研究紀要

学生が教師役を務める
授業の学習に及ぼす効果
摺崎 宏・宮坂 綾香・鍵和田又 一
宮原 佳代・長岡 寿和・荻本 庸夫
斉藤 清男・石井 實・樋口 春三
(大分短期大学園芸科)
Effects of Teaching by Students on their Learning
Hiroshi SURIZAKI, Ayaka MIYASAKA, Matakazu K AGIWADA,
Kayo MIYAHARA, Toshikazu NAGAOKA, Tuneo OGIMOTO,
Sugao SAITO, Minoru ISHII, Haruzo HIGUCHI
要 約
今回,学生が教師役を務める授業を試行して,授業の有効性,及び学生の学習意欲向上について
検証した.
本授業を2009年,
「人―農業・園芸・環境関係論」
(1単位,必修科目,全8回,通年)の授業で大
分短期大学園芸科の1年生47人を対象に実施した.授業では10人の学生に教師役を務めてもらい,全
受講生がアンケートにより授業評価を行った.
その結果,
「学生が先生役をできるなんてすばらしい」が本授業前より有意に増加し,
「学生が先生
役をできるのか疑問だ」と「授業は先生から教えてもらいたい」が有意に減少した.また,
「通常の授業」
に比べて学生のやる気が上昇し,勉強が好きになったと答える学生が多くなった.
以上の結果より,学生が教師役を務める授業は,学生の学習意欲の向上に効果があることが示唆さ
れた.
キーワード:学生主体型授業 学習意欲
緒 言
れている「全入時代」を迎えた今日において,学生の
勉学に対する目標や動機が希薄な状況では一方向型の
授業の教授方法は,教師から学生への一方向型の
「講義」での授業には限界が生じているものと考えら
「講義」が依然として主流をなしている.
「講義」によ
れている1).一方で,一方向型の「講義」は授業がマ
る授業は,一度に大勢の学生に大量の知識や情報を伝
ンネリ化,ワンパターン化して学生の学問に対する興
達できるが,
「講義」を受ける学生の自覚,体力,学
味関心を引くことが難しいとの指摘もある2).
習意欲が前提となっており,学生の質の低下が懸念さ
そこで,今回,短期大学の授業で学生に教師役を務
本研究の一部は,大分短期大学研究紀要及び園芸学会平成22年度秋季大会で発表した.
1
第1表 授業「人―農業・園芸・環境関係論」の目的(シラバスより抜粋)
授業の目的と到達目標
園芸学は花卉,野菜,果樹などの生産と利用に関する科学として発展してきました.近年は,これらに加え
て園芸植物のもつ多様な機能を利用して,都市の緑化・美化,地域環境の改善あるいは社会福祉の向上などを
通して,LOHAS(Life styles Of Health And Sustainabity,健康と持続可能性)を志向するライフスタイル
の実現に寄与しようという気運が高まっています.この関係論は,これまで学んだ知識や技術をベースとし,
さらに視野を拡げて,人と農業,園芸,環境,福祉,文化などとの関係を多面的に捉え,実学的に学習範囲を
拡大しようとするものです.ここでは園芸学のみに関わらず農業全般との関連をマクロに捉えてさらに人との
関わり合いを考えてみます.そして,園芸が農業全体の中で重要な位置関係にあることを理解します.
第2表 「人-農業・園芸・環境関係論」の授業計画
第1回 本授業についてのオリエンテーション,教師役の学生の選出,授業前アンケート
第2回 プロローグ
第3回
第4回
第5回
第6回
第7回
学生が教師役を務める授業①(人と昆虫)
テーマ:
「暮らしの中の昆虫たち」
,
「昆虫が身を守るふしぎな力」 学生が教師役を務める授業②(人と森林)
テーマ:
「森にすむ小さな敵 ~マツノザイセンチュウ~」
,
「森の不思議な働き ~フィトンチッド~」
学生が教師役を務める授業③(人と花)
テーマ:
「植物がアクシデントから身を守る仕組み」,「バラの特性と歴史」
学生が教師役を務める授業④(人と土)
テーマ:
「連作障害の原因と対策」
,
「肥料成分(硝酸態窒素)による水質汚染」
学生が教師役を務める授業⑤(人と農業)
テーマ:
「戦後の農地改革と現在の農地」,「農業と環境 ~環境を保全する農業~」
第8回 エピローグ,授業後アンケート
めてもらい,プレゼンテーションにより学生が学生と
教員に授業をするという学生主体型授業を試行して,
本授業の有効性,及び学生の学習意欲向上について検
証した.
研究方法
1.授業の実施方法とテキストの選定
授業の試行実験は,2009年,
「人―農業・園芸・環
境関係論」(1単位,必修科目,全8回,通年)の授業
で大分短期大学園芸科の1年生47人を対象に実施した.
指導教員による導入(5分)
➡
学生による授業①(発表15分,質疑応答15分)
➡
学生による授業②(発表15分,質疑応答15分)
➡
復習(10分)
➡
小テスト(5分)
➡
指導教員によるまとめ(5分)
第1図 学生が教師役を務める授業のフローチャート
本授業の目的を第1表に,授業計画を第2表に示す.教
文協)
の
「昆虫と人間編」
・
「森と人間編」
・
「花と人間編」
・
師役は10人の学生に担当してもらった.教師役となる
「土と人間編」
・
「農業と人間編」
(各10巻)とした.近
学生は第 1 回目の授業で希望者を募って選出され,希
年,園芸に関する知識・技術は,細分化,ミクロ化が
望者が教師役の募集定員の10人に満たない場合は,授
進み,園芸の全体像あるいは人間とのかかわりなどマ
業を担当する教師から推薦してもらった.
クロ的視点からの学習が困難になっており,また,農
全8回の授業のうち,学生が教師役となる授業は5回
業・園芸における生産,流通,利用,文化,経済,コ
で,各回の授業では「昆虫と人」
,
「森と人」
,
「花と人」
,
ミュニティなどの相互関係を学習する機会も少ないの
「土と人」,「農業と人」の5つの分野でそれぞれテーマ
が現状である.本参考テキストは,マクロ的視点から
を設定し,それぞれの授業に1名ずつ異なる指導教員
農業・園芸を学習するのに適したものである.各授業
をあてた.指導教師の専門分野は農学,
造園学,
樹木学,
におけるテーマは,本参考テキストの中から教師役の
花卉園芸学,土壌肥料学などであり多様である.指
学生と指導教員が話し合いの上選定した.
導教師には教師役となる学生の指導を事前に行っても
学生が教師役を務める授業のフローチャートを第1
らった.参考テキストは
「自然の中の人間シリーズ」
(農
図に示す.各回の授業ではそれぞれ2人の学生に教師
2
役を務めてもらった.授業はパワーポイントを用いた
師役に立候補した.
プレゼンテーションにより行い,教師役となる学生の
自ら教師役に立候補した学生群の平均GPAは3.11
プレゼンテーションの時間は1人あたり15分とした.
(標準偏差0.09)で,教師役に立候補しなかった学生
質疑応答は,教師役の学生と聞き手側の学生との双方
群の平均GPA3.06(標準偏差0.05)よりも若干高かっ
向の活発な意見交換を行わせるため,それぞれのプレ
たものの有意差は認められなかった(第3表)
.
ゼンテーションに続いて15分間ずつ設けた.その後,
授業の理解度を確認するため10分間の復習の後,小テ
第3表 自ら教師役を希望した学生群と希望しなかった
学生群における成績(GPA)の差異
ストを実施した.なお,教師役の学生には授業の1週
成績
自ら教師役を
希望した学生群
(n=7)
Grade
Point
Average
(GPA)z
3.11±0.09
間前までに授業で用いるレジメ(資料集)を作成させ,
予め受講生に配布してもらって十分な予習ができるよ
うにした.
2.教師役を希望した学生群と希望しなかった
Z
自ら教師役を
希望しなかった t-検定
学生群(n=40)
3.06±0.05
n.s.
1年前期終了時点での成績
学生群の成績
自ら教師役を希望した学生群と教師役を希望しな
2.授業前後の授業イメージの変化
かった学生群(聞き手側の学生と教師の推薦により教
授業イメージに関する授業前後のアンケート結果を
師役となった学生)との間に成績面での有意性がある
第4表に示す.
のかを確かめるため,両群の成績をt検定により統計
授業前のプラスイメージ(51.2%)とマイナスイメー
学的に比較した.学生の成績には1年前期終了時点で
ジ(48.8%)は拮抗していたが,授業後ではプラスイ
のGPA(Grade Point Average)を用いた.GPAは単位
メージは有意に増加(65.6%)し,マイナスイメージ
修得した履修科目の単位数にそれぞれGrade Point(
「秀:
は有意に低下した.プラスイメージについてみてみる
95~100点=4点」
,
「優:94~100点=3点」
,
「良:65~
と,授業前のプラスイメージで最も多かったのは「お
79点=2点」
,
「可:60~64点=1点」
)を乗じ,その合
計を修得単位数の合計で除すことにより算出した.
もしろそうだ」
(19.4%)であり,次いで「楽しみだ」
(17.8%)
であった.
「先生役を是非やってみたい」
や
「学
生が先生役をできるなんてすばらしい」と答えた割合
3.アンケートの実施方法
は少なかった(それぞれ3.1%)
.しかし,
授業後は「先
学生の授業評価を,授業の前とすべての授業が終了
生役を是非やってみたい」
(9.0%)と「学生が先生役
した後に全受講生がアンケートにより行い,授業の実
をできるなんてすばらしい」
(11.2%)と答えた学生
施前と実施後のイメージについて調査した.授業イ
が増加し,特に「学生が先生役をできるなんてすばら
メージは授業に対して肯定的な内容のプラスイメージ
しい」は有意に増加した.
と授業に対して否定的な内容のマイナスイメージと
一方,マイナスイメージについてみてみると,授業
し,アンケート用紙に選択肢を提示してその内3つを
前のマイナスイメージで最も多かったのは「先生役に
上限として選択させた(重複回答).なお,アンケー
なるのは嫌だ」
(14.7%)であり,次いで「学生が先
ト実施時にはイメージの選択肢がプラスイメージに属
生役をできるのか疑問だ」
(12.4%)
,
「授業は先生か
するのか,マイナスイメージに属するのかは明示しな
ら教えてもらいたい」
(9.3%)であった.しかし,授
業後は,
「学生が先生役をできるのか疑問だ」
(5.2%)
,
かった.
教師役を務めた学生には教師役を務めたことに対す
「授業は先生から教えてもらいたい」
(2.2%)が有意
る感想についてアンケート調査を行った.アンケート
に減少した.授業前のマイナスイメージで最も多かっ
調査は各回の授業の終了時に行った.
た「先生役になるのは嫌だ」は3.5ポイント減少する
また,授業の最終回には,全受講生を対象に本授業
にとどまり,マイナスイメージの項目の中で最も高
に関するアンケート調査を行った.
かった(11.2%)
.
研究結果
「教師役を是非やってみたい」と「教師役になるの
は嫌だ」と回答した学生の自由記述(
「教師役をして
1.教師役の学生の選出結果と成績との関係
みたい理由」と「教師役をしたくない理由」
)を第5表
10人の教師役を募ったところ,7人の学生が自ら教
に示す.
「教師役をやりたい理由」は,自己研鑚,興
3
第4表 学生が教師役を務めるプレゼンテーション型授業における授業前後の授業イメージの変化
アンケートの選択項目(
( )は授業後の項目)
授業前
授業後
χ2検定y
プラスイメージ
(肯定的)
人z
%
人z
%
面白そうだ(面白かった)
25
19.4
29
21.6
ns
楽しみだ(楽しかった)
23
17.8
20
14.9
ns
ワクワクする(ワクワクした)
8
6.2
10
7.5
ns
教師役を是非やってみたい
4
3.1
12
9.0
ns
学生が教師役をできるなんてすばらしい
4
3.1
15
11.2
*
こういう授業を待ち望んでいた
1
0.8
1
0.7
ns
すべての講義がこのようなスタイルになればよい
1
0.8
1
0.7
ns
66
51.2
88
65.6
*
先生役になるのは嫌だ
19
14.7
15
11.2
ns
学生が教師役をできるのか疑問だ
16
12.4
7
5.2
*
授業は教師から教えてもらいたい
12
9.3
3
2.2
*
面倒だ(面倒だった)
8
6.2
12
9.0
ns
期待できない(期待通りではなかった)
5
3.9
7
5.2
ns
つまらない(つまらなかった)
3
2.3
2
1.5
ns
小 計
63
48.8
46
34.3
*
総 計
129
100
134
100
小 計
マイナスイメージ
(否定的)
z
:複数回答(アンケート用紙に選択肢を提示してその内3つを上限として選択させた)
y
:*は有意水準5%で有意,nsは有意でないことを示す
第5表 教師役をしてみたい理由,したくない理由
(回答した12人全員の回答)
「教師役をしてみたい理由」
学生1
学生2
学生3
学生4
学生5
学生6
学生7
学生8
学生9
学生10
学生11
学生12
大変そうだけど面白そうだから 将来,人に教える仕事に就きたいから
自分の興味のあることは教えることができるから
人前で話すときにあがらないよう練習させてほしい 自分のためになるから もっと自分のものに吸収していきたい
みんなにいろいろ伝えたい,興味をもってもらいたい 人前で話す練習になるから 人前に立って説明することができるようになりたいから 自分の知識がどの程度のものなのか試してみたいから 教師役をした方がより多くの知識が得られるから 興味のあることなら楽しくできると思う やってもわるくはないと思ったから 理由の分類
興味関心
自己研鑚
自己研鑚
自己研鑚
自己研鑚
知識伝授
自己研鑚
自己研鑚
自己研鑚
自己研鑚
興味関心
興味関心
(回答した15人中13人の回答,2人は理由が明確でなかったため割愛)
「教師役をしたくない理由」
学生13
学生14
学生15
学生16
学生17
学生18
学生19
学生20
学生21
学生22
学生23
学生24
学生25
4
人前に立つのは苦手なのでできればやりたくない 万人にわかりやすく説明するのが苦手だから.上がるから 教師役は大変そうだから 下準備が大変そう,実際に人前に出て説明できない
面倒だから.静かにゆったりとしていたいと普段から考えている 人前にでるのは得意ではないから 人前で発表するのが苦手だから 面倒だから
自信がないことはしたくない.人に教える技術がないから 準備にかなり時間がかかるから 人前で話すのが苦手だし,準備が大変そうだから 発表するのが苦手だから かなり緊張するし,質問されたら曖昧に答えてしまいそうだから
苦手意識
苦手意識
重荷意識
苦手意識 重荷意識
重荷意識
苦手意識
苦手意識
重荷意識
苦手意識
重荷意識
苦手意識 重荷意識
苦手意識
苦手意識
第6表 教師役を務めた学生への授業後のアンケート結果
質問項目
回答項目と回答者数(人)
大いに興奮を覚えた
「授業の準備段階で
興奮を覚えたか」
7
「調べることが
楽しかったか」
まあまあ興奮を覚えた
どちらでもない
あまり興奮を
覚えなかった
まったく興奮を
覚えなかった
3
0
0
0
大いに楽しかった
まあまあ楽しかった
どちらでもない
あまり楽しくなかっ
た
まったく楽しく
なかった
7
3
0
0
0
どちらでもない あまり勉強にならな
かった
まったく勉強に
ならなかった
「教師と学生の
大いに勉強になった
立場の違いがわかり
勉強になったか」
9
まあまあ勉強になった
1
0
0
0
まあまあしたいほうだ
どちらでもない
あまりしたくない まったくしたくない
「また機会があれば
教師役をしたいか」
是非したい 4
2
2
1
1
「授業の準備段階で
先生との接触回数は?」
6回以上
4~5回 2~3回 1回
0回
9
「先生に相談に行った
非常に親切だった
とき先生の態度は
良かったか」
9
非常に親しくなれた
「以前より先生と
親しくなれたか」
4
「先生の性格がわかり
友情を感じたか」
1
0
0
0
まあまあ親切だった
どちらでもない
あまり親切ではな
かった まったく
不親切だった
1
0
0
0
どちらでもない
あまり親しく
なれなかった
まったく親しく
なれなかった
まあまあ親しくなれた
4
2
0
0
非常に感じた
まあまあ感じた
どちらでもない
あまり感じなかった
まったく感じなかった
2
6
2
0
0
「担当した授業に対し よく取り組んでいた
受講者はよく取り
組んでいたか」
6
まあまあ取り組んで
いた
あまり取り組んで
いなかった
まったく取り組んで
いなかった わからない
(緊張して
しまってとても観察
する余裕なかった)
0
0
0
4
自 由 記 述
・前から昆虫は好きだったので準備から楽しくできた
・緊張した
・何を質問されるのかわからなかったので少し怖かった.発表は緊張した
・人前でしゃべる機会が普段ないので緊張した
・どんな話をしようか,どういう風に伝えようか考えるのは大変だったけど少
し楽しかった
・昆虫のまだしらないことを知れてよかった
・調べることは好きだ
・知らなかったことを知ることは楽しかった
・アレロパシーなど新しい知識が身についた
・自分が「コレ」と決めたものを深く掘り下げるのは大変だった
・自分だけで理解せず,みんなにわかりやすいように話す難しさ
・聴くのは良いけど,自分が伝えるとなると難しかった
・人前で話す機会は学校生活の中でも数えるほどしか
ないので経験を積みたい
・失敗したのでもうしたくない
・もう少し気安い場でならもう一度しても良いと思う
・改良点を細かく言ってもらえたが,自分がそれを反
映し切れなかった
・機嫌が良くなさそうな時に行くのは少し怖かった
・親しいというより話す機会は多かった
注)調査対象は教師役を務めた学生10人
味関心,及び知識伝授の3つに分類できた.また,
「教
3.教師役を務めた学生へのアンケート結果 師役をやりたくない理由」は,苦手意識と重荷意識と
教師役を務めた学生への授業後のアンケート結果と
に分類できた.
「教師役をやりたい理由」
で最も多かっ
担当者の自由記述を第6表に示す.質問項目「授業の
たのは,「知識を得たいから」や「人前に立って説明
準備段階で興奮を覚えたか」では,
「大いに興奮を覚
することができるようになりたいから」など自己研鑚
えた」が7人(70%)
,
「まあまあ興奮を覚えた」が3人
を積みたいという理由であり,12人中8人がこれに類
(30%)であった.人前で発表することへの緊張感を
する理由を挙げた.また,「面白そうだから」といっ
抱く学生がいる一方で楽しさを感じる学生もいた.質
た単なる興味関心を理由に挙げる学生は3人であった.
問項目「調べることが楽しかったか」では「大いに楽
一方,
「教師役をやりたくない理由」では,
「人前に立
しかった」が7人(70%)
,
「まあまあ楽しかったか」3
つのは苦手なのでできればやりたくない」や「発表す
人(30%)であった.準備作業を通じて知識を得るこ
るのが苦手だから」など15人中9人が人前に立って発
とへの充実感を得る学生が多かった.質問項目「教師
表することへの苦手意識を理由に挙げ,また,
「教師
と学生の立場の違いがわかり勉強になった」では「大
役は大変そうだから」や「準備にかなり時間がかかる
いに勉強になった」
が9人
(90%)
「まあまあ勉強になっ
,
から」など6人が教師役になって準備をすることへの
た」が1人(10%)であった.人に情報を伝える難し
重荷意識があることを示した.
さを示す学生が2人いた.質問項目「また機会があれ
ば教師役をしたいか」では「是非したい」が4人(40%)
5
第7表 全受講生を対象とした授業後のアンケート結果
質問項目
今後もこのような
授業を希望しますか
どのくらいの科目に導入すること
を希望しますか(質問「今後もこ
のような授業を希望しますか」
で
「是非希望する」
または「まあまあ
希望する」
と答えた人のみ回答)
「通常の授業」に
比べてやる気が出たか
この授業を通して勉強が
好きになりましたか
回答項目と回答者数 人(%)
是非希望する
まあまあ希望する
わからない
あまり希望しない
全く希望しない
6(13.3)
19(42.2)
10(22.2)
8(17.8)
2(4.4)
すべての授業
2/3程度
1/2程度
1/3程度
1,2でよい
0(0)
0(0)
3(12.5)
11(45.8)
10(41.7)
大いにやる気が出
た
まあまあやる気が出
た
変わらない
あまりやる気が
出なかった
全くやる気が
出なかった
3(6.8)
20(45.5)
21(47.7)
0(0)
0(0)
変わらない
あまり好きで
なくなった
全く好きで
なくなった
34(75.6)
1(2.2)
1(2.2)
大いに好きになった まあまあ好きになった
1(2.2)
8(17.8)
と「まあまあしたい」が2名(20%)で全体の過半数
入することを希望しますか」では,
「1/3程度の科目」
を超えたが「あまりしたくない」と「まったくしたく
が45.8%,次いで「1,2の科目」の41.7%,
「1/2程度」
ない」がそれぞれ1名であった.もっと経験を積みた
の12.5%が続いた.質問項目「今回の授業形式は「通
いという学生もいれば,発表が失敗したと思うのでも
常の授業」に比べてやる気が出ましたか?」では「大
うしたくないという学生もいた.質問項目「授業の準
いにやる気が出た」
(6.8%)と「まあまあやる気が出
備段階で先生との接触回数は?」では「6回以上」が9
た」
(45.5%)があわせて52.3%であり,
「あまりやる
人(90%),「4~5回」が1人(10%)であった.質問
気がでなかった」と「全くやる気がでなかった」と答
項目「先生に相談に行ったとき先生の態度は良かった
えた学生は一人もいなかった.質問項目「この授業を
か」では「非常に親切だった」が9人(90%),「まあ
通して勉強が好きになりましたか?」に対する回答で
まあ親切だった」が1人(10%)であった.質問項目「以
は「大いに好きになった」と「まあまあ好きになった」
前より先生と親しくなれたか」では「非常に親しくな
があわせて20.0%で,
「あまり好きでなくなった」と「全
れた」と「まままあ親しくなれた」
がそれぞれ4人
(40%)
く好きでなくなった」をあわせた4.4%を大きく上回っ
であった.質問項目
「以前より先生と親しくなれたか」
た.
では「非常に親しくなれた」と「まあまあ親しくなれ
た」がそれぞれ4人(40%)であった.質問項目「先
考 察
生の性格がわかり友情を感じたか」では「非常に感じ
1.教師役となった学生の選出結果と成績との関係
た」が2人(20%)
,
「まあまあ感じた」が6名(60%)
今回の試行では,10人の学生に教師役を務めても
であった.授業の準備を通じて教師の性格的な一面を
らった.この内7人が自ら教師役を希望した.自ら教
発見した学生がいた.質問項目「担当した授業に対し
師役を希望した学生群とそれ以外の教師役を希望しな
受講者はよく取り組んでいたか」では「よく取り組ん
かった学生群の1年前期終了時点での成績を比較した
でいた」が6人(60%)であったものの,
「わからない(緊
が,有意な差異はみられなかった.自ら教師役を希望
張してしまってとても観察する余裕がなかった)
」が4
した学生群の学習意欲は教師役を希望しなかった学生
人(40%)であった.
群よりも高く,成績が良いであろうと仮説を立ててい
たが,今回はこの仮説が棄却される結果となった.
4.全授業後のアンケート結果
鈴木3)は,学ぶ意欲は「起こした行動」の有無だけ
全ての授業が終了した後に受講生全員を対象に行っ
で判定することは難しく,学習に対してより慎重な態
たアンケート結果を第7表に示す.質問項目「今後も
度についても十分な分析が必要であるとしている.今
このような授業を希望しますか」では,
「是非希望す
回の試行では,
「起こした行動」とは自ら教師役を希
る」と「まあまあ希望する」があわせて55.5%で,
「全
望したことである.しかし,教師役を希望しなかった
く希望しない」と「あまり希望しない」をあわせた
学生の中には教師役をやってみたいと思っているが,
22.2%を上回った.質問項目「どのくらいの科目に導
何らかの理由で希望を申し出ることができなかった学
6
生がいる可能性があり,このような学生に学習意欲が
が「大いに好きになった」
,
「まあまあ好きになった」
ないとは言えない.教師役を希望することと成績との
と答えた.
相関がみられなかったのは,教師役を希望しなかった
これらの結果から,本研究でも身近な同級生が教師
学生群における学習意欲の高い学生の埋伏が一原因と
役を務めたことで,教師役の学生と聞き手側の学生双
なっているのではないかと考えられた.
方において社会的関係性に関わる自己効力を高め,学
習意欲向上にある程度の効果をもたらしたのではない
2.受講生の学習意欲の向上
かと考えられた.
「大学の授業は,伝統的には知の継承に
安部1) は,
おいて成立しており,そのため授業は教師から学生へ
3.学生が教師役を務めることへの学生の反応
の一方的知識の伝授が中心となっている.しかし,今
授業前,学生は学生が教師役を務めることについて
日の大学はエリート大学から大衆化大学へと変容し学
強い不安を抱いていたが,実際の授業を通して不安が
生の質は変化した.一方的講義型授業では,学生の意
払拭された.学生が教師役となって授業を行うことが
欲や積極性は見えず,学生は受動的にならざるを得な
受け入れられたといえる.
い.また,情報化社会となってそれぞれの学問体系が
「先生役をやってみたい」という感想は,有意性は
含む情報量は加速度的に増加している.限られた時間
認められなかったが授業前に比べて5.9%上昇し,自
の授業で必要な知識を網羅的に伝授できるということ
分も教師役をしてみたいという前向きな意見がみられ
は成立しなくなっている.
