2013・14・15年度 内外経済見通し(PDF/889KB)

2013・14・15年度
内外経済見通し
2014年2月18日
[海外経済]先進国を中心に緩やかに回復
◆米国経済:家計のバランスシート調整が進展し、個人消費・住宅投資は堅
調。雇用も順調に拡大
2014年:+2.6%(12月予測+2.4%)
2015年:+2.7%
◆欧州経済:輸出・設備投資主導で回復が続くものの、南欧諸国の低迷によ
り、成長率は1%台前半にとどまる見通し
2014年:+1.1%(12月予測+0.9%)
2015年:+1.3%
◆アジア経済:緩やかな景気拡大が見込まれるが、過剰投資是正の影響で中
国経済は減速が続く見通し
2014年:+6.1%(12月予測+5.9%)
2015年:+5.9%
[日本経済]二度の消費税率引き上げを乗り越え、景気拡大を維持
◆2014年1∼3月期は駆け込み需要により高成長
2013年度:+2.2%(12月予測+2.5%)
◆消費税率引き上げの影響で一時的に落ち込むが、外需と公的需要が下支え
2014年度:+0.8%(12月予測+0.8%)
◆輸出と民間需要が回復。消費税率引き上げ後も景気後退には至らず
2015年度:+1.6%
チーフエコノミスト:高田
[経済予測チーム]
山本康雄(全体総括)
・米国経済
小野 亮
山崎 亮
・欧州経済
中村正嗣
松本 惇
・アジア経済
宮嶋貴之(総括)
玉井芳野(中国)
・日本経済
徳田秀信(総括)
大和香織(企業)
千野珠衣(家計)
風間春香(財政・物価)
坂中弥生(企業)
齋藤 周(家計)
中村拓真(外需)
・原油
井上 淳
・金融市場総括
武内浩二
創
03-3591-1243
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03-3591-1219
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03-3591-1284
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性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されるこ
ともあります。
今回の見通しのポイント
<海外経済>
○2014 年の世界経済は、先進国を中心に回復力が強まる見通し。世界経済成長
率(みずほ総合研究所が予測対象とする国・地域の加重平均)は+3.5%と
2013 年の+3.0%に比べて高まる見込み。財政面からの下押し圧力が小さく
なり、米国の成長ペースが加速。ユーロ圏も 3 年ぶりのプラス成長。消費税
率引き上げが下押しとなる日本経済も回復を維持。一方、中国・インドを含
むアジア経済の成長率は 2013 年並みにとどまる見通し。先進国からの資金流
入が細り、財政・金融を引き締めている新興国には停滞感が残存。
○2015 年の世界経済は緩やかな景気回復を維持。成長の重心は引き続き先進国
となる見通し。アジア(含む中国・インド)の成長率がやや低下するものの、
先進国の成長ペースが高まり、世界経済成長率は+3.5%を維持すると予測。
○米国の量的金融緩和(QE3)縮小に伴う金融市場の混乱(資金流出による
新興国経済の下振れ)が最大のリスク。中国経済の急減速リスクも残存
<日本経済>
○2014 年度前半は、駆け込み需要の反動と消費税率引き上げに伴う物価上昇
(実質所得減)の影響で、家計部門需要が落ち込む見通し。もっとも、円安
と海外景気回復を背景とした輸出増に支えられ、マイナス成長は 2014 年 4∼
6 月期の 1 四半期にとどまり、その後は回復軌道に戻る見込み。消費増税直
後の落ち込みが響き、2014 年度成長率は+0.8%にとどまると予測。
○2015 年度上期には、2 度目の消費税率引き上げ(予定通り 2015 年 10 月に 10%
に引き上げられると想定)前の駆け込み需要が発生する見込み。下期は輸出
の増加や景気対策(1.5 兆円程度の公共投資追加を想定)が支えとなり、景
気後退は回避。2015 年度の成長率は+1.6%に高まる見通し。
○2014 年度春闘でベアが復活し、その一部が消費者物価にも転嫁される好循環
実現に向けた動きが徐々に広がる見込み。2015 年度は物価のプラス基調が定
着する中で賃上げ率は一層高まると予測。2 年で 2%のインフレ目標達成は困
難であるものの、インフレ率は着実に改善していく見通し。
I.チーフエコノミストの視点
∼2014年は「ネオ・デカップリング」、新興国足踏み・先進国堅調∼
今次見通し、米欧の改善の
昨年初来、みずほ総合研究所はシナリオ転換を行い、そのポイントとなっ
一方、新興国は足踏み
たのは米国のバランスシート調整が終盤に向かったとの認識だった。今回、
2014 年の米国の見通しを更に上方修正し、欧州も 2012、2013 年連続の異例な
マイナス成長から 2014 年は 1%までの回復とした。今年 4 月の消費税率引き
上げに伴う一時的減速が予想されるが、
日本の 2014 年の見通しは前回と同様、
基本的には持続的回復シナリオにある。一方、BRICs諸国を中心とした
新興国経済は 2013 年と比べて減速基調にある。ただし、昨今の新興国経済不
安はあるものの、2014 年の世界経済は欧米経済を中心に改善が続く、新たな
「デカップリング」
、
「ネオ・デカップリング」が 2014 年の基本シナリオだ。
2014 年、米国は昨年までの財政緊縮の足枷がなくなる一方、個人と企業の
バランスシート調整の後退、設備投資や住宅部門の改善から 2%台後半の水準
へと上方修正した。同時に、欧州も上方修正し、2014 年は欧米諸国で財政面
からの下押し圧力がやや緩和することから、世界経済成長率は+3.5%に加速
すると展望している。米欧の改善の結果、日本、中国、NIEs、ASEAN5 を上方
修正した。一方、それまでの内需拡大に伴うマクロバランスの悪化、経常収
支の赤字を抱えるインド、ブラジルは下方修正した。日米欧の先進国は新興
国不安という不確実性を抱えながらも、経済回復、資産価格上昇に向けた金
融政策によるサポートに注目している。
図表 1のように、OECDの景気先行指標でみると、回復は日本、米国と欧
州、新興国で中国とロシアはやや上向きながらもブラジル、インドは下落と
分けられる。この違いはバランスシート調整の重みの度合いや段階によるも
のとも考えられる。すなわち、バランスシート調整に目処がついてきた先進
国、バランスシート調整が新たに生じ始めこれから調整を余儀なくされる主
要新興国というグループである。
図表 1
OECD 景気先行指数
106
102
104
101
102
100
100
99
98
98
96
中国
米国
97
94
ユーロ圏
96
ブラジル
92
インド
90
ロシア
日本
95
88
94
07
08
09
10
11
12
13 (暦年)
(資料)OECD
1
07
08
09
10
11
12
13 (暦年)
新興国問題は経常収支赤
図表 2は世界の経常収支の推移である。新興国経済の不安が生じたのは、
字、その背後に先進国の黒
図表 2に示されるように新興国が経常収支の大幅黒字状態から赤字に転じ、
字化
その結果、経常収支の制約から国内を緊縮気味に運営する必要が生じた面が
大きい。2013 年半ばにかけて新興国でトリプル安になった国々の多くは経常
収支の赤字国、ないしは急に赤字化に向かった国々だった。同様に、今年 1
月後半のアルゼンチン危機以降、新興国不安が再燃したが、その後、通貨防
衛から金利引き上げに追い込まれたインド、トルコ、南アフリカの問題はど
こも経常収支赤字にあった。ISバランス上、経常収支の正常化には内需抑制
が不可欠になるが、政策金利の引き上げは一層、経済減速を強めることにな
る。図表 2で同時に注目すべき点は、先進国が黒字に転じたことにある。米
国を中心とした先進国は 2000 年代の信用拡張、米国サブプライムブームと欧
州のユーロバブルで 2007 年前後をピークに経常収支赤字が拡大した。一方、
米欧のバブル崩壊に伴うバランスシート調整と、その後、財政緊縮を強めた
ことで経常収支赤字は大幅に縮小し、2013 年には黒字に転じるほどの正常化
が進んだ。
図表 2
2.5
世界の経常収支推移
(GDP比%)
米国
先進国(米国を除く)
中東・北アフリカ
他の新興国
先進国計
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
▲0.5
▲1.0
▲1.5
▲2.0
1990
95
2000
05
10
(年)
(資料)IMF よりみずほ総合研究所作成
一時的変動は続くが、米欧
図表 3に示される 2007 年から 2013 年に至る米欧の調整は異例な市場の
の調整が招いた「失われた 7
変動局面、
「失われた 7 年」の期間を意味した。市場の不安度合いのバロメー
年」は終息に
ターであるVIX指数では 20 が一つの目安とされ、2007 年以降、その水準を上
回る状況が継続していたが、昨年以降はその水準に断続的に抵触するに止ま
っている。2014 年 2 月初めの新興国不安にともない、2013 年 6 月、10 月以来、
再び 20 の水準を上回ったが、2012 年までの米欧発の危機で生じた水準とは大
きく異なる。2007 年以降、
「失われた 7 年」であった米欧の信用収縮、
「有事」
の状況にあって、自らのバランスシートを拡大させて世界経済の減速を防止
したのが新興国であったが、その過程でマクロバランスを崩して経常収支赤
2
字に至ってしまった。2007 年以降、
「デカップリング論」が市場で議論され、
先進国の減速のなか、新興国は堅調とされた。一方、2013 年以降の状況は、
米欧が戦後最大のバランスシート調整からの正常化で「平時」に戻る一方、
新興国が減速を余儀なくされる、
「新たなデカップリング」にある。それは同
時に、米国の経済成長が再び本格化し再び経常収支の赤字が拡大し、他方、
新興国が黒字に戻るまでの過渡期的な状況とも言える。2014 年の世界経済は
過渡期的ながらも安定に向かう第一歩と言える。
1月 29 日にFRBがQE3の縮小を続けることを決定したことに対し、イ
ンド中銀総裁のラジャン氏が米国を批判したのは、米国が自らの正常化だけ
を重視して新興国への配慮に欠けるとの、新興国側からの見方と考えられる。
図表 3
VIX 指数推移
失われた7年
90
80
リーマン・ショック
新興国
不安
70
ギリシャ・ショック
60
欧州問題深刻化
(ギリシャ二次支援)
米国債格下げ
50
40
サブプライム・ショック
米量的緩和
縮小観測
米財政の
崖懸念
30
米財政
問題
20
10
07
08
09
10
11
12
13
(暦年)
14
(注)VIX 指数は S&P500 のオプション・インプライド・ボラティリティ指標。
( 資料)Bloomberg よりみずほ総 合研 究所作成
新興国不安下でも米欧の安
定が続くかが試される
今回の見通しにおける注目すべき論点は、新興国が減速に至る中、本当に
先進国が影響を受けずに堅調さを保つことが出来るかにある。そこにリスク
があるとすれば、①新興国の減速で先進国からの輸出等が落ちることによる
実体経済を通じた波及ルート、②先進国が新興国に投資を行っていたことを
通じて金融・証券市場の混乱を通じた逆資産効果をどう評価するかにある。
2013 年以降の先進国中心の回復は日米欧各国の金融緩和による資産市場の上
昇を背景にした期待先行、バブル的な側面を持つだけに、新興国ショック等
のイベントで市場が左右されやすい脆弱さをもっている。今後も断続的に新
興国不安が生じれば、一時的に市場が「リスク・オン」から「リスク・オフ」
に転じ、その結果、先の図表 3に示されたVIX指数が断続的に 20 を越えるよ
うな不安が生じることもあるだろう。ただし、先進国の回復基調のなか、新
興国のなかでも中国のような大国の問題が生じない限り、実体経済にもたら
す影響は限定されるだろう。今後も新興国不安は市場の変動要因となるが、
3
基調として世界経済の回復が続く「新たなデカップリング」を展望している。
三本の矢による脱デフレ
みずほ総合研究所は今年 1 月 23 日に、
「アベノミクス1年間の評価は 70 点」
三段ロケットは第三段目
と題した『緊急リポート』を発表した。1 年前から一貫してみずほ総合研究所
にバトンタッチ出来るか
では図表 4にある「三本の矢」による「脱デフレ三段ロケット」のロードマ
ップを描いてきた。今日、第二段ロケットでは、自律的回復に向けた成長戦
略や民間の活力の活用が課題になる「正念場」であり、同時に、次の今年 4
月以降の、第三段ロケットにバトンタッチが出来るかの重要な岐路にある。
図表 4
「脱デフレ三段ロケット戦略」における第二段ロケット「推進局面」の重要政策課題
《第三段ロケット》
《第二段ロケット》
続く約300日(2014年12月まで)
次の約200日(2014年3月まで)
金融政策
成長戦略
成長戦略
《第一段ロケット》
財政政策
【軌道入り局面】
金融政策
はじめの約200日(参院選まで)
2014年1∼3月期
【発射局面】
財
政
金融
政
成
政
長
戦
略
【推進局面】
第二段ロケットから
第三段ロケットに移れるか、
2014年1∼3月期は
重要なステップ
策
策
現在の位置
2014年1月
(2014年6月に戦略第二弾決定の予定)
「日本再興戦略」を決定
民間投資を喚起する 成長戦略
(成長戦略の先行実施)
● 消費税率引き上げ
(2014年4月)への備え
・・・対策の円滑な展開
(補正予算、来年度予算、税制改正法の
速やかな成立など)
● 2014年度のスタートへの
期待感の再醸成
・・・企業の来年度事業計画策定に影響
機動的な 財政政策
緊急経済対策
● 財政政策から成長戦略への
バトンタッチ
・・・成長戦略の確実な実行
・・・成長戦略の追加策の打ち出し
一体の取り組み
(消費増税対応の経済対策)
物価目標の設定
● 賃上げを巡る春季労使交渉
大胆な 金融政策
異次元金融緩和
・・・好循環形成へのキーポイント
集 中 対 応 の 2 カ 年 ( 7 0 0 日 )
<参院選(13年7月)>
<消費税増税(14年4月)>
( 資料)みずほ総合研究所
2014 年前半は日本経済にと
って正念場
ここで「三段ロケット戦略」の重要なポイントは「三本の矢」のウェイト
の段階的なシフト、すなわち次第に成長戦略にバトンタッチされることにあ
るが、そのなかで足元の 2014 年 1∼3 月期は、日本経済再生に向けた「軌道
入り局面」への準備・助走ステップになる重要な局面である。それは、①財
政政策から成長戦略へのバトンタッチに向けた取り組み、②4 月の消費増税へ
の備え、③企業の来年度の事業計画策定を控えた期待感を醸成させる重要時
期、④賃金を巡る春闘労使交渉、などが幾つも重なる時期である。それだけ
に、この時期にいかに対応するかによってアベノミクスの帰趨が左右される
と考えられる。
ただし、安倍首相の 2013 年 12 月末の靖国神社参拝に伴い海外から右傾化
への不安が生じ、海外投資家からの支持が低下している点には留意が必要だ。
それは、これまでアベノミクスとして経済回復を第一優先、プロビジネスと
してきた姿勢への不安が生じたことを意味している。その前から、国内政治
4
では 2013 年後半にかけ特定秘密保護法が大きな論点になり、本来、成長戦略
が中心に議論されるはずだった国会は特定秘密保護法が中心になってしまっ
