有期実習型訓練で伝統工芸士の養成に挑戦

有期実習型訓練で伝統工芸士の養成に挑戦
(株)晃祐堂
<企業概要>
《広島商工会議所扱い》
<訓練概要>
■コース名:熊野筆製造コース
■所在地:広島県安芸郡熊野町
■職種:熊野筆製造作業職
■業種:日本筆、化粧筆の製造・販売
■訓練生数:1人(終了後に正社員採用)
■資本金:1,000万円
■期間:平成27年12月~28年6月
■従業員数:300人
■種別:有期実習型訓練(キャリアアップ型)
■URL:
http://www.koyudo.co.jp/docs/index.htm
1.制度の活用に取り組んだ目的
熊野町は、四方を海抜500mほどの山々
に囲まれた小さな高原盆地にある町です。
に教育体制の構築に迷っていたときに、広島
商工会議所の広島県地域ジョブ・カードセン
ターの制度普及推進員の方が来社し、人材の
人口25,000人のうち、2,500人
育成・確保に役立つというジョブ・カード制
が「筆」に関わる仕事に携わっており、筆づ
度の有期実習型訓練を紹介してもらったこ
くりの職人(筆司)が1,500人います。
とから、その実施について検討しました。
その中で、名人として伝産法(伝統的工芸品
その結果、主力となる先輩社員は業務に追
産業の振興に関する法律)によって認定され
われて多忙でしたので、訓練を指導するため
た「伝統工芸士」は22人です。
の時間を捻出できるかが大きな課題として
当社は、昭和53年4月に書道筆の製造会
浮かび上がりました。しかしながら、当社の
社として創業し、平成2年7月に株式会社に
将来の柱となる優秀な社員を育てるために
組織変更しました。
は、生産に充てる時間を犠牲にしても、社員
教育が必要だと判断し、有期実習型訓練を実
施することにしました。
2.具体的な取組内容
有期実習型訓練は、1人の有期契約社員を
対象者とした6カ月間の「熊野筆製造コース」
としました。
訓練計画を作成する第一歩としては、職業
能力の要件を洗い出し、整理することから始
長い行程を経てつくられた「熊野筆」
熊野町に広島本社と書道筆工場、化粧工房、
めました。
筆のうち、特に日本筆の製造工程は、「選
化粧筆工場があるほか、東京支店(東京都千
毛」から始まり、「毛組み」「火熨斗」「毛揉
代田区)、別会社(中国とベトナム、香港)
み」
「毛揃え」
「逆毛・すれ毛取り」
「寸切り」
があります。社員は300人で、このうち、
「練り混ぜ」
「芯立て」
「衣毛巻」
「糸締め」
「く
3人が伝統工芸士に認定されています。
り込み」
「仕上げ」
「銘彫刻」までと、長い工
当社では、職人気質の社員が多かったため
程を経て1本の筆を仕上げます。
このため、訓練カリキュラムの作成に当た
した5人の先輩社員の負担が想定以上に重
っては、伝統工芸士に認定されている当社の
かったために、訓練の指導者のスケジュール
工場長ととともに、「最も効果を上げるため
調整には大変苦慮しましたが、お互いにカバ
にはどのような内容にするか」「訓練の指導
ーすることによって対応しました。
は誰が担当するのか」について検討を重ねま
した。
最も苦心したのは、評価シートの「Ⅲ.技
能・技術に関する能力(2)専門的事項」の
部分でした。職業能力の国民的評価基準とい
っても、OJT の評価項目としては、作業職一
般の評価項目だけでは本当に評価したいも
のが不明確になってしまうからです。しかし、
制度普及推進員の方からの指導がありまし
たので、何とか仕上げることができました。
その結果、訓練期間は6カ月間、総訓練時
間は560時間とし、Off-JT が60時間、OJT
は500時間の有期実習型訓練としました。
OJT の実施風景
また、Off-JT には、業務経験が浅い訓練生
にとって難解な科目がありましたので、理解
