学びや育ちをつなげる連携を目指して

平成 25 年度 第 2 回共同機構研修会
京都市子育て支援総合センターこどもみらい館
学びや育ちをつなげる連携を目指して
講師
1.はじめに
佐々木
晃
鳴門教育大学附属幼稚園教頭
子ども同士の集団遊び能力の不足による体験
はじめに,本日は保・幼・小といわれるうちの
の偏りや,食生活の乱れ,小学校生活へうまく対
“幼・小”の連携についてお話させていただくの
応できない等,今や小学校に止まらず中・高・大
ですが,「何故,幼稚園教育と学校教育の連携を
その後の社会人へとうまく適応できず,家にひき
しなければいけないのか?」その背景についてお
こもっている数は 150 万人とも言われています。
話したいと思います。
少子化の現代において重大な問題であり,それ
今,少子化が進み,このままでいくと,17 年間
くらい学校や社会間の連携,接続というのは大変
で 123 万人の幼児が減少すると言われています。
な課題となっています。
この 123 万人は京都府の人口の約半分にあたると
それでは,本来,幼児期にはどんな育ちがふさ
推定されています。
わしいのでしょうか。
そして,深刻な問題となっているのが,子ども
乳幼児期は,身体が著しく発育して運動機能が
達の育ちの様子が変わってきたという事です。
急速に発達する時期で,例えば,昨日まで出来な
2.近年の子どもの育ちの変化
かった事ができるようになります。(ハイハイか
自制心や規範意識の不足,ルール無用の社会に
らつかまり立ちをするようになった,けんけんが
なってきています。
できるようになった,鉄棒ができるようになった
基本的生活習慣の欠如が著しく,朝ごはんを食
等)
べて来ないのが当たり前になり,そういう生活習
そして,身体的なものを手掛かりにし,自分自
慣の部分も幼稚園や保育園(所)で補っていかな
身のイメージを形成しそれに基づいて物事を受
ければならなくなっています。
け止めている時期です。自分が頑張ったことを認
また,友達と遊ぶといっても,みんなで遊ぶの
められ褒められることで子ども達は自分に自信
ではなく,集まって個々にゲームをするだけで,
を持ち自分のことを好きになります。逆に注意し
一緒にはいるけれど友達同士の絡みがない状況
なければいけないのは,身体的なことでけなさな
です。大人でもそういう事が多くみられ,大事な
い事です。けなされると,自分に対する嫌なイメ
用件もメールで済ませるなどコミュニケーショ
ージがつくられて自分を嫌いになります。小さい
ン能力の不足が目立ちます。赤ちゃんは,母乳の
時は,身体を使って物事を把握する大事な時です。
抗体がなくなった頃によく知恵熱を出しますが,
「一生懸命走って,いっぱい汗かいて頑張った
危険な状態になるほど高い熱を出す赤ちゃんが
ね」など先生方は子どもたちに触れながら,身体
いるそうです。これは生まれてからずっとエアコ
的なイメージを褒めて伝えているはずです。
ンの効いた部屋で過ごしてきたことにより,汗腺
では,スキャモンの発達曲線を見てみましょう。
が発達していないためです。運動能力の低下では,
最近,お茶の間でも脳科学などに大変関心を持た
私の就職した 25 年程前までは子どもは顔からケ
れ,様々な事柄が解明されてきています。
ガをするなどと言われていましたが,今では瞬き
他の曲線と比べ,神経系は小学校に入るまでに
の速度が遅く目にゴミが入るなど,筋力の低下の
急速に伸び,小学校高学年以降にはあまり伸びま
著しさが喩えられるような状況です。
せん。そこが大切です。
1
上で大切です。その重要な部分を保育園(所)・
3~6 歳
幼稚園で行っているのです。今までは日常生活で
神経型
自然に学ぶことで,教えることではなかったので
すが,それを教えなければならない時代になって
きました。
そのように育ちの面も環境が変わってきて変
化していますが,人類が獲得してきた発達という
ことでは変わらない部分もあるので,そこは大事
スキャモンの発達曲線
にしていきましょう。
神経のシナプスが伸びるのに必要なものは,一
3.幼児期の「学び」について考える
つは栄養です。赤ちゃんの時に飲む初乳には,た
知恵・賢さを考えてみましょう。
んぱく質・アミノ酸が多く含まれていて,それを
物が分かるという事は,当たり前の“枠組み”
