保健医療経営大学紀要 № 3 23 ~ 30(2011) <研究ノート(Research Note)> 村落共同墓地の法的性格 丹羽 崇之 要 旨 村落共同体型の墓地においては、墓地使用権もしくは墓地所有権をめぐり紛争を生じることがある。墓地使用権は、村 落の構成員としての資格に基づいて取得するものであるから、入会権もしくは入会権類似の権利といえる。また、墓地所有 権が誰に帰属するのかが明確でないことも多く、その法的性格について、墳墓の所有者集団が墓地所有権を有する場合に は、共有の性質を有する入会権(民法 263 条)であり、第三者が所有する土地上に墓地がある場合は共有の性質を有しな い入会権(同 294 条)である。したがって、各地方の慣習に従うほか、前者については共有の規定が適用され、後者につ いては地役権の規定が準用されることになる。 Keywords:入会権、総有 はじめに 村落の構成員としての資格に基づいて生じるものである 「墓地」とは、墳墓を設けるために、墓地として都道府 から、入会権もしくは入会権類似の権利である。したがっ 県知事の許可を受けた区域をいい、 「墳墓」とは、死体 て、墓地使用権と入会権の関係が問題となる。また、他 を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設をいうとされる(墓 の類型の墓地と異なり、村落共同型の墓地では、墓地所 地、埋葬等に関する法律 2 条) 。また、大阪高判昭和 52 有権が誰に帰属するのかが明確ではなく、紛争を生じる 年 1 月 19 日(判時 860 号 163 頁)は、 「墓地」とは、あ ことがある。そこで、村落共同型墓地の法的性格につい る者がその区域内で墳墓の設置に着手することにより、 て、判決をよりどころに検討することにしたい。 あるいは他人に墳墓を設けさせる目的でその区域内の土 地を分譲し若しくは使用権の設定に着手することによ 1 墓地所有権と墓地使用権 り、墳墓を設けることに利用されることが確定された土 ⑴まず、墓地使用権、墓地所有権および墳墓の所有権の 地の区域をいう、とする。 関係を検討する。 墓地にはいくつかの形態があり、その法律関係もそれ 〔1〕鹿児島地判昭和 60 年 10 月 31 日(判タ 578 号 71 頁) ぞれに異なる。墓地の所有者が国または地方公共団であ X部落は古くから各戸の世帯主で構成される機関があ る場合とそれ以外の場合により、公有墓地と私有墓地に り、昭和 20 年代以降は「公民館」と呼ばれる組織にか 区別される。また、使用者が不特定多数に及ぶ場合とそ わり、その代表者は「公民館長」と呼ばれるようになっ うでない場合により、共葬墓地と非共葬墓地に区別され た。明治初年頃から部落全住民の共同所有にかかる土地 る。あるいは、墓地の経営主体により、①国または地方 建物等の財産を有し管理してきた。本件墓地は江戸期よ 公共団体が所有する墓地、②霊園等の法人が経営する墓 りX部落の共同墓地として使用されてきた。明治 22 年 地、③寺院が経営する寺院型墓地、④村落(共同体)住 土地台帳制度が発足した頃、Aの所有名義に登録され、 民が共同で管理運営する墓地(村墓) 、⑤同族又は血族 昭和 35 年不動産登記法の改正により土地台帳と不動産 集団が管理運営する墓地、⑥個人が自己所有地内に設け 登記簿の一元化が図られ、その際もAの名義で表示され る墓地に分類される 1。 た。Aの相続人Yは、本件土地が自己の土地であると主 墓地使用権は墳墓の所有者が共葬墓地において、墳墓 張し、所有権保存登記をなした。これに対し、X部落は 所有のために限定された区域の土地を使用することので 本件土地がX部落構成員全員の総有に属する旨の確認を きる財産上の権利である。 村落共同体型墓地の使用権は、 求め、所有権保存登記の抹消と、X部落代表者B名義に ― 23 ― 丹 羽 崇 之 更正登記手続をなすことについて承諾するよう求めた。 ことができる、として控訴を棄却した。 判決は、本件土地がX部落という権利能力なき社団の 所有に属し、 部落の構成員全員に総有的に帰属するとし、 ⑵墓地所有権と墓地使用権は、その本質が異なる 2。墓 Yの保存登記は無効であるとして、Xの請求を認めた。 地所有権は墓地として使用または利用される土地の所有 権を意味するから、墳墓の所有権を含むものではない 〔2〕大阪高判昭和 63 年 12 月 22 日(判タ 695 号 184 頁) (墓埋法 2 条 5 項)。そこで、墳墓の所有者が他人の土地、 甲地区は、明治時代乙村と称し、18 か所の墓地が存 または他人と共有する土地において墳墓を所有するため 在した。このうち本件土地は徳川時代から埋葬地として にはその土地を使用する権利がなければならない。この 使用されてきたが、土地台帳にAが所有者として表示さ ような意味で、墓地所有権と墳墓の所有権は別個の権利 れ、登記簿には家督相続人Bのため所有権保存登記がな と解される 3。 