フランス地域自然公園制度 - 名寄市立大学/名寄市立大学短期大学部

フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性
-天塩川流域を対象として-
清水池 義 治
吉 田 俊 也
神 沼 公三郎
奈 須 憲一郎
名寄市立大学
佐 藤
信
三 島 徳 三
道北地域研究所
「地 域 と 住 民」 第29号 抜 刷
2011年 3 月
名寄市立大学 道北地域研究所 年報 第 29 号(2011)
フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性
──天塩川流域を対象として──
研究報告
フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性
──天塩川流域を対象として──
清水池義治 神沼公三郎* 佐藤 信**
吉田 俊也*
奈須憲一郎***
三島 徳三†
1. はじめに
天塩川は、士別市南東に位置する北見山地天塩岳付近を水源とし、名寄盆地を北へ流れ、天塩町で日本海
へと注ぐ全長256km(河川延長では全国第4位)の一級河川である。南北に細長い流域が特徴であり、北海
道遺産1)にも指定されている。天塩川および複数の支流を含む流域(以下、天塩川流域)には、名寄市・
士別市、和寒町・剣淵町・下川町・美深町・中川町・幌延町・豊富町・天塩町、音威子府村の2市8町1村
の自治体が存在する(図1参照)
。これら11自治体の総人口は2010年現在で82,463人、全道の1.5%、総面積
は5,622㎢で全道の7.2%を占める。北海道北部地域(以下、道北地域)2)の一部を構成する天塩川流域は、
北海道内の他地域と比較すると以下の特徴を有する。すなわち、第1に多雪・寒冷といった厳しい自然条件、
第2に希薄な人口密度、第3に農業・森林に代表される豊富な一次資源の賦存、第4に農業と建設業への産
業構造の特化である。
天塩川流域の主要産業である農業と建設業は、農産物需要と価格の低迷、ならびに公共事業費の削減によ
って産出額の減少に見舞われている。もとより、農業は全国市場への原材料移出型、建設業は国・地方自治
体による公共事業依存型の産業構造をもつため、地域内で産出される付加価値が少なく、また地域内の産業
連関が弱い。地域内での産業連関が弱いがゆえに中央依存の産業構造にならざるを得ず、自立的な地域経済
の確立を困難にしているのである。すでに天塩
川流域では1980年代以降、3割近い人口減少が
国土地理院承認 平14総複 第149号
生じ、著しい過疎が進行してきた。これら主要
産業の衰退を押しとどめることができなければ、
一層の人口減少を招きかねない。すでに、医療・
福祉・教育・日用品購買といった地域社会の基
盤となる基本的な生活インフラが脅かされてい
る地域も少なくない。さらに、一向に回復の兆
しが見えない需要やそれに伴うデフレの進行、
そして環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)やW
TO・FTA交渉など、地域経済の与件を大きく変
化させかねない不確定要素も無視し得ない状況
にある。
ところで、こういった中央依存の産業構造を克
服するために、天塩川流域の農林業では地域産
品のブランド化を中心とした地域ブランドの取
り組みが進んでいる。これは単なる特産品化の
図1 天塩川流域の11自治体
取り組みではなく、地域そのもののブランド価
資 料 : 白 地 図 ソ フ ト 「 白 地 図 KenMap」 を 用 い て 筆 者 作 成 。
値の向上を通じて、人々が持続的に生活できる
*北海道大学北方生物圏フィールド科学センター、**北海学園大学経済学部、
***特定非営利活動法人 森の生活、†北海道大学名誉教授
キーワード:フランス地域自然公園(PNR)、天塩川流域、ボトムアップ型地域振興
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道北地域研究所
年報 第29号(2011)
地域社会の確立を目指した地域振興策と評価できる。しかし、各自治体・産業・組織ごとに地域振興策が個
別的・孤立的に取り組まれているため、地域が一体になった取り組みまで至らず、必ずしも有効な地域振興
策となっていない場合も見受けられる。その中で、天塩川流域という個々の自治体領域を越えた広域圏を単
位とする取り組みも始まっている。
「天塩川流域ブランド」という広域的な地域ブランドの模索や、天塩川
流域滞在型観光地づくり協議会の設立に見られる広域的なグリーン・ツーリズムの取り組みである。地域に