」とし,
新しい時代に見合っ
るようになった.
た授業法を開発する必要性を示して討論を中心とする
しかし,一方で,学生が教師役を務めることには理
双方向性授業,学生参加型授業を提唱した.その後,
解を示したものの自分自身は教師役をやりたくないと
ディベートを導入した授業や“クリッカー”による能
考える学生が多い傾向が認められた.教師役をしたく
動的学習授業,学生の主体的・能動的な学びを引き出
ない理由についてみてみると,
「人前に出て発表する
す”サービスラーニング“など様々な授業法が開発さ
のが苦手」や「準備が大変そう」という理由が多かっ
2), 4), 5)
6)
た.鈴木 が実施した学生が教師役を務める授業では,
.
れてきた
6)
一方,鈴木 は本研究と同様に学生(グループ)に
履修するすべての学生が教師役を務める.定員を超え
教師役を務めさせ,準備段階で教師役となる学生に協
る履修希望者を毎年集めており,授業への興味が強く
同的に学習させることで社会的関係性を高め,学生の
積極的で学習意欲のある学生が集まり授業を履修して
学ぶ意欲を引き出す授業デザインを提唱した.これら
いるものと考えられる.
の新しい授業の開発は,授業における学生の積極性と
一方筆者らの行った授業は必修科目であり,すべて
学ぶ意欲を向上させる方策として大きな進歩をもたら
の学生を履修の対象としている.学生の中には積極的
した.
で学習意欲の高い学生がいる一方で,消極的で学習意
さらに,鈴木3)は,学ぶ意欲を引き出す授業を進め
欲の低い学生もいると考えられる.今回の試行では一
るためには「自分がその課題を遂行する上での自信や
部の学生に教師役を務めてもらったが,すべての学生
信念」という効力予期(自己効力)を構成するキーワー
に教師役を担当してもらうためには,まず人前に出て
ドを加味した授業デザインが必要であるとし,学生を
発表することに対する苦手意識を克服していく必要が
授業の文脈に位置づけ,教える役割を発揮できるよう
あると考えられる.
な社会的関係性(周囲の期待・教える役割・身近な友
今回,1回の授業で2人の学生に教師役してもらい,
人)に組み込んだ授業をすることによって,自己効力
それぞれ個別のテーマで授業をしてもらったが,鈴
を高め学ぶ意欲を引き出すことができるとした.
一つのテー
木3),6)のようにグループで教師役を構成し,
3),6)
と同様に,学生に教師役を
マに対して互いに協力し合って授業準備を進めていく
務めてもらい同級生の前で講義をしてもらうという授
という協同学習を取り入れることは,発表に対する苦
業を試行した.授業後の受講生に対するアンケートで
手意識の軽減につながる有効な方法であると考えられ
は,質問項目「通常の授業に比べてやる気が出たか」
る.
今回,筆者らは鈴木
で「大いにやる気が出た」と「まあまあやる気が出た」
があわせて過半数を超え,また,質問項目「この授業
4.教師役を務めた学生の反応
を通して勉強が好きになりましたか」では2割の学生
教師役を務めた学生は,緊張しつつも楽しんで授業
7
準備に取り組んだ.教師役を務めた学生は,教師役を
グ等に大変労力を要するということを指摘している.
経験することで,教師の「教える」という仕事の一部
しかし,教師の指導のもとで学生が教師役を経験す
を理解したといえる.また,教師とは教師と触れ合う
ることは,前述したように教師と学生間の信頼関係の
機会が多く,教師の性格を知り,親しくなることがで
構築に良い影響を及ぼす.1学年40~50人のクラスで
き,今回試行した授業形態は,教師と学生間の信頼関
あれば学生全員に教師役を経験させることは可能であ
係の構築に大きな役割を果たしたといえる.教師役を
ると考える.
務めた学生の過半数は「また機会があれば今回のよう
今後は学生全員に教師役を経験させるという改善策
な授業をしたい」とし,次回授業での教師役への意欲
を加え,高校の勉強法から大学の勉強法へのシフトを
をみせた.
図る導入教育科目として授業デザインを構築していき
教師役を希望する学生の中には,
「人前で話す機会
たい.
は学校生活の中でも数えるほどしかないので経験を積
引用文献
みたい」という自己研鑚を積みたいという理由を挙
げるものがあった.全受講者対象にした授業後のアン
1)阿部和厚ら(1999)大学における学生参加型授業
ケート(第5表)をみてみると,教師をしてみたいと
の開発(2)
.高等教育ジャーナル―高等教育と生
する理由に,「知識を得たいから」や「人前に立って
涯教育―.6:156-168.
説明することができるようになりたいから」など自己
2)藤田正一(1999)科学教育におけるディベートの
「内
研鑚を積みたいという理由が多かった.山下7)は,
導入の試み―一方向授業のマンネリズムからの
発的動議づけとは,好奇心に基づくものであり,行動
脱却―.高等教育ジャーナル―高等教育と生涯教
すること自体が目標になっている」としている.今
育―.5:74-91.
回教師役をしてみたい理由として多く挙がった自己研
3)鈴木 誠(2006)学ぶ意欲を引き出す授業とは何
鑚を積みたいという意欲は,山下の示す内発的動議づ
か2―授業評価のフィードバックによる授業改
けに相当すると考られる.学生の内発的動機づけに基
善―.高等教育ジャーナル―高等教育と生涯教育
づく自己研鑚の具現化を図るためには,プレゼンテー
ションスキルの向上のための方策を検討すべきである
と考えられる.
8)
三尾ら は,教員養成課程における授業技術の向上
を目的にマイクロティーチングを取り入れた科目を開
―.14:99-116.
4)鈴木久男(2008)授業応答システム“クリッカー”
による能動的学習授業―北大物理教育での1年間
の実践報告―.高等教育ジャーナル―高等教育と
生涯教育―.16:1-17.
発している.この授業は,学生を4,5名の小グループ
5)サイエンティフィック・システム研究会 2010年
に分け,すべての学生が教師役となってミニ授業を展
度教育環境分科会第2回会合(2010)学生の主体
開する.授業の後,教師役の学生は自己の授業を振り
的・能動的な学びを引き出す教授法“サービス・
返って授業技術(「声が聞き取りやすいか」,「話し方
ラーニング”―教室の知と社会実践をリンクさせ
が速いか」など)について自己評価をし,一方で生徒
役の学生は各学生の授業についての観察評価を行う.
るICUの取り組み―. 6)鈴木 誠(2004)学ぶ意欲を引き出す授業とは何
そして,自己評価と観察者評価を比較して教師役の学
か―北大-一般教育演習「蛙学への招待」の授業
生に情報をフィードバックし,学生の授業技術の向上
デザイン―.高等教育ジャーナル―高等教育と生
につなげていく.この授業で行われているような授業
技術に対する自己評価と観察評価手法の本授業への導
入は,教師役となる学生の自己研鑚を積みたいという
涯教育―.12:121-133.
7)山下 剛(2000)学習意欲の見方・導き方.教育
出版.東京.pp.1-27
希望に応えるものであると考えられる.また,教師役
8)三尾忠男・牧野智和(2010)私立総合大学教員養
をしたくないとする学生の苦手意識克服の解決策にも
成課程におけるマイクロティーチングの導入.早
なると考えられる.
稲田大学教育総合研究所紀要24(1):159-168
今回の試行により,授業で学生が教師役を務めるこ
とは学生の学習意欲向上に有効であることが明らかと
なったが,教師役となる学生と担当教師の負担は大き
いものがある.鈴木6)も学生のフォローやモニタリン
8
地域資源(ヤブツバキ)を活かした
佐賀関の里山再生と地域振興のための
学生ワークショップの成果
吉野 賢一・鍵和田 又一・荻本 庸夫
橋本 裕輝・摺崎 宏・斉藤 清男・田代 洋丞
(大分短期大学園芸科)
Results of a Student Workshop for the Forest Regeneration and
Regional Promotion of Saganoseki, Oita, Making Use of Camellia
japonica L. as a Community Resource
Ken-ichi YOSHINO, Matakazu K AGIWADA, Tuneo OGIMOTO,
Yuki H ASHIMOTO, Hiroshi SURIZAKI, Sugao SAITO, Yosuke TASHIRO
要 約
大分市佐賀関地域における,地域資源であるヤブツバキを活かした,里山の再生と地域振興を目指
した取り組みを行っている.本報では解決すべき課題を見出すために,地元の協力を得て,大分短期
大学園芸科の学生らがワークショップに取り組んだ経過と,地域づくり活性化への提案を行った事例を
報告する.
ワークショップでは,学生らしいユニークで幅広いアイデアが出され,地域の住民や関係機関が,地
域振興の実践活動を行う上での,多くの選択肢と手段・方法が提供された.地域課題が複雑・多岐に
わたる中で,学生達の集団思考によるワークショップが, 柔軟な発想を引きだしたと言える.
キーワード:佐賀関 ヤブツバキ 里山再生 地域振興 フィールドワーク ブレーンストーミング KJ法
緒 言
佐賀関地域は,大分県の東部に位置し,関あじや関
海岸国定公園に指定されている.
さばで知られる,海峡 ・豊後水道に面している.
合併前の町花はツバキであった.集落の至るところ
2005年,大分市へ編入した.総面積は49.39km²,人
にヤブツバキが多く,古樹 ・大径木も散在している.
口は10.128人(2013 年9 月末日現在)である.地域は
灯台のある関崎半島の海岸林では,低木から高木に至
伝統と文化に育まれ,美しい海岸・緑の里山は,日豊
る, ヤブツバキの自然植生樹が極めて多い(図1)
.
9
特に,大分市と合併後の旧佐賀関町は,大分市街
地への人口の一極化が進み,ストロー現象をもろに
受け,人口減少が進んでいる.関さば・関あじブラ
ンドを持つ漁業地域でありながらも,漁師の担い手
は減少し,高齢化が進んでいる.今後, 町の振興策
が必要であることを理解する.
⑷地域の里山に賦存するヤブツバキの椿油及び花弁色
素(アントシアニン)等を活用した商品の研究開発
を目指しており,ドレッシングとシロップを試作中
である.
⑸地域の自然環境(里山・里海・海岸林)や歴史・文
化等の共通認識を得るため,図2に示すコースで
図1 関崎半島海岸林のヤブツバキ
フィールドワークに取り組む.
NPO・さがのせきまちづくり協議会(理事長:渡
辺修氏)では,ヤブツバキの果実から油を絞り,特産
品として天然の「椿油」を,
「道の駅・さがのせき」
で販売している.
大分短期大学では,平成25年度から,佐賀関地域を
対象に,地域資源(ヤブツバキ)を活かした,里山再
④
③
生による地域振興を目指し,産・官・学連携による協
働事業に取り組んでいる.
⑩
地域づくりでは,複雑多岐にわたる問題点や課題が
多くある.
そこで,地域振興目標や課題設定を行う糸口を見つ
け,提案するために,本学・学生20名がワークショッ
プによる作業を展開した.
本報では,学生が地域課題の解決のために,具体的
に取り組んだ成果を報告する.
方 法
1)参加者全員が,基本情報として以下の点を共有し
た.
⑴ワークショップのスタート段階から事前研修及び実
図2 関崎半島の鳥瞰図
赤線矢印はフィールドワークのコース(関崎海星館→
灯台→黒が浜→小黒→幸の浦→佐賀関漁港→公民館)
⑹現地踏査(フィールドワーク)実施後,室内におけ
るワークショップを行う.作業場設営・作業手順・
KJ法等を十分理解する.
川喜田二郎の提唱したKJ法は,創造的な問題解
決の手法として,今回のワークショップの柱として
取り入れた.
⑺タイムテーブルを以下のように定めて進行する.
施に至っては, 教員がファシリテータとして指揮・
オリエンテーション… ……………… 5分
進行・統括の役割を担うとともに各班に教員がアド
ブレーンストーミング…………… 50分
バイザーとして加わり,ワークショップをスムーズ
KJ法によるカード整理…
に進行させる.
成果発表………………………………… 40分
⑵平成25年度・大分県森林環境保全推進関係事業(新
たな育林技術等研究開発事業(平成25~27年度:3ヶ
年)の採択を受け,大分市佐賀関地域における,地
講評…
……
60分
……………………………………… 5分
⑻ワークショップ後に成果の利用方法・今後の発展方
向を知る.
域資源(ヤブツバキ)を活用した里山の再生と地域
振興を目指した事業の主旨を理解する.
⑶前記に記載している,地域の概況と地域資源につい
て認識を深める.
10
2)地域を肌で感じるためのフィールドワーク
大分市から現地まで,約35㎞離れているため,学生
はマイクロバスで目的地の関崎半島の岬まで進み,約
6.5㎞の海岸線の行程を1時間45分かけて,大分市佐賀
食(図5, アンケート評価)を行い,商品開発計画の
関公民会館まで踏査した.
一端を知ることとした.
途中では,漁場の海峡・豊後水道やウミネコ生息地・
高島の眺望, 海岸林の植生及び景観,ヤブツバキの
自然林植生状況,ヤブツバキ植栽予定地,景勝地や漁
港等を巡視した(図3)
.
図5 学生による試作品の試食
ブレーンストーミングは,アレックス・F・オズボー
ンが提唱し,
「頭の内部に嵐を呼び起こして,妙案を
図3 関崎半島のヤブツバキ植生地等の踏査
考え出す」手法である1).
以下の4つの原則を遵守して,グループでアイデア
3)ブレーンストーミングによるアイデア放出
を出しあった2).
公民館・研修室の会場では,各班5名による4班編
① 批判厳禁…出されたアイデアは批判しない.
成を行い,各班からリーダーと発表者・書記を選出し
② 自由奔放…アイデアは奔放なものほどよい.思い
た.各班は以下の各テーマに基づき,各人がブレーン
切ったアイデアを, どしどし出すようにする.
ストーミングによってアイデアを放出した.一アイデ
③ 質より量…アイデアは多く出るほど望ましい.
ア一枚カード(タックタイトル)記入方式をとった.
④ アイデアに相乗り便乗・結合…人の出したアイデ
作業に入る前に,ヤブツバキを活用した,オリジナ
アを結びつけ,新しいアイデアにして提案する.
ルの試作品2点(ドレッシング・シロップ, 図4)の試
各班が,
アイデア放出のための作業を行うテーマは,
次の4つとした.あくまでも,
大目標の課題(旗印)が,
「地域資源(ヤブツバキ)を活かした里山の再生及び
地域振興」であることを見失ってはならない点に留意
した.
A班=地域資源(ヤブツバキ)を守り育てるために.
B班=地域資源(ヤブツバキ)による地域振興や観光
振興を図るために.
C班=ヤブツバキによる商品開発や利用をどのように.
D班=森と海を守るために.
4)KJ法(カード整理法)3)
上記3)のブレーンストーミングによってアイデアが
放出されたカードは,KJ法を用いて整理した(図6
−9)
.
⑴模造紙の上に,放出されたアイデアを,カード記入
したものを一面に広げ,親近感のあるものを一ヶ所
図4 商品化を目指す試作品
花弁色素利用シロップ(左)と椿油+色素利用の ドレッシング(右)
(ユワキヤ醤油株式会社提供)
に集めて,グルーピングする.
11
図6 アイデアの放出は全てカード記入
図9 中課題の表札付け後,大課題を導き出す
⑵親近感のある同類のアイデアを,グループごとにま
⑷どこにも属さない一匹狼的なアイデアも,捨てるこ
とめて空間配置し,模造紙へ張りつける.
となく配置する.
⑸各班から作業成果を発表する(成果をまとめた模造
紙を用いてプレゼンテーション, 図10).
図7 グルーピングしたアイデア(カード)の空間配置
⑶グルーピングした内容に相応しい表札(小課題)を
付ける.関連する小課題をまとめて中課題の表札を
付ける.中課題の表札から,最終的に大課題を導き
出す.
図10 作業成果のプレゼンテーション(D班)
5)講 評
各班の発表後,
学長から学生が野外(地域)における,
課題解決学習の一環として取り組んだ, ワークショッ
プの作業成果について講評を行う.
結 果
まず,フィールドワークを行ない,学生は地域の里
山や里海の自然環境を,肌で感じることができた.
また,地域資源である,ヤブツバキの植生について
認識を深めるため,学生は里山の自然植生やメジロ飛
図8 グルーピングに相応しい表札(小課題)付け
び交う花の開花の状況を知ることができた.
さらに,オリジナル試作品(ドレッシング,シロッ
プ)の試食による,ツバキを利用した商品開発計画の
一端を知る作業を行い,学生は地域特産の椿油の機能
性や,色鮮やかな花弁色素(アントシアニン)利用の
可能性を知ることができた.
12
「ブレーンストーミング」では,学生5人編成による
題は図11~14,それらの総括は図15のとおりである.
集団思考(集団力学)によって,メンバーが一丸とな
り,頭脳に嵐を巻き起こすかのごとく,252のアイデ
アを引き出した.
各班の作業テーマに基づき,出された多くのアイデ
アをカード記入して出し合い,KJ法による整理を行
い,以下の結果を得た.
(図11~14)
A班の結果
テーマ「地域資源(ヤブツバキ)を守り育てるため
に」に対して,50のアイデアが出され,類似性のある
ものどうしを小グループに集め空間配置し,表札(小
課題)を付けた.得られた2つの小課題で関連性のあ
るものを集めて中グループとし(中課題)を付けた.
さらに,得られた3つの中課題を総合的に見て大課
題「佐賀関にヤブツバキを沢山植え美しい景観を作ろ
う」を導き出した.
以下, 同様に,
B班の結果
テーマ「地域資源(ヤブツバキ)による地域振興や
観光振興を図るために」
74 アイデア
6 小課題
4 中課題
大課題「ヤブツバキ植生地の環境整備と多様なPR
活動を徹底」
C班の結果
テーマ「ヤブツバキによる商品開発や利用をどのよ
うに」
82 アイデア
19 小課題
7 中課題
大課題「生活に利用できる商品開発を進める」
D班の結果
テーマ「ヤブツバキによる商品開発や利用をどのよ
うに」
46 アイデア
6 小課題
2 中課題
図12 学
大課題「漁業振興にヤブツバキを活かし,森と海を
守る」が得られた.
各班がまとめた,アイデア・小課題・中課題・大課
13
14
図11 A班の作業成果
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植樹活動
植樹活動と散歩道の整備㻌
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植樹活動と積極的なPR㻌
A 班㻌
15
図12 B班の作業成果
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教育活動
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ボランティア活動
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道等の環境整備
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ボランティア活動などによって
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B 班㻌
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ツバキ園を作る
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ツバキの活用方法を考える
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キャラクター等による単独PR
ポスターなどによる宣伝
多様なPR活動をする
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芸能人等のコラボ
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16
調味料をつくる
ツバキ料理を開発する
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図13 C班の作業成果
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アロマグッズを作る
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ツバキの流通・販売
流通・販売促進
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ツバキの粉を作る
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䝒䝞䜻䝊䝸䞊㻌
ツバキ食品をつくる
䝒䝞䜻䛾㤶Ỉ䜢స䜛㻌
䝒䝞䜻䝬䝙䝳䜻䝳䜰㻌
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ツバキ美容品を作る
美容品の開発
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創作料理をつくる
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ツバキ飲料をつくる
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温泉への利用
温泉への利用
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特産品を作る
地域特産品を作る
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アクセサリー
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花・材の利用
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ツバキ木工品を作る
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染料としての利用
ヤブツバキの有効利用
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食用油として利用
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ヤブツバキ利用の研究開発する
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ヤブツバキの新品種開発
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商品開発する
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䝒䝞䜻䛾䝞䜲䜸䜶䝍䝜䞊䝹㻌
燃料として利用
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入溶剤を作る
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17
図14 D班の作業成果
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イベントの開催
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䜖䜛䜻䝱䝷䜢䛴䛟䜛㻌
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ユニークな宣伝集客
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ツバキ実・油の活用
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観光インフラ整備
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川や海の環境を守る(美化)
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漁師さんの里山づくり
地域住民全体で川や海を守る
漁業振興にツバキを活かす
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総括図
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図15 学生各班によるワークショップの作業成果総括
18
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考 察
結果を要約すると,次のとおりである.
このワークショップの実績をさらに発展させ,里山
再生と地域の活性化に貢献できればと願ってやまな
い.
⑴学生は,フィールドワークによって,地域の自然環
謝 辞
境やヤブツバキの植生実態を知るとともに,ツバキ
を活用した開発商品等をあらかじめ学んだことが,
次のワークショップの作業に大いに役立った.
⑵ブレーンストーミング及びKJ法によって,創造的
学生によるワークショップの取り組みには,地元
「NPO・さがのせきまちづくり協議会」の渡辺修理事
長はじめ理事の皆さんの多大なご協力を得た.お礼を
な問題解決手法を集団で学ぶ技法を修得すること
申し上げる.
ができた.
また,ワークショップに合わせ,ヤブツバキを活か
⑶出された多くのアイデアを集約・整理して,地域課
題を導き出すことができた.
一筆一筆の出されたアイデアには,キラリとする
ものが多かった.
⑷一連の作業をとおして,学生は,地域資源を活かし
た,里山の再生や商品開発の可能性等に関する知見
したドレッシング及びシロップの試作品をご提供いた
だいた,ユワキヤ醤油株式会社・門脇社長へお礼を申
し上げる.
最後に,学生によるワークショップが,学外活動で
あったため,学校法人平松学園のご支援を得たことに
対し,感謝を申し上げる.
を培うことの出来た良い機会と経験になった.
参考文献
⑸地元「NPO・さがのせきまちづくり協議会」へ,
学生の斬新なアイデアを提案することができた.
地元では,実現可能な提案から取り組みたいと
言った,前向きな機運が醸成された.
⑹今後の展開方向として,「NPO・さがのせきまち
づくり協議会」の理事会の中で,検討する機会が設
1)近藤次郎(1985)
.意思決定の方法.NHKブック
ス p192
2)浜田陽太郎(1965)
.農林省農政局普及部.
(普及
方法の原理)p88~89
3)川喜田二郎(1967)発想法.中央公論社 P73-77
けられるに至った.
したがって,「大分市佐賀関地域里山再生振興協
議会」
(事業実施主体)では,里山の再生を目指し
た地域課題を解決するために,地域住民を巻き込ん
だ,ステップアップの方向を見出すことができた.
学生達の取り組んだワークショップは,集団思考に
よる創造性開発及び問題解決学習の一環として,学内
から野外(地域)学習へ,
大きく踏み出した.そして,
多くの発見と経験を積むことができた.
さらに,地域課題提案型の手法として取り組んだ,
ワークショップの経験は,将来, 学生達が遭遇する問
題や課題解決の一手法として修得できたとことと考え
られる.
大分短期大学園芸科としては,今回のワークショッ
プの成果を踏まえ,ヤブツバキを活かした佐賀関の里
山再生と振興を図るため,地域内に植生しているヤブ
ツバキの優良系統の選抜及び増殖,海岸林に多いヤブ
ツバキの植生調査及び利活用,里山再生を目指した植
樹,ヤブツバキによる景観形成と観光振興,ヤブツバ
キの活用によるオリジナル商品の開発等,産・官・学
が連携協働した短・中長期的な課題も見えてきた.
19
新しいタイプの裸麦品種
‘ユメサキボシ’の特性
斉藤 清男・清田 梨華
Growth Habits of the New Naked Barley Cultivar ‘Yumesakiboshi’
Sugao SAITO, Rika K IYOTA
要 約
わが国のハダカムギは従来から六条タイプが栽培されていたが,
日本初の二条ハカダムギ品種として
‘ユ
メサキボシ’が近畿中国四国農業研究センターで育成された.
‘ユメサキボシ’の特性を明らかにする
ために,従来の裸麦品種‘イチバンボシ’および‘ユメサキボシ’と同じ二条の皮麦品種‘ニシノホシ’
を供試して,大分短期大学附属農場で2012~2013年度(播種年度)に試験を行った.
その結果,
‘イチバンボシ’が六条・渦性であるのに対し,
‘ユメサキボシ’は二条・並性になることで,
赤かび病耐病性と耐倒伏性が改良されていた.
‘ユメサキボシ’の収量は穂数が多く,大粒であるので,
‘イチバンボシ’より多収であった.反面,
‘ユメサキボシ’は幼穂の分化が早いので凍霜害を防止する
ため,また精麦・加工面で問題となるヤケ粒の発生を抑制するために,播種期が遅れないようにするこ
とが必要であった.さらに,穂発芽防止やヤケ粒の発生を抑制するために,成熟期に達したら速やか
な収穫・乾燥が肝要であることがわかった.
以上のように,
‘ユメサキボシ’は新しいタイプの裸麦品種として期待される反面,播種や収穫面で
は注意が必要である.
キーワード:ユメサキボシ 二条ハダカムギ 並性 赤かび病耐病性 耐倒伏性 ヤケ粒
はじめに
の全作付面積は57,610ha,内訳は二条大麦35,700ha,
六条大麦16,900ha,裸麦5,010haである.統計上の二条
オオムギ(大麦)は条性と皮・裸性の違いで,六条
大麦は二条カワムギ,六条大麦は六条カワムギ,裸麦
カワムギ,六条ハダカムギ,二条カワムギ,二条ハダ
は六条ハダカムギを言う.
