モルダウ(チェコ)と エルベ(ドイツ)に沿って 第1編 SEAJ ジャーナル読者の皆様には、我が人生の旅の一端 ある姿を紹介させていただいたが、いささかでも興味を抱 いて読んでいただけたのではと思っている。欧州での旅が らす裏街道、思い掛けない遺産を発見する事もしばしばで あった。今回は旧東欧共産圏を流れるモルダウ川とエルベ 川に沿っての小旅行、これもドイツ・ミュンヘンより気軽 にアクセスできるという事で企画した。 第1編はボヘミア平原を流れるモルダウ(ヴルタヴァ) 川の流れと共に拓けた幾つかの魅力的な都市の姿を、第2 編は本流となるエルベ川とその川沿いに築かれた自然と文 化都市遺産を紹介することにしよう。チェコ・ボヘミアの 森より北欧州の北海へ注ぐまで、1,200KM の川の流れに沿っ た車での旅だったが、教科書・観光案内書には無い隠れた 魅力を発見できた小旅行であった。 紹介するスポットは南から北へ、ボヘミアの森、チェスキ・ クルムロフ、チェスキ・ブジェヨヴィツェ、フルボカ城、チェ コの首都プラハ、ザクセンスイス、ザクセン州都ドレスデ ミュンヘン 旅のルート ン、陶磁器の町マイセン、ルーテルの町ヴィッテンブルグ、 変貌する都市マグデブルグを10大スポットとし、旅の終焉 はドイツ首都ベルリンとポツダムの世界遺産物であった。 1.モルダウ川の水源、ボヘミアの森 モルダウ(Moldau)の名前はチェコの作曲家スメタナが は、6つの交響詩はボヘミアとモルダウ川の雰囲気を音で 見事に紹介している。現地語(チェコ語)ではヴルタヴァ (Vltava)川、モルダウ川はドイツチェコ国境シュマヴァ (Sumava)山地とバイエルンの森をその源流としており、 およそ430KM 流れ下りムニェルニーク市(Melnik)にてエ ルベ(ラベ)川に合流している。 ミュンヘン北より東北へ走るアウトバーン A92はバイエ ルンの森へ向かって100KM 余、Deggendorf 市手前にて A3 に乗り換え僅かに南下して国境の町 Passau へ、1時間半で ここに到着する。ここから国道を北上するとバイエルンの 森、自然国立公園の入り口となり森林地帯の様相を色濃く 現わしてくる。やがてドイツ・チェコの国境地帯、名称も ボヘミアの森とかわり1,300−1,400M 級のなだらかな山々か らなるシュマヴァ山地が姿を現わす。この山地はバイエル ンとボヘミアを地理的にも文化的にも分水嶺となってして おり、ボヘミアの森の水を集めたリプノ湖(Lipenska)は チェコ・ドイツを流れるモルダウ川とエルベ川 モルダウ川に沿ってのボヘミア小旅行の出発地点となる。 SEAJ Journal 2008. 9 No. 116 61 街の外にある駐車場に車を止め、散策をはじめる。見上 げる城の裏側より旧市街へ通ずる門をくぐるとヴルタヴァ 川に架かる橋へと辿り着く。橋より高く眺めるクルムルフ 城と隣接する塔、そして清らかな川の流れとそれらを囲む 緑は多彩な色の芸術をみせてくれた。 旧市街の町並み、川辺より眺める教会(St.Vitus)、旧市 街東入り口よりの眺め、旧市街の中央広場で一休み、広場 を出て円形タワーを眺めて進みその塔に登る。塔へ登り頂 上より街全景を眺めるとき、クルムロフ城と美しくも蛇行 するヴルタヴァ川が創りだした中世都市の美しさは書き物 では表現できない感動を与えてくれる。川べりで日傘の下 での昼食、城と川の流れを前に寛いだひと時は名物チェコ ビールと料理の味を倍増させてくれた。 リプノ湖とボヘミアン森 2.世界文化遺産チェスキ・クルムロフ (Cesky Krumlov) この中世風小都市へのアクセスは隣国オーストリアの都 市リンツ(Linz)からが良いのかも、リンツ市より欧州街 道 E-55を北へ走ること80KM、2時間程のドライブで到着 する。ボヘミアの森からのドライブものんびりとした風景 を眺めながら楽しめ、リプノ湖畔チェルナよりは1時間弱 で到着する。 中世都市クロムロフの発展は13世紀ゴシック調のクロム ルフ城の建築に遡る。城の内部は16世紀にルネッサンス風 にて改築されその後17−18世紀にはバロック調にも納めら れて500年前の容姿がそのまま残されているのが素晴らし い。後に紹介するプラハ城に次ぐ大きさと豪華さを誇る城 クルムロフ城とヴルタヴァ川 と、蛇行するヴルタヴァ川を巧みに利用した街造り、旧中 央広場と高台より眺める南ボヘミアの風景などには魅力が いっぱい詰まっており、1992年には街全体が世界文化遺産 として登録されている。 3.南ボヘミアの州都ブジェヨヴィツェとフルボカ城 北へ向かって流れるヴルタヴァ川と別れ国道を北東に 25KM 程走ると、南ボヘミアの州都であるチェスケ・ブ ジェヨヴィツェへ到着する。人口10万都市であることから してチェコとしては中核都市と云えよう。この地が北米で は大衆ビールとしてその名を知られているバドワイザー ビールの故郷と知る人は少ないのでは、ブジェヨヴィツェ (Budejovice)を英語では Budweis と呼ばれここで生産さ れる Budweiser-Badvar ビールをオリジナルブランドとも 主張している。郊外の近代的な工場は、伝統を守っている 他の有名なチェコビール Urquell-Plzen 工場のような趣がな いのは残念ではあるが。 