された。Xら及びその祖先は「墓くご」なる地域的、慣 村落共同型墓地の場合、所有権が誰にあるのか明確で 習的な組織を構成して本件墓地の使用管理等を行ってき ないことが多く、このことが紛争のもととなることが たが、平等の共有持分を有するとして、登記簿上の所有 ある 4。その法的所有形態には、⑴村落有(字、組等) 、 名義人Yらに対し、共有持分権の確認を求める訴えを提 ⑵村落住民の個人有または共有、⑶村落住民以外の者の 起した。 個人有または共有、⑷国有または公有があるとされる 5。 第一審判決(神戸地伊丹支昭和 61 年 9 月 8 日)は、 〔1〕 〔3〕は、共同墓地の所有権が権利能力なき社団(法 Xらの請求を認めたが、Yらは本件土地の所有名義は代 表者名義ではなく、個人所有の土地であると主張して控 人格なき社団)としての地域住民共同体にあるとしたが、 〔2〕は証拠上認めがたいとしてこれを否定し、墓地使用 訴した。 権を認めるにとどめている。これらの裁判例は、いずれ 控訴審判決は、 「墓くご」は伝統的、慣習的な人的組 も墓地所有権が登記簿上の名義人にあるのか、地域住民 織集団であるが、代表者の定めはなく、組織性も弱いか 共同体にあるのかが争われたものである。 ら、権利能力なき社団と認めることはできず、民法上の 組合に近い組織である、本件土地に地券が発行されたも 2 墓地使用権の法的性質 のと認め難い、としてXらの墓地使用権は認めたが、土 ⑴次に、墓地使用権は、どのように観念されるのか、ま 地所有権は認めなかった。 た、どのような法的性格を有するのかを検討する。 〔4〕仙台高判昭和 39 年 11 月 16 日(下民集 15 巻 11 号 〔3〕福岡高判平成 5 年 3 月 29 日(判タ 826 号 271 頁) 2725 頁) 本件係争地であるため池及び墓地は、A区(旧A村) 本件土地は、X寺の所有に属する。A部落民は、各 が管理してきたが、旧土地台帳及び登記簿には、「大字 戸別々に自己所有の土地に墳墓を設置していたが、明 A共有惣代」との肩書きが付されて 3 名の氏名が記載さ 治 35 年、村長Bの督励により本件土地に集合した結果、 れていた。A区の代表者Xは、本件土地がA区の所有で およそ十年の間にX寺院の檀徒たると否とを問わずA部 あると主張し、代表者としての資格に基づき、本件係争 落民全部の墳墓が本件土地内に集められ、爾後A部落民 地の保存登記をする前提として、Yらに対し所有権の確 は本件土地を無償で墓地として使用するに至った。 認を求めた。 ところが昭和 33 年、X寺院の住職Cは、本件墓地内 第一審判決(福岡地平成 3 年 10 月 23 日)は、Xの請 に墳墓を設置する者に対し、墳墓地賃貸借契約の締結を 求を認めた。これに対しYらは、本件土地は藩政時代か 求め、多くの者は冥加料を支払うか、または墓地の売買 ら所持してきた高持百姓であるYらの祖先に所有権が認 契約を結んだ。Yら 4 名はそのいずれの契約にも応じな められたものであり、区の所有に属するものではないと かったので、X寺院は墓石を収去した上で明け渡すよう して控訴した。 請求して本訴を提起した。 控訴審判決は、明治時代に作成された「墓地取調簿」 第一審判決(山形地昭和 39 年 2 月 26 日下民集 15 巻 の記載などから、本件土地の所有権が認められたのは、 2 号 84 頁)は、本件土地はX寺院兼A部落の共葬墓地 大字Aに居住する住民の自治組織であるA区であったと たる性質を有するに至ったもので、A部落民が墓地とし 認定し、社団構成員の総有に属する不動産は、構成員全 ての占有を開始したことは、合法的な行為である、とし 員のために信託的に社団代表者個人の所有とされるもの てXの請求を棄却した。 であるから (最判昭和 47 年 6 月 2 日民集 26 巻 5 号 957 頁)、 そして、Yらの取得した墓地使用権とは、墳墓の所有 代表者は、受託者としての地位に基づき、社団の構成員 者がその所有目的を達するために他人の土地を固定的、 の総有に属する不動産について、所有権の確認を求める 永久的且つ支配的に使用する物権的性質を備える権利で ― 24 ― 村落共同墓地の法的性格 あると観念されるところ、民法施行法第 35 条が「慣習 休憩所として、また墓地番人であったA、さらにAを承 上物権ト認メタル権利ニシテ民法施行前ニ発生シタルモ 継した妹Bの居住のため、本件土地を使用させ、使用料 ノト雖モ其施行ノ後ハ民法其他ノ法律ニ定ムルモノニ非 として年 2000 円ないし 6000 円を受領していた。その後、 サレハ物権タル効力ヲ有セス」と規定し、民法施行前よ Bが死亡したため、その子Yに対して、建物収去及び土 り慣習上生成した物権が存在したことを肯定している点 地明渡を求めた。 