カムギの4型に区分される.なお,オオムギの穂は穂
このように,わが国のハダカムギは従来から六条タ
軸と小穂から成り,穂軸の各節に3個ずつの小穂(1
イプが栽培されており,これまでも二条タイプの育成
小穂は1花)を互生する.3個の小穂全部が稔実する
が試みられてきたが実用化に至らなかった.近畿中国
ものを六条,中央の小穂のみが稔実するものが二条で
四国農業研究センターで育成5)され,2012年12月に品
ある.また,成熟期に頴果が内頴および外頴に糊着す
種登録された‘ユメサキボシ’が日本初の二条ハダカ
るのがカワムギ(皮麦)
,容易に分離するのがハダカ
ムギ品種である.
‘ユメサキボシ’は1990年4月に四R
ムギ(裸麦)である2).いずれも1遺伝子支配で条性
系833(ナンプウハダカ/Mona)を母親に,ニシノチ
では二条が,皮・裸性では皮麦が優性である.
カラを父親として人工交配し,集団育種法で育成され
わが国の農林水産統計では,オオムギは二条大麦,
た品種であり,2008年には精麦用ハダカムギとして埼
六条大麦,裸麦として示されており,
2013年産
(子実用)
玉県が奨励品種に採用し普及している.
20
本報告では,新しいタイプの裸麦品種‘ユメサキボ
イチバンボシは茎立期(幼穂分化)は遅いが出穂が早
シ’の特性を,従来の裸麦品種‘イチバンボシ’およ
く成熟期も早い早生であり,
‘ユメサキボシ’は‘ニ
び‘ユメサキボシ’と同じ二条の皮麦品種‘ニシノホ
シノホシ’と同様に茎立期は早いが出穂期と成熟期は
シ’と比較することで明らかにするとともに,オオム
イチバンボシより遅い品種といえる.成熟期の立毛状
ギの栽培上の視点から考察を加えた.
況は図1,図2に示す.
本研究のうち2012年度(播種年度)は大分短期大学
表5に示すように,稈長は‘イチバンボシ’が最も
のゼミ研究で清田梨華が調査を担当1)し,2013年度は農場
短く,
‘ユメサキボシ’は‘ニシノホシ’と同程度であっ
実習で学生とともに調査した成績を取りまとめた.
た.穂長は‘ユメサキボシ’が最も長く,次いで‘ニ
シノホシ’
,
‘イチバンボシ’の順に短かった.
材料および方法
倒伏には‘ユメサキボシ’と‘ニシノホシ’がイチ
大分短期大学附属滝尾農場(大分市津守)で2012~
バンボシよりも強かった.
図3に示すように,
成熟後
‘イ
2013年度(播種年度)に試験を実施した.前述のよう
チバンボシ’は茎が折れ易くなる中折れ状況が目立っ
に,品種は‘ユメサキボシ’
‘イチバンボシ’
‘ニシノ
てきたが,
‘ニシノホシ’はその兆候は無かった.
‘ユ
ホシ’を用い,両年度とも10㎡の1区制で,栽培は条
メサキボシ’は両品種と出穂期が違うのでデータを省
播とし表1に示すように11月下旬播種,播種量0.6kg/
略したが,
観察ではニシノホシと同様の傾向であった.
a,窒素施肥(成分)量0.4kg/aで,麦踏みは2月下旬
倒伏と中折れについては,表2に示すように‘ユメサ
~3月上旬に行った.
キボシ’と‘ニシノホシ’は並性であり,
‘イチバン
調査は2012年度に主稈葉数の推移を1区10個体で,
ボシ’
は渦性である特徴がよく表れている.すなわち,
幼稈長と幼穂長を3月5日に1区3個体で行った.成熟期
渦性品種は一種の矮性因子を持ち,この因子の発現で
に稈長,穂長を2012年度は1区10個体,2013年度は15
全体に短稈でずんぐりした型となる
個体調査し,穂数および収量調査を両年度とも1区1.4
が折れ易く,並性品種は長型で茎は細いがしなやかで
㎡を刈り取り行った.1穂粒数は2013年度に1区30穂
倒伏しにくく折れにくいという特徴である.従来のハ
をランダムに採取し行った.
ダカムギが渦性であることから,並性の‘ユメサキボ
表1 栽培方法
年度
2012
2013
播種期
月日
11.21
11.27
播種量
kg/a
0.6
0.6
窒素施肥量
kg/a
0.4
0.4
麦踏み
月日
2.21
3.5
注)1.2013 年度は耕起前に堆肥を 100kg/a
珪酸カルシウムを 15kg/a 散布
2.麦踏みは両年度とも人力で同方向に 2 回実施
結果および考察
4)
ので茎は太い
シ’は倒伏や中折れに対して改良されたといえる.な
お,並渦性は1遺伝子支配で並性が優性である.
収量や品質に大きな影響を及ぼし,カビ毒が人の食
に影響を及ぼす赤かび病は,表5に示すように六条の
‘イチバンボシ’に発生が見られたが,二条の‘ユメ
サキボシ’と‘ニシノホシ’には見られなかった.赤
かび病の発生要因は出穂・開花期の降雨が影響してお
り,粒着が密で雨水が溜まり易い六条よりも溜まりに
1.‘ユメサキボシ’の生育の特徴
くい二条が赤かび病に罹病しにくいという従来の見解
‘ユメサキボシ’の初期生育は表3に示すように,3
と一致している.
したがって,
従来のハダカムギ
(六条)
月5日の時点で‘ニシノホシ’と同様幼稈長,幼穂長
で心配されていた赤かび病に弱いという欠点は,
‘ユ
ともに‘イチバンボシ’より長かった.また,表4に
メサキボシ’のように二条にすることで改良されてい
示すように主稈葉数が
‘ユメサキボシ’
は
‘ニシノホシ’
るといえる.
と同様に,
‘イチバンボシ’よりも早く推移していた.
表2に示すように,オオムギの土壌病害として問題
このことは表2に示すように,
‘ユメサキボシ’と‘ニ
になる縞委縮病に対しては‘ユメサキボシ’は‘イチ
シノホシ’は播性程度Ⅰ(春播性)で幼穂分化が早く,
バンボシ’
よりも強い極強と評価されている.しかし,
‘イチバンボシ’は播性程度Ⅴ(秋播性)で幼穂分化
成熟期に降雨が多い際に問題となる穂発芽に対して
が遅いという特徴をよく表している.すなわち,
‘ユ
は,
‘ユメサキボシ’はやや易で‘イチバンボシ’の
メサキボシ’は茎立期が早いといえる.
難より劣っている.
表5に示すように出穂期は‘イチバンボシ’が最も
2.
‘ユメサキボシ’の収量・品質
早く,次いで‘ニシノホシ’
,
‘ユメサキボシ’の順で
‘ユメサキボシ’は二条であることから六条の‘イ
あり,成熟期も同様の順序であった.このことから,
チバンボシ’に比べ,表6に示すように1穂粒数は少な
21
表2 形態および生態的特性
品種名
ユメサキボシ
イチバンボシ
ニシノホシ
条性
二条
六条
二条
皮裸性
裸
裸
皮
並渦性
並
渦
並
播性程度
Ⅰ
Ⅴ
Ⅰ
穂発芽性
やや易
難
やや易
縞委縮病抵抗性
極強
強
極強
5)
注)柳澤貴司ら(2010)
より引用
表3 幼稈長・幼穂長と出穂期(2012年度)
品種名
ユメサキボシ
イチバンボシ
ニシノホシ
幼稈長
㎜
28.3
12.3
36.7
幼穂長
㎜
4.7
3.0
4.0
出穂期
月日
4.8
4.1
4.5
表4 主稈葉数(L)の推移(2012年度)
月・日
1・16
品種名
ユメサキボシ
3.5
イチバンボシ
3.1
ニシノホシ
3.3
1・22
2・6
2・21
最終
4.0
3.3
3.9
5.5
4.9
5.0
6.5
5.8
6.1
11.0
11.0
10.5
注)幼稈長,幼穂長は 3 月 5 日に調査
表5 生育調査成績
品種名
年度
ユメサキボシ
2012
2013
平均
2012
2013
平均
2012
2013
平均
イチバンボシ
ニシノホシ
出穂期
月日
4.8
4.11
4.10
4.1
4.6
4.4
4.5
4.7
4.6
成熟期
月日
5.25
5.27
5.26
5.20
5.20
5.20
5.23
5.22
5.23
稈長㎝
穂長㎝
倒伏
90
86
88
87
79
83
90
84
87
7.1
7.0
7.1
4.6
5.5
5.1
6.1
6.6
6.4
無
無
無
微
微
微
無
無
無
中折れ
(5.26) (6.4)
少
多
無
無
赤かび病
無
無
無
無
微
微
無
無
無
表6 穂数および収量調査成績
品種名
ユメサキボシ
イチバンボシ
ニシノホシ
年度
2012
2013
平均
2012
2013
平均
2012
2013
平均
穂数
本 /㎡
614
630
622
370
342
356
619
506
563
子実重
g/㎡
636
457
547
471
421
446
621
384
503
同左比
%
135
109
123
100
100
100
132
  91
113
1穂
粒数
25.4
49.3
22.9
千粒重
g
45.0
41.4
43.2
32.4
31.2
31.8
46.7
46.4
46.6
品質
上下~中上
中中
中上
中上
中上
中上
中上
中上
中上
ヤケ粒
中
少
いが千粒重が大きく,穂数が多いことから,‘イチバ
で発生率が高くなるとしている.2013年度は2012年度
ンボシ’対比で123%と多収であった.同じ二条で皮
に比べ,登熟後半の降雨量が明らかに多いことがヤケ
麦の‘ニシノホシ’と比べると,千粒重はやや小さい
粒の発生に繋がったと思われる.
‘ユメサキボシ’育
が1穂粒数がやや多く,穂数が多いので,10%程度多
成前の二条ハダカムギの育成系統はヤケ粒の発生が多
収であった.
く問題点であったが,
‘ユメサキボシ’も十分に改良
千粒重で示されるように‘ユメサキボシ’は大粒で
されているとはいえなく,課題である.
あり,
‘イチバンボシ’は小粒である.
‘ユメサキボシ’
の外観品質は‘イチバンボシ’
と比べ表6に示すように,
総合考察
2012年度は良かったが,2013年度はヤケ粒の発生でや
播性程度Ⅴ
(秋播性)
の
‘イチバンボシ’
が低温を感受
や劣った.ヤケ粒は二宮ら(2000)3) によれば,胚と
しないと幼穂分化しないのに比べ,播性程度Ⅰ(春播
反対側の種皮が黒く変色するもので,発生程度が大き
性)で低温を感受しないでも幼穂分化する‘ユメサキ
くなると精麦しても黒い痕跡が残り,押麦や味噌加工
ボシ’の初期生育・茎立期(幼穂分化)は早い.特に,
品にまで影響を及ぼす被害粒であり,登熟後期の降雨
早播きした場合や暖冬年では茎立期(幼穂分化)が促
22
進され,2月下旬から3月上旬の寒波の襲来で幼穂凍死
に収穫することが肝要である.
の恐れがある.
そこで,
栽培面では早播きしないことや
引用文献
麦踏みを励行することによる生育制御が必要である.
‘イチバンボシ’
などの従来の裸麦品種で問題であっ
1) 清田梨華・斉藤清男.2014.二条裸麦新品種‘ユメ
た赤かび病に対しては,従来品種が六条であるのに対
サキボシ’の特性と活用.大分短期大学研報.5:59-60.
し,‘ユメサキボシ’は二条であり罹病しにくくなっ
2)
日本作物学会編(2010)作物学用語辞典.農文協.東
ている.オオムギの土壌病害として問題となる縞委縮
病にたいしては,‘ユメサキボシ’は極強である.従
来品種で問題であった倒伏・中折れに対しても,従来
京.pp.230-231.
3) 二 宮 淑 恵 ら.2000.裸 麦 ヤ ケ 粒 の 発 生 要 因 に つ い
て.大分県農業技術センター研報.30:15-24.
品種が渦性であるのに対し,
‘ユメサキボシ’は並性
4)
農林省農林水産技術会議事務局編(1973)
.総合
であり改良されている.穂発芽に対しては,
‘ユメサ
野菜・畑作技術事典 Ⅰ畑作物編.農業技術協会.東
キボシ’はやや易であり‘イチバンボシ’より劣って
京.pp.21.
いるが,梅雨期前の比較的天候が安定した5月中に収
5)
柳澤貴司ら.2010.大粒で主要病害に強い日本初の
穫できるので大きな問題ではない.しかし,播種期が
実用二条裸麦品種「ユメサキボシ」の育成.近畿
遅くならないようにすることや,成熟したら速やかに
中国四国農業研究センター研報.9:1-14.
収穫・乾燥する必要がある.
‘ユメサキボシ’は穂数が多く,千粒重が大きいの
で収量性はある.反面,従来の裸麦品種が六条で小粒
であるのに対し,
‘ユメサキボシ’は二条で大粒であ
るので,押麦として利用する場合には子実の切断が必
要と思われる.外観品質では押麦や味噌加工品で問題
となるヤケ粒の発生は,
’ユメサキボシ’は’イチバ
3)
ンボシ’より多く見られる.二宮ら(2000) は穂数
が少ないとヤケ粒発生率は高くなると指摘している.
したがって,播種適期を守り,穂数不足の原因となる
播種の遅れがないようにする.また,収穫時期が遅れ
るとヤケ粒の発生が多くなる3) ので,成熟後速やか
図2 成熟期の‘イチバンボシ’
図1 成熟期の‘ユメサキボシ’
図3 成熟後の中折れの状況(2014年6月6日)
注)左‘イチバンボシ’,右‘ニシノホシ’
23
マダケ林の雪害
鍵和田 又一・都留 佑介・幸野 周平
佐藤 公哉・藤内 志紀・登川 大地
(大分短期大学園芸科)
Snow Damage to Madake Bamboo Forest
Matakazu K AGIWADA, Yusuke T URU, Syuhei KOUNO,
Kimiya SATO, Motonori TOUNAI, Daichi TOGAWA
要 約
2014年2月13日から14日にかけて大分市内で降雪があり,大分短期大学柞原農場内のマダケ林に幹
折れの被害が出た.そこで本研究では,柞原農場内に生育しているマダケの被害状況を調査し,地形
と気象の視点から被害の原因を考察した.
10×10mの区画からなるメッシュ法を用い,区画毎の被害度を5段階に分類してマダケ林全体の被害
度調査を行った結果,134区画の被害度が明らかになった.70区画(52.2%)が被害度5であり,マダ
ケ林の被害は甚大であった.また,被害度3~5の区画は谷線および谷に面する斜面に多く分布してい
た.さらに,被害竹は南東方向(風下方向)に折れている場合が多かった.
今回のマダケ林の雪害では,降雪と地形の影響を受けた風が重なったことで,重たい雪が樹冠に多
く付着し,幹折れを発生させ,被害が甚大になったと考えられる.
キーワード:マダケ 雪害 幹折れ
緒 言
大分短期大学柞原農場内のマダケ林において大きな被
害が出た.そこで,本研究では,柞原農場内に生育し
大分県は,古くから良質の竹材を生産する産地とし
ているマダケの被害状況を調査し,被害の原因につい
て全国的に知られている.竹林面積は全国第2位と広
て分析し,考察を加えた.
い.また,マダケ(Phyllostachys bambusolides Sieb. et
Zucc.)の生産量は全国第1位である.しかし,1950年
材料および方法
代からプラスチック製品などの代替品が台頭してくる
と,国産の竹材生産量は1960年をピークに減少傾向と
(1)被害調査地
なっている.このような背景より,県内の管理放棄さ
大分市八幡字宮ノ後口にある大分短期大学柞原農場
れている竹林面積は増加傾向にある.しかし,近年の
内の竹林全域(1.4ha)を調査対象とした.柞原農場は,
里山再生などでは,木本性植物より成長が早く,再生
標高190〜220mに位置し,図1の地形図に示すように
力もある竹が注目されている.そこで,大分短期大学
谷戸地形の場所にある.また,本農場においては,谷
柞原農場では,竹林の管理や造園の竹材生産さらに竹
線沿いに風が吹きぬけることが多く,海からの南東お
炭生産などの実験実習を行っている.
よび山からの北西の恒風が吹きやすい.
2014年2月13日から14日に大分市内で降雪があり,
24
図1 大分短期大学柞原農場の地形および竹林の雪害調査地
(2)被害調査方法
被害調査樹種は,農場内に生育しているマダケのみと
した.被害調査は,2014年3月17日に行った.被害度
調査はメッシュ法を用い,東西南北に10×10mの区画
を設定し(図1)
,
区画毎の被害を目視により評価した.
被害度は,1区画内の竹の全本数に対する幹折れした
本数の割合(%)を目算し,被害度1(幹折れの割合
が0~20%)
,被害度2(20~40%)
,被害度3(40~
60%)
,被害度4(60~80%)
,被害度5(80~100%)
の5段階とした.竹が生育していない区画は調査対象
外とした.
図3 マダケ林の雪害による幹折れ状況
結 果
考 察
被害度調査を行った結果134区画の被害度が明らか
気象庁の報告では,被害発生当時の全国気象概要が
になった(図2)
.37区画(27.6%)は被害度1,12
以下のように報告されている1).
区画(9.0%)は被害度2,8区画(6.0%)は被害度3,
2014年2月13日に発生した低気圧が,16日にかけて
7区画(5.2%)は被害度4,70区画(52.2%)は被害
発達しながら本州の南岸を北東へ進んだ.その後,低
度5であった.被害度3~5の区画は谷線および谷に面
気圧はさらに発達しながら三陸沖から北海道の東海上
する斜面に多く分布していた.また,多くの被害竹は
に進み,19日にかけて千島近海でほとんど停滞した.
被害度に関係なくほぼ南東方向(風下方向)に幹折れ
この低気圧の影響で,西日本から北日本にかけての太
をしていた(図3)
.
平洋側を中心に広い範囲で雪が降った.
大分市では,2014年2月13日〜14日にかけて8㎝の積
雪が観測されている2).また,風向きは「北北西」か
25
図2 マダケ林の雪害による被害度分布
ら「北西」であった.さらに,最大瞬間風速は9.8m/s
き下ろすことで,谷線および谷線に面する斜面に被害
であった.大分短期大学の柞原農場では20㎝程度の積
が多く出たと考えられる.
雪があったことを地元住民より聞いた.また,降雪時
今回,約20㎝程度の積雪でマダケの幹折れを多く起
の風向きは,恒風方向と同一の北西から吹いていたこ
した詳しいメカニズムについては今後さらに研究を進
とも同時に聞いた.
める予定である.
今回の被害調査結果および当時の気象などより,被
害竹が南東方向に多く折れた原因としては以下のこと
引用文献
が推測される.
今回の風速をビューフォート風力階級で表すと,風
力5「樹木が揺れ始める」である3).このことから考
えると樹木よりしなる竹が風の要因のみで幹折れ現象
をおこしたとは考えにくい.また,20㎝の積雪のみで
あればマダケは幹折れをおこさないであろう.
そこで,
風向,風速,降雪量,雪質等を合わせて考えると,北
西方向の風が被害竹を南東方向に緩やかに傾斜させた
ことで竹の樹冠により多くの雪を付着させた結果,幹
が折れたと考えられる.また,風速がさほど大きくな
かったため,樹冠に積もった重たい雪が吹き飛ばされ
ることなくさらに積り,被害が甚大になったと考えら
れる.
また,今回の被害調査結果より,谷線および谷に面
した斜面に被害度3~5が多く分布していた原因とし
て以下のことが推測される.
降雪とともに北西方向の山風が谷戸地形に沿って吹
26
1)国土交通省気象庁 各種データ資料 災害をもた
らした気象事例(1984~2014年)
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/
bosai/report/2014/20140214/20140214.html
2)国土交通省気象庁 気象統計情報 過去の気象
データ検索 大分 2014年2月13日24時
http://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/
index.php
3)国立天文台編 理科年表机上版(1990)丸善株式
会社 p46
学生による植物を用いた壁面装飾
宮 坂 綾 香
Surface-of-a-wall ornamentation by students using plants
Ayaka MIYASAKA
要 約
大分短期大学の学内美化のため,校舎内の階段踊り場の壁面装飾を学生に担当させた.学生自身
でデザインから制作,管理,片付けまでさせ,作品の完成度と学生の創作意欲,積極性,責任感等
を観察し,学生に対する教育的効果について検討した.その結果,作品の完成度には学生の性格や
資格の有無,授業等での体験,植物の種類,周囲の状況,が関わっていると考えれた.また,全て
の学生に於いて,1回目の作品から回を重ねるごとに,技術面,精神面での発達が見られた.
キーワード:壁面装飾 学生作品 植物 教育効果
はじめに
結 果
大分短期大学では学内美化と各種イベントの盛り上
場所:2階と3階を結ぶ階段の踊り場
げのため校舎内の階段踊り場において学生による壁面
期間:2009年3月~11月
装飾を行っている.その結果,
装飾の効果のみならず.
担当:学生U(女子)
学生の成長にも一定の効果が見られたので報告する.
学生Uは,生花,フラワー装飾技能士,園芸装飾技
材料および方法
能士の資格を取得し,生花店でのアルバイト経験もあ
り,装飾,アレンジメントに興味があった.作品を積
2009年3月~2013年3月にかけて壁面装飾を行った.
極的に作る姿が見られ,楽しんでいるようで,制作,
本学の5階建て校舎に1階と2階を結ぶ階段の踊り場の
管理,片づけも積極的だった.学生Uが6つのテーマ
壁面および2階と3階を結ぶ階段の踊り場の壁面を装飾
で使用した材料を表1に示す.
した.
踊り場の壁面の大きさは縦320㎝,
横228㎝であっ
た.1年ごとに各壁面に学生一人を担当させ,1年間デ
U-1.3月作品「卒業」
ザイン,制作,管理をさせた.その際,デザインは季
本学では卒業式の後に送別会を教室で行う.その教
節感を重視すること,行事を盛り上げられるようにす
室を華やかに装飾するが,通り道である階段踊り場も
ること,植物を装飾材料の中心にすることとした.
華やかにしようという意図で制作した(図U-1)
.
生花,フラワーアレンジメント,室内園芸装飾など
教室の装飾がサクラを中心としていたので,踊り場
で空間デザインを学んだ学生とそうでない学生に取り
も「サクラが舞い散る中の卒業」を表現した.タケを
組んでもらった.デザイン,制作,管理の全般に渡っ
階段状になるように切断したものを壁の両サイドに立
て宮坂が指導,観察を行い,作品の完成度と担当した
て,花器として用いた. また,タケを20㎝程度に切
学生の創作意欲や積極性,責任感等を評価した.
り揃え,壁下中央の床に置いて花器とした.全てのタ
27
表1 壁面装飾のテーマと使用した主な材料(学生U)
テーマ
卒業
主に使用した材料
サンシュユ,ナノハナ,ツバキ,モクレン,シンビジウム,タケ,セロハン,吸水性フォーム,
色紙,テグス,板,垂木,段ボール,ラミネートフィルム,ガムテープ
タケ,カランコエ,マーガレット,ストック,サンゴミズキ,モモ,エニシダ,コムギ,バラ,
Welcome to Oita
パンジー,ドラセナ・ゴッドセフィアーナ,ツツジ,チューリップ,ナデシコ,ガーベラ,写真,
junior college
色画用紙,テグス,虫ピン
梅雨のお散歩
バラ,アジサイ,カーネーション,トルコギキョウ,スパティフィラム,インコアナナス,
オリヅルラン,ミズゴケ,壊れた傘,色紙,カラーセロハン,テグス,ビニール
海開き
タマシダ,ルドべキア,ユリ,アレカヤシ,ミズゴケ,流木,貝殻,寒水石,麦藁帽子,石,テグス,
ビニール
夏休み
フェニックス・ロベレニー,タマシダ,フィロデンドロン・クッカバラ,ポトス,ミズゴケ,流木,
寒水石,貝殻,ビニール
お菓子くれきゃ
悪戯するぞ! !
ジネンジョ,ススキ,カラスウリ,ミツマタ,ラグラス,アカピーマン,バナナピーマン,ツル(フジ)
,
黒画用紙,リボン,布 プラスチック鉢,バーク,電飾,飴,マント,ネックレス,ピアス,軍手,
ストール,テグス,砂
ケの上部にセロハンを敷き,吸水性フォームを入れて
U-2.4月作品 「Welcome to Oita junior college」
表1に示す花を生けた.壁面中央部分には,サクラ型
新入生のために制作した.古い校舎を明るくし,且
の紙に在校生のメッセージを書いて貼り,花吹雪を表
つ,どのような学校生活か待っているか想像できるよ
現した.
うにという意図で制作した(図U-2)
.
図U-2「Welcome to Oita junior colledge」
図U-1「卒業」
図U-1のタケの花器はそのまま活用し,活ける花を
卒業式という重大なイベントでの初めての作品で,
変えた.壁面には年間行事の写真を月ごとに貼った.
卒業生本人は勿論,保護者からも見られるというプ
花と壁面が変わるだけでかなり印象が変わった.新
レッシャーもあり,かなり気合が入ったようだった.
入生に感想を聞いたところ,
「あれは良かった」
「豪華
ここを通過した人からは「すごい」
「花が綺麗」とい
だった」と好評であった.図U-1と図U-2で長さを変
う声が上がっていた.
メッセージも読んでくれていた.
えたタケを花器として活用したアイディアは優れてい
直接感想を言ってくれた卒業生もいて,学生Uはとて
た.
もやりがいを感じていたようであった.
本来サクラは離弁花で花弁は1枚ずつ散るが,メッ
U-3.6月作品「梅雨のお散歩」
セージを書くために合体した花の形にした.しかしタ
6月の学校見学会に向けて制作した(図U-3)
.
