ナノテクが開く新時代 バイオマス・エタノール事業 エタノール混合ガソリンで走る自動車(ブラジル) ブラジルでは、サトウキビの全収穫量のうち、約半分がエタノールに転換されている ナノテクノロジー(ナノテク)の応用範囲の裾野は広い。 暖化の抑制につながると考えられているからだ。※2 により、水 さまざまな分野にビジネスの可能性を秘めているともいえる。 日本では、ガソリンへのアルコールの混合許容値を検討 れにより従 この10億分の1メートルというナノサイズの技術が、画期的 していた総合資源エネルギー調査会燃料政策小委員会が「エ ようにな な商品を生み出そうとしている。中でも、BNRI(当社ナノテ タノールは混合率3%まで、含酸素化合物は含酸素率1.3% 確立する クベンチャー)で開発中のナノテクを応用した膜分離技術は、 までなら自動車に使っても安全」という結論をまとめた。資 三井物 環境にやさしいバイオマス・エタノールの普及に大きく貢献 源エネルギー庁はこの結論を受けて、施行規則にアルコー であるブ している。 ルなどの混合許容値を定めたガソリン強制規格を追加し、 の導入を バイオマス・エタノールとは、サトウキビ、 トウモロコシな 揮発油等品確法の改正と同時に2003年8月に施行した。 ネスでも どの植物から生産されるエタノールのこと。有限な化石燃 温暖化対策として有望なバイオマス・エタノールの自動車 日本で 燃料への導入はさらに進んでいくだろう。 テストを ネルギーとして世界的に重要性が高まりつつある。今、 この BNRIの開発した膜分離技術は、エタノールの精製プロセ 性能評価 バイオマス・エタノールを自動車用の燃料として使用する取 スで活用されている。ガソリンに混合可能な無水エタノー り組みが世界各地で進んでいる。ガソリンにバイオマス・エ ルを得るために、 「蒸留・脱水」が必要であるが、 この「脱水」 タノールを混合することで、CO 2 の排出量を 抑 え、地 球 温 工程にナノレベルで構造制御された分離膜を使用すること 料に対し、循環型かつカーボンニュートラル 7 三井物産 サステナビリティレポート 2003 ※1 なクリーンエ Our Challenges to Sustainable Development サトウキビ畑/イメージ により、水のみを選択して分離することが可能となった。こ アルコール分子 水分子 れにより従来の工程の約半分のエネルギーで脱水を行える ようになり、その結果世界でも類を見ない安価なシステムを 膜 確立することができたのである。 三井物産では、世界最大のバイオマス・エタノール生産国 であるブラジルのCoimex社と提携し、ナノテク精製システム の導入を進めると共に、バイオマス・エタノールの輸出ビジ ネスでも協力体制を整えた。 日本でのテスト稼働はすでに終え、2003年4月には本格 テストをブラジルで開始した。約6カ月にわたる実証実験、 エタノールの分離・脱水装置 ナノポーラス膜によるろ過で、 水分子とエタノールを分離する ※1 カーボンニュートラル バイオマス・エタノールは化石燃料と同様に燃焼中にCO2を排出するが、原料である植物(サトウキビ等) は光合成をする時にCO2を吸収するために、大気中のCO2を増加させないとされている。 性能評価などを実施し、実用化していく予定だ。 ※2 世界各地でのバイオマス・エタノール導入状況 ブラジル:自動車用ガソリンにバイオマス・エタノールを20∼25%混合使用中。 米国:10%混合ガソリン(E10) を32州で導入。イリノイ州では15%混合軽油を使うバスを実証試験中。 欧州:バイオディーゼルが主流。 ドイツでは2002年6月にバイオマス燃料に対する非課税措置法案が可決。 豪州:クイーンズランド州で2002年2月から州公用車にE10導入開始。 アジア:インドではガソリンへの5%添加が法案可決。中国でも検討中。 三井物産 サステナビリティレポート 2003 8 持続可能な社会に貢献する エネルギー資源開発 エネル 中でもL IEA(国際 ネルギー 増加しつ 世界の 採掘された原油を手にする従業員 5,800兆 世界の天 する。