を得るのには苦心することがありました。こ
れ に 関 し て は 、「 Off-JT
Off-JT
⇒
⇒
OJT
⇒
OJT」といったように、Off-JT
と OJT を繰り返すことによって理解させるこ
とができました。
4.制度の活用による具体的な効果
今回、初めて実施した有期実習型訓練は、
「ジョブ・カードを活用した職業訓練」であ
るということから、緊張感をもって実施でき
Off-JT の実施風景
ましたので、経営者、訓練の指導者、訓練生
ともども意識の高揚につながりました。
3.阻害要因とそれを乗り越えるための工夫
特に OJT では、訓練を指導した先輩社員か
当社には、社員教育に関するマニュアルが
らいろいろな実務を教えてもらい、
「OJT で実
ありませんでしたので、前述したように、訓
践したことが理論を中心とした Off-JT の科
練カリキュラムと評価シートの作成に苦心
目の理解に役立つ」といったケースもしばし
しましたが、制度普及推進員の方のアドバイ
ばありました。また、Off-JT では「安全衛生」
スを得ながら、基本的な作成手順を踏むこと
と「職業能力基礎知識」の習得に多くの時間
によって、初めてとしては納得のいくものが
を割いたことは、非常に有意義であったと思
できたと思います。
います。
実際に訓練を開始してみると、訓練を指導
このように、「知る、分かる、できる」の
イメージに基づいて作成した訓練カリキュ
ラムによって、各作業工程での教育目標を復
習させることができました。加えて、訓練計
画は、当社の責任者が全員で検討して作成し
たことによって、「教育の重要性と必要性」
という意識が幹部社員に生まれました。
今後も、有期実習型訓練を活用して1人で
も多くの「筆司」を育て、その中から1人で
も多くの「伝統工芸士」を育成していきたい
と考えています。
<事務局追記>
熊野町で製造している日本筆と画筆、化粧
筆は、いずれも全国生産の80%以上を占め
ています。
筆の原料となる動物の毛は、主にヤギと馬、
いたち、鹿、タヌキなどで、そのほとんどは
中国や北アメリカから輸入しています。また、
筆の軸は、台湾と韓国から輸入したり、岡山
県と島根県から仕入れています。
このように、製品の原料は全て他所からの
移入に頼りながらも、地域の主産業として支
えてきたのは、22人の伝統工芸士を頂点と
した1,500人の筆づくりの職人である
『筆司』たちの卓越した技術力です。
なお、熊野筆事業協同組合に加入している
同社を含めた5社の化粧筆事業者が制作し
た「熊野筆チークブラシ」は、先に開催され
た伊勢志摩サミットで現地に来訪したG7
の各国代表団とプレス関係者に対する記念
品に選ばれました。
(平成28年6月現在)
有期実習型訓の概要
(株)晃祐堂
訓練コース名
熊野筆製造コース
Off-JTの
実施主体
職務名または教科名
組み立て作業
O
J
T
和筆加工
梱包作業
有
期
実
習
オリエンテーション
型
訓
練
の
内 O
学
容 f
安全衛生
f 科
‐
J
T
製造基本
職務または教科の内容
時間
・毛組み、毛揉み、毛揃え
・混合機かけ、寸切、練り混ぜ、芯立て、
衣毛巻き
・糸締め、軸選別、管込み、糊固め刻印、軸
付
・安全衛生
・筆袋詰め作業、箱詰め作業、シール貼り作
業
150
200
150
OJT小計 500時間
・訓練目的の説明
・訓練報告書の書き方の説明
・訓練評価の説明
1
・商品の取扱い方
・刃物の扱い方
・生産設備の使用方法
・生産設備の保守点検、清掃
・安全衛生法
29
・作業手順書の理解、必要性
・生産前の段取り
・生産機械の整備、点検の重要性
・生産性の向上
30
学科計 60時間
Off-JT小計 60時間
有期実習型訓練合計 560時間
社 内