に鑑みるとき、社会の慣行によって生成存続した物権関 判決は、地方自治体の区内編入、区名変更により村名 係は、それが物権法定主義の根拠を排除する性質のもの が消滅しても、本件土地は旧T村等地域住民の総有に属 でなく、且つある種の公示方法を有するときに限り、例 すること、そして、本件墓地は権利能力なき社団である 外的に民法第 175 条の制約を受けずに慣習法による物権 X墓地協会が経営している、として原告適格を認めた。 の成立が認められて然るべきものと思料される、とした。 そのうえで、借主から支払われていた金銭が廉価であっ 控訴審判決は、第一審の判示を認めながら、Yらまた たことから使用貸借であって賃貸借ではないとし、本件 はその先代らが祖先の墳墓を設置する場所として使用す 土地の使用貸借は、Bの死亡により効力を失ったとして、 るため存続期間の定めのない使用貸借契約を結んで本件 Xの請求を認めた。 土地を使用してきたものであり、このような土地を墓所 として使用するための使用貸借においては、墳墓の永久 ⑵墓地使用権は、墳墓の所有者と墓地の所有者が異なる 性からいって、特段の事情のない限り、一般に民法 599 場合に観念される。墓地所有権が村落有あるいは村落住 条の適用を排除する特約が存するものと解すべきであ 民の共有である場合には、他人の土地の使用を正当化す る、とした。 る権原という意味での墓地使用権は観念する必要はない が、各使用者はそれぞれ一定の区域を専用するため、他 〔5〕福岡高判昭和 59 年 6 月 18 日(判タ 535 号 218 頁) の使用者との関係での使用権能を墓地使用権と表現する 本件墓地は、Y 1 寺の境内に接しており、Xらの先祖 場合がある 6。 が明治維新後の土地制度改革以前から墳墓を設置し、共 他人の土地に墳墓を所有する場合の墓地使用権につい 葬墓地として使用してきた。土地台帳にはXらの先祖 て、慣習法上の適法な権利〔2〕、慣習法上の物権〔4(第 46 名の共有名義で登録され、登記簿の表題部にそのま 一審)〕、存続期間の定めのない使用貸借〔4(控訴審) 〕 、 ま転記された。 社会の慣行上認められてきている対世的支配的権利〔5〕 Y 1 寺の住職・代表役員Y 2 らは、周囲が繁華街化し としている。ほかに、寺院墓地に関する事例では、存続 たことを理由に寺院及びその跡地利用を計画し、有力な 期間の定めのない地上権としたものがある(東京高判昭 檀徒総代であったXの同意を得ないまま、一部の檀徒の 和 46 年 9 月 21 日高民 24 巻 3 号 344 頁)。 同意により計画の実行に着手し、X家の墳墓以外の寺院 慣習法上の「適当な権利」〔2〕とは、どのような性質 建物・墳墓等を撤去して、跡地にダンスホールを建築し のものであるのか明らかではない。また、慣習法上の物 た。そこで、Xらは本件土地の所有権に基づき本件建物 権〔4(第一審)〕が認められるか、すなわち民法 175 条 の明け渡しを求め、不法行為による慰謝料の支払を請求 の「その他の法律」に慣習法が含まれるかについては、 して本訴を提起した。 かつて否定するものが多かったが、今日では肯定するも 第一審判決は、Xらの所有権の主張を認めず、各請求 のが多い。民法施行法 35 条は、民法施行前に発生し、 を棄却した。Xらは控訴して、本件土地に対する所有権 かつ民法施行後法律に規定のないものは物権たる効力を に加えて、墓地使用権の主張をした。 有しないとするが、民法施行前から慣熟した慣習を否認 控訴審判決は、 「通常、共葬墓地においては目的土地 する必要はないからである 7。 を複数の使用者毎に区分して共同使用し、各使用者は割 つぎに、村落または村落住民が墓地を共同所有する場 り当てられた使用区域に墳墓の施設を所有して当該区域 合には、墓地使用権は村落住民に総有的に帰属するから、 を専用するが、墓地使用権自体は、当該区域のみならず これを入会権ということができるであろうか。村落共同 目的土地全部につき成立し、その各権利者間の関係は準 墓地は、村落住民であって一定の資格を有することによ 共有であるものと解される」として、Xらの土地所有権 り墳墓を所有する者の集団が管理する。その集団性から は否定したが、墓地使用権を有することを認め、各請求 いえば、共有の性質を有する入会権(民法 263 条)とす を認容した。 べきである 8。 〔6〕神戸地判昭和 60 年 7 月 31 日(判タ 567 号 224 頁) X墓地協会では、 墓地へ参拝する人のための花の置場、 3 墓地使用権の発生・承継・消滅 ⑴墓地使用権の発生、承継、消滅をめぐる問題について ― 25 ― 丹 羽 崇 之 対し、公団は、B部落は明治町村制および民法施行後つ 検討する。 〔7〕福岡家柳川支審昭和 48 年 10 月 11 日(家月 26 巻 5 くられた集落であるから財産権の主体たりえない、本件 号 97 頁) 墓地は部落共同墓地としての実体はなく入会地といえな 本件墓地は、元来部落民 308 名の共有であるが、明治 い等と抗弁した。 