また 排出量が ルギーと されてい 安定した 障に有効 三井物 り札として ロジェクト シア連邦 に基づい ハリン・エ ロジェク ン島北東 コエ鉱区 鉱区は、主 方を合わ 11億バレ 長年に 2003年 対象鉱区 オホーツク海 主要関係者が集まり、 「開発日宣言」を行った ロシア連邦 ■一次エネ サハリン島 ユジノ・サハリンスク 1971 2000 北極海での操業に耐えた既存の氷海対応可動式掘削リグ「モリックパック」を 長期生産用プラットフォームに改造し、海底下約2,500∼3,000mの油層を 目指して掘削作業が行われた 9 三井物産 サステナビリティレポート 2003 2030 (予想) Our Challenges to Sustainable Development エネルギー需要の急速な伸びへの対応策として天然ガス、 ヤル・ダッチ ・シェル 社ワッツ会 長 、三菱商事株式会社増 中でもLNG( 液化天然ガス)の利用が期待されている。 田副社長、さらにロシア連邦政府フリステェンコ副首相、サ IEA(国際エネルギー機関)の調査によれば、世界の一次エ ハリン州政府ファルフトジーノフ知事(当時/故人)ら主要関係者 ネルギー需要/供給構成の中で、天然ガスの占める割合は が一同に集結し、サハリン・エナジー社が進めるサハリン-Ⅱ 増加しつつあり、今後もこの傾向は進むものと考えられる。 プロジェクト第二段階開発の「開発日宣言」を行った。これ 世 界 の 天 然 ガス 確 認 埋 蔵 量 は 2 0 0 1 年 時 点 で は 約 により、当プロジェクトは2006年の原油通年生産開始、 5,800兆立方フィートと算出されており、 これは現時点での 2007年のLNG出荷開始に向け本格的な開発段階に移行 世界の天然ガス需要を60年以上まかなえる埋蔵量に相当 した。 する。また、天然ガスは、環境負荷の大きいSOX、NOX、CO2 サハリン-Ⅱではサハリン島南端プリゴロドノエにて液化 排出量が、主要な化石燃料の中で最も少なく、 クリーンエネ 能力960万トン/年という世界最大級のLNGプラントを建 ルギーとして地域環境および地球温暖化防止に寄与すると 設予定である。このプラントからのLNGの輸出に向けて、 日本、 されている。しかも、生産地が分散しており、特に政治的に 韓国向けを中心とした販売活動も着々と進捗中である。日 安定した国で多く生産されているため、エネルギー安全保 本向けに関しては、長期供給契約締結に向け電力・ガス会社 障に有効であることも大きな利点だろう。 と交渉中であり、2003年5月には、東京ガスおよび東京電 三井物産では、極東地域のエネルギー安定供給確保の切 力が、同年7月には九州電力がそれぞれLNGの購入に関し り札として、サハリン-Ⅱプロジェクトを手がけてきた。当プ てサハリン・エナジー社と基本合意に達したと発表した。 ロジェクトは、天然ガスと原油を開発することを目的とし、ロ 一方で、サハリン-Ⅱによる大規模な海洋掘削、大型設備 シア連邦政府/サハリン州政府とで結ばれた生産分与契約 の建設などによる環境への影響も懸念されてきた。当プロ に基づいている。日英蘭の主要企業によって設立されたサ ジェクトにおいては、環境、社会ならびに健康面への影響に ハリン・エナジー社が推進する大型エネルギー資源開発プ ついては国際的にも認知された手法で評価し、自然環境、文 ロジェクトである。開発対象鉱区は、オホーツク海のサハリ 化遺産、先住民族の文化をはじめ、地域への経済効果、地域 ン島北東海岸沖約15kmに2カ所あり、 ピルトン・アストフス 住民の健康への影響まで、幅広い調査が行われ、同調査結 コエ鉱区は、主として原油と随伴ガスを埋蔵し、ルンスコエ 果に基づくロシア側環境専門委員会の審査も完了している。 鉱区は、主としてガスとコンデンセートを埋蔵している。双 なお、前述の影響評価については、2003年3月にサハリン・ 方を合わせた推定可採埋蔵量は、原油・コンデンセートで約 エナジー社から公開されている。 11億バレル、天然ガスは約17兆立方フィートに及ぶ。 地域社会に及ぼす短期的、 長期的影響に十分配慮しながら、 長 年 にわ た る企 業 化 調 査 ならびに環 境 調 査 を 経 て 、 極東地域におけるエネルギーの安定供給を目指してこれか 2003年5月15日、モスクワにおいて当社槍田社長、ロイ らも挑戦が続く。 ■一次エネルギー需要/供給構成 ■採掘から燃焼までの温室効果ガス排出量の比較 ー ガス ー 石油 ー その他 (%) 1971 石炭 18 49 108.38 33 2000 83.63 石油 23 39 38 2030 (予想) (g-C/1,000kcal) 天然ガス 28 38 69.77 34 出典:日本エネルギー経済研究所研究報告(1999年8月) 三井物産 サステナビリティレポート 2003 10 無限の可能性を秘めたアジアへ 「Mark 先進国型 急速に拡大する中国巨大市場へ ある。