Vert-84 - 船橋市立医療センター

疾患別説明書:
めまいと失神
(Vert-84)
船橋市立医療センター脳神経外科(2002 年 10 月 1 日)
1、平衡とめまい
「めまい」とは、平衡感覚が障害された状態である。身体の平衡を維持するためには、下図のよう
に「入力系」、「中枢」、「出力系」が必要となる。これらのどこかに障害が生じると、「平衡」が維持
できなくなり、「めまい」が生じる。前庭器官とは三半規管と耳石であり、ここでの情報は前庭神経
を介して脳幹(延髄・橋)の前庭核に伝えられ、さらに小脳の片葉小節葉に伝えられる。
入力
●視覚(網膜)
●前庭覚(半器官、耳石器)
●深部感覚(筋紡錘、腱紡錘)
出力
中枢
●筋肉
(四肢筋、眼筋)
(大脳、小脳、脳幹、脊髄)
半規管の膨大部稜で
回転運動を検出
蝸牛と蝸牛神経:音を聞く
前庭器官と前庭神経:平衡感覚を司る
聴神経=蝸牛神
耳石器(卵形嚢と球形嚢)
前庭器官=三半規管と耳石器
経+前庭神経
で直線運動と傾きを検出
2、脳循環と失神
脳のエネルギーは酸素とブドウ糖であり、これらは脳
循環によって供給される。安静時の脳血流は灌流圧が
50-150mmHg の範囲では一定に保たれており、これを脳循
環の自動調節能という。50mmHg 以下になると、脳血流は
脳への血流
減少する。また、血中炭酸ガス濃度の低下および酸素濃
脳血流量
度の上昇により脳血流量は減少する。
失神(syncope)とは一過性の意識消失である。低血圧
PaCO2
PaO2
により脳循環の低下、低酸素血症、低血糖が生じると失
神をきたす。自動調節能に異常がある患者では、血圧低
下が少なくても失神してしまう。失神する前の状態でめ
まいを感じることがある(presyncope)。
-1-
50-150mmHg
灌流圧
3、めまいの分類(3型に分類)
① 真性めまい
仮性めまい(pseudovertigo, dizziness)=非回転型
=回転型めまい(vertigo)
② 動揺型(dysequilibium)
③ 失神型(presyncope)
自分または周囲がぐる
体がふらふらする、船に
気が遠くなる、気を失いそうにな
ぐるまわる、目がまわ
揺られた感じ、ふわふわ
る、頭から血が引く感じ、目の前
る、天井がまわる。
する、宙に浮いた感じ、
が暗くなる(眼前暗黒感)。これが
足が地につかない。
ひどくなれば失神(syncope)。
心原性疾患
前庭疾患
18
Lawson ら(1999)によると、プライマ
28
16
リケア医を訪れためまい患者の原因
は、心原性疾患が最も多く 46%、前庭疾
患は 34%、中枢神経疾患は 16%であった。
2
不明 14
14
これらのうち原因が重複している例も
あった。
中枢神経系疾患
鈴木淳一ら(1984)によると耳鼻科のメマイ
外来を受診しためまい患者のうち、末梢性め
末梢性
50%
中枢性
26%
その他
24%
まいは 50%、中枢性めまいは 26%、その他が 24%
であった。末梢性ではその半数をメニエル病
と良性発作性頭位めまい症が占めた。中枢性
では、その 65%を脳循環障害が占めた。
4、めまいを起こす主な耳疾患
メニエル病、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴を四大耳性めまい疾
患という。
1)良性発作性頭位めまい症 (水野の報告ではめまい患者の 23%で最も多い)
(1)原因:耳石などの壊れた小片が半規管内を浮遊し、膨大部のクプラに沈着(cupulolithiasis)
(2)誘因:頭頸部外傷、長期臥床、耳中毒性薬物、中耳炎、音響外傷、中耳手術、突発性難聴の既往、前庭神