22 年、A他 32 名の共有として所有権取得登記がなされ 判決は、B部落の本件墓地に対する共有の性質を有す た。 る入会権を認めたが、構成員が 2 世帯のみに減少して入 本件墓地の管理世話人であるXは、墓地共有者の要望 会集団としての実体が消滅し、本件墓地に対する入会権 により墓地の一部を売却処分して墓地の模様替整備をす も消滅した、としてXらの請求を棄却した。 ることになり、ほとんどの登記名義人の名簿書替えを完 〔9〕福岡高判平成 18 年 5 月 26 日(未掲載) 了した。 Aは明治 22 年に死亡したが相続人がなく、Xら世話 A地区には 5 か所の村墓があったが、このうち主に非 人がその祭祀及び墓地を管理してきたが、本件墓地の持 農家、新家が使用していた墓地 1 か所を転用するため、 分につき登記名義の変更ができず、墓地整備計画の実施 墓地関係者総会が開かれ、出席者全員の賛成で墓地の廃 に支障を来し、慣習に従って祭祀を主宰すべき者もな 止が決議され、ほとんどの者は埋葬替えを余儀なくされ かったので、管理委員長Yを承継者として指定するよう て撤去した。本家で組織するY地主組合は、最後まで撤 求めた。Yは、Aの墳墓を管理しており、将来本件墓地 去に応じなかった者に対し、墳墓等撤去請求訴訟を提起 に納骨堂を建立した場合にはAの遺骨を無縁仏として納 したが、墓地として代替地を設定することなどで和解が 骨する意向であり、Aの墓地の承継者として指定される 成立した。 ことを承諾していた。 ところが、代替地として適当な土地が設定されないう 審判は、 「民法 897 条の墳墓の承継者は、必ずしも墳 ちにY地主組合が駐車場に改築したため、Xら反対する 墓の所有者の相続人又は親族に限定されるべきでなく、 組合員及び墓地を希望する新家の者 15 名が墓地への原 墳墓を管理する者が承継者として適任であると認められ 状回復を求めて提訴した。 る場合には、管理者を承継者と定めることができるもの 第一審(佐賀地唐津支判平成 16 年 1 月 16 日)10 は、 と解する」として、申立を認めた。 本件土地に対する墓地使用権は住民という集団構成員及 び地位と結びついた古くからの慣習に基づく、入会権類 〔8〕千葉地平成元年 12 月 20 日 似の物権であるとしたうえで、 「入会権的な墓地使用権 9 本件土地は、もとA家の所有であったが、明治末期に の消滅ないし放棄には、墓地使用権者全員の同意が必要 B部落の墓地として使用されるようになり、大正 15 年 となるところ、その当時までに家族の一員が死亡して埋 にA家から贈与を受け、代表者らの名義で登記された。 葬、納骨の必要がなかったものにはそもそも同墓地使用 昭和 41 年新東京国際空港の予定地となり、B部落は空 権は認められない。」「同墓地使用権は物権であるのだか 港建設絶対反対派と条件付賛成派とに分かれて激しい議 ら、物権という強固な権利を認める以上、その権利を有 論が行われたが、結局ほとんどの部落民が補償交渉に応 する者は家族の一員が死亡して埋葬、納骨の必要がある じて部落を去った。 者に限定されるべきである」 、としてXらの請求を棄却 本件墓地について新東京国際空港公団は、土地所有名 した。控訴棄却、確定。 義人 6 名(いずれも地域外在住者で本件土地には墓碑を 有しない)の所有地であり、土地上に墓地使用権者は債 ⑵発生、取得について 権的な使用権を有すると考えて土地所有(共有)権を 6 近代的土地所有制度の確立は明治の民法制定による 名から買い受け、移転登記を完了し、墓地使用権者には が、明治政府による土地確定作業が地租改正に絡めて行 補償金を支払った。昭和 41 年ころ戸数 30 戸を数えたB われたため、原則として無税地とされた墓地については 集落も、わずか 4 名に減少した。B部落住民で墓地使用 厳密に行われなかった。そのため明治以前から存在する 権者であるXら 4 名は、昭和 56 年、本件土地がB部落 村落共同墓地の法律関係を明らかにすることは困難なこ 住民の共有墓地であるとして、公団及び 2 名の土地共有 とが多いが、発生当初から村落が原始的に総有的に所有 名義人(その法定相続人 36 名)に対し、所有権移転登 権を取得し、利用し始めたものと思われる 11。〔8〕は、 記を求める本訴を提起した。 明治後期以降に形成された集落について、入会権の新た Xらは、本件土地に対し共有の性質を有する入会権を な成立を認めたものである 12。 有する、入会権は対抗要件たる登記は要求されず、その 墓地を必要とする個人が新たに墓地使用権を取得する 所有権登記は便宜的なものである、と主張した。これに 場合は、その時点で村落共同体の構成員であることが必 ― 26 ― 村落共同墓地の法的性格 要である。 〔9〕は、家族の一員が死亡して埋葬、納骨の ので、県当局は、整理委員を嘱託し、その整理を命じた。 