参加報告:5th ICG Summer School “Glasses: Formation, Structure, and Transport Properties” 東京工業大学大学院 理工学研究科 物質科学専攻 矢野研究室 修士 2 年 山浦考太郎 はじめに 初日 Internatinal Commission on Glass(ICG)主催の シェフィールド大学の J. Parker 先生、パリ第 5th ICG Summer School “Glasses: Formation, 六大学の L. Cormier 先生によるガラス形成とそ Structure, and Transport Properties” が、2013 年 7 の構造の評価方法に関する講義が行われた。ガ 月 8 日から 12 日にかけて、フランスのモンペリ ラス材料の特徴を再度確認し、その物性を決定 エにあるフランス国立科学研究センター する大きな要因である組成によって、作製方 (CNRS)で行われた。 法・条件がどのように異なるのかを実際の商業 会場である CNRS は南フランスのモンペリエ ガラスを例に示された。また、ガラスの構造を 空港から北西に直線距離でおよそ 10km、モンペ 知るための手法として、中性子回折、X 線回折、 リエ大学のほど近くに位置する。宿泊施設は X 線吸収分光法(XAS)の原理とそれらの特徴、ど Cité Universitaire Triolet という学生寮で、School のような構造がわかるかなどが解説された。 の会場まで徒歩で 20 分ほどかかる。最高気温は 自己紹介を兼ねて、参加者たちによる自分た 連日 29℃、雨はほとんど降らず、風に湿気は感 ちの研究内容の説明を 3 分程度の持ち時間で行 じられない。まさに 7 月初旬の南仏らしい天候 った。全体的にガラス材料の機械的特性をテー であった。日照時間は長く、22 時頃にようやく マにした研究が多かったように感じられた。そ 日が沈み始めることには驚かされた。 の後、会場から徒歩数分のワインバーで 31 人の School 参加者は、博士および修士の学 Welcome reception が開かれ、3 分間ではとても 生とガラス企業に勤める研究者で、産学入り乱 足りなかった研究紹介の続きをワイン片手に語 れた議論が行われた。フランス、トルコ、イギ ることができた。終了予定だった時刻を大幅に リス、ドイツ、イタリア、スペインとヨーロッ 過ぎて、議論と交流は夜遅くまで続いた。 パを中心とした顔ぶれで、日本からは私を含め 5 人が参加した。ガラス材料に携わる多彩な若 二日目 手研究者が集まった。School は講義とワークシ MK Consulting 有限会社の K. Bange 先生、モ ョップで構成されて、朝 8 時半から始まり、昼 ンペリエ第 2 大学の M. George 先生、レンヌ大 食と 2 回のコーヒーブレイクを挟み 17 時頃に終 学の J. C. Sangleboeuf 先生により、ガラスの腐食 了する。以下、5 日間の School の様子を簡単に と強度に関する講義が行われた。四点曲げ試験 だが報告させてもらう。 やビッカース硬さ試験によるガラスの機体的性 質の評価と、表面欠陥・温度・残留応力・ひず み速度などの条件が与える影響について解説さ れた。クラックの進展における水の腐食作用を、 AFM とデジタル相関法を用いたその場測定と 有限要素法による構造解析を用いて、ナノスケ ールで明らかにするという研究を知ることがで きた。 太陽光発電や情報記憶などの応用領域でガラ ス の 表 面 が 果 た す 役 割 を 、 企 業 に 勤 め る K. Bange 先生の立場から述べられた。さらに将来 写真 1 コメディ広場の様子 的なガラス材料の応用におけるロードマップも 示された。 田先生は、将来的には教室内の半数以上の人間 三日目 が数値シミュレーションを活用することになる クラウスタール工科大学の J. Deubener 先生、 だろうと述べ、その期待を表した。 アーヘン工科大学の R. Conradt 先生、J. Parker 授業終了後、初日の Welcome reception の会場 先生による、結晶析出を中心とした講義内容で であるワインバーで Conference dinner が開かれ あった。ガラス中での結晶の析出の理論と、そ た。南フランスの伝統的なロゼワイン(フランス れを制御して作製されたガラスセラミックスの からの参加者に教えてもらった)もふるまわれ、 実際についても触れた。また酸化物の液液分離 4 日間同じ教室で講義を受けた仲間同士、夕食 に関して、講義中にその場で計算して相図の予 の場は初日よりもさらに盛り上がったように感 想を立てるという授業も行われた。 じられた。 昼食を食べて午後からは自由時間となり、筆 者は他の参加者と連れ立って、モンペリエの中 最終日 心街であるコメディ広場へ向かった。ルイ 14 世 ワークショップは 6 班に分かれ、用意された の像がたたずむペルイー公園から、水道橋を眺 6 つのテーマを 1 つずつ担当し、プレゼンテー め、振り返れば凱旋門(パリのものより小さい) ションを行う、というものであった。二日目に が見える。北西部に網目のように広がる旧市街 テーマ発表と班分けが行われ、各日に与えられ 地には地元の人の御用達であろうお店が軒を連 た 2 時間半の時間で発表の準備をして、最終日 ね、お土産を物色しながら散策した。 に発表となる。三日目の午後は自由時間となっ ていたが、6 班すべて教室に残り、少しでも良 四日目 い発表にするべく、観光時間を割いて発表の準 この日、旭硝子の高田章先生が school に合流 備時間に費やしていた。 し、ガラス研究における原子シミュレーション 用意されたテーマは、ガラスとは何か?とい の重要性を説いた。授業の最後、この中で現在 う学問としてガラスを扱ったものから、バッチ の研究でコンピュータによる数値シミュレーシ 原料を変えることなくガラス作製コストを 20% ョンを用いている人はいるか、という問に対し 削るにはどうすればよいか?といった産業的な て手を挙げた参加者は数名程度であったが、高 テーマまで多彩なものであった。筆者の班は、 “Glass vs Ceramic hosts for waste storage” という 発表テーマで、放射性廃棄物の固化材料として のガラスとセラミックスの違いを、化学的・機 械的・熱的性質、固化する廃棄物の許容範囲、 立 食 形 式 の Welcome reception と Conference プロセスに基づくコストなどから考察した。最 dinner で、流動的に様々な人たちと会話するこ 優秀賞を獲得したのは、“Glass; best container for とができたことも大きい。人を饒舌にさせるお water” というテーマで発表した班で、ちょっと いしいワインがあったことは、英語が不得手な した芝居から始まるユニークなプレゼンテーシ 筆者に国際交流を促進させる効果があったに違 ョンであった。主に飲料中への有害物質の溶け いない。また授業間のコーヒーブレイクでも、 出しの観点からプラスチックとガラスの容器を 毎度違った組み合わせの参加者たちが言葉を交 比較し、ガラス容器の有用性を示した。 しているのが印象的で、産学・国籍を超えた交 流の場であった。 おわりに 最後に、渡航費の補助により、このような学 今回の Summer School は、交流の場として最 びと交流の貴重な機会を与えてくださった日本 良の環境であったと感じた。講義での質疑応答 セラミックス協会ガラス部会に心より感謝いた やワークショップでの議論はもちろんのこと、 します。 写真 2 集合写真
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