生きる住民の意思を幅広く反映した実効性のある地域振興の枠組みが求められていると言える。
本論文の課題は、フランス地域自然公園制度(仏:Parc naturel régional、以下、PNR)からの示唆を受け
て、天塩川流域における地域振興の問題点を析出し、天塩川流域という広域圏を単位とするボトムアップ型
地域振興策の有効性を提示することである。本論文では、個別的・孤立的な地域振興策の問題点を克服しう
る地域振興モデルとして、PNRに注目する。以上の課題を明らかにするために、まず、PNRの指定プロセス・
基準の分析を通じて、PNRによる地域振興策の特徴を述べる。次に、PNRに指定される圏域がもつ共通の地
域性は「テロワール」
(仏:terroirs)と呼ばれるが、天塩川流域がテロワールを有するかを自然環境・農業・
森林資源などの地域資源の面から考察する。続いて、天塩川流域における地域振興上の課題を地域ブランド
や地域資源管理の点から明らかにしたうえで、PNRの制度的枠組みを活用したボトムアップ型地域振興策の
アウトラインを提示し、その有効性を論じてゆきたい。
2. フランス地域自然公園制度(PNR)による地域振興策の特徴
(1)PNRの目的と現状
本節では、フランスの地域自然公園制度(PNR)の枠組みを検討し、PNRにもとづく地域振興策の特徴を
述べる3)。
PNRは、1967年に国土整備・地域振興庁(DATAR)の発案により制度化された。石井〔2002〕は、PNRの
目的を①自然資源・文化資産の保全とその活用、
②地域住民が定住できるような経済的・社会的活動の発展、
③観光客を呼び込むための各種整備、④地域の自然資源・文化歴史資産に関する認識の向上と教育普及と指
摘し、自然資源・文化歴史資産の保全管理を通じた地域発展を目指す制度と特徴付けている4)。自然環境の
保全を目的とする同様の制度としてフランスには国立公園制度があるが、PNRとは以下のような違いがある。
国立公園の場合、自然環境の保全管理が最優先され、無人区域が国立公園に指定される。しかし、PNRの場
合は、自然環境は単に保全管理されるだけではなく、教育・文化・観光に資する存在として位置付けられて
おり、観光事業などの経済活動の対象として活用することも可能である。つまり、PNRは自然環境の保全を
目的にしているが、農村振興政策としての側面も有している。
2011年1月現在、フランス国内には46のPNRがある。指定圏域は約700万haで全国土面積の13%を占め、300
万人が指定圏域内で居住している。これらPNRには、3,900を超えるコミューン、69の県、21の地域圏が含
まれる5)。PNRの指定圏域は最小2万haから最大40万haと幅があり、含まれるコミューン数も20程度から150
を超えるものまでが存在する。
(2)PNRの指定プロセスと組織
①PNRの指定プロセス
PNRは中央省庁のトップダウンで指定されるのではなく、ボトムアップ型の指定プロセスを経る。PNRの
指定は、予定される圏域のある地域圏議会の発議から開始される。地域圏議会・県議会・広域行政組織およ
び住民をはじめとする全てのステークホルダーによる議論を経て、PNR憲章を策定する。PNR憲章は、その
圏域が目指す地域発展の理念と目標、その手段を具体化したものであり、全てのステークホルダーが受け入
れられる内容である必要がある。憲章が策定されると、地域圏は環境省に対してPNR指定申請をおこなう。
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環境省・PNR連合会などが認可すると、最長12年間の時限付きでPNRとして指定される。指定更新は、それ
までの評価を踏まえつつ、新規指定とほぼ同様の手順で更新申請をおこなう。
②PNRの指定基準
フランスPNR連合会は、PNRの指定基準として以下の3点を挙げている6)。
第1に地域資源の性質と特性である。地域資源が際だった特性を有し、地域資源が国内的、または国際的
に認知されている。明確な境界線があり、地域資源の面や歴史的・文化的・社会的側面で共通の地域性をも
つ圏域でなければならない。この共通の地域性こそ、テロワールである。そして、その圏域に環境、社会、
地域経済の持続性の面で脆弱性があるかどうかも重要な要素である。
第2として、事業の質である。地域に関する適切な現状分析とそれから見出される問題に対応した明確な
指針と指標が求められる。また、地域におけるあらゆるステークホルダー、すなわち首長・農家・企業・自
然あるいは文化保護団体・住民・地方自治体などにとって有意義な事業である必要がある。