中世風なる都市の姿は広い中央広場を囲むいくつかの建 物より垣間見られ、その全貌は広場の片隅にある BlackTower より見下ろせる。郊外には幾つかの見所があり、そ の一つはフルボカ城(Hluboka nad Vltavou)で10KM 北 にその姿を見ることが出来る。13世紀建築の古城は19世紀 カラフルな旧市街中央広場 62 SEAJ Journal 2008. 9 No. 116 になって英国ウインザー城を模したような姿に再構築され モルダウ(チェコ)とエルベ(ドイツ)に沿って 州都ブジェヨヴィツェの入り口 Badvar ビール工場のビアホール ブジェヨヴィツェ中央広場 フルボカ城全景 ており、チェコで最も美しい城とも云われている。西に 通りを走りだして間もなくポリスカーに停止を指示された。 12KM、ここには世界文化遺産で知られているホラショヴィ 気がつかずに通行禁止道路上を走っていたのであり、しか ツェ村があるが、ここに立ち寄れなかったのは少々残念で たなく近くの辻に停車しての罰金支払いと相成った。支払 はあった。郊外に多くの人口池(湖)が散在しており、こ いが済めばポリスも友達(?)、道不案内の旅人でありホテ れらはいずれも鯉の養殖に使われているのだ。この地で一 ルへの道を教えて貰うこととなった。旧市街の一方通行と 泊、翌日はチェコの首都プラハへ向けての旅となる。 細い道でもあり説明も簡単でない、最終的にはポリスカー に先導して貰いホテル近くまで到着と相成った。 4.東欧の宝、百塔の都、世界遺産チェコの首都プラハを 訪ねて プラハの歴史は10世紀にまで遡る。中世には中央ヨーロッ パ(東ヨーロッパ)の中心都市として栄枯盛衰を繰り返し 宿泊ホテルを早朝に出発、ヴルタヴァ川に架かる橋を てきた。第2次大戦後はチェコスロヴァキア社会主義共和 渡り郊外へ通ずる国道を北上する。目的地プラハまでは 国、東欧共産主義の崩壊後1993年にチェコ共和国の首都と 150KM、国道の一部は高速道路化の工事中で迂回もあり3 してその重要位置を歴史に残す人口120万の大都市である。 時間弱のドライブでプラハ市内に到着となる。 市の中央を南北に流れるヴルタヴァ川を挟んで数え切れな プラハは以前市内をドライブした経験もあり、予約して いほどの歴史を刻んだ建築遺産が点在している。数日の滞 あるホテルには地図を頼りに問題なく辿り着けるはずで 在で歴史と文化その上に築かれた芸術を鑑賞すると共に、 あったが、予想もしてないハプニングが待ち構えていた。 郷土料理とチェコビールを楽しめれば最高であろう。一泊 ホテルは旧市街の外れに、中央大通りより外に出るトラム にての限られた観光ではあったが、結構プラハを知った気 SEAJ Journal 2008. 9 No. 116 63 プラハのパトカーに道案内を 分になったのは嬉しい。 城塞よりヴルタヴァ川を望む シンボルである二つの塔を抱いたテイーン聖母教会と天文 プラハ城がその中核をなすフラッチャニ要塞地区、ヴル 時計塔がある旧市庁舎など、兎も角多くの観光客で賑わっ タヴァ川の西に位置し市街全体を眺めることの出来る高台 ていた。東欧の宝庫プラハには数え切れない程の中世より である。王宮と聖ヴィート大聖堂を中心として周囲には幾 近世までの芸術が溢れており、一泊の滞在では世界文化遺 つかの教会と美術館そして宮殿と庭園が凝縮されており、 産を極僅かしか見ることが出来ないのは残念至極ではあっ その建築様式と美術様式はロマネスクに始まりゴシック・ た。 ルネッサンス・バロックと見事に積み重なっており正しく 宿泊は旧市街のはずれで、豪華なホテルではないものの 東欧の宝であろう。城塞より眺めるヴルタヴァ川と百塔で 最上階で屋上ベランダに出られるスイート式の大部屋がア 賑わうプラハ市街、遠く広がるボヘミア平原の景色は、短 レンジされていた。日が暮れて旧市街の一角に地下レスト い時間ながらも得がたいものであった。ここプラハ城には ランを探しだし、地場料理と地ビールをたっぷり楽しんだ。 35年ほど前に出張で訪れてはいるが、記憶は全く薄らいで 就寝前、屋上ベランダにてプラハの夜景を暫し眺めつつリ おり感激を新たにした次第である。 ラックスする中、エルベ川沿いをドライブする明日のザク 城塞の裾にある古き中心地区のマラー・ストラナにも聖 ミクラーシュ教会を中心に多くの遺産が散在している。こ こよりヴルタヴァ川に架かる芸術的なカレル橋を渡ると旧 市街、プラハの歴史・建築・美術。モニュメントがぎっし セン州の旅を語りあった。 第2編のザクセン州(ドイツ)エルベ川沿いに点在する 遺産探索の旅は次の機会に紹介する。 (元広報部会 松本 俊吾) りと詰まった宝庫である。旧市街広場の周りにはプラハの プラハ城とカレル橋 64 SEAJ Journal 2008. 9 No. 116 聖ヴィート大聖堂 モルダウ(チェコ)とエルベ(ドイツ)に沿って 碧きヴルタヴァ川 ストラナ塔より眺める旧市街の百塔の数々 カレル橋と彫像と旧市街の塔群 テイーン聖母教会 豚肉とソーセージ野菜の串焼き 地ビールのリッタージョッキで乾杯 SEAJ Journal 2008. 9 No. 116 65
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