ケの花器と生花が豪華だっただけに,少々幼稚な印象
学校見学会は,本学への入学を希望する高校生,本
になってしまったように感じた.
学に関心のある高校生,その保護者等に本学をPRす
28
図U-3「梅雨のお散歩」
図U-4「海開き」
る重要なイベントである.そのため,学内を華やかに
学生Uは,この装飾のために実際に海に流木や貝殻
し,印象を良くするようにした.
を集めに行くという意欲と行動力があり,素晴らし
このときは梅雨時だったため,まず梅雨を表現する
かった.
雨と傘を制作した.壊れた傘から1/2サイズの傘の骨
組みを作り,4色のカラーセロハンを貼った.青色の
U-5.8月作品「夏休み」
画用紙を雫型に切り,
分解した傘のビニールで覆った.
8月の学校見学会に向けて制作した.
この傘と雫は上からテグスで吊った.
夏休みということもあり,常夏のビーチのイメージ
ワイヤーで半球の籠を作りセロハンを敷き,球状に
を表現した(図U-5)
.
成形した吸水性フォームを入れ吊り下げ,ブーケ状に
なるよう花を生けた.床には鉢物を並べクラフト紙と
ミズゴケで鉢を隠す室内園芸装飾の技術を応用した.
JUNE BRIDEのような雰囲気もあり評判は良かった.
学生Uはフラワー装飾技能士2級と室内園芸装飾2級
の資格の練習中で,アレンジや植物の配置の仕方や隠
し方が手慣れてきたようだった.水管理は苦労したが
責任を持ってやり遂げた.
U-4. 7月作品「海開き」
図U-5「夏休み」
7月の学校見学会に向けて制作した.
ミズゴケやクラフト紙,流木,寒水石を利用し,海
夏と言えば海という単純な発想から海をテーマにす
と孤島を表現した.島にはフェニックスの鉢植えを置
ることにした(図U-4)
き,その周りにエクメアやポトス等をジャングルのよ
床にビニールを敷き,寒水石を敷きつめて砂浜を作
うに配置し,クラフト紙とミズゴケで覆った.学生
り,海を連想させることにした.貝殻や流木を置いて
Uは夏休みに備え,潅水が楽な植物を飾ったのは正解
波の跡も作り砂浜を強調した.さらに貝殻に穴を開け
だったが,少々暗い感じになった.
テグスで繋げ,壁全体に張り巡らせた.キラキラと煌
8月の作品は見てくれる人が少ないため,制作のモ
かせ,海の表面の光の反射を表現した.麦藁帽子を器
チベーションは他の月と比べて少し低めだったと思わ
にして花を生けた.これの効果により,海や夏の季節
れる.
感を出すのに成功していた.
29
U-6.10月作品「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!」
期間:2009年12月~2010年10月
10月の学園祭に合わせた作品としてハロウィンを表
担当:学生W(女子)
現した(図U-6)
.
学生Wは園芸装飾技能士,フラワー装飾技能士を取
得した.装飾に関心があり,在学中には生花店へイン
ターンシップに行き,卒業後は生花店へ就職した.お
となしい性格で,派手さはないが,真面目にコツコツ
こなすタイプであり,就職に繋がるようにと壁面装飾
を始めた.学生Wが6つのテーマで使用した材料を表2
に示す.
W-1.12月作品「クリスマスリース」
図U-6 「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!」
学内のクリスマス気分を盛り上げるために装飾した
(図W-1)
.
大きく丸く切り抜いた黒い画用紙を壁に貼り,切り
抜いた部分から壁の白い面を出し,夜空に浮かぶ大き
な白い月を作った.この月に黒い画用紙で作ったコウ
モリの群れを貼りつけた.コウモリが住む森も表現し
たかったので,木枠にフジヅルを取りつけ,更に不気
味さと秋らしさを出すために乾燥した植物や赤や黄色
の植物をくくりつけ,
ススキのフクロウをとまらせた.
白い布で幽霊を作り,テグスで吊った.ジャコランタ
ンの案山子の顔として,半月形のハンギングバスケッ
トを2つ合体させ,カボチャ模様に色画用紙と,目,鼻,
口,の黒画用紙を貼った.体として,十字に縛ったタ
ケを顔の下の部分に挿して固定した.それにポンチョ
を着せ,ストールを巻いた.帽子,ピアス,ネックレ
スもつけ,ススキで作った箒を持たせた.
学園祭で多くの人が学校を訪れ,階段踊り場を通る
ため,「園芸科らしい見栄えのあるもの」という注文
をした.アイディアがどんどん生まれ,同級生の協力
も多々あり,今までの作品の中で一番の大作になっ
た.実習の時やそれ以外でも農場へ材料を取りに行っ
たり,夜遅くまで残って作業をしたりしていた.保護
者が作品を見に来てくれるということもあり,今まで
で一番想像力も積極性も見られた.
図W-1「クリスマスリース」
学生Uは最初から装飾に興味があり,こちらからの
壁全体を黒い模造紙で覆い夜をイメージした.そこ
アプローチがなくとも,積極的に取り組むことができ
にアルミホイルとセロハンで作った星を散りばめ,サ
た.社交性も高い性格のため,友人に手伝いを頼んだ
ンタとトナカイの白いシルエットを貼った.クリスマ
り,通る人たちとコミュニケーションを図り意見を聞
ス飾りやポインセチアも加え明るくした.床には寒水
き,楽しくより良いものにしようという姿勢が見られ
石を敷き,ワタ植物の葉や枝に置いて雪を表現した.
た.制作を重ねる度に,アイディアが豊富となり,技
白いさらしミツマタで雪が降る中の森を表現した.図
術も成長がみられるようになったと考えられる.
U-6と同じ夜の作品でも,煌びやかな装飾物が多かっ
たため,キラキラしたクリスマスの夜の雰囲気がよく
場所:2階と3階を結ぶ階段の踊り場
30
出せたと思われる.他の学生のクリスマス気分を盛り
表2 壁面装飾のテーマと使用した主な材料(学生W)
テーマ
使用した主な材料
パンジー,アイビー,コニファー,ナンテン,ポインセチア,リーガースベゴニア,ヒバ,
クリスマスリース リース(フジ)
,綿,ダンボール,色画用紙,壁紙,クリスマスの飾り,寒水石,電飾,布切れ,
リボン,アルミホイル,ゴミ袋
旅立ち
パンジー,プリムラ・ポリアンサ,カランコエ,クワ,バーク,模造紙,ワイヤー,リボン,
フローラルテープ,花紙,麻紐,ビニール
はばたけバルーン
プリムラ・ポリアンサ,プリムラ・マラコイデス,アイビー,アジアンタム,カランコエ,
色画用紙,リボン,写真,柵,ワイヤー,麻紐
雨のおさんぽ
グズマニア,ベゴニア・センパフローレンス,アジアンタム,インコアナナス,バーク,枝,テグス,
カラーセロハン,ビニール
夏日和
フェニックス,ヒポエステス,パイナップルリリー,ミニヒマワリ,ベゴニア・センパフロー
レンス,パキラ,レンガ,かご鉢,ビニール
スウィート・
ハロウィン
アキランサス,アオギリ,カボチャ,パンパスグラス,マツボックリ,バーク,枝,籠,壁紙,
花紙,アルミホイル,折り紙,虫ピン,ビニール
上げることが出来たようだった.
の歌詞を書いて貼った.共に卒業生へのメッセージで
この作品は学生Uの引き継ぎとして学生Uに教えて
あり,壁の空白は埋まったものの強調されすぎ,周り
もらいながら共同で制作した.学生Wにとっては初作
の装飾が沈んでしまったように思われた.
品であったが,楽しそうにアイディアを出しながら取
これは学生Wが初めて一人で作った作品である.学
り組んでいた.
生Uの図U-1と比べるとおとなしい作品になったよう
クリスマスというはっきりしたテーマだったから
である.
か,全体の雰囲気はまとまっていた.
W-3.4月作品「はばたけバルーン」
W-2.3月作品「旅立ち」
新入生のため,新しい学生生活を想像しやすいよう
卒業生のために装飾をした(図W-2)
.
に意図して制作した(図W-3)
.
図W-2「旅立ち」
木枠の左右に2本のクワの枝をくくりつけ,枝にカ
ランコエの花をとりつけた.床にはビニールを敷き,
その上にバークを置き土を表現し,パンジーの鉢物を
並べた.その両側にはパンジーを寄せ植えし,リボン
を掛けたコンテナを置いた.
中央には「祝卒業」の文字と「トモダチ」という歌
図W-3「はばたけバルーン」
壁には学園行事の写真を貼った色画用紙を,風船に
31
見立てた形に作り貼り付けた.床には白い木の柵を木
枠にくくりつけ固定し,その柵と壁の間にレンガを土
台として置き,花鉢を並べ花壇をイメージしたが,植
物よりも柵が目立ったように思われた.
春休みに入り学生Wが帰省したことから,制作時間
が少なく,豪華さが欠けてしまったように思われた.
本人はもっと簡単にすぐできるような気でいたが,そ
んなに短時間でできるはずもなく,自身の計画性のな
さを感じていたようだった.
W-4.6月作品「雨のおさんぽ」
6月の学校見学会に向けて制作した(図W-4)
.
図W-5「夏休み」
み前ということもあり,学生Wは集中力に欠けたよう
に思われた.
W-6.10月作品「スウィート・ハロウィン」
10月の終わりの学園祭に向けて,ハロウィンを表現
することにした(図W-6)
.
図W-4「雨のおさんぽ」
紙をグシャグシャにしたものを雫の形にし,カラー
セロハンで覆って,テグスで吊るした.図U-3の雫よ
り大粒で色もカラフルになったことから,存在感は上
がった.アナナス類等を床に置き,バークで土を表現
した.熱帯地方のような雰囲気になった.また,アナ
ナス類の色と雫の色も原色で熱帯らしさが出たと思わ
れる.
W-5.7月作品「夏日和」
図W-6「スィート・ハロウィン」
7月の学校見学会に向けて制作した(図W-5)
.
学生Wはおとなしい作品が多かったため,派手に飾
コンテナで寄せ植えを作り,壁の両側に置いた.そ
るよう提案した.
れをレンガで囲い壁に見立てた.そのレンガとコンテ
赤茶色の紙で壁面全面を覆い,アオギリの葉,コウ
ナの間に背の高い植物を入れて,足元にボリュームを
モリとクモの巣をイメージした切り絵を貼った.黒画
出した.中間の壁面の下に沿って一列にレンガを置き,
用紙を切り,この切り絵の上に薄紫のチュールを貼っ
レンガと壁の間にベゴニア等を置いた.しかし,壁面
てクモの巣を表現した.そのフジツルに籠を取り付
中央には何もなく,ものさびしい作品となり,全体的
け,中にアルミホイルとカラーセロハンで作ったキャ
に夏というイメージがあまり感じられなかった.夏休
ンディーを入れた.白い布で幽霊を作り,ツルに取り
32
付けた.床にバークを敷きつめ,その上に茶色い鉢を
送別会の教室装飾で,風船のサクラを作ったことか
カボチャに見立て,黒画用紙で目や口を作ったジャコ
ら,
階段踊り場の壁面装飾もサクラをテーマとした
(図
ランタンと,アキランサス等の鉢物を置いた.パンパ
N-1)
.
スグラスを束ね,魔女の箒を作り右側に立てかけた.
W-6を学園祭に合わせて制作したが,W-2からW-5
までの作品にはなかった積極性と独創性が見られ,か
なり大胆な作品になった.大勢のお客さんの目に触れ
るということが,制作のモチベーションをあげたもの
と思われる.W-2からW-5までは,学生Wが人見知り
という性格もあって,手伝いを頼みづらかったり,周
りの人間も話しかけづらかったりして,寄ってくる学
生は少なかった.しかし,学園祭の準備が行われてい
る時期に,
学校全体に学園祭ムードが漂っているため,
他の学生も手伝いやすい.従って,このW-6の制作の
ときは沢山の学生が協力してくれた.おかげで迫力の
あるものとなり,学生Wの作品の中ではこの作品が一
番評判がよく,
本人も満足していた.
「作品を見られる」
ということだけがモチベーションを上げるわけではな
く,誰かが協力してくれるということもモチベーショ
ンに繋がると考えられた.
図N-1「卒業桜」
サクラの幹に見立てたフジヅルを,木枠に固定し,
そのツルに,沢山のピンクの風船を取り付け,サクラ
場所:2階と3階を結ぶ階段の踊り場
の花のように見せた.風船は立体感を出せたが,付け
期間:2011年3月~2012年10月
方やしぼみ具合を考えなければならないということが
担当:学生N (女子)
わかった. 壁面全面に水色の壁紙を貼り,
青空を作った.そこへ,
学生Nは楽観的な性格で「楽しそう,やってみたい」
発砲スチロールで立体的に作ったサクラの花びらを貼
という単純な理由で始めた.フラワー装飾技能士の資
りつけた.床にはビニールを敷いた上にバークをしき
格を取得はしたが,特に生花店等への就職を希望して
つめ土に見せ,パンジーの鉢物を置いた.
いるわけではなかった.この年は,フジヅルを同じ形
学生Nの最初の作品であったが,まだ植物の扱いに
で固定したまま1年間装飾してみることにした.学生
慣れておらず,
植物が少なめな装飾になった.しかし,
Nが4つのテーマで使用した材料は表3に示す.
風船を友だちと膨らませたり,くくりつけたりして,
楽しそうであった.
N-1.3月作品「卒業桜」
表3 壁面装飾のテーマと使用した主な材料(学生N)
テーマ
使用した主な材料
卒業桜
パンジー,ツル(フジ)
,バーク,風船,発泡スチロール,色紙,テグス,ゴミ袋, ガムテープ,壁紙,
虫ピン,麻紐,ビニール
レインボー桜
パンジー,ツル(フジ)
,バーク,花紙,発砲スチロール,色紙,テグス,ビニール,ガムテープ,
虫ピン,麻ひも,壁紙
JUNE BRIDE
デュランタ,ケイトウ,アジサイ,ユリ,ツル(フジ),籠,吸水性フォーム,セロハン,スタンド,
テグス,アルミホイル,ビニール,レンガ
SUMMER VACATION
オオタニワタリ,アレカヤシ,シンゴニューム,ポトス,ツル(フジ),ミズゴケ,テグス,
アルミホイル,ビニール,クラフト紙,スズランテープ,壁紙,ゴミ袋 33
N-2.4月作品「レインボー桜」
かごにブーケのようなアレンジを作って入れ,フジヅ
三色の花紙で作ったサクラの花をフジヅルに取り付
ルに吊した.床には, デュランタ,ケイトウ,アジサ
け,新しい季節のカラフルで賑やかな感じを表現した
イの鉢物を置き,レンガで囲み,植物が鬱蒼とした雰
(図N-2).
囲気を出した.
学生Nが自分で考え出した雨の雫の材料と形は,学
生Uや学生W のものとは異なり,学生Nの独創性が表
れたように思う.
この作品は色合いや雰囲気がうまくまとまった.ま
た,N-1,N-2より植物を多く取り入れ,アレンジも作っ
たことから,取得したフラワー装飾技能士3級の技術
が活かされ,本人も大変気に入り,達成感も感じ満足
していたようだった.学校見学者から 「キラキラして
綺麗」 と評価され,
とても喜んでいた.制作途中から,
イメージが固まってきたのか,良い作品に見えてきた
図N-2「レインボー桜」
のか,今までの作品に比べ積極性も出ていたように思
壁紙はN-1と同じ水色にした.床のパンジーを元気
えた.
な物と取り換えた.
入学式まで時間が無く急いで作ったため,図N-1と
N-4.8月作品「SUMMER VACATION」
ほぼ同じ構図になってしまった.
8月の学校見学会に向けて制作した(図N-4)
.
N-3.6月作品「JUNE BRIDE」
6月の学校見学会に向けて制作した(図N-3)
.
図N-4「SUMMER VACATION」
図N-3「JUNE BRIDE」
夏本番ということで海をテーマに作った.水色のス
梅雨時だったため,まず雨の雫を制作した.アルミ
ズランテープを切り裂き,下の木枠縛り付け波を表現
ホイルを雫の形に整え,一本のテグスに何個か通した
した.端にはオオタニワタリ,アレカヤシ,シンゴニ
ものを,等間隔に吊り下げた.テグスの下側は固定せ
ウム,ポトスの鉢物を置いてクラフト紙とミズゴケで
ず,垂らしたままにしたところ,人が通った時に揺れ,
覆い,南の島の雰囲気にした.この室内園芸装飾の技
アルミホイルの雫に光が反射し,キラキラと光った.
術を学生Nは取得していなかったが,著者が教えると
34
関心を示し,直ちに取り入れた.初めての体験で,最
掛かった(図O-1)
.
初はミズゴケの感触に戸惑っていたが,うまく島を作
ることが出来た.N-3の雫をここでも活用した.スズ
ランテープの波は,稚拙に見えるという意見もあった
が,面白いアイディアと思われる.結果としてU-4,
U-5,W-5とは違った夏の作品になった.
学生Nは楽しいことが好きで,同級生や後輩とも仲
が良く,コミュニケーションが取れていたため,よく
手伝ってもらいながら制作していた.最初は「楽しい
方がいい」という気持ちでスタートしただけであった
が,N-3のような力作が完成し,周りの評価が得られ
ると,急にアイディアが浮かぶようになり,作品への
こだわりも出始めた.
最初からうまくいかなくても形が目に見えてくるま
でになると,モチベーションが上がってくると思われ
る.
場所:2階と3階を結ぶ階段の踊り場
期間:2011年12月~2013年10月
図O-1「White X’mas」
担当:学生O (男子)
フジヅルを学生Nと同じ方法で取り付け,それにク
リスマスの飾りを巻き付けた.自分で作ったリースを
初の男子学生の挑戦となった.学生Oは技能士の資
フジヅルに取り付けた.壁面には赤色の壁紙を斜めに
格はなにも取得はしていなかったが,学生Nと仲が良
貼り付け,白と赤でクリスマスプレゼントの箱を表現
く,頻繁に手伝っていたことから引き継ぐことになっ
した.学生Oが自分でアイデアを出したこの貼り方は,
た.性格は友人たちとワイワイ作るタイプであった.
斬新なものであり,個性が表れていた.
学生Oが6つのテーマで使用した材料を表4に示す.
冬の階段の踊り場は寒々と感じられるが,こういっ
た飾りや赤色の壁紙という暖色系のものがあるだけ
O-1.12月作品「White X'mas」
で,暖かく感じられた. この場所を通った他の学生
クリスマスを盛り上げようと,12月から制作に取り
にもクリスマスの雰囲気が伝わっていた.
表4 壁面装飾のテーマと使用した主な材料(学生O)
テーマ
使用した主な材料
White X’mas
リーガース・ベゴニア,ツル(フジ),麻紐,テグス,レンガ,ビニール,クリスマスの飾り,壁紙,
虫ピン
Graduation
プリムラ・ポリアンサ,ナノハナ,サイネリア,シンビジウム,ギンモクセイ,クンシラン,
クリスマスローズ,ツル(フジ)
,ヤマザクラ,麻ひも,テグス,レンガ,ビニール,籠,吸水性フォーム,
セロハン,トレー,板,針金,墨汁,壁紙,虫ピン
Spring wind
パンジー,プリムラ・マラコイデス,ナノハナ,サイネリア,シンビジウム,クンシラン,
クリスマスローズ,ツル(フジ)
,ヤマザクラ,麻紐,テグス,レンガ,ビニール,籠,吸水性フォーム,
セロハン
Rainy season
アジサイ,スターチス,アザミ,デュランタ,バラ,カーネーション,タマシダ,ユーカリ,
カスミソウ,ゲイラックス,ツル(フジ),ヤマザクラ,麻紐,テグス,レンガ ,ビニール,籠,
吸水性フォーム,セロハン,アルミホイル,壁紙
Shooting star
マリーゴールド,ピンクッション,レザーファン,グズマニア,デュランタ,リーガース・ベゴニア,
アジアンタム,ハゲイトウ,ケイトウ,ネオレゲリア,ツル(フジ),ヤマザクラ ,麻紐,テグス,
レンガ,ビニール,籠,吸水性フォーム,セロハン,アルミホイル,壁紙
Halloween
アキランサス,五色トウガラシ,ススキ,カキ,サルトリイバラ,カラスウリ,カボチャ,ツル(フジ)
,
ヤマザクラ,麻ひも,テグス,レンガ,ビニール,壁紙,虫ピン
35
O-2.3月作品「Graduation」
卒業生のために制作した(図O-2)
.
図O-3「Spring wind」
まった.しかし,卒業式から間もない中で,作品を作
図O-2「Graduation」
ろうという意志は良かった.
フジヅルを両側に伸びるように取り付けた.
O-4.6月作品「Rainy season」
サルノコシカケがついたヤマザクラを,フジヅルの隣
6月の学校見学会に向けて制作した(図O-4)
.
に取り付けた.花苗のトレーと板で作った土台に,4
テグスにアルミホイルの雫を吊るし,
雨を表現した.
号ポットに植えたプリムラ・ポリアンサを「友」とい
う字になるようはめ,花文字を作り,階段を昇ってく
るときに,最初に見えるよう配置した.
籠でフラワーアレンジを作り,
フジヅルに吊るした.
床にはプリムラ・ポリアンサとサイネリアの鉢物を置
き,レンガで囲った.壁紙は,薄黄色と山吹色を交互
に貼り変化をつけた.
花文字は,ある程度の距離から見ると 「友」 とわか
るため,学生Oは少々不安だったらしく,何度も友人
等に 「何て書いてあるかわかる?」 と確認をしていた.
しかし,階段を昇ってきた卒業生は,「あっ友って書
いてある!!」と気づいてくれた.学生Oは一安心して
いるようだった.
O-3.3月作品「Spring wind」
3月の学校見学会に向けて制作した(図O-3)
.
高校1,2年生の学校選びのための見学会,というこ
とで,花を多くし,明るくした.籠のアレンジと付け
方を変えたが,ほぼO-2と同じような装飾となってし
36
図O-4「Rainy season」
N-3よりも雨の本数を増やしたが,好評だった.学生
Nの手伝いをしたことから影響を受けたようだ.壁紙
を深緑に替えたことで,N-3の時よりも雫がはっきり
見えた.アジサイの色とも良く合っていて,さらに
鬱蒼とした雰囲気が出せたことに学生Oは満足してい
た.
O-5.7月作品「Shooting star」
7月の学校見学会に向けて制作した(図O-5)
.
図O-6「Halloween」
きつけた.壁紙は橙色と緑でカボチャを連想させた.
下にアキランサス等,秋色の植物の鉢物を置きレンガ
で囲った.
秋の静かさが表された作品となったが,時期がハロ
ウィンだったため,
作品の題名が「Halloween」となっ
図O-5「Shooting star」
た.和風な作品と西洋の題名とで少々ちぐはぐになっ
た感じが否めなかった.
壁紙をO-4のままにし,床に置く植物と籠の花を,
学生Oは一人でコツコツ取り組むよりは,友人たち
赤やオレンジなど原色系の植物に替えただけで印象が
とワイワイ作る方が捗る性格だった.それが作品にも
大きく変わった.O-4の雫は,大小様々なハート型に
よく表れていたように思う.あまり他人からの評価に
し,獅子座流星群が見られるという時期と重なったた
はこだわっていなかったようで,誰かに見て評価され
め,流星群に替えた.垂らす長さを壁面の上半分程度
るよりも,作る過程が楽しいと制作のモチベーション
にし,本数を多くして群れに見えるようにした.この
が上がり,作品の出来に繋がった.
流星群は可愛いと好評だった.O-4,O-5壁紙の色が
本学では学校見学会の準備を手伝っている学生が多
濃く暗くなりがちだったが,それのおかげでアルミホ
い.O-4,O-5は,その時に一緒に制作してくれる友人
イルの雫やハートが逆にキラキラ反射して目立ち,良
がたくさんいたため,本人も気に入るような凝った作
かったと思われる.
品に仕上がった.本来なら学園祭が一番盛り上がるイ
ベントで,モチベーションも上がりそうなのだが,学
O-6.10月作品「Halloween」
生Oが学園祭役員になっていたことから,この壁面装
学園祭のために制作した(図O-6)
.
飾以外にも仕事がたくさんあり,あまり手をかけてい
カキの木とススキを木枠やつるに結んで立たせた.
られず,U-6やW-6のような作品にはならなかったと
つるにカラスウリとサルトリイバラの実付きの枝を巻
考えられた.
37
表5 壁面装飾のテーマと使用した主な材料(学生A)
テーマ
ありがとう
ようこそ
大分短期大学へ
秋の恵み
使用した主な材料
クワ,ユリ,スイセン,カラー,パンジー,ナノハナ,カランコエ ハボタン,ハラン キャン
パス,吸水性フォーム,花器,色画用紙,ビニール,染色した毛糸(クチナシの実,紫黒米の米糠,
タマネギの皮,サザンカの花弁,ミョウバン) ルドベキア,ユリ,ポトス,アロエ,ヒマワリ,ポトス,ベゴニア,押し花,画用紙,花器,ビニール
アキランサス,カボチャ,マツボックリ,フウセントウワタ,プラスチック鉢,色画用紙,壁紙,テ
グス,スパンコール,糸,ガムテープ,画鋲,染色した布(タマネギ,ミョウバン)
,ビニール
場所:1階と2階を結ぶ階段の踊り場
期間:2010年3月~11月
担当:学生A(女子)
学生Aは,フラワー装飾技能士も取得し,フラワー
コンテストにも出展するなど,何かを作るということ
が好きだったので,壁面装飾を勧めた.すると,植物
を材料とした器や箸などといった小物が好きで,自分
でも染物や押し花などを作り,それらを壁面装飾に取
り入れたいと,意欲が湧いたようなので,草木染めも
することにした.草木染めで材料を作ってから装飾し
たため,作品数は少なくなった.学生Aが3つのテー
図A-1「ありがとう」
マで使用した材料は表5に示す.