たことも、アベノミクスの成長戦略の後退との不安を海外に抱かせた。更に、
アベノミクスの第一の矢である金融政策についても、日銀の追加緩和観測が
後退し、
「日本版テーパリング」で日本も出口に向かうとの不安も生じている。
日本の足元の状況は、第二段ロケットとして、世界的な金融緩和に伴う資
産市場の押し上げと円安によって、経済回復の加速を付け、慎重化した企業
行動を前向きに、すなわち「湿った薪」を乾かし、今年 4 月以降の第三段ロ
ケットに繋げる重要な天王山の状況にある。今後、日銀の追加金融緩和も含
め、もう一段のサポートも必要な段階と考えている。
(チーフエコノミスト 高田 創)
5
Ⅱ.世界経済の現状と展望
回復感がやや強まった 2013
年 10∼12 月期の世界経済
2013 年 10∼12 月期の世界経済は、全体としてみると 7∼9 月期からやや回
復感が強まった。
米国の 10∼12 月期の実質GDP成長率は、前期比年率+3.2%(7∼9 月期
同+4.1%)と 3%を上回る成長を維持した(図表 5)
。連邦政府機関が一部閉
鎖された影響もあって政府支出は減少したものの、個人消費や輸出の伸びが
高まった。
ユーロ圏の 10∼12 月期の実質GDP成長率は、前期比年率+1.1%(7∼9
月期同+0.5%)と 3 四半期連続のプラス成長となった。ドイツが年率 1%台
半ばの成長を保ったほか、フランスも 2 四半期ぶりのプラス成長となった。
南欧諸国ではスペインの成長率が前期から高まり、イタリアは小幅ながらも
10 四半期ぶりのプラス成長となった。
一方、中国の 10∼12 月期の実質GDP成長率は前年比+7.7%(7∼9 月期
同+7.8%)とやや減速した。個人消費や輸出の伸びは前期から高まったが、
固定資産投資の伸びが鈍化したことが減速の要因となった。
中国以外のアジアでは、シンガポールがマイナス成長となったものの、台湾
やマレーシア・フィリピン・インドネシア・ベトナムは成長ペースが加速した。
韓国も年率 4%弱の成長を維持するなど、アジア全体としてはやや回復感が強
まったと評価できる。
一方、10∼12 月期の日本の実質GDPは、輸入の大幅増が続いたことなどか
ら、前期比年率+1.0%(7∼9 月期同+1.1%)と伸び悩んだ。
図表5
主要国・地域の実質GDP成長率
(前期比年率、%)
2012年
1∼3月
米国
2013年
4∼6月
7∼9月
10∼12月
1∼3月
4∼6月
7∼9月
10∼12月
3.7
1.2
2.8
0.1
1.1
2.5
4.1
3.2
▲ 0.3
▲ 1.1
▲ 0.7
▲ 2.1
▲ 0.8
1.2
0.5
1.1
日本
3.7
▲ 1.7
▲ 3.1
▲ 0.2
4.8
3.9
1.1
1.0
韓国
3.3
1.2
0.2
1.1
3.4
4.5
4.3
3.7
台湾
7.4
▲ 0.5
4.3
5.2
▲ 2.4
3.1
1.1
10.1
香港
1.0
▲ 0.4
4.3
5.7
0.9
2.8
2.1
シンガポール
7.8
0.1
▲ 4.6
3.3
2.2
17.1
2.2
▲ 2.7
2.4
ユーロ圏
タイ
50.7
12.8
6.5
12.1
▲ 8.2
2.3
5.8
マレーシア
7.3
5.1
4.0
9.2
▲ 1.1
5.8
7.0
8.6
フィリピン
9.4
5.4
8.0
7.0
9.4
6.2
5.2
6.1
オーストラリア
4.9
1.7
2.8
2.0
2.1
2.9
2.3
ブラジル
0.6
0.8
2.3
3.8
▲ 0.0
7.2
▲ 1.9
中国
7.9
7.6
7.4
7.9
7.7
7.5
7.8
7.7
インドネシア
6.3
6.4
6.2
6.1
6.1
5.8
5.6
5.7
6.0
(前年比、%)
ベトナム
4.6
4.8
5.1
5.4
4.8
5.0
5.5
インド
5.1
5.4
5.2
4.7
4.8
4.4
4.8
ロシア
4.8
4.3
3.0
2.1
1.6
1.2
1.2
(資料)Datastream、CEIC、各国統計
6
世界経済は先進国を中心に
2014 年の世界経済成長率(みずほ総合研究所が予測対象としている国・地
回復
域の加重平均値)は+3.5%と 2013 年の+3.0%に比べて高まる見通しである
(図表 6)
。財政面からの下押しが弱まり、民間需要の拡大が見込まれる米国
の成長率は、2%台後半に高まると予測される。同じく財政引き締めの影響が
薄れるユーロ圏は 3 年ぶりのプラス成長となろう。一方、新興国はある程度の
成長を維持するものの、中国・インドが緩やかに減速するなど、新興国全体と
しての成長率は 2013 年並みにとどまる見通しである。2015 年も引き続き先進
国中心の回復となり、新興国経済はやや伸び悩む展開が続きそうだ。2015 年
の世界経済も、欧米経済にけん引される形で+3.5%の成長を維持する見通し
である。
米国の 2014 年の実質GDP成長率は+2.6%と予測している。2013 年末か
ら 2014 年初にかけての経済指標は弱含んだが、大寒波の影響による一時的な
ものとみられる。政府支出の削減幅が縮小する中、個人消費・住宅投資・設備
投資が順調に拡大するであろう。2015 年も民間最終需要の堅調が続き、実質
GDP成長率は+2.7%と 2%台後半の成長を維持する見通しである。
ユーロ圏の2014 年の実質GDP成長率は+1.1%と3 年ぶりのプラス成長が
見込まれる。ドイツ等北部諸国の堅調が続く中、南欧諸国の経済活動も足元で
底入れしている。2013 年前半に進行したユーロ高が一服したことも、今後は
輸出の追い風となるだろう。官民のバランスシート調整圧力を抱える南欧諸国
の回復力は引き続き弱いため、ユーロ圏全体でみると大きく成長率が高まるこ
とは期待しがたい。それでも、2015 年の成長率は+1.3%と 2 年連続のプラス
成長を維持するであろう。
図表 6
世界経済予測総括表
(前年比、%)
暦年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
(予測)
(前年比、%)
2013年
2014年
(12月予測)
予測対象地域計
3.9
3.2
3.0
3.5
3.5
2.9
3.3
日米ユーロ圏
1.4
1.4
1.1
1.9
2.0
0.9
1.7
米国
1.8
2.8
1.9
2.6
2.7
1.7
2.4
ユーロ圏
1.6
▲ 0.6
▲ 0.4
1.1
1.3
▲ 0.4
0.9
▲ 0.5
1.4
1.6
1.4
1.4
1.7
1.4
アジア
7.5
6.1
6.0
6.1
5.9
6.0
5.9
NIEs
4.1
1.7
2.7
3.3
3.3
2.5
2.9
ASEAN5
4.5
6.2
5.2
5.1
5.0
5.0
4.9
中国
9.3
7.7
7.7
7.5
7.3
7.6
7.3
インド
7.5
5.1
4.7
4.6
4.6
4.7
4.7
オーストラリア
2.6
3.6
2.4
2.9
2.8
2.4
2.8
ブラジル
2.7
1.0
2.2
1.6
1.8
2.3
2.0
ロシア
4.3
3.4
1.3
2.2
2.8
1.5
2.5
日本(年度)
0.3
0.6
2.2
0.8
1.6
2.5
0.8
95
94
98
95
92
98
96
日本
原油価格(WTI,$/bbl)
(注)予測対象地域計はIMFによる2012年GDPシェア(PPP)により計算。
(資料)IMF, みずほ総合研究所
7
伸び悩みが予想される新興
国経済
中国の実質GDP成長率は 2014 年+7.5%、2015 年+7.3%と緩やかな減速
が続く見通しである。中国政府は投資依存からの脱却に向けた政策運営を継続
するとみられる。投資減速に伴う生産の鈍化は家計所得の伸び低下につなが
り、個人消費の拡大ペースも鈍るであろう。こうした状況下で、いわゆるシャ
ドーバンキング問題に対する懸念がくすぶり続けそうだ。
インド経済は、通貨安の影響でインフレ懸念が根強く残り、緊縮的な財政・
金融政策を強いられている。2014 年春に予定されている総選挙後も安定政権
が成立する可能性は低く、経済改革が大きく進展することは見込みにくい。実
質GDP成長率は 2014 年+4.6%、2015 年+4.6%と 2013 年の+4.7%(みず
ほ総合研究所見込み)から 3 年連続で 4%台にとどまるであろう。
中国・インド以外のアジア経済は、概ね 2014・2015 年とも緩やかな景気拡
大を維持する見通しである。NIEs(韓国・香港・台湾・シンガポール)は、欧
米の成長ペース加速が輸出回復の要因となり、
2014 年+3.3%、
2015 年+3.3%
と 3%台の成長を維持するであろう。国内需要の堅調が見込まれる ASEAN5(タ
イ・マレーシア・インドネシア・フィリピン・ベトナム)の実質GDP成長率
は 2014 年+5.1%、2015 年+5.0%と 5%近傍の成長を保つ見通しである。た
だし、通貨ルピアが下落した影響でインフレが進行したインドネシアでは、引
き締め気味の金融政策運営により成長率が低下するであろう。また、政治混乱
が続くタイでは、国内需要への悪影響が懸念されるほか、通貨バーツに対する
下落圧力が強まるリスクもある。
オーストラリア経済は、2014 年に財政面からの下押し圧力が緩むほか、2013
年以降の豪ドル安や先進国の景気回復を背景とした輸出・設備投資の持ち直し
が見込まれる。2014 年の実質GDP成長率は+2.9%と 2013 年の+2.4%(み
ずほ総合研究所見込み)から高まるであろう。2015 年も+2.8%と+3%弱の
成長を維持する見通しである。
ブラジル経済は、2013 年 7∼9 月期のマイナス成長からはやや持ち直してい
る。しかし、アルゼンチン経済との関係が深いこともあり、通貨レアルが下落
しやすい状況が続いている。インフレ懸念の沈静化や格下げリスク回避のた
め、引き締め気味の財政・金融政策を余儀なくされ、実質GDP成長率は 2014
年+1.6%、2015 年は+1.8%と低成長が続く見通しである。
ロシア経済は、原油価格の低下を背景に、投資を中心に当面の景気回復ペー
スは緩慢であると予想される。2013 年中に期待されたロシア中銀による利下
げも、インフレ率の高止まりを理由に見送られた。2014 年の実質GDP成長
率は+2.2%と 2013 年の+1.3%からはやや高まるものの、低めの成長にとど
まるであろう。2015 年については、原油価格低下が下押しとなるが、欧州向
けの輸出回復とそれを起点とした企業収益・設備投資の持ち直しにより、成長
率は+2.8%に若干高まると予測している。
日本経済は二度の消費税率引き上げが個人消費や住宅投資を抑制するもの
の、円安と欧米を中心とした海外経済の回復を背景とした輸出増が下支えとな
る。設備投資の回復も続き、成長率(暦年ベース)は 2014 年+1.4%、2015
年+1.4%と緩やかな景気拡大を維持する見通しである。
8
米QE3縮小と金融市場・新
興国経済への影響が焦点
昨年 12 月に米FRB(連邦準備制度理事会)がQE3(量的緩和第 3 弾)
の縮小を決めた直後の金融市場は、5 月に新興国市場からの資金流出が懸念さ
れた時とは異なり、落ち着いた反応を示した。FRBが「インフレ率が 2%を
下回ると予想される間はゼロ金利を続ける」ことを表明し、低金利政策が長期
間にわたって続くことに対する安心感が広がったためである。
ところが、2014 年に入ってからアルゼンチン・トルコなど新興国経済の先
行きに対する懸念が浮上し、一部の新興国で通貨・株価が下落した。投資家の
リスク回避姿勢が強まる中、米国をはじめとする先進国でも株価の調整色が強
まった。米国の経済指標が寒波の影響で弱含んだことも重なり、金融市場では
世界経済の先行きに対する不安が台頭した。
昨年 5 月はFRBの金融政策転換が金融市場に唐突感をもって受け止めら
れ米国の長期金利が上昇、多くの新興国が株安・通貨安・債券安のトリプル安
に見舞われた。しかし、今回「売り」の対象となった新興国は経常収支悪化や
インフレが懸念される一部の国であり、選別が強まっているのが特徴だ。米国
がQE3縮小を進める過程で、これまで潤沢に供給されてきたマネーが徐々に
縮小することは避けられず、
「新興国バブル」が終わりつつあるのは間違いな
い。一部の新興国は、金融・財政の引き締めによる調整を迫られることになろ
う。新興国経済の先行きに対する不安がくすぶる中、FRBがQE3の縮小ペ
ースを緩める場面があるかもしれない。
中南米危機が発生した 1980 年代、アジア通貨危機が発生した 1990 年代後半
と比較すると、BRICs に代表される主要新興国の外貨準備高は厚く、新興国全
体からの大規模な資金流出や通貨危機が起こるリスクは小さい。しかし、一部
の国が通貨危機に陥って金融市場の不安が強まることは起こりうる。米QE3
縮小の行方と新興国経済への影響が、当面の世界経済にとって最大のリスクで
あることは間違いない。
中国のシャドーバンキング
問題も引き続き懸念材料
中国のいわゆる「シャドーバンキング」も、引き続き注視を要する問題であ
る。今年 1 月には、月末に満期を迎える理財商品の元利金が償還不能に陥る可
能性が報じられた。今回のデフォルトは回避される形になったが、中国経済が
過剰投資と表裏一体である金融システムの問題を抱えている状況に変わりは
ない。中国政府はデフォルトを回避しつつ、シャドーバンキング拡大を抑制す
るという難しい政策の舵取りを迫られており、問題解決には長期間を要しそう
だ。いずれかの時点で、シャドーバンキングに依存した資金調達を通じて過剰
投資を続けてきたセクターの信用リスクが顕在化すれば、理財商品の損失発生
や不良債権の増加など金融面での混乱が生じうる。さらに、それが設備投資や
個人消費などに悪影響を及ぼし、中国経済が急激に減速するリスクもある。中
国経済の失速はグローバル企業の業績悪化要因となるため、世界的な株安を招
く可能性があろう。
その場合、
中国との貿易関係が緊密なアジア諸国を中心に、
実体経済に悪影響が及ぶことが想定される。
以上のように 2014∼2015 年にかけては、米国・中国という二大国の政策と
それが世界の実体経済・金融市場に与える影響を注視していく必要があるだろ
う。
9
図表 7
2014年2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
2014年中の政治・経済日程
G20財務相・中央銀行総裁会議(豪・シドニー)(22・23日)
(中)全国人民代表大会(5日)
(欧)ECB政策理事会(6日)
(日)金融政策決定会合(10・11日)
(米)FOMC(18・19日)
(欧)EU首脳会議(20・21日)
(日)消費税率引き上げ(5→8%、1日)
(欧)ECB政策理事会(3日)
(日)金融政策決定会合(7・8日)
インドネシア総選挙(9日)
G20財務相・中央銀行総裁会議(米・ワシントン)(11日)
(米)FOMC(29・30日)
(日)金融政策決定会合(展望レポート)(30日)
南アフリカ大統領・下院選挙(月内)
(欧)ECB政策理事会(8日)
(欧)EU首脳会議(15・16日)
(日)金融政策決定会合(20・21日)
(欧)欧州議会選挙(22∼25日)
インド総選挙(∼5月)
G8首脳会議(ロシア・ソチ)(4日)
(欧)ECB政策理事会(5日)
(日)金融政策決定会合(12・13日)
サッカーブラジルワールドカップ(ブラジル)(12日∼7月13日)
(米)FOMC(17・18日)
(欧)EU首脳会議(26・27日)
(日)新成長戦略(6月?)
