実践例 5年 友情 信じ合って友情を深める 東京都板橋区立板橋第四小学校教諭 石川雅章 はじめに 本校では、次のことを指導の重点として道 徳教育に取り組んでいる。 ○﹁思いやりの心﹂﹁生命を尊重する心﹂﹁規 範意識﹂の育成を道徳教育の重点とし、資 料や指導方法を工夫して、道徳の時間の指 導を充実する。 ○内面に根ざした道徳性や道徳的実践力を育 成するため、各教科等と関連を図った指導 を進める。特に特別活動・生活科・総合的 な学習の時間との関連を図った指導を工夫 する。 本学級は、友達と進んでかかわろうとする 児童が多く、助け合っていこうとする姿が見 ら れ る。 本 時 に 先 立 ち、 ﹁友達とは﹂と質問 したところ、﹁助け合う・支え合う﹂﹁かけが えのない宝物﹂といった答えがあった。しか し、実際の生活では自己中心的な考えから友 達に対して心ない言動をとってしまうことも ある。友達に裏切られたという気持ちから、 友達や担任の教師に相談する場面や、自分の 言動を心から反省し、謝罪し、許し合い、さ らに友情を深めていく場面もあった。友達の あり方を十分に考えられる児童が増えてきて いるこの時期に、道徳の学習を通して友達の あり方と友情のすばらしさを考えさせたい。 指導の工夫 ○資料の提示の工夫 ①各場面の絵を黒板に掲示し、資料に興味を もたせた。 ②友の肖像画の版画を作成し、正一の努力と 友を思う気持ちの強さが伝わるようにした。 ○本時のねらいとする道徳的価値を明確にし た指導をするための工夫 各場面ごとの二人の友情を﹁友情メーター﹂ の大きさで表すことで、和也の心の移り変わ り が 視 覚 的 に 分 か る よ う に し た。 友 情 メ ー ターの大きさの根拠を明らかにすることで、 互いを信じ合う心に目を向けられると考えた。 ○振り返りの工夫 展開後段で、全員にじっくり振り返りをさ せるためにワークシートを用いた。 資料の概要 ﹁友のしょうぞう画﹂ 本資料は、友情を誓い合って離ればなれに なった和也と正一のその後の行動から、互い を信じ合うすばらしさを考えさせるものであ る。和也は文通の返事がだんだん来なくなっ たことで複雑な気持ちになる。一年ほどして、 和也は正一が難病に冒されながら作った木版 画﹁友のしょうぞう画﹂を目にし、自分に寄 せる変わらぬ友情に涙を流す。児童に、互い に助け合い、信じ合うことで友情は深まるこ とを理解させ、これから友達と友情を深めて いこうとする心情をはぐくむ上で有効な資料 である。 ●出典 ﹃5年生の道徳﹄︵文溪堂︶ 2 0 0 8 . 0 2 道徳と特別活動 28 学習指導案 ●主 題 名 信じ合い ●資 料 名 「友のしょうぞう画」 ●本時のねらい 友達と互いに助け合い,信じ合って友情を深めようとする態度を養う。 〈2−⑶友情〉 展開例 学習活動(主な発問と予想される児童の心の動き) 1.事前アンケートの結果から,友達をどのようにと 導入 らえているかを知る。 ○ あなたにとって友達とはどんな人ですか。 ・遊んでくれる。楽しくおしゃべりができる。 指導上の留意点 ・事前に「友達とは」「どのような友達 がほしいか」を児童から聞き取り,結 果をまとめて提示することで課題意識 を高める。 ・信頼できる。分かり合える。 ・助けてくれる。相談に乗ってくれる。 実践例 道徳 2.資料「友のしょうぞう画」を読んで話し合う。 ・はじめに2人の親しい関係を押さえて ① 「ぼく」は,どんなことを思いながら,正一の から発問に入る。 ・「友情メーター」で友情の深まりを考 乗った列車を見送ったのでしょう。 ・もう会えないかもしれない。寂しい。 ・病気に負けるな。元気でね。 えていくというめあてを提示する。 ・ずっと友達だよ。 展開︿前段﹀ ② 正一から手紙が来なくなって,「ぼく」はどんな 気持ちになったでしょう。 ・友情メーターが小さくなる場面。「ぼ く」の立場から考えさせるようにする。 ・何でだろう。正一に何かあったのかな。 ・ぼくのことを忘れてしまったのかな。 ・新しい友達ができたのかな。 ③ 「友のしょうぞう画」を見たときの「ぼく」はど んな気持ちだったでしょう。 ・不自由な手で,よくできたな。 ・ぼくのために…ありがとう。 ・正一を疑ってしまって悪かった。 ・ワークシートに記入する。 ・正一の友情を疑った自分を反省し,友 情をさらに深めようとする「ぼく」の 思いを感じ取らせるために,その後の 「ぼく」の行動も考えさせる。 ・また正一に手紙を出そう。 展開︿後段﹀ 3.今までの自分を振り返り,話し合う。 ○ 自分自身を振り返ります。友情に感動したこと, 心の底から「友達っていいな」と思ったことをワー ・全員がワークシートに記入し,発表で きるようにする。記入に際しては,で きるだけ具体的に書くように指示する。 クシートに書いて発表しましょう。 ・泣いているときに慰めてくれた。 終末 4.『心のノート』の詩を読む。 ・『心のノート』46,47 ページの詩を読む。 29 道徳と特別活動 2008. 02 ・友情についての詩を教師が読み聞かせ る。 授業の記録 ︿資料範読後 展開前段﹀ T 話の内容や登場人物を整理しましょう。 ︵二人の関係を書いたカードを黒板にはる。 ︶ T 今日は二人の友情について考えます。 T ﹁ぼく﹂はどんなことを思いながら正一 を見送ったでしょう。 C もう会えないから嫌だ。 C 寂しい。でも元気でね。 C 離れていてもずっと友達だ。 C もう野球ができない。 C うそみたい。信 じられない。 T 友情メーターは どうなりましたか。 C 前と変わらない。 T 文通が始まりま した。最初はどう でしたか。 C 順調だった。 T 正一か ら 手 紙 が 来なくなって、 ﹁ぼ く﹂はどんな気持 ち に なったでしょ う。 C 字が書けなく なったのかな。 C ﹁ぼく﹂のこと 忘れたかな。 C ほかに友達ができたかな。 C 面倒になったのかな。 C 嫌われたのかな。 T みんなも﹁ぼく﹂の気持ちが分かりますか。 C 不安になる。 T 友情メーターはどうなりますか。 C 前より小さくなる。 T みんなは手紙が来なくなって一年ほど 経ったらどう思いますか。 C 今度会ったら怒る。 C あきらめる。 ︵肖像画と正一のコメントを掲示。斉読。︶ T ﹁友のしょうぞう画﹂を見たとき、﹁ぼく﹂ はどんな気持ち だったでしょう。 C 手が痛かった だろう。 C 一年 も か け て 作ってくれたんだ。 T ワークシートに書いて発表しましょう。 C 忘れてなかったんだ。 C ぼくのためにありがとう。泣けるな。 C よく一年もあきらめずに⋮⋮。 C やっぱり病気に負けてなかったんだ。心 配したよ。これからも友達だ。 C ぼくのために一年もかけて一生懸命作っ てくれたんだね。なのにぼくは正一に何も できなかったから、正一に悪い気がする。 手紙を書こう。 C 何も知らず君をひどいと思ったけど、思 い違いだったね。本当にごめん。ぼくもが んばる。戻ってきたら野球しよう。 C まだ友情は切れてないんだね。 C 安心した。これから手紙いっぱい書くよ。 T 友情メーターはどうなりますか。 C はじめより大きくなる。 T ﹁ ぼ く ﹂ は 一 度 は 友 情 を 疑 っ て、 あ き ら めたり、怒ったりしたけど、やっぱり友情 がつながっていることが分かったのですね。 ︿展開後段 振り返り﹀ T 今度は自分自身のことを考えます。友情 に感動したこと、心の底から﹁友達ってい いな﹂と思ったことをワークシートに書い て発表しましょう。 C 悩んでるとき、落ち込んでいるときにA さんが相談に乗ってくれたり、励ましてく れ た。 け ん か し た と き、 次 の 日 二 人 と も 謝って、もっと友情が深まったことがある。 C 何かなくしたとき、一緒に探してくれた。 失 敗 し た と き、 ﹁大丈夫だよ﹂と慰めてく れた。 