第8分科会 ワークショップ カウンセリング技法Ⅰ 「コラージュセラピー」 講師 鈴 木 康 明(国士舘大学文学部教授) 1.芸術療法(Arts Therapy)総論 (1)定義と領域 さまざまな「表現活動」を通して行う精神療法(人間を理解し成長を援助する治療 法)の総称。芸術療法の領域には,絵画,コラージュ,陶芸,箱庭,音楽,詩歌,心 理劇,ダンス,写真,園芸などがある。 (2)原理 ①まず表現すること:それ自体に自己治癒的な意味がある。 ②遊ぶこと:子どもにとっての遊びは成長の手立てであり,発散,レクリエーション, カタルシス,抑圧された情動の解放,喜びである。 ③創造性:表現活動の作業は,イメージや象徴による表現に活力を与える。 (3)導入する際の留意点 ①計画的に行う:年間スケジュールをたてて,指針を持つこと。 ②目的を明確にする:何のためのコラージュなのか。 ③安易に行わない:危険性を認識すること。 ④病態レベルの把握:自我障害があるかどうか。 (4)言葉の力 芸術療法は,非言語的なアプローチではない。言葉は表現・イメージの表出を促すも のであり,表現・イメージは言葉の土壌である身体を刺激するものである。 2.コラージュ療法 (1)コラージュ(collage)とは フランス語で「糊付け(する)」ことを意味する。現代美術の一つの技術であり,雑 誌やパンフレット,カタログなどの既成のイメージを,はさみなどで自由に切り抜き, それを台紙の上で再構成し,糊付ける。 (2)美術史におけるコラージュ ①ピカソ・・「籐椅子のある静物」(1912)発表後,1914年まで盛んにコラージュを製作。 ②マルセル・デュシャン・・「自転車の車輪」(1913)が初めてのレディメイド作品。 ③日本では,美術としては横尾忠則(1977),池田満寿夫(1987)など。個人心理療法とし ては,森谷寛之が1987年に治療技術として導入・発表。 (3)特質 ①簡便性:表現上の技術はほとんど問わず,広範な対象に実施できる。 - 1 - ②治療的要因:心理的な退行を促す,自己表出が可能である,作品の完成という達成感 を味わえるなど,作ること自体が治療となる。 ③「自分らしさ幻想」からの解放:嫌なら切らないでいい,どのような組み合わせも可 能という,選択の自由がある。また,自分の作った作品は唯一無二のものである。 (4)コラージュ療法の実際 ①準備物 素材:雑誌,パンフレット,カタログ,チラシ,新聞,マンガなど 台紙:A4~A3,B4~B3判の画用紙又はケント紙 その他:のり,テープ,ハサミ,カッターなど ②教示 これらの切り抜き(雑誌やパンフレット)のなかから,自分が気になるものを何か心 ひかれるものを選び(切り抜き),台紙の上で構成してください。それができましたら, 糊付してください。(時間制限は特に設けない。) ③方法 a)コラージュ・ボックス法 雑誌などから,あらかじめ得や写真,文字などを切り抜いておき,箱に入れておく。 そこから紙片を選んでコラージュを作成する方法。できるだけ幅広い領域から,自己表 現のしやすいものを集める必要があるが,事前に危ないイメージを取り除くなどの内 容の調整が可能である。また,集団での使用は難しい。 b)マガジン・ピクチャー・コラージュ法 自分が日頃見慣れている雑誌などを,自分で切り抜きコラージュを作成する方法。 何が表現されるかわからず,思いがけない表現が生まれることもある。集団でも使用 できる。 (5)フィードバック 作っているとき何を感じていたか,終った今どんな感じか,について話し合う。この ときカウンセラーの解釈や評価を優先せず,開いている質問(イエスかノーで答えられ, そこで会話が終ってしまうような質問ではない質問)をすべきである。 (6)実施上の留意点 ①自由と安全の保証:何を表現してもよいし,なくてもよいということを保証する。 ②共感的理解:制作者の内的な世界に関心を寄せる。 ③制作の自由:強制的に作らせないこと。 ④集団で行うとき:無理やり行わないこと。作品を尊重し,ばかにしないこと。学校の 成績を関連付け,評価するようなことなしないこと。 (7)アセスメントの6段階 ①話し合い:「もしタイトルをつけるとしたら?」「この作品のテーマは?」「どの紙 片が好き?」「あなたはどこにいるの?」 - 2 - ②印象:「全体から受ける感じは?」→まとまって安定している⇔バラバラでまとまり がない,乱雑におかれている,投げやりでいいかげん(だからといっていい加減な人間 と決めつけるものではない)。 ③象徴:物(食べ物,乗り物,衣服,靴,バックなど),人(性別,年代,職業,パー ソナリティ,ヒーローなど),他(神話や伝承,ジェンダー,アイデンティティなど)。 ④切り方,貼り方:小さい⇔大きい,四角い⇔丸みを帯びている,ていねい⇔乱雑,あ りきたり⇔独創的,枠に収まっている⇔はみ出す,単独で置く⇔重ねる,常識的⇔逆さ にするなど独特の貼り方。 ⑤判断軸:自己像を確認することで視点が定まる。 ⑥時系列での理解:何が(内容分析),どのように(形式的分析),どこに(空間象徴) の3要素の変容の様子を見る。 (8)集団コラージュ ①5~8人での実施を目安とする。 ②テーマを決めて作るか,決めずに作るか話し合う。 ③作り方を話し合う。 ④完成後,作成のプロセスで感じたことを話し合う。 3.ワークショップ概要 (1)導入としての描画療法の体験 ①なぐり描き法 ・A4用紙にボールペンで自由になぐり描きする。 ・隣同士で書いたものを交換し,どんな形が見えるかを捜してみる。(なぞるなど付 け足して強調する。) ・交換したものをもとに戻し,お互いに感じたことを話し合う。 ・その際,自分に何が起きているか,何を感じているかが重要である。 ②卵画 ・A4用紙に卵を一つ描き,隣同士で交換する。 ・卵にひびを一つ描き入れ,中から何が飛び出してきたかを描き加える。 ・卵を描いた相手をどれだけ思って(考えて)いるかを,目に見える形で返すことが 重要である。 ③ダンス療法(のさわりの部分) ・2人組になり,両手を合わせて立つ。 ・どちらかが自由に手やからだを動かし,もう一方はそれに合わせて動いてみる。 (2)傾聴・合意形成の体験 ・「ある物語」の書かれた資料(A4版1枚)を配布。 ・その物語の中の登場人物(5人)を,自分が賛同できる順に並べてみる。 ・グループ(6人程度)内で話し合った後,グループとしての統一意見をまとめる。 ・その際,多数決やじゃんけんなどは行わず話し合いで決めることとする。 - 3 - ・話し合いの過程で,何を感じたかが重要である。結局,人はそれぞれ異質なもので あり,合わせることには大変な労力がかかるが,話し合うしかないということを理解 する。 (3)コラージュ療法の体験(個人コラージュ・集団コラージュ) ①個人コラージュ ・持参した雑誌などから「気になるもの」を切りぬく(はさみを使っても,手でちぎっ ても可)。(15分程度) ・台紙(A3版)を配布し,切り取った素材を台紙に置いていく。(15分程度) ②集団コラージュ ・グループ(6人程度)で,個人コラージュ同様「気になるもの」を各自が切り抜き, 素材を持ち寄り,一つの台紙(模造紙1枚)に作品を完成させる。 ・完成後,グループで作っている時に何を感じたかについて話し合う。 4.質疑応答・協議(Q:質疑,A:回答,C:意見) Q(参加者)1対1で行うときの留意点は? A(講師)「見張られている,監視されている」という状況はクライエントによくない 場合もあるので,カウンセラーも同時にコラージュを行いながら観察するのもいい。 C(講師)コラージュ等の作品を他に活用する際には,必ず本人の了解を得ることが必 要である。 Q(参加者)緊張していてなかなかコラージュ等の作業に入りにくいときは? A(講師)導入に行うものとして,ダンス療法を用いるのは一案。「ダンス」というよ り「音楽に合わせて体を動かす」程度の意識で,ほぐしてあげることが大事である。 Q(参加者)子どもに行う際,暴力的・性的な表現が出やすいのではと思われるが?ま た,そういった表現を見つけた際の対処方法は? A(講師)あらかじめ切り取った素材を持ち込む際,注意が必要であるが,クライエン トには表現の自由と安全を保障しておくことが大事である。また見つけた場合,その 子が訴えたいメッセージということもあるので,声をかけて話を聞いてあげることが 必要である。 Q(参加者)学級づくりに活用する際の留意点は? A(講師)例えば,4月には新しい関係作りのために,9月には行事に合わせ関係を深 めるためになど,年間スケジュールを立てることが必要である。また,集団になじめ ず,はじかれるような子どもへの配慮は重要である。 (参考文献) 「芸術・表現療法の現状と課題」 精神療法Vol.31,№6 森谷寛之・杉浦京子ら「コラージュ療法入門」 森谷寛之・杉浦京子ら「コラージュ療法」 創元社 至文社 - 4 - 1999 金剛出版 1993 2005
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