妖精の森ガラス美術館企画展示室 展 覧 会 企 画 『光と色彩のシンフォニー』 -現代ガラスのさまざまな表現- ガラスは長い間、ヴェネチアやボヘミア地方など、長い歴史と伝統を持つ産地で作ら れていましたが、20 世紀に入ると、形や色彩の美しさ、独創性を追及する新しい芸術 表現の一つとして認められるようになります。 世紀初頭のガレやドーム、ラリックなどの装飾的な様式に始まり、ウランガラスのふ るさとチェコで 1950 年代に起こった新しいガラスの造形運動、そして 1960 年代にア メリカで始まった「スタジオグラス運動」などを経て、ガラスはアーティストが自身 の独創的な発想や造形理念を自由に表現できる素材として、新たな注目を集めるよう になりました。 この展覧会では、20 世紀半ばから、各地で展開された現代ガラスの造形表現の試みの うち、現代ガラスのコレクションとしては国内屈指の、旧蓼科ガラススクエア現代ガ ラス美術館の所蔵品から、アメリカ、イギリス、チェコ、スウェーデン、ハンガリー、 日本など世界各国の作家の作品を 25 点ほど選び出し展示します。 ガラスが本来持っている素材の美しさや、ガラスのもつ可能性を極限まで追求したさ まざまな造形の試み、 光の透過や反射などを生かした多彩な表現をお楽しみください。 <開催要項> □ 会 期:2006 年 11 月 1 日(水)~2007 年 3 月 31日(土) □ 会 場:岡山県鏡野町『妖精の森ガラス美術館』企画展示室 □ 主 催:妖精の森ガラス美術館 □ 企画協力:栄光教育文化研究所 □出品予定作品 デイル・チフーリ <アメリカ> 「海のかたち」1984 年 1941 年、アメリカ、ワシントン州タコマ生まれ。ウィスコ ンシン大学やロードアイランドデザイン美術学校でガラ スを学んだ後、ヴェネチアで研鑽を積む。バスケット、シ ーフォーム、ペルシャ風、ヴェネチア風などのシリーズを 次々に発表。吹きガラスの竿を回転させ、遠心力でガラス をふくらませることで、貝殻のような有機的なフォルムを 生み出した。数百色の色ガラスを駆使した華麗な色彩の扱いも定評がある。ピルチャ ックスクールを設立し、数多くの若いガラス作家を育てた功績も大きい。 ウィリアム・モリス <アメリカ> 「洞窟壁画」1991 年 1957 年、アメリカ、ワシントン州タコマ生まれ。カリフォルニ ア州立大学、ワシントン大学で陶芸を学んだ後、ピルチャック スクールでガラスに出会い、さまざまな技法やアイデアを吸収 する。少年時代から関心を持っていたインディアンの遺跡や原 始文化をモティーフに、エナメル絵付けによる先史時代の洞窟 絵画のような装飾をもった器や、ガラスで作った動物の骨や角、 狩猟道具などを組み合わせた立体作品などを制作している。 中尾 裕子<日本> 「天球」 1956 年、東京生まれ。東京藝術大学で漆芸を学んだ後、 ピルチャックスクールや東京ガラス工芸研究所でガ ラスの技術を身に付けた。吹きガラスの断片や、ステ ンレスの管に巻きつけて作ったガラス棒を組み合わせ、 電気炉で溶着した板状のガラスを、半円形の石膏型の 上に置いて再度加熱すると、ガラスが自重で型に沿っ て半円形に湾曲する。銀色の光沢は白金の化合物による。重力と張力の緊張をはらむ その曲面は、生成する宇宙を暗示する。 バーティル・ヴァリーン<スウェーデン> 「メモランダム(覚書) 」1990 年 1938 年、スウェーデン、ストックホルム生まれ。スウェーデン 国立芸術学校で工芸とデザインを学んだ後、アメリカに留学し 前衛陶芸の影響を受ける。帰国後、コスタ・ボダ社のデザイナ ーとして仕事を始めるが、ガラスに魅せられ、溶けたガラスを 砂型に流し込む砂型鋳造(サンドキャスティング)で作品を作 り始める。人間存在の苦難の航海を表現した「ボート」のシリ ーズで好評を博し、その後も「刻印」などのシリーズで、人間 の生と死、危機と希望などをガラスで表現し続けている。 スタニスラフ・リベンスキー<チェコ> 「叫ぶ者」1987 年 1921 年、チェコ、セゼミツェ生まれ。ノヴィーボルとジ ェレズニー・ブロトの工芸学校、さらにプラハ美術工芸 大学に学ぶ。1950 年代に、彼が描く抽象絵画を妻のブリ クトヴァが粘土で立体に起こし、石膏で型を取り、ガラ スの粒を詰めて電気炉で焼成するという電気炉の鋳物の 技法を確立。60 年代から 90 年代にかけて、プラハ美術 工芸大学で教鞭を取りながら、常に方法的に新しい表現 領域を切り拓く抽象立体の作品を次々に発表し、チェコ だけでなく世界のガラス造形をリードした。 マリア・リュゴシー<ハンガリー> 「闘争Ⅱ」1992 年 1950 年、ハンガリー生まれ。