があって初めて分かっていきます。これが賢さの
飲むとシナプスが飛躍的に伸びるそうです。
根っこなのです。
もう一つは運動です。感性を働かせるような,
事例①
ものを感じるような動きも大事です。さらに,こ
-気づきや驚きの根本-
れは小学校中学年くらいまでに90%くらいで
3 歳児が水を入れたペットボトルに花びらを浮
きあがってしまいます。小さい時の栄養と運動の
かべその器を上下逆さまにして遊んでいました。
質がよいということは一生を通じとても重要に
ペットボトルを上下逆さまにしてもその花びら
なってきます。幼児教育にはアクティブに活動す
が上に来ると不思議そうな顔をして何度も試し
ることや,自然や様々な文化に触れ,五感を働か
ているのです。そして,「すごい発見」だと得意
せながら生活することが大事なのです。
げに見せに来るのです。「上と下」の枠組みが出
これは,「幼稚園教育要領」や「保育所保育指
来ているから,子どもは不思議に思うのです。子
針」にも書いてあります。主体的な生活の中で能
どもの説明することを「すごいなぁ」と聞き,子ど
動的に人やものやことにかかわっていくことで,
もの能動性・主体性を伸ばすように誘っていくわ
健やかに育っていきます。
けです。
幼児期に,豊かな環境を構成しながら子ども達
常識が出来るということは,1 つの枠組みが出
を遊ばせ,様々に感じたり考えたりすることの大
来る,枠組みを作って広げて,そして壊してまた
事さ,それが要領や指針の根拠になっているので
作る,それを繰り返して自分から見てどうかとい
す。
う自己中心性で考えられていくわけです。就学前
幼児期の発達には次のような特徴があります。
の子どもは,枠組みを作っては壊していく,それ
依存と自立の関係を十分に体験する事で,人と
が段々高度になっていくのです。子ども達が,考
関わり充実した生活を営む力をつける,甘えんぼ
えるのが楽しい,学ぶのが楽しい,と感じるよう
うから自立していくのも大切なポイントです。信
に賢さを広げていくというのが私達の仕事です。
頼や憧れをもって周囲の言動や態度を真似て自
事例②
-なんで浮くの-
分の行動にそのまま取り入れたりするのも多い
5 歳児のプール遊びで,子ども達をプールに投
時期です。「真似」をして「学ぶ」ということか
げ入れる遊びをしていました。沈んでも浮き上が
ら,幼児教育をする人は,子どもと一緒に遊んだ
ることが面白く,何度も繰り返し楽しんでいまし
り片づけたりし,それをお手本として子どもは学
た。次には自分たちより重いであろう先生(私)
び,刺激になるのです。
はきっと沈むだろうと言い始めました。しかし,
他者との関わりの中で,様々なつまずきを体験
実際にやってみると私も浮き上がります。「軽い
する事は,幼児期に物事が考えられるようになる
ものは浮き,重いものは沈む」というこれまでの
2
「枠組」ではおかしいことです。そこで枠組を壊
き換え,こんな小さいところにもいっぱい学びが
し,一緒に考えることで新たな枠組が作られてい
あります,と発表したところ,遊びの重要性を分
きます。
かっていただくのに有効的でした。先ほどのロケ
事例③
ットの事例も理科に置き換えられる事例です。
-ロケット発射-
5 歳児が水を入れたペットボトルに空気を入れ
遊びといってもただ遊べばよいのではなく,保
ロケットに見立てて砂場で飛ばし遊んでいまし
育者はその遊びが有効的な遊びかどうか吟味す
た。子ども達は,遊びの中で,小さいペットボト
る責任があります。
ルの方がよく飛ぶ,水の量が3分の1の時一番よ
東京大学大学院の秋田喜代美さんが遊び込む
く飛ぶなど物理的,量的なことを学んでいました。
ことが大事だと言われていますが,
「遊ぶ」と「遊
また相手を褒めて幸せな気持ちにする方が,早く
び込む」の違いは
代わってもらえて,自分も幸せな気持ちになるな
・夢中になっているか
どの人間関係的なことも体験を通して学んでい
・発展,継続しているか
ました。幼児教育は,遊びを通して総合的に指導
・遊びの素材を使いこなし我がものにしている
していくところが楽しいところです。
か
就学前の幼児教育に関わる人は,子ども達に知
・ 時を忘れ没頭しているか
識だけを教えるのではなく,感性を働かせて共に
だとおっしゃっています。
面白がる,不思議がることが大事なのです。「遊