必要がない者の墓地使用権を否定した。村落共同体の構 その結果、各自の区画割当が決定し、各自が使用するこ 成員が、分家などにより、墓地を開設するのは実際に誰 とができる特定場所を確定して、相互にその区域を侵さ かが亡くなって埋葬の必要が生じたときであるが、その ない旨の協定がなされた。 時点で村落共同体の構成員の全員が現実に墓地を使用し ところが、Xに割り当てられた区画内に、Yが死亡し ているわけではない。いまだ墓地を使用していない者で た母を埋葬したので、XはYに対して屍体及び棺その他 あっても、村落共同体の構成員としての資格により墓地 付属物一切を収去の上明け渡すよう求めた。 を使用する権利を有するといえよう 。 原審は、墓地の割当は墳墓移転の結果をきたすから共 13 有物の処分に当たる。したがって共有者全員の同意を要 ⑶承継について するのに、全員の同意がなかったから、その割当は共同 墓地使用権は祭祀財産であるから、一応は祭祀主宰者 使用者を拘束しない、としてXの請求を棄却した。 に承継される。民法 897 条は、第1に被相続人が指定し これに対し、大審院は、(1) 共有墓地の使用区画の割 た者、第 2 に慣習による祭祀主宰者、第 3 に家庭裁判所 当変更は、単に共有地の利用に関する事項に止まり、管 が定めた者とする。村落共同体においては、構成員たる 理に関する事項に過ぎないから、特別の事情がない限り、 資格は住民に限られ、墓地についても慣習または規則に 持分の価格に従い、その過半数をもって変更をなすこと より、使用者はその構成員に限られることが多い。しか ができ、全員の同意を必要としない。(2) 墓地の設置管 し、墓参りや清掃等の共同管理は村落内に居住しなくて 理の如きは法令或いは府県令等の支配の下にあるから、 も可能であるから、祭祀の承継については構成員に限ら 土地の所有権を取得した者又は使用権を取得した者は、 れないであろう。 通常その権利の取得の当初より法令の本旨を達成するに 必要な権利の変改を承認する意思を有するものと推定さ れる、として原判決を破棄し差戻した。 ⑷消滅について 〔8〕は、構成員が 2 世帯に減少したから入会権は実体 を失って消滅したとする。しかし、構成員が一人でもい 〔11〕仙台高判昭和 56 年 10 月 20 日(判タ 462 号 113 頁) れば管理主体たる入会集団は存続する。共有の性質を有 本件墓地は、甲寺に隣接し、明治時代から乙地区住民 する入会権は共同所有権であるから、権利を放棄または の共同墓地となったものである。A家は乙地区住民の共 処分しない限り消滅することはない 。 同墓地に他の 31 名と共有する墓地の一画を専用してい 墓地の廃止については権利者全員の同意が必要であ た。Aの養子Bは、戸主として墓地等を管理してきたが、 る。 〔9〕は、係争地外に墓地を有している本家集団の、 長男Cの死亡後、Cの妻とその長男Yらを本家に残し、 しかも出席者のみによって決議が行われているのであ 五男であるX夫婦らと隣部落に移住した。兄らが夭逝し り、権利者全員の同意を得てはいないのであるから、そ たり分家した結果、事実上XがBを代行し、本件墓地の もそも廃止の決議自体が無効である。 使用管理を続け、Bが隠居してYが家督相続してからも 林野に対する入会権は、当該村落から転出して村落住 変わらなかった。一方Yも同墓地に妻や娘の遺骨を納め 民でなくなれば、入会権を失う。しかし、墓地に対する るなどして管理使用してきた。 権利は、村落外に転出しても当然に消滅するわけではな ところが、Xが建立した墓石等を、Yは本件墓地の隅 い。当該墓地に祖先、 親族、 近親者の遺骨 ・ 遺体があって、 の方に移動させ、その跡地たる本件墓地内に盛土して石 そのための墓碑、墓石を有する限り権利を失うことはな 垣で囲み、新たに石碑を建立したので、Xは占有の侵害 く、 維持管理や祭祀の義務を負担することができる限り、 を理由としてYに墓碑等の収去と慰藉料を請求した。 その居住地は直接的には関係ない。しかし、管理する墓 第一審判決(福島地昭和 54 年 3 月 14 日)は、墓地所 地、墓碑等がなくなれば権利を失うことになる 。 有権はYに属するが、Xの墓地管理によるYとの共同占 14 15 有を認め、Xの請求を認めた。Yは控訴して、家督相続 4 墓地管理に伴う問題 により墓地・墳墓の所有権を取得したので、分家たるX ⑴管理をめぐる紛争について検討する。 には本件墓地の管理権はない、と主張した。 〔10〕大判昭和 9 年 7 月 12 日(民集 13 巻 17 号 1372 頁) 控訴審判決は、本件墓地の所有権(他部落民との共有) 本件墓地は、部落住民 27 名の共有として明治 17 年保 権と占有権および墓碑等の所有権と占有権はBから家督 存登記され、共有者以外の部落住民や共有者の分家の者 相続人Yに承継され、Xは本件墓地使用につき正当な権 も使用権を有していた。 