に染まっていただけに少々もったいなかった.
草木染は,クチナシの実,紫黒米の米糠,タマネギ
中央に麻のキャンバスに色画用で「Danke schön.
(ド
の皮,サザンカの花弁を使用し,染色液と媒染液を作
イツ語でありがとう)
」と貼ったものを置き,その両
り行った.染色液は,植物の色素を抽出し染めるため
側に,緑の花器にスイセン,カラー,パンジー,ナノ
の液.媒染液は,着色を固定する液である.媒染液に
ハナ,カランコエなどを生けたアレンジを置いた.
は,最も手軽なミョウバンを使用した.染めるものは
下段にはハボタン,パンジー等をポットのまま置い
毛糸や布等とした.
た.黄色のスイセンやパンジーなど濃い明るい色の花
毛糸の花とボンボンを染めた.花はクチナシの実を
や紫のハボタンは白い壁に引きたった.
使用し,黄色に染まった.ボンボンは紫黒米の米糠を
学生Aは,最初の草木染めが綺麗にできたことから,
使用し,黒紫色に染まった.これらでリース等を作っ
壁面装飾の意欲が湧いたように見えた.自分の好きな
た.タマネギの皮では晒を染めた.
晒は薄黄色に染まっ
ことが上手く行くと,後々の作業のモチベーションに
た.サザンカの花弁では布を染めた.布は薄ピンクに
響くと思われた.
染まった.これらを壁面装飾に取り入れた.
A-3.7月作品「ようこそ大分短期大学へ.
」
A-1.3月作品「ありがとう」
7月の学校見学会に向けて制作した(図A-2)
.
卒業生のために制作した(図A-1).
「ようこそ大分短大へ」の大きな文字を2段に分けて
1階と2階を結ぶ階段の踊り場には,元からA-1のよ
配置し,歓迎の意を表した.
うに白い木枠が施されていた.そのため,それを活か
中央にA-1と同じ花器を使用し,ルドベキア,ユリ,
すような装飾とした.
ポトス,アロエ,ハランなどを生けた.文字の周りに
クワの枝は両側の木枠にくくりつけ,そこにクチナ
は押し花を貼り付けたが,小さくわかりづらかった.
シで染色した毛糸の花をつけた.花をもう少し大きく
壁面全体が白だったため,濃い葉色のものを使用して
作ればもっと華やかになったと思われ,毛糸がきれい
みたが,
雰囲気が暗くなってしまったように思われた.
38
両側の骨組みに藍色の壁紙を上から下まで貼り付
け,残った木枠も全て山吹色の紙で覆った.そこへ,
茶色い鉢と黒画用紙で作ったジャコランタンを重ねて
テグスに通し,吊るした.カボチャ,マツボックリ,
フウセントウワタ等のドライものを籠に入れたりして
置いた.その下にWELCOMEの文字とスパンコール
を貼ったタマネギの皮で染色した布を飾った.床には
アキランサスの鉢物を並べた.
2色の壁紙での大胆なイメージチェンジは,色合い
も評判が良かった.壁紙で境界ができたことでメリハ
図A-2「ようこそ大分短期大学へ」
リがつき,中心の植物や装飾も引き立ち全体的に引き
締まり,大変見栄えがしてよかったと思われる.
下には学生Aが栽培したヒマワリをポトスやベゴニ
この作品は今までの学生Aの作品の中で一番評価が
ア等と一緒に並べた.学生Aは栽培にも関心があり,
良かった.本人も自分の今までの作風と全く変わった
夏の装飾に自分で栽培したものを使いたい,と準備を
ものになり,驚き満足していたようである.
していた.このヒマワリも学校見学会に間に合うこと
学生Aは性格が大人しく真面目で,一人でコツコツ
が出来て,本人は満足していたようだった.夏らしく
行うタイプでこだわりも強かったため,あまり人に手
明るい色の植物を置いたが,全体を見ると白い部分が
伝いを求めることはなかった.それが作品にも表れて
多く感じられ,寂しい印象だった.
いて,最初はおとなしい作品だったが,最後には壁を
大胆に壁紙で覆ってしまうなど,
大きく変化を見せた.
A-3.10月作品「秋の恵み」
学園祭では友人と仲良くジャコランタンを作ったり,
10月の学園祭び向けた今までより派手な装飾をと提
壁紙を貼ったりと協力してもらう姿が見られた.誰か
案をした(図A-3)
.
と行うと楽しく,気分も盛り上がり,アドバイスも得
られるため,作風が変化すると考えられた.
場所:1階と2階を結ぶ階段の踊り場
期間:2011年1月~11月
担当:学生M
学生Mはフラワー装飾技能士,室内園芸装飾技能士と
もに取得し,フラワーコンテストにも何回も出展した.
装飾が好きで関心があり,積極性があった.生花店へ
就職を希望し,イベント時だけでなくその練習のため,
学生Aから引き継ぐと早々に開始した.壁紙とアレンジ
メントの相性も見ようと,何回か貼り替えも行った.学
生Mが9つのテーマで使用した材料を表6に示す.
M-1.1月作品「冬のピクニック」
A-1の 壁 紙 を そ の ま ま 引 き 継 い で 制 作 し た( 図
M-1)
.
寒い冬,大きなかごを提げてピクニックへ行くイ
メージを表現した.
上段に籠を使ったアレンジメントをメインに,両側
に白い小さな花器に入れたアレンジメント置いた.下
にはベゴニアの鉢物を詰めて並べた.壁紙の色から寒
図A-3「秋の恵み」
さが感じられ,その中でも健気に花が咲いているとい
39
表6 壁面装飾のテーマと使用した主な材料(学生M)
テーマ
使用した材料
冬のピクニック
バラ,トルコギキョウ,カーネーション,カスミソウ,カランコエ,ユーカリ,レザーリーフファン,
ピットスポラム,かご(大)
,ポット,カップ,壁紙,画鋲,ガムテープ,ビニール
待ち遠しいはる
カランコエ,バラ,カーネーション,ピットスポラム,カスミソウ,モモ,レザーリーフファン,
壁紙,画鋲,ガムテープ,ビニール 夢に向かって
はばたけ
ピットスポラム,カランコエ,トルコキキョウ,スイセン,レザーリーフファン,アイビー,
折り紙,籠,コップ ポット 花紙 壁紙,画鋲,ガムテープ,ビニール
Welcome to 短大
スイセン,ユーカリ,カーネーション,レザーリーフファン,アイビー,クンシラン,パンジー,
折り紙,花紙,籠,壁紙,画鋲,ガムテープ,ビニール
屋根より高いこ
いのぼり
アマリリス,カーネーション,折り紙,こいのぼり,壁紙,画鋲,ガムテープ
でんでんむしむし アジサイ,マツボックリ,デュランタ,照る照る坊主(布,新聞紙),吸水性フォーム,花器,
かたつむり
壁紙,画鋲,ガムテープ,ビニール
ミルキーウェイ
ササ,折り紙,マツボックリ,花器,壁紙,画鋲,ガムテープ,ビニール
残暑
ジニア,マツボックリ,ガラス瓶,壁紙,画鋲,ガムテープ,ビニール
初秋
グラジオラス,
カーネーション,
トルコキキョウ,
カンガルーポー,
カーネーション,
アキランサス,
ススキ,パンパスグラス,マツボックリ,カボチャ,パフェグラス,整髪料,壁紙,画鋲,
ガムテープ,ビニール
M-2.3月作品「待ち遠しいはる」
卒業式の前に制作した(図M-2)
.
図M-1「冬のピクニック」
う冬らしさが出ていたように思われた.
図M-2「待ち遠しいはる」
壁紙を桃色に替え,3月の暖かくなってきている雰
40
囲気を出し,これから来る明るい春への期待を表現し
た.上段には白い花器とマグカップに桃の花を生けた
アレンジメントを置いた.下に赤とピンクのカランコ
エの鉢物を置いた.壁紙が変わっただけで明るく暖か
い雰囲気が出せた.壁紙を張り替えるのに,友達に手
伝ってもらい,楽しくやっていた.
M-3.3月作品「夢にむかってはばたけ」
卒業生のために制作した(図M-3)
.
図M-4「Welcome to 短大」
M-5.5月作品「屋根より高いこいのぼり」
こどもの日をイメージし,こいのぼりを作りこども
が見て楽しくなるようにした(図M-5)
.
図M-3「夢に向かってはばたけ」
壁紙はM-2と同じにし,春の暖かさを表現し,その
中で卒業生が自分で決めた進路に向けて,階段を上っ
ていくイメージにした.籠のアレンジメントを上の垂
木に階段状にテグスで取り付けたが,固定が難しかっ
た.籠を使ったアレンジメントと,白いマグカップを
使ったアレンジメントを置いた.花紙や折り紙の鎖を
中央の垂木に取り付け,お祝いと華やかさを表現した
ようだが「幼稚園のようだね」という意見があった.
植物とこれらの装飾品がぶつかりごちゃごちゃした印
象を与えてしまったようにも思われた.
M-4.4月作品「Welcome to 短大」
図M-5「屋根より高いこいのぼり」
新入生のために制作した(図M-4)
.
こいのぼりを作るのに手間取ってしまい,2匹と少
M-3の紙の鎖の付け方を変え,上の籠を外した.ア
なく,片側の垂木にしか付けられなかったため,少し
レンジメントの花を変えたが,春休みで時間がなく,
寂しい印象となった.よく目にするこいのぼりは大き
M-3と同様な作品になってしまった.
いものが多く,
数もたくさんつけられていることから,
41
もう少し派手なこいのぼりをたくさんつけるとこども
の日のイメージが強く出せたと思われた.壁紙の色を
M-7.7月作品「ミルキーウェイ」
空の色にすると,大空にはためくこいのぼりに見えた
七夕に彦星と織姫がめぐり逢えるよう願いを込めて
のではないかと思われた.
制作した(図M-7)
.
しかし,アレンジは良く作り替えていたことから,
生花を扱って何か作るということが好きなことが伺え
た.
M-6.6月作品「でんでんむしむしかたつむり」
学校見学会のために制作した(図M-6)
.
図M-7「ミルキーウェイ」
上にササの模造品を使用し,M-6と同じ緑の花器に
飾った.このササには希望する他の学生が,願いを書
いてくれた短冊を沢山飾った.制作者だけでなく,他
の学生が一緒に飾ったりできるものもイベントを盛り
上げたり,季節をより感じることが出来て良いのでは
ないだろうか.
M-8.9月作品「残暑」
朝夕が涼しくなってきて夏も終わりに近づいた,そ
の名残惜しさを表現した(図M-8)
.
図M-6「でんでんむしむしかたつむり」
壁紙を全面緑色にして鬱蒼とした梅雨時の緑を表現
した.
ジメジメを吹き飛ばそうと照る照る坊主を制作した
が,1つだけとなり上の空間が目立ってしまった.上
には,深緑の花器にアジサイ等を使った大きなアレン
ジを両脇に置き,マツボックリを並べ,中心には小さ
図M-8「残暑」
なアレンジを置いた.この壁紙の色とアジサイの色が
深緑の壁紙とジニアの色合いがしっくりきた作品に
よく合っていた.下にデュランタを隙間なく詰め込ん
なった.濃い色同士であったが原色ではないため,落
だことで,緑の鬱蒼とした雰囲気を出せ,本人もこの
ち着きが出ていて,夏を通り過ぎた秋の手前の雰囲気
色合いは気に入っていたようだった.
が出せたように思われる.夏休み中に制作したため,
題名のカタツムリはこの作品には一切出てきていな
マツボックリ等,手入れのいらないドライの植物をう
いので,カタツムリのオブジェや連想させる装飾等あ
まく使った.
ればもっと題名が生きたと考えられる.
M-9.10月作品「初秋」
42
10月の学園祭に向けた作品となった(図M-9)
.
た装飾もできており,そのときのイベントを盛り上げ
ることもできた.
共通して言えることは,①人の目に触れるという状
況が制作のモチベーションを上げる,②長期休暇に重
なる作品は簡素になる傾向がある,③回を重ねると要
領,技術,色彩感覚,植物への関心が身についてくる,
ということであった.
①人の目に触れるという状況が制作のモチベーション
を上げる
これはどの学生にも見られた顕著な傾向である.こ
の場合の人の目というのは2種類ある.
一つは,作業途中の人の目である.最初は一人で取
りかかっているが,
何度も同じ場所で作業していると,
踊り場を通る人たちに作業経過を見られ,声をかけら
れることが多くなる.そうすると,制作者自らが通る
人に感想やアドバイスを求めるようになってくる.ま
た,イベント時は学校全体で準備を行っているため,
周りの学生も何かしらの準備に取り組んでいる.その
状況が「向こうも頑張っているから自分も頑張らない
と」と,制作者に刺激を与えていたと考えられる.
もう一つは,完成した作品が人に見られるというこ
とである.
図M-9「初秋」
学校見学会や学園祭では,顔見知りではないお客さ
ススキやマツボックリ,カボチャなどを飾り,秋を
んの割合が多く,入学式,学園祭,卒業式では友人や
表現した.壁紙に橙色を使い垂木に緑色を使用し,カ
卒業生,保護者の方々,先生方といった,近い関係の
ボチャの色を表現した.ススキやパンパスグラスの穂
人間の割合が多い.前者の場合は,見た人からの感想
先を整髪料で固めて飾った.
アレンジメントは,
パフェ
等が聞けないため,作品の美しさに重点を置いた一
グラスに花を活け,少量の花ですむように工夫してい
方通行の装飾になりがちだったと思われる.後者の場
た.マツボックリを上から吊るしたことと,長さのあ
合は直接反応が伺え,それが作品に反映した場合も
るススキを両サイドに立たせたことで上の空間を埋め
見て取れた.更には,自分の能力を誇示したいという
ることができ,今までの作品より賑やかになった.
気持ちも少なからずあったように見て取れ,これもモ
学生Mは本人がイメージや使う花材を前もって具体
チベーションを上げる原動力となっていたと考えられ
的に決めておく方が良かったと反省していたように,
る.
急いで作りすぎたきらいがある.しかし,毎回当人は
②長期休暇に重なる作品は簡素になる傾向がある
楽しんでいて,何回も作ることは苦ではなかったよう
学生にとって長期休暇は待ち遠しいイベントであ
だ.花や植物,アレンジメントを作ることが本当に好
る.全体的には意識がそちらに傾いてしまい,制作の
きということが伺えた.
意欲と,
管理の意欲が欠けてしまった学生が多かった.
これも簡素になった原因と思われる.しかし,帰省中
考 察
の対策を良く考えて装飾した学生も中にはいた.この
ように,作ることだけでなく,その後の管理も視野に
全員に「デザインは季節感を重視すること,行事を
入れた装飾が出来るようになると素晴らしい.
盛り上げるようにすること,植物を装飾材料の中心に
長期休暇に入ると学校へ来る人が少なく,作品が人
すること」と課題を与えたところ,全員が全テーマで
の目に触れる機会が激減する.これに重なってしまっ
季節に合った装飾を考えることができ,植物を材料と
た7,8月の学校見学会の作品は,①のような現象が起
して取り入れることができた.また,学校行事に合っ
こらなくなるため,
簡素な作品になる傾向が見られた.
43
③回を重ねると要領,技術,色彩感覚,植物への関心
が身についてくる
だと思われる半面,作品が似る可能性がある.現に同
じような植物やアイディア,小物を使っている作品が
何かを作るのが好きで始めた学生や,生花店でアル
ある.更に制作者の個性,
独創性を引き出すためには,
バイトをしていた学生は初めから要領を得ていた.ア
テーマの縛りをなくし,自由に装飾させてみることも
イディアもすぐ沸いてきて,
植物の扱いも慣れており,
必要ではないだろうか.
初回の装飾から高度なことが出来ていたように思われ
学生による壁面装飾を実施した結果,学生のやる気
る.一方で,ただ楽しさや楽さを求めて始めた学生は,
や技術等が向上する傾向が見られたため,今後もこの
植物の名前すらもわからず,新しいアイディアを考え
ような作品制作を継続していければと思う.
るのも苦手で,初回は稚拙になる傾向が見られた.し
かし,新しい技術や色彩の組み合わせ等を教えると,
謝 辞
全員すぐ関心を示し,取り入れるという素直さがあっ
た.ひとつ新しいことが出来るようになると,次の装
本研究は荒田愛美,上野有紀,小関亮,貫里朋子,
飾でまた新しいアイディアを出そうという姿勢が見て
味村希里子,渡邉絵里奈(五十音順)
,による壁面装
取れた.従って,全学生が,作品制作の回数が進むに
飾を分析・考察したものである.協力頂いた6人に感
つれ,技術や色彩感覚が身に付き,凝った作品が作れ
謝する.
るようになっていったと考えられる.
また,学生の植物への関心が強くなった.学生が自
分で探したり育てたりした植物を壁面装飾に活用した
参考文献
ことで,学生と植物の関係がさらに深まった.人が植
1.松尾英輔.2011.人間・植物関係学の成立と発展
物に関心を持つと,植物が人を育てる効果も表れると
―あたりまえの関係を科学する―.人間・植物関
考えられる.
材料の面からみると,多くの学生で春から夏にかけ
係学会誌10(2)
:1-12
2.松尾英輔.2013.園芸福祉―園芸の療法的活用と
て,生花を使用する割合が高くなっている.これは,
リクリエーション的活用―.農業および園芸 第
この時期に植物の生育も旺盛になり,種類も増えるこ
88巻 第1号:32-42
とや,自分の身の回りでも,青々と葉が茂ったり,花
が咲いたりすることから,瑞々しい植物を使った方が
季節感が出るという考えに至った結果と思われる.一
方ドライの植物と非植物材料の使用の割合は,どの学
生でも10月の学園祭の装飾に著しく多くなっている.
実物やドライフラワーは軽く,装飾時や装飾後の水管
理を考えなくて良い.そのため,生きた植物で水があ
るうちはできないような形を作ったり,壁面や空中等
でも飾れるなど,植物で装飾ができる範囲が広がる.
多くの学生がこの利点を生かしたと考えられる.
月 ご と の 学 生 作 品 の テ ー マ に つ い て は12月 に は
Xmas(3名/3名)
,3月には卒業(6名/6名)
,4月には
入学(5名/6名)
,6月には梅雨(5名/6名)
,7,8月に
は夏休み(3名/6名)
,10月にはハロウィン(4名/6名)
となっている(括弧内の人数は,同じテーマの人数/
制作した人数,を示している). 季節や行事を意識す
ると,大多数が同じテーマを選んでしまう傾向が見ら
れた.世間的にも周知された行事や季節は,イメージ
が湧き易く作り易いのであろう.指導する側も,指導
し易い.見る側も理解でき,手伝いやアドバイス,感
想,評価等も容易に述べやすくなる.これは良いこと
44
大分短期大学における
教育の質的転換を推進するために
〜平成26年度 学生の学修・生活実態調査結果を踏まえて〜
摺崎 宏
(大分短期大学自己点検・評価委員会)
Consideration of the Qualitative Conversion of Education
in OITA JUNIOR COLLEGE, Based on the Investigation of
Learning and Living Condition of Students in Fiscal 2014
Hiroshi SURIZAKI
(The Board of Self-Inspection/Assessment, OITA JUNIOR COLLEGE)
要 約
学生の7,8割は予習・復習に取り組んでいたが,平日における予習・復習にかける時間は1,2年生と
もに2時間以下が多数を占めており,履修単位数に応じて求められている予習・復習の時間との乖離が
大きかった.今後,本学の教育の質的転換を図るためには,必修科目を中心とする科目の再編を中心
にして,カリキュラムの編成方法,履修登録科目の適正化,シラバスへの予習・復習時間と学修内容
の明記,学生の主体的学修を図るなどの方策を検討する必要があると考えられた.
キーワード:教育の質的転換 能動的学修 学生生活 予習・復習時間
緒 言
学生の主体的な学修時間の実質的増加・確保が必要
であるとしている1).
平成24年8月,文部科学省中央教育審議会から「新
大分短期大学では,
平成21年度から
「人−農業・園芸・
たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて
環境関係論」において,学生主体型の授業を実施して
〜生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学
きたが,他授業での応用・展開が進まない状況にある.
へ〜」が答申された.本答申では,従来のような知
今回,本学におけるアクティブ・ラーニングの転換・
識の伝達・注入を中心とした授業から,教員と学生
推進を図るための基礎的情報を得るため,
学生の学修,
が意思疎通を図りつつ,一緒になって切磋琢磨し,
および学生生活に関するアンケート調査を行った.
相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り,
学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能
調査方法
動的学修(アクテイブ・ラーニング)への転換が必
1.学修に関するアンケート調査
要であるとし,また,能動的学修の転換を図るには,
平成26年9月8日にアンケート調査を実施した.調査
45
は大分短期大学に在学する1年生(38名)
,2年生(47
名)全員を対象とした.
質問は表1に示す15項目とした.
学年に関わらず,1,2年生には同じ質問をした.回答
は選択式とした.
その他 6%
学外の施設 2%
短大の図書室
や自習室 27%
自分の部屋
65%
2.学生生活に関するアンケート調査
学修に関するアンケートと同日の平成26年9月8日に
アンケート調査を実施した.調査は大分短期大学に在
学する1年生(38名)
,
2年生(47名)全員を対象とした.
質問は表2に示す6項目とした.学年に関わらず,1,2
年生には同じ質問をした.回答は選択式とした.
図1-2 普段の予習,復習は主にどこで行っていますか?
(2年生)
(2)
「普段,授業の予習をしていますか?」に対する
結 果
回答
1.アンケートの回答率
「毎回している」と回答したものは1,2年生ともに
「学修に関するアンケート調査」
,
「学生生活に関す
極めて少なかった(1年生で0%,2年生で2%)
.
「とき
るアンケート調査」ともに1年生は38名全員から,2年
どきしている」と回答したものは35〜45%であった.
生は46名から回答を得た.回答率は,1年生で100%,
2年生で98%であった.
「あまりしていない」と「全くしていない」を合わせ
た割合は全体の7割を超えた.
「まったくしていない」
と回答した2年生は1年生よりも9ポイント多かった
(図
2–1,2–2)
.
2.学習に関するアンケート
(1)
「普段の予習,復習は主にどこで行っています
か?」に対する回答
1,2年生ともに「自分の部屋」が最も多く,次い
で「短大の図書室や自習室」であった.「自分の部屋」
全く していない
37%
と「短大の図書室や自習室」を合わせると1年生で
毎回している 0%
ときどき
している
18%
97%,2年生で92%であった.2年生で「自分の部屋」
と回答した割合は,1年生よりも17ポイント低かった.
また,2年生で「短大の図書室や自習室」と回答した
あまり していない
45%
割合は,1年生よりも12ポイント多かった(図1–1,
1–2).
学外の施設 3%
その他 0%
図2-1 普段,授業の予習をしていますか?(1年生)
短大の図書室
や自習室 15%
毎回している 2%
全く していない
46%
自分の部屋
82%
図1-1 普段の予習,復習は主にどこで行っていますか?
(1年生)
ときどき している
17%
あまり していない
35%
図2-2 普段,授業の予習をしていますか?(2年生)
46
(3)
「普段,授業の復習をしていますか?」に対する
4時間以上 0%
回答
「毎回している」と回答したものは1,2年生ともに
極めて少なかった(1年生で0%,2年生で2%)
.
「とき
全くしていない
33%
3∼4時間 2%
2∼3時間 7%
どきしている」と回答したものは31〜39%であった.
「あまりしていない」と「全くしていない」を合わせ
た割合は全体の6割を超えた(図3–1,3–2)
.
全くしていない
16%
毎回してい 0%
ときどき
している
39%
1∼2時間
30%
図4-2 予習と復習をあわせた平日の勉強時間は?
(2年生)
(5)
「レポート課題などの調べものをするときの情報
あまり していない
45%
源は?」に対する回答
1,
2年生ともに最も多かったのは「インターネット」
図3-1 普段,授業の復習をしていますか?(1年生)
全くしていない
26%
1時間以下
28%
毎回している 2%
ときどき
している
31%
であった(1年生:72%,2年生:59%)
.
「教科書や
参考書」と回答したものは3割程度であった(図5–1,
5–2)
.
その他 5%
友人や先輩 0%
教員 0%
あまり していない
41%
教科書や
参考書
23%
図3-2 普段,授業の復習をしていますか?(2年生)
(4)「予習と復習をあわせた平日の勉強時間は?」に
対する回答
1年生では「1〜2時間」と「1時間以下」が合わせて
76%であったのに対し,2年生では58%であった.2年生
では「まったくしていない」が33%であり,1年生より
も20ポイント高かった.
「2時間以上」と回答したものは
1年生では11%,2年生では9%であった(図4–1,4–2)
.
全くしていない
13%
インターネット
72%
図5-1 レポート課題などの調べものをするときの
情報源は?(1年生)
その他 0%
友人や先輩 4%
教員 9%
教科書や
参考書
28%
4時間以上 3%
3∼4時間 0%
2∼3時間 8%
インターネット
59%
1時間以下
37%
図5-2 予習と復習をあわせた平日の勉強時間は?
(2年生)
1∼2時間
39%
図4-1 予習と復習をあわせた平日の勉強時間は?
