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◆ 2014 年 4 月 4 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 憲法 No.82
文献番号 z18817009-00-010821039
出会い系サイト規制法上のインターネット異性紹介事業届出制度が憲法 21 条 1 項に
違反しないとされた事例
【文 献 種 別】 判決/最高裁判所第一小法廷
【裁判年月日】 2014(平成 26)年 1 月 16 日
【事 件 番 号】 平成 23 年(あ)第 1343 号
【事 件 名】 インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律
違反被告事件
【裁 判 結 果】 上告棄却
【参 照 法 令】 憲法 21 条 1 項、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の
規制等に関する法律 7 条 1 項・32 条 1 号
【掲 載 誌】 裁時 1595 号 6 頁
LEX/DB 文献番号 25446152
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され、憲法 21 条 1 項には違反しないなどとして
有罪(罰金 50 万円) とした。被告人控訴に対し、
控訴審判決(東京高判 2011〔平成 23〕・6・14 東高
刑 62 巻 1 = 12 号 52 頁)は、本件届出制度は規制
により得られる利益と失われる利益との均衡から
も規制手段としての相当性を有し、サイト運営者・
利用者のインターネットを利用した表現の自由を
過度に制約するものとはいえないとの判示を付加
した上で控訴を棄却した。被告人上告。
事実の概要
本件は、
「ぽっちゃりパフェ」なる電子掲示板
を運営していた被告人が、公安委員会に届出をし
ないでインターネット異性紹介事業を行ったとし
て、出会い系サイト規制法(インターネット異性
紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に
関する法律。2008 年法律 52 号による改正後のもの)
7 条 1 項・32 条 1 号に違反するとして起訴され
た事案である。被告人側は、「インターネット異
性紹介事業」(法 2 条 2 号) の定義があいまい不
明確であって憲法 31 条・21 条 1 項に違反し、ま
た、被告人を届出義務違反で処罰することはウェ
ブサイト運営者・利用者の表現の自由・集会結社
の自由を侵害し、運営者にサイト上の書き込みの
検閲を強いるものであって憲法 21 条 1 項・2 項
に違反するなどと主張した。
第一審判決(東京地判 2010〔平成 22〕・12・16
公刊物未登載、LEX/DB 文献番号 25502937) は、本
法の規定は刑罰法規としての明確性に欠けるとこ
ろはなく憲法 31 条に違反しないとし、また、本
件届出制度は都道府県公安委員会によるインター
ネット異性紹介事業者に対する監督を実効的なも
のとし、ひいては同事業の利用に起因する児童買
春その他の犯罪から児童を保護し、もって児童の
健全な育成に資するという本法の目的(1 条)を
達成するために必要かつ合理的な規制として許容
vol.15(2014.10)
判決の要旨
「本法は、インターネット異性紹介事業の利用
に起因する児童買春その他の犯罪から児童(18
歳に満たない者)を保護し、もって児童の健全な
育成に資することを目的としているところ(1 条、
2 条 1 号)、思慮分別が一般に未熟である児童を
このような犯罪から保護し、その健全な育成を図
ることは、社会にとって重要な利益であり、本法
の目的は、もとより正当である。そして、同事業
の利用に起因する児童買春その他の犯罪が多発し
ている状況を踏まえると、それら犯罪から児童を
保護するために、同事業について規制を必要とす
る程度は高い」。
本件届出制度は、氏名、住所、広告または宣伝
に使用する呼称、事務所の所在地、連絡先等の事
項の都道府県公安委員会への届出を義務づける
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新・判例解説 Watch ◆ 憲法 No.82
効的に行う上で事業者に関する事項を把握する必
要があることが理由とされている2)。そこで導入
された事業者の責務・義務には、児童による利用
防止の一般的努力義務(3 条 1 項)、フィルタリン
グ等提供の努力義務(3 条 2 項) に加え、児童利
用禁止の明示(10 条)、児童でないことの確認義
務(11 条)、禁止誘引行為(6 条・33 条) にかか
る情報(書き込み) の公衆閲覧防止(削除) 措置