子ども達が遊びの中で発見し,推論が生まれ,
びはごちそう,学びは栄養」と言いますが,栄養
探究心を持って遊べているか,発見成長している
だけ与えても食べる気がなくなります。ごちそう
かを見極め,吟味するのです。
と美味しく食べている結果,栄養になります。遊
砂場で山を作るのに,砂を高く積み上げ水をか
びが豊かになると学びも豊かになる,それが私達,
けてスコップで叩き,しっかり固めて穴を掘る。
幼児教育に関わる上での法則です。子どもたちと
その遊びの中で,砂の性質,スコップの性質を知
遊びや生活をどんな風に作っていくのかが大事
り,発見や推論があって心が成長していくのです。
になります。
東京芸大大学院映像研究科の佐藤昌彦さんが,
ジャー・シールド(心理学者)が「子どもが面
脳が敏感な時に遊び込んでいると,楽しい気持ち
白がっているところが,一番伸びているところで
を体験した脳が「没頭」
「集中」
(フロー状態)の
す。」といっていますが,子ども達が一番頑張っ
状態を覚えていて,繰り返し何度も再現したいと
ているところは,山のてっぺんです。てっぺんが
思うようになると言っています。小さい時にその
高くなると裾野が広がり,いろいろ知識が増えて
ような経験をすると,成長した段階でも色々な面
いきます。
において意欲的に取り組もうとします。幼児期の
遊び中心の,遊びながら子ども達が熱中するこ
一番敏感な時に覚えさせることで一生の宝にな
とをもとに指導計画を考えることが保育の基本
ると言われています。それに反し,遊び込んでい
的な原理なのです。
ないと脳が覚えておらず,集中できず活き活きし
4.教科の視点から「学び」を整理すると・・・
ていない大人になってしまうということを言っ
幼・小の接続の研究をするときに,小学校の先
ています。
生に遊びは素晴らしいと話してもなかなか理解
例えば,ごっこ遊びをしている時,子どもは言
してもらえませんでした。そこで,10 年ほど前に
語により自分の行動を計画して抑制するように
遊びを教科の視点から語るという研究をしまし
なると共に,自己中心的な思考から相手を思いや
た。子どもの頃の遊びが人間の土台を作っている
る思考も出来るようになります。また,社会性,
ことを理解してもらうために,子どもの遊びの姿
道徳性が培われ,積極的に人と関わろうとするよ
を例にだし,それを国語や算数・理科・社会に置
うになります。友達と身体を動かして遊ぶことを
3
通して運動能力も高まり,高度な遊びをすること
0%だと思ったのです。そして,巧みな比喩論を
で,思考力が伸びて言語力も高まります。言語能
示して損得の駆引きをしているのです。そこで,
力の発達は,ごっこ遊びをすることで,想像力を
じゃんけんをして別の子に二番を取られました。
豊かにし,それを表現することによって促されて
結果,一番にくじを引いた子が当りだったのです
いくのです。
が,その結果は3人ともすんなりと受け入れたよ
事例④
うです。
-春を食す-
5歳の子ども数人でままごと遊びをしていま
子ども達の遊びの中で,確率の計算が関係して
した。たんぽぽの茎を野菜に見立て「ポキっと折
いることが見られます。自分が一番確率の高い順
ると筋が剥ける」「筋を取ったら水でさらして」
番を取るために,巧みに心理戦や陽動作戦を駆使
など会話は真剣そのものです。出来た料理を保育
してのやり取りが分かります。くじ引きの公平性
者に差出し,味見をしてと言うので,香りをかぎ
を引く順番で決めたのも面白い出来事です。公正
分ける仕草をして「この春らしい香りは?」と聞
化のための手続きの構造化をしているようです。
きました。そうすると,横から別の子が「先生,
遊びの本気度が高いほどより確率を考えている
お寿司は好きですか?」と入ってきます。
のです。
ごっこ遊びが面白いのは,子どもが持っている
就学前の子どもに大切なのは,意見が食い違い
最高の言語,最高の知識,最高のシュチュエーシ
トラブルが起こる,そこで「じゃあやってみよう」
ョンの演出を作ります。子ども達は共有のテーマ
と実験や調査をしてディスカッション,討論をす
を持って,自分の主観だけではなく相手に分かる
ることで「よかったな」「こうだったなぁ」と思
ように話し,それぞれ見立てられるものの特長を
うことです。このような活動は,子どもの発想力,