(1年生)
(6)
「学習のためにインターネットを1日何時間くら
い利用しますか?」に対する回答
学習に利用する1日のインターネットの利用時間は2
47
時間以内が多く,
「2時間以上」
,
「1〜2時間」
,
「1時間
以内」が合わせて8割を超えた.1年生では「1〜2時間」
と回答したものが多かったが,
2年生では「1時間以内」
全く難しくない 0%
とても難しい 4%
あまり難しくはない
35%
と回答したものが多かった.1年生の「1〜2時間」と
回答したものは2年生よりも23ポイント多かった(図
6–1,6–2).
全く利用しない
18%
2時間以上 0%
1∼2時間
45%
まあま難しい
61%
図7-2 短大の授業は難しい?(2年生)
(8)
「短大の公務員/編入講座を受講していますか?」
に対する回答
「受講している」と回答したものは,1年生で71%で
1時間以内
37%
あったが,2年生では33%であった.2年生では「受講
図6-1 学習のためにインターネットを1日何時間くらい
利用しますか?(1年生)
全く利用しない
11%
2時間以上 2%
1∼2時間
2%
していない」と回答したもの67%であった(図8–1,
8–2)
.
受講していない
29% 受講している
71%
1時間以内
65%
図6-2 学習のためにインターネットを1日何時間くらい
利用しますか?(2年生)
図8-1 短大の公務員/編入講座を受講していますか?
(1年生)
(7)「短大の授業は難しい?」に対する回答
1,2年生ともに「まあまあ難しい」と回答したもの
が最も多かった(1年生:79%,2年生61%)
.
「あまり
受講していない
67% 受講している
33%
難しくない」と回答したものは1年生で21%,2年生で
35%であった(図7–1,7–2)
.
全く難しくない 0%
とても難しい 0%
あまり難しくはない
21%
図8-2 短大の公務員/編入講座を受講していますか?
(1年生)
まあま難しい
79%
図7-1 短大の授業は難しい?(1年生)
48
(9)
「最近の短大の公務員/編入講座の出席状況は?(平
日の講座,受講している人のみ回答)
」に対する回答
「病気や用事がない限り出席している」と回答した
ものは1年生で52%,2年生で28%であった.2年生で
は「ほとんど出席していない」
(19%)
,と「よく欠
席する」(24%)が1年生に比べて多かった(図9–1,
全く受講したくない
9%
9–2).
ほとんど出席
していない 0%
よく欠席する
7%
病気や用事が
ない限り 出席している
52%
是非受講したい
18%
あまり受講
したくない
27%
まあまあ 受講したい
46%
図10-2 公務員/編入講座以外で,高校レベルの基礎科目
(英・国・数・理・社会)が学べる機会があれば
受講したいですか?(2年生)
時々、欠席する
ことがある
41%
図9-1 最近の短大の公務員/編入講座の出席状況は?
(平日の講座,受講している人のみ回答)
(1年生)
ほとんど出席
していない 19%
(11)
「英語のコミュニケーション能力は重要だと思
いますか?」に対する回答
病気や用事が
ない限り 出席している
28%
1,2年生ともに,
「とても重要だ」が最も多く,次
いで「まあまあ重要だ」が続いた.
「とても重要だ」
と「まあまあ重要だ」は合わせて9割を超えた(図
11–1,11–2)
.
全く重要でない 0%
あまり重要でない 5%
よく欠席する
24%
時々、
欠席する
ことがある
28%
とても重要だ
58%
まあまあ 重要だ
37%
図9-2 最近の短大の公務員/編入講座の出席状況は?
(平日の講座,受講している人のみ回答)
(2年生)
(10)
「公務員/編入講座以外で,高校レベルの基礎科
目(英・国・数・理・社会)が学べる機会があれば受
講したいですか?」に対する回答
「是非受講したい」と「まあまあ受講したい」と回
図11-1 英語のコミュニケーション能力は重要だと思い
ますか?(1年生)
答したものは,1年生で合わせて71%,2年生で64%で
あった(図10–1,10–2)
.
全く重要でない 2%
あまり重要でない 7%
全く受講したくない
3%
あまり受講
したくない
26%
是非受講したい
37%
まあまあ 受講したい
34%
図10-1 公務員/編入講座以外で,高校レベルの基礎科目
(英・国・数・理・社会)が学べる機会があれば
受講したいですか?(1年生)
まあまあ 重要だ
38%
1.
とても重要だ
53%
図11-2 英語のコミュニケーション能力は重要だと思い
ますか?(2年生)
(12)
「短大の英語の授業や放課後の対策講座以外に
どんな英語学習をしていますか?」に対する回答
1年生の約41%,2年生の約56%が何らかの英語学習
49
に取り組んでいた.1年生では「市販のセット教材」
(20%)が最も多く,
2年生では「映画やドラマ」
(17%)
が最も多かった.また,2年生では「インターネッ
13–1,13–2)
.
参加する予定は
なかった 19%
すべて参加した
5%
ト」や「SNS」を利用するものもみられた(図12–1,
12–2).
特別していない
59%
雑誌などの書籍 (CDやDVD付きを含む)
13%
映画やドラマ
5%
市販の セット教材
20%
インターネット
(ポッドキャストや
インターネット
英会話の利用など)
ほとんど参加
しなかった
8%
0%
(通学や家庭教師)
0%
テレビやラジオの
英語講座 0%
ゲーム機(英語ソフト)
の利用 0%
SNS(ソーシャルネット
ワークサービス)等への
英語での参加 0%
すべて参加した 7%
参加する予定は
なかった 52%
雑誌などの書籍 (CDやDVD付きを含む)
11%
映画やドラマ
17%
ほぼ参加した 4%
まあまあ 参加した 2%
ほとんど参加
しなかった
5%
図12-1 短大の英語の授業や放課後の対策講座以外に
どんな英語学習をしていますか?(1年生)
特別していない
44%
まあまあ参加した
33%
図13-1 夏休み中の編入/公務員講座に参加しましたか
(1年生)
英会話レッスン
その他 3%
ほぼ参加した
27%
全く参加 しなかった
8% 全く参加 しなかった 30% 図13-2 夏休み中の編入/公務員講座に参加しましたか
(2年生)
(14)
「夏休み中の編入/公務員講座以外の自主学習に
ついて・・・1日あたりの学習時間は?(資格取得の
ための勉強時間は除く)
」に対する回答
1年生では「1〜2時間」
(47%)が最も多かったが,
市販の セット教材
11%
その他 2%
SNS(ソーシャルネットワーク
サービス)等への英語での参加 5%
ゲーム機(英語ソフト)
の利用 4%
テレビやラジオの 英語講座 4%
インターネット
2年生では「全くしていない」
(39%)が最も多かった.
「1〜2時間」以上は1年生で66%であったが2年生では
36%であった(図14–1,14–2)
.
(ポッドキャストや
インターネット
英会話の利用など)
2%
英会話レッスン 全くしていない
8%
(通学や家庭教師)0%
図12-2 短大の英語の授業や放課後の対策講座以外に
どんな英語学習をしていますか?(2年生)
1時間以下
26%
4時間以上 3%
3∼4時間 8%
2∼3時間
8%
(13)「夏休み中の編入/公務員講座に参加しました
か?」に対する回答
「すべて参加した」,「ほぼ参加した」,「まあまあ参
加した」と回答したものは,1年生で合わせて65%で
あったが,2年生では13%であった.2年生では「全く
参加しなかった」と回答したものが30%であった(図
50
1∼2時間 47%
図14-1 夏休み中の編入/公務員講座以外の自主学習に
ついて…1日あたりの学習時間は?(資格取得
のための勉強時間は除く)
(1年生)
4時間以上 2%
全くしていない
39%
3∼4時間 4%
日」が1,2年生とも最も多かった(1年生:22%,2年
生17%,図16–1,16–2)
.
2∼3時間
14%
1∼2時間
16%
毎日 8%
アルバイトは
していない
65%
3∼4日
22%
1∼2日
5%
1時間以下 25%
図14-2 夏休み中の編入/公務員講座以外の自主学習に
ついて…1日あたりの学習時間は?(資格取得
のための勉強時間は除く)
(2年生)
図16-1 平日のアルバイトの状況は?(1年生)
毎日 2%
(15)「大分短大の教育全体の満足度は?」に対する
回答
1,2年生ともに「まあまあ満足」と回答したものが
最も多かった(1年生:68%,2年生:74%)
.
「大変満
アルバイトは
していない
68%
3∼4日
17%
1∼2日
13%
足」と回答したものは1年生で21%,
2年生で9%であっ
た(図15–1,15–2)
.
どちらでもない 3%
全く満足していない
0%
あまり満足
していない
8%
図16-2 平日のアルバイトの状況は?(2年生)
大変満足 21%
(2)土/日のアルバイトの状況は?
1,2年生とも「していない」がおよそ半数であった
(1年生:49%,2年生49%)
.アルバイトの頻度は「毎
週」が1,2年生とも最も多かった(1年生:32%,2年
生40%,図17–1,17–2)
.
まあまあ満足
68%
毎週している
32%
図15-1 大分短大の教育全体の満足度は?(1年生)
していない
49%
どちらでもない 11%
全く満足して
いない 0%
大変満足 9%
あまり満足
していない
6%
時々している
19%
図17-1 土/日のアルバイトの状況は?(1年生)
毎週している
40%
まあまあ満足
74%
していない
49%
図15-2 大分短大の教育全体の満足度は?(2年生)
3.学生生活に関するアンケート
(1)平日のアルバイトの状況は?
1,2年生とも「していない」が最も多かった(1年生:
65%,2年生:68%)
.アルバイトの頻度は「週に3〜4
時々している
11%
図17-2 土/日のアルバイトの状況は?(2年生)
51
(3)アルバイトの目的は?
「学費」や「生活費」と回答したものは1,2年とも
8時間以上 0%
30%を超えた.
「小遣い」と回答したものは2年生の方
7∼8時間
17%
が多かった(1年生:25%,2年生48%)
.
「社会勉強」
6時間以下
33%
と回答したものは1年生で28%,2年生で17%であった
(図18–1,18–2)
.
その他
13%
学費 9%
6∼7時間
50%
生活費
25%
図19-2 あなたの平日の睡眠時間は?(2年生)
(5)朝食は食べていますか?
社会勉強
28%
1,2年生とも「毎日食べている」が最も多く,1年
小遣い 25%
と「まったく食べない」は1年生であわせて19%,2年
図18-1 アルバイトの目的は?(1年生)
その他
2%
生で59%,
2年生で41%であった.
「ほとんど食べない」
生で29%であった(図20–1,20–2)
.
学費 7%
社会勉強
17%
生活費
26%
まったく
食べない
8%
ほとんど
食べない
11%
毎日 食べている
59%
時々
食べない
ことがある
22%
小遣い
48%
図18-2 アルバイトの目的は?(2年生)
図20-1 朝食は食べていますか?(1年生)
(4)あなたの平日の睡眠時間は?
1,2年 生 と も「6〜7時 間 」 が 最 も 多 く,1年 生 で
まったく
食べない
7%
68%,2年 生 で50% で あ っ た.「6時 間 以 下 」 と 回答
したものは1年生で24%,2年生で33%であった(図
19–1,19–2).
ほとんど
食べない
22%
毎日 食べている
41%
8時間以上 0%
7∼8時間
8%
6時間以下
24%
時々
食べない
ことがある
30%
図20-2 朝食は食べていますか?(2年生)
(6)学校生活以外のプライベートは満足しています
6∼7時間
68%
図19-1 あなたの平日の睡眠時間は?(1年生)
52
か?
1年生では「とても満足している」
(49%)が最も高
かったが,
2年生では「まあまあ満足している」
(69%)
が最も高かった.
「とても満足している」と「まあま
あ満足している」の割合(合計)は1年生,2年生とも
るにあたって必要な予習と復習の1日あたりの時間は,
に89%であった(図21–1,21–2)
.
1年生で9時間,2年生で6時間となる.本学学生の7,8
割は予習・復習に取り組んでいると見受けられるが,
全く満足して
いない 0%
とても 満足している
49%
あまり 満足して
いない
13%
平日における予習・復習にかける時間は1,2年生とも
に2時間以下が多数を占め,全く予習・復習をしてい
ない学生も1年生で1割,2年生で3割程度いる.履修に
求められている(予習時間と復習時間の間に乖離があ
るようにもとれる)
.
平成26年度入学生(1年生)の履修登録単位数(平
まあまあ 満足している
38%
均値)については,大学設置基準が標準としている修
得単位数のおよそ2倍に相当する.短大の授業を受講
図21-1 学校生活以外のプライベートは満足して
いますか?(1年生)
するだけで1日あたりの総学修時間である8時間に近い
学修時間となる.
これらのことから,必修科目を中心とする科目の再
全く満足して
いない 0%
編を中心にして,カリキュラムの編成方法,履修登録
あまり 満足して
いない
11%
とても 満足している
20%
科目の適正化,シラバスへの予習・復習時間と学修内
容の明記,学生の主体的学修を図るなどの方策を早急
に検討する必要があると考えられる.そして,学生の
予習・復習時間を確保・担保しない限り,学生主体型
授業を中心にした教育への質的転換を推進していくの
は難しいと考えられる.
まあまあ 満足している
69%
予習・復習の場は自分の部屋が多かった.図書室や
自習室の利用促進を図る工夫が必要と考えられる.予
図21-2 学校生活以外のプライベートは満足して
いますか?(2年生)
習・復習の手段としてはインターネットの利用が書籍
を大きく上回った.情報を迅速に検索できる利便性が
要因となっているのであろう.書籍の重要性を啓蒙す
考 察
ることも必要である.
1.授業の予習と復習の状況について 2.公務員/編入講座について
大学設置基準が想定している1週間(6日間で計算)
公務員/編入講座を受講している2年生の割合が低
における1日あたりの総学修時間は8時間である.これ
かった.出席状況からみると,1年生の方が2年生より
は,大学の授業1時間(15週で1単位)に必要とされて
も出席の意思が強い傾向がある.
これは,
本調査を行っ
いる関連する学修(予習と復習)の時間が,あわせて
た9月の時点で,希望大学への進路が決定していた学
2時間必要であるということを示している.また,こ
生が多かったためと考えられる.公務員/編入講座の
れを基礎として1学年間で約30単位(2学期制の場合,
内容は,高等学校程度であるが,公務員/編入講座以
各学期で15単位)
を修得することが標準とされている.
外でも高等学校で履修する科目の学び直しを希望する
本学の平成26年度入学生(1年生)の平成26年度前期
者が多かった.高等学校での学修をふり返り,必要な
における履修登録単位数(平均値)はおよそ27単位で
ところを補って,入学後に円滑に大学教育に移行でき
あり,平成25年度入学生(2年生)の平成26年度前期
るよう,入学後の導入教育の一環としての教養科目の
における履修登録単位数(平均値)はおよそ18単位で
充実を図ることを検討していきたい.
あった.これらの履修登録単位数(平均値)をもとに
計算すると,1日あたり必要な学修時間数は,1年生で
3.英語によるコミュニケーション能力の重要性に
13.5時間,2年生で9.0時間となる.
ついて
ここで,1日あたりの授業の平均受講時間は,1年生
英語のコミュニケーション能力の重要性については
で4.5時間,2年生で3.0時間であるので,授業を受講す
概ね学生には認識されているが,自分で英語学習に取
53
り組むものは約半数程度である.学内外で気軽に英語
28日付(中央教育審議会答申)
.
コミュニケーション能力を高めることができるよう検
2)公益財団法人日本栄養士会(2014)
.栄養相談
討していきたい.例えば,e-ラーニングシステムの導
Q&A 規 則 的 な 食 生 活 の 重 要 性http://www.
入は有効な方策のひとつであると考えられる.
dietitian.or.jp/consultation/b_01.html( 平 成27年
2月21日確認)
4.夏期休暇中の学修について
1年生よりも2年生の学修時間が短い傾向がみられ
た.今回の調査では,夏休み期間中にどのような内容
の学修をしていたかまでは調査しなかったが,4年制
大学への編入学のために学修しているものが1年生に
多いことが事由として考えられる.
5.短期大学教育の満足度について
概ね満足していると考えられるが,
「あまり満足し
ていない」 と考えるものも学年に6,7名いる.今回,
満足していない理由については明らかにできなかった
が,満足していない理由を明らかにして適切に対処す
ることが重要である.次年度のアンケートには自由記
述欄を設けて理由を把握したい.
6.学生生活について
1,2年生ともに約3割の学生が平日にアルバイトを
し,約半数の学生が休日にアルバイトをしている.ア
ルバイトをしている学生のうちおよそ3割は学費や生
活費を目的としている.生活に困窮している学生が比
較的多いと考えられる.保護者からの仕送り額など生
活支援の状況は把握していないが,学業に支障を来さ
ないよう指導していく必要がある.
睡眠時間は「6時間以下」のものが多いのが気にな
るところである.睡眠時間が6時間以下になってしま
う原因はわからないが,体調管理のためにも十分な睡
眠時間を確保するよう指導していく必要がある.
朝食については3割程度の学生がほとんど食べない
か,全く食べていないことが明らかとなった.公益財
団法人日本栄養士会によると,朝食は人間の集中力や
2)
記憶力,学習能力を高めるとしている .教育の効果
を高めるには学生にも身体的・精神的な準備を整えて
おいてもらう必要があると考えられる.今後,朝食摂
取の重要性を学生に啓蒙していく必要がある.
引用文献
1)文部科学省(2012).「新たな未来を築くための大
学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体
的に考える力を育成する大学へ~」平成24年8月
54
学生による授業評価(平成25年度)
宮坂 綾香・橋本 裕輝
(大分短期大学自己点検・評価委員会)
Students Evaluation of Teaching in 2013
Ayaka MIYASAKA, Yuki H ASHIMOTO
(The Board of Self-Inspection/Assessment, OITA JUNIOR COLLEGE)
要 旨
授業の現状の理解と改善を目的とし,平成25年度の前期後期で開講した全ての授業について,学生
による授業評価を実施した.アンケートは12の質問項目からなり,評価は5段階評価とした.自由記述
欄も設けた.
その結果,学生による授業評価は1,2年前後期通して概ね良好であった.また,自由記述欄から
建設的,率直な意見も得られた.今回の結果を各科目の担当教員にフィードバックし,これからの講義
内容の改善に活用する.
キーワード:授業評価 アンケート 授業改善
緒 言
本学では学生による授業評価を平成16年度から毎期
実施しており,授業の改善に役立てている.今回は平
成25年度について報告する.
調査方法
平成25年度の学生による授業評価アンケート調査
は,学生を対象とし本学で開講した全ての科目(演習,
実験実習,実技科目を含む)に対して実施した.前後
期とも全授業終了後,1,2年生の全学生が履修した授
業について評価してもらった.
質問項目は12項目とし,
各項目を5段階で評価してもらった.学生の率直な意
見がきけるように自由記述欄を設定した(図1)
.名前
は記入してもらった.また,一部の学生には聞き取り
調査も行った.
図1 授業評価アンケート
55
は前期では特に良好であった.この頃は入学したばか
結果および考察
りで緊張しているせいか,問2の「自分の授業への取
アンケートの回収率は,全員が集合したときに一斉
り組み」も良好であった.しかし,1年も後期に入っ
に書かせるため,かなりよいものになっている.
てくると学校に慣れ始め,余裕がでてくるからか,問
平成25年度のアンケート結果は項目別に表1~8に示す.
1の出席の評価がやや下がり始めたように思われる.
1)授業に対する取り組みについての評価(1年生対
象科目)(表1)
2)授業内容・担当教員についての評価(1年生対象科
目)
(表2)
表1 講義に対する取り組みについての評価
(1年生対象科目)
表2 講義内容・担当教官についての評価
(1年生対象科目)
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
後
2 1
2 1
2 1
2
1
1
2
1 1
1
1
1 1
2 1
1
1
4
1
5 1
2 4
後
期
期
科
科
1
1
目
1
目
1年は必修が多いため,問1の「出席状況」への評価
56
講義内容・担当教官について
問3
問4
問5
問6
科目名
5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3
19 10 6
2 23 9 1 6 10 17 1 1 5 15 12
農薬学
林業経営
4 4
2 5 1
1 4 3
3 4 1
果樹園芸学総論 30 17 1
8 26 13 1 12 27 9
8 27 10
進路支援Ⅰ
19 13 14
10 16 20
11 20 15
6 15 25
園芸研究Ⅰ
12 24 10
8 22 15 1 8 25 13
7 17 21
造園学総論 24 19 3
21 16 8 1 19 23 4
16 15 13
野菜園芸学総論 21 24 1
21 21 3 1 19 23 3 1 14 27 4
ガーデニング概論 13 16 5
7 18 8 1 13 13 7 1 10 14 8
園芸学総論 23 20 2
9 22 12 2 9 22 14
16 20 7
園芸実験実習Ⅰ28 14 4
21 16 9
22 19 5
22 14 9
管理実習Ⅰ
25 18 4
19 19 9
19 20 8
19 15 12
作物学
23 21 3
10 28 8 1 16 19 12
12 21 11
栽培学汎論 25 19 3
17 21 9
26 17 4
18 20 9
生花Ⅰ
8 1
7 2
6 3
7 2
林産加工
7 4 1
7 5
5 4 3
5 6 1
人・農業・園芸環境関係論 20 23 3
12 24 10
11 20 15
9 20 14
植物生態学 30 13 4
18 22 7
15 26 6
20 14 12
英語Ⅰ
9 16 4 1 8 13 8 1 10 14 5 1 12 11 6
身体スポーツ科学Ⅰ 22 7 7
19 11 6
21 8 7
20 8 7
造林学
6 7 1
5 7 2
6 7 1
6 6 2
花卉園芸学総論 10 22 13 1 5 19 22 2 5 16 25 2 7 17 17
造園材料計画学 5 2
4 3 1
2 6
4 3 1
進路支援Ⅰ
25 11 12
18 11 19
14 15 18 1 12 16 20
園芸研究Ⅱ 25 14 8 1 13 20 15
12 19 17
15 17 16
測量学
9 8 5
5 3 12 2 2 3 11 3 1 1 7 8
コミュニケーション演習 5 4 3 2 7 2 2 4 4 6 3 1 2 7
フラワー演習Ⅰ 9 2
7 6
8 3
9 2
情報処理
8 10 3
10 7 4
8 6 4 2 1 6 10 4
園芸学実験実習Ⅱ 26 16 6
20 17 11
17 18 13
17 19 12
管理実習Ⅱ
26 17 5
19 18 11
18 16 14
17 16 15
土壌肥料学 26 16 6
17 18 13
16 25 7
14 19 14
農林業機械学 15 12 6
7 12 14
7 14 11
9 14 9
生花Ⅱ
8 1
8 1
8 1 1 6 3
農林業土木学 9 7 1
5 7 5
8 6 4
8 6 3
植物生理学 25 9 6
17 10 13
20 10 6
13 11 15
アグリビジネス論 13 6 5
8 9 5 2 10 9 4 1 7 8 9
英語Ⅱ
18 6 3
13 12 7
13 9 6
13 8 6
身体スポーツ科学Ⅱ 21 5 9
18 7 9
14 6 13
16 7 12
農業経済学 14 5 2
8 6 7
6 5 11 1 4 9 8
園芸福祉論
5 4
3 4 2
4 4 2
4 3 3
花卉装飾学演習 3 3 2
4 2 2
4 2 2
3 3 2
特別講義Ⅱ 21 15 11
17 15 16
15 15 16
17 13 16
前 期 科 目
前 期 科 目
講義に対する取り組み方
問1
問2
科目名
5 4 3 2 1 5 4 3 2
農薬学
31 4
4 19 11 1
林業経営
6 1 1
6 2
果樹園芸学総論 44 4
4 29 12 2
進路支援Ⅰ
41 5
9 22 13 1
園芸研究Ⅰ
40 6
9 22 14
造園学総論
43 3
11 24 10 1
野菜園芸学総論 42 4
9 35 1 1
ガーデニング概論 32 2
8 16 10
園芸学総論
41 4
11 27 5 1
園芸実験実習Ⅰ 39 7
21 18 7
管理実習Ⅰ
40 6 1
21 17 9
作物学
40 6
8 27 11 1
栽培学汎論
41 6
16 25 5
生花Ⅰ
9
8 1
林産加工
9 3
4 6 1
人・農業・園芸環境関係論 40 6
14 24 6 1
植物生態学
45 2
11 29 5 2
英語Ⅰ
27 2 1
13 13 2 2
身体スポーツ科学Ⅰ 34 2
20 10 6
造林学
9 5
1 9 4
花卉園芸学総論 32 11 2 3
10 17 16 4
造園材料計画学 7 1
4 4
進路支援Ⅰ
35 6 6 1
16 19 13
園芸研究Ⅱ
34 8 4 1
15 18 14
測量学
12 8 2
3 10 6 1
コミュニケーション演習 9 4 1 2
1 3 9 3
フラワー演習Ⅰ
7 4
6 5
情報処理
15 5
9 7 5
園芸学実験実習Ⅱ 27 15 5 1
23 23 2
管理実習Ⅱ
28 14 5 1
20 22 7
土壌肥料学
28 12 5 2
14 24 10
農林業機械学
17 5 2 1
10 15 6 1
生花Ⅱ
8 1
7 2
農林業土木学
14 3
8 8 1
植物生理学
31 6 1
1 12 19 7 1
アグリビジネス論 10 6 6 2
3 11 10
英語Ⅱ
17 7 1 2
15 7 5
身体スポーツ科学Ⅱ 24 8 2 1
21 11 2
農業経済学
14 6
1
21 8 2
園芸福祉論
6 3
1
3 6 1
花卉装飾学演習 7
1
3 3 2
特別講義Ⅱ
38 8 1
1 17 16 15
1
1
問3の「担当教員自身の意欲」については学生に伝
や演習形式の科目では評価が低くなると予想したが,
わり高評価が得られたようだったが,
それが問4の「あ
講義形式の科目と同等な結果が得られた.このことか
なたの期待に応えていたか」や,問6の「学問的興味
ら実習や演習でも資料,教科書等が活用されているこ
に結びついたか」の高評価には必ずしも結び付いてな
とが窺える.
