第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 講演 初級文法シラバスからの提案 北條 淳子(KITAZYOU Junko) 国際交流基金 / パリ日本文化会館 シラバスとは、あるコースの中で<何>を教えるか、教える事柄の中心をなすもので<教授 細目、教授項目と訳されている(はじめての日本語教育-高見沢孟著による)>、語学教育 では、文法、構造、技能、場面、機能、トピック、タスクなどのシラバスがある。 1. 文法シラバス 2.構造シラバス 3.技能シラバス 4.場面シラバス 5. 機能シラバス 6.主題シラバス 7.タスク型シラバス これらは、言語習得研究の発展によって自然発生的に生まれてきたのではあるが、現在で は、学習者の学習動機、学習目的、学習環境、学習レベル、学習時間、学習者の気質、年 齢などによって、さまざまに組み合わされて使用されている。つまり、教授法は多様化してい るのだが、それは、新しいものがよく、古いものが遅れているという種類のものではなく、それ ぞれの教師と学習者が現在と過去にさかのぼっておかれている環境や、教育の経験、一人 一人の個性、気質、国民性、土地柄、家庭環境など、さまざまな要因から、それぞれが自ら に合ったものを求め、その中で学習が進められていく、という形が望ましいと考える。 文法シラバスによる、文法・翻訳法という教授法は、かなり長い間言語教育の基本のように 行われており、書かれた言語の正確な理解ということでは、今でも重要な教授法である。特 に、その言語環境にないところでは、つまり、母語以外の言語として母国以外でその言語を 学習する場合には、今でも行われている教授法である。その教授法によって教えられた学習 者は、正確な文法の知識を持っており、書かれた文や文章を正確に理解することができる。 しかし、その学習者にとって起こりうる、ある問題がある。学習レベルがかなり上がった段階で も、話すことが難しいということである。 この世界において、人々の往来がかつてないほど盛んに行われている現在、人々の共存の ため、人々の間に誤解による摩擦を起こさないために、人と人とのコミュニケーションは大切 である。文法中心のシラバスから、どのように広げていけばよいのか、現在の会話表現研究 を参考にしながら、可能な道を探りたいと思う。 <初級文法シラバスからの提案> I. 初級文法の項目 II. 会話表現教育のための談話機能項目 話し手と聞き手、 聞き手、 話し手 III. いくつかの機能表現例 IV. 実際の練習例-ロール・プレイによる方法 V. 文法シラバス中心の初級学習の中での会話表現指導 150 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 I.初級の文法項目 初級の文法項目については、国際交流基金国際日本語センター作成の<教科書を作ろ う 改訂版>の項目を参照することにする。 II.会話表現教育のための技能項目 まず、話し手と聞き手の二人のやり取りによる会話を考えてみる。会話には始まりと終わり があり、その中に伝達内容が盛り込まれる。伝達内容は1つであったり、複数であったりする。 1つの会話の始まりから終わりまでを談話とし、その中の1つの伝達内容を含むものを話題と する。つまり、談話の中に単数ないし複数の話題があって、1つの談話が構成されているの である。1つの話題について、話し手は、話材を提供する、つまり伝達内容を伝える側であり、 聞き手はそれを受ける側である。この両者は固定的ではなく、談話の途中で入れ替わったり することもありうる。一般的な会話では、話材の提供には、文法としては初級文法項目がほと んど用いられ、中級段階の文法が表れることは非常に少ない。その代わり、話し言葉として、 談話や話題の始まりと終わりに用いられるきまった表現や、話題を効果的に伝えるための表 現は必要である。 1. 話し手と聞き手に関すること 両者ともに、談話を構成するためには、語彙とそれに関係する文法の運用能力が、まず必 要である。そして、談話を展開するための、接続詞などの接続表現、<いく、くる、あげる、も らう、くれる>などの相互行為指標表現、<こ、そ、あ>などの指示表現、終助詞、倒置表現、 重複表現、反復発話などを用いる能力が必要である。 そして、話し手、聞き手相互の距離を示す言語機能、丁寧語、尊敬語、謙譲語など改まっ た会話、くだけた会話ができなければならないし、また、相手との共通点を探して話題にした り、私的な話題、回避したい話題を知り、それを避けるようにすることも必要である。 