エジプト大統領選挙(6∼7月)
(欧)ECB政策理事会(3日)
インドネシア大統領選挙(9日)
(日)金融政策決定会合(14・15日)
(米)FOMC(29・30日)
(米)FRB議長半期議会証言(月内)
(欧)ECB政策理事会(7日)
(日)金融政策決定会合(7・8日)
(日)金融政策決定会合(3・4日)
(欧)ECB政策理事会(4日)
(米)FOMC(16・17日)
(欧)スコットランド独立住民投票(18日)
G20首脳会議(豪・ケアンズ)(20・21日)
(欧)フランス上院選挙(月内)
(欧)ECB政策理事会(2日)
(日)金融政策決定会合(6・7日)
G20財務相・中央銀行総裁会議(米・ワシントン)(10日)
(米)FOMC(28・29日)
(日)金融政策決定会合(展望レポート)(31日)
APEC首脳会議(中国・北京)(中旬)
ブラジル大統領選(月内)
(米)中間選挙(4日)
(欧)ECB、銀行監督一元化(4日)
(欧)ECB政策理事会(6日)
G20首脳会合(豪・ブリスベン)(15・16日)
(日)金融政策決定会合(18・19日)
(欧)ECB政策理事会(4日)
(米)FOMC(16・17日)
(日)金融政策決定会合(18・19日)
(中)中央経済工作会議(月内)
(資料)みずほ総合研究所作成
10
Ⅲ.海外経済
(1) 米国経済
2013 年 10∼12 月期実質GD
米国の 10∼12 月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.2%(7∼9 月期同
Pは堅調な伸び
+4.1%)と、10 月の連邦政府機関の一部閉鎖や連邦政府債務上限引き上げを
巡る政治混乱があった中でも堅調さを維持した(図表 8、図表 9)
。内訳で
は個人消費の寄与が大きいほか、輸出、設備投資、在庫投資が拡大した。
需要項目毎に詳しく推移を確認しよう。
個人消費は 11 月に大きく拡
まず、個人消費は同+3.3%(7∼9 月期同+2.0%)と前期から大きく拡大
大
した。ユダヤ教徒にとっての大きな祭事であるハヌカーの開始日が例年になく
早かったために祭事前の消費が前倒しされたこともあって、年末商戦の滑り出
しに当る11 月の消費は良好であった。
更に11 月以降今冬は寒冷な天候が続き、
暖房需要によるエネルギー消費も大きかった。
輸出も大幅増。中国向けの大
次に寄与が大きかったのは外需である。輸出入が揃って増加したが、特に輸
豆やとうもろこし輸出が押
出が同+11.4%と大幅に増加した。内訳を見ると財輸出、特に食品・飼料・飲
し上げた模様
料と産業用資材に属する非耐久財が大きく増加している。前者は中国向けの大
豆やとうもろこしの輸出によるものであろう。こうした伸びはおそらく一時的
なもので、今後の拡大ペースは幾分緩やかなものになる見込みだ。
設備投資は緩やかに拡大。し
設備投資は同+3.8%と緩やかに拡大したが、内訳をみると全体的な持ち直
かし、多くの業種は未だ停滞
しには至ってないといえる。機械関連投資が増加をけん引したが、航空機関連
と農業関連機械が増加の主因で、多くの業種では停滞が続いている。建設投資
も電力施設関連を初めとして冴えない。無形資産投資(ソフトウェア、研究開
発、エンターテイメント等)は緩やかな拡大となった。
在庫投資は更に積み増しテ
在庫投資は既に 7∼9 月期の時点で在庫積み増しテンポが大きく上昇してお
ンポが加速。1∼3 月期にスピ
り、10∼12 月期には更なる加速が見られた。しかし、ISM製造業在庫指数
ード調整が発生する見込み
など在庫の動向を示す経済指標は 2013 年終盤から 2014 年初に急減しており、
2014 年 1∼3 月期にはスピード調整が発生することを見込んでいる。
図表 8
実質GDP成長率
図表 9
実質GDP成長率の需要項目別寄与度
(前期比年率、%)
8
個人消費
設備投資
純輸出
実質GDP
4.9
6
4
3.2
1.4
住宅投資
在庫調整
政府支出
4.1
3.7
3.2
0.1
2.8
1.2
1.1
2.5
2 ▲1.3
0
▲2
▲4
1∼3 4∼6 7∼9 10∼12 1∼3 4∼6 7∼9 10∼12 1∼3 4∼6 7∼9 10∼12
2011
2012
実質GDP
個人消費
住宅投資
設備投資
在庫投資
純輸出
輸出
輸入
政府支出
国内最終需要
GDPデフレーター
前期比年率%
寄与度%
2013年
2013年
2013年
2013年
7∼9月期 10∼12月期 7∼9月期 10∼12月期
4.1
3.2
2.0
3.3
1.4
2.3
10.3
▲ 9.8
0.3
▲ 0.3
4.8
3.8
0.6
0.5
(115.7)
(127.2)
1.7
0.4
(▲ 419.8) (▲ 370.1)
0.1
1.3
3.9
11.4
0.5
1.5
2.4
0.9
▲ 0.4
▲ 0.2
0.4
▲ 4.9
0.1
▲ 0.9
2.3
1.4
2.3
1.5
2.0
1.3
-
(注)季節調整値。在庫投資、純輸出の括弧内の値は水準(年率、10億ドル)。
2013
(年)
国内最終需要はGDP−輸出+輸入−在庫投資。
(注)図中の数字は実質GDP成長率の値を示す。
国内最終需要の寄与度はみずほ総合研究所計算。
(資料)米国商務省
(資料)米国商務省、みずほ総合研究所
11
住宅投資は減少。住宅の販売
一方、減少に転じたのは住宅投資と政府支出だ。これまで 5 四半期連続で前
手数料や改装・改築費用が減
期比年率 10%を超える伸びを見せてきた住宅投資は、10∼12 月期に同▲9.8%
少し、住宅建設の伸びも小幅
と減少した。内訳を見ると、特に直近 2 四半期の住宅投資を支えていた住宅の
販売手数料や改装・改築費用が減少した。また、住宅建設の伸びも小幅に留ま
った。月次指標を見ても住宅販売、着工とも夏場に落ち込み、その後持ち直し
が見えかけた 12 月には寒波の下押しが出るなど奮わない動きが続いている。
政府支出には緊縮財政と連
邦政府機関一部閉鎖の影響
政府支出は州・地方政府支出が小幅に増加する一方で連邦政府支出が減少
し、全体で同▲4.9%の減少となった。連邦政府支出は国防支出、非国防支出
共に減少し、緊縮財政と一部政府機関閉鎖による影響が表れた格好だ。
本格的拡大の槌音が聞こえ
10∼12 月期に良好な拡大を示した米国経済は、足元寒波による下押しが見
る米国経済。2014 年の実質G
られるが、あくまでも天候要因による一時的な動きであろう。経済のファンダ
DP成長率を上方修正
メンタルズからは本格的拡大の槌音が聞こえてきており、みずほ総合研究所は
今回の見通しで 2014 年の実質GDP成長率見通しを前年比+2.6%と 0.2%Pt
上方修正した。また、2015 年の成長率は同+2.7%と堅調な拡大が続くと予測
している(図表 10)
。四半期で見れば、上述の在庫投資のスピード調整の影響
などで 2014 年 1∼3 月期に減速するものの、徐々に回復テンポを高めていくと
予測している。以下、今回の見通しの 3 つのポイントを解説しよう。
財政・政治の大きなイベント
ポイントの一つ目は、財政・政治動向だ。みずほ総合研究所は 11 月見通し
は軒並み決着。今後の経済に
にて、財政協議の動向が政府支出の上下両面のリスクであるとの見方を示した
悪影響を及ぼすリスクは小
が、
その後の政治・財政の動きはポジティブサプライズといえるものであった。
2013 年 12 月に成立した財政合意では、歳出強制削減の見直しにより、2014
年度も削減されるはずであった裁量的経費が前年比でほぼ横ばいの水準に増
額された。また、2015 年度末までの歳出上限についても併せて合意が成立し、
昨年 10 月のような連邦政府機関閉鎖リスクはなくなったといえる。更に足元
では、懸念であった連邦政府債務上限問題についても、2015 年 3 月までの上
限適用停止が決定し、経済に大きな影響を及ぼし得る政治イベントは軒並み決
着を迎えることになった。2014 年 11 月には中間選挙が控えており、上院と下
院の多数派が異なる「ねじれ」の状況が続く可能性が十分にある。しかし、既
に大きな財政上の課題が決着している状況下、今後は政治が経済に悪影響を及
ぼすリスクは小さいといえるだろう。
図表 10
1∼3月期
GDP(前期比年率%)
米国経済見通し総括表
2013年(実績)
4∼6月期 7∼9月期 10∼12月期 1∼3月期
2014年(予測)
4∼6月期 7∼9月期 10∼12月期 1∼3月期
2015年(予測)
4∼6月期 7∼9月期 10∼12月期
2013年
(実績)
2014年
(予測)
2015年
(予測)
1.1
2.5
4.1
3.2
1.2
1.9
3.6
3.3
2.0
2.4
3.0
3.0
1.9
2.6
2.7
2.3
1.8
2.0
3.3
1.9
2.5
2.4
2.5
2.5
2.5
2.5
2.5
2.0
2.4
2.5
住宅投資(前期比年率%)
12.5
14.2
10.3
▲9.8
16.0
15.0
15.0
12.0
10.0
10.0
8.0
8.0
12.0
9.4
10.9
設備投資(前期比年率%)
▲4.6
4.7
4.8
3.8
4.8
5.3
6.0
6.3
7.0
7.0
7.0
7.0
2.6
5.0
6.6
0.9
0.4
1.7
0.4
▲1.0
▲0.7
0.7
0.1
▲0.8
▲0.5
0.0
0.0
0.2
▲0.0
▲0.2
個人消費(前期比年率%)
在庫投資(寄与度,前期比年率%Pt)
政府支出(前期比年率%)
▲4.2
▲0.4
0.4
▲4.9
▲1.9
▲2.0
▲2.0
0.1
2.3
2.3
2.3
2.3
▲2.2
▲2.0
1.1
▲422.2
▲424.5
▲419.7
▲370.1
▲364.0
▲352.7
▲344.5
▲335.9
▲348.2
▲360.8
▲373.6
▲386.7
▲409.1
▲349.3
▲367.3
輸出(前期比年率%)
▲1.3
8.0
3.9
11.4
5.3
5.6
5.5
6.0
3.0
3.0
3.0
3.0
2.8
6.5
4.0
輸入(前期比年率%)
0.6
6.9
2.4
1.0
3.5
2.9
3.3
3.7
4.6
4.6
4.6
4.6
1.4
3.0
4.2
3.1
純輸出(年率10億㌦)
0.5
2.1
2.3
1.5
2.0
2.4
2.5
2.9
3.3
3.3
3.3
3.3
1.5
2.1
失業率(%)
国内最終需要(前期比年率%)
7.7
7.5
7.2
7.0
6.7
6.6
6.5
6.4
6.4
6.2
6.2
6.0
7.4
6.5
6.2
非農業部門雇用者数(1カ月当たり,千人)
214
197
180
207
171
194
195
196
196
197
198
199
189
189
196
個人消費支出デフレーター(前年比%)
1.4
1.1
1.1
0.9
0.8
1.1
0.9
1.0
1.0
1.1
1.2
1.2
1.1
0.9
1.1
1.5
1.2
1.2
1.1
1.2
1.4
1.4
1.5
1.5
1.5
1.6
1.6
1.2
1.4
1.5
食品・エネルギーを除くコア(前年比%)
(注)2014年1∼3月期以降はみずほ総合研究所による見通し。
(資料)米国商務省、米国労働省、みずほ総合研究所
12
家計のバランスシート調整
第二のポイントは、家計部門だ。家計部門はこれまで、過剰債務と失業、
は一段と進展。労働市場の回
更に住宅問題という重石に苦しんできた。しかし足元では状況が大きく進展
復もめざましい
し、重石から開放されつつある姿が見られている。
まず過剰債務については、可処分所得対比で見た債務残高比率や債務返済
負担比率が大幅に改善しており、バランスシート調整が一段と進展したことが
示されている。みずほ総研ではこうした平均的な家計の姿だけでなく、低所得
層等の、いわば危機後の回復から取り残されがちな層にも注意を払ってきた。
しかし足元では、そういった層にも回復が浸透している。住宅の価値が住宅ロ
ーン残高を下回り、含み損を抱えていた住宅ローンの件数は 2012 年半ばには
未だ 1,000 万件を超える水準であった。しかし住宅価格の上昇に伴って大幅な
。
改善が見られており、足元では 600 万件程度にまで減少している(図表 11)
労働市場の回復もめざましい。足元では大寒波の影響で減速しているが、
それ以前は概ね前月差 20 万人を超える非農業部門雇用者数の増加が見られて
いる(図表 12)
。また、自発的に離職する労働者が増えていること等からも労
働需給の改善が示唆されており、今後は賃金上昇率も加速していく見通しだ。
住宅市場は循環的拡大局面
に
住宅市場では、足元で寒波による下押しを受けているものの、これまでも
当社が重視していた賃貸需要を軸とした回復が進展している。借り入れをする
必要がない資金力のある投資家が住宅を購入して賃貸に転用することで、賃貸
需要を支える好循環が生まれている模様だ(次頁図表 13)
。空室率や在庫率は
需給のひっ迫を示す推移で、住宅価格は持続的に上昇している。こうした動き
を踏まえると住宅投資は今後、循環的拡大局面に入っていく見込みだ。
みずほ総合研究所は今回、こうした家計部門の見通しを踏まえて 2014 年の
個人消費、住宅投資について上方修正を行った。
経済の本格的拡大の鍵を握
る設備投資
財政・政治の不透明感がほぼなくなり、家計が重石から開放されつつある
米国経済にとって、本格的拡大局面移行に必要な次のステップは企業の設備投
資の復活だ。2007 年の 10∼12 月期から始まる今回の景気後退・回復局面では、
設備投資の落ち込みが大きかった割に持ち直しのペースが鈍く、足元でもよう
やく前回の景気の山の水準を回復したところである(次頁図表 14)
。
図表 11
含み損を抱えた住宅ローン件数
図表 12
非農業部門雇用者数の推移
と住宅価格の推移
(百万件)
(2000/1=100)
13
130
12
135
含み損を抱えた
住宅ローン件数
11
10
(前月差、千人)
400
概ね前月差+20万人を
超える伸び
300
140
145
住宅価格
(右目盛、反転)
9
200
150
8
155
7
160
6
100
0
165
2011
12
2011
13
(資料)CoreLogic
(資料)米国労働省
13
2012
2013
2014
しかし、大企業、中小企業を問わず、企業の設備投資意欲を示す経済指標は
意欲が健在であることを示しており、設備投資の先行指標である米銀の貸出態
度も 2009 年時点と比べて緩和が見られている。更に上述の通り、足元ではこ
れまで足かせであった財政・政治の先行き不透明感がほぼ払拭されており、企
業が設備投資を実施できる状況が整いつつあるとの見方が出来よう。もとより
米国企業はキャッシュが潤沢な状況が続いていたが、これまでは自社株買いや
配当などによって投資家をつなぎ止める傾向が強かった。しかしこれからは長
期的な企業価値向上を目指した設備投資が活発化することを期待したい。
設備投資では、新興国の動揺
の波及がリスク要因。住宅市
もっとも経済の本格的拡大への道筋は決して確定的なものではなく、回復
テンポの鈍化に繋がりかねないリスクには注意が必要だ。
場では、長期金利の再度の急
まず設備投資では、足元の一部新興国の動揺が企業マインドの慎重化に波
騰、供給制約(ボトルネック) 及することがリスク要因だ。イエレンFRB議長は 2 月の議会証言で、現時点
問題、新規制の影響が懸念材
で大きな影響はないとの判断を示しているが、今後の動向に警戒が必要だ。
料
家計部門では、前回見通しでも挙げた住宅市場における、長期金利の再度
の急騰、更に春先の住宅着工件数の重石になったと見られる資材・人材・用地
不足等の供給制約(ボトルネック)問題の再燃に留意したい。また、米国では
2014 年 1 月から住宅ローンに係る新規制が開始されている。QM(Qualified
Mortgage)と呼ばれるこの新規制は、住宅ローンの貸し手である金融機関等に
対し、借り手の返済能力を十分に審査することを求めるもので、住宅ローンの
貸出態度や住宅需要の重石にならないか見極める必要があろう。
イエレン議長は徐々にQE
米国経済が回復テンポを強める中、イエレン議長は量的緩和策(QE3)
3縮小を進める見込み。寒波
を徐々に縮小させていくと考えられる。一方、金利政策では、失業率が閾値で
による下押しがはく落する
ある 6.5%を下回るまで雇用改善が進んだ状況下でもインフレ率は依然低位
春先にガイダンスが綻ぶリ
に留まり、最初の利上げは 2015 年後半になろう。金融政策上のリスクはフォ
スクに警戒
ワード・ガイダンスが綻ぶ懸念だ。経済指標は足元寒波によって軟化している
ものの、こうした天候要因がはく落すれば持ち直してくる見込みだ。2014 年
の FOMC メンバーはタカ派な構成となっており、こうした持ち直しと共にタカ
派の声が高まれば、これまで強調してきた緩和長期化のメッセージが薄れてし
まいかねない。イエレン議長は就任早々、強いリーダーシップと難しい舵取り
を求められることになる。
図表 13
住宅販売件数と住宅ローン残高
住宅は売れているが
住宅ローンは増えていない
⇒ローンを必要としない
投資家が買い手
(年率、千件)
6,000
住宅販売件数
(左軸)
5,500
図表 14
(景気の山=100)
(景気の山=100)
170
160
1948-2007年
150
のレンジ
140
1948-2007年
130
平均
の平均
120
110
2007年
2007Q410∼12月期
100
からの推移
90
(四半期 )
80
0 4 8 12 16 20 24
(10億ドル)
2,200
2,000
5,000
1,800
4,500
1,600
商業銀行の
住宅ローン残高
(右軸)
4,000
3,500
1,400
1,200
2009
2010
2011
2012
景気後退・回復局面の設備投資
2013
(注)商業銀行の住宅ローン残高はグロス。
住宅販売件数は中古と新築の合計。
(資料)米国商務省
(資料)米国商務省、全米不動産協会(NAR)、FRB
14
(2) 欧州経済
10∼12 月期のユーロ圏景気は
