DNKリサーチ発 「パナソニック、プラズマテレビからの撤退」

#1327、2013年11月3日
今週の話題
パナソニック、プラズマテレビからの撤退
先日、パナソニックがプラズマテレビ事業からの完全撤退を発表しました。
このニュースを複雑な思いで聞いた方も少なくないのでしょうか。嫌みな言い方
をすれば、頭に「ついに」、「やっと」、「いまさら」、「結局は」、というよ
うな修飾語をつけたくなってしまいます。特にパナソニックを信頼して、部品や
材料などの関連資材を開発、納入してきた協力メーカーにしてみれば、梯子をは
ずされた思いでしょう。私の付き合っているある中堅の部材メーカーは、プラズ
マテレビのために新工場まで建設して供給体制を整えていたのですから、その損
害は甚大です。
プラズマディスプレイの歴史は結構古くて、基本的な原理が開発されたのは1
960年代のこととされていますが、しばらくは業務用のモノクロカラーのディ
スプレイとして使われていました。まだ液晶ディスプレイも未熟だったころ、自
発光機構を持ったプラズマディスプレイが電光掲示板として使われていたのを覚
えている方も少なくないでしょう。1990年代も終わり近くになってパイオニ
アがプラズマディスプレイを使ったカラーの薄型テレビを発表し、液晶テレビの
対抗馬として脚光をあびることになります。他にもソニーの有機ELテレビ、東
芝のSEDテレビなどもありましたが、短期間の内に店じまいし、最終的にプラ
ズマと液晶の対決となりました。
将来大型化が進む薄型テレビではプラズマの方が優位であるとして、当初は両
陣営に組みするメーカーの数も互角でしたが、液晶テレビの性能が向上してくる
と、プラズマに見切りをつけるメーカーが続出し、2007年ころには、プラズ
マ陣営はパナソニック一社だけになってしまいました。それでもパナソニックは
強気の姿勢を崩さず、生産能力の拡大とコストダウンのために、尼崎に新たに大
規模工場の建設を始めます。私はこのニュースを聞いた時に、松下電器は血迷っ
たか、と思った記憶があります。一方で、販売力と量産能力に秀でていて、した
たかな松下電器のことだから、何か秘策を持っていてそれなりの勝算があるので
はないか、などとうがった邪推したりしておりました。
残念ながら、私が期待したような松下マジックが出てくることはありませんで
した。千億円単位の投資をした新工場が稼動しても、プラズマテレビの旗色は悪
くなるばかりで、定常的に巨額の赤字を生み出すようになってしまい、最終的に
今回の全面撤退の決断に至ったわけです。それにしても、何故このような時期に、
このような形での撤退になったのか、という疑問が残ります。最終的には経営陣
の責任であるにしても、他社に比べてはるかに優秀なマーケティング部隊や事業
企画部隊を擁するパナソニックが、このような中途半端なタイミングでの決断を
1
したのですから。私のような部外者から見れば、まさに血迷ったあげくの決断と
いわざるをえません。
今回の経緯からは、多くの学ぶべきことがあります。パナソニックがプラズマ
テレビ事業からの撤退を決めたからといって、液晶陣営が勝利したといえるわけ
でもありません。日本における液晶ディスプレイの旗手であるシャープの業績不
振が、それを示しています。要は薄型テレビのような、世界的に市場規模が大き
いものの価格下落が激しい民生電子機器は、大手といえども日本のエレクトロニ
クス企業の手にあまるものになっているのです。もう、ちょっとの思いつき製品
や、他社がやるからウチもやる製品では、先は見えています。今ではさわがなく
なった3Dテレビ、今さわいでいる4kテレビなどは、長期的に見れば小手先の
製品といわざるをえません。では、どうしたら良いのかという問いかけが出てき
そうですが、それを必死に考えて実行するのが経営者の責務というものでしょう。
答えはひとつでもなければ、単純でもありません。
DKNリサーチ
沼倉研史(マネージング・ディレクター)
今週のヘッドライン
2013年11月3日
1.Unitech(台湾の基板メーカー)大手
15億台湾ドルを投資して、高機能の高密度サブストレートとリジッド・フ
レックスの生産能力を増強へ。
2.Samsung Display(韓国ディスプレイメーカー大手)10/24
