Ⅰ.成長企業の条件と創業経営者が陥りやすい罠

Ⅰ.成長企業の条件と創業経営者が陥りやすい罠
(成長が嘱望されている事務所の社長室にて)
「増収なのに、何故、利益が残らない。何故だ・・・!」宮崎社長は悩んでいた。
一念発起して、IT関連の会社
「株式会社グローバルシステム」
を起業して5年。
従業員も20名を数え、年商も3億円を睨むほどになった。
持ち前の技術力と営業力で既存事業では行政機関の業務も受注し、
民間企業の仕事も順調だ!
短期の借入金なら、代表取締役個人の保証で、
1千万円程度も調達できる信用力もついてきた。
また、経営全般を見渡しているという自負もある。
それなのに、
最近、経常利益どころかキャッシュ
(現金)
が残らない。
トップセールスを油断すると、
受注が安定しないし、
生産性の挙がらない業務をしているように思えてならない。
“いつも朝礼とか会議で、
俺が檄を飛ばしているのに、
なんで社員は、
動きが悪いんだ。
俺がこんなに頑張っているのに・・・”
そんな思いが宮崎社長の脳裏をよぎっている。
「何故だ、
どうすればいいんだ!」
1.経営理念と行動指針∼経営とは信用の積立行動
∼企業のバックボーンシステムにビルトイン
∼そこに、宮崎県産業支援財団の専門家派遣事業で招かれた経営コンサル
タント、谷氏が登場!宮崎社長と一緒に、グローバルシステムの成長への突破
口を描くために、実践的な協議を進めることになりました。以下、二人の会話を聴
かせて頂きます∼
宮崎社長、確かに、従業員30名迄の会社というのは、成長の節目で、
「1・3・5の壁」
があるんですよ。踊り場とも言える。
それを的確に現状認識して、進むべき道を決めるのが経営者の仕事です。宮崎社長も、
これまで一生懸命、現場でやってこ
られたけれど、
今度は、経営者としての最大の仕事・・・成長に向かっての決断という大きな仕事をする時のようですね。
まず、
大事なことを確認しましょう。
企業経営には、儲かる業種とか、市場があるということじゃない。
儲かる経営力の差、
つまり経営者の器の差というのがあるだけなんです。誰よりも、この仕事に自分を賭けているし、自力本願でいこうという
経営姿勢を持っている。
また、
自分よりも優れた人材を登用するという姿勢も持っている。
これは宮崎社長、
大丈夫ですよね。
その上で、成長する中小企業には、
次の3つの条件が揃っているんです。
成長する中小企業の条件
一、経営方針が明確化され、
浸透していること
一、
オリジナリティ、特長があること
一、従業員への分配のルールが明確であること
図1.企業のバックボーンシステム
つまり、
「 経営」
というのは、経営者の考えていることを
従業員の協力を通じて実現する芸術。その経営において、
成果
(存続、基盤創造、利益)
創造のため、
「経営」
への
「参
加」⇒「原資」⇒「分配」を組み込んだ人間の体でいう背
骨(企業のバックボーンシステム)がしっかりしていな
(図1)
ければ、従業員は動かないんですよ。
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成長を目指す従業員30名迄の中小企業経営者のための 経営“強化”書
Ⅰ.成長企業の条件と創業経営者が陥りやすい罠
2.経営者の陥りやすい1・3・5の壁を知り、予見行動を計れ
宮崎社長、先ほど触れた
「1・3・5の壁」
を説明しますね。
経営者は市場を的確に読み、自分・自社の壁を知り、予見行動を取らねばならないのです。それは問題点というよりは課
題を発見し、課題を解決していく行動でもあるんです。
まずね、
“企業は経営者の品質”
ですよ。経営者の能力とか、器以上に大きくできないということですよ。言い得て妙と思わ
れませんか。
〈谷氏〉 宮崎社長、
最近、
仮払金・交際費・旅費精算が変ですよ?見る人は見てますよ。
そして、
従業員にも示しがつかない。おまけに、コストダウンとか経費節減とか言っても、従
業員は社長の言っていることはやらないけれど、やっていることを真似るもの。会社
がダメになる兆候ですね。
〈宮崎社長〉 そうですね。自分の金と思って、調子よく使ってましたね。油断してたなぁ。誰