経炎の既往、メニエル病の既往
(3)診断:①めまい頭位:特定の頭位をとると激しい回転性ないし動揺性のめまいが出現(寝たとき、寝返り
をうったとき、下を向いたとき、振り向いたときなど)、②めまい頭位をとり続ける、または頭位の変化を反復
するとめまいは軽快する。時間がたって再びめまい頭位をとるとめまいが再発する。③耳鳴りや難聴などの聴覚
症状はなく、眼振以外の神経学的異常所見もない
2)メニエル病
(水野の報告ではめまい患者の 12%)
(1)原因:内耳の内リンパ水腫が生じる。原因は不明であるが、誘発因子としては疲労、ストレス。
-2-
(2)診断:①回転性めまい発作を反復すること(悪心、嘔吐などの自律神経症状をともなう。経過中、非回転
性のことあり。めまいの起こり方は誘発性ではなく自発性。)、②耳鳴り、難聴、耳閉塞感などの蝸牛神経症状が
反復、消長すること、③上記①②の症候をきたす他疾患が除外できること
3)前庭神経炎 (水野の報告ではめまい患者の 1%)
原因は、ウイルス感染や循環障害が考えられている。前駆症状としての上気道炎に続発して生じることが多い。
症状は、激しい回転性めまい、悪心、嘔吐
4)めまいを伴う突発性難聴
原因不明の急性感音難聴。このうち半数は「めまいを伴う突発性難聴」。聴覚症状としては、一側性の高度の感
音難聴が突然に生じる。耳鳴や耳閉塞感を伴うことも多い。前庭症状としては、めまい、ふらつき、嘔気、嘔吐。
5)ハント症候群のめまい
原因は、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化。症状は、外耳ヘルペス、顔面神経麻痺、めまい。
6)薬物によるめまい
(1)原因:薬物が前庭半規管に作用してめまい、ふらつきが生じる。
(2)めまいを起こす薬物の種類:①心循環器系薬(降圧剤、利尿剤、カルシウム拮抗薬、抗不整脈)、②抗う
つ薬、③鎮静薬・精神安定薬、④筋弛緩薬、⑤非ステロイド抗炎症薬、⑥抗ヒスタミン薬、⑦抗てんかん薬、⑧
抗生物質、⑨抗癌薬など。
5、めまいを起こす主な脳疾患
めまいを起こす主な脳疾患を次に図示する。
小脳腫瘍
小脳梗塞
脳幹梗塞
小脳出血
第4脳室内腫瘍
小脳橋角部腫瘍
【注】脳梗塞
●
Wallenberg 症候群(延髄外側症候群):突然発症するめまい、眼振、嘔気嘔吐、嗄声、しゃっくり、同側の
小脳症状・顔面の温痛覚障害・Horner 症候群、反対側の頸部以下の温痛覚障害
【注】椎骨脳底動脈不全
●
鎖骨下動脈盗血症候群:椎骨動脈分岐部より近位の鎖骨下動脈に狭窄または閉塞
●
Powers 症候群:椎骨動脈不全、前斜角筋症候群、鎖骨上部に血管雑音
●
Bow hunter’s stroke:右利きの狩人が弓を引くときに左を向くと脳幹の循環不全をきたす
6、めまいが生じた直後の生活指導
めまいが生じた直後には、次のようにするとよい:①体を動かさず、楽な姿勢をとる。衣服をゆる
めて横になる。②静かな部屋で、目を閉じて安静にする。③光の刺激を避ける。目の前の動くものを
見つめない。④大きな音・振動・動揺を与えない。⑤めまいが治まっても、急に動かない、動くとし
てもゆっくり動く。
-3-
7、めまい・失神の原因疾患一覧表
●耳疾患:良性発作性頭位めまい症、メニエル病、突発性難聴、前庭神経炎、
①
末梢性
外リンパ瘻、遅発性内リンパ水腫、ハント症候群、外傷(内耳振盪症、聴神
経の外傷など)、薬剤(アスピリン、SM・KM などの抗生剤)、帯状疱疹によ
回転型
る聴神経障害
●脳幹・小脳などの疾患:脳血管障害(出血、梗塞、椎骨脳底動脈循環不全、
