FACULTY OF AGRICULTURE KAGAWA UNIVERSITY 応用生物科学科 櫻庭研究室 2008年4月に、徳島大学より赴任しました。これまで10年あまり、100℃付近の 熱水中で生育する「超好熱菌」という非常に変わった微生物を対象に研究を行って います。自然界では、これらの菌は火山地帯にある源泉や地獄のようなところに好んで生息している ため、超・好・熱・菌と呼ばれているのです。何しろこんなに熱いところに棲んでいるのですから、 この微生物が体内で生産する酵素は沸騰水のなかでもまったく壊れません、非常に頑丈に出来ていま す。ところがこの酵素をつくっている材料を調べますと、我々の体内の酵素と全く同じアミノ酸から 作られています。つまり、材料は同じでも かたち(立体構造) が変わるだけで、片方は熱水中で ゆで卵のように調理されてしまい、もう一方はぴんぴんしているというわけです。この超好熱菌酵素 の不思議さに魅せられて、その立体構造を調べ、安定性の要因をさぐる研究を進めています。また、 この頑丈さを産業面になんとか利用できないものかと想像をめぐらせています。 我々のような常温生物の酵素は不安定で、細胞から取り出すと非常に壊れやすく、なかなか応用する ことが難しいものが多いです。一方、超好熱菌は丈夫な酵素の宝庫ですので、役に立つ酵素が見つかる かもしれません。このような発想で、有用性が期待できる酵素を探してきました。いろいろな有用酵 素の候補がありますが、最近は「色素依存性デヒドロゲナーゼ」という酵素に注目しています。この酵 素は、実は人工の酸化還元色素を利用して反応基質(アミノ酸、有機酸、糖等)を酸化するという非常に 面白い性質を持っています。この性質を利用すると基質の電子を電極へ直接導入できることから、基 質濃度を電気化学的に簡便に計測するバイオセンサーの素子や生体物質を起電力とするバイオ電池の 素子としての応用が期待されています。常温に生育する微生物からも色素依存性デヒドロゲナーゼが 見つかっていますが、総じて不安定であり、応用は遅々として進んでいません。そこで登場するのが超 好熱菌の酵素です。とにかく、100℃でも茹で上がらない がキャッチフレーズですから、超好熱菌が 色素依存性デヒドロゲナーゼを持っていれば、これはひたすら頑丈にできているに違いない。という ことで、いろいろな超好熱菌を対象に探した結果、これまでにD-プロリン、L-プロリン、D-乳酸などを 基質とする新しいタイプの色素依存性デヒドロゲナーゼを見出しています。期待通り、これらは熱に 対してだけでなく、酸・アルカリや有機溶剤などに対しても非常に高い耐性を持っていました。さらに、 実際に酵素を電極に固定化し応答を調べますと、超好熱菌の酵素であるにも関わらず常温で十分利用 可能であることや、センサーの加工時に劣化が起こりにくいことがわかってきました。現在、この色素 依存性デヒドロゲナーゼの構造解析にもチャレンジしています。安定性に優れた超好熱菌の酵素を利 用することで、バイオセンサーやバイオ電池などの応用開 発に新たな展開が期待できると考えています。現在の研究 室の体制は、学部生数名と大学院生1 人だけでありますので、まだまだ時間 はかかりそうですが、学生たちは日に 日に頼れるスタッフになりつつありま す。彼らと一緒に超好熱菌酵素の魅力 にせまり、さらに応用面の可能性をさ 超好熱菌(左)とその酵素(右:立体構造) ぐっていきたいと思います。 7
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