(12 条)等があり、これらを含む法令違反に対し
ては公安委員会による指示(13 条)、事業停止命
令(14 条 1 項)・廃止命令(14 条 2 項)、報告・資
料の提出の求め(16 条)等が認められた3)。改正
法の立案時には、公衆閲覧防止措置の義務づけが
サイト利用者の表現の自由を侵害しないかが検討
されており4)、そこでは、同義務は利用者の表現
の自由を制約するが、そもそも児童による出会い
系サイトの利用自体が禁止されている以上、児童
によるまたは児童に対する書き込みの制約も当然
であり、さらに児童によるサイト利用禁止は合理
的関連性の基準に照らして合憲(ゆえに同義務も
5)
合憲)と説明されていた 。同義務は表現内容規
制にあたる可能性が高く、この合憲論には強い疑
問があるが、届出義務違反のみが問われた本件に
おいて最高裁が憲法 21 条適合性を判断した背後
には、本件届出制が表現の自由に関わる規制の仕
組みの一部であるという認識があったように思わ
れる。
が、
「このような事項を事業者自身からの届出に
より事業開始段階で把握することは、上記各規定
に基づく監督等を適切かつ実効的に行い、ひいて
は本法の上記目的を達成することに資するもので
ある」
。
「他方、本件届出制度は、インターネットを利
用してなされる表現に関し、そこに含まれる情報
の性質に着目して事業者に届出義務を課すもので
はあるが、その届出事項の内容は限定されたもの
である。また、届出自体により、事業者による
ウェブサイトへの説明文言の記載や同事業利用者
による書き込みの内容が制約されるものではない
上、他の義務規定を併せみても、事業者が、児童
による利用防止のための措置等をとりつつ、イン
ターネット異性紹介事業を運営することは制約さ
れず、児童以外の者が、同事業を利用し、児童と
の性交等や異性交際の誘引に関わらない書き込み
をすることも制約されない。また、本法が、無届
けで同事業を行うことについて罰則を定めている
ことも、届出義務の履行を担保する上で合理的な
ことであり、罰則の内容も相当なものである。
以上を踏まえると、本件届出制度は、上記の正
当な立法目的を達成するための手段として必要か
つ合理的なものというべきであって、憲法 21 条
1 項に違反するものではないといえる。このよう
に解すべきことは、当裁判所の判例……の趣旨に
徴して明らかである」。
判例の解説
二 憲法判断の枠組みと内容
1 判断枠組み
一 問題の所在
本判決は、出会い系サイト規制法上の届出制
を憲法 21 条 1 項に違反しないと判断したが、こ
の種の事業者規制(風営法上の無店舗型電話異性
本判決は、本法の目的とそのために規制を必要
とする程度、規制の具体的態様・程度等を検討し
た上で、目的の正当性と手段の必要性・合理性を
肯定して合憲の結論を導いている。これは、基準
の定立とあてはめという形で明示してはいないも
のの、憲法判断の枠組みとしては、従来の最高裁
判例における表現の自由規制に関する一般的な手
法である利益衡量論を採用したものと理解でき、
新味は乏しい。
ところで、最高裁判例の調査官解説で判例にお
ける利益衡量論の採用が説明される際、学説が主
張するような「その他の厳格な基準ないしはその
精神を併せ考慮したもの」もみられるが、具体的
事案の「処理に必要なものを適宜選択して適用す
紹介営業についての届出制〔31 条の 17・52 条 4 号〕
など参照) の 22 条 1 項・29 条(営業の自由) 適
合性ではなく、21 条 1 項適合性について判断し
たことはいささか奇異の印象を与える。本件で
は被告人側が一審段階から 21 条違反を主張して
おり1)、下級審も一定の判断を示していたとはい
え、最高裁が本件のどこに自らの判断を示すべ
き問題を見出したのかが問われよう。
罰則を伴う本件届出制は 2008 年の本法改正で
導入されたものであり、事業者に対する監督を実
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新・判例解説 Watch
新・判例解説 Watch ◆ 憲法 No.82
るという態度」をとっているとされている6)。こ
の説明の当否はそれ自体検証が必要であるが、本
判決が
「厳格な基準ないしはその精神を併せ考慮」
しているかが問題となる。泉佐野市民会館事件7)
など「厳格な基準ないしはその精神」が考慮され
たとされる判決と対比しても、判文上そうした「考
慮」をうかがわせる痕跡は見当たらず、規定の漠
然不明確性の主張についても「前提を欠く」とし
て一蹴している。そうすると、本件では「厳格な
基準ないしはその精神を併せ考慮」するまでもな
い(ないし言及する必要がない)としたものとみら
れるが、この妥当性は、本件届出制についての具
体的判断に即して検証されなければならない。
提とし、その範囲内でのものであるようにもみえ
る。本判決は、公衆閲覧防止措置を含むこれらの