限を有するものではないからその占有を主張し得ない、 その後、使用希望者が増加し墓地整理の必要も生じた という理由で原判決を取消した。 ― 27 ― 丹 羽 崇 之 本件墓地は、7 か村の共同墓地であったが、住民によ 〔12〕高松高判平成 5 年 1 月 28 日(判タ 849 号 217 頁) り墓地の管理・運営に当たる社団としてX墓地協会が設 本件墓地は、江戸時代からA村の部落民の共同墓地と 立された。A寺の檀家であるYは、本件墓地の管理権が して使用され、町村制施行により他の数個の村と併合さ A寺にあるとして、Xの許可を受けないで墓石をたて、 れ、さらに徳島市に併合されてからも、旧部落民を主体 本件墓地の使用権があると主張した。 とする墓地として使用されてきた。 別訴において、A寺との間で同墓地の管理権が争われ ほとんど世帯がB寺の檀家であったことから、B寺住 た結果、X協会に管理権があるとする判決が確定した。 職が管理にあたり、使用料等を受けるようになった。ま そこでYは、A寺から使用料の返還を受け、X協会に墓 た昭和 40 年ころから、流入世帯が増え、本件墓地に墓 地の使用を申し込んだ。これに対しX協会は、本件墓地 を求め、B寺の檀家になることを望む者が増え、永代供 の申込者が多く、その申込みを断っている状態にあるこ 養料等の金銭的利益を生むようになった。 となどから、その申込みを拒否し、墓地の撤去を求めた 旧A村の全住民を構成員とするいわゆる法人格のない が、Yはこれに応じなかった。そこで、Yを相手方とし 社団であるX町内会は、⑴代表を務めていたY 1 および て、Yが墓地の使用権を有しないことの確認と墓地の明 Y 2・Y 3 が共謀し、他の住民の同意なくして、住民の 渡しを求めた。 総有に属する土地の一部を他に売却したり、⑵B寺の 判決は、 「墓地法 13 条によれば、墓地等の管理者は、 住職であるY 2 が寺の墓地であるとして永代借地権を設 正当の事由がなければ、墓地等の使用の申込みを拒むこ 定し損害を与えた、として債務不履行又は不法行為に基 とができないとされているが、これは埋葬等の施行が円 づき損害賠償を請求した。これに対しYらは、本件土地 滑に行われ、死者に対する遺族等関係者の感情を損なう は、地方自治法 294 条の定める財産区であるX部落の所 ことを防止するとともに、公衆衛生その他公共の福祉に 有で、売却にあたっては部落総会の満場一致の議決があ 反する事態を招くことがないよう、埋葬等について墓地 り、また、住職が墓地使用料を受領するのは慣習に基づ 等の管理者は『正当の事由』がない限り、これを拒んで くもので不法行為とならない、と抗弁した。 はならない旨を規定したものと解される。」「『正当の事 第一審判決(徳島地判昭和 62 年3月 17 日)は、本件 由』があるか否かは、右の趣旨に照し社会通念により判 土地が財産区たる部落に属したかのような登記簿の記載 断すべきであるが、具体的には新たな埋葬等を行う余地 は県の指導による登記手続上のものに過ぎず、本件土地 がないこと、申込者が墓地等の正当な管理に支障を及ぼ は部落の総有財産であるとした上で、⑴Yらの土地売却 すおそれがある等の場合は、右の『正当の事由』に該当 についての関与は、X町内会の全員一致の承認に基づい するものと解することができる。」として、Yの本件墓 てなされたものであるから、Xに対する債務不履行や不 地に対する使用権を否定した。 法行為を構成しない。⑵B寺住職であるY 2 が金員を取 得したのは、従来の慣習の範囲を逸脱して本件墓地を収 〔14〕最判平成 8 年 10 月 29 日(判時 1587 号 61 頁) 益の材料にしたものといわざるを得ない。しかし、この 本件墓地は、当初真言宗に属する旧Y寺のために設置 ことから直ちにY 2 の右金員の取得が、本件墓地の所有 された。しかし、旧Y寺は明治 5 年頃以降、実体を失っ 者であるA部落に同額の損害を蒙らせたとは言えない、 て事実上廃寺となり、本件墓地は上知によりA村の共有 として不法行為の成立を否定した。 地となって、Bやその先代がA村から委託を受けて管理 控訴審判決は、本件土地は町村制の施行により村に属 し、宗派を問わず埋葬することが認められる共同墓地と し、その後徳島市に併合された際に、旧部落所有として なった。 残置されたものとは認められず、市の所有へと移転した Xらの各先代は、それぞれ当時の管理者から、本件墓 と認められるが、 その後も旧部落民が墓地として使用し、 地について自己の属する宗派の方式によって埋葬し典礼 村や市が干渉することなく旧部落民の自主的管理に委ね を行うことができることを内容とする墓地使用権の設定 られていた、として第一審判決と認定を異にした。しか を受けた。