フクロウにつかまれる 動物公園では飼育している動物の他にも、怪我をしたり弱ってしまって保護された野生鳥獣を世話することがあり ます。それらは回復したら山に帰してやります。 それは私がまだ飼育係の駆け出しのころ、地方のとある動物園でアルバイトをしていた時のことです。その日は、 腕はいいけどちょっとぶっきら棒で口の悪い(!?ごめんなさい)獣医が、弱って保護された野生のフクロウを診察、治療する のを手伝うことになりました。 動物を治療するには、まず動物にじっとしていてもらわなければなりません。保定(ほてい)するといいますが、保定 には動物の種類によっていろいろな方法があります。猛獣や大きい動物は手でおさえるわけにはいかないので狭め檻 (檻の一辺を歯車等で狭めていって、動物が動けないようにする)を使ったり、あるいは麻酔をかけます。猛獣以外 はできるだけ動物に負担をかけないように直におさえつけます。袋に入れてしまって袋ごとおさえたり、抱え込んで 床に倒し、手足をやわらかい縄で縛ったり、お手軽なやり方では部屋の隅に追い込んでデッキブラシ 1 本で押さえつ けちゃう、なんていうこともあります。ベテランの飼育係になるとオスの大きなニホンザルでもデッキブラシでおさ えておいて、サルの両手(両前足)を背中にまわして片手でつかんでしまい、そうするともうサルは身動きできないので す。 飼育係がおさえておいて獣医が診察するというパターンがあるのですが、飼育係としてはいかに素早く、動物にけ がをさせずにおさえるかということに、ひとつ腕の見せどころがあります。素手でやるのが怖くて皮手袋をはめたり すれば、「ふん、素人だな。それじゃ動物の動きが分からなくて、怪我させるべ」 、と言われちゃったりします(私が実 際に言われました)。 さて、そのフクロウの治療です。まずは獣医がケージの中にいたフクロウをその辺にあるものでさっとおさえ、両 翼の付け根をつかんで「ほれ、もってろ」と私に渡そうとしました。フクロウを持っている獣医の手を包むようにし て慎重に左手でフクロウを受け取り、右手でフクロウの 足をおさえようとしたとき・・・、なんと逆に私の右手を フクロウの足でつかまれてしまいました。 フクロウがノネズミ等の獲物をとらえる時、空中から 音もなく飛びかかり、足でいったんつかんでしまえば、 どんなに獲物が暴れてもその鋭い爪と握力で決してはなす ことはありません。 フクロウは私の手もはなしませんでした。 「痛って~」と いうと、獣医はここぞとばかり「な~にやってんだよ、バカたれ、しっかりしろよ」とボロクソになじります。私の 右手はなんだか白っぽくなってきて、爪が食い込んだ所からはたら~っと血がにじんできました。生憎私は両手がふ さがってしまっていたのでどうすることもできず、不本意ながら獣医に頼みました。 「痛いです。とってください」 獣医は「しょうがね~な」とまだぶつぶついいながら、私を気遣ってではなく、フクロウの指を怪我させないよう に気遣いながら、1 本 1 本慎重にはなしてくれました。 そして最後の 1 本のフクロウの指がやっとはなれたと思った瞬間・・・、何を思ったかフクロウくん、その フリーになった足で、今度は・・・・獣医の手をきつくつかみました。 ・・・・私は何も言えませんでした。
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