ドイツ自然化粧品最前線 Neues in Kosmetikfront ドイツ自然化粧品最前線 第7回 第7回 プリマヴェーラ・ライフ社のオーガニック栽培プロジェクト 美しい自然がもたらした精油との偶然の出会い 1980 年代のこと、ドイツのミュンヘンで自然食品 店を経営していたウーテ・ロイベ氏は「子どもたち を豊かな自然のなかで育てたい」と田園への移転を 考えていました。同じ頃、ロイベ氏の友人で『天の 香り』、 『樹』、 『大地の薬』の著者であるスザンナ・ フィッシャー・リチィさんも植物をテーマにした本 を執筆するために、美しい自然があるところを探し ていました。 ふたりはドイツ南部のアルゴイ地方の村に移り住み ました。アルプスを背にして、森と牧草地に抱かれ た静かな湖のほとりに、農家を借りることにしまし た。この農家には、それまで住んでいた老農夫が残 した地下室がありました。植物を使って薬をつくる 精油の原料になる植物は、本来の生育地で栽培する 作業所でした。ふたりはここで、芳しい香りの液体 1986 年、ロイベ氏は小さな会社を立ち上げ、最初 を見つけました。それは 100%天然のピュアな精油 はイタリアの農業共同体「アグロナトゥラ」と契約 でした。当時、ドイツの薬局でも精油は売られてい して、精油の製造と販売をはじめました。これがプ ましたが、比べものにならないほどの素晴らしい香 リマヴェーラ・ライフ社とそのオーガニック栽培プ りでした。 ロジェクトのスタートです。オーガニック栽培とは たちまちふたりは、天然精油に魅了され、 「なんとか 化学肥料、合成の除草剤、合成の殺虫剤を一切使わ 自分たちにもつくることはできないか」と考えまし ない。これを使う通常栽培の畑からは少なくとも7 た。そして芳香植物が伝統的に栽培されているイタ メートル話す。オーガニック栽培に切り替えて 3 年 リアとフランスを訪ねる旅を繰り返しました。 以上たったものをオーガニック精油、オーガニック この壮大な計画を農家に話しても、言葉の障害もあ 植物油として市場に流通させることを意味します。 り、最初はまったく相手にされませんでした。ある ロイベ氏は「植物油や精油の原材料となる植物は、 日、イタリアの農家のリーダーがドイツに電話をし 本来その植物が自生している土地で栽培されること てきました。そのとき会社にはスタッフが誰もおら が望ましい」と考えました。 ず、イタリア人であるリチィさんのご主人が電話に そして世界のあらゆる国々で栽培し、供給する人を でました。そこから話がとんとん拍子にすすみまし 探すことに集中しました。ヨーロッパだけで栽培と た。 製造をまかなってしまえれば、どんなに効率がよ かったことでしょう。 しかし、よりよい品質の植物油と精油を得るために は妥協はできませんでした。 -1- フェアトレードの徹底で築きあげた 生産農家との信頼関係 こうして、ブラジル、ペルー、スリランカ、ネパー ルなど、世界中を駆けめぐって原料の供給者をさが すなかで、さらにロイベ氏は気がつきました「原料 植物の栽培方法そのものが重要である」ということ です。大原則はオーガニックであること。それも、 世界にひろがるオーガニック栽培プロジェクト 種子も苗も何代にもわたってオーガニックであるこ とが大切です。次にオーガニック農家の保護に力を 世界各地の「植物の本来の生育地」で、 「オーガニッ 入れることにしました。 ク栽培プロジェクト」が発展していきました。 具体的には、全量買い付けの保証。つまり畑丸ごと の契約をして、気候や香りのいかんを問わず、すべ 自然環境の再生にも貢献する てを買い取ることを保証したのです。雨の多い年、 「オーガニック栽培プロジェクト」 天候不順な年、香りが薄かったり、水っぽかったり 現在では、最初に契約したイタリアのピエモントに することがあります。香りにこだわる取引先によっ ある農業共同体「アグロナトゥラ」をはじめ、シチ ては、その年の精油の香りをかいで、まったく注文 リアでは柑橘類を、ブラジルではマンダリン・グリー しないことがあります。よい香りの精油だけを販売 ンを、ペルーではレモンバーベナとギンバイカ(マー するという方針はいっけん、消費者に親切であるよ トル)を、フランスではラベンダー・ファインを、 うに思えるかも知れません。けれども 7 年かけて トルコではダマスクローズwp、スリランカではシ やっとオーガニック認定の精油を製造している農家 ナモンやナツメグを、ネパールではシャクナゲとヒ にとっては壊滅的な打撃になるのです。こうした品 マラヤ・ファーを、中国ではツキミソウを、オース 質チェックで販売できなくなったために、オーガ トラリアではティートリーを、ブータンではレモン ニック栽培を放棄した農家が過去、数多くあり、非 グラスを、といってように、 「オーガニック栽培プロ 常に残念なことです。プリマヴェーラ・ライフ社は ジェクト」が広がっています。 当初からこのリスクを農家に負わせないことを決意 世界各地の「オーガニック栽培プロジェクト」は、 しました。農家が事前了解なしにある芳香植物の作 失われていく自然環境を再生する大きな力を生みだ 付け面積を大幅に増やし、たまたまその精油の需要 しています。 が減りつつあるため、真っ青になったこともありま す。 何代にもわたって継続して行うことを約束しました。 また前払いや器具の提供も、農家に申し出ました。 さらに農家を保護するシステムの発展が遅れている 手塚千史 国では、農閑期の仕事の紹介もします。資金提供し プリマヴェーラ・ライフ社のプロジェクトとして発 足しても、何年かたって農業共同体が地力で経営で きるようになると、非常に安く払い下げるようにも しています。このような保証体制によって農家は安 心して、従来の化学農法から有機農法に切り替える ことができます。こうして、すべての農家と健全な パートナーシップによる共同作業をすることにより、 -2-
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