絵本翻訳における異化的翻訳・同化的翻訳 10053GHU 伊 藤 璃 香 1. はじめに 言語はその言語を使う人々の文化と密接に関わっている。そのため、一般的にはある言語から他 の言語へ置き換えるとされる翻訳は、実は言葉を単に置き換えるだけではない。言語体系の違い、 文化の違いを理解する必要があり、翻訳は異文化コミュニケーションであるといえる。そこで藤濤 (2007)の指摘する「言語の差」 「文化の差」 「コミュニケーション状況」がどのように絵本翻訳に 影響を与えるかを調べるため、ORANI: MY FATHER’S VILLAGE を題材に分析を試みる。具体的 な方法としては、 「翻訳方法一覧」 (藤濤, 2007, p. 141)に基づき、移植、音訳、借用翻訳、逐語訳 を用いた翻訳を起点テクスト(Source Text: ST)志向の異化的翻訳とし、パラフレーズ、適応、省 略、加筆、解説を用いた翻訳を目標テクスト(Target Text: TT)志向の同化的翻訳として、翻訳テ クストを比較した。 2. 異化・同化 異化(foreignization)とは、ST の言語的・文化的な特質に合わせて、翻訳テクストを決める方 法である。異化的翻訳は ST の異国的要素を TT に残し、TT に異質感を出す方法である。同化 (domestication)とは、ST の言語的・文化的な特質に合わせるのではなく、TT の言語的・文化的 な特質に合わせて翻訳テクストを決める方法である。同化的翻訳は ST の異国的な要素を TT の文 化と慣習に適応させることになる。 3. 分析 異化的翻訳・同化的翻訳方法で訳したテクストを比較し、題名、名詞の単数形・複数形、固有名 詞、人称代名詞、指示代名詞のそれぞれの観点から分析した。名詞の単数形・複数形、人称代名詞、 指示代名詞の翻訳では、言語の差が翻訳に影響を及ぼす。ST である英語と TT である日本語の言語 体系が大きく異なっていることが要因である。文化の差については、固有名詞や社会的習慣をカタ カナ表記する異化的翻訳と、TT 文化内にあるものに置き換えて表現する同化的翻訳がある。 4. 結果 本論文では、絵本翻訳における異化的翻訳と同化的翻訳について考察した。異化的翻訳ではカタ カナ語を使用する頻度が増える傾向にあり、内容が文化の違う異国のものであるという印象を与え ることができる。しかし、絵本という児童書でありながら馴染みのないカタカナ語を多用してしまう ことで、幼い読者の理解を妨げるという短所もある。他方、日本の文化に置き換えて翻訳する同化的 翻訳は、読者にとって馴染みのある文化でわかりやすいという長所はあるが、省略や加筆など ST の内容を忠実に翻訳しているとは言い難い面もある。異化的翻訳と同化的翻訳のどちらか一方では なく、両者のバランスが必要であると感じた。 【参考文献】 藤濤文子(2007)『翻訳行為と異文化間コミュニケーション:機能主義的翻訳理論の諸相』松籟社 Claire A. Nivola (2011). ORANI: My Father’s Village. Farrar Straus & Giroux
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