禁止・義務の合憲性について明示的には判断して
おらず、今後の事案において争う余地は残されて
いるが、その際に本判決と区別されうるかは定か
でない。
このように、本判決が「届出自体」に判断対象
を限定して事業者・利用者の表現の自由に対する
侵害がないと理解しているとすれば、「厳格な基
準」を採用するまでもなく、利益衡量の結果、本
件届出制が 21 条 1 項に違反しないとの結論は当
然であることになろう。しかし、本判決が、本法
上の規制の仕組みを全体としてとらえ、そこに
おける表現制約の可能性に留意したからこそ憲
法 21 条 1 項適合性の審査に踏み込んだのだとす
れば、届出によって事業者が本法の用意する規制
の枠組みに組み込まれ、サイト上の表現にいかな
る影響がもたらされるかについて、よりきめ細か
い判断を行う方途もありえたのではないか(本判
2 本件届出制についての判断
本判決は、本件届出制について、①立法目的の
正当性、②規制の必要性、③目的達成手段として
の合理性を順に検討している。このうち、①立法
目的(法 1 条の「児童の健全な育成に資すること」)
の正当性と②規制の必要性をあっさり承認した点
については、引用されている福岡県青少年保護育
成条例事件判決8) のほか、岐阜県青少年保護条
例事件等9)を踏襲したものであろう。
一方本判決は、③合理性の判断に際し、本件届
出制がインターネット上の表現に関し、情報の性
質に着目する規制であることは認めつつも、実質
的な表現の自由侵害はないと理解しているように
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10)
「届出自体」
思われる 。これは第 1 に、本判決が、
(強調引用者)によって事業者によるサイト上の説
明文言・利用者による書き込みの内容等は制約さ
れないとした点に表れている。本判決は、本法の
仕組みを説明する際、立案時に問題とされた公衆
閲覧防止措置については事業者の「責務や義務等」
に包括しており(控訴審判決は 12 条等事業者の義
務を列挙していた)
、利益衡量の際にもこれらの義
務規定は「併せみ」るにとどめている。さらに、
被告人による法 6 条・12 条・33 条等の違憲の主張、
本件届出制がサイト上の文言編集・書き込みの削
除を強要するものとする憲法 19 条・21 条 1 項・
2 項違反の主張については、いずれも「前提を欠
く」として簡単に排斥している。
もっとも第 2 に、本判決が「制約されない」と
した諸行為は、禁止誘引行為・児童による利用防
止のための措置等本法上の禁止・義務の存在を前
vol.15(2014.10)
決は、事業者・利用者の書き込み等と事業者による
児童による利用防止のための措置を一括して扱って
いる)。そこには立ち入らなかったことによって、
本件を憲法 21 条 1 項の問題として扱った意義も
不分明になっていよう。
三 先例引用の趣旨
本判決は、以上の合憲判断は 5 つの大法廷判
決の「趣旨に徴して明らか」とする。こうした「徴
する判決」の問題性はおくとして、これら先例引
用の趣旨が検証されなければならない。
本判決が引用する大法廷判決のうち、よど号記
11)
12)
事抹消事件判決 と成田新法事件判決 は、利
益衡量論という判断枠組みを示したものとして
13)
も
頻繁に引用されており、税関検査事件判決
14)
利益衡量を行っていると説明されているので 、
近時の判例引用のありようを前提とする限り、利
益衡量の枠組みを共有する本判決がこれらを引用
することに違和感はない。また、本法の立法目的・
規制対象(禁止誘引行為) が性的自由に関わるこ
とからすれば、ストーカー規制法を憲法 21 条 1
項に違反しないとした判決と同じく、福岡県青少
年保護育成条例事件・税関検査事件両判決の引用
15)
も理解は可能である 。
16)
の引用は唐突の感を
他方、都条例事件判決
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免れない。本件サイト上の交流が「公共の場所に
おける集会」にあたるとしても、1990 年代以降
の最高裁判決で同判決は引用されておらず、同判
17)
決の先例的価値には疑問の余地がある 。それ
だけに、本判決があらためて先例として同判決を
引用した趣旨が問題となる。
従来の最高裁判例では、本件で問題となったよ
うな届出制自体の合憲性を正面から判断した例は
乏しい。そこで本判決は、都条例における許可制
を「実質において届出制とことなるところがない」
とした上で、
「表現の自由が不当に制限されるこ
とにならなければ差し支えない」とした都条例事
件判決を引用した可能性が考えられる。もっとも、
同判決が合憲としたのは「表現の自由として憲法
によって保障さるべき要素」を持つ集団行動自体
を「許可」にかからしめる制度であり、前述のよ
