水素原子の基底状態の波動関数とエネルギーの推定:hydrogen

水素原子の基底状態の波動関数とエネルギーの推定:hydrogen-wf-energy-speculationQA20160705A.tex
水素原子の基底状態 (主量子数 n = 1,方位量子数 ℓ = 0) に対する動径方向のシュ
レーディンガー方程式 ( 動径方向の波動関数 R(r) が満たすべき微分方程式) は次の
ように与えられる。(E は水素原子のエネルギー,m は電子質量、ε0 は電気定数 (真
空の誘電率),h̄ はディラック定数)。
[
(
1
d2 R(r) 2 dR(r) 2m
+
+ 2 E+
2
dr
r dr
4πε0
h̄
)
]
e2
R(r) = 0.
r
(1)
波動関数の確率解釈のためには R(r) は無限遠方で 0 になるという境界条件を満
たさなければならない。この境界条件を満たす簡単な関数の候補として、R(r) =
2
α/r, R(r) = e−αr , e−αr , (定数α > 0) が考えられる。
1. R(r) = α/r が妥当かどうか吟味せよ。
2. R(r) = e−αr と仮定して、α とエネルギー E を求めよ。
3. R(r) = e−αr が妥当かどうか吟味せよ。
2
(解答例)
1. R(r) = α/r, (定数α > 0) は無限遠方で 0 に近づくが、微分方程式に代入す
ると
(
)
h̄2 2
2
e2 1
E
−
−
−
=
3
3
2
2m r
r
4πε0 r
r
(2)
となる.動径 r についての微分方程式は r の値によらず成立するべき恒等式
出なければならない.しかし,上の式は 1/r, 1/r3 の係数がゼロになることは
ない.すなわち,R(r) = α/r, (定数α > 0) は微分方程式を満たさないこと
がわかる.
2. R(r) を r で微分して R′ (r) = −αe−αr ,R′′ (r) = α2 e−αr 式 (1) に代入して整理
すると
(
→
)
2α
e2 1
h̄2
α2 −
−
=E
−
2m
r
4πε0 r
) (
)
(
e2
h̄2 2
αh̄2
1
α +
−
=0
−E −
2m
m
4πε0 r
(3)
式 (3) は r についての恒等式であるから、その各次数の係数はゼロでなけれ
ばならない。すなわち
αh̄2
e2
me2
−
=0→α=
m
4πε0
4πε0 h̄2
1
−E −
h̄2 2
h̄2 α2
me4
α =0→E=−
=−
.
2m
2m
32π 2 ε20 h̄2
(4)
得られたエネルギー E は基底状態のエネルギーの厳密な値で、α はボーア半
径 (4πε0 h̄2 /me2 ) の逆数になっている。
3. 同様に、R(r) を r で微分して、R′ (r) = −2αre−αr ,R′′ (r) = (−2α+4α2 r2 )e−αr
を式 (1) に代入して整理すると
2
−
)
h̄2 ( 2 2
e2 1
4α r − 6α −
= E.
2m
4πε0 r
2
(5)
式 (5) は r についての恒等式であるから、その各次数の係数はゼロでなけれ
ばならない。しかし、定数項の係数ゼロはいいが、r2 の係数、1/r の係数は
2
ゼロにはならない。すなわち、基底状態の波動関数は R(r) = e−αr では微分
方程式を満足しないことが分かる。このように、微分方程式の特徴はその解
としての波動関数にも強い制限をもたらす。
4. 備考:R(r) = α/r, (定数α > 0) について,3 重積分のヤコビアンを考慮して,
すなわち,dxdydz = r2 sin θdrdθdϕ を考慮して,規格化積分を計算すると,
∫
∞
∫
2 2
[R(r)] r dr = α
0
2
0
∞
dr → ∞
(6)
のように,無限大となる.すなわち,R(r) = α/r, (定数α > 0) は波動関数
の確率解釈を不可能にする.このように,波動関数の確率解釈を可能にする
ための条件として,波動関数は自乗積分可能でなければならない.
2