(第21 21 ) 1481.運輸相提訴 免許申請放置に激怒 「官僚と対決」イメージ定着( 21回) 日本経済新聞2013.4.1.小倉昌男(元ヤマト運輸社長) (傍線:吉田祐起引用) 当社が取引を打ち切った後、三越の岡田茂社長は解任された 。「さもありなん」と思ったが、三 越という会社が嫌いになったわけではない。心配した他の百貨店にも「岡田氏のやり方が我慢 できなかっただけです」と説明すると理解してくれた。 三越との決別は社員に衝撃を与える半面、背水の陣で宅急便に取り組むという覚悟を固めさ せた。さらに1979年(昭和54年)、私は意識改革の徹底を求めた。松下電器産業など大口荷 主からの撤退を宣言したのである。 大口貨物輸送は宅急便と全く性格が異なり、二兎は追えないからだ。東海道路線進出後、後 発の当社に発注してくれた松下には恩義がある。取引辞退を申し出るのはつらかった。大口貨 物をやめたため、79年度決算で宅急便を含む路線事業は赤字に転落した。 だが、宅急便は倍々ゲームで伸び続けてくれた。80年度には取扱個数が3340万個に達 し、国鉄小荷物とほぼ肩を並べた。しかも、会社全体の経常利益は前年度の3.3倍となり、売上 高に対する比率も5%を突破するなど、運送会社としては空前の好決算になった。宅急便を始 めて5年。ついに採算ラインを超えたのだ。 82年には社名もヤマト運輸に改め、変身を加速した。黒字化に気を緩めず、ネットワークを全 国に広げようとしていた時、新たな壁にぶつかる。行政の規制である。 当時、路線トラックは免許制だった。80年8月に国道20号線(山梨路線)の免許を申請した が、運輸省は申請書類を引き出しにしまい込んでいた。競争激化を懸念した地元業者が反対し ていたためだ。 84年1月、免許の是非を審議する運輸審議会の公聴会が開かれ、私が冒頭陳述をした。当 社は、「宅急便は不特定多数の消費者を対象としており、既存業者の商業貨物輸送とは市場が 全く異なる」と主張した。審議会もこれを認め、同年5月にやっと免許を得たが、申請から4年近 くもかかってしまった。 81年11月に申請した北東北路線の免許も、やはりたなざらしにされた。運輸省に催促する と、「業者の反対を抑えれば、いつでも免許を出してやる」というような返事だった。 許せないと思った。既存業者が反対したら免許は与えない、反対しなければ与えるというので は行政権の放棄ではないか。広く消費者のことを考えるのが行政の使命ではないのか。怒りが 臨界点を超えた。 申請から4年たった85年12月、運輸相に対して行政不服審査法に基づく異議申し立てをし た。これに対する運輸相の回答は「慎重に審査しているので、申請をいったん取り下げよ」とい うものだった。予期した通りだ。用意していた奥の手を出すことにした。 86年8月、橋本龍太郎運輸相を相手取り、東京地裁に「不作為の違法確認の訴え」を起こし た。監督官庁に対する前代未聞の行政訴訟である。運輸省は裁判で勝つ自信がなかったのだ -1- 10 12 ろう。10 10月には運輸審議会の公聴会が開かれ、12 12月に免許が出た。 争点が消えたので裁判も幻に終わったが、負けることはないと思っていた。道路運送法には 「免許は輸送の需給を勘案して付与する」と書いてあった。だが、輸送需給に関する資料など運 輸省にあるはずはない。 この一件以来、私には「官僚と戦う男」というイメージがつきまとう。だが、そんなつもりはな い。当社の事業を運輸省が邪魔しただけだ。免許取得に5年も要したことを思うと、今も腹が立 つ。 ヨシダコメント: やあ、ここにきて、小倉さんの最大のドラマ展開です!業界でこれほど物議を醸したケースはあ まりないでしょう。「運輸免許」の傘で、ず~っときたからです。その傘を破った理論闘争を含む 小倉さんの完璧な勝利でした。小倉さんの「私の履歴書」をピーター・ドラッカーさんに次いで取 り上げたのが、この一点だとうのがヨシダの存念です。 小倉さんの本稿末尾の言葉「私には『官僚と戦う男』というイメージがつきまとう。だが、そんな つもりはない。当社の事業を運輸省が邪魔しただけだ。免許取得に5年も要したことを思うと、 今も腹が立つ」には、思わず笑いました。「今も腹が立つ」がそれ。余程か、「頭にきた!」といっ たところだったと想像します。熱心なクリスチャンの小倉さんをして、その言葉。想像に難くあり ません。小倉さん、ヨシダのこの言葉を天国で、ニヤリとしておられるでしょう(笑い)。 No.1(1-300) No.2(301-400) No.3(401-500) No.7(996-1100) No.4(501-700) No.5(701-900) No.8(1101-1300) No.9(1301-1500) -2- No.6(901-996)
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