いということが見て取れる.
問11の「授業のペース配分」は測量のような計算が
ある授業では,授業速度が速いと感じる学生が多く
3)授業の実施状況についての評価(1年生対象科目)
なったようである.
(表3)
4)総合評価(1年生対象科目)
(表4)
表3 講義の実施状況についての評価
(1年生対象科目)
2
2
1
1
1
1
1
1
講義の実施状況
問9
問10
2 1 5 4 3 2 1 5 4 3
1 16 10 7 2 3 19 12
1 2 3 3
3 4 1
1 20 17 10 1 6 28 13
13 12 20 1 8 22 15
12 21 13
10 21 14
16 22 8
20 21 5
18 18 10
17 21 8
11 20 3
13 16 4
2 18 14 13
18 22 5
21 19 6
18 18 9
21 17 9
20 18 9
17 17 13
15 19 12
31 13 3
21 18 6
5 4
6 3
5 5 2
6 4 2
14 17 15
14 14 15
1 20 18 9
21 19 6
1 16 7 6 1 9 12 8
15 8 13
20 7 9
5 5 4
6 5 3
5 9 18 16 3 6 23 17
4 2 2
5 2 1
15 19 21 1 16 16 13
15 18 15
16 17 18
3 5 6 11
7 10 6
4 3 3 8 2
7 5
8 3
5 5 1
1 11 4 4 2 9 2 9
17 22 9
18 17 13
14 18 15
18 14 16
1 17 23 7
17 21 15
11 18 7
15 12 7
7 2
6 2 1
6 7 4
7 5 5
23 13 5
19 13 8
10 8 6
11 7 6
13 7 7
12 6 9
18 5 12
17 6 11
9 7 5
8 9 3
6 1 3
6 1 3
4 2 2
4 2 2
16 17 15
17 14 17
2
1
1
1
1
1
1
2
1
1
4
1
1
問11
1 5 4 3
12 10 13
2 2 4
11 26 10
12 22 12
11 19 16
19 20 7
21 20 5
14 15 5
17 13 13
21 17 8
20 21 6
18 19 9
24 14 9
6 3
6 4 2
15 13 18
19 15 11
14 5 10
22 7 7
5 5 4
10 20 15
4 4
17 17 12
16 20 14
4 7 12
4 6 7
6 5
5 4 8
20 18 8
20 18 13
16 18 11
13 15 15
5 3 1
7 6 4
21 10 7
11 8 5
12 10 5
1 19 6 9
10 7 3
5 3 2
4 2 2
21 16 11
2 1
1
2
1
1
1
1
1
2
4
2
1
1
問8,問9の資料や教科書等に関する設問は実習形式
問12
科目名
5
農薬学
6
林業経営
2
果樹園芸学総論
8
進路支援Ⅰ
13
園芸研究Ⅰ
11
造園学総論
18
野菜園芸学総論
18
ガーデニング概論
17
園芸学総論
14
園芸実験実習Ⅰ
24
管理実習Ⅰ
26
作物学
16
栽培学汎論
21
生花Ⅰ
7
林産加工
7
人・農業・園芸環境関係論
18
植物生態学
19
英語Ⅰ
16
身体スポーツ科学Ⅰ 23
造林学
7
花卉園芸学総論
11
造園材料計画学
5
進路支援Ⅰ
17
園芸研究Ⅱ
15
測量学
4
コミュニケーション演習
フラワー演習Ⅰ
7
情報処理
8
園芸学実験実習Ⅱ
20
管理実習Ⅱ
11
土壌肥料学
16
農林業機械学
12
生花Ⅱ
5
農林業土木学
7
植物生理学
18
アグリビジネス論
9
英語Ⅱ
15
身体スポーツ科学Ⅱ 20
農業経済学
8
園芸福祉論
5
花卉装飾学演習
4
特別講義Ⅱ
19
後 期 科 目
後 期 科 目
問8
1 5 4 3
10 12 12
1 2 4
12 23 12
12 21 13
12 22 12
20 20 4
23 15 8
16 15 3
13 13 17
20 16 10
15 20 12
16 17 14
28 14 5
5 4
6 4 2
18 16 12
17 18 11
9 11 9
17 7 12
6 6 2
6 22 14
4 4
14 20 12
15 20 15
2 5 5 9
1 4 4 5
5 5 1
5 6 4
13 18 16
18 13 17
16 22 9
12 7 14
5 3 1
6 8 3
21 12 6
7 10 7
15 7 5
17 4 12
9 7 6
4 3 3
3 3 2
15 16 12
前 期 科 目
前 期 科 目
問7
科目名 5 4 3
農薬学 8 17 8
林業経営 2 3 3
果樹園芸学総論 13 24 11
進路支援Ⅰ13 21 11
園芸研究Ⅰ12 24 10
造園学総論 27 17 2
野菜園芸学総論 25 19 2
ガーデニング概論 20 12 2
園芸学総論 14 24 7
園芸実験実習Ⅰ21 18 5
管理実習Ⅰ20 19 8
作物学 16 24 7
栽培学汎論 30 16 1
生花Ⅰ
6 3
林産加工 8 3 1
人・農業・園芸環境関係論 16 17 12
植物生態学 24 19 4
英語Ⅰ 12 10 7
身体スポーツ科学Ⅰ 22 8 6
造林学 9 4 1
花卉園芸学総論 11 22 14
造園材料計画学 6 2 1
進路支援Ⅰ19 19 10
園芸研究Ⅱ 15 19 14
測量学 7 7 6
コミュニケーション演習 6 4 6
フラワー演習Ⅰ 9 2
情報処理 11 5 5
園芸学実験実習Ⅱ 16 20 12
管理実習Ⅱ14 20 14
土壌肥料学 19 21 8
農林業機械学 14 13 6
生花Ⅱ 7 2
農林業土木学 7 7 3
植物生理学 22 8 9
アグリビジネス論 12 5 7
英語Ⅱ 14 8 5
身体スポーツ科学Ⅱ 19 7 9
農業経済学 8 8 5
園芸福祉論 4 3 3
花卉装飾学演習 3 3 2
特別講義Ⅱ 18 17 13
表4 総合評価(1年生対象科目)
総合評価
4
13
3
28
17
16
13
18
9
18
13
12
19
15
2
4
17
16
8
7
4
13
2
15
17
7
5
4
6
15
16
21
7
3
4
9
6
6
7
7
3
2
11
3
14
3
10
16
18
15
9
7
11
9
9
11
10
1
9
12
4
6
3
20
1
14
17
10
7
6
11
13
11
13
6
12
8
6
8
6
2
2
13
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
3
2
5
2
1
1
1
1
概ね良好という結果のように思われる.コミュニ
57
ケーション演習のみ評価5がないが,これは学生が今
問1の「出席状況」について前期では,1年生には 3
までこういった授業を受けたことがほぼないため,比
以下の評価はほぼ見られない一方,2年生には3以下の
較対象がなく評価しづらかったと考えられる.
評価が増えてきている.後期になると評価が逆転し,
1年生で3以下の評価が増え,2年生では3以下の評価が
5)授業に対する取り組みについての評価(2年生対象
科目)
(表5)
問2の「自分自身の授業への取り組み」は2年の方が
表5 講義に対する取り組みについての評価
(2年生対象科目)
前 期 科 目
後期科目
始め,自分の進路に向けた選択が出来るようになった
ため,1年のときより意欲が出てきたからではないか
と考えられる.しかし,医療・福祉系の授業について
は,評価が5~1までばらつきが見られる.これは園芸
療法士取得のために受けている学生と,病院や施設へ
園芸療法士として就職を考えている学生とでは意気込
みが変わるため,前者の方が評価は低く,後者の方が
評価は高くなったのではと考えられる.
6)授業内容・担当教官についての評価(2年生対象科
目)
(表6)
表6 講義内容・担当教官についての評価
(2年生対象科目)
科目名
香りと色彩の心理
応用昆虫学
進路支援Ⅱ
園芸研究Ⅲ
理学療法
作業療法
ガーデンデザイン演習Ⅲ
造園施工管理
園芸実験実習Ⅲ
樹木学
英会話Ⅰ
施設園芸学
生花Ⅲ
果樹各論
植物生態学
畜産学Ⅰ
老人福祉
花卉装飾学
園芸療法Ⅰ
植物病理学
介護理論
地被植物学
進路支援Ⅱ
園芸研究
統計学
園芸療法Ⅱ
ガーデンデザイン演習
社会心理学
野菜各論
後
期
科
目
58
講義に対する取り組み方
問1
問2
5 4 3 2 1 5 4 3 2 1
16 5 1 1
5 10 8
21 5 1 1
6 12 8 2
22 4 2
7 11 10
24 4 2
8 14 8
14 5 3 1
6 11 5 1
15 2 3 2
7 8 4 2 1
3 2 1
3 1 2
6 1 1
2 3 3
21 3 2
13 9 4
15 7 1
6 11 6
15 1
2
8 7 1 2
3 3
2 2 2
5 1
1
4 2 1
16 2 1
5 11 3
18 5 2 1
7 12 6 1
12
4 7 1
3 4 3
1 3 6
5 2
1
2 5 1
13 3 4 1
4 7 9 1
16 13 1
7 9 11 2 1
2 2
1 2 1
17 5
6 12 4
20 11 1
10 12 10
23 6 2
10 10 10 1
13 6
7 9 3
9 8
8 6 3
4
3 1
13 6 1
5 5 7 1 2
14 5
8 8 3
3 1
2 1 1
3 1
2 1 1
19 13
17 12 3
10 3 1
7 6 1
7 3
2 6 2
10 4 2
6 5 4 1
11 4
8 6 1
3 3 1
2 3 2
14 3
6 10 1
5 1 1
4 2 1
5 1 1
3 4
3 1
2 2
2 1
1 2
6 1 1 1 1 2 4 2 1 1
5 1
3 3
10 4
8 6
28 2 2
13 7 12
1
1
高評価である.これは2年になって,科目が専門化し
前 期 科 目
科目名
香りと色彩の心理
応用昆虫学
進路支援Ⅱ
園芸研究Ⅲ
理学療法
作業療法
ガーデンデザイン演習Ⅲ
造園施工管理
園芸実験実習Ⅲ
樹木学
英会話Ⅰ
施設園芸学
生花Ⅲ
果樹各論
植物生態学
畜産学Ⅰ
老人福祉
花卉装飾学
園芸療法Ⅰ
植物病理学
介護理論
地被植物学
進路支援Ⅱ
園芸研究
統計学
園芸療法Ⅱ
ガーデンデザイン演習
社会心理学
野菜各論
フラワー演習Ⅲ
フラワー演習Ⅳ
園芸実験実習Ⅳ
育種遺伝学
環境保全学
園芸材料学
英会話Ⅱ
生花Ⅳ
樹木医学
飼料作物学
造園維持管理学
障害者福祉
畜産学Ⅱ
花卉各論
造園製図Ⅱ
園芸バイオ
特別講義Ⅱ
管理実習Ⅱ
減っている.
講義内容・担当教官について
問3
問4
問5
問6
5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3
7 9 7
5 7 11
4 10 9
4 10 7
8 8 10 2 2 7 15 3 1 2 7 16 3 3 9 15
8 12 8
6 11 11
6 9 13
4 11 12
7 15 8
7 14 9
7 13 10
4 13 13
9 7 6 1 6 9 7 1 7 10 5 1 6 10 6
8 8 4 2 5 10 3 2 2 6 9 4 2 1 4 9 5
3 3
1 4 1
1 4 1
1 4 1
3 1 4
1 5 2
3 3 2
1 4 3
11 9 4 1 1 11 8 6 1 9 9 8
11 8 6
8 12 3
6 11 6
5 15 3
6 12 5
8 7 1 2 6 9 2 1 7 8 2 1 4 11 3
4 2
1 2 3
1 3 2
1 2 3
4 2 1
4 2 1
3 2 1 1 4 2 1
11 7 1
7 11 1
9 8 2
8 10 1
11 10 5
6 16 4
8 11 7
8 11 7
9 2 1
3 7 1 1 2 9 1
3 7 1
2 2 6
2 1 6 1 1 1 7 1 1 3 5
4 2 2
2 3 3
4 1 3
2 3 3
5 5 8 3 2 3 11 4 1 3 2 11 3 2 3 3 11
13 8 6 2 1 9 7 12 1 1 5 14 9 2 7 10 10
1 2 1
2 2
2 2
2 2
8 10 4
6 10 5 1 10 5 7
5 11 5
8 13 11
6 13 12 1 8 9 15
6 5 20
11 10 10
6 13 12
6 10 15
6 9 16
10 9
8 4 7
9 4 5 1 4 7 5
8 7 2
5 7 5
6 8 3
6 6 4
2 2
2 2
3 1
3 1
11 2 7
4 4 10 2 2 6 10 2 1 5 10
12 5 2
8 9 2
12 6 1
7 8 4
2 1
1 1
1
1
1
1 3
1
1
1
3 1
3
1
1
3
1
2 2
後
期
1
1
5
1
1
6 1
2
2
1
1
2
7
3 1
3 1
15 12 5
6 6 2
2 6 2
2 3 10 1
5 7 3
3 2 2
9 7 1
3 2 2
3 3 1
1 3
2 1
3 3 2 1 1
3 2 1
9 2 3
10 10 12
1
問3の「担当教員自身の意欲」や,問5の「わかり
易く説明していたか」の評価が高かったとしても,問
4の「あなたの期待に応えていたか」や,問6の「学問
的興味に結びついたか」の高評価には必ずしも結びつ
統計学 6 9 4
8 7 3 1 11 5 3
園芸療法Ⅱ 7 7 3
5 8 4
6 9 2
ガーデンデザイン演習 2 2
2 2
3 1
社会心理学 2 7 11
3 7 6 2 2 3 3 12
野菜各論 9 9 1
9 8 2
11 8
フラワー演習Ⅲ 2 1 1
3 1
3 1
フラワー演習Ⅳ 2 1 1
3 1
3 1
園芸実験実習Ⅳ 14 13 4 1 11 9 12
12 9 10
育種遺伝学 5 8 1
4 8 2
6 6 2
環境保全学 2 6 2
2 5 3
3 5 1
園芸材料学 3 2 9 1 1 2 3 10 1 4 5 6
英会話Ⅱ 6 8 1
7 7 1
7 6 2
生花Ⅳ 3 2 2
3 2 2
3 2 2
樹木医学 7 8 2
7 8 2
12 4 1
飼料作物学 4 3
4 2 1
3 4
造園維持管理学 2 5
2 4 1
2 4 1
障害者福祉 1 3
2 2
2 2
畜産学Ⅱ 2 1
1 2
3
花卉各論 3 3 3 1 3 1 5 1 3 4 2
造園製図Ⅱ 3 2 1
3 2 1
3 2 1
園芸バイオ 9 1 4
9 2 2 1 10 1 2
特別講義Ⅱ 13 9 10
14 8 10
12 12 8
管理実習Ⅱ
1
1
1
目
2 1
1
3 1
3 1
3 1
3 1
15 11 6
14 12 6
6 6 2
5 7 2
3 4 3
2 6 2
2 3 9 2 3 4 8 1
6 6 3
8 5 2
3 2 2
2 3 2
9 6 2
7 8 2
3 3 1
4 3
3 3 1
2 5
3 1
1 3
1 2
2 1
2 5 1 1 1 2 4 3 1
3 3
3 2 1
12 1 1
9 2 2 1
10 12 10
10 12 10
1
1
科
目
1
1
8
4
6
4
3
1
7
3
3
2
2 1
2 5
3 2
12 2
15 10
1
期
科
2
2
19
9
3
5
10
4
9
4
3
後
フラワー演習Ⅲ
フラワー演習Ⅳ
園芸実験実習Ⅳ
育種遺伝学
環境保全学
園芸材料学
英会話Ⅱ
生花Ⅳ
樹木医学
飼料作物学
造園維持管理学
障害者福祉
畜産学Ⅱ
花卉各論
造園製図Ⅱ
園芸バイオ
特別講義Ⅱ
管理実習Ⅱ
7
6
1
2 4
10
2
2
1 14
6
1 5
1 4
6
3
7
4
2
7 5
8 7 4
7 4
8 6 3
3
2 1 1
5 10 1 5 5 10
8 1
11 7 1
2
2 2
2
2 2
7 11
15 11 6
7 1
6 6 2
3 2
4 4 2
5 6 1 5 2 8 1
7 2
6 7 2
2 2
3 2 2
7 3
9 7 1
2 1
4 3
4 1
2 3 2
2 2
2 2
3
2 1
1 3 4 2 1 3 4 2 1
2 2 2
2 3 1
1 9 2 3
9 1 4
13 10 8 1 15 9 8
1
1
問7の「教員の言葉が明瞭だったか」は概ね高評価
ていないということが見て取れる.
だったが,時折「声が小さい」
「早口でわからない」
7)授業の実施状況についての評価(2年生対象科目)
といった意見もあった.
(表7)
8)総合評価(2年生対象科目)
(表8)
表7 講義の実施状況についての評価
(2年生対象科目)
2
5
1
1
3
1
2
1
1
1
2
1
1
4
1
問11
1 5 4 3
7 8 8
2 8 15
5 12 11
7 13 10
6 9 8
2 5 11 4
1 4 1
3 1 4
11 6 8
9 10 4
5 10 3
1 1 4
5 1 1
6 10 3
11 9 7
5 6 1
2 1 7
4 2 2
3 4 11
11 8 10
1 1 2
8 9 5
9 11 12
8 10 13
2 1
3
2
1
3
1
問12
科目名
5
香りと色彩の心理
7
応用昆虫学
4
進路支援Ⅱ
6
園芸研究Ⅲ
9
理学療法
6
作業療法
5
ガーデンデザイン演習Ⅲ
3
造園施工管理
2
園芸実験実習Ⅲ
13
樹木学
7
英会話Ⅰ
5
施設園芸学
1
生花Ⅲ
4
果樹各論
8
植物生態学
8
畜産学Ⅰ
3
老人福祉
1
花卉装飾学
3
園芸療法Ⅰ
3
植物病理学
7
介護理論
地被植物学
7
進路支援Ⅱ
6
園芸研究
6
後期科目
後期科目
4
3
表8 総合評価(2年生対象科目)
前 期 科 目
前期科目
問7
科目名 5 4 3
香りと色彩の心理 6 8 9
応用昆虫学 2 5 16
進路支援Ⅱ 5 10 13
園芸研究Ⅲ 7 11 12
理学療法 5 13 4
作業療法 5 9 6
ガーデンデザイン演習Ⅲ 1 3 2
造園施工管理 2 3 3
園芸実験実習Ⅲ 11 10 4
樹木学 9 12 2
英会話Ⅰ 5 10 3
施設園芸学 3 3
生花Ⅲ 4 1 1
果樹各論 5 12 2
植物生態学 11 10 5
畜産学Ⅰ 3 8 1
老人福祉 1 1 4
花卉装飾学 4 2 2
園芸療法Ⅰ 3 1 12
植物病理学 6 11 9
介護理論 1 3
地被植物学 10 9 2
進路支援Ⅱ 8 13 11
園芸研究 10 10 11
講義の実施状況
問8
問9
問10
1 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 5 4 3
6 7 10
9 6 8
5 8 9
2 8 13 5 7 6 12 3 5 6 16
5 11 12
5 10 13
5 10 13
6 14 9 1 7 13 10
8 10 11
6 11 5 1 6 12 5
6 10 7
2 4 9 6 1 2 5 9 6 2 5 11 4
1 3 2
2 3 1
1 4 1
1 3 4
1 3 4
2 2 4
8 7 9 2 9 8 8 1 9 8 7
6 12 5
5 13 5
6 13 4
7 8 3
6 9 3
4 11 2
1 1 2 1 1 2 1 2 1 1 1 4
1 4 2 1
4 1 2
4 2 1
4 10 5
6 11 2
4 9 6
5 13 7 1 7 12 7
10 10 7
1 9 2
5 6 1
4 6 2
1 1 2 5 2 1 2 7
1 1 7
3 3 2
2 4 2
3 3 2
1 2 4 10 5 2 4 12 3 2 4 11
1 9 10 7 3 1 9 14 6 1 8 11 10
1 3
1 1 2
1 3
8 9 5
9 12 1
11 8 3
7 12 13
9 10 13
8 9 15
7 10 14
7 11 13
6 11 14
総合評価
4
9
7
9
11
9
9
1
3
5
14
8
1
2
10
13
8
2
3
3
13
1
8
12
14
3
7
15
13
10
8
5
2
3
6
2
4
4
1
1
5
7
2
13
8
2
7
14
11
2
1
2
3
1
1
1
1
1
1
1
1
1
59
後
統計学
園芸療法Ⅱ
ガーデンデザイン演習
社会心理学
野菜各論
フラワー演習Ⅲ
フラワー演習Ⅳ
園芸実験実習Ⅳ
育種遺伝学
環境保全学
園芸材料学
英会話Ⅱ
生花Ⅳ
樹木医学
飼料作物学
造園維持管理学
障害者福祉
畜産学Ⅱ
花卉各論
造園製図Ⅱ
園芸バイオ
特別講義Ⅱ
管理実習Ⅱ
期
科
目
8
6
3
4
9
3
3
17
5
4
3
5
3
11
4
3
2
3
4
10
15
7
8
1
7
9
12
8
5
5
9
2
4
2
4
1
1
3
1
3
8
1
4
3
7
1
1
1
3
1
1
7
1
2
2
1
2
1
3
3
1
1
9
1
2年生後期は授業が専門化してくるため科目数が多
く,ひとつの授業に対する履修学生の数が少なかっ
た.そのため,教員と学生の距離が近く,学生も授業
に集中できたようで,大人数での授業より評価がしや
すかったのではと思われる.そういった中で高評価が
大部分の授業で得られた.しかし,医療・福祉系の授
業の評価では,
園芸系の授業より低い評価が見られた.
これは元々園芸に関心を持っている学生が多いという
ことが原因と考えられる.
ま と め
1,2年の前期後期それぞれの時期の学生の傾向も見
て取れるため,
結果を各教員にフィードバックすれば,
授業の改善だけでなく学生の生活態度の改善にも効果
が得られる可能性もあると考えられた.
授業評価アンケートの設問内容を検討し,もっと自
由記述を書けるよう工夫をすれば,更に授業改善に役
立つ意見を得られると思われる.
60
2013年度卒業生に対する卒業生アンケート結果
鍵和田 又一
(大分短期大学自己点検・評価委員会)
Graduate Questionnaire Result
Matakazu K AGIWADA
(The Board of Self-Inspection/Assessment, OITA JUNIOR COLLEGE)
要 約
今回,2013年度卒業生に対してアンケート調査を行った結果を報告する.調査対象者は平成24年度
の大分短期大学卒業生を対象として実施した.アンケートの回答人数は30名であった.よって,
アンケー
ト回収率は93.7%であった.調査日は卒業式前日にアンケート用紙を配布し,回答を願った.
教育については,専門領域の教育についての評価が高く評価されていることがわかった.しかし,
「高
度情報化への適応」
「英語能力」においてやや不十分と感じている者がみられる.このことより,講義
や実習において,改善していく必要があると考えられる.将来の進路決定に対しての短大の役割の評
価について考えてみた.入学当初から将来の進路をしっかりと持った者が入学していると考えられる.
進路として,
77%の者が「その通り進んだ」を回答していたことは評価できる.しかし,
22%の学生が「異
なる進路に進んだ」と回答していることは問題であると考えられる.今後,さらに充実した学生支援の
方法を考えていく必要があると考えられる.
短大における全体的評価について考えてみた.大学生活が人生のなかでかなり大きな意味を持って
いることが考えられる.しかし,
「人生における重要度」
「学生生活での満足度」
「おすすめ度」を連
続的にみると減少していることは問題であると考えられる.
今回の調査結果より,様々な問題点が考えられることより,改善をしていく必要性がある.
キーワード:卒業生 アンケート 教育 進路 満足度 重要性
本調査の概要と目的
うえで,客観的な評価指標のひとつとして用いられる
ことが期待される.
現代の大学では,社会の変化やそれを呼応して急激
今回,2013年度卒業生に対してアンケート調査を
に変化する労働市場に対して,大学教育がどのように
行った結果を報告する.
対応していくかを明確化することが求められていると
ともに,その成果が有益なものとなるように大学教育
の質的な高度化が求められている.こうした要求に対
調査対象者・調査方法
(1)調査対象者および回答数
して,大分短期大学では組織的な対応として,
「卒業
2013年度に大分短期大学を卒業した卒業生を対象
生に対するアンケート調査」を実施することにした.
として実施した.調査対象人数は,32名であった.
このアンケートは大学教育の改善の方向性を検討する
アンケートの回答人数は30名であった.よって,ア
61
ンケート回収率は93.7%であった.
(2)調査方法
卒業式前日にアンケート用紙(図1)を配布し,
回答を願った.アンケート項目の内容は2013年度に
自己点検・評価委員会で検討した.