ハンガリー応用美術学校で 金属工芸を学ぶ。80 年代中頃より積層した板ガラスをカ ットとサンドブラストで加工した作品を制作。90 年代か らガラスとブロンズの組み合わせにより、大地と人間の 関わりをテーマにした造形を試みている。リュゴシーに とって、ガラスはすべての生命を生み出す海や大地、そ して母体を象徴するものであり、その中から生命の始ま りを示す小さな金属の「胚」が姿を現すことになる。 ゾルタン・ボフス<ハンガリー> 「光の門 Ⅱ」1991 年 1941 年、ハンガリー生まれ。ブダペストのハンガリー応用美術 学校で装飾絵画を学んだ後、同校の助手を経て教授を務める。 複数の板ガラスを接着して抽象立体を作る。その際、個々の板 ガラスにサンドブラストで大きさの異なる門のような開口部を 彫り出し、積層することで中に奥行があるような錯覚を生じさ せている。古代神殿を思わせるこの空間は「虚」の空間ではあ るが、人をその中に誘い込むような神秘的な魅力を持つ。 チェスラウ ・ズベール <ポーランド/フランス> 「彫刻」1991 年 1848 年、ポーランド生まれ。ヴロツラフ美術大学で陶芸とガ ラスを学んだ後、ガラスデザイナーとして活躍したが、国内 での表現活動に制約を感じフランスに移住。84 年から特殊な 光学ガラスをハンマーで割り、高圧の砂を吹きつけて削った 目や口の周辺にセレニウムやカドミウムなどで強烈な原色を 焼き付けた人間の頭部を制作。ピカソを立体にしたようなガ ラスの塊の中で、彩色された部分と透過光と破砕面からの反 射光が複雑に交差し、強い表現効果を上げている。 高橋 禎彦 <日本> 「アーク(赤) 」1993 年 1958 年、東京都生まれ。多摩美術大学でガラスを学び、ドイ ツの工房で修行した。ガラス造形の国際的な交流の中で育っ た世代を代表する。 「アーク」のシリーズでは光学ガラスを 型の中で鋳造した台形の部分と、吹きガラスで成形し、表面 に赤と白の色ガラスを被せて砂を吹きつけて小さな円形の 突起を彫り出した円筒部分とが、ガラスの様々な素材特性を 際立たせ、半透明を基調とした作品全体の中で、平面と立体、 垂直と平行などの造形上の課題を見事に解決している。 マリー・アン・トゥーツ・ジンスキー <アメリカ> 「大きな赤いボウル」1990 年 1951 年、アメリカ、ボストン市生まれ。ヘイスタック・ マウンテン工芸学校、ピルチャックスクールなどに学 ぶ。細い糸状のガラスを電気炉の中で溶着し(フュー ジング)型落とし(スランピング)する「フィル・ド・ ベール」の技法を特徴とする。’84 年のアフリカ訪問 の際、鮮やかな色彩や多様な形態に魅了され作品に反 映するようになる。80 年代半ばにフランスに移り、またアメリカに戻った。この間、 開口部がよりダイナミックに波打つ「カオス」のシリーズに作風が変化した。 ソニア・ブロムダール<アメリカ> 「黄とオレンジとひすい色」1993 年 1952 年、アメリカ、マサチューセッツ生まれ。マサチューセッツ 美術大学修了後、スウェーデンでガラスの技術を身につけた。83 年にシアトルに工房を設立。その作品は、中国の磁器を思わせる シンメトリーとバランスを重視した端正な形と、色彩の強烈な対 比が印象的だ。この作品でも、ヒスイ色とオレンジ色(中に黄色 の層がある)が、透明ガラスの帯の部分を挟んで、強く自己主張 しながらも絶妙なバランスを生み出している。 デヴィッド・ハッチハウゼン <アメリカ> 「こだまの部屋‘94H」1994 年 1951 年、アメリカ、ウィスコンシン州ラピッズ生まれ。イリノイ 州立大学で美術修士号取得。建築家志望からガラスに転向したハ ッチハウゼンの作品では、作品全体の構成の意志がはっきりして いる。この作品でも、上部の色板ガラスと下部の無垢の透明ガラ ス、板ガラスの中でも透明と半透明と不透明、ガラス塊の底部の 貝殻状の破砕面と研磨した部分などが明快な意志を持って対 比・構成され、調和的な全体を形作っている。 米原 眞司<日本> 「ウエストシェイプ」2000 年 1961 年、東京都生まれ。多摩美術大学でガラスを専攻。 北海道立工業試験場に勤務後、’94 年に江別市に野幌硝 子工芸舎を設立し独立。’80 年代から球形に近い吹きガ ラスの表面に細いガラス繊維を貼り付け、息を吹き込む につれてガラス繊維が動き出す「ラインドローイング」 のシリーズを発表。’90 年代の後半以降は、かなり大き な装飾要素を器胎の中に埋め込み、一部研磨するなど、 ガラスの持つ可塑性をより大胆に生かした「スパイラ ル」のシリーズを発表している。 ロナルド・ペネル <イギリス> 「地球の上を歩く」1990 年 1935 年、イギリス、ウエストミッドランド生まれ。 