多様な指導を通して 子どものよさをはぐくむ

実践例
公徳心
1年
多様な指導を通して
子どものよさをはぐくむ
東京都文京区立明化小学校教諭
吉羽扶美子
○具体物の活用
・実際に黄色いベンチを用意し、その上から
紙飛行機を飛ばし、資料を生活の一場面と
・導入で公共物の写真をたくさん掲示する。
○導入と展開後段へのつながり
して考えやすくする。
ことは大切なことである。しかし、最近は、
・導入で想起させた公共物を確認したり、教
師の説話を入れたりして、展開後段の考え
が広がるようにする。
大切にするとはどういうことなのか、どうし
約束やきまりを守ることに目が行きがちで、
○終末のゲストティーチャーの活用
・遠足や生活科で公園に行き遊ばせる。
・事前に紙飛行機を飛ばす体験をさせる。
○共通体験
て大切にするのか意識する児童は少ない。本
主事さんから褒めてもらうことで、道徳的
・普段公共物を大切にしている姿を、身近な
実践意欲を高める。
学級でも、きまりや約束を守ろうとする児童
う 傾 向 が 強 い。 そ こ で、 低 学 年 の う ち か ら
﹁みんなのために﹂﹁一緒に使う人や次に使
う人のことを考えて﹂みんなの物や場所を使
う意識を育てていきたいと考えた。
は顔を見合わせ、自分本位な行動で迷惑をか
におばあさんが話しかける言葉を聞き、二人
この資料を通して、登場人物の心情を考え
ながら、公共のルールやマナーを守る大切さ
○資料の提示
に気付かせ、ねらいとする価値に迫りたい。
・場面絵を使って読み聞かせをする。
惑を受けた側の気持ちを考えさせるととも
けたことに気付き始める。
に、周りの児童にはそれを見てた主人公と
●出典 ﹁1ねんせいのどうとく﹂︵文溪堂︶
・女の子とおばあさんの姿を動作化させ、迷
しての視点で参加させ、主発問につなげる。
○動作化
ベンチを汚してしまう。そこに座った女の子
チの上に乗って夢中になって飛行機を飛ばし、
雨上がりの公園へ紙飛行機を飛ばしにいっ
た二人は、泥だらけの靴のまま、黄色いベン
資
料
の
概
要
れたから守る﹂﹁守らないと怒られる﹂とい
が多いが、﹁きまりだから守る﹂﹁先生に言わ
低学年では、﹁みんなが使う物を大切にし、
約束やきまりを守る﹂ことがねらいである。
ばれている。
が指摘され、マナーやモラルの意識低下が叫
社会全体で個人の利害損得を優先させる傾向
社会生活を営む上で、集団や社会のきまり
や約束を守り、共によりよく生きようとする
は
じ
め
に
指
導
の
工
夫
2 0 0 6 . 0 9 道徳と特別活動 26
学習指導案
●主 題 名 みんなで使うものを大切に
●資 料 名 「きいろい ベンチ」
●本時のねらい みんなで使うものを大切にしようとする心情を育てる。<4−⑴公徳心>
展開例
導入
学習活動(主な発問と児童の反応)
指導上の留意点
1.
