ディスプレイ業界における 人材活用の今後

人材派遣の現状と今後
東京ディスプレイ/2008秋号
ディスプレイ業界における
人材活用の今後
それでは本当に業界としてやらなければいけないことは何か?
それは次の3点だと考えます。
<業界における対応課題>
① 明らかに違法な現場の実態は正すこと
② 業界としての請負基準をつくること
③ 人材会社による雇用安定、教育機会創設をすること
ディスプレイ業の中心的な業務の中には展示会や自治体イベント、
コンサートなど数多くの非
請負の基準は厚生労働省が作成した「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」
建築系業務が含まれています。中には選挙の投開票所、入学・卒業式会場、園遊会など皇室関
(告示37号)
に示されています。
また、
労働局が「請負の適正化のための自主点検表」
(※2)
を作成しています。
連と言った公的色彩のものまで多岐にわたります。これらに共通するキーワードはいずれも短期
これらに示される要件を全て満たすことが求められ、
ポイントは次の2点です。
間の開催で一日限りのものも少なくありません。
こうした作業を陰で支えている短期アルバイトの供給システムが今大きく変わろうとしています。
① 労働力の直接利用
「自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること」とあります。
つまり業務に関する指示、
配置の決定や変更、
労働時間の管理を自ら行い、
労働者の技術指導や勤
1.労働者派遣制度改正の流れ・・・日雇い派遣原則禁止へ
労働者派遣制度改正については、
厚生労働省の労働政策審議会が「今後の労働者派遣制度のあり方に
関する研究会」の報告(※1)
をもとに、
部会(公益、
使用者、
労働者の代表によって組織されています)
での審
務状況、
作業に対する評価を自ら行うものであるかということになります。
② 業務遂行の独立処理
「請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理す
議を経て、
法案提出の建議を平成20年9月24日付で大臣に提出しました。この部会の結論は、
前述の研究会
るものであること」とあります。
報告とほぼ同じ内容になっており、
日雇い派遣は一部の専門性があり労働者の保護に問題のない業務を除
つまり業務に要する資金の調達、
法律上の事業主としての責任、
単に肉体的な労働力を提供するも
いて原則禁止になります。
のでないこととなります。
こうした研究会や部会審議の過程で現与野党共に大筋で同一見解を発表している経緯もあります。提出
問題は「単に肉体的な労働力を提供するものではないこと」の部分です。これにはさらに判断基準
時期は未定ですが(9月30日現在)遅くとも次期通常国会にて法案が提出されれば間違いなく年度内には可
があります。
決されるでしょう。そして1年以内には施行される見通しです。
「自己の責任と負担で準備し、
調達する機械、
設備若しくは器材又は材料若しくは資材により、
業務
を処理すること」または、
「自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、
業
2.今後の対応
務を処理すること」
とされ、
どちらかを満たすことが要求されています。
① 概 要・・・
「請負」か「職業紹介」か
「日雇い派遣」が禁止になることで人材の利用形態は、
「請負」か「職業紹介」
という選択肢になっていきま
業界の現状を考えれば、
これらの全てを満たすことは難しいと思います。
す。
「職業紹介」はその規模によっては可能なようにも思われますが、
1日に大量の人員を動員するような場合
など、
どうも現実的ではないように思われます。
● 指揮命令はどこまで許されるのか?何をもって指揮命令か?技術指導もできないのか?
● 請負企業がすべて部材を自己調達するのか?専門的な技術に該当するのか?
<職業紹介=直接雇用によって何が変わるか>
雇用責任を紹介先企業(求人企業・発注企業)がすべて担うことになります
1. 勤怠管理責任
2. 賃金支給(源泉徴収含む)
・・・発注企業による日払い対応
確かにこうしたグレーゾーンが存在しています。
またグレーゾーンが存在することを労働局も理解しています。
ですから、
これらのグレーゾーンについても業務の実態をふまえて業界としての基準をつくっていくことが必要
ではないでしょうか。
3. 労災対応事務の増加
4. 各種保険料負担の増加
5. 個人情報保護体制の整備、強化
② 明らかに違法な現場の実態は正す
ただし、
グレーゾーンの基準づくりよりも大前提として「明らかに違法な現場の実態は正すこと」をしなけれ
ばいけません。
そこでまず、
業界に於ける人材活用状況を調査のうえ「職業紹介」以外の選択肢がないものと「請負」可
請負にしろ派遣にしろ使用する労働者に対する責任の所在を明確にすることです。
能なものに分類すべきでしょう。
例えば「1人の労働者が現場で様々な会社の様々な人から指示をされて作業をする」といった現場があ
もちろん、
人材会社を利用せずに直接雇用という選択肢も存在します。
しかしながら、
業界特有の季節性を
ればそれは正していくことが必要です。これはグレーゾーンではなく、
明らかに偽装請負や二重派遣に該当し
考えれば直接雇用という選択は難しいのではないでしょうか?実現するにはクリアすべき課題がいくつも存在
てしまう現場体制なのです。
(別表参照)労働災害が発生した場合に、
労働者は誰に保障されるのでしょう。
します。
安全衛生への取り組みは業界において推進されていますが、
こうした根底の実態から見直すことが必要です。
ディスプレイ業界は建設業に準ずる作業も多く存在することからも、
特に設営施工系作業については「請負」
ケースが散見されます。このような現場に違法の指摘を受けてしまうと人材供給会社だけではなく、
発注者側
という選択がもっとも現実的なように考えられます。
の責任を問われ、
芋づる式に関係企業が指導、
さらには業務停止処分などを受けるようなことになっていくわ