前期からやや加速
2013 年10∼12 月期のユーロ圏実質GDP成長率は前期比年率+1.1%(7∼9
月期同+0.5%)となった。国別にみると、ドイツが同+1.5%と前期(同
+1.3%)に続き堅調な成長ペースを維持したほか、スペインは同+1.2%(前
期同+0.5%)と、リーマン・ショック以降で最も高い伸びとなった。また、
フランス(同▲0.2%→同+1.2%)やイタリア(同▲0.1%→同+0.5%)がプラ
ス成長に復した。ユーロ圏全体に景気回復が広がりつつある背景には、金融
不安の緩和に加えて、輸出の回復により設備投資にも持ち直しの動きが出始
めたことがある。
2014 年半ばにかけて、従来の
2014 年に入ってからは景気回復感がやや強まっていることがうかがわれ
想定よりも在庫積み増しテン
る。1 月のユーロ圏合成PMIは 52.9(前月比+0.8Pt)と 2011 年半ば以来の
ポは強くなる見通し
水準まで改善し、特に、製造業の改善が目立っている(図表 15)。輸出の回復
や南欧の景気底入れといった内外需要の先行きに対する期待が高まっている
ことが製造業セクターの堅調さにつながっているのだろう。足元では循環的
に在庫復元に向けた増産局面にあると判断され、2014 年半ばにかけて在庫投
資が景気押し上げに貢献しそうである(図表 16)。また、輸出と生産の回復を
受けて設備投資も景気回復を支えると見込まれる。
2015 年に向けては輸出と設備
2015 年に向けても輸出と設備投資がユーロ圏景気の回復をけん引する見通
投資の回復がユーロ圏景気の
しだ。輸出については内需の堅調さが見込まれる米英向けの拡大によって支
けん引役に
えられるだろう。設備投資については、2011 年後半以降の欧州債務危機の深
刻化によって抑制されてきた反動もあり、徐々に伸びが高まると見込まれる。
ただし、南欧諸国における建
しかし、南欧諸国の固定投資が緩やかな伸びに留まるため、ユーロ圏全体
設投資の弱さや金融の目詰ま
での投資回復のモメンタムはさほど強まらないと考えられる。まず、建設投
りからユーロ圏全体での固定
資については、スペインなど南欧諸国における不動産バブル崩壊後の調整が
投資の回復テンポは緩やかに
相応に進展してきたとは言え、底入れから持ち直しに転じるにはまだ時間が
かかると予想される。また、設備投資についても、過剰感を抱えたままであ
ること、金融の目詰まりが十分に解消していないことが重石となるだろう。
金融システム健全化に向けたユーロ圏全体での取り組みが進展中だが、問題
解決には時間を要しそうである。
図表 15
(Pt)
60
58
56
54
52
50
48
46
44
11/1
合成PMI
ユーロ圏合成PMI
図表 16
4
3
12/1
13/1
製造業
ユーロ圏受注・在庫DIと生産活動
(%)
ユーロ圏鉱工業生産(前期比)
受注・在庫指数(右)
(%Pt)
30
20
2
10
1
0
0
▲
▲1
▲
▲2
▲
在
庫
復
元
10 在
20 庫
圧
30 縮
▲ 40
▲3
99/12 01/12 03/12 05/12 07/12 09/12 11/12 13/12
14/1
サービス業
(注) 受注・在庫指数は欧州委員会の鉱工業サーベイから
算出(新規受注DI-最終品在庫DI)。
(資料) Eurostat、欧州委員会
(資料) Markit
15
2015 年にかけても緊縮路線が
財政政策をみると、2014 年の各国予算案では、昨年と同様、景気への配慮
続けられ、景気下押し圧力は
から緊縮ペースが緩和された。2015 年も同様の傾向が続き、財政面からの限
残存
界的な景気下押し圧力は軽減していくだろう。しかし、ユーロ圏には財政赤
字削減目標があるため、緊縮路線は変わらないと想定される。このため、2015
年も緊縮による下押し圧力が残存し、景気回復テンポは高まりづらいと見込
まれる。また、一部の国では欧州委員会から財政再建ペースの遅さを指摘さ
れており、追加的な緊縮を迫られる国が出てくるかもしれない。
ユーロ圏の景気回復は、2014
以上を踏まえ、2014 年のユーロ圏成長率を+1.1%と予測した(図表 17)。
年・2015 年とも緩やかなテン
年前半の在庫投資を引き上げたものの、緊縮財政や金融の目詰まりが続いて
ポに留まる見通し
いることから低成長に留まるとの従来の見方を維持している(前回見通し:
+0.9%)。2015 年の成長率は+1.3%と予測した。債務危機からの調整途上に
ある中、引き続き内需が冴えず、ユーロ圏景気は本格的な回復には至らない
との見通しである。
金融面を通じた新興国不安の
波及は今後の注意材料
ユーロ圏内外にリスクファクターが残存していることも慎重な見通しを維
持した背景である。まず、新興国不安が輸出と金融の両面に悪影響を及ぼす
恐れがある。特に、ユーロ圏は新興国向け与信規模が大きく、例えば、スペ
インでは中南米向け与信だけでGDP比 10%を超えている。今のところ信用
不安の高まりは見られないが、今後の動向には注意を要する。
南欧諸国では一段とデフレ懸
念が高まる状況
また、南欧のデフレリスクも軽視できない。景気が堅調なドイツではイン
フレ率の上昇が見込まれ、ユーロ圏全体でもエネルギーによる押し上げ効果
から徐々にインフレ率は上向く見通しである。一方、スペイン等では既にゼ
ロ・インフレ状態にある上に、前年比下落に転じた物価品目の割合も上昇傾向
にあるなど、デフレ圧力が高まっている。ユーロ域内での為替調整ができな
い南欧にとって、デフレは競争力向上に貢献する面もあるが、デフレが長引
けば、名目成長率の伸び悩みを通じて債務圧縮の遅れにつながり得る。
ギリシャ情勢は不安要素を抱
加えて、ギリシャ情勢に関しても楽観は時期尚早である。基礎的財政収支
えたままであり、引き続き注
が黒字に転じるなど明るい材料がみられるようになってきた。しかし、支援
視が必要
継続の前提となる構造改革が遅れているため、EU・IMFによるギリシャ
への融資はストップしたままである。また、厳しい経済情勢が続くため、政
局不安がくすぶるという状況も当面は変らないと考えられる。
図表 17
ユーロ圏経済見通し
(単位:%)
2012年
(実績)
実質GDP
▲ 0.6
(期中成長率)
▲ 1.0
民間消費
▲ 1.4
政府消費
▲ 0.5
固定資本形成
▲ 3.9
外需(寄与度)
1.6
輸出
2.7
輸入
▲ 0.8
在庫・誤差脱漏(寄与度) ▲ 0.5
内需
▲ 2.2
消費者物価
2.5
コア・インフレ率
1.5
2013年 2014年 2015年
(予測) (予測) (予測)
▲ 0.4
1.1
1.3
0.5
1.2
1.5
▲ 0.5
0.5
0.6
0.3
0.3
0.2
▲ 3.0
2.1
2.3
0.5
0.1
0.4
1.2
3.4
4.4
0.2
3.4
3.8
▲ 0.1
0.3
0.1
▲ 0.9
1.1
0.9
1.4
0.9
1.2
1.1
0.9
1.1
2012年
下期
▲ 1.1
▲ 0.9
▲ 1.2
▲ 0.6
▲ 4.2
1.0
1.8
▲ 0.5
▲ 0.5
▲ 2.2
2.4
1.5
2013年
2014年
2015年
上期 下期(予) 上期(予) 下期(予) 上期(予) 下期(予)
▲ 0.6
0.9
1.3
1.1
1.3
1.5
▲ 0.9
0.1
1.1
1.2
1.2
1.4
▲ 0.6
0.4
0.5
0.7
0.6
0.8
0.6
0.4
0.3
0.2
0.2
0.3
▲ 4.7
2.0
2.1
2.5
2.2
2.2
0.6 ▲ 0.3
0.3
0.2
0.5
0.5
▲ 0.3
3.6
3.2
3.8
4.5
4.8
▲ 1.7
4.6
2.7
3.6
3.8
4.1
▲ 0.2
0.5
0.3
0.0
0.0
0.1
▲ 1.3
1.2
1.1
0.9
0.8
1.1
1.6
1.1
0.8
0.9
1.2
1.2
1.2
1.0
0.9
1.0
1.1
1.1
(注)年は前年比。半期はGDPが前期比年率、消費者物価が前年比。網掛けは予測値。期中成長率は各年第4四半期の前年比
(半期は前年同期比)。成長率は稼働日数調整後。
(資料)Eurostat、みずほ総合研究所
16
(3)アジア経済
2013 年10∼12 月期の実質G
2013 年 10∼12 月期を振り返ると、総じてみれば、アジアの景気は予想以上
DP成長率は予想を上回る
に堅調に推移した。米国など先進国向けを中心に輸出が上振れたことが主因で
国が多く、景気は総じて堅
ある。実質GDP成長率をみると、輸出依存度の高いマレーシアなど多くの国
調に推移
で成長率は高まった。韓国も、公共投資の息切れから成長率は減速したものの、
輸出を起点とする民需の回復が続くなど、景気の実態は堅調に推移している。
ただし、大幅な経常赤字を抱えていたインドとインドネシア(図表 18)は、
引き続き通貨防衛のための緊縮策(政策金利引き上げや奢侈品等の輸入制限、
エネルギー補助金の見直しなど)を継続したことから、内需は下押しされた。
QE3縮小開始決定による
12 月中旬に、米国のQE3縮小が 2014 年 1 月から開始されることが決定し
アジア市場への影響は限定
た。5 月のQE3縮小早期開始観測の台頭後、インド、インドネシアを中心に
的
アジア市場は動揺して通貨・株・債券のトリプル安となったものの、今回の局
面では、今のところ大きな混乱を見せていない(図表 19)
。アルゼンチンなど
他の新興国市場が動揺する中、アジア市場への影響が限定的である背景には、
まず、インドやインドネシアなど経常収支が悪化していた国の多くで、5 月以
降にマクロ経済安定化を優先して金融・財政政策の引き締めスタンスが強まっ
た結果、悪化に歯止めがかかり、外部金融環境の変化に対する耐性が強化され
たことがある。さらに、2013 年 10∼12 月期に輸出が増加したことで、他の多
くの国でも、経常収支が改善したことなども一因である。
今後も、アジア通貨危機当時のような通貨下落をきっかけとした経済の大き
な混乱がアジア市場で起こる可能性は低いとみている。香港、ベトナムを除く
アジア諸国は、通貨危機の一因であった実質的なドルペッグ制から変動相場制
などの柔軟な為替相場制度に移行しており、前回危機時から外貨準備が積み上
がったことで短期対外債務残高対比でも、外貨繰りの余裕度が大幅に高まった
国が多いからだ。
タイは、政情不安の長期化
ただし、政情不安が長期化しているタイについては、注意が必要だ。2014 年
から不安定化リスクが残る
図表18
2 月初めには、野党・民主党がボイコットする中、総選挙が強行され、与党・
経常収支
2012
10∼12
図表19
2013
1∼3
4∼6
7∼9
中国
1.7
2.5
2.4
1.8
1.7
韓国
5.3
3.5
6.7
6.3
6.8
6.0
台湾
12.7
9.4
11.8
12.1
N.A.
11.7
香港
シンガポール
インドネシア
2.0
2.3
▲ 0.3
▲ 0.7
6.1
N.A.
1.9
14.5
16.0
19.6
19.2
N.A.
19.1
▲ 3.6
▲ 2.7
▲ 4.4
▲ 3.9
▲ 2.0
▲ 3.3
タイ
2.0
0.0
▲ 7.2
▲ 0.9
5.3
▲ 0.6
マレーシア
9.4
3.7
1.1
3.9
6.1
3.8
フィリピン
3.1
5.0
3.8
5.0
N.A.
4.4
ベトナム
3.5
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
黒字
▲ 6.5
▲ 3.6
▲ 4.9
▲ 1.2
N.A.
▲ 3.0
インド
アジア・主要新興国の通貨の変化率
(単位:%)
5月バーナン 12月QE3縮小
キ議長発言後 開始決定後
中国
▲ 0.1
0.1
香港
0.1
▲ 0.0
台湾
0.0
▲ 1.2
韓国
0.9
0.6
シンガポール
0.3
0.8
インドネシア
▲ 3.8
3.5
マレーシア
▲ 4.6
▲ 0.5
タイ
▲ 3.3
1.0
フィリピン
▲ 3.5
▲ 0.3
ベトナム
▲ 1.1
0.0
インド
▲ 6.9
0.1
(単位:GDP比%)
2013
通年
10∼12 (含見込み)
▲ 4.3
▲ 2.7
▲ 3.1
▲ 3.3
N.A.
▲ 3.0
(注)2013年10-12月期および2013年通年の値は貿易統計などを用いて
試算した見込み値が含まれる。
(資料)各国統計、IMFによりみずほ総合研究所作成
(参 考)オーストラリア
17
アルゼンチン
トルコ
南アフリカ
ロシア
ブラジル
▲
▲
▲
▲
▲
3.7
3.4
3.0
2.8
8.5
▲ 18.2
▲ 6.0
▲ 5.7
▲ 6.2
▲ 2.6
(注)値はそれぞれのイベント後、41営業日後の変化率。
(資料)Bloomberg
タイ貢献党が単独過半数を獲得した。民主党による選挙無効の訴えが憲法裁判
所に棄却されたことから、2014 年半ば頃には政権が発足する可能性が高くなっ
た。しかし、これに反発して政権発足後も反政府デモが繰り返される恐れがあ
り、政治的混乱は長期化する見通しである。そうした状況が、資金流出を誘発
して自国通貨下落圧力が高まるリスクがある。その結果、資金流出からタイ経
済が今後、深刻な調整局面を迎える可能性があるという点には引き続き注視が
必要である。
2014∼2015 年以降、アジア
今後を展望すると、2014∼2015 年にかけて、アジアの景気は、総じてみれば
の景気は輸出を起点に緩や
緩やかな拡大傾向が続くと予想する。中国経済が減速傾向で推移する一方、米
かな拡大傾向で推移
国など先進国経済の回復を背景に輸出の増加傾向は維持されよう。輸出関連産
業を起点に、設備投資など民需も緩やかに加速することが見込まれる。なお、
フィリピンの成長率は、2013 年の中間選挙による消費押し上げ効果の剥落か
ら、2014 年以降は 2013 年と比べてやや低下するものの、景気の実態は堅調に
推移すると見込んでいる。
インド、インドネシアの景
気は当面、減速へ
ただし、緊縮スタンスを維持するインド、インドネシアでは内需の下押しが
続くことで、2014∼2015 年にかけて成長率は低下傾向になるとみている。イン
ドでは、1 月にインド準備銀行の諮問委員会がインフレターゲット導入を含む
金融政策の改革を提言したこともあって、金融引き締めスタンスがやや強まる
見通しとなった。こうした背景から、インドの 2014 年成長率見通しは、前回
見通しから小幅の下方修正を行っている。
タイは、政情不安の長期化
から景気は大きく加速せず
タイについては、2014 年前半までは、政情不安による観光業への悪影響など
から、景気は減速するとみている。2014 年半ば頃の新政権発足により、経済的
悪影響もやや縮小して景気は底打ちすると見込むものの、引き続き政情は安定
せず、政策の遅延などにより、景気は大きく加速しないと予測している。
10∼12 月期の中国の実質G
DP成長率は前年同期比
+7.7%と小幅に鈍化する
も、概ね横ばい
中国の 2013 年 10∼12 月期の実質GDP成長率は、前年同期比+7.7%(前
。
期差▲0.1%Pt)と小幅に鈍化したものの、概ね横ばいとなった(次頁図表 20)
成長率鈍化の主因は、固定資産投資の伸び鈍化である。10∼12 月期の固定資
産投資の実質伸び率は前年同期比+17.1%(みずほ総合研究所推計値)と、7
∼9 月期(同+20.3%)に比べて低下した。鉄鋼など生産能力過剰業種の投資
の伸びが鈍化したほか、7∼9 月期に加速した水利・環境、交通などインフラ投
資の伸びが一服した。
一方、10∼12 月期の社会消費品小売総額の実質伸び率は前年同期比+11.7%
と、7∼9 月期(同+11.4%)より小幅に加速した。新機種が発表されたスマー
トフォンなど通信機器の売上が好調だったこと、環境保護のための購入制限の
導入拡大観測を背景に自動車の駆け込み需要が発生したことなどが要因だ。
10∼12 月期の輸出(名目ドル建て、通関ベース)の伸びは前年同期比+7.4%
と、7∼9 月期(同+3.9%)より加速した。輸入の伸びは、同+7.2%と 7∼9
月期(同+8.4%)より若干鈍化した。ただし、貿易統計については輸出水増
しなど虚偽報告の可能性も指摘されており、信憑性に乏しい。
2015 年にかけて緩やかな減
速傾向を辿る見込み
今後の景気を展望すると、2015 年にかけて投資を中心に緩やかな減速傾向を
辿るだろう。今回の見通しでは、10∼12 月期の成長率が前回見通しより上ぶれ
18
たことと、主要輸出先である米国・欧州の見通しの上方修正を反映し、2014 年
の景気見通しを小幅に上方修正したが、今後成長率が緩やかに減速するとのシ
ナリオは前回から維持した。2015 年もその傾向が続くとみている。
資本ストック調整圧力のも
、主に製造業投資や不
その主因は、資本ストック調整圧力のもと(図表 21)
と、主に製造業投資と不動
動産投資の拡大ペースが鈍化すると考えられるためである。製造業は素材産業
産投資の拡大ペースが鈍化
などを中心に生産能力過剰問題に直面しており、その解消には時間を要するこ
する見込み
とから、製造業投資は低調に推移するとみられる。不動産投資については、全
国統一の不動産登記制度の導入など投機的取引に対する監督管理強化が見込
まれるなか、抑制されるだろう。一方、公共投資は、都市インフラ整備、保障
性住宅(低中所得者向け政策支援住宅)建設、省エネ・環境保護関連などの投
資を下支えとして、堅調に推移する見通しだ。ただし、2014 年も昨年と同程度
の財政赤字率(対GDP比)の維持を条件とした財政政策を実施するとみられ
ることから、製造業投資と不動産投資の落ち込みを補うほどの力強さは公共投
資に期待できない。
消費は緩やかな減速にとど
まる見込み
消費については、足元の一時的な押し上げ要因を反映して若干上方修正した
ものの、前回見通し同様、投資の減速に伴う生産の弱含みを背景に、緩やかに
伸びが低下すると見込む。
小売販売額の 3 割弱を占める自動車販売についても、
環境保護のための自動車購入制限が地方都市にも拡大される見込みで、販売の
伸びが徐々に鈍化するだろう。ただし、雇用・所得環境の堅調さが引き続き消