正確に捉えながら深めていきます。言葉が,物事
論理力,表現力,批判的思考力,コミュニケーシ
を考えるときの媒体になっている副詞や形容詞
ョン力の発達を促す上で重要だということです。
などの修飾語の使用が巧みになり,接続詞などが
このようなことが遊びの中で繰り広げられるよ
使えるようになり,関係性を表現できるようにな
うに先生方が心を砕いているかどうかなのです。
ってきます。
幼児の思考力を刺激するポイントは,比較して
また,「お寿司はお好きですか!」と入ってき
考える,関連させて考える,検討して考えるよう
た子どもは,自分の方にも先生に気持ちを向けて
にすることです。この活動の中で,気づく,感じ
ほしいことを直接的な言葉を使わず,場の雰囲気
る,考える,関わる,行動することを活性化させ
を壊さない言葉を選び,効果的な表現をしていま
ていくことで,子どもはどんどん賢くなっていき
す。
ます。
保育者は,遊びに関わりながら,子どもたちが
幼児期になぜ遊び,なぜ生活が重要かを保護者
五感のうち音,見た目,味,手触りなどを感じて
や小学校の先生にきちんと説明できなければ連
会話をしているので,まだ気付いていない嗅覚的
携は難しいです。
な感覚を加えてごっこ遊びがよりリアリティを
<遊びはなぜ必要なのか>
持つように導いているのです。
○様々な活動をして,脳のシナプスの配線を太く
事例⑤
-どっちがおとくでしょうか-
する,より多く張り巡らす,そうすることで反
5 歳児の3人の女の子がペットボトルに入った
復練習によって将来広げられていく。
色つきの水を泡立てて,誰がもらうかくじ引きで
○枠組みを多く作り,思考力の基礎を作る。
決めようとしています。そのくじ引きの順番をじ
○遊び込んで,没入体験を脳に覚えさせる。
ゃんけんで決めようと1人の子が言いました。ど
○様々な知恵や力を総合的に使う。
うやら,二番目に引くほうが有利だと思っている
○人間関係や葛藤を経験する。
ようです。一番目が引いたら二番目の確立が5
こういうことなのです。
4
5.学びや育ちをつなげる教育=保育
ますが,両方がいいバランスであることが大切で
幼・小の接続を考える時,幼児期と児童期とで
す。そして,共感する事と理解することがたいへ
は教育・保育の方法論が違い,なぜ違うのかを理
ん大事なのです。
解し合うことが大事なポイントです。
例えば,子ども達と歌をうたう時,子どもがど
幼児期の発達の特殊性と,方法論の特殊性につ
んな事に関心を持っているか,どのくらいの音域
いてお話します。
があるか,どんな歌に興味があるかで曲を選んで
幼児期3~5歳の教育の考え方というのは,フ
いると思います。その時保育者は背を向けるので
レーベルの思想が基本になります。「子どもはそ
はなく,子どもと向き合い,子どもが保育者を真
れぞれの可能性を持った種」であり,個々にふさ
似ながら,どんな歌ならうたえるか考え,子ども
わしい環境があるという事です。一人ひとりに合
とうたい,こちらの意図することが伝わり楽しく
わせて個性を伸ばすというのが,幼児教育の環境
うたえたら褒める等,幼児の行動を理解し,子ど
です。幼児期の教育は子どもの個性を出させるよ
も達のモデルとなって環境を構成しつつ一緒に
うにし,悪いところは修正し,よいところを伸ば
関わることで共に共感する等,バランスよく行う
すというのが大事なのです。幼児期はどこまでも
ことでうまくいきます。
一人ひとりを大切にしなければなりません。小さ
そして,小・中・高は授業,大学は講義と演習
い時ほど個々を大切にし,幼児期後期になる頃に
という方法論があり,私達の保育とは異なります,
は集団生活ができるまで少しずつ高めていきま
それゆえ私達は学校の先生や保護者と違うスペ
す。
シャリストなのです。
個性を一番出させやすいのが遊びです。勉強だ
6.環境の構成の工夫
と出される課題が難しいですが,誰もができるの
実際に保育をする時,どのような環境にするか
が遊びです。プレイセラピーと言っていいような
考えて指導計画を立てていますし,行事をすると
のが私達の仕事で,子ども達の主体性を促してい
き,その中で何を考え気付いて欲しいかという願
くというのが幼児教育です。
いをもって保育をしています。
では,なぜ環境の構成というのでしょう。そこ