市場が縮小気味で、供給能力が過剰であるにもかかわらず、中国にテレビ用
液晶パネルの新しい工場を立ち上げへ。
3.AT&S(オーストリアの基板メーカー大手)10/25
中国の Chongqing に新しいICサブストレートの製造工場を建設中。当初の
生産能力は10万平方フィートの計画。
4.Hon Hai(台湾のEMS最大手)10/25
アップル社の iPhone や iPad の各種アクセサリーを、独自ブランドで製造販
売を開始。
5.MIC(台湾の市場調査機関)10/26
世界の3D印刷機の市場は、2012年の21.5億ドルから、2016年
には44.5億ドルに達すると予測、平均成長率は20.4%/年。
6.University of Perugia(イタリア)10/25
2
印刷エレクトロニクスの導体材料のキーになる、グラフェンインクの新しい
印刷技術を確立。
7.Digitimes Research(台湾の市場調査会社)10/28
2013年第3四半期における台湾メーカーデジタルカメラの出荷は500
万台で、前期比12.7%、前年同期比50.4%の減少。
8.Flextronics(シンガポールのEMS大手)10/28
米国シリコンバレーMilpitas 市の SunPower 社のために、ソーラーパネル5
0万枚を製造。
9.Compal(台湾のエレクトロニクスメーカー大手)10/28
ポーランド Wroclaw にある東芝の液晶テレビ組立て工場を2500万ドルで
買収。移管手続きは来年第1四半期中に完了の予定。
10.Digitimes Research(台湾の市場調査会社)10/28
2013年台3四半期における中国メーカーのスマートフォン用タッチスク
リーンの出荷は1億ユニットで、前期比で8.2%の減少。
11.Berg Insight(米国の市場調査会社)10/25
ウェアラブルコンピュータの出荷は、2012年の830万セットから、2
017年には8倍増の6400万セットに急成長すると予測。
12.SK Hynix(韓国の半導体メーカー大手)10/28
先月発生した中国工場の火災事故で、月産13万枚のウェハー処理能力の内、
10万枚の能力が失われる。
13.Conrad(ドイツの基板メーカー)10/25
プリント基板だけでなく、レイアウト、部品の選定や実装など、トータルパ
ッケージのサービスを開始。
14.Digitimes Research(台湾の市場調査会社)10/29
2013年における世界のノートブックPC市場は、前年比で13%の減少
の見込み。2014年にはさらに6.5%の減少を予測。
15.IDC(米国の市場調査会社)10/29
2013年第3四半期における世界の携帯電話の出荷は、前年同期比5.
7%増の4億6790万台。
16.Gartner(米国の市場調査会社)10/29
3
2013年における世界のビデオゲーム市場は930億ドルに達する見込み。
2015年には1110億ドルまで成長すると予測。
17.Digitimes Research(台湾の市場調査会社)10/29
2013年第3四半期における世界のタブレットPCの出荷は、前期比15.
3%増の3568万ユニット。前年同期比では34.6%増。
18.SMTA(米国の実装技術の学術団体)10/29
シリコンバレーの Milpitas 市において、11月12〜13日の予定で医療
用エレクトロニクスに関するシンポジウム。
19.Google(米国のIT企業大手)10/29
ウェアラブルデバイスとして開発を進めている眼鏡タイプディスプレイの試
供品の生産を、11月から1万セットに増強。
20.Coleman Cable(米国のケーブル製造会社)10/30
オーナーが会社を売却の意向。イリノイ州ベースで、電子ワイヤー、
ケーブルを生産。年商約9千万ドル。
21.Engineered Material(米国の電子材料メーカー)10/30
MEMS のウエーハー用に、ネガタイプのドライフィルムタイプフォトレジスト
を商品化。厚さ:5〜25ミクロン。
(注)このヘッドライン・ニュース・レターは速報性を重視するために、若干の
誤訳や数字の変換に誤りがある場合もございます。ご了承下さい。
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