費を下支えし、減速は緩やかなものにとどまる見込みである。第 12 次五カ年
計画期(2011∼2015 年)の政府の新規就業者目標数(年平均 900 万人)確保に
必要な成長率は 6%台後半と推計され、2015 年にかけて成長率が 7%台前半に
鈍化しても雇用に与える影響は限定的とみられる。
輸出は緩やかな回復が続く
輸出については、先進国経済の持ち直しに伴い、緩やかな回復が続くと予測
する。ただし、人民元高や労働力コストの上昇など下押し圧力が引き続き存在
するため、やや力強さに欠ける展開となろう。
シャドーバンキングをめぐ
るリスクに注意
今後、シャドーバンキング(銀行のオンバランスでの貸出以外の資金供給)
をめぐるリスクには注意が必要だ。1 月下旬には、シャドーバンキングの一形
態である理財商品(資産運用商品)のデフォルト懸念が高まった。最終的にデ
図表 20
中国の主要経済指標
図表 21
(前年比、%)
実質GDP(右目盛)
社会消費品小売総額(左目盛)
28
14
固定資産投資(左目盛)
26
輸出(左目盛)
24
12
22
20 9.8 9.5
10
8.9
18
7.9
9.2
7.8
7.6 7.4
7.5
16
8
7.7
7.9
14
7.7
12
6
10
4
8
6
2
4
2
0
0
(年)
11
12
13
(注)社会消費品小売総額は小売物価指数、固定資産投資は
固定資産価格指数で実質化(みずほ総合研究所推計値)。
輸出は名目ドルベース。
(資料)中国国家統計局、海関総署
資本係数
(前年比、%)
3.00
2013年時点における資本ストックのトレンド線からの
かい離幅は、対GDP比16.6%相当
2.50
2.00
1.50
1.00
1992
1996
2000
2004
2008
2012 (年)
(注)実質値。基準値を1952年、除却率を一律5%とし、ベンチマーク・イヤー
法により推計。トレンド線は1992∼2008年。
(資料)中国国家統計局、みずほ総合研究所
19
フォルトは回避されたものの、今回の騒動は氷山の一角にすぎない可能性が高
い。今後、理財商品のデフォルト増加が銀行の不良債権増加や破綻を引き起こ
し、システミックリスクを顕在化させる恐れもある。現在、預金保険制度や銀
行破綻処理メカニズムが整備されていない状況でデフォルトが増加すると、中
国経済全体に悪影響を与えうるため、政府は当面救済措置を実施するとみられ
る。ただし、その姿勢が長引くほど投資家のモラルハザードが誘発され、さら
なる理財商品の拡大や非効率な投資を助長してしまう可能性が高い。こうした
リスクの顕在化を防ぐために、預金保険制度などセーフティーネットの整備を
図るとともに、シャドーバンキングの規律化や、債券など代替的資金調達手段
の整備に向けた取り組みが求められる。
利下げ・預金準備率の引き
下げは見込まず
なお金融政策については、利下げや預金準備率の引き下げは行われず、公開
市場操作を通じた流動性調整が続くとみられる。人民銀行はシャドーバンキン
グの野放図な拡大を抑制するためにも、短期金融市場の流動性を引き締め気味
にし、短期金利を高めに誘導するだろう。
アジア経済は、2014∼15 年
にかけて、緩やかに成長
以上の点を踏まえ、2014 年のアジア各地域の実質GDP成長率は、中国が
+7.5%、NIEsが+3.3%、ASEAN5 が+5.1%、インドが+4.6%、2015 年は、
中国が+7.3%、NIEsが+3.3%、ASEAN5 が+5.0%、インドが+4.6%と予測し
た(図表 22)
。
図表 22
アジア経済見通し
(単位:%)
アジア
中 国
NIEs
韓 国
台 湾
香 港
シンガポール
ASEAN5
インドネシア
タ イ
マレーシア
フィリピン
ベトナム
インド
オーストラリア
2010年
2011年
2012年
(実績)
(実績)
(実績)
2013年
2014年
2015年
(予測) (予測) (予測)
(単位:%)
2013年
2014年
(前回:12月予測)
9.5
10.4
8.4
6.3
10.8
6.8
14.8
7.0
6.2
7.8
7.4
7.6
6.4
9.7
7.5
9.3
4.1
3.7
4.2
4.9
5.2
4.5
6.5
0.1
5.1
3.6
6.2
7.5
6.1
7.7
1.7
2.0
1.5
1.5
1.3
6.2
6.3
6.5
5.6
6.8
5.3
5.1
6.0
7.7
2.7
2.8
2.2
2.8
3.7
5.2
5.8
2.9
4.7
7.2
5.4
4.7
6.1
7.5
3.3
3.4
3.1
3.0
4.0
5.1
5.4
2.7
5.4
6.4
6.0
4.6
5.9
7.3
3.3
3.5
3.0
2.9
3.9
5.0
5.3
3.2
4.6
6.3
5.8
4.6
6.0
7.6
2.5
2.6
1.7
2.8
3.9
5.0
5.7
2.7
4.4
6.8
5.2
4.7
5.9
7.3
2.9
3.0
2.5
2.9
3.8
4.9
5.2
3.5
4.6
5.8
5.6
4.7
2.3
2.6
3.6
2.4
2.9
2.8
2.4
2.8
(注)1.実質GDP成長率(前年比)。
2.平均値はIMFによる2012 年 GDPシェア(購買力平価ベース)により計算。
(資料)各国統計、みずほ総合研究所
20
Ⅳ.日本経済
(1) 10∼12 月期 1 次QEの概要
10∼12 月期の実質GDP成長
2013 年 10∼12 月期の実質GDP成長率(1 次速報)は前期比+0.3%(年
率は、前期比年率+1.0%と低
率+1.0%)と 4 四半期連続のプラス成長となったが、7∼9 月期(前期比
めの伸び
+0.3%)に続き低めの成長にとどまった(図表 23)
。民間需要の伸びは高ま
ったが、景気対策事業の執行一巡などから公的需要が減速したほか、輸入の
大幅な増加を受けて外需が引き続き大幅なマイナス寄与となった。
国内民間需要は前期比+0.8%に加速し、成長を下支えした。駆け込みで着
工(2013 年 9 月末までの建設請負契約には 5%の消費税率が適用)された分
の工事が進捗したことから住宅投資(同+4.2%)の増勢が続いたほか、設備
投資も同+1.3%に伸びが高まった。個人消費も、自動車などで消費増税前の
駆け込み需要が出始めたことから、同+0.5%に加速した。ただし、個人消費
の伸びは自動車の駆け込み需要(個人消費への寄与度は約+0.5%Pt と試算)
でほぼ説明されるため、駆け込み以外の消費は低調だった可能性がある。
公的需要は前期比+0.9%と 7∼9 月期から伸びが鈍化した。社会保障関連
支出増などを背景に政府消費は同+0.5%と高い伸びとなったが、景気対策関
連事業(2013 年 2 月に成立した 2012 年度補正予算分)の執行一巡などから、
公共投資が同+2.3%と 2013 年度上期の高い伸びから減速した。
輸出は前期比+0.4%と 2 四半期ぶりに増加した。自動車関連や一般機械を
中心に夏場の低迷から持ち直したが、東南アジア向けの弱さが続いたことな
どから、伸びは小幅にとどまった。他方、建設需要の増加や駆け込み需要の
顕在化、電力用の燃料輸入の拡大などに伴って輸入の伸びが同+3.5%に一段
と高まったため、外需寄与度は大幅なマイナス(▲0.5%Pt)が続いた。
国内需要デフレーターはプラ
ス幅が拡大
エネルギー価格や食料品、建設資材の価格上昇の影響で、個人消費デフレ
ータや建設関連デフレーターの伸びが高まったため、国内需要デフレーター
(原数値)のプラス幅は前年比+0.5%に拡大した。もっとも、GDPデフレ
ーターは同▲0.4%とマイナスが続いている。
図表 23
GDP成長率の四半期推移
(前期比、%)
2
家計
(消費+住宅)
実質GDP
成長率
公的需要
1
0
▲1
民間設備投資
民間
在庫投資
外需
▲2
Q1
Q2
Q3
Q4
2012
Q1
Q2
Q3
2013
(資料)内閣府「国民経済計算」
21
Q4
(期)
(年)
(2) 2013・14・15 年度の見通し
2014 年 1∼3 月期は駆け込み
2014 年1∼3 月期は、
海外景気の緩やかな回復を背景に輸出の回復が続くが、
需要により加速。2013 年度成
駆け込みの影響から輸入も高水準で推移するため、外需は小幅なプラス寄与
長率は+2.2%
にとどまるだろう。緊急経済対策関連の事業執行が剥落することで、公共投
資は減少に転じると予想される。他方、4 月の消費増税を前に自動車以外でも
駆け込み需要が顕在化することで、個人消費が大幅に増加するとみられる。
業績回復を受けて設備投資も増勢を維持するだろう。
以上のように、1∼3 月期は駆け込み需要の追い風を受ける個人消費を中心
に、成長率が年率+4%台に高まると予測している。その結果、2013 年度の実
質GDP成長率は+2.2%(12 月予測:+2.5%)と、3 年ぶりに 2%を上回る
成長が見込まれる(次頁図表 24)
。
2014 年度の成長率は+0.8%
2014 年度は、消費増税直後の 4∼6 月期に大幅なマイナス成長となるが、経
に低下するが、景気後退は回
済対策で追加された公共事業の執行や外需に支えられることで、7∼9 月期以
避
降の景気は回復軌道に戻ると予測している。
4∼6 月期は、2013 年度補正予算で追加された経済対策関連(
「好循環実現
のための経済対策」
)の事業執行が徐々に本格化することで、公共投資が成長
を下支えするだろう。総額約 5.5 兆円の経済対策のうち、景気刺激の即効性
が高い公共事業には 2 兆円程度が充てられたとみられる。また、増税後の内
需の減少に伴い輸出強化の動きが生じる一方、輸入が減少するとみられるた
め、外需は大幅なプラス寄与が予想される。それでも、駆け込み需要の反動
が生じること、家計の実質所得が目減りすることにより個人消費と住宅投資
が落ち込むため、4∼6 月期は大幅なマイナス成長(前期比年率▲4.5%と予測)
が避けられないだろう。
7∼9 月期以降については、円安・海外景気回復を背景とした輸出増や企業
収益の改善に伴う設備投資の回復に支えられ、景気は緩やかな回復軌道に戻
るだろう。消費税率引き上げによって実質所得が目減りするため実質個人消
費は年間を通じて前年の水準を下回るが、駆け込み需要の反動で落ち込んだ 4
∼6 月期の水準からは徐々に持ち直していくとみられる。
なお、本見通しでは、2/18 時点で再稼動に向けて規制基準への適合性審査
を申請している全 17 基の原発のうち、一部の原発が再稼動されると想定した
。具体的には、2014 年度中は川内原発 1・2 号機(九州電力)
(24 頁図表 25)
が 7∼9 月期、大飯原発 3・4 号機と高浜原発 3・4 号機(関西電力)が 10∼12
月期に再稼動されると想定した。原発再稼動は、輸入抑制を通して実質GD
P成長率を押し上げる方向に働く見込みである(2014 年度の成長率を約
+0.1%Pt 押し上げる計算)
。
以上より、2014 年度の実質GDP成長率は+0.8%(12 月予測:+0.8%)
に伸びが低下すると予測した。
2015 年度の成長率は+1.6%
2015 年度は、10 月に消費税率の 10%への引き上げが予定通り実施されると
に上昇。年度上期が駆け込み
想定した(24 頁図表 26)
。増税の最終判断を行うのは 2014 年末とされるが、
需要により押し上げられる一
本見通しでは 2014 年 7∼9 月期の成長率がプラスに復することを確認した上
22
方、下期に反動減
で増税が決断されるとの前提に立った。したがって、消費増税に伴う駆け込
みと反動が 2015 年度中の成長率の大きな変動要因となるだろう。1997 年度の
増税時や足元(2013 年 10∼12 月期)の動向をもとに試算すると、駆け込みと
反動などにより、2015 年度上期の実質GDP成長率(前期比)は約 0.5%Pt
押し上げられ、下期の成長率(前期比)は約 1.5%Pt下押しされる計算となる。
また、2015 年度も消費増税後の景気後退を防ぐために総額 2 兆円程度の経
済対策が策定され、このうち 1.5 兆円程度が公共事業に充てられると想定し
図表 24
2012
2013
2014
日本経済見通し総括表
2015
年度
2013
7∼9
2014
10∼12
1∼3
4∼6
2015
7∼9
10∼12
1∼3
4∼6
2016
7∼9
10∼12
1∼3
前期比、%
0.6
2.2
0.8
1.6
0.3
0.3
1.2
▲ 1.1
0.8
0.3
0.3
0.7
0.9
▲ 1.0
0.6
前期比年率、%
--
--
--
--
1.1
1.0
4.8
▲ 4.5
3.3
1.4
1.2
2.8
3.7
▲ 3.9
2.4
前期比、%
1.4
2.5
0.2
1.1
0.8
0.8
0.9
▲ 1.6
0.4
0.3
0.3
0.8
0.7
▲ 1.5
0.3
前期比、%
1.4
1.9
▲ 0.2
1.3
0.5
0.8
1.4
▲ 2.4
0.5
0.4
0.4
1.0
0.9
▲ 2.2
0.3
個人消費
前期比、%
1.5
2.4
▲ 1.2
1.1
0.2
0.5
1.9
▲ 3.6
0.6
0.3
0.2
0.8
1.5
▲ 2.9
0.7
住宅投資
前期比、%
5.3
8.2
▲ 5.3
▲ 0.5
3.3
4.2
▲ 1.9
▲ 8.4
0.9
2.5
0.4
6.2
▲ 3.8
▲ 7.3
▲ 6.6
実質GDP
内需
民需
設備投資
前期比、%
0.7
0.7
3.5
2.9
0.2
1.3
1.4
1.0
0.4
0.6
0.7
0.8
1.0
0.3
0.7
在庫投資
前期比寄与度、%Pt
▲ 0.1
▲ 0.3
0.3
▲ 0.1
0.1
0.0
▲ 0.3
0.5
▲ 0.1
0.0
0.1
▲ 0.0
▲ 0.2
0.3
▲ 0.1
前期比、%
1.4
4.4
1.3
0.6
1.6
0.9
▲ 0.5
0.7
0.4
▲ 0.1
▲ 0.2
0.1
0.1
0.7
0.4
前期比、%
1.5
2.1
1.7
1.5
0.2
0.5
0.2
0.5
0.5
0.5
0.4
0.4
0.3
0.3
0.3
0.5
公需
政府消費
前期比、%
1.3
15.6
▲ 1.0
▲ 3.2
7.2
2.3
▲ 3.6
1.6
0.2
▲ 2.6
▲ 3.0
▲ 0.9
▲ 0.8
2.4
前期比寄与度、%Pt
▲ 0.8
▲ 0.4
0.6
0.5
▲ 0.5
▲ 0.5
0.2
0.5
0.4
▲ 0.0
0.0
▲ 0.2
0.2
0.5
0.3
輸出
前期比、%
▲ 1.2
3.5
5.0
5.4
▲ 0.7
0.4
1.2
2.0
1.2
1.4
1.4
1.1
1.1
1.9
1.5
輸入
公共投資
外需
前期比、%
3.7
5.2
1.2
2.5
2.4
3.5
▲ 0.2
▲ 1.0
▲ 1.2
1.3
1.2
1.8
▲ 0.1
▲ 0.9
▲ 0.2
名目GDP
前期比、%
▲ 0.2
2.0
2.4
2.1
0.2
0.4
1.1
0.2
0.9
0.8
0.2
0.4
0.9
0.1
0.6
GDPデフレーター
前年比、%
▲ 0.9
▲ 0.2
1.5
0.4
▲ 0.4
▲ 0.4
0.2
1.1
1.5
1.7
1.8
0.2
0.1
0.6
0.8
前年比、%
▲ 0.8
0.4
1.6
0.7
0.4
0.5
1.0
1.7
1.7
1.4
1.5
0.4
0.4
1.0
1.2
内需デフレーター
(注)網掛けは予測値
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」よりみずほ総合研究所作成
2012
2013
2014
2015
年度
鉱工業生産
前期比、%
▲ 2.9
3.1
2.2
経常利益
前年比、%
8.1
13.5
名目雇用者報酬
前年比、%
0.1
1.2
完全失業率
2013
7∼9
2014
10∼12
1∼3
2015
4∼6
7∼9
2.4
▲ 1.2
▲ 0.4
10∼12
0.7
1∼3
1.0
4∼6
0.9
2016
7∼9
1.5
10∼12
▲ 0.7
1∼3
2.6
1.7
1.8
▲ 0.3
1.2
3.4
20.1
10.7
4.4
▲ 1.3
2.6
2.1
1.9
5.8
2.4
3.8
1.7
1.2
1.3
0.6
1.8
1.1
1.0
1.1
1.4
1.0
1.4
1.3
1.2
1.2
%
4.3
3.9
3.7
3.6
4.0
3.9
3.8
3.7
3.7
3.7
3.6
3.6
3.6
3.6
3.5
新設住宅着工戸数
年率換算、万戸
89.3
98.9
91.3
88.8
99.0
104.1
94.7
89.4
89.6
91.5
95.2
94.0
88.9
85.5
87.1
経常収支
年率換算、兆円
4.4
2.0
5.7
7.6
2.4
▲ 1.2
▲ 1.4
5.7
5.3
6.7
5.6
7.3
5.2
8.9
9.9
国内企業物価
前年比、%
▲ 1.1
2.0
3.9
2.3
2.2
2.5
2.4
4.0
4.0
3.7
3.8
1.1
1.4
3.1
3.4
消費者物価
前年比、%
▲ 0.2
0.8
3.0
1.5
0.7
1.1
1.2
3.1
2.9
2.9
2.9
0.8
0.9
2.1
2.1
消費者物価(除く消費税)
前年比、%
▲ 0.2
0.8
0.9
0.9
0.7
1.1
1.2
1.0
0.8
0.8
0.8
0.8
0.9
0.9
1.0
無担保コール翌日物金利
%
0.06 0∼0.10 0∼0.10 0∼0.10
0.06
0.07
0∼0.10 0∼0.10 0∼0.10 0∼0.10
0∼0.10
新発10年国債利回り
%
0.77
0.64
日経平均株価
円
対ドル為替相場
WTI原油先物最期近物
0.78
0.69
0.85
1.19
9,650 14,400 16,400 17,600
14,139 14,972
0∼0.10 0∼0.10 0∼0.10 0∼0.10
0.64
0.68
0.80
0.90
15,000 15,500 16,300 16,800
1.20
1.25
17,000 17,100 17,300 17,700
1.00
1.10
1.20