最近の研究では、話し手が聞き手を共通の領域に引き入れようとして、<あの映画見まし た?>とか<こちらの大学に通ってるんですか>などの自分の縄張りを示す指示表現を用 いたり、<どこで教えていらっしゃるんですか>のように<ノダ>を加えることによって話に親 近感や温かみをもたせたり、主題の最後には、その話に対する評価表現でまとめ、その直前 には、自分が話した内容を自ら振り返って<でもね、すごかった>とか<うんうん、すばらし かった>などのように<でもね、うんうん>などを加えて表現することが知られている。 2. 話し手の場合 話し手は、主題の内容を伝達しなければならないから、事実や意見、態度などを的確に伝 える技能が必要である。それには、文と節、文と文の関係を示す<と、たら、から、ので、とき、 それから、だから、そしたら>などの的確な使用、感情や態度を示す<―てもらう、―てしまう、 -ちゃう、せっかくーのに、やっぱり、ぜひ>などの使用、類推する<かもしれない、んじゃな いかな、わけだ、はずだ、たしか>など、話を生き生きとさせる<-てくる、-しだす、-てみ る>など、話を伝える<―って言ってたんだけど、らしい>など、発話をやわらかくする<み たい、なんか、かな?、(お茶)でも>など、そして、<つまり>などによる言い換えや、倒置 151 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 表現、いいよどみなど、発話を滑らかにする言い方も必要になる。 3. 聞き手の場合 聞き手にとっては、話し手が話しよいように導く<あいづち>、<ほう、そう>などの応答詞、 <そうか、昨日行ったのか>のような、話し手の発話を繰り返す反復発話などあいづち的表 現が必要である。 また、<よかったね>のような評価表現、<つまり、こういうこと?>のような要約表現、自 分の意見を加える<私はこう思うけどね>、相手の話をさえぎる<でもね、だけどね>などが ある。 聞き手は、話し手の話の内容を確認するために質問したり、聞き返したり、沈黙を守って話 を聞き続けることもあり、話の内容が気に入らない場合、自ら話題を変えるという方法をとるこ ともある。 III.いくつかの機能表現例 次に、いくつかの機能表現例を示す。 1.依頼表現 始めに、依頼表現である。 日本語の場合、丁寧さや尊重意識の確保が、円滑なコミュニケーションにつながると言う意 識が強い。依頼表現は、相手が年下、目下の場合は別として、相手に何かを頼むのだから、 相手の立場を尊重してより丁寧に話を運ぶ必要がある。それは、言葉で敬語表現を用いると いうことだけでなく、どんな談話展開をするか、どんな話し方や態度で相手に接するかといっ た様々な言語、非言語行動が考慮の対象となる。 次の例は、会話ではなく、学習者の書いたメモである。説明の都合上各文に数字をつける。 <学習者の依頼メモ> 1) ___先生 お早うございます。 2)私はクラスのXXと申します。 3)お元気でいらっしゃいますか。 4)今日、私は3回研究室へ参りましたが、先生はいらっしゃらなかったです。 5)私は来年大学へ入りたいですが、明日暇だったら、先生が私に推薦状を書いてください ませんか。 6)明日もう1度来るつもりです。 XX ここには文法的な誤りはほとんどないが、目上への依頼の言葉としては不自然に感じられる 箇所がある。1)は、挨拶表現、2)は、教師は学生の名前はすでに知っているだろうと思われ る、3)は、メモの用件とは関係がないという理由で、いずれも不必要である。 4)のように、過去の事実を述べることは失礼になることがある。5)の前半<大学へ入りたい >と<推薦状を書いて>もらうことが、このメモの要点である。<明日暇だったら>と言うが、 暇でなくても書いてもらう必要があるし、<私が先生に>はすでにわかっていることなので、 不要である。<書いてくださいませんか>より<書いていただけませんか>のほうがより丁寧 152 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 になるだろう。6)は自分の都合を述べたものなので不要である。 次にメモの訂正版を示す。 <依頼メモの訂正版> 研修生のXXです。大学入学のための推薦状をお願いしたいのですが、書いていただけ るでしょうか。 期限は2週間後なので、できれば、来週の月曜までにお願いしたいと思っております。 