三井物産は中国全土に18の現地法人・事務所があり、 2008年 当社では、アジアを経済発展の重要なエリアとして位置付 各地で金属、化学品、機械、物資、食料、繊維など、それぞれ ると予測 け、さまざまな事業を展開している。こうした事業を通して の分野でビジネスを展開してきた。 億2千万 社会の発展に大きく貢献できるものと確信している。中で 今、 新たに注目を浴びるようになったのは「Made in China」 されてお も中国は、近年世界中から注目を集めている。2002年 「Market China」だ。 「Made in China」とは、中国自身 しかも、 こ APEC首脳会議開催、 WTO加盟と世界への進出を印象づけ、 が持つ高度な技術により生み出される高品質な製品を指す。 購入して 2008年北京オリンピックの開催、2010年上海万国博覧 現にDVDの生産量は世界一であり、特に家電製品、IT関連 かって、 こ 会の開催など、今後も国際的なイベントが控えている。 産業に目を見張るものがある。理科系大学の卒業生は、年 こ2、 3年で 中国ビジネスの魅力は「Factory China」 「Made in 間に日本の10倍を輩出している中国だが、従来から高い技 といった China」 「Market China」の3つの側面が急激に拡大して 術力に定評がある鉄道貨車・船舶といった分野はもちろん、 た新しい いるところにある。 バイオや光学といった最先端でのR&Dでも急速に存在感 「Factory China」は、中国が従来から「世界の工場」と を増し、強力な「産学連携」が形成されつつあることから、極 クリーン も呼ばれるように、中国国内の教育水準の高い豊富な人材 めて魅力あるビジネスチャンスが広がっている。こうした企 中国は を活用して生産できるということを意味している。日本から 業に対して三井物産の持つ企業経営管理やマーケティング む華南地 技術と部材を持ち込み中国で最終製品を生産するという、 展開といったノウハウを提供することで、中国との新たなビ の華北・東 まさに大規模な工場と言える側面を中国は持っているので ジネスの形を生み出そうとしている。 れている 雄大に伸びていく西気東輸プロジェクトのパイプライン 上海の東陶ショールーム 上海での温度管理物流 11 三井物産 サステナビリティレポート 2003 上海宝鋼集団と合同で鋼材加工物流網の新会社を設立 Our Challenges to Sustainable Development 「Market China」は、人口約13億人の消費者層を指す。 ト「西部大開発」に三井物産は取り組んでいる。 先進国型消費者層はまだ3億人ほどと見られているが、 急速に発展する中国にとって、今後安定した成長ができる 2008年北京オリンピック開催の頃には5億人にふくれあが か否かはエネルギーの問題にかかっている。産油国であり ると予測されている。この消費者層を比較すると、日本は1 ながら経済成長により輸入国に転じており、豊富な石炭資源 億2千万人、米国は2億4千万人、拡大EUは3億5千万人と も環境問題への影響が大きいと指摘されている。そこで、 されており、2008年には世界最大のマーケットとなる訳だ。 中国は化石燃料の中でもクリーンエネルギーとして注目さ しかも、 これらの消費者層は、 高品質なものを自分の目で選び、 れている天然ガスの開発に取り組み始めた。中国の広大な 購入してくれる魅力あるマーケットである。日本は30年か 国土にはいまだ確認されていない資源が眠っているといわれ、 かって、 こういった消費傾向に変わってきたが、中国ではこ 調査開発が積極的に行われている。そこで国家プロジェクト「西 こ2、 3年で急速な変化を遂げている。衣、 食、 住、 移動(自動車) 部大開発」がスタートした。 といったあらゆる分野で、三井物産の持つノウハウを生かし 「西部大開発」の大型プロジェクトのひとつである西気東 た新しいビジネスの可能性が広がっている。 輸プロジェクトは、内 陸 部タリム 盆 地から上 海まで の 約 4,000kmを世界最長となるパイプラインで結ぶ計画だ。 