S2497

日本病理学会中国四国支部学術集会
第113回 スライドカンファレンス
S2497
肺異常陰影
石井 文彩[1] 木村 徳宏[1] 白上 巧作[2] 河野 裕夫[3]
池田 栄二[1]
1.山口大学大学院医学系研究科 病理形態学分野
2.山口大学医学部附属病院 第二内科
3.山口大学大学院医学系研究科 基礎検査学分野
症例:30代 男性
約12年前に、腹痛・下痢の精査にて、小
腸の縦走潰瘍・ポリポーシス・狭窄を認め、
Crohn病(小腸型)と診断された。
回腸末端の狭窄に対する腸管バイパス
手術やインフリキシマブ、アダリムマブにて
加療されるも、寛解に至らず、2年前より骨
盤内難治性膿瘍を認めている。
今回、喀血・血痰が出現し、胸部CTにて
両肺野に多発粒状影~結節状陰影を認め
たため、胸腔鏡下肺生検(配布標本)が施
行された。現在の他の症状としては、血尿
、発熱、下血、関節痛がある。
※ PR3-ANCAは33.9 U/ml と高値。
WBC 9220 /μl, Neutro 80%, Eosino 2%, CRP 9 mg/dl.
[腸管バイパス術]
拡張した回腸
団子状に癒着
した回腸
胸部単純X線写真(↑)
胸部CT(→)
胸腔鏡下左肺部分切除
配布標本
小膿瘍
高度の好中球浸潤
壊死巣
Bronchocentricityははっきりしない(EVG染色)
Segmentalな血管壁の破壊(EVG染色)
EVG
EVG
※Ziehl-Neelzen染色・Grocott染色において、抗酸菌・真菌はみいだせず→感染の除外
<結節状病変の辺縁部>
肺胞腔内の器質化、リン
パ球・形質細胞の浸潤
瘢痕様の部
ヘモジデリンを貪食したマクロファージ
本症例の所見のまとめ
●画像上、多発性病変
●好中球からなる小膿瘍と壊死
●小型の類上皮肉芽腫(少数)
●血管の破壊像や血管炎
●Bronchocentricity, angiocentricityははっきりしない
● 器質化、瘢痕状の線維化がみられる
● 組織標本上、細菌・抗酸菌・真菌・異物は認めず
鑑別診断
1) Crohn病の肺病変
2) Wegener肉芽腫症 + 炎症性腸疾患類似症状
3) Crohn病とWegener肉芽腫症の合併
13例
10例:Wegener肉芽腫症(肺病変 6例、肺以外3例):Vaszar LT, et al. Coexistent
pulmonary granulomatosis with polyangiitis (wegener granulomatosis) and crohn
disease. The American journal of surgical pathology. 2014; 38: 354-9.
1例: Wegener肉芽腫症(皮膚・鼻腔など): Jacob SE, et al. International journal
of dermatology. 2003; 42: 896-8.
1例 : Wegener肉芽腫症(鼻腔): Codish S, et al. The Israel Medical Association
journal : IMAJ. 2000; 2: 630-1.
1例 : Wegener肉芽腫症(鼻腔,中耳、腎など): Wechsler B, et al.. [Crohn's
disease associated with Wegener's granulomatosis (author's transl)].
Gastroenterologie clinique et biologique. 1980; 4: 356-61.
4) 感染症(真菌・抗酸菌・異物)
鑑別診断① クローン病の肺病変
頻度 約0.4% Rogers BH, et al. Journal of chronic diseases. 1971; 24: 743-73.
潜在的な機能異常は30-60% 複数
組織像
●肉芽腫性細気管支炎
Freeman HJ, et al. Canadian journal of gastroenterology. 2004; 18: 687-90.
●非乾酪性肉芽腫
Casey MB, et al. The American journal of surgical pathology. 2003; 27: 213-9.
●Necrobiotic nodule
Freeman HJ, et al. Canadian journal of gastroenterology. 2004; 18: 687-90.
●BOOP (bronchiolitis obliterans organizing pneumonia)
Carratu P, et al. Canadian respiratory journal : journal of the Canadian
Thoracic Society. 2005; 12: 437-9.
●好酸球浸潤巣 Camus P, et al. Medicine. 1993; 72: 151-83.
※ 薬剤性(特にMesalamine(5-ASA))
Foster RA, et al. Inflammatory bowel diseases. 2003; 9: 308-15.
文献より
Necrobiotic nodule
肉芽腫
Casey MB, et al. The American journal of surgical pathology. 2003; 27: 213-9.
Freeman HJ, et al. Canadian journal of gastroenterology. 2004; 18: 687-90.
肉芽腫
BOOP
鑑別診断② Wegener肉芽腫症
多発血管炎性肉芽腫症(旧名 ウェゲナー肉芽腫症)の厚生省難治性血管炎診断基準1998年修正
1 主要症状
(1) 上気道(E: Ear)症状:鼻(膿性鼻漏、出血、鞍鼻)、眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、
口腔・咽頭痛(潰瘍、嗄声、気道閉塞)
(2) 肺
(L: Lung)症状:血痰、咳嗽、呼吸困難
(3) 腎
(K: Kidney)症状:血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧
(4) 血管炎症状
① 全身症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6カ月以内に6㎏以上)
② 臓器症状:紫斑、多関節炎(痛)、上強膜炎、多発性神経炎、虚血性心疾患
(狭心症・心筋梗塞)、消化管出血(吐血・下血)、胸膜炎
2 主要組織所見
①
E、L、K の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎
②
免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
③
小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎
3 主要検査所見
PR3-ANCA(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern、C-ANCA)が高率に陽性を示す。
4 判定 確実(definite)
Wegener肉芽腫症の診断は難しく、診断基準を満たしても、違う疾患であることがある
本症例においてPR3-ANCA高値から
すぐWegener肉芽腫症と言えるのか?
様々な病態がPR3-ANCA高値になりうる
●Wegener肉芽腫症
活動型:感度91%、特異度99%
非活動型:感度63.5%、特異度99.5%
本症例
骨盤内膿瘍、回腸直腸瘻、回腸皮膚瘻
●感染症
黄色ブドウ球菌、パルボB19ウイルス、
クリプトコッカス、肺結核、非定型性抗
酸菌症
日本胸部臨床(0385-3667)68巻4号 Page366-373(2009.04)
●感染症以外
炎症性腸疾患(Crohn病 2.7%, 潰瘍性大
腸炎 29.2%)、顕微鏡的多発血管(50%)、
アレルギー性肉芽腫性血管炎(10%) 、SLE
、関節リウマチ など
綜合臨床56巻増刊 Page1529-1535(2007.04)など
Arias-Loste MT, et . Clinical reviews in allergy & immunology.
2013; 45: 109-16.
造影CT
演者診断
壊死・好中球浸潤・血管炎・肉芽腫を示す
nodular inflammationという組織所見からは
Wegener肉芽腫症を考えた。
しかし、Crohn病とWegener肉芽腫症の肺病
変の合併は極めて稀であり(文献上、過去6例)、
Crohn病の肺病変であるという可能性は否定
できない。