からも注意されなかったし。裸の王様になっていたのかな∼・・・以後、気をつけ
ます。 〈谷氏〉そうそう、創業時点から、宮崎社長は謙虚だと聴いてますしね。誰からでも学んで、
改善できるから素晴らしいです
よ。ついでだから、
「1・3・5の壁」
っていうのを説明しておきますね。従業員数をモノサシにした目安なので、企業差
はありますよ。
表1. 1・3・5の壁チェックポイント
従業員数
管理意識
(経営者が陥りやすい罠)
1・3・5の壁(卒業方式⇒乗り越えるべき経営課題)
マーケティング
マネジメント
経営指標
・売上
・数量
・企業及び従業員の私物化、公私
混交。
・
“人間”伝票の横行
・的が絞れない
・下請体質
・遅行管理
・感情や非合法的判
断
・政策なき低付加価
値営業
・御用聞き体質
プレ ゼンテーショ
ンができない
・現行管理
・慣習、温情による判
断
・粗利益
・付加価値
10名∼
30名未満
・経営者に見栄、公職の増大、帳簿
も見ない。
・儲けがわからない。
・組織とか役職は名ばかりで分掌
が曖昧。
・取締役会が未実施。
30名∼
50名未満
・経営者にマンネリ感。
・ビジョンと経営方針が打ち出せ
ない。
・幹部会議が機能しない。
・
“選択と集中”なき
中途半端体質
・情 報 管 理 が 脆 弱 。
従来型目標管理
・結果管理
・規定、標準の不適合
な判断
・部門どんぶり管理
・経常利益
・損益分岐点
・資金回転差
・管理会計、
原価計算、
標準化が課題。
・人を活かし、人を創る仕組みが
不十分。
・新 商 品 開 発 、新 市
場開発が脆弱
・結果管理
・貸借対照表・キャッ
シュフロー 計 算 書
の管理不在
10名未満
50名∼
100名未満
企業体力(総資本
経常利益率×自
己資本比率)
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3.経営者の陥り易い罠∼経営理念や行動基準、事業計画で自らを律せよ
成長を願わない経営者は皆無に等しいですね。
もちろん、
グローバルシステムさんもそうです。創業から5年たった今、利
益が上がらなくなっている真因を総点検した方がよろしいでしょう。
「利益」
を上げねばならないし、利益を生み出す
「商品基
ご存知のように、企業の成長のためには企業活動の目標である
盤」や「お客様基盤」、取締役や従業員などの「人材基盤」
などの
「基盤」
を拡充していく必要があります。その結果、中小企
業の最大の目的である
「存続」
が可能になるのです。
このシナリオを実現するのが、企業のバックボーンシステム。今の自社の業績のサイクルパターンを見て、望遠鏡と顕微
鏡を使い分ける大局着眼・小局着手の視点が求められています。
ここで、バックボーンシステムの原動力となる未来デザインのイメージ(図2)
を見て下さい。
図2.未来デザインのイメージ
将来への夢を描いて、未来に点を
打し、
「5ヶ年ビジョン」
が目標化され、
その実現のためにマネジメント
(「計
画経営」
)
を徹底し、
先をみて行動
(
「先
行管理」)する。
マネジメントの成果をチェック、差
額対策行動とするためにモノサシ
(
「財
務諸表、部門損益」)
を活用し、問題解
決行動を推進する。
そこで生まれた成果(利益、基盤の
拡充など)を、モノサシの許す限りの
刺激(分配)
として還元する。
そうすることで、自社の将来がどうあるべきかが迷いなく、
行動レベルに昇華していきます。
考えてみると、宮崎社長はこれまで、ありたい夢や目標数値は紙に書いて来られましたよね。社長の踏ん張りで従業員も
20名規模になり、その創業の精神を知らない人達が入ってきましたね。それに、先ほどの仮払金や交際費の問題もそうで
すが、いろいろと判断や行動の基準を上位企業の視点に合せて、やっていかないと・・・。
経営者は自由で、企業の中では
“憲法”
でもあり
“裁判所”にもなってしまいます。
成長を志向し、自らを律する意味でも新事業計画を策定しましょうか!経営理念とか、行動基準、事業計画を原点にかえ
(いつ、
どこで、
ってやりましょう。そうそう、経営指針的なものだけじゃ、弱いですよ。実行段階にまで掘り下げた5W2H