クリーンエネルギーを運ぶパイプラインプロジェクト 新日本製鐵(株)、第一高周波工業(株)の製品を成約するこ 中国は大きく4つの地域に分けられる。香港・広東省を含 とにより、計画実現に向けて大きく前進することができた。 む華南地域。上海を中心とした華東地域。北京と北部地方 本プロジェクトはエネルギー安定確保の問題や日本の酸 の華北・東北地域。そして中国が貧富の格差解消に力を入 性雨の原因といわれる中国の大気汚染・環境問題改善への れている西部地域。この西部地域で中国の国家プロジェク 貢献が期待されている。 三井物産 サステナビリティレポート 2003 12 熱く飛び交うフロンティアスピリッツ Our Challenges to Sustainable Development CEOのページ「UTSUDA.net」。さまざまな切り口で 社長の考えや会社の方向性を開示する 車座集会に集まったのは30代から40代の中堅社員。 三井物産にかける熱い思いを語り合う 「三井物産に対する思い、仕事に対するフロンティアスピリッツを まった。昼食をとりながら、あるいはアフターファイブに小人数での 語り合える場を作ろう」こうした思いから、社内コミュニケーション 対話を行っている。参加者は公募制で、2003年4月に開始してか を深めるためのさまざまな取り組みを進めている。 ら毎月数回のペースで実施している。参加者からは、 「一人ひとり イントラネット上に設けられていた「CEOのページ」を、2003 が遠慮のない自分の考えを社長にぶつけていたと思う。それに対 年4月には、 「UTSUDA.net」としてリニューアルオープンした。 して丁寧に社長自身の考えを説明してくれた」 「時間が経過するに 2002年の国後島ディーゼル発電所入札に関わる事件とその反省 つれ、皆の口も滑らかになり、かなり言いたいことを率直に言った。 を踏まえ、社内コミュニケーションの重要性を再認識し、当社の置 遠い存在と感じていた経営陣に対し、直接意見が言えたことは意義 かれた状況や社長の考え方を社員に広く正しく伝え、価値観を共有 が大きい」といった声が寄せられている。この車座集会に先立ち、 化するためだ。 「コラム」のコーナーでは、月に2回ほど社長にイン 社員同士が意見交換を行う「アゴラ集会」が自発的に開催され、現 タビューを行い、その時々に起きた出来事や社長自らの感じたこと 在も続いている。さらにこれらの影響を受けて営業本部長や部長 を掲載している。また、双方向のコミュニケーションのチャネルとし との車座集会が開かれるなど、三井物産の将来像について真剣に てCEOメールボックスも開設されており、誰もが社長に直接メール 議論し合う意識は確実に浸透してきている。 を送ることができる環境が整っている。もちろん内容は非公開だが、 社長と社員、また社員同士が互いに語り合うことで会社としての 社長自らが目を通して返事を出している。三井物産に対する思いや、 一体感が感じられ、風通しの良い環境が生まれている。三井物産が 仕事、経営に関する率直な意見など、熱いメッセージが日々届いて 何よりも大切にし、誇りに思う「挑戦と創造」という気概も、 こうした いる。 取り組みによって再び高まりつつある。 また、社長と社員が直接語り合う場として「社長車座集会」が始 積極的な意見交換で社長の存在を実感した 社長車座集会でお話ししたいテーマはいくつか サービス事業本部 アウトソーシング事業部 松田春美 (第14回社長車座集会参加メンバー) 13 三井物産 サステナビリティレポート 2003 からは、社内研修がその良い機会になったという ありましたが、話の流れに沿って、ある程度自分の 経験談も寄せられました。また、社長ご自身も同じ 意見を述べることができました。特に「情報の宝 ような意識をお持ちで、研修の場の積極活用につ 庫である当社の活力を最大限に活かすには、本部 いては考えていきたいと思っているとのお話があ 制による縦割り組織に横串を刺す何らかの組織、 りました。このように社員と経営陣が共通の危機 あるいは情報共有化の仕組みや接点づくりが必要 感を持ち、 どのように解決すればいいのか、それぞ なのではないか」という問題意識は是非とも提起 れの立場で前向きに考えていることが確認できた したかった内容でしたが、それに対し他の参加者 のは、私にとって大きな収穫でした。 C S R
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