18,100
円/ドル
83.0
100.0
106.0
113.0
99.0
101.0
103.0
105.0
106.0
107.0
108.0
110.0
112.0
114.0
115.0
ドル/バレル
92.0
98.0
94.0
91.0
106.0
98.0
96.0
95.0
95.0
93.0
93.0
93.0
92.0
91.0
90.0
(注1)網掛けは予測値。実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
(注2)経常利益は法人企業統計の全規模・全産業ベース(金融・保険、電気業を除く)。
(注3)消費者物価は生鮮食品を除く総合(2010年基準)。消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へ引き上げることを想定(2015年10月は「酒類・外食除く食料」に軽減税率を導入)。
(注4)完全失業率、新設住宅着工戸数、経常収支の四半期は季節調整値。
(注5)金融関連の指標について、無担保コール翌日物金利は期末値、新発10年国債利回りは月末値の期中平均値、その他は期中平均値。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」、経済産業省「鉱工業指数」、財務省「法人企業統計季報」、総務省「労働力調査」、「消費者物価指数」、
国土交通省「建築着工統計調査報告」、日本銀行「国際収支」、「企業物価指数」、「金融経済統計月報」、「外国為替相場」、
日本相互証券㈱「主要レート推移」、日本経済新聞、Bloomberg、よりみずほ総合研究所作成
23
た(経済対策のために 2014 年度補正予算が編成され、予備費や国債費の不用
額、中期財政計画(2014 年度はプライマリーバランスを 4 兆円改善)を達成
する範囲内での国債発行などが財源になると想定)
。追加された公共事業は年
度下期にかけて執行され、2015 年度の実質GDPを 0.3%Pt 程度下支えする
と見込んでいる。さらに 2015 年度の消費増税時には、食料品(酒類・外食を
除く)を対象に軽減税率も導入されると想定している。
以上より、2015 年度は駆け込みにより上期の成長率が押し上げられる一方、
消費増税直後である 10∼12 月期は再び大幅なマイナス成長となる見通しであ
る。もっとも、海外経済の回復を背景とした輸出の増加や設備投資の回復基
調が支えとなり、景気は年度末には持ち直すだろう。その結果、2015 年度の
成長率は+1.6%と予測した。
2015 年度のコアCPI前年比
みずほ総合研究所で試算しているGDPギャップは、2013 年 10∼12 月期時
(消費税の影響除く)は 2%
点で潜在GDP比▲1.8%(約 9.5 兆円の供給超過)となっている(次頁図表
に届かない見通し
27)
。2014 年 1∼3 月期は駆け込み需要による押し上げもあり、GDPギャッ
プのマイナス幅は▲0.5%程度まで縮小する見通しである。しかし、2014 年 4
∼6 月期に再びマイナス幅が拡大した後、2014 年度中はマイナス圏で推移す
るとみられる。2015 年度については、消費増税前の 7∼9 月期には需給が一旦
均衡するが、増税後は再びマイナス圏に転じると予測している。
コアCPI(生鮮食品を除く総合消費者物価指数)の前年比は、2013 年 12
月時点で前年比+1.3%に高まっている。ただし、これは円安・原油高を受け
たガソリン価格の上振れや電気料金値上げなど、エネルギー価格上昇による
ところが大きい。こうした要因によるCPI上昇率の押し上げ効果は徐々に
剥落するだろう(35 頁図表 46参照)
。2014 年 1∼3 月期のコアCPI前年比
は+1.2%と 2013 年 12 月の伸びからわずかに鈍化すると予測している。2013
年度通年では、同+0.8%と 2008 年度以来の上昇が見込まれる。
2014 年度は、円安等による押し上げ効果が剥落するとともに、消費税率引
き上げの影響で内需が一時的に落ち込みGDPギャップのマイナス幅が拡大
するため、年度半ばにかけて物価は上がりにくくなることが予想される。も
っとも、その後は内需が回復基調に復する中で、賃金の改善分を物価に転嫁
図表 25
本見通しにおける原発再稼動の前提
電力会社
3 Q 九州電力
2014
2015
( 万kW )
川内1・2号機
89.0×2
118.0×2
高浜3・4号機
87.0×2
九州電力
玄海3・4号機
118.0×2
四国電力
伊方3号機
89.0
泊3号機
91.2
4 Q 北海道電力
泊1・2号機
合計
本見通しにおける消費税関連の前提
定格出力
大飯3・4号機
4 Q 関西電力
3Q
名称
図表 26
内容
・2014年4月に8%へ引き上げ
消費税率
・2015年10月に10%へ引き上げ
・2015年10月に導入
軽減税率
・対象は「酒類・外食を除く食料」
・2014年度の増税時に5.5兆円の
景気対策
景気対策(公共投資約2兆円)
( 消費増税対策) ・2015年度の増税時に2兆円の
景気対策(公共投資1.5兆円)
57.9×2
(注)本経済見通し作成上の前提。
(資料)みずほ総合研究所
1120
(注)本経済見通し作成上の前提。
(資料)各種報道資料などよりみずほ総合研究所作成
24
する動きが出始めるだろう。消費税率引き上げの影響を除く 2014 年度のコア
CPI前年比は+0.9%(消費税の影響を含むベースでは+3.0%)と、2013
年度の伸びをわずかに上回ると予測している。
2015 年度も消費増税後の内需減少が見込まれるため、インフレ率の上昇は
緩やかなペースにとどまるだろう。2015 年度通年のコアCPI前年比は、消
費税の影響を除くベースで+0.9%(消費税の影響を含むベースでは+1.5%)
と、2014 年度並みの伸びを予測している。
以上のように、インフレ率は徐々に上昇するものの、
「2 年で 2%」という
日銀のインフレ目標は下回る見通しである。目標達成が難しいことが明らか
になった時点で、日銀は量的・質的金融緩和の延長を決定するだろう。
注目される春闘の動向
今後の経済・物価動向を見通す上で、2014 年春闘への注目が集まっている。
連合(日本労働組合総連合会)が 2014 年の運動方針として 1%以上のベース
アップ(賃金水準の全体的な底上げ)を掲げたことを受けて、多くの労働組
合が労使交渉の場で 1%程度のベースアップを要求している。
2014 年春闘においてどの程度のベースアップが実現するかを見通すため
に、ベースアップの要求(率)に対する妥結割合の長期推移をみると、1980
年代から 90 年代初頭のバブル期にかけては 5 割を上回る推移が続いたが、90
年代半ばには 3∼4 割程度となり、金融危機後の 90 年代後半には約 2 割まで
低下している。その後、2000 年代初頭からはベースアップの統一要求自体が
見送られるようになった(次頁図表 28)
。
2014 年の春闘では連合が 5 年ぶりにベースアップの統一要求を掲げるなど
積極的な運動方針を採り、経団連(日本経済団体連合会)もベースアップに
対する容認姿勢を示していることから、妥結割合もある程度持ち直すだろう。
もっとも、消費増税に伴う一時的な需要減退が予想される中では、妥結割合
図表 27
GDPギャップとコアCPI推移と予測
(%)
4
GDPギャップ(潜在GDP比)
コアCPI前年比(消費税除く)
2
見通し
0
▲2
▲4
▲6
▲8
▲ 10
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
(注)コアCPIは生鮮食品を除く総合消費者物価指数。GDPギャップはみずほ総合研究所の推計値。
(資料)内閣府「国民経済計算」、総務省「消費者物価指数」などよりみずほ総合研究所作成
25
14
15
16
(年/四半期)
の大幅な改善までは見込み難い。妥結割合が 90 年代半ば並みの 3∼4 割まで
改善すれば、2014 年の春闘としては成功を収めたといえるであろう。この場
合、1.6∼1.8%程度とされる定昇分も含めると、主要企業の春季賃上げ率(ベ
ースアップと定昇の合計)
は 2%程度になると予想される
(31 頁図表 38参照)
。
2014 年春闘で小幅ながらもベースアップが実施されれば、年度後半から景
気が回復基調に復する中で、賃上げによるコストの増加分を製品・サービス
の販売価格に転嫁する動きが出始めるだろう。また、賃上げ分の販売価格へ
の転嫁の動きが定着すれば、企業にとって賃上げのハードルが徐々に下がる
ため、2015 年の春闘ではベースアップの動きが一段と広がることが予想され
る。みずほ総合研究所では春季賃上げ率(民間主要企業)は 2014 年が 2.01%、
2015 年が 2.30%と予測している。中長期的に景気拡大の動きが持続すれば、
賃上げ率は 2016 年以降も徐々に高まっていくだろう。
図表 28
ベースアップ率(要求、実績)と妥結割合の推移
(%)
9
80.0
8
7
(%)
90
80
68.8
68.6
62.5
6
5
50.0
60.0
62.0 61.5
53.3
50.0
40.0
4
3
ベースアップ率(要求)
ベースアップ率(実績)
妥結割合(右目盛)
56.9
60
50.0
50
40.0
34.3 35.4
30.0
39.4
40
26.7
30
20.0
2
20.0
20
10.0
1
0
70
1.3
10
0
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 (年)
(注)1.要求段階のベースアップ率は、1988年以前は日本労働組合総同盟、1989年以降は日本労働組合総連合会による
統一要求水準(定昇込みの賃上げ率が方針に定められている年は、定昇分を2%としてベア分を計算)。
2.実績のベースアップ率は賃金事情等総合調査ベース(原則労働者数1000人以上の大企業が対象)。
3.妥結割合はベースアップ率(実績)/ベースアップ率(要求)×100。
(資料)厚生労働省・中央労働委員会「賃金事情等総合調査」、各種報道よりみずほ総合研究所作成
26
(3) 外需
10∼12 月期の外需は 2 四半
期連続でマイナス寄与
2013 年 10∼12 月期の実質輸出(GDPベース)は、前期比+0.4%(7∼9
月期同▲0.7%)と 2 四半期ぶりに増加した。輸出数量指数を地域別にみると、
中国向けが自動車を中心に大幅上昇となり全体を押し上げたほか、欧米・ア
ジア(除く中国)向けも小幅ながら上昇した(図表 29)
。一方、実質輸入は、
前期比+3.5%(7∼9 月期同+2.4%)と大幅な増加となった。輸出は小幅な
がら増加に転じたものの、輸入が大幅な増加となったため、実質GDP前期
比に対する外需寄与度は▲0.5%Pt(7∼9 月期同▲0.5%Pt)と 2 四半期連続
でマイナス寄与となった。
鉱物性燃料と駆け込み需要
が足元で輸入を押し上げ
輸入が大幅に増加した理由として、LNG(液化天然ガス)を中心に鉱物性
燃料の輸入が増加したこと、消費増税前の駆け込み需要に対応した輸入増が出
始めていることが挙げられる。2013 年夏の猛暑により電力需要が増加し、L
NG在庫が大きく減少したことで、10 月に輸入が急増した。その後も電力需
要が高止まりしたことから、10∼12 月期を通してLNG輸入は高水準となっ
た。加えて、スマートフォンを含む通信機や電気機器、自動車の輸入も増加し
ており、消費増税前の駆け込み需要に対応した輸入の増加が出始めている模様
である(図表 30)
。
輸入は増加基調が続く
今後の輸入は、内需の好調から増加基調が続くとみられる。2014 年 1∼3
月期は、消費増税前の駆け込み需要向け輸入に加え、LNG在庫の水準もま
だ低いため、高水準の輸入が続くとみられる。2013 年度の実質輸入は、前年
比+5.2%となる見込みである。2014 年度は、駆け込みの反動による内需の減
少が見込まれるほか、夏ごろからは原発の一部が再稼動するとみられ、同
+1.2%と低い伸びにとどまるだろう。2015 年度は内需の回復とともに再び輸
入の伸びが高まり、同+2.5%になると予測している。
輸出の回復ペースは緩慢
欧米を中心とする海外経済の回復に加え、為替レートが円安水準で推移す
ることから、輸出も回復を続けると見込まれる。2014 年度前半は、消費増税
に伴う内需の減少を背景に自動車などの品目で輸出強化の動きが生じ、一時
的に輸出の伸びが高まるだろう。もっとも、リーマン・ショック後の円高局
図表 29
(2010年=100)
115
110
105
100
95
90
85
80
75
70
地域別輸出数量の推移
図表 30
輸入数量の品目別寄与度
(前年比、%)
6
米国
欧州
中国
中国を除くアジア
総合
鉱物性燃料
化学製品
5
一般機械
電気機器
4
輸送用機械
その他
3
前年比
2
1
0
▲1
▲2
▲3
Q4
10
11
12
(注) みずほ総合研究所による季節調整値。
(資料) 財務省「貿易統計」よりみずほ総合研究所作成
13
2011
(年 /四 半期 )
27
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
Q2
2012
(注)各品目のウェイトは2010年の輸入金額により計算。
(資料)財務省「貿易統計」
Q3
Q4
2013 (年/四半期)
面での現地生産シフトや、電気機器を中心とした輸出競争力の低下といった構
造的要因の影響から、その後の輸出増加ペースは緩やかなものとなろう。2013
年度の実質輸出は前年比+3.5%と 3 年ぶりに増加に転じ、その後は 2014 年度
が同+5.0%、2015 年度が同+5.4%と予測している(図表 31)
。
10∼12 月期の経常収支は初
2013 年 10∼12 月期の経常収支(季節調整済み年率換算値、以下同)は 1.2
の赤字
兆円の赤字(7∼9 月期 2.4 兆円の黒字)と、統計として連続性のある 1996 年
以来初めての赤字となった。貿易収支の赤字が拡大(▲11.5 兆円→▲13.5 兆
円)する一方、所得収支の黒字は高水準ながらも前期から減少した(16.5 兆
円→15.9 兆円)
。加えて、サービス収支の赤字も拡大した(▲1.6 兆円→▲2.2
兆円)
。
貿易赤字が徐々に縮小し、
今後の貿易収支は、赤字が縮小するとみられるものの縮小ペースは緩やかな
2014 年度以降の経常黒字は
ものにとどまり、高水準の貿易赤字が続きそうだ。2013 年度の貿易収支(通
増加
関ベース)は▲13.3 兆円と、過去最大の赤字だった 2012 年度(▲8.2 兆円)
からさらに赤字幅が拡大する見通しである。2014 年度は、輸出の伸びが緩や
かながら高まることに加え、消費増税の影響による内需の落ち込みや原発再稼
動が輸入の伸びを抑制し、貿易収支は▲11.0 兆円と赤字幅が縮小するとみら
れる。2015 年度は内需の持ち直しから輸入の伸びが再び高まり、貿易収支は
▲10.4 兆円と 10 兆円規模の大幅赤字が続くだろう。一方所得収支は、対外資
産の大半を占める証券投資の収益率が海外経済の回復を背景に改善すること
などから、2014 年度 17.8 兆円、2015 年度 18.9 兆円と黒字が拡大すると予測
している。
2013 年度の経常黒字は 2.0 兆円と、2012 年度(4.4 兆円)からさら
に減少する見込みである。その後は、貿易赤字の縮小や所得収支の黒
字増加などを背景として、2014 年度は 5.7 兆円、2015 年度は 7.6 兆円に増
。
加すると予測している(図表 32)
図表 31
実質輸出入(GDPベース)の見通し
(前年比、%)
20
実質輸出
実質輸入
15
図表 32
経常収支の見通し
貿易収支
所得収支
経常収支
(兆円)
30
(予測値)
10
20
5
10
0
0
▲ 5
▲ 10
▲ 10
▲ 20
19.2 21.2
24.7
サービス収支
経常移転収支
予測
16.3 16.7
7.6
4.4
12.6
05
06
07
08
09
10
11
12
2.0
13
▲ 15
04
05
06
07
08
09
10
(資料)内閣府等資料よりみずほ総研作成
11
12
13
14 15
(年度)
28
(注)グラフ中の数値は経常収支黒字額。
(資料)日本銀行「国際収支統計」等よりみずほ総合研究所作成
5.7
7.6
14
15
(年度)
(4) 企業部門
鉱工業生産は4 四半期連続の
増産
2013 年 10∼12 月期の鉱工業生産は、前期比+1.8%(7∼9 月期同+1.7%)
と 4 四半期連続の増産となった(図表 33)
。内外需要ともに堅調なはん用・
生産用・業務用機械や、消費増税前の駆け込み需要が顕在化しつつある輸送機
械や電気機械などが増産し、全体を押し上げた。
鉱工業出荷内訳をみると、7∼9 月期に比べて 10∼12 月期は国内需要だけで
なく、輸出も生産を支える姿となっていたことが確認できる。10∼12 月期は
国内向け出荷が前期比+4.2%(7∼9 月期同+0.9%)と加速したことに加え
て、輸出向け出荷が同+3.2%(7∼9 月期同▲1.4%)とプラスに転じた。業
種別には、はん用・生産用・業務用機械や電気機械は国内向け・輸出向けとも
同程度の伸びを示す一方、輸送用機械は輸出向けの同+5.7%に対して、国内
向けが同+10.3%と 2 桁増となった。輸送用機械では駆け込み対応で国内向け
の供給を優先している様子が窺える。
2014 年度、2015 年度とも増
生産の先行きを見通すに当たっては、①消費増税および②輸出動向がポイン
税後の生産調整は2 四半期続
トとなる。①については、2014 年 4 月、2015 年 10 月の各増税前後に駆け込み
く見通し
需要と反動減が生産に大きな波を生じさせることに加えて、その後の実質所得
低下に伴う需要押し下げが生産水準の切り下げ要因となる。製造工業生産予測
調査によれば、2014 年 1 月に前月比+6.1%と大幅に増産した後、2 月も同
+0.3%と高水準の生産が続く見通しであり、足元の駆け込み対応による生産