誰が、何を、何故、
どのように、いくらで)の言葉に代えて、経営方針書にするんです。 「経営者の5つの戒め」
っていう
それと経営をダメにする
のを持ってきましたから、いつも見る機会の多いところに貼
付されたらいいですね。
これも、経営者の成長を妨げる罠ですからね・・・。
経営者の5つの戒め
一、開拓者としての夢がなく、挑戦しない
一、信用・信頼よりも、
狩猟型の“儲け”
主義
一、帳簿が読めない、
わからないから人任せ
一、自分でコントロールできない
酒・異性・バクチ、嫉妬、
マイナス発想
一、何事も中途半端で優柔不断
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成長を目指す従業員30名迄の中小企業経営者のための 経営“強化”書
Ⅰ.成長企業の条件と創業経営者が陥りやすい罠
視点1
ここで、成長の定義を明確にしておきましょう。
「成長」
と言うのは、経営者が描いた夢に向かい、自分の節(殻)
を破る自己資本の拡充活動であり、一株あたりの価値
を最大化していくことに他なりません。そして、特に中小企業の昨今の価値は
「キャッシュ
(お金)」
ですから、
お金をどう
貯めるか・・・という視点を持つべきです。
一方、従業員30名迄の企業は、大多数は
「資本」
と
「経営」
が一体です。
ひらたく言えば、経営者の資金を資本金として
拠出し、経営している。通常は、会社の代表取締役と、代表取締役の個人名義は本来、異質なものですね。
ところが、金融機関や利害関係者から見れば、本来株主で有限責任である株主と信用保証をする経営者個人は無限
責任であり、結果、無限責任を負うことが多いのです。
会社の成長を見るモノサシとしては、表裏一体な
つまり、現金を会社で貯めることと経営者個人で貯めることは、
のです。今回、定義する中小企業で、会社の側面だけで内部留保を考えてしまうと、意図しないところで「お金」が流出
してしまい、結果として内部留保がままならないのです。
視点2
ここで、
グローバルシステムさんを参考に、
「業績のサイクルパターン」
(表2)
を見ておきましょう。
4期分の決算書と期首・期末従業員数を持って、自社の業
表2.業績のサイクルパターン
績パターンを見て、
どういうメスを入れるかの大筋を把握し
ましょう。
健康優良企業
対策A
ところで、変な言い方を致しますが、正しい決算書を使わ
ないといけません。
赤字
健康企業
対策B
今回は、詳細は触れませんが、正しい場合でも、できれば
不良・不足科目などは、表面の残高より控除したり、加算
して、厳しく分析することが大事。例えば、決算書上の「売
不健康慢性企業
対策E
掛金」
と売掛金一覧の残高が合ってない場合、不良化してい
る金額をそのままに分析しても意味がないですね。但し、税
務上、損金になるといった期待感はここでは考えないで下さ
健康急激悪化企業
対策D
健康懸念企業
対策C
黒字
いね(笑)
黒
字
赤
字
健 康 優 良 企 業 対策A
1.拡大バランス経営の推進 2.次世代商品の選定 3.
先行投資(人材、開発、設備)
健
1.利益が出る背景・真因の分析 2.
企業体質・基盤の品質検討 3.中長期ビジョンへの取組み
4.人材投資及び処遇制度改革
康
企
業 対策B
健 康 懸 念 企 業 対策C
1.
ジリ貧体質の真因分析 2.
マーケット分析と商品・営業力の強化
3.効率経営の推進
(変動費の削減、
コストダウン・アウトソーシング、経費節減)
4.バランスシート改革 5.危機意識の高揚と社内教育
健康急激悪化企業 対策D
1.社内非常事態体制の確立(取締役会の引き締め、
幹部のリーダーシップ)
2.金融機関への密着、資金計画の見直し
3.損益分岐点の大改革(変動費のカット・自社内製化、固定費にメスを入れる)
4.バランスシート圧縮(売掛金、在庫、不動産等⇒高く売るより速く売る)
5.
オールセールス体制による営業展開 不健康慢性企業 対策E
1.経営者の交代、経営体制の見直し 2.資金繰り中心の経営 3.
ムダ・ムラ・ムリを斬る
4.総資産の圧縮を検討 5.選択と集中(商品と市場の見直し) 27