昭和 17 年に、Y寺が再興され、本件墓地の し、土地の売却に関しては第一審判決を引用し、Y 2 の 管理者が交代し、真言宗に属する寺院であるYが、本件 徴収した墓地使用料については、旧来の慣習のみでは律 墓地を同寺の寺院墓地として管理し、本件墓地における し難いが、Y 2 の私利私欲に基づくもの又はXに損害を 他宗派の方式による典礼の施行を拒絶するに至った。 与える目的で行われたものとは認められないなどとして そこで、Xらは、Y寺に対し墓地使用権を有すること Yらの損害賠償責任を否定した。 の確認と、他宗派の方式による典礼を行うことの妨害の 禁止を求めた。 〔13〕神戸地判平成 5 年 7 月 19 日(判タ 848 号 296 頁) 第一審判決(盛岡地平成 2 年 3 月 30 日)は、Y寺院は、 ― 28 ― 村落共同墓地の法的性格 昭和 17 年に典礼方式に制限のない墓地使用権設定契約 これに対し、本件墓地に永代使用権を有するXら 5 名 上の地位を引き受けたものであるから、新たに契約内容 は、Y寺は、本件墓地に何らの権利もなく、墓地管理費 を変更する合意をしない限り、Y寺が典礼方式を一方的 の支払を請求できる権限がないとして、墓地管理規則に に制限することはできないとして、Xらの請求を認容し 基づく墓地管理費の支払義務が存在しないことの確認を た。 求めた。 原審(仙台高判平成 3 年 10 月 4 日)は、 「寺院墓地使 裁判所は、 「A寺の本件墓地に対する管理運営収益権 用権の性質をどのように考えるにせよ、墓地使用権の特 能はかなり強大なものであり、その永続性、直接支配性 性である固定性、永久性等を考えると、本件のように墓 といった実体的な性格に照らすと、所有者たるA村(A 地管理者が交代した場合、墓地使用権者は、従前有して 財産区)に対する利用請求権などといった債権的なもの いた自派の宗教によって埋葬し典礼をすることができる にとどまらず、物権たる地上権(無償かつ期限の定めの ことを内容とする墓地使用権を新たな管理者にも対抗す ない地上権、民法 265 条、266 条、268 条参照)という ることができ、新たな管理者の施行する典礼に従わなけ べきである。」として、Xらの主張を認めなかった。 ればならない義務はない」として、控訴を棄却した。 これに対しYは、墓地使用権について、その内容を埋 ⑵〔10〕は墓地の利用区画の変更について、共有物の処 葬蔵と宗教的典礼に分け、埋葬蔵する権利については、 分にあたるのか、管理方法変更であるのか判断が示され 離檀改宗によっても消滅しないが、宗教的典礼について ている。村落共同墓地は入会権的性格を有しているから、 は、墓地経営の寺院の行う宗教的儀式、典礼に従わねば 共有の規定で律するのは無理があり、入会権の規定(民 ならない、として上告した。 法 263、294 条)により、まずは慣習により、慣習がな 最高裁は、「Yは右墓地使用権設定契約上の地位を承 い場合は共有または地役権に関する規定によるべきであ 継したものというべきであるから、本件墓地がYの寺院 る 16。 墓地としての性格を有するに至ったとしても、Xらは、 〔12〕〔15〕は、共同墓地を管理する寺院が、永代借地 従前どおり本件墓地において自己の属する宗派の方式に 料や墓地管理料等の名目で金銭の支払いを求めたことが よって典礼を行うことを妨げられない」として、Yの上 争われている。寺院境内型墓地の場合は、寺院と檀徒の 告を棄却した。 檀信徒加入契約、墓地使用契約に基づき、さまざまな名 称の金員が交付されるが、墓地使用に対する対価の性質 〔15〕神戸地判平成 15 年 1 月 8 日(未掲載) を有するものと、布施行為、贈与の性質を有するものが 本件墓地は、江戸時代から、A村の村民のための共同 ある。しかしながら、村落型墓地を寺院が管理する場合 墓地として使用されてきた。旧土地台帳上も所有者はA において、檀徒以外の墓地使用権者にそのような金員の 村と登録された。明治 21 年に旧財産区制度が設けられ、 支払いを求めることの根拠が不明確である。 本件墓地は旧A財産区の所有となったが、戦後の地方自 寺院型墓地において、檀徒が改宗離檀した場合、墓地 治法において、財産区に引き継がれ、本件墓地はA財産 使用権が消滅するかが争われた津地判昭和 38 年 6 月 21 区の所有となり、A財産区管理会が設置された。 日(下民集 14 巻 6 号 1183 頁)は、墳墓の永久性、固定 昭和 35 年の不動産登記法の改正によって、本件墓地 性から当然消滅するということはできないが、寺院は自 の登記簿の表題部に所有者としてA村と記載された。 派の典礼を施行する権限を有するから、埋葬後もその典 A村には、Y寺以外にB寺とC寺があったが、本件墓 礼を拒否する場合には埋葬を拒むことができるとした。 地は、Y寺だけが管理運営してきた。そして、Y寺は、 〔14〕は廃寺によって村墓地となった当時に墓地使用権 大正時代以降、本件墓地の新規使用者から永代使用料を の設定を受けた者については、典礼方式の制限を受けな 徴収するようになった。 