「みんなで使うもの」にはどんなものがあるか
・具体的にイメージさせるため,写真を活
話し合う。
2.資料「きいろい ベンチ」を聞いて話し合う。
ベンチに上がって紙飛行機を飛ばしているときた
かし君は,どんな気持ちだったでしょう。
実践例 道徳
・遠くまで飛んでうれしい。
・楽しいな。おもしろいな。
・もっと高いベンチはないかな。
展
開
たかし君はどんな気持ちで,てつお君と顔を見合
わせたのでしょう。
・ベンチの上に乗らなければよかったな。
・しかられるかもしれない。知らんぷりしよう。
用する。
・場面絵や登場人物の絵カードを用意し活
用する。
・実際にベンチの上から教師が紙飛行機を
飛ばし,自分たちが紙飛行機を飛ばした
ときのことを思い起こさせ,たかしの気
持ちを想像ししやすくする。
・動作化を取り入れ,迷惑を受けたおばあ
さん,女の子の気持ちになって考えさせ
るとともに,次の発問へつなげる。
・ワークシートに書くことによって,たか
しの気持ちをじっくり考えさせる。
・悪いことをしたなあ。謝りにいこうかな。
・自分は楽しかったけど,女の子のスカートが汚
れてかわいそう。
・みんなが使うベンチを汚して,悪かったな。
3.今までの自分の生活を振り返る。
「みんなで使うもの」をどのように使っています
か。
・学校のボールを使ったときに,きちんと片付け
た。
・掃除の後,次に使うときに困らないようにほう
きをきちんと片付けている。
終末
4.主事さんの話を聞く。
(児童がみんなで使う物を大切にしている姿を主事
さんの目で伝えてもらう。)
27 道徳と特別活動 2006. 09
・公共物を大切にしている具体例を考えや
すいように,教師の経験を話す。
・導入で取り上げた,みんなで使うものの
写真も参考にして,考えを広げられるよ
うにする。
・人のことを考えて,公共物を大切にしよ
うという意識を高めて終わらせる。
C
ベンチに上ってよかった。
C
こんなに飛ぶとは思わなかった。楽しい
T そこへ、女の子とおばあさんが来ました。
C 遠くまで飛んでうれしい。
しょう。
みんなも前に平均台から飛ばしたね。
ベンチに上がって紙飛行機を飛ばしてい
るとき、たかし君はどんな気持ちだったで
T
︵場面絵を紙芝居にして、資料を読む。︶
︵ た か し の お 面 を つ け、 ベ ン チ の 上 に 上
がって実際に紙飛行機を飛ばす︶
︿展開﹀
C
わー、たくさんある。
T 今日はこの
﹁きいろいベンチ﹂のお話です。
︵その中の一つのベンチの写真をはがし
て黒板に掲示する。
︶
C
黒板消し・机・ボール⋮⋮。
T みんなで使う物はたくさんあるね。
︵事前アンケートで出た物の写真四十二
枚の一覧をを提示する︶
C
○○ちゃん。
T 黒板はだれが使う物ですか。
C みんな。
T みんなで使う物は、ほかにどんな物があ
りますか。
T この筆箱はだれが使う物ですか。
︿導入﹀
授
業
の
記
録
︵ 女 の 子 の お 面 を 付 け て、 動 作 化 を し な
がら説明する。︶
る︶みなさんもみん
人に悪いことをした
れて、次に借りたい
おばあさんになって、スカートの泥をは
らってください。見ているみなさんは、た
なで使う物を、どう
ほかの物、ほうきはどうですか?
使ったら、ロッカーに掛けている。
片付けないと、通る人が転んじゃう。
ゼッケンを使った後は?
T 次に使う人のことを考えると、みんなが
いい気持ちになるね。
とを伝える︶
GT ︵児童がトイレや靴箱をきれいに使っ
ていることで、次に使う人が使いやすいこ
C
たたむ。
T どうして?
C 次に使いやすいように。
︿終末﹀
T
C
C
T
C
ボールを大切に使っている。
T 大切に使うってどういうこと?
C 投げっぱなしにしているとなくなっちゃ
うから、後片付けをする。
でもいいことを伝える︶
んなで使う物のどれ
︵導入の写真にも
う一度着目させ、み
使っていますか。
教師の経験を伝え
かし君とてつお君になってみてください。
︵児童と役割演技をする。︶
T 泥をはらっているとき、おばあさんはど
んな気持ちでしたか。
︵ワークシートに書く︶
C
汚しちゃってかわいそう。
C だれがベンチを汚したのだろう。
T それを見て顔を見合わせたたかし君と
てつお君はどんな気持ちだったでしょう
C
かわいそうなことをしてしまった。
C
ばれちゃうから早く逃げよう。
C ベンチに上らなければよかった。
C よく考えて行動すればよかった。
T
どんなことを考えて?