のピークは 1∼3 月期となるだろう。増税後は、所得減による生産の伸びへの
マイナスの影響は 1 四半期にとどまるものの、反動減に伴う生産調整は 2 回の
増税局面ともに 2 四半期続くと予測した。②の輸出動向については、海外経済
の回復に伴う緩やかな輸出回復が、2015 年度にかけて生産の下支えになると
見込まれる。さらに、増税に伴う生産の波を平準化するために、輸送機械など
では増税後に輸出向け生産を強化するとみられ、増税後の減産幅は抑制されそ
うだ。
以上より、
2013 年度の鉱工業生産は前年比+3.1%と 3 年ぶりに増加し、
2014
年度は同+2.2%、2015 年度は同+2.6%と増加が続くと予測する。
企業収益は生産・売上の増加
上場企業(日経 225 採用銘柄、金融・保険及び電力を除く)の 2013 年 10∼
12 月期決算は製造業、非製造業とも前年比増益となった模様である(図表
に伴い改善
34 )。非製造業では幅広い業種で業績が改善しており、製造業では鉄鋼や電気
図表 33
鉱工業生産の業種別寄与度分解
(前期比、%)
8
6
図表 34
上場企業決算(連結ベース)
(前年比、%)
予測指数
120
鉱工業生産指数
電気機械
90
4
電子部品・デバイス
2
製造業
非製造業
60
一般機械
0
30
▲2
情報通信機械
▲4
その他
輸送機械
0
Q1
▲6
2011
2012
2013
(注)1.「一般機械」は「はん用・生産用・業務用機械工業」を指す。
2.2014年1∼3月期は、1・2月が製造工業生産予測指数通り、
3月が横ばいと仮定した。
(資料)経済産業省「鉱工業指数」、「製造工業生産予測調査」
2014
(年/四半期)
Q2
Q3
2012
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
2013
(年/四半期)
(注)日経225採用銘柄(金融・保険、電力を除く)のうち、前年同期と比較可能
な企業の経常利益前年比増減率。2013年第4四半期は、2月17日時点で
データベースに反映済みの198社。
(資料)日経NEEDS
29
機械を中心に業績の改善がみられた。
今後の企業収益は、生産・売上の増加に伴い前年を上回る改善が続くとみら
れる。ただし、2012 年末以降の円安による輸出採算改善効果が一巡すること
から、前年比でみた増益幅は縮小していく見通しである。
年度ベースの経常利益(法人企業統計季報ベース:電力、金融・保険を除く)
は、2013 年度が前年比+13.5%、2014 年度が同+1.2%、2015 年度が同+3.4%
と予測する。2013 年度は売上高の増加を主因に増益幅が高まる見通しである。
2014 年度は消費税率引き上げにより、個人消費・住宅投資など国内需要が落
ち込むことで売上が伸び悩み、増益幅は小幅にとどまるだろう。2015 年度は、
10 月の消費増税に伴う駆け込み需要とその反動が予想される中で、輸出の増
加が下支えとなり増益が見込まれる。
設備投資は3 四半期連続で増
2013 年 10∼12 月期の実質設備投資は、前期比+1.3%(7∼9 月期同+0.2%)
加。今後も緩やかな増加基調
と増加幅が拡大した。7∼9 月期までの民間企業資本ストック統計は非製造業
が続く見通し
の投資拡大が続く一方、製造業は減少していた。しかし先行指標である機械受
注や建築物着工床面積は、非製造業に加えて製造業でもプラス基調で推移して
おり、10∼12 月期は製造業・非製造業ともに増加した可能性が高い。
2014 年度以降の設備投資は、復興特別法人税の 1 年前倒し廃止や投資減税
等の実施によるキャッシュフロー増加が、押し上げ要因となることが期待され
る。2014 年度の法人減税総額は 1.2 兆円となり、2012 年度の投資性向 52.7%
(法人企業統計年報)を用いると、およそ 0.6 兆円が投資に振り向けられる計
算となる。従って 2014 年度の実質設備投資は法人減税によって+0.9%押し上
げられると見込まれる。一方で、当面は円安傾向が続く見通しとはいえ、製造
業の生産拠点の海外移転が進むことが国内投資の抑制要因となることも予想
される。海外生産は中国などの賃金上昇に伴い、より賃金コストの安い投資国
へシフトしつつあるため、円安が直ちに国内回帰の動きにまではつながり難
い。2013 年度は国内投資が緩やかな伸びにとどまる一方、対外直接投資(流
出)は 4∼12 月までで前年比+40.1%と、円安によるコスト増(同+22.3%)
。
を上回って増加した(図表 35 )
以上から、設備投資は 2013 年度前年比+0.7%から 2014 年度同+3.5%と加
。
速した後、2015 年度同+2.9%と緩やかな増加が続くと予測した(図表 36 )
図表 35
対外直接投資の推移(円ベース)
(前年比、%)
▲
▲
▲
▲
▲
60
50
40
30
20
10
0
10
20
30
40
50
図表 36
(%)
(兆円、年率換算値)
45
対外直接投資(流出)
実質設備投資の見通し
80
40
35
75
30
25
70
20
15
65
10
対外直接投資(流出)
/名目設備投資
(右目盛)
(予測)
5
60
2005 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
0
(年/四半期)
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
(注)シャドウ部分は景気後退局面。直近の後退局面は2012年
4∼6月期から2012年10∼12月期と仮定。
(資料)内閣府「国民経済計算」よりみずほ総合研究所作成
(年度)
(注)2013年度は4∼12月平均値。
(資料)内閣府「国民経済計算」、財務省「対外・対内直接投資」
30
(5) 家計部門
雇用情勢は改善
2013 年 10∼12 月期の失業率は 3.9%とリーマンショック前(2008 年 1∼3
月期以来)の水準まで改善し、有効求人倍率は 1.00 倍と約 6 年ぶりに 1 倍台
に回復した。生産活動の回復や個人消費・建設需要の増加などを受けて労働需
給は改善している。常用雇用(毎月勤労統計)は建設、生活関連サービス・娯
楽、不動産・物品賃貸を中心に増加した(7∼9 月期前年比+0.9%⇒10∼12 月
期同+1.1%)
。名目賃金は所定外給与や特別給与の増加から、前年比+0.4%
(7∼9 月期同▲0.4%)と 2 四半期ぶりに増加した。その結果、10∼12 月期の
名目雇用者所得(常用雇用×名目賃金)は前年比+1.5%(7∼9 月期同+0.5%)
と大きく増加した。なお、10∼12 月期のSNAベース名目雇用者報酬は同
+1.8%(7∼9 月期同+0.6%)と増加が続いている。
個人消費は増加
10∼12 月期の実質個人消費は前期比+0.5%(7∼9 月期同+0.2%)と増加
した。消費増税前の駆け込み需要で自動車販売が大きく増加したことなどか
ら、耐久財の消費が同+4.0%と大幅に増加した(図表 37)
。一方、半耐久財
はほぼ横ばいとなり、非耐久財は減少するなど、耐久財以外の財消費は弱め
の推移となった。
雇用情勢は回復が続く見込み
今後の雇用情勢は改善が続くとみられる。高齢化を背景に医療・福祉で雇
用増が見込まれるほか、生産活動の回復に伴い製造業の雇用も持ち直すとみ
られる。ただし、2014 年度上期や 2015 年度下期は、消費増税に伴う景気減速
を受けて、雇用者数の伸びは一時的に鈍化する見通しである(2015 年 10 月に
も消費増税を想定)
。全産業の雇用者数(労働力調査ベース)は 2013 年度が前
年比+1.1%、2014 年度が同+0.2%、2015 年度が同+0.3%と予測した。
名目賃金は緩やかな増加基調を維持する見通しである。所定外給与は消費増
2014 年の春季賃上げ率は、
税後に一時的に落ち込むものの、生産の回復とともに増加基調に復するとみら
2%を上回る見通し
れる。企業業績が改善傾向を維持する中で、特別給与も増加が続くと見込まれ
る。所定内給与は、春季賃上げ率(民間主要企業)が徐々に高まるとみられる
ことなどから、緩やかに増加するとみられる。労務行政研究所が実施したアン
ケート調査によれば、2014 年の春季賃上げ率は 2%程度まで改善する見通しだ
(図表 38)
。みずほ総合研究所では、春季賃上げ率(民間主要企業)は 2014
図表 37
実質家計最終消費支出の内訳
(前期比、%)
1.5
図表 38 賃上げ率見通しと主要企業の賃上げ率
(%)
2.5
サービス
実質消費支出
労働側見通し(労務行政研究所)
主要企業の春季賃上げ率
(厚労省)
1.0
2.0
0.5
0.0
1.5
半耐久財
▲ 0.5
経営側見通し(労務行政研究所)
非耐久財
1.0
▲ 1.0
2012
耐久財
20 13
(注 )季節調整値。最新値は、2013年10∼12月期。
(資 料)内閣府「国民経済計算」
(年/四半期)
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
2013
(注)2014年の主要企業の春季賃上げ率は、みずほ総合研究所の予測値。
(資料)労務行政研究所「2014年賃上げの見通し―労使および専門家540人
アンケート」より、みずほ総合研究所作成
31
(年)
年に 2.01%に高まるとみている。
2015 年は、
ベアの動きが一段と広がり、
2.30%
となると予測する。
雇用者報酬は増加が続く見込
み
以上のような雇用・賃金動向を踏まえて、2013 年度の雇用者報酬は前年比
+1.2%と予測した。さらに、2014 年度は国・地方ともに公務員の給与減額措
置が終了するため、雇用者報酬の前年比は+1.2%と増加が続くだろう。2015
年度も、賃金改善の動きが広がることなどから、雇用者報酬は同+1.3%と予
測している。
1∼3 月期の個人消費は、大幅
に増加する見込み
2014 年 1∼3 月期の個人消費は駆け込み需要の影響で伸びが一段と高まる
見通しである。1 月の新車登録台数(みずほ総合研究所による季節調整値)は、
10∼12 月平均(7∼9 月平均比+14.6%)からさらに 10.5%増加した。自動車
の駆け込み需要は、1997 年度の消費増税時に比べて約 2 倍の勢いで生じてい
るようだ(図表 39)
。1997 年度の増税前の駆け込み需要の規模は、約 2 兆円
(うち耐久財、約 1 兆円)と試算される。これを基に、足元の自動車の強さ
を踏まえると、今回の駆け込みは、2013 年度の個人消費を約 1.1%Pt押し上
げる計算となる。2013 年度の実質個人消費は前年比+2.4%と予測した(図
。
表 40)
駆け込み需要の反動と購買力
2014 年度は、4∼6 月期に消費税率引き上げの反動が出ることで消費水準が
の低下により、2014 年度の個
押し下げられるほか、家計の実質購買力の低下による影響も加わるとみられ
人消費は減少
る。両者を合わせると、2014 年度の個人消費の水準には約 2.2%Pt の下押し
圧力がかかると試算される。7∼9 月期以降の消費は、雇用・所得環境の改善
などから緩やかに回復するとみられるが、4∼6 月期の落ち込みを取り戻すに
は至らないだろう。2014 年度の実質個人消費は前年比▲1.2%と 6 年ぶりの減
少は免れない見通しである。
2015 年度の個人消費は増加
に転じる見込み
2015 年度は、10 月に消費税率が 8%から 10%へと引き上げられることを想
定している。このため、年度前半は駆け込み需要で消費が押し上げられる一
方、年度後半はその反動によって落ち込むことが予想される。なお、消費税
率の 10%への引き上げの際には軽減税率(食料品の税率を 8%で据え置き)
の導入も想定した。軽減税率の導入は、食料品の駆け込み・反動や実質所得
の減少を緩和するだろう。2015 年度通年では、雇用・所得環境の改善もあっ
て、実質個人消費は前年比+1.1%の増加に転じる見込みである。
図表 39
自動車登録台数の推移
(1996年7∼9月期=100
2013年7∼9月期=100)
120
(前年比、 %)
2014年1月
エコカー補助金締め切り
(2012/9/20)
エコカー補助金締め切り
(2010/9/30)
130
図表 40
1992年Q3∼1997年Q4
2007年Q1∼2013年1月
60
1.2
1.2
1.3
1.1
0.2
0.3
▲ 0.7
0.1
0.6
1.0
▲ 0.5
0.4
1.0
0.9
名目消費支出
0.6
2.7
0.9
1.9
消 費 性 向 (% )
98.1
100.3
100.2
101.2
0.9
2.3
▲ 0.1
1.0
消 費 支 出 デ フ レー タ ー
実質消費支出
50
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
1992
1993
1994
1995
1996
(注)みずほ総合研究所による季節調整済値。
(資料)日本自動車販売協会連合会より、みずほ総合研究所作成
2014
1997
(年/四半期)
1 5年 度
0.2
消 費 性 向 (前 年 差 )
70
1 4年 度
0.1
名目可処分所得
80
1 3年 度
雇用者数
110
90
12 年 度
雇用者報酬
一 人 当たり 名 目 賃 金
100
個人消費の見通し
▲ 0.8
0.3
2.1
0.8
1.5
2.4
▲ 1.2
1.1
(注 )1 .消 費 性 向 = 家 計 最 終 消 費 支 出 ÷ 家 計 可 処 分 所 得 × 10 0。
2.雇 用 者 報 酬 には 賃 金 ・ 俸 給 のほ か、雇 主 の 現 実 社 会 負 担 ( 厚 生 年 金 の 雇 主
負 担 な ど )と 雇 主 の帰 属 社 会 負 担 ( 退 職 一 時 金 や 労 災 など) が ある 。
3.一 人 当 た り 名 目 賃 金 は 、農 林 漁 業 や 公 務 (他 に 分 類 さ れ るもの を 除 く) を 除 く。
(資 料 )内 閣 府 、総 務 省 、厚 生 労 働 省 な どより み ず ほ 総 合 研 究 所 作 成
32
10∼12 月期の住宅着工戸数
は大きく増加
10∼12 月期の住宅着工戸数(季調済年率換算値、月次データの四半期平均
値、以下同様)は前期比+5.1%(7∼9 月期同+1.1%)と 3 四半期連続で増
加した。水準でみると 104.1 万戸と 2008 年 7∼9 月期以来の 100 万戸台とな
った。利用関係別では、分譲が前期比▲7.5%と 3 四半期ぶりに減少したもの
の、持家は同+10.3%、貸家は同+8.9%と高い伸びとなった。足元の住宅市
場は、国内の景気回復に加えて、消費増税前の駆け込み需要などから高水準
が続いている。進捗ベースの 10∼12 月期の実質住宅投資は前期比+4.2%(7
∼9 月期同+3.3%)に加速した。
2014 年度前半にかけて住宅
先行きの着工は、2014 年 4∼6 月期にかけて駆け込み需要の反動から減少
着工は減少。2014 年度後半か
することが予想される。2013 年 9 月中の契約締結を目指して駆け込み着工が
ら再び増加
生じた分譲マンションは既に反動がでているほか(図表 41)
、単月でみると
持家の着工も減少に転じている。もっとも、住宅価格に先高観がでているこ
とや、増税後に住宅ローン減税の拡充やすまい給付金が導入される効果もあ
って、1997 年の増税時に比べると反動の規模は幾分抑制されるだろう。2015
年度には、2015 年 10 月に消費税率が 10%に引き上げられる際に、今回と同
様の経過措置(2015 年 3 月末までに約定した請負契約に対して消費税率 8%
を適用)がとられる予定である。このため、2014 年度後半に再び駆け込み需
要が顕在化するとみられる。
2015 年度前半は消費増税に
よる反動が全体を押し下げ
2015 年 4∼6 月期以降は、駆け込み需要の反動から着工戸数は減少するとみ
られるが、2016 年 1∼3 月期には緩やかに持ち直すと予想される。また、2015
年 10 月の消費増税時にも、すまい給付金の拡充等が実施される予定のため、
増税に伴う駆け込みと反動は軽減されるだろう。着工戸数は 2013 年度に 98.9
万戸と大きく増加した後、2014 年度は 91.3 万戸、2015 年度には 88.8 万戸と
90 万戸程度を維持すると予想する。
また、
GDPベースの実質住宅投資は、
2013
年度が前年比+8.2%、2014 年度が同▲5.3%、2015 年度は▲0.5%と予測した
(図表 42)
。
図表 41
図表 42
利用関係別住宅着工の推移
(年率、万戸)
60
持家
貸家
分譲マンション
50
分譲一戸建
新設住宅着工
40
持家
貸家
分譲
09
10
11
12
13 (年/四半期)
(注)1.季節調整値。
2.「分譲マンション」、「分譲一戸建」はみずほ総合研究所による季節調整値。
(資料)国土交通省「住宅着工統計」
2013年度
2014年度
2015年度
(実績)
(予測)
(予測)
(予測)
89.3
98.9
91.3
88.8
(前年比・%)
2.7
6.2
10.8
▲ 7.8
▲ 2.7
(万戸)
30.5
31.7
36.0
32.7
32.2
▲ 1.4
(万戸)
▲ 1.2
3.8
13.7
▲ 9.3
29.0
32.1
36.2
32.0
30.5
▲ 0.7
10.7
12.9
▲ 11.7
▲ 4.8
(万戸)
23.9
25.0
26.2
26.1
25.6
(前年比・%)
12.7
4.4
4.9
▲ 0.5
▲ 1.7
名目住宅投資 (前年比・%)
3.7
4.7
11.4
▲ 1.5
1.8
実質住宅投資 (前年比・%)
3.2
5.3
8.2
▲ 5.3
▲ 0.5
10
0
2012年度
(実績)
84.1
(前年比・%)
20
2011年度
(万戸)
(前年比・%)
30
08
住宅投資の見通し
(注)着工戸数の合計には給与住宅も含む。
(資料)国土交通省「建築着工統計」、内閣府「国民経済計算」
33
(6) 政府部門
公的需要は伸びが鈍化
10∼12 月期の公的需要(実質値、以下政府消費・公共投資も同様)は、前