図1 アンケート内容
62
短大生生活のなかで大学教育への興味では,
「野
(3)アンケートの調査分析の論点
本アンケートは,卒業生からみた大学教育の意義
菜」
「果樹」の分野において,
「興味深い」
「どちらか
を明らかにすることに主眼を置いているので,被験
というと意味深かった」を選んだ者が70%以上占めて
者には短大入学時から卒業時点までを振り返って
いた(図3)
.
もらい回答してもらった.アンケートは6問で構成
されており,それらは以下の五つの視点を反映させ
たものである.なお,箇条書きの括弧内は,各項目
に対するアンケートの質問番号を表している.
①短大生時代の取り組み(Q1,Q2興味,Q3興味)
②卒業後の生活における短大生活の意義(Q2有
意義,Q3有意義)
③学習・教育目標の達成などの評価(Q4)
④将来の進路決定における短大の役割(Q5)
⑤現時点における短大生活の総合評価(Q6)
⑥卒業生よりの大分短期大学の教育への意見・要
望
花
野菜
果樹
作物
バイオ
園芸療法
造園
林業
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
受講せず
熱心では
なかった
どちらかといえば
興味深くなかった
どちらかといえば
興味深かった
興味深かった
図3 短大時代の興味度
集計結果
③Q3 短大卒業時点で以下のような知識能力をどの
(1)短大生時代の取り組み(Q1,Q2興味,Q3興味)
①Q1 次のような授業に,あなたはどの程度まで熱
程度身に付けることができましたか
短大生生活のなかで大学教育への修得では,
「実習
での専門技術」の項目において「とても身についた」
心に取り組んでいましたか.
短大生生活のなかで大学教育への取り組みでは,
「一
を選んだ者が70%占めていた.しかし,
「講義での専
般教養科目の授業」
「専門科目の講義」
「専門科目の実
門知識」の項目において「とても身についた」を選ん
習」「友人との交流」の項目において,
「熱心だった」
だ者は,40%であった.
「どちらかといえば熱心だった」と回答した者が9割を
占めていた.しかし,
「読書」の項目では「熱心だった」
「どちらかといえば熱心だった」を選んだ者が30%を
下回っていた(図2)
.
また,
「プレゼンテーション能力」の項目において
は,
「とても身についた」と思える者が30%以下であっ
た(図4)
.
講義での
専門知識
一般科目
の授業
専門科目
の講義
専門科目
の実習
実習での
専門技術
ゼミ範囲での
専門知識
資格取得
資格取得
読 書
コミュニケー
ション能力
学友会・
サークル活動
プレゼンテー
ション能力
0%
友人との交流
身について
いない
アルバイト
ゼミナール
活動
就職・
進路活動
0%
受講・活度
経験なし
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
あまり身について
いない
やや身についていた
とても身についていた
図4 短大時代の修得度
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
熱心では
なかった
どちらかといえば
不熱心だった
どちらかといえば
熱心だった
熱心だった
(2)卒業後の生活における短大生活の意義
(Q2有意義,Q3有意義)
図2 短大時代の熱心度
Q2 大分短期大学在学中,学んだ分野はどの程度有
②Q2 大分短期大学在学中,興味深いまたは面白い
短大生活のなかで学んだ分野の有意義では,卒業生
意義でしたか.
と感じた分野を教えてください.
が興味のある分野「野菜」
「果樹」において「有意義だっ
63
た」「どちらかといえば有意義」を選ぶ者が80%を占
めていた.しかし,
「林業」
「園芸療法」
「造園」にお
人・社会・自然と園芸
の関わりの認識
いては,興味がなくても「有意義だった」「どちらか
論理的思考力・
解析・総合能力
といえば有意義」を選ぶ者が多かった(図5)
.
専攻に必要
な基礎知識
専攻に必要
な専門知識
花
確実な基礎に
立つ総合力
野菜
広い視野、柔軟な
適応能力創造力
果樹
自己啓発・
研鑽意欲
作物
高度情報化
への適応
バイオ
日本語によるコミュ
ニケーション能力
園芸療法
英語能力
造園
0%
林業
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
低い
0%
やや低い
普通
やや高い
高い
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
受講経験
なし
有意義では
なかった
どちらかといえば
有意義ではなかった
どちらかといえば
有意義だった
有意義だった
図7 重要度
②【教育内容】
在学中に受けた大分短期大学の教育
図5 短大で学んだ有意義度
は十分なものでしたか
Q3 短大卒業時点で以下のような知識能力はどの程
被験者が重要だと感じたなかで,
「専攻に必要な基
礎知識」
「専攻に必要な専門知識」については大分短
度有意義でしたか.
すべての項目において「有意義」
「どちらかといえ
期大学の教育が「十分」
「やや十分」と感じる者が多
ば有意義」と感じている者が80%以上を占めていた.
かった.しかし,
「人・社会・自然と園芸の関わりの
(図6)
認識」
「倫理的思考能力・解析・統合力」
「確実な基礎
に立つ総合力」
「広い視野・柔軟な適応能力や創造力」
講義での
専門知識
の項目においては,
大分短期大学の教育が「十分」
「や
実習での
専門技術
や十分」と回答した者は少なかった.また,
「高度情
報化への適応」
「英語能力」においてやや不十分と感
ゼミ範囲での
専門知識
じている者がみられる(図8)
.
資格取得
人・社会・自然と園芸
の関わりの認識
コミュニケー
ション能力
論理的思考力・
解析・総合能力
プレゼンテー
ション能力
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
有意義ではなかった
(活動経験なし)
どちらかといえば
有意義でなかった
どちらかといえば
有意義だった
有意義であった
図6 短大で学んだ有意義度
専攻に必要
な基礎知識
専攻に必要
な専門知識
確実な基礎に
立つ総合力
広い視野、柔軟な
適応能力創造力
自己啓発・
研鑽意欲
(3)学習・教育目標の達成などの評価(Q4)
①【重要度】 卒業してすぐにどの程度重要性を感じ
ていますか
高度情報化
への適応
日本語によるコミュ
ニケーション能力
英語能力
0%
「人・社会・自然と園芸の関わりの認識」
「倫理的思
不十分
考能力・解析・統合力」
「専攻に必要な基礎知識」
「専
攻に必要な専門知識」
「確実な基礎に立つ総合力」
「広
い視野・柔軟な適応能力や創造力」の項目において重
要性を感じている者が80%以上を占めていた(図7)
.
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
やや不十分
普通
やや十分
十分
図8 教育内容
在学中に受けた大分短期大学の教育か
③【達成度】
ら各項目をどの程度身に付けることができました
か.
64
「英語能力」の習得度としては「やや不十分」と感
表3 就職希望者の進路割合
じていた.また,
「専攻に必要な基礎知識」
「専攻に必
公務員
専門職
その他民間
企業
人数
2
9
1
構成比
7.4%
75.0%
8.3%
要な専門知識」
「広い視野,柔軟な適応能力や創造力」
「自己啓発・研鑽意欲」においては「やや不十分」だ
と感じている者がいた(図9)
.
人・社会・自然と園芸
の関わりの認識
③「はっきり」
「またはある程度まで決めていた方」
論理的思考力・
解析・総合能力
のみ,あなたはその通りの進路に進みましたか
専攻に必要
な基礎知識
専攻に必要
な専門知識
自分の希望していた進路に進んだ学生は78%であっ
た(表4)
.
確実な基礎に
立つ総合力
表4 希望進路と決定進路
広い視野、柔軟な
適応能力創造力
その通り進んだ
異なる進路に進んだ
人数
21
6
構成比
77.8%
22.2%
自己啓発・
研鑽意欲
高度情報化
への適応
日本語によるコミュ
ニケーション能力
英語能力
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
0%
不十分
やや不十分
普通
やや十分
十分
図9 修得度
④
「決めていなかった方」
のみ,
大分短期大学在学中に,
将来の進路希望をみつけることができましたか
入学前に将来の進路が決まっていなかった学生のう
ち「見つけることができた」が67%で,
「ある程度み
(4)将来の進路決定における短大の役割(Q5)
①あなたは大分短期大学に入学する以前の段階で,将
来の進路を決めていましたか
つけることができた」が33%であった(表5)
.
表5 進路希望の発見割合
見つけること ある程度見つける みつけられ
ができた
ことができた
なかった
入学する以前の段階で,将来の進路について「はっ
きりと決めていた」
「ある程度決めていた」が90%で
あった.しかし,
「ある程度決めていた」が60%であっ
た(表1)
.
人数
2
1
0
構成比
66.7%
33.3%
0%
表1 入学前の進路
はっきり
決めていた
ある程度まで
決めていた
決めて
いなかった
人数
9
18
3
構成比
30.0%
60.0%
10.0%
(5)現時点における短大生活の総合評価(Q6)
大分短期大学の人生における重要性は
「重要だった」
「やや重要だった」を選んだ卒業生が90%であった.
また,学生生活における満足度は,
「満足だった」
「や
②「はっきり」「またはある程度まで決めていた方」
や満足だった」
を選んだ学生が88%であった.さらに,
短大への進学を知人などに勧めるかにおいては,
「勧
のみ,その進路はどのようなものでしたか
入学者の55%が4年制大学編入学である進学を希望
める」
「やや勧める」が90%であった.
している.また,就職を希望していた者の75%が専門
このことより,大分短期大学における大学生活を総
職として就職をした(表2)
.
合的に振り返ったときの評価は非常に高いものと考え
られる.
表2 卒業生の進学・就職割合
4年制大学
編入学
公務員
専門職
その他民間
企業
人数
15
2
9
1
構成比
55.6%
7.4%
33.3%
3.7%
①あなたの現在の人生・生き方を決めていく中で,ど
のくらいの重要性がありましたか(表6)
65
・実習はこれからも大変役に立つと思うのでもっと増
表6 人生での短大の重要性
重要 やや重要 どちらとも あまり重要 重要で
だった だった いえない でなかった なかった
人数
22
構成比 73.3%
5
3
0
0
16.7%
10.0%
0%
0%
やして良いと思う
・実習時間が多くあった方がよかった
・早めにテスト,休みの日程を出して欲しかった
・楽しかった.2年間本当に濃い時間が送れました
・ホームページをもっと今時風にすべきだと思う
考 察(まとめ)
②振り返ってみて,短大における学生生活は満足でし
教育について考えてみた.どのような知識・知能が
たか.(表7)
身に付いたかという質問およびどのような授業が有意
表7 短大時代の満足度表
満足 やや満足 どちらとも あまり満足 満足で
だった であった いえない でなかった なかった
人数
15
構成比 50.0%
10
3
2
0
33.3%
10.0%
6.7%
0%
義であったかという回答から専門領域の教育について
の評価が高く評価されていることがわかる.しかし,
「人・社会・自然と園芸の関わりの認識」
「倫理的思考
能力・解析・統合力」
「確実な基礎に立つ総合力」
「広
い視野・柔軟な適応能力や創造力」の項目においては,
大分短期大学の教育が「十分」
「やや十分」と回答し
③知人・友人もしくはあなたの子供に,短大に進学す
語能力」においてやや不十分と感じている者がみられ
ることを勧めますか(表8)
る.このことより,講義や実習において,改善してい
8 短大入学の推薦度
勧める
た者は少なかった.また,
「高度情報化への適応」
「英
あまり
やや勧める
勧めない
く必要があると考えられる.
勧めない
人数
11
16
2
1
構成比
36.7%
53.3%
6.7%
3.3%
将来の進路決定に対しての短大の役割の評価につ
いて考えてみた.Q5①より,入学当初から将来の進
路をしっかりと持った者が入学していると考えられ
る.これは,
建学の精神である「意志あるとこ道あり」
を最大限に活かすことができると考えられる.また,
77%の者が「その通り進んだ」を回答していたことは
(6)今後の大分短期大学の教育において,なにかご
意見・要望があればご自由にお書きください.
(Q7)
【12名の卒業生が自由記述欄に記述した内容を以下に
評価できる.しかし,22%の学生が「異なる進路に進
んだ」
と回答していることは問題であると考えられる.
今後,さらに充実した学生支援の方法を考えていく
記した】
必要があると考えられる.
・短大に来ていなかったら,市役所には就職できな
短大における全体的評価について考えてみた.Q6
かったと思います
・ゼミの先生だけでなく,多くの先生に親身になって
接していただきました
・ゼミ研究はかなり重要になると思うので力を入れる
べき
①の回答から大学生活が人生のなかでかなり大きな意
味を持っていることが考えられる.また,本短大での
学生生活の満足度を問うQ6②で8割以上の者が「満
足だった」
「やや満足だった」と回答している.また,
Q6③で9割の者が知人・友人に「勧める」
「やや勧める」
・テストを難しくするとよいと思う
と回答していることには評価できると考えられる.し
・編入学や専門に対する教育はとても充実していた
かし,
Q①②③の「重要である」
「満足だった」
「勧める」
が,コミュニュケーション能力やプレゼンテーショ
を連続的にみると減少していることは問題であると考
ン能力など,自らが主体となって動く授業がもっと
えられる.
あったらと思いました
今回の調査結果より,様々な問題点が考えられるこ
・勉強があまり得意ではなかったが,人学よりも専門
知識が確実に増えていったと感じられる
・2年間とても有意義で一生の友達もできたとても楽
しかった.
66
とより,改善をしていく必要性がある.
日本農業教育学会誌 第45巻 別号 p.27-30(第72回日本農業教育学会 2014.10.18〜19)
農業系短期大学の農場実習(野菜)における
学生主体型授業の試行
○摺崎 宏
(大分短期大学園芸科)
A Case Study of Action Learning in the College Farm
Hiroshi SURIZAKI
キーワード:農業系短期大学 農場実習 学生主体型授業
研究の背景および目的
文部科学省中央教育審議会は,平成24年8月28日付
本学2年生科目である農場実習で,学生個人が自ら栽
培を計画し実行する学生主体型授業の導入を試み,そ
の教育的効果を調査した.
(答申)
「新たな未来を築くための大学教育の質的転換
に向けて~生涯学び続け,主体的に考える力を育成す
調査方法
る大学へ~」において,大学教育の質的転換の必要性
を提言した.この答申を受けアクティブラーニングや
(1)被 験 者
サービスラーニング,学修ポートフォリオなど様々な
本学の2013年度後期(10月−3月)の農場実習科目
手法を取り入れた大学教育改革が推進されている.
である「園芸実験実習Ⅳ」で「野菜」を専攻した2年
大分短期大学園芸科
(以下,
本学)
では農場実習を
「園
芸実験実習Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ」と称してしてカリキュラ
ムに取り入れている.
「園芸実験実習Ⅰ・Ⅱ」は1年生
生10名(男子5名,女子5名)を被験者とした.
(2)授業の方法
学生主体型の農場実習は,原則として毎週水曜日に
が対象で,生物生産や造園,林業について総合的に実
行った.1回の授業は1時限(1時間30分)とし,
合計15回
習する.
「園芸実験実習Ⅲ・Ⅳ」
は2年生が対象で,
「野菜」
(実施月/日:10/2,10/9,10/16,10/23,10/30,11/13,
を含めた5つの専攻から選択する.これまで,本学の
11/20,11/27,12/4,12/11,12/18,12/25,1/8,
農場実習では学生を数名から十数名のグループに分け
1/15,1/29)実施した.
て授業を行ってきた.農業実習は教員の指示のもとで
学生にはそれぞれ一人当たり4㎡(2m×2m)の露
進められるが,学生は教員の指示を受けて受動的に行
地圃場を供与し,栽培計画を個別に立案させて自由に
動することが多く,自ら考え責任をもって行動するこ
野菜を栽培させた.なお,この時期の栽培に適した野
とが少なかった.農場実習において学生の主体性を引
菜(コマツナやホウレンソウなど)とそれぞれの野菜
き出すという教育の質的転換を図るためには,自ら栽
の栽培方法の紹介は初回の授業において説明した.な
培計画を立案し実際に栽培するような能動的行動を促
お,栽培に供試する野菜は,15回の実習で栽培が完結
す指導方法が必要であると考えられる.そこで,
今回,
するものをできるだけ選ぶように指導した.農場実習
67
期間中の学生からの栽培に関する相談には対応するこ
(2)農場実習での栽培
ととしたが,学生の主体性を損なわないよう極力配慮
農場実習で栽培の対象となった野菜は8種類であっ
した.農場実習で収穫した野菜はすべて自宅等に持ち
た.
「カブ」と「ホウレンソウ」がそれぞれ6人(75%)
帰ることを許可し,試食をすすめた.
と最も多く,次いで「ダイコン」4人(50%)
,
「ネギ」
(3)被験者の属性と教育的効果の測定方法
3人(30%)の順であった.それぞれの野菜を選んだ
全授業が終了した約1ヶ月後の3月11日に,全被験者
理由で最も多かったのは,
「好きだから」
や
「興味があっ
に対してアンケート調査を行った.アンケートは次の
たから」などの自発的な理由が最も多く(67%)
,
「先
内容とした.
生からすすめられたから」
といった他発的な理由や
「栽
Q1.「園芸実験実習Ⅳ」
で
「野菜」
を専攻した理由は?
培時期が適当だから」などの条件的な理由は少なかっ
Q2.実家は農家ですか?
た.また,栽培された野菜の栽培経験については,
「初
Q3.短大に入学するまで農業(家庭菜園などの趣味
めて栽培した」と「栽培したことがある」がおよそ半々
園芸は除く)の経験はありましたか?
Q4.短大に入学するまでに野菜(家庭菜園を含む)
を栽培したことはありますか?
であった.
栽培方法の調査手段は,
「書籍」
が11件
(42%)
と最も多く,次いで「インターネット」が9件(35%)
と続いた.
栽培して感じたことで最も多かったのは
「病
Q4−2.Q4で「ある」と答えた人は詳細を記入し
害虫」11件(46%)についてで,次いで「生育不良」
てください(
「栽培したことのある野菜名」
,
「栽
8件(33%)であった.農薬を使用したのは2名(25%)
培した場所」
,
「栽培した時期」
,
「栽培した理由」
,
で,6名(75%)は使用しなかった.農薬を使用しな
「自分ひとりで計画し栽培した?」
)
.
Q5.今回の農場実習であなたが栽培した野菜につい
て記入してください(
「栽培した野菜名」
,
「栽培
かった理由は「無農薬で栽培したかった」や「農薬を
使用しなくていいと思った」などであった.実習の感
想として多く挙げられたのは「実習はためになった」
,
した理由」
,
「栽培は初めて?」
,
「栽培方法はどの
「達成感を感じた」
「一人で育てることの大変さを知っ
,
ように調べましたか?」
,
「実際に栽培してみてど
た」
,
「他の人の畑の手伝いをした」で,それぞれ6人
のように感じましたか(感想)?」
,
「自宅でどの
(75%)であった.次いで「実習は満足だった」
「将来,
,
ように調理して食べましたか?」
)
.
Q6.今回の農場実習で農薬は使用しましたか?
Q7.農場実習の感想は?
家庭菜園をしてみたいと思う」がそれぞれ5人(63%)
,
「栽培は大変だった」
,
「今まで以上に野菜栽培に興味
をもった」
「実習中野菜班のメンバーとよく話をした」
,
がそれぞれ4人(50%)であった(表1)
.
結 果
表1 学生主体型農場実習の感想(選択,回答上位抜粋)
人数(%)
被験者10名中,
8名(男子5名,
女子3名)からアンケー
実習はためになった
6(75)
トの回答を得た.
達成感を感じた
6(75)
一人で育てることの大変さを知った
6(75)
自分は他の人の畑の手伝いをした
6(75)
実習は満足だった
5(63)
将来,家庭菜園をしてみたいと思う
5(63)
栽培は大変だった
4(50)
今まで以上に野菜栽培に興味をもった
4(50)
実習中,野菜班メンバーとよく話をした
4(50)
(1)被験者の属性
1)実家の農業経営
回答のあった8名の内,非農家が6名(75%)と最も
多く,兼業農家は2名(25%)
,
専業農家は0名であった.
2)短大に入学するまでの野菜の栽培経験
野菜の栽培経験は被験者8名全員が「ある」と答え
た.栽培経験のある野菜は14種類で,
中でも最も多かっ
たのはトマト(8人中6人回答(86%)
)であった.栽
(n=8)
培した時期は,
「小学校の時」が6人と最も多く,次い
収穫物は,
「カブ」では漬け物・サラダ・みそ汁・
で「高校の時」の2名であった.
「中学校の時」と回答
おでん・炒め物に,
「ホウレンソウ」では鍋物・おひ
した者はいなかった.野菜を栽培した理由は,学校で
たし・炒め物に,
「ダイコン」ではサラダ・鍋物にし
の「授業」が5人(63%)で最も多かった.回答のあっ
て食べられていた.
た全作付け24件中,1人で計画を立てて栽培したのは
1件のみで,23件は他者との共同栽培であった.
68
考 察
夏作に比べて少ないが,無農薬栽培を指導する場合は
必要に応じて防虫網や不織布を利用することなどの助
今回の試行では,土作りから収穫まで一連の栽培行
言が必要であった.なお,生育に影響を及ぼすような
程を完結させることができた. 病害の発生はみられず,被験者の感想にも表れなかっ
農場実習における教育効果について,阿部1) らは,
た.
農場実習において畝立てから収穫までの一連の管理作
今回の試行では,被験者が自由に収穫物を家に持ち
業を受講者に行わせることは高い達成感と充実感につ
3)
帰り調理して食べることを許可した.小松﨑 は,大
ながることを報告している.本報告でも「実習はため
学農場は従来の農業教育の視点に加えて学習者に対し
になった」や「達成感を感じた」と回答した被験者が
て食の主体性を養成する必要があるとしている.
また,
75%と多かった.
江尻4)は,園芸の面白さはすべて自分の判断で決める
2)
また,向山 は栽培活動の教育効果として,計画性,
ことができ,結果もまた自分だけが受け取ることであ
科学性,技術性,社会性,やさしさ・情操性,自主性・
るとしている.栽培は種をまいて栽培し,収穫して食
責任感・集団性,社会性・地域性を挙げている.ここ
してこそ完結するものではなかろうか.食に対する意
で自主性・責任感・集団性というは,
「当番活動や班
識は,栽培過程が主体的であればさらに教育的効果が
活動などを通じて自分から進んで仕事をし,仲間との
高まるものと考えられる.
助け合いやお互いの責任を認め合う態度が身につく」
今回被験者となった学生は,非農家出身者が多く,
という意である.今回の試行では,当番活動や班活動
野菜栽培の経験のほとんどは小学校の時の授業であっ
という形態をとっていなかったが,学生間でお互いの
た.栽培は受動的で,自分一人で計画して栽培をした
作業を助け合う姿が認められた.アンケート結果でも
ものはほとんどいなかった.このような背景をもつ学
「自分は他の人の畑の手伝いをした」と回答した被験
生が農業系短期大学である本学に入学し栽培について
者は75%,
「実習中,
野菜班のメンバーとよく話をした」
学ぶ.農業系短期大学の農場実習における教育の質的
と回答した被験者は50%であった.教員の方から他の
転換を推進していくには,植物栽培に学生を主体的に
学生の手伝いを指示するようなことは指導の中で行わ
向きあわせ自主性を養わせることが重要である.
なかったが,同じ時間,同じ場所,同じ目標を共有す
今後は,ルーブリック等による学修評価方法の検討
ることで自主性・責任感・集団性が必然的に生じたの
を行っていきたい.
ではないかと考えられた.
栽培方法の調査手段は,書籍(教科書含む)やイン
ま と め
ターネットが多かった.人に聞くよりも書籍やイン
ターネット上の情報に頼り,自分自身で問題を解決し
学生自らが計画を立て栽培をする主体的行動を取り
ようとする傾向がみられた.農場実習前にあらかじめ
入れた農場実習は,農場実習における教育の質的転換
栽培方法の検討会等を開催すれば,学生間のコミュニ
の一つの有効な手段に成り得ると考えられる.
ケーションを図ることができるのではないかと思う.
栽培の対象になった野菜は,概ね栽培の時期に見
引用文献
合ったものがほとんどであったが,ネギやニンジンな
ど時期的に栽培に適していないものもみられた.これ
1)阿部 一博・堀内 昭作(2003)大阪府立大学農学
らの作目は寒さの影響で生育が緩慢であったので被験
部附属農場における「農場実習」受講生の意識
者の「生育不良」という感想に表れたのであろう.野
調査と教育効果.日本農業教育学会誌.34(2)
:
菜の生育特性と作型の認識の向上を図る必要があると
考えられた.
病害虫の被害については約半数の被験者が感想とし
て取り上げた.発生した害虫はアブラナ科野菜に発生
するキスジノミハムシであったが,害虫の食害を受け
ても農薬で防除するものは少なかった.アンケート結
果からみても被験者の無農薬栽培指向の強いことがう
59-69.
2)向山 玉雄(1996)栽培活動の教育効果.学校園
の栽培便利帳.農村漁村文化協会.東京.pp.9.
3)小松﨑 将一(2005)食農教育の展開と大学農場
の役割.日本農業教育学会誌.36(1)
:17-23.
4) 江尻 光一(2002)園芸の極意.日本放送出版協
会.東京.pp.177-179.
かがえる.秋〜春作における病害虫の発生程度は春〜
69
編集委員
委 員 長
摺
崎 宏
委 員
斉
藤
清
男
委 員
吉
野
賢
一
大分短期大学研究紀要
第 13 号
平成27年3月31日発行
発行者 大 分 短 期 大 学
〒870-8658 大分市千代町3丁目3−8
印刷所 ㈱エポックアート
〒870-0942 大分市羽田984番地の1