お忙しいところ、申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。 お返事をうかがいに明日の午後、研究室に参ります。 月 日 XX メモであるから、全体に簡潔で分かりやすく、それに丁寧さを保たなければならないので、 学習者には、難しいであろう。モデルを示しての練習が必要であると思われる。 次の例は、<借りる>と<貸す>、<理由のカラ>の練習として出ていたものに、論者がE を加えたものである。 <友だちにマンガを借りたい> A: そのマンガ、読み終わったら見せて。 B: うん、いいよ。 C: 少し待って。すぐ読み終わるから。 D: あ、ゴメン。友だちに借りたものだから。 E: 人に貸すと、汚れるから、貸さないことにしてるの。 Aの依頼に対して、B、C、D、Eの4つの返事がある。B、Cは依頼を受け入れるものだから 問題はないが、D、Eのように依頼に応じない場合、次にどのような表現で応じるか、を教室 で話題にすれば、それは会話の練習になる。たとえば、次のようである。 <本にカバーをつけて汚さないように読むから> <ちゃんと手を洗ってから読むから> <この飴、あげるから> <借り賃、払うから> <じゃあ、これから僕のも絶対貸してやらない> などが、考えられる。 2.誘い表現 誘いという行為が行われる場合、誘う側は、前もって誘うことを計画するが、受け手にとっ ては、大体において突然やってくるものであり、そこには、ためらいやためらいに似た行動が 起こる。そのため、実際の会話では、誘いという行為は1回のやりとりで終わる場合は少なく、 2回目、3回目と誘い行為を続けなければならないことが多い。2回目以降の誘いでは、相手 の反応を見て即時的に応答する必要が生じ、事情説明、説得など、コミュニケーション能力 が大きく問われることになる。 次は、女子学生が男子学生を大学祭のコンサートに誘う会話の例である。Aは女子学生、 Bは男子学生、数字は説明のために、会話の流れを示したものである。 <電話してコンサートに誘う> 153 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 1A: こんにちは。お久しぶり。 2B: あー、久しぶり。元気? 3A: うん。 4B: 大学はどう? 5A: うん。楽しいよ。 6B: 今日は、何? 7A: 実は、来月大学祭があるんだ。 8B: ふーん、大学祭があるんだ。 9A: それで、大学祭でコンサートやることになって。 10B: そうお、いいねえ。君、ヴァイオリンやってたよね。 11A: そうなんだ。それで、参加することになって。来てもらえないかと。 12B: そう。いつ? 13A: 来月はじめの土日。 14B: 来月初めの土日? 友達と京都へ行くつもりなんだけど。 15A: そうか。もう計画決まってるのか。 16B: いや、まだ。切符は買ってない。 17A: それなら、旅行を少し延ばしてくれないかな。 18B: そうだねー。友だちともぼつぼつ話しているんだけど。 19A: 友だちも誘って、まず大学祭のほうへ。 20B: そういうけど、みんながクラシック好きというわけじゃないからね。 21A: 曲は、ポピュラーなものばかりなんだよ。 22B: そうか、せっかくの君の頼みだからね。断れないよね。 23A: そうだよ。よろしくお願いします。 24B: でも、友だちに聞いてみないと。 25A: そうね。わかった。 26B: 来週はじめに電話くれる? 27A: はい。また、電話します。いいお電話、期待してます。 28B: はーい。君もがんばってね。(笑い) 29A: ありがとう。会場で会えたら、うれしいな。 30B: うん。わかった。じゃ、また。 この会話では、始めの挨拶が1)から5)、誘う前の状況説明が7)から10)、誘いー1が11)、 誘いー2が17)、誘いー3が19)、誘いー4が21)、誘いー5が23)であり、その間に、断りー 1が14)、断りー2が18)、断りー3が20)、断り(ためらい)ー4が24)入り込み、最後の挨拶 的表現26)から30)でこの会話は終わっている。 つまり、会話にははじめと終わりがあり、また、誘い表現の場合、このように何回か断りの形 があったりして、進むことが多いのである。 次の例は、<―ましょうか>で始まるので、誘い表現のように見えるが、実は断りのニュアン 154 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 スが強い。