期比+0.9%と 7∼9 月期(同+1.6%)までの高い伸びから鈍化した。内訳を
みると、政府消費は緩やかな増加(7∼9 月期同+0.2%⇒10∼12 月期同
+0.5%)が続いたが、公共投資の増加幅が大きく縮小した(7∼9 月期同
+7.2%⇒10∼12 月期同+2.3%)
。緊急経済対策事業の執行が一巡しつつある
ほか、東日本大震災の復旧・復興事業もピークアウトしたとみられる。
公共投資は 2013 年度補正予
先行きについてみると、公共投資は 1∼3 月期に一旦減少するものの、2014
算で追加された公共事業が
年 4 月の消費増税後は、2013 年度補正予算で追加された公共事業などが下支
落ち込みを緩和
えとなり堅調に推移するとみられる(図表 43)
。2013 年度補正予算(主に「好
循環実現のための経済対策」の実行分、2014 年 2 月 6 日成立)では、東京五
輪に向けた交通・物流網の整備や防災・減災対策事業など公共投資関連の事業
に約 2 兆円が盛り込まれた。これらの事業は春以降執行が本格化するとみら
れ、2014 年度の公共投資を 4∼5%押し上げると試算される。また、2014 年度
一般会計予算案では公共事業関係費が 2013 年度当初予算比+1.3%(特別会計
の一般会計への統合に伴う見かけ上の増加要因を除く)となったほか、地方財
政計画においては地方の投資的経費の増加も見込まれている。ただしそれらを
考慮しても、2014 年度後半になると、経済対策効果のはく落などにより公共
投資は減少基調に転じるだろう。
本見通しでは、2015 年 10 月に 10%への消費税率引き上げが予定通り実施さ
れることを前提としている。その上で、消費増税後の経済対策として、再度国
費ベースで 2 兆円程度の補正予算が 2014 年度末に編成されると想定した。そ
のうち約 1.5 兆円が公共事業費に充てられ、2015 年度後半に執行されるとみ
ている。以上を踏まえ、年度ベースの公共投資は、2013 年度に前年比+15.6%
と大幅に増加した後、2014 年度同▲1.0%、2015 年度同▲3.2%と徐々に水準
を切り下げると予測する。
政府消費は引き続き拡大
政府消費は、医療費や介護費など社会保障関係費の増加を中心に、2013 年
度前年比+2.1%、2014 年度同+1.7%、2015 年度同+1.5%と拡大が続くと予
想する。公的需要全体では、2013 年度に前年比+4.4%となった後、2014 年度
同+1.3%、2015 年度同+0.6%と伸びが鈍化すると予測した(図表 44)
図表 43
実質公共投資の見通し
(兆円、実質季調済み年率換算値)
25
図表 44
(見通し)
公的需要の見通し
(前年比、%)
経済対策反映後
5
24
4
23
政府最終消費支出
公的需要
3
22
公的固定資本形成
2
21
1
経済対策反映前
20
19
0
18
▲1
12/3
12/9
13/3
13/9
14/3
14/9
15/3
15/9
16/3
(見通し)
▲2
(年/四半期)
2005
(注)2014年1∼3月期以降はみずほ総合研究所予測値。
(資料)内閣府「国民経済計算」などよりみずほ総合研究所作成
06
07
08
09
10
(注)公的需要には公的在庫品増加も含む。
(資料)内閣府「国民経済計算」よりみずほ総合研究所作成
34
11
12
13
14
15
(年度)
(7)物価
国内企業物価は引き続き前
年比+2%を上回る伸び
10∼12 月期の国内企業物価指数(CGPI)は、前年比+2.5%(7∼9 月期同
+2.2%)と伸びが高まった。建設や自動車関連の需要が堅調である鉄鋼やス
クラップ類などのプラス幅が拡大したほか、円安に伴う価格転嫁や内需の堅調
を背景に機械類(輸送用機器、電気機器など)のマイナス幅が縮小した。
国内企業物価への上昇圧力
は徐々に緩和
今後は、円安による輸入物価上昇を通じた国内物価の上昇圧力は徐々に緩和
に向かうだろう。エネルギー価格のプラス寄与も徐々に縮小するとみられる。
2013 年度のCGPIは前年比+2.0%(2012 年度同▲1.1%)と 2 年振りのプラス
に転じるが、2014 年度は消費増税の影響を除くベースで同+1.2%(含むベー
ス同+3.9%)と予想している。2015 年度は、原油価格のマイナス傾向がやや
緩和し、緩やかに円安も進むと見込まれることから、消費増税の影響を除くベ
ースで同+1.4%(含むベース同+2.3%)と予測した(図表 45)
。
コアCPIは前年比+1%台
の伸び
10∼12 月期の生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)は、前年比
+1.1%(7∼9 月期同+0.7%)と伸びが高まった。エネルギー価格の上昇幅が
縮小する一方、円安によるコスト上昇分を転嫁する動きが続く食料価格の上昇
幅が拡大した。食料(酒類除く)・エネルギーを除く消費者物価指数(米国基準
コアCPI)も同+0.5%と 2008 年 10∼12 月期以来の前年比プラスとなった。
「2 年で 2%のインフレ目標」
達成は困難
最近のCPI上昇は円安やその他の一時的要因(傷害保険料の価格改定、電
気代の値上げなど)により押し上げられている部分が大きい(図表 46)
。今
後は、こうした要因によるCPI押し上げ効果は徐々にはく落する見込みであ
る。さらに、消費増税後は内需の落ち込みなどから需給ギャップの改善も鈍る
ため、2014 年度上期中はCPIの上昇幅が緩やかに縮小するとみられる。も
っとも、その後は内需が回復基調に復する中で、賃金の緩やかな改善と物価に
転嫁する動きも徐々に広がり、CPIの伸びは緩やかに高まっていくだろう。
以上を踏まえ、コアCPIは 2013 年度が前年比+0.8%、2014 年度が同
+0.9%、2015 年度が同+0.9%と予測した(消費税を含むベース(2015 年 10
月に食料品に対する軽減税率が導入される想定)
:2014 年度同+3.0%、2015
年度同+1.5%)
。インフレ率は緩やかに上昇するが、日銀が掲げる「2 年で 2%
のインフレ目標」達成は困難だろう。
図表 45
国内企業物価の見通し
(前年比、%)
図表 46
消費者物価の見通し
傷害保険料要因
見通し
(前年比%、コアCPIへの前年比寄与度%Pt)
20
自動車保険(自賠責)要因
電気代要因
1.6
原油要因
15
為替要因
1.2
10
0.8
5
0.4
0
0.0
▲ 0.4
国内企業物価
円建て輸入物価
契約通貨建て輸入物価
▲5
▲ 10
2010
2011
2012
コアCPI(実績+予測)
(見通し)
▲ 0.8
Q4
2013
2014
(注)国内企業物価は消費税を除くベース。
(資料)日本銀行「企業物価指数」などよりみずほ総合研究所作成
2015
2016
12
(年/四半期)
Q1
Q2
Q3
13
Q4
Q1
Q2
Q3
Q4
14
(注)為替要因と原油要因はみずほ総合研究所マクロモデルにより試算。
(資料)総務省「消費者物価指数」などよりみずほ総合研究所作成
35
Q1
Q2
Q3
15
Q4
Q1
16
(8) 金融市場
年末にかけてのリスクオンか
前回見通し以降の金融市場では、年末にかけては先進国を中心とした景気
ら一転、年明け以降は新興国
回復期待からリスクオン相場の様相が強まったが、年明け以降は新興国の経
不安からリスクオフモードに
済・金融市場に対する不安や米国の経済指標の下振れなどを背景に、投資家
が一旦リスク回避姿勢を強める展開となった(図表 47)
。
米国では、経済指標の改善を受けた景気回復期待が広がる中、FRBが 12
月の FOMC(12/17・18)でQE3の縮小を決定した。ただし、当面金融緩和姿
勢を継続する見込みであることを示すとともに、金利ガイダンスを強化する
など金融市場への配慮もみられた。この決定を受けて、米国株は決定直後に
売られたものの、その後は景気回復下で緩やかな緩和縮小は許容されるとの
見方から大幅反発し、長期金利も上昇はしたものの、上昇幅は抑制された。
年末にかけては、株高・債券安・ドル高(円安)が進んだ。QE3縮小は米
国経済が正常化に向かっている証左との見方から先進国の株価は軒並み上昇
し、ドル円相場は一時 1 ドル=105 円台まで円安が進行した。2013 年 5 月以
降みられている債券から株式への資金シフトの動き(グレート・ローテーシ
ョン)が 2014 年は一段と強まるといった期待が投資家マインドの改善に繋が
ったようである。
ただし、年明け以降は、高値警戒感や寒波の影響を受けた米雇用統計の下
振れなどを受けてリスクオン相場が一服、さらに新興国不安によって株安・
債券高・ドル安(円高)の動きが強まった。QE3の縮小開始決定後、一部
の新興国通貨は下落傾向となっていたが、2013 年 5 月以降のような全面的な
「新興国売り」とは様相が異なり、影響は限定的とみられていた。しかし、
アルゼンチンペソの急落をきっかけに新興国の通貨や株価の下落基調が強ま
り、再び新興国からの資金流出が意識される展開となった(図表 48)
。また、
シャドーバンキング問題がくすぶる中国経済の減速懸念も新興国経済に対す
る不安を強める要因となった。
図表 47
S&P500指数とVIX指数
35
欧州問題深刻化
(ギリシャ総選挙・
スペイン支援)
米量的緩和
縮小観測
(2013/5/1=100)
新興国株
(MSCIエマージング株価指数、左目盛)
105
97 新
興ド
98 国 ル
1700
通安
貨
︶
米財政の
崖懸念
25
(2013/5/1=100)
1900
1800
新興国
不安
新興国の株価と対ドルレート
100
99 高
1600
米財政
問題
100
1500
95
20
101
1400
15
1300
102
90
103
1000
12/4
12/7
12/10
13/1
13/4
13/7
13/10
104 興 ド
85
1100
14/1
(年/月)
80
13/5
(注)VIX指数はS&P500のオプション・インプライド・ボラティリティ指標。
投資家の不安心理を示すといわれる。
(資料)Bloomberg
13/7
13/9
(注)直近値は、2014/2/17終値。
(資料)Datastream
36
国ル
名目実効ドルレート
(対新興国通貨、右逆目盛)
(先週以降は当社推計、それ以前はFRBの公表値)
13/11
14/1
105 通 高
貨
106 安
(年/月)
︶
5
12/1
新
VIX指数(左目盛)
不安心理の高まりを示す
S&P500指数(右目盛) メルクマールとされる水準
︵
1200
10
︵
30
(pt)
図表 48
新興国の不安は当面くすぶる
今後については、FRBがQE3の縮小を続ける中、経常赤字・高インフ
も、FRBは量的緩和縮小を
レ国を中心に当面資金流出懸念はくすぶるものの、新興国危機が発生し世界
進め、緩やかな株高・債券安
経済全般に悪影響を及ぼすような展開は回避されるというのがメインシナリ
の流れは続く見通し
オである。ただし、新興国経済に与える影響が大きい中国の動向には引き続
き留意が必要であり、中国経済の減速が深刻化するような場合には、新興国
通貨危機に発展する可能性も否定はできないであろう。
メインシナリオに沿って、グローバル経済が先進国を中心に回復傾向を辿
るとすれば、FRBはQE3の縮小を徐々に進め、2014 年末には債券購入を
終了し、2015 年末までには利上げを開始すると予想される。グローバルな景
気回復と米金融政策の出口戦略が進む中、投資家は徐々に債券から株式への
資金シフトを進め、米国を中心とした株高・債券安の展開が続く見通しであ
る。ただし、リーマン・ショック以降割安な水準に放置されていた米国株は
2013 年の大幅上昇によって予想PERでみて過去の平均的な水準まで回帰し
ている。バリュエーション調整による上昇局面は概ね一巡したとみられるこ
とから、今後は企業業績の改善に沿った緩やかな上昇となろう。一方、米国
長期金利については、徐々に水準を切り上げていく見通しであるが、景気に
悪影響を及ぼすような金利の急上昇を回避できるかがポイントであり、昨年
強化した金利ガイダンスの効果やイエレン新FRB議長の手腕が試されるこ
とになろう。
国内では円安・株高に一旦歯
2013 年は日銀の異次元緩和をきっかけに大幅に円安が進行し、アベノミク
止め。新興国不安に加え、ア
スへの期待と相俟って日本株は大幅上昇となった。日経平均の年間騰落率は
ベノミクス相場の持続性に対
57%と 1972 年以来の上昇率となった。年末に向けてもこうした円安・株高が
する懐疑的な見方も
続いたが、年明け以降は円安が一服、株式相場は調整地合いが続いている。
相場調整のきっかけは、高値警戒感による利益確定売りや新興国不安を受け
たグローバルなリスク回避の動きといえる。ただし、米国株に対して日本株
の戻りが鈍いこと、1 月の海外投資家の日本株売りが 1 兆円を上回る水準であ
ったことなどを踏まえると、海外勢を中心にアベノミクス相場の持続性に対
する懐疑的な見方が台頭している可能性も否定はできないであろう(図表
49)
。
図表 49
日本株の投資主体別売買状況
(千億円)
30
買
い
越
し
20
図表 50
各国指導者に対する投資家信頼感
楽観−悲観 前回比
国内金融機関(信託+銀行+生損保)
事業法人
投資信託
個人
外国人
10
0
楽観的
悲観的
分から
ない
独
メルケル首相
50
6
70
20
14
日
安倍首相
36
-17
61
25
13
英 キャメロン首相
31
8
53
22
23
中
習国家主席
26
7
52
26
25
米
オバマ大統領
-12
-1
41
53
7
仏 オランド大統領
-60
-6
12
72
20
▲10
売
り ▲20
越
し
▲30
▲40
12/10
(注)二市場一・二部等。
(資料)東京証券取引所
13/1
13/4
13/7
13/10
14/1
(注) Bloombergのユーザー(投資家、アナリスト、トレーダー)を対象とするアンケート
調査(2014年1月調査)。前回調査は2013年9月。質問項目は各国の指導者が
当該国の投資環境に与える影響を楽観的に見ているか、悲観的に見ているか。
(資料) Bloomberg
(年/月)
37
グローバルな投資家に対するアンケートによれば、各国指導者が投資環境に
与える影響について2013 年9 月時点で最も楽観的にみられていたのは安倍首相
であったが、2014 年 1 月調査では楽観派が減少している(前頁図表 50)
。こう
した結果の背景には、成長戦略に対する期待の後退や安倍首相の靖国神社参拝
などを受けた安全保障問題に対する警戒感などがあるとみられる。
また、黒田日銀総裁は 1 月 22 日の記者会見で、2014 年度後半以降に物価上
昇率 2%の目標に達する可能性が高いとし、異次元緩和の効果に自信を示し
た。これを受けて、海外投資家を中心に追加緩和観測が後退していることも
円安・株高の流れに歯止めをかける要因になっている可能性がある。
日銀は春先に追加緩和を実施
日銀の黒田総裁は、緩和効果を維持するために物価目標達成に自信を示す
し、円安・株高傾向は持続す
コメントを繰り返しているが、実際には物価上昇率が展望レポートで示して
る見通し
いるほどには高まらないとみられる。さらに、デフレ脱却を確実なものとし、
アベノミクスを成功させるためには一定期間円安傾向と資産価格上昇を維持
させることが重要であり、そのために追加緩和は必要だろう。あとは時期の
問題である。現状は 4 月または 7 月の緩和説が有力であるが、7 月説の根拠は
消費税導入後の景気の落ち込みや物価上昇率の低下を確認してからというも
のである。しかし、デフレ脱却を確実なものとし、消費増税後の景気を支え
るという意味では、消費税導入後の影響が明らかになる前の 4 月、もしくは、
よりサプライズ効果を狙うのであれば 3 月にも追加緩和を実施するべきであ
ろう。追加緩和の効果を最大限に発揮するには市場にサプライズを与える必
要があり、市場の緩和期待が後退していればむしろ黒田総裁にとっては追加
緩和の好機といえよう。追加緩和策としては、国債購入額の増額や購入期間
の延長、ETFの買入れ増額などが想定される。
日銀の追加緩和とFRBによる出口戦略を背景に、円安・株高傾向は持続
する見通しである。一方、国内長期金利は上昇を見込むが、日銀の大量国債
購入によって需給は引き締まった状況が続くことから、上昇ペースは緩やか
なものに留まろう。
図表 51
無担保コールO/N
(末値、%)
ユーロ円TIBOR
(3か月、%)
金利スワップ
(5年、%)
新発国債
(10年、%)
日経平均株価
(円)
ドル・円
(円/ドル)
ユーロ・ドル
(ドル/ユーロ)
各市場の見通し
2013/
10-12
2014/
1-3
4-6
7-9
10-12
2015/
1-3
4-6
7-9
10-12
2016/
1-3
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0.22
0.22
0.22
0.22
0.22
0.22
0.22
0.22
0.22
0.22
0.36
0.35
0.40
0.45
0.50
0.55
0.60
0.65
0.65
0.70
0.64
0.64
0.68
0.80
0.90
1.00
1.10
1.20
1.20
1.25
14,972
15,000
15,500
16,300
16,800
17,000
17,100
17,300
17,700
18,100
101
103
105
106
107
108
110
112
114
115
1.36
1.36
1.34
1.32
1.30
1.28
1.26
1.24
1.22
1.21
(注)シャドーは実績。予測値は期中平均。但し、無担保コールO/Nは期末値。ユーロ円TIBORは360日ベース。
スワップ5年は6カ月LIBORに対する固定金利払。為替相場はニューヨーク終値ベース。
(資料)Bloomberg、みずほ総合研究所
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