幼児教育には方法があります。「幼稚園教育要
には,保育者の立ち居振る舞いや気持ち,思いな
領」にあるのを図式化しました。
どが全部含まれているため構成という言葉で表
現したのだと思います。
事例⑥
5歳児とこいのぼりをあげました。行事だから
しているだけではなく,この活動を通してこいの
ぼりが風になびけば風を感じ,天候や空気を感じ,
こいのぼりに込めた人の思いなどを知り,目には
見えにくいものを見たり感じたりすることを大
幼児教育は「保育」と言います。保育というの
切に保育していました。
は方法論であり,哲学でもあります。
保育の保は,保護,養護で,カウンセリングに
絵を描く時も,いきなり描かすのではなく,い
あたります。その人の課題,問題を理解して適切
っぱいその物に触れた後で絵を描かせていると
な対応をします。保育の育は,教育にあたるガイ
思います。注意して観察することで気づき,触る
ダンスで,知識を教えることです。両方を兼ね備
ことで素材を知ることにより,よいものに仕上が
えているのが「保育」という言葉です。
ります。その時,保育者は,子どもの発達を見な
がら子どもの持つ力を引き出せるように考えて
保育は,そのバランスが絶妙なのです。小さい
います。
時ほど保が,大きくなれば育の割合が大きくなり
5
植物の種を蒔くときには,同じところに異なる
います。また,積み木で遊ぶ時は,一つのものが
2つのものを蒔き,葉っぱや形が違うのは何故?
集まれば大きくなったり形を変えたりと,まとま
不思議?と考えさせるような環境構成の工夫を
りや単位の関係を体感しています。どこの園でも
しています。そのような遊びを年間の指導計画の
やっていることです。その事の意味をよく知り,
中で繰り返し取り入れ,同じような体験を何度も
「これは図形感覚の大事なポイントなのです」と
することで,そのような推論の基礎体験を強化し
保護者や小学校の先生に伝え,納得してもらえる
ていきます。
ように発信することも大事です。
日常生活の中で少し気をつければ,子ども達は
遊びの中にも,小学校で役立つ学びがたくさん
大きく成長していきます。遊びや生活の中で,自
あるのです。
然に育っている「賢さ」というのが大事なポイン
7.保・幼・小の連携→「接続」へ
最近では,子ども達の学びがつながっていくよ
トなのです。手がかからないように育てるという
うに,「接続」という言葉を使います。
だけでなく,何かをするときに,保育園(所)・幼
稚園,親が気付いて「いいことしてるね」と声を
文部科学省の「幼児期の教育と小学校教育の円
かけ,賢さがどう育っていくかと考えることが大
滑な接続の在り方」の報告書には三つの自立が大
事です。
切だと書かれています。
① 学びの自立
どんなことをすれば小学校につながって行く
自分にとって興味・関心があり,価値があると
のか,図形感覚を例にしてみましょう。
さまざまな物の形を自分の枠組みの中で関連
感じられる活動を自ら進んで行うと共に,人の
付けたり,まとまりを持たせたり,意味づけをす
話をよく聞いてそれを参考にして自分の考え
るようになります。(ハート型の石,葉っぱが左
など適切な方法を表現する。
② 生活上の自立
右対称等)そして,美しさがパターンによって作
られていることなどの感性が備わってきます。ま
生活上必要な習慣や技能を身につけて,身近な
た,自分の手で形を作り出す体験をして喜びます。
人々,社会及び自然と関わり,自らよりよい生
一つの形から他の形や価値を生み出す,数学的な
活を創り出していくこと。
③ 精神的な自立
感性です。
自分のよさや可能性に気付き,意欲や自信をも
物の前後左右,縦横斜めや,四角を折って三角,
角を合わせる,三等分するなども保育の中で気を
つことによって,現在及び将来における自分自
つけて取り入れていくことが大事です。
身のあり方に夢や希望を持ち,前向きに生活し
ていくこと。
体を動かして遊んでいるうちに,狭いところを
私達の課題として,学びの芽生えの幼児期に,
這ったり横向きに歩いたり,空間に合わせて姿勢
を変えて動いています。折り紙を折ったりしなが
子どもは学びを意識せずに,後から振り返って学
ら,角度や割合などを覚え,空間の位置や構成を
びを感じられるよう,保育者はそれを認識し,小
認識できます。位置感覚を口に出して指示するこ