いとした。 平成 11 年、A財産区管理会は、本件墓地の管理運営 〔15〕は、墓地に対し、寺院が地上権を有するといえ 並びに使用等全般については、慣習によりY寺に全面的 るであろうか。寺院が墓地管理のため設置した柵や防御 に委託することを確認した。本件墓地を使用している者 ネットが民法 265 条にいう工作物といえるか疑問である のうち、Y寺の檀家の割合は 35 パーセントほどであっ し、寺院は、本件墓地の管理運営について、 「慣習によ た。 り」 「全面的に委託」されているのである。また本件墓 Y寺役員会(檀家総代 3 名と世話人 10 名に住職を加 地の管理運営は、 「総代会」や檀家総代と世話人及び寺 えた 14 名で構成)は、墓地管理規則を改訂し、墓地永 院住職で構成される「役員会」によって行われているの 代使用権者に対し墓地管理費(年間 5000 円ないし 6000 であって、寺院だけが行っているのではない。墓地使用 円を基本とする)の支払いを請求した。 権者のうち3分の1ほどをしめる寺院の檀家集団(その ― 29 ― 丹 羽 崇 之 総代、世話人)だけで、墓地管理を行ったために生じた 学 31 巻 3・4 号 95 頁(2005 年)、茨城県弁護士会・前掲書 53、 64 頁。 紛争であろう。 12 中尾英俊「共同墓地に対する入会権」西南法学 23 巻 4 号 31、 51 頁(1991 年)。 おわりに 村落共同型の墓地をめぐる紛争は、 地域共同体が本家・ 分家(新家、別家)に分かれ、ときには数十年にわたる ことがある。その法的性格については、墓地所有権が墳 墓所有者集団に帰属する場合は、共有の性質を有する入 会権(民法 263 条)であり、第三者が所有する土地上に 13 茨城県弁護士会・前掲書 66 頁、中尾英俊『入会権』67 頁(2009 年、勁草書房) 14 中尾・前掲注 (12)58 頁。 15 中尾・前掲注 (1)51 頁。 16 大澤・前掲 23、25 頁、柚木馨「共有墓地の使用区画割当の変更・ 墓地の権利者の権利の変改」民商法雑誌 1 巻 3 号 86 頁 (1935 年 )、 ある場合は共有の性質を有しない入会権(同 294 条)で 戒能通孝「共有墓地−共有墓地使用区画の割当方法」『判例民事 ある。したがって、各地方の慣習に従うほか、前者は共 法(昭和 9 年度)』322 頁参照。 有の規定が適用され、後者は地役権の規定が準用される ことになるのであるから、各地域の慣習を明らかにする ことが不可欠である。 なお、墓地をめぐる紛争は、村落共同型の墓地のほか にも、少なからずみられる。これらは、墓地を管理する 寺院と墳墓を所有する者とのもの、共同墓地の移転、改 廃、管理をめぐるもの、親族縁故者間で墳墓の所有権や 墓地の使用権が争われるものなどがある。都市化や開発 による環境の変化、家督相続の廃止や核家族化、地域集 団の変容や権利意識の変化などによって顕在化してきた ものといえる。これらの問題について、規準となるべき 法令が少なく、多くが慣習に委ねられていること、地域 内や親族間の争いとなることが多いことなどが解決を難 しくしている。 ――――――――――――――――――――――――― 1 谷口知平「墓地使用権の性質とその承継と相続」『現代家族法 体系 4 巻』86、91 頁(1980 年)、中尾英俊「墓地使用権の性格」 『現代財産権論の課題』36 頁(1988 年、敬文堂)、田山輝明『墓 地使用権の法的性質』ジュリスト 975 号 14 頁(1991 年)、茨城 県弁護士会編『墓地の法律と実務』15 頁(1997 年、ぎょうせい)。 2 大澤正男「墓地の所有と利用の法律関係」立正法学 17 巻 3 号 1、4頁(1983 年)。 3 大澤・前掲 5 頁。 4 茨城県弁護士会・前掲書 51 頁。 5 田山・前掲 15 頁。 6 茨城県弁護士会・前掲書 57 頁は、前者を「狭義の墓地使用権」、 後者を「広義の墓地使用権」として区別する。 7 我妻栄『物権法』新訂 26 頁(1983 年、岩波書店)、大澤・前 掲 11 頁。 8 中尾・前掲注 (1)35、49 頁、田山・前掲 15 頁。なお北條浩「明 治初年の墓地使用権と利用 (2) 」帝京法学 16 巻 1 号 47、96 頁(1987 年)は入会という用語は収益行為に使用されるとし、墓地利用 と区別する。 9 中尾英俊編『戦後入会判決集第 3 巻』9 頁(2004 年、信山社)。 10 中尾・前掲注 (9)532 頁。 11 北條浩「明治初年の墓地使用権と利用 (1) 」帝京法学 14 巻 2 号 29 頁(1985 年)、竹内康博「土地所有権と財産区 (1)」愛媛法 ― 30 ―
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