げられる。
患者の病状に対して正しい診断が下せたので、今後の妊娠における再発の危険性の遺伝カウンセリングも行う
ことができた。彼女の両親には、再発のリスクはとても低く、およそ 2,3%であると伝えた。8p22p23.2 の複
製はデノボであるため、本来のリスクは極めて小さいが、生殖細胞のモザイク現象の可能性があるため、この
ような数値となる。リスクの低さを知って安心した両親の間には、その後双子が産まれた。しかし、更に親の
ゲノム解析を行ったところ、母親のゲノムにも 22q11.2 の複製が発見され、再発のリスクは実は 50%であった
ことが判明した。以上のことからも、遺伝子検査の技術の精度の向上は、遺伝カウンセリングに大きな影響を
与え得ることがわかるだろう。
覚えておくべきポイント
・解析結果が患者の様子と辻褄の合うように見えない場合は、さらに詳しく調査すべきである。また過去に発
育遅延の診断を受けた患者も、最新の技法によってゲノムを解析してもらえば、予後に役立てられる情報を得
られることだろう。特に発育遅延の診断を受けていない患者にとって、こういった機会は貴重である。
・染色体のマイクロアレイ解析は、メタフェーズ FISH 検査よりも遺伝子の複製に対して敏感である。たとえ
ば今回のケースでは、メタフェーズ FISH 22q11.2 検査は、遺伝子の複製を検出できなかった(インターフェー
ズ FISH 検査なら検出できただろう)。
5
・低比重 BAC 解析も 22q11.2 の複製は検出できなかったことから、全ゲノム領域をスキャン可能な高比重オリ
ゴヌクレオチド解析も、臨床検査においては貴重な技法であることがわかる。
・今回は不必要な検査を多く行ってしまったため、診断が遅れ、患者や患者の家族にも、余計な負担をかけて
しまった。
・22q11.2 領域の複製や欠失の遺伝性は変則的であるため、22q11.2 症候群の患者の親には(少なくとも表面
的には)症状がまったく現れない可能性がある。
・今回のように一人の患者が持つ複数の遺伝子の病変が特定可能なケースは、それらの遺伝子の持つ影響力や、
遺伝子型と表現型の相関性を研究するまたとない機会をもたらしてくれる。
謝辞
Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have
met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or
analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the
published article.
Authors’ Disclosures of Potential Conflicts of Interest: No authors declared any potential conflicts of interest.
Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled patients, review and
interpretation of data, or preparation or approval of manuscript.
脚注
1
Nonstandard abbreviations: A-V, atrioventricular; FISH, fluorescence in situ hybridization; aCGH, array comparative
genomic hybridization; BAC, bacterial artificial chromosome; ST-FISH, subtelomere FISH; MLPA, multiplex ligation and
probe amplification; NAHR, nonallelic homologous recombination.
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論説
Sau Wai Cheung
Department of Molecular and Human Genetics, Baylor College of Medicine, Houston, TX.
a
Address correspondence to the author at: Department of Molecular and Human Genetics, Baylor College of Medicine,
One Baylor Plaza, NAB 2015, Houston, TX 77030. Fax 713 798 4998; e-mail [email protected].
アレイ CGH の技術は、現在、全ゲノム領域をスキャンし、時に予期せぬ損傷を短時間で見つけ出してくれる
手法として注目を集めている。この技術のおかげで、多数の患者のゲノムの微小欠損・微小複製を特定するこ
とが出来、臨床検査では特にわかりやすい症状を見せなかった患者の病気も、診断することができた。この技
術の最も画期的な点は、この技術を使えば微小複製を検出できるという点をおいて他にない。おかげで遺伝医
学者は、Miller 氏らの報告にも書かれているように、臨床的な評価と解析の結果を関連付けることができるの
である。だがその一方で、微小複製の症状はよく特徴付けられてない上、表現型の可変性も高いため、微小複
製が検出されれば臨床医にとってこれ以上難儀なことはなかなかない。
オリゴヌクレオチドアレイを使えば、BAC アレイを使った場合に比べて、アレイ CGH の診断能力は更に上が
る。オリゴヌクレオチドアレイを使用するアレイ CGH の利点は、反復的な配列の回避や、性能の良いオリゴ
ヌクレオチドの選別を可能にする設計の融通性、強化されたダイナミックレンジによる高い構造安定性(ロバ
スト性)、高い再現性、および遺伝子図作製における高い精度などにある。
ヒトのゲノムは、再配列のきっかけと成りうる低コピー数反復配列を多く含む領域をたくさん持っている。こ
ういった領域は、主に非対立性相同的組み換えの結果、生まれるものである。22q11.2 の染色体領域もそのよ
7
うな低コピー数反復配列を多く含む領域のひとつであり、多数の遺伝子を含んでいる。低コピー数反復配列は
この領域において、いくつものゲノムの変異を仲介し、病気の元となることが知られている。たとえば、ディ
ジョージ症候群/軟口蓋・心臓・顔症候群、猫眼症候群、エマヌエル症候群、そして 22q11.2 微小複製症候群
などは、すべてこの領域における変異により引き起こされる。以上の病気の中ではディジョージ症候群/軟口
蓋・心臓・顔症候群が 4000 分の 1 の確率で起こるといわれ、最も頻度が高いとされているが、該当領域の微
小複製が検出されたケースの報告例は少ない。おそらく可変性が高く、程度も軽い表現型のせいで、正しい診
断が下されることが少ないのだろう。FISH 解析でも、ディジョージ症候群/軟口蓋・心臓・顔症候群の該当領
域の微小複製が検出される可能性もないことはないが、そのためには臨床医が患者の症状を正しく評価し、わ
ざわざ間期細胞のインターフェイズ FISH 解析を注文する必要がある。
私たちの経験からすると、微小複製は微小欠損よりも、親から子へ継承される可能性が高い。よって、患者や
患者の家族に再発のリスクに関する正確な情報を提供するためには、微小複製に伴うコピー数のわずかな変化
を捉えなくてはならない。この手法が浸透していけば、コピー数変化を伴う新しい病気が、いくつも特徴付け
られるに違いない。私たちは今、新しい時代に差し掛かっているのかもしれない。
謝辞
Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have
met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or
analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the
published article.