バーミンガム美術大学を卒業後、同大学講師を経 て’64 年に自身の工房を設立、作家活動に入る。吹 きガラスの表面にグラビールでシンプルな形を彫り こむ作品を発表する。この作品でも、犬を連れた紳 士がゆったりと散歩をしている風情だが、周辺に植 物が繁茂し、たくさんの鳥が飛んでいる構図全体が、地球上の様々な要素を最小 限の要素に還元したような、おおらかなスケール感がある。 カーティス・ブロック <アメリカ> 「石の組み合わせ 754」1992 年 1960 年、アメリカ生まれ。ヴァーモント州ゴッダード大学で 美術史を学ぶ。ピルチャックスクールの客員講師、アパラチ ア工芸センターのガラス科主任を努める。オレンジや青、グ レーなどの吹きガラスによる楕円形の立体の表面に、黒やグ レーのガラスの微細な粒で自然の岩肌を思わせる模様が描 かれ、あたかも天然の岩が立っているように見える。 「石の 組み合わせ」ということだが、数人の人が寄り集まったよう な擬人的な雰囲気を漂わせている。 池本 一三<日本> 「シーン 16」1991 年 池本 一三<日本> 1954 年、京都生まれ。京都市立芸術大学で油絵を専攻後、 ステンドグラスの仕事に従事。イタリアに渡りミラノの工 房で、ガラスの微細な顔料をノズルで吹きつけ、電気炉で 焼き付けるという技法を身につけた。色鉛筆のような繊細 なタッチは、色を重ねつやを出すために何度も高温での焼 付けを行うことから生じたもの。はじめ平面に描かれてい た絵の部分は、積層ガラスによる縁を持つようになり、台 の部分も含めて次第に立体性を強めていく。 ポール・スタンカード<アメリカ> 「植物学的な癒しの根」1992 年 1943 年、アメリカ、マサチューセッツ州生まれ。長い間、職人 として働いていたが、博物館で見たガラス細工の花と、19 世紀 フランスのペーパーウェイトに刺激され、植物を精密に再現す るシリーズを始めた。細いガラス棒をガスバーナーの炎で溶か し、ピンセットを用いて加工した花は、花びら、雄しべ、雌し べ、茎、葉、根に至るまで、驚嘆すべき精密さで作られている。 この小さな花が、透明ガラスの中に崩れないで存在することも 不思議だ。 ポール・スタンカード 「植物学的な花」1992 年 イジー・ハルツバ<チェコ> 「スメタナ」1993 年 1928 年、チェコ、ハラホフ生まれ。ノビーボルやプラハの工芸学校でガラスを学び、 さらにプラハ美術工芸大学でエングレービングの技法を追求した。ガラスに、エング レービングの技術を駆使して、スメタナやカフカなど、著名な人物の肖像を精緻に彫 りこむことで知られている。その肖像は単に外見をリアルに再現したものでなく、人 物の内面にまで踏み入って、その精神的なメッセージまでを表現しようとする強い意 思を示している。 リチャード・マーキス<アメリカ> 「2つの機能のないティーポット」1975 年 1945 年、アメリカ、アリゾナ州バンブルビー生まれ。 カリフォルニア大学を卒業後、イタリア、ヴェネチア のヴェニー二工房でガラスを学んだ。伝統的なレース ガラスやモザイクガラスの技術を身につけながら、実 用品でなく、遊び心に満ちた「機能を持たない」作品 を作り続けている。この作品でも、モザイク模様を きれいに象嵌した 2 つのティーポットの注ぎ口に穴は空いていず、ふたは溶着されて いる。微笑を誘うユーモアに富んだ作品。 山田 輝雄<日本> 「ボウル 5」1995 年 1943 年、東京生まれ。親から職住一体の仕事場で制作する江 戸切子の職人としての伝統を継承し、 日本伝統工芸展に出品。 特に花切子を得意とする。一方で、ボヘミアガラスやアール デコなどのカットを研究し、太うねのダイナミックなカット や、ガラスを欠いたままにする「はつり」を入れるなど、新 しいカットの表現を模索している。また、オートバイのエン ジンのような立体や、SF 小説の未来都市を刻み込んだような 立体作品もある。 吉本 由美子 <日本> 「ギャラクシー(銀河)」1994 年 1944 年、宮城県生まれ。女子美術大学卒業後、'74 年 バーナーワーク作家として独立。'78 年、WCC世界 クラフト会議で資生堂賞を受賞し、注目を浴びる。日 本クラフトデザイン協会に属し、耐熱ガラスを用いた 小さな「雲」のオブジェや、虹色の輝きを放つ球状の ネックレスなどを制作。その後、耐熱ガラスを引き伸 ばした細い糸状のガラスで立体を組み上げる手法を 確立。塔のように組み上げた大きな立体や、天使のシ リーズなどを精力的に発表している。
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