うに本判決が本件届出制による表現の自由の制約
をみていないとすれば、同判決とは異なる事案類
型とみるべきではないか。にもかかわらず同判決
を引用するのであれば、許可か届出かという「概
念乃至用語のみ」によって判断すべきでないとし
た同判決を「届出」という「概念乃至用語」のゆ
えに引用したことになるか、あるいは「表現の自
由が不当に制限されることにならなければ差し支
えない」という著しく広範な一般論を引用しただ
けのことになりかねない。
2009 年)28~29 頁。
3)ただし、これらの措置の対象となる事業者は届出の有
無を問わないとされる。同上 57、65、67 頁。
4)福田正信「インターネット異性紹介事業を利用して児
童を誘引する行為の規制等に関する法律の一部を改正す
る法律について」警論 61 巻 9 号(2008 年)101~102 頁。
法的担保手段を伴う閲覧防止義務の法定は本改正法が最
初であるが(同 93 頁)、この種の「情報媒介者の安易な
規制が、インターネット上の表現の自由の死命を制する
『劇薬』である」との指摘がある。岡村久道編著『インター
ネットの法律問題』(新日本法規、2013 年)115 頁[宍
戸常寿]。
5)福田・前掲注4)101~102 頁。猿払事件・最大判 1974(昭
和 49)・11・6 刑集 28 巻 9 号 393 頁を参照している。
6)後出成田新法事件の調査官解説である千葉勝美・最判
解民事篇平成 4 年度 12 事件 242 頁。堀越事件・最二小
判 2012(平成 24)・12・7 刑集 66 巻 12 号 1337 頁千葉
補足意見、岩崎邦生「判解」曹時 66 巻 2 号(2014 年)
529 頁も参照。
7)最三小判 1995(平成 7)・3・7 民集 49 巻 3 号 687 頁。
近藤崇晴・最判解民事篇平成 7 年度(上)12 事件 289~
293 頁参照。
8)最大判 1985(昭和 60)
・10・23 刑集 39 巻 6 号 413 頁。
9)最三小判 1989(平成元)
・9・19 刑集 43 巻 8 号 785 頁、
最三小決 2012(平成 24)・6・5 集刑 308 号 3 頁、LEX/
DB 文献番号 25444753 参照。この種の立法目的につい
ては議論の余地があるが、さしあたり鈴木秀美「インター
ネット上の有害情報と青少年保護」高橋和之ほか編『イ
ンターネットと法〔第 4 版〕』(有斐閣、2010 年)参照。
10)三段階審査の用語でいえば、介入を否定したことにな
ろう。小山剛『「憲法上の権利」の作法〔新版〕』
(尚学社、
2011 年)41 頁以下参照。
四 本判決の射程
本判決はインターネット上の表現に関わる事
業者規制の一部としての本件届出制の憲法 21 条
1 項適合性を承認したが、その判断は届出制に限
定されている。一方、改正法施行後本法上の出会
い系サイトを利用して児童買春等の犯罪被害者と
なった児童の数は減少しているが、SNS 等非出会
い系サイトを利用した被害者数は増加しており、
非出会い系サイトについても法規制の可否が検
18)
討課題になりうる 。そうすると、児童の保護・
健全育成という本法の目的との関係でも、本判決
の射程は限定的といえよう。
11)最大判 1983(昭和 58)
・6・22 民集 37 巻 5 号 793 頁。
12)最大判 1992(平成 4)・7・1 民集 46 巻 5 号 437 頁。
13)最大判 1984(昭和 59)
・12・12 民集 38 巻 12 号 1308 頁。
14)千葉・前掲注6)236 頁。
15)最一小判 2003
(平成 15)
・12・11 刑集 57 巻 11 号 1147 頁、
山田耕司・最判解刑事篇平成 15 年度版 24 事件 633 頁
参照。
16)最大判 1960(昭和 35)
・7・20 刑集 14 巻 9 号 1243 頁。
17)泉佐野市民会館事件判決は、新潟県公安条例事件判決・
最大判 1954(昭和 29)・11・24 刑集 8 巻 11 号 1866 頁
を引用するが、都条例事件判決は引用していない。別冊
ジュリ『憲法判例百選Ⅰ〔第 6 版〕』(有斐閣、2013 年)
は都条例事件判決を Appendix で扱っている(155 頁)。
18)福田正信「『出会い系サイト規制法』に係る法的論点
等に関する若干の考察」『講座警察法 第 2 巻』(立花書
●――注
房、2014 年)600~601 頁参照。
1)本件ではサイト運営者である被告人自らも利用者と交
流していたようであり、運営者が利用者の憲法上の権利
侵害を主張しうるかという論点は扱われていない。
神戸学院大学教授 塚田哲之
2)福田正信ほか『逐条出会い系サイト規制法』
(立花書房、
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