C 分からないこと を教えてくれたと き。 C どんなときでも 友達って変わらな い。つらいとき、 悲しいとき、困っ たときは互いに助 け合ったり、相談 2 0 0 8 . 0 2 道徳と特別活動 30 したりして、さらに友情が深まると思った。 ぼくも時々けんかして怒るときもあるけど、 すぐ仲直りができる。 まとめ 展 開 前 段 で は、 各 場 面 で の 登 場 人 物 の 心 情・人間関係・状況・時の経過を児童に聞き 取りながら押さえた。発問が主となる三つ以 外にも多くなってしまうのが難点だが、資料 の内容を十分理解させることで、児童の考え を引き出せると考えた。このような資料の内 容理解を助けるものとして、カードを用いた。 カ ー ド は﹁ 九 州 ﹂﹁ 文 通 ﹂ な ど、 で き る だ け 短いキーワードとし、分かりやすく必要最低 限のことを押さえるようにした。 児童の発言に対し、もっと心情を深めるよ うに発問してもよかったが、本時は反応よく 意見が出ていたので、多くの意見を取り上げ るようにした。 ﹁相談に乗ってく 展開後段の振り返りでは、 れる ﹂ 、 ﹁ 助 け て く れる ﹂ 、 ﹁励ましてくれる﹂ という意見が多かった。導入で多かった﹁楽 しくおしゃべりできる﹂ 、 ﹁遊んでくれる﹂と いう意見はほとんど見られなくなっていた。 助け合い、分かり合える友達こそが信頼で きる真の友達であって、ただの遊び仲間とは 別だととらえている児童が増えていた。それ を踏まえ、終末では、自分は友達にとって真 の友達であるか問いかけ、互いに信頼し合え る関係を築いてほしいという願いを伝えた。 実践例 道徳 友達への思いやり ■友情メーターについて 「友情メーター」を活用することによって, 登場人物の心の動きを児童一人一人がとらえ やすいようにしている。友情の深まりを感じ させる前半,正一からの手紙が来なくなって どうしたのだろうと思う和也,薄れていくと 思われる友情,そして肖像画を見て再び友情 が深まる後半。それらを「友情メーター」に よって,児童一人一人は十分に把握したこと が予想される。 だが,資料の読み取りに偏りすぎることは なかったか疑問である。一人一人の感じ方は 一律ではないはずである。 「友情メーター」 はこの記録を読む限り,先生が示していたよ うに思われる。一人一人に持たせて,一人一 人が感じた「友情メーター」をもとに話合い を深めていくと,もっと深まりが出たのでは ないかと思われる。 ■基本発問と補助発問 しっかりと話の流れをつかませるために, 補助発問をたびたび使っている。まとめのと ころでは,授業者が計画した3つの発問より 増えたが,児童に十分話の内容を理解させる 31 道徳と特別活動 2008. 02 ことで,児童の考えを引き出せるという意図 をもって進められていることが分かる。それ はいいことであるが,基本発問を生かすため にも,そこへ時間をかけたい。発問をしなく ても,教師が説明すれば分かるところも多い と思うし,せっかく「友情メーター」を用い ているので,それで十分理解できているとこ ろもあろう。板書やキーワードでの工夫も生 きている。 ■価値の一般化の工夫 展開後段の価値の一般化の段階が,かなり うまくいっているように感じる。それは,ま ず一つに,言葉の使い方がよかったことであ ろう。 「友情に感動したこと」「心の底から友 達っていいなと感じたこと」を尋ねている。 分かりやすいし, 「心の底から」などと,感 情を表現しやすいように発問している。 その結果, 導入で出ていた発言より,深まっ たものが出ている。評価できる子どもたちの 反応である。これは,展開後段の発問はもと より,前段の深め方もよかったものと推測さ れる。 (本誌編集委員会)
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