C
後のことも考えて。泥が付くと座れなく
なることも考えて。
C みんなのもののベンチの上で紙飛行機を
飛ばさなければよかった。
T このお話
を読んで思
い出したこ
とがありま
す。︵ 図 書
館で借りた
本を返し忘
2 0 0 6 . 0 9 道徳と特別活動 28
○
公共物の写真からの導入や具体物の活用
は資料を深く考えさせ効果的だった。
○ 動作化のときに、周りで見ている児童に
も﹁ お ば あ さ ん に な っ た つ も り で 見 て ね ﹂
﹁みんなはたかし君だよ﹂と見る視点を伝え
たことにより、動作化にクラス全体が参加し
て考えることができた。
○ 展開後段に入るときに、導入の写真にも
う一度着目させたり、教師の説話を入れたり
したことで、児童が自分の体験を振り返りや
すくなった。資料から離れられない児童には
効果的だった。
○ 児童にとって身近な主事さんをゲスト
テ ィ ー チ ャ ー と し て 迎 え、 学 校 生 活 の 中 で
﹁みんなで使う物を大切にしている様子﹂を
褒めてもらうことで、児童の実践意欲を高め
ることができた。話の内容の厳選や時間配分
には課題が残った。
●
﹁みんなで使う物をどのように使ってい
ますか﹂の発問は、大切にしたことより、使
い方を思い浮かべてしまう児童が多かった。
発問の言葉を、児童の実態に合わせて考える
べきであった。
● 児童の発言を受け止めるために、児童の
発言を聞いてから板書にまとめたが、ただ意
見を羅列するだけでなく、発言を類型化して
板書するとさらに価値に迫ることができる。
実践例 道徳
子どもの反応を的確に受け止める
■指導と評価の一体化
授業者は,発問を工夫し投げかけ,それに
対する児童の反応を的確に受け止め,評価し
次の指導につなげようとしている。このこと
は,とても大切なことであると思われる。
そこで,本授業でどのようになされ効果を
上げているか,課題は何かを考えたい。
まず,児童の発言を的確に受け止めようと,
児童の発言をよく聞き,まとめて板書してい
る。発言をそのまま板書することもあるが,
このほうが見やすいし,特に 1 年生にとって
は,次の発問につなげるのに効果がある。さ
らによい方法としては,類型化(参考:青木
孝頼氏の価値観の 4 類型)して板書するとよ
いであろう。
ワークシートも評価に活用しているが,そ
れについては後述する。
■導入と価値の一般化のつながり
展開後段(いわゆる価値の一般化の段階)
の発言が広がるように,導入を工夫されてい
る。
導入で,公共物の写真を黒板の左にたくさ
ん掲示したのも効果があったようである。う
まく後段の発言につながっている。また,授
業者が,話をして後段へと入っていったのも
29 道徳と特別活動 2006. 09
広がりのある反応を引き出すことができた。
■ワークシートについて
ワークシートに書かせることにより,じっ
くり考えさせるとあるが,果たして1年生に
とって書くことが,じっくり考えることにつ
ながるかは疑問である。
まだ,書くことに抵抗がある子がいるであ
ろうし,書かせなくてもじっくり考えさせる
方法はある。例えば,発問の後に,少し考え
る時間をとるなどである。
ただ,子どもの書いたのを見ると,1年生
なりにしっかり書けている。子どもの反応を
的確にとらえることや,事後の評価には役立
つであろう。そのぐらいの目的で書かせるこ
とはよいと思われる。
その場合も,書くことに抵抗のある子ども
への配慮を忘れないようにしたい。
■ゲストティーチャーの活用
まとめでゲストティチャー活用の反省を述
べられているが,話の中身や時間を考えると,
教師が「主事さんから聞いた話ですが」と前
置きして,自分で話したほうがよい。
(本誌編集委員会)
ま
と
め