A、Bは買い物客、<店>は店の人である。 <果物屋の前> 1A: りんごを買いましょうか。 2B: ええ。 3A: これは? 4B: 古そうですね。 5A: こっちは? 6B: おいしくなさそうですね。 7A: そっちは? 8B: 高そうですね。 9店: 新しくて、美味しくて、安いですよ! 1) 、3)、5)、7)の問いかけに対して、4)、6)、8)のように<そうだ>を伴 た述べ方によって、ことごとく、反対し、断っている。最後にたまりかねた店の人が出てきて< 新しくて、美味しくて、安い>ことを述べたてるというコミカルなオチが付いている。 <試合に誘う> A: 明日、雨でも行くよね。 B: もちろん、行くよ。 C: 雨でも絶対に行く。 D: 全然くもがないから、多分降らないよ。 E: 雨だったら、濡れるからあまり行きたくない。 F: 雨が降ったら、寒そうだから、行かない。 この場合も<友だちにマンガを借りたい>と同様、E、Fのように断る場合には、その次の 展開を用意しなければならない。 3.ほめ・不満表現 目下、年下のものに対して、ほめ表現を行なう場合は、問題が少ない。 目上、年上の人に対して、ほめ行為を行なおうとする場合は、直接の感情表現は避けるのが よいとされる。 不満表現も、目下、年下の場合は、直接感情的な表現を出しても問題が少ない。一体に 不満表現は質問の形を取ることが少なくない。<どうして宿題やってこなかったんですか? ><あなた、昨日どこにいらしたの?>のように、より丁寧な形を取ることもある。また、20分 も待たされて怒っている社員が、課長に、<会議はもう始まっているんです>のように、現状 を不満に変えて述べる表現をとることがあるが、それは、一般に非日本語母語話者には理解 しにくい表現のようである。 4. 場面転換 次の例は、全国ショッピングセンター接客ロールプレイングコンテストで上位入賞になった 表現の例として、挙げられていた。 靴売り場で、靴といっしょにその付属品を薦めている店員と、客である姉妹との会話である。 155 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 姉: あー、あったよねー、家にねー。 店: だいじょうぶですか? 妹: そんときでいい。そんときでいい。 姉: じゃ、いいです。 店: はい、ありがとうございます。どうぞ、おかけになってお待ちください。 最終的に買うことを拒否された店員は、この会話の最後を<どうぞ、おかけになってお待ち ください>と、鮮やかに会話の場面を転換している。 IV. 実際の練習例-ロール・プレイによる方法 ロールプレイによる会話の練習は、ロールプレイ自体、教育用に作りだされたものだから、 実際のコミュニケーションの形を教えるのにはそぐわないという主張があるが、学習者の日本 語力が高くなく、学習時間が限られている場合には、ロールプレイは有効な教育手段である と考える。しかし、はじめからモデル会話を与えるのではなく、学習者とともに、モデル会話の 形を質疑応答しながら作りつつ、授業を進めていけば、その間に学習者の中に、モデル会 話についてのイメージは作られるであろう。日本語母語話者が回りにいない環境では、まず モデルを示し、その次に学習者に、モデル会話にのっとった形のロールプレイをさせ、慣れ てきた段階で、ロールカードを教師が与えたり、学習者が自分で作ったりと言う作業になるの であろう。 丁寧な順を追えば次のようになる。ロール・プレイは、まず、表現形式の確認から行う 1) いろいろな場面を想定してみる。 2) それに応じた表現を各人が考えて,それぞれに発表し、討論する。 3) それが、ある場面の中で使うのにふさわしい表現かどうか、検討する。 4) いくつかの場面での会話表現ができたところで、ロール・プレイをする。 5) ロールプレイを行う上で、相手、場の設定は、学習者に任せる。 2. ロール・プレイの構造化 1) モデル会話の提示-場面をイメージさせることが大切である。 2) 第1段階のロールプレイ(会話の展開を示したもの)- 基本練習として必要、会話の型を習得させる。 3) 第2段階のロールプレイ(学習者の判断で会話を展開するもの)-学習者に作らせる。で きるだけ現実に近い状況や場面で、自然な表現行為、理解行為ができる ようにする、初級のはじめの段階では難しい。 3.内省 1) 第1段階の内省としては、文法、発音、イントネーションなど、表現形式の正確さに重点を 置く。 