中枢性
Wallenberg 症候群)、脳腫瘍、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、脳幹脳炎、
中枢神経梅毒、延髄空洞症、てんかん、頭部外傷後遺症、アルコール性小脳
変性症、Arnord-Chiari 奇形、脳底動脈片頭痛、神経血管圧迫症候群
②
動揺型
心因性
その他
●心因性:神経症(パニック障害、全般性不安障害)、気分障害(うつ病)、
身体表現性障害など
●緊張型頭痛
●薬剤性:抗生剤、抗てんかん薬、抗不安薬、睡眠薬
●内科的:高血圧、低血圧、貧血、白血病、糖尿病、低血糖、甲状腺機能低
下症、自己免疫疾患、透析をうけている患者
●眼科的:眼精疲労、屈折異常、外眼筋麻痺、動揺視
●産婦人科的:月経前緊張症、妊娠、分娩、産褥、更年期障害
●整形外科的:頸椎症、筋疾患
●神経因性失神=血管迷走神経性失神:迷走神経の血管への作用により失神
するという意味、一過性の意識消失発作の原因としては最も多い。35 歳以下
の場合には最も多い原因。頸動脈洞および大動脈にある化学受容器より出た
③
全 脳 虚
失神型
血性
求心性衝動が延髄に至り、遠心性の迷走神経(副交感神経)により血管拡張、
心臓抑制が生じる。臨床的には、立位・座位で生じやすい。疲労・ストレス・
運動・激しい疼痛・恐怖、精神的ショックなどにより迷走神経反射が生じて
次のような症状を呈する(交感神経より副交感神経が優位になる)
。Ⅰ度:顔
面蒼白、嘔気、生あくび、唾液過多、瞳孔散大、腹痛、過呼吸や頻呼吸、脱
力、頻脈、冷汗が生じる。次いでⅡ度:意識消失、嘔吐、40 以下の徐脈、90
未満の低血圧となる。さらにⅢ度:痙攣・失禁。)
【注意】:「失神型めまい」
がひどくなれば「失神」と
なる。
●状況性失神=situation syncope(排尿失神、排便失神、咳嗽失神、重量挙
げ失神):排尿・排便・咳嗽などにより胸腔内圧上昇・静脈灌流減少が生じ、
めまい・失神が生じる。咳嗽失神は慢性気管支炎患者に生じやすい。
●起立性低血圧:臥位から起立すると血液が下肢から腹部内臓に貯留し、心
●失神の原因としては、血
臓への静脈還流が 30%減少する。血圧を維持する反射弓が障害されていると
管迷走神経性、心原性、起
低血圧になる。起立時に収縮期圧 25mmHg 以上、拡張期圧 15mmHg 以上低
立性低血圧、状況性が多
下により診断。原因:長期臥床、L-Dopa・降圧剤などの副作用、脊髄癆、糖
い。
尿病性神経症、交感神経切除後、特発性(Shy-Drager 症候群)
●失神にはてんかんや頭
●食事性低血圧(食後性低血圧)
:食後に腹部内臓への循環血量が増加して静
部外傷による意識消失(脳
振盪)は含まれない。しか
脈還流が減少する。反射弓が障害され、収縮期血圧が 20mmHg 以上低下し、
めまい・失神などをきたす。
● 心 原 性 失 神( 失 神 の 原 因 と し て こ れ が 最 も 多 い と い う 統計 も あ る ):
し意識消失の原因を鑑別
Adams-Stokes 症候群(徐脈性または頻脈性不整脈のため心拍出量が低下し、
するときには、てんかん・
脳血流が低下し、めまい・失神などをきたす)、心臓弁膜症、その他
脳振盪・心因性疾患の可能
●頸動脈洞性失神:頸部過伸展、頭を一方に回転、きついカラーを巻く、ネ
性も考慮する必要がある。
クタイをしめる、頸動脈洞付近の髭剃りなどにより頸動脈洞が物理的に刺激
され低血圧になる。
●低血糖性:経口糖尿病薬、胃切除後、肝疾患、インシュリノーマ
●その他:過換気症候群、舌咽神経痛、アルコール性、熱中症など
-4-