Authors’ Disclosures of Potential Conflicts of Interest: Upon manuscript submission, all authors completed the
Disclosures of Potential Conflict of Interest form. Potential conflicts of interest:
Employment or Leadership: S.W. Cheung, Department of Molecular and Human Genetics, Baylor College of Medicine.
Consultant or Advisory Role: None declared.
Stock Ownership: None declared.
Honoraria: None declared.
Research Funding: None declared.
Expert Testimony: None declared.
Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled patients, review and
interpretation of data, or preparation or approval of manuscript.
論説
Nelson L.S. Tang
8
Laboratory for Genetics of Disease Susceptibility, Li Ka Shing Institute of Health Sciences, The Chinese University of Hong
Kong.
a
Address correspondence to the author at: Department of Chemical Pathology, Faculty of Medicine, The Chinese
University of Hong Kong, Shatin, Hong Kong SAR, China. Fax +852 30059108; e-mail [email protected].
Miller 氏らの報告には、22q11.2 の微小複製によって引き起こされた、発育遅延のケースが描かれている。こ
のケースにおいて特に注目したいのは、ゲノムの構造の異常に関する問題、および遺伝性疾患の臨床的評価に
おけるゲノム解析の解像度の重要さである。今回の患者の診断は、割と高密度(244K)なアレイを使用しなけ
れば出来なかっただろう。少し古い BAC クローンのアレイ(2.6K)であれば、診断の鍵となる 3Mb ほどの複
製を見落としていたからだ。最近では更に解像度の高い解析チップが市販されるようになっている。例えば、
100 万 SNP(単一ヌクレオチド多型)遺伝子型判定チップや、何万もの CNV(Copy Number Variations,コピー数
の変異)にも対応できるようになっている検査チップなどだ。これらの高密度チップを使えば、今までは検出
することのできなかった超顕微鏡的な構造的異型も検出できるようになる。しかし、その一方で、ゲノムを高
い解像度で解析できることによって生まれる問題もある。ヒトのゲノムに含まれる構造の異型の数はとても多
く、ある見方によると、任意の人間 2 人のゲノム間には最大で 1000 個の CNV があるとされている(1)。だが
現在、大多数の CNV がどういった生物学的役割を持つのか、そしてその生体の変化が臨床医にとって、どの
ような意味合いを持つのかは判明していない。Miller 氏らのケースにおいても、8p22 のデノボ複製が、表現型
にどういった影響を与えているのかは判明していない。
CNV が何故、発育遅延や精神発達障害を引き起こすかに関して答えは出ていないが、CNV は自閉症や総合失調
症など、その他の神経発達障害にも関連付けられている(2)(3)。たとえば、22q11.2 地点での複製やコピー数
の増加は、自閉症の患者のゲノムに特異的な反復性変異の 1 つであることがわかっている。1 つのケースにお
いては、この構造の変異は父親から患者に継承されたものであり、また別のケースにおいては、デノボで出現
したものであった。先の 22q11.2 の遺伝性コピー数増加を持つ家族の遺伝子の浸透度は可変的であり、患者と
同じ遺伝子複製を持つ父親には、複製の影響が全くみられなかった。最新の研究報告によると、高密度 SNP
遺伝子型判定アレイでゲノム解析を行ったところ、更に高い解像度で CNV を検出できる可能性が出てきたと
いう。ここで、1 つのジレンマが生まれる。最新の技術を臨床の現場に応用すれば、新しい道が開けるかもし
れない。だがその一方で、この新技術によって得られる情報は新しすぎて、私たちはその生物学的な意義を見
出せず混乱する可能性もある。答えを見出したければ、更なる研究は欠かせない。
(訳者:小野
富大)
謝辞
Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have
met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and design, acquisition of data, or
analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c) final approval of the
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Authors’ Disclosures of Potential Conflicts of Interest: No authors declared any potential conflicts of interest.
9
Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled patients, review and
interpretation of data, or preparation or approval of manuscript.
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10