2) 第2段階の内省は、コミュニケーションの仕方に重点を置く。 相手に不快感を与えないような配慮のある表現行為ができたか。 相手に応じてもらえるような内容の工夫ができたか。 相手の反応を見ながら会話展開ができたか。 156 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 3) コミュニケーション主体の表現意図、理解意図にずれが生じた場合は、双方に 確認する必要がある。 V. 文法シラバス中心の初級学習の中での会話表現指導 特に文法から入った学習者にとって、会話と言うのは、文法から離れた別の領域の、もの、 取り付きにくい難しいものと言う意識を持っていることが多い。このような場合、その学習者を 教えている教師も同じ感じを持っているのではないかと思う。教師が苦手だと思うと、それは 大体において学習者に雰囲気として伝わり、クラス全体の空気になりがちである。 そのように、教師が、会話を特別ものと考えたり、扱かったりしないことが、まず第一だと思 う。普通、会話というのは、家族や友人と何気なく交わすものなので、そのような感じでいくつ かの短い表現を、モデルとして、教師が用意したらよいと思うのである。その内容としては、< 朝の挨拶><休みの日のこと><何かをクラスメートに売る><身の回りのものを宣伝する ><友だちの持っているものを借りたい><不得意なスポーツの技術を向上させたい>< 上手にやせる方法><友だちの誘いを上手に断る方法>などがあろう。 例えば<朝の挨拶>では、話し手の表現として、<お早う、元気?、昨日はよく眠れ た朝何時に起きたの?、朝寝坊しなかった?、宿題やってきた?>などがあり、聞き手の表 現としては<うん、元気。、あんまり元気じゃない。、少し頭が痛い、。朝寝坊して朝ごはん食 べられなかった。、遅刻しちゃった。、宿題忘れちゃった。>などが考えられる。 すぐに全部を日本語で表現するのが無理だろうから、学習者の母語で表現させて、それを 学習者と一緒に一語一語日本語にし、クラスでの共同作業として文を構成させるのもよいで あろう。なるべく学習者の意図を尊重し、教師がはじめから談話のはじめから終わりまでを形 つくって学習者に手渡すのは、避けたい。学習者の意図は何よりも大切にしなければならな いと考える。 これらの会話モデルは、学習者の既習文法項目に合わせて作ることが望ましい。しかし、 その条件を満たすことは難しい。未習の文法、語彙が少し入るのはやむをえないが、未習の ものは10%を超えると学習者を混乱させる。未習の事については、学習者の母語で説明を 加えることになる。 全体として学習時間が少ないのだから、5分ぐらいあればできることを考え、少しづつ積み 重ねていくことが大切である。 扱う内容は、あまり一般的なこと、例えば<日本の夏>のような一般的な話題は避けたほ うがいいし、あまり個人的なこと、家族のことなどは、プライバシーの侵害になるので、避けた ほうがいいだろう。 多くの場合、学習者は文法を正確に学習し、日本語についてかなりの知識をもっているの だから、会話表現も慣れれば、比較的容易に扱うことができるようになるのではないかと思う。 何よりも苦手意識を払拭することが先決であろうし、高校生であれば、BACの問題に会話に 近い問題が出れば、その方向の学習も進むようになるのではないかと期待している。 157 第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ 8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006 参考文献 1.<教科書を作ろう せつめい編 改訂版 国際交流基金> 2.<福島恵美子・吉川香緒子<<待遇コミュニケーション教育におけるロールプレイの一 考察>> 早稲田大学日本語教育実践研究2005年第2号 早稲田大学日本語教育研究 科> 3・<蒲谷宏 待遇表現研究室<<待遇表現とは何か>>早稲田大学日本語教育研究20 03年第2号> 早稲田大学日本語教育研究科 4.<中井陽子他 談話レベルでの会話教育における指導項目の提案> 世界の日本語教 育2004年 14号 国際交流基金 5.<佐々木瑞枝・門倉正美 会話のにほんご(ドリル&タスク)>1997 ジャパン・タイムス 社 6.<水谷信子 日本語スキット集> 1993 ジャパン・タイムス社 158
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