同様に「外注業者を多用する人材系請負業者」も今後は要注意です。これらの多くも偽装請負と判断される
2 TOKYO DISPLAY ASSOCIATION
TOKYO DISPLAY ASSOCIATION 3
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けです。これは業界全体としての問題なのです。このような現場を正すと同時に業界としての請負基準づくり
が成立するのではないでしょうか。
労働者派遣事業
二重派遣
労働者派遣契約
請負契約
③ 請負基準をつくる・・・
IT業界の事例
請負や派遣の区分にグレーゾーンが存在した業種に情報サービス産業があります。いわゆるSEと呼ばれ
派遣先
派遣元
派遣先B社
注文主A社
る職種の業務ですが、
この業界は労働者派遣法が施行された1986年の時点で社団法人日本電子工業振興
協会と社団法人情報サービス産業協会(使用企業と人材企業)が協同で当時の通産省、
労働省の指導のも
雇用契約
指揮命令○
とで「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備に関する法律(労働者派遣
法)
に関する業界運用基準」
(※3)
を取りまとめて正式に受理されている事実があります。業界特性にあわせ
労働者
労働者
派遣契約
指揮命令×
指揮命令○
派遣元C社
労働者
た請負判断基準を作成したということです。
雇用契約
前述のように「請負の適正化のための自主点検表」に適合しなくても特段の合理性があると労働局が認め
た例は他にもいわゆるパーティコンパニオン業界にも見られます。
改正法の施行まで充分な時間がある今こそディスプレイ業界においてもこうした基準づくりを進め、
業界とし
◆派遣元が雇用する労働者を派遣先に派遣して派遣先の指揮命
令を受けて派遣先のために労働させることを目的とした事業。
※建設業、港湾労働、警備業は派遣の禁止業務
◆B社からの発注で、
B社の現場へ派遣元C社が派遣したが、元請
注文主であるA社が指揮命令を行う状態
◆人材会社の外注使用時等にもみられる
請負事業
偽装請負1
請負契約
請負契約
てフォローできることを実行することが必要でしょう。
やぶへびになることを恐れていると大混乱の物流業界、
引越し業界の二の舞になりかねません。
④ 人材会社の責任としての雇用安定と教育機会の創設
ディスプレイ業界においても20年前頃から人材会社が出来たことで自己の労力負担無く必要な労働力をも
って現場を完成することができるようになっていったことは労働力需給の仕組みとして多大な貢献をしてきてい
請負業者
注文主
請負業者
注文主
ると考えています。
しかし一方で人材会社が増えたことで、
若年層中心の労働者に対しては正規雇用者と比較して能力開発
や教育等の育成される大事な機会を失ってしまう結果を生み出した罪があるとも感じます。日雇い派遣禁止
指揮命令○
雇用契約
雇用契約
の議論の中心が現場の指示系統や安全確保だけではなく、
労働者の雇用の在り方にまで議論が移っていっ
労働者
指揮命令×
労働者
たことからもわかります。
業界としてすべきことの3点目、
人材会社による雇用安定や教育機会の創設努力はもはや不可欠です。社
員登用の推進や労働保険、
社会保険等の保障の促進、
作業評価による能力育成機会の増加など制度や機
◆請負業者が自らの労働力等を使用し、仕事を完成させる事業
会の充実などが不可欠になるだろうと考えます。
そして業界をあげて資格制度の創設等によって専門性を高めること、
安全な現場づくりの一層の推進等が
※請負事業(建設業法・警備業法など)
として認められている状態。
◆請負業者ではなく注文主が指揮命令を行う状態
(明らかに派遣)
◆安全に関わる指示については可能
必要となるのではないでしょうか。
⑤ 法知識の啓蒙
職業紹介事業
求人依頼
紹介手数料支払い
最後にこうした人材活用についての法知識を発注者の方や最前線で働く現場の方に広く啓蒙していく必
要があります。
一連の騒動の中でたまたま違法行為を繰り返している人材企業を使い結果的に禁止業務に派遣し、
さらに二
偽装請負2
紹介事業者
請負契約
求人企業
請負業者
請負契約
注文主
主催者・他社
重派遣だったために発注側にも逮捕者が出ている事例がありました。特に日雇い派遣的活用には法施行後
しばらくは摘発件数が増加すると思われます。これらの多くは労働者からの告発によるものが大半です。
こうした事態を回避するためにも法案通過後に業界としての積極的な啓蒙が不可欠であると思います。
雇用あっせん
求職依頼
仕事の紹介
雇用関係
労働者
参考資料)
直接雇用
指揮命令×
雇用契約
指揮命令の
混在
労働者
※1. 厚生労働省 派遣制度研究会報告.
「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会 報告書」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/dl/h0728-1b.pdf
※2. 厚生労働省・都道府県労働局 派遣と請負の区分自主点検項目
◆職業紹介事業とは、 求人企業、求職者との間での雇用関係の
成立をあっせんすることを目的とした事業。
◆注文主かつ別の第三者(主催者や他社等)からの指揮命令関
係が混在している状態 ◆安全に関わる指示については可能
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kaisei/dl/ukeoi.pdf
※3. 情報サービス産業の業界基準
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び「派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」に関する業界運用基準」
http://www.jisa.or.jp/legal/download/haken_gyokai_kijun.pdf
4 TOKYO DISPLAY ASSOCIATION
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