No.17「地方自治体とPPS(新電力、特定規模電気事業者)」

政策を見る眼
地方自治体と PPS(新電力、特定規模電気事業者)
No.17< 2016. 3. 25 >
宮脇 淳
2016 年 4 月から家庭向け電力小売り(小口電力)自由
一定期間、一定価格で買い取ることを義務づける一方、
化がスタートする。これにより、地域のエネルギー事業は
消費者が電力会社に支払う再生可能エネルギー発電
発電だけでなく小売り領域にも拡大する。これを見据えた
促進賦課金を取りまとめ交付するものである。これを活用
地方自治体の PPS(Power Producer and Supplier:新電
し電力を買い取ることで、供給面では、既存電力会社の
力、特定規模電気事業者)関連の動きも、昨年来、活発
電気代よりも安く提供することが可能となる。
化している。先行例には、群馬県中之条町、福岡県みや
ま市、岩手県葛巻町、兵庫県宝塚市等が上げられる。
北海道大学法学研究科・公共政策大学院教授
FIT は、フィードインタリフ制度、電力買い取り補償制等
と呼ばれ、地球温暖化対策、新エネルギー源の確保等
「花と湯の町」として知られる人口約 18,000 人の群馬
を目的としている。都道府県別の FIT 容量は下図の通り
県中之条町は、一般財団法人中之条電力を受け皿に
である。本年 4 月からの電力小売自由化でも、再生可能
町内のメガソーラーから(不足時・夜間は他からも)電気
エネルギーの活用は限定的となっている。東京電力福
を購入し、役場、学校、道の駅等の公共施設に供給する
島原発事故に伴う電力不足、電気料金値上げ等を反映
仕組みを築いている。地方自治体が電力の「地産地消」
し、既存電力会社ではなく、新規参入した PPS から購入
と再生可能エネルギーの活用をめざして電力会社を設
する動きは地方自治体、民間企業ともに広がっている。
立した最初の事例である。また、平地が多く太陽光発電
但し、PPS の電力供給力には限界があり、地方自治体が
に適した福岡県みやま市では、みやまスマートエネルギ
買い入れの入札を実施しても不調に終わる事態も生じて
ー株式会社を設立、市内に設置されているメガソーラー
いる。地域住民の生活コスト削減には期待したほどの成
と各家庭の太陽光発電から電気を調達し、市内の昼間
果が得られていない場合も少なくない。
電力使用量を賄うことを柱としている。同様に、大阪府泉
佐野市では一般財団法人泉佐野電力を設立し 2015 年
(図)都道府県別 FIT 容量(2015 年 11 月現在)
4 月から公共施設への電力供給を開始、鳥取市でも株
式会社とっとり市民電力を 2015 年 8 月に設立している。
これらは電力小売を視野に入れたものである。
地方自治体が地域の PPS に関与する理由としては、
第 1 に、農地法・森林法等に基づく法的手続に民間主体
だけでは時間を要し、ビジネスチャンスを狭め、地域での
PPS 展開の制約要因となることがあげられる。
第 2 に、地方自治体が国有林等を借りて太陽光発電
を設置する場合、土地の民間事業者への「又貸し」方式
が中心となる。そのためエネルギーの「地産地消」に向け
(資料)資源エネルギー庁資料による
(注)新規/移行…固定価格買取制度開始後に認定/前に既に発電
て住民に「見える化」することが難しくなるなどの実務的
「2014 年度分の自治体の電力購入・売却状況の調
課題が生じる。一般家庭にとって電力は目に見えない存
査」(http://www.ombudsman.jp/nuclear/2015denki.pdf 全
在であり、PPS の電力も既存電力会社の送電線で供給さ
国市民オンブスマン連絡会議)では、PPS からの電力購
れるため、地域政策として PPS を展開する場合には、地
入比率を、2014 年度、都道府県 10%強、政令指定都市
産地消を住民に実感をもって認識してもらうことが鍵とな
20%弱としている。電力購入の方法は、入札又は随意契
る。この課題を克服するためには、地方自治体が関与し
約を基本としているが、「企業の地域性・社会性」を評価
て PPS を設立し、「見える化」することが選択肢となる。
項目に入れた「総合評価方式」で、PPS より 269 万円高
第 3 に、発電施設から電力を購入する際には、低炭素
い既存電力会社と契約した例も紹介している。地方自治
投資促進機構の交付金を得ることができる。これは、固
体での PPS 関連の展開は、ビジネスモデルはもとより、
定価格買取制度(FIT: Feed-in Tariff)により、電気事業
「地産地消」、地域の公共サービスの充実を基本理念と
者に再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を
して、地域政策の視点から取り組むことが重要である。
*バックナンバーは http://www.trc.co.jp/soken/ をご覧ください。
発行:株式会社図書館総合研究所 (担当:TRC セミナー「まちの課題を解決する図書館」事務局 島泰幸)
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「政策を見る眼」No.17<2016.3.25>