学校に上ったときに意識的な学びとなるよう繋
とも時には大事です。
げることが大事です。
私達が行っている小学校との協同保育の例を
ピーマンやレンコンなどの立体を切ると平面
になることや,箱を壊し組み立てることで,平面
話します。
が立体になることなど,三次元の世界と二次元の
<鳴門教育大附属幼小の取組>
幼稚園での遊びを体験したり,小学校での学習
世界を置き換え合うなど遊びを通して学んでい
を体験したりと,小学生は遊びながら,幼稚園児
きます。
片づけの時,同じ形のものを分けたり並べたり,
は学ぶ意識で取り組んでいます。
小学校で・・・
形の同一性や用途ごとの仲間分けをしたりして
6
質問①
-池の鯉は何匹でしょう?-
まいもありがとうパーティーを開きました。ルー
問題は子どもの知恵が促されるように10の
ルは一つ,「分けることを考える」です。
数がわかるというのではなく,物事に興味関心を
飲み物とみかんをみんなで分けます。飲み物は
持つことを大切にしています。わざと動くものを
ジュースとお茶の2種類あります。液体のため,
数える事で,どうしたらうまく数えられるだろう
数で分けることは出来ません。どちらか好きなも
という考え方のプロセスを鍛えるための活動で
のを分けるグループもあればどちらも同じだけ
す。
分けるグループなど色々ありました。平等に分け
質問②
-大型テレビの大きさは,どれくらいで
ることを学びます。
しょうか-
みかんを分ける時には,見た目は一つのみかん
大型テレビの画面に先生が映っています。子ど
でも皮を剥けばいくつもの房に分かれ,一つの物
も達の枠組みで考えると,映るということは中に
が変化して二つ目の段階があることを学びまし
先生が入っており,テレビは先生よりも少し大き
た。
いはずであると思うでしょう。しかし,外にいる
机上の,黒板での勉強だと子ども達の自由な発
先生はテレビより大きい,何故だろうと不思議に
想は活かされません。どのように興味を持って学
思う気持ちを学習に向けるような活動です。
べるか,幼・小の学びや発達がつながるよう考え
幼稚園児と小学生が共に過ごす中で,さまざま
るのが私達の研究です。
な言葉や手法と出会いを体験し,その意味を共有
幼児は,一人で考えるより集団で物を考えます。
していきます。
小学生と関わる中で,みんなで考えると素晴らし
分からないからあの人に聞こうというように
い事ができると発見します。一人では考えられな
人と人がつながる,また,あの人に聞けば教えて
い事はみんなで考える,みんなで考える事は素晴
もらえるというように人と知識がつながり,図書
らしい,そういった有能感・自信を持たせること
館に行けばこんな事がわかる,学ぶってすごい,
が大切です。
成長するってすごいということと知識と知識の
授業の展開を一緒に考え,幼稚園・保育園(所)
つながりを知ってもらうために行っています。
の先生と小学校の先生が協同で授業するなど,是
幼稚園や保育園(所)の生活には,私たちが協
非やっていただきたいことです。
同保育でねらっていた内容の事柄がふんだんに
8.最後に・・・
あります。無意識の学びを子ども達に意識させる
教え子の20年後の今,現在の様子と当時の将
のではなく,先生方が意識化して学校に繋げるた
来の夢を収めたビデオレター(DVD)を見た後
め,説明する力を持たないといけません。白紙の
に・・・
「私は先生方の仕事ほど,高貴で,気高くて,
まま小学校に行っているのではなく,こんなにい
っぱい学んでいますよということを伝えなくて
優れていて,素晴らしくて意味のある仕事はない
はいけないのです。
と心から思っています。しかし,それは人に分か
物事をよく見たり,育てたり,触ったり,作っ
りにくいことです。説明する言語と熱意をうまく
たりする中で,物事の詳細を捉えたり,色々な物
言葉に乗せ,保・幼・小がうまくつながって,子
を組み合わせることで規則性を感じたりするこ
ど も 達 が 幸せ に な る こと を 心 か ら願 っ て い ま
とは科学の元となります。同じ形や種類に仲間分
す。」
けすることは,数や量の概念につながっていきま
す。そして,物事には奥があることを知り,不思
議の心を育てることになります。
事例⑦
-さつまいもありがとうパーティー-
いただいたサツマイモのお礼をするため,さつ
7