第3には、事業をコーディネートする運営組織の能力である。PNR運営組織がコミューン・県・地域圏の
構成員で組織されているか、人的資源が豊富で財政面で持続性があるか、ステークホルダー間での提携・協
力関係が規約化されているかが判断材料となる。
③PNRの組織と運営
PNRの運営組織は、指定プロセスから予想されるように、コミューン・県・地域圏やその他の公的法人(広
域行政組織・商工団体・農業団体など)といった、圏域における幅広いステークホルダーから構成される「混
合組合」
(syndicat mixte)である7)。この混合組合が、様々な事業を通じてPNR憲章を現実化していく。
PNRは、独自の財源と国・地域圏・県からの補助金にもとづいて運営されている。やや古いデータだが、
石井〔2002〕よりモルヴァンPNRの歳出内訳を例示する8)。モルヴァンPNRは、圏域面積1,961km2、圏域人
口は約3万人である。1994年の歳出は、投資的経費は470万フラン・事務的経費670万フランで合計1,110万
フランであり、当時のレートで円換算すると2億円強の財政規模である。投資的経費の分担内訳は環境省
50%、地域圏25%、県13%、事務的経費の分担内訳は、圏域自治体の住民1人あたり4フラン、隣接する都
市圏自治体の住民1人あたり2フランに加え、残りが国29%、地域圏26%、県45%となっている。事務的経
費における圏域内住民の直接負担率は2%弱で、さほど高くない。
(3)PNRによる地域振興策の特徴
PNRによる農村地域振興策の特徴として、以下の3点を指摘できる。
第1に、既存の行政区分を超えた広域的な地域振興策が可能である。PNRの指定圏域は画一的に決定され
るのではない。共通の地域性を有しており、かつ住民がPNR憲章を受け入れるのであれば、コミューンの個
別的な判断にもとづいてPNRの指定圏域に入ることができる。その意味で、PNRとなる圏域は地域的なアイ
デンティティを住民間で共有している地域と言えよう。
第2に、地域のあらゆるステークホルダーが参画して立案・実施するボトムアップ型地域振興策を制度的
に可能にしている。もともとPNRは地方分権改革に先行して導入されてきたという歴史的意義があり、後に
本格化した地域農政でもその手法が活用されてきた。地域農業は本来多様であるはずであり、それに対応す
る地域農政も地域の課題に合わせて多様化せざるを得ない。地域にとってより適切な地域振興を可能にする
制度的枠組みがPNRと思われる。
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第3に、第2点の結果として、地域で共有されたアイデ
ンティティを体現した地域ブランド戦略が構築できる。
地域ブランド戦略を困難にしている要因のひとつに、地
域産品の体現するアイデンティティが地域で共有されて
いないことがある。だが、PNRは、地域(圏域)のアイ
デンティティを明確にする制度的プロセスを有してい
る。ブランドの根幹はアイデンティティとロゴである。
PNRの場合、アイデンティティはPNR憲章、そしてロゴ
はPNR標章である。圏域に立地する企業や農家は産出す
る製品・サービスがPNR憲章に則っており、PNRが許可
図2 PNRの標章
資 料 : フ ラ ン ス PNR連 合 会 ホ ー ム ペ ー ジ よ り 引 用 。
註 : 上 段 が PNR一 般 、 下 段 が モ ル ヴ ァ ン 、 ア ル ピ ー ユ 、
ピ レ ネ ー ・ カ タ ラ ー ヌ の PNR標 章 。
した場合、PNR標章をマーケティング目的で用いること
ができる。図2にPNR標章を示した。ただし、PNR標章
は、ワイン・チーズなどで有名なAOC(原産地呼称統
制制度)のように製品・サービスの品質を保証する標章
ではないとされている。
3. 天塩川流域における「テロワール」
(1)天塩川流域の自然環境と社会
前節での検討で、PNRに指定される圏域には他にはない特徴的な地域資源が賦存するとともに、圏域内で
共通の地域性を兼ね備えていなければならないことが分かった。この共通の地域性・風土性はテロワールと
呼ばれ、一般的にはワインに現れるぶどう畑の気候・地勢・土壌の個性とされる9)。つまり、その地域で産
出される産品に現れる共通の地域性がテロワールだと言える。本節では、自然環境・社会・農業を対象に天
塩川流域におけるテロワールを考察し、天塩川流域の共通基盤を解明したい。
天塩川は全長256kmで全国第4位、流域面積(20弱の支流域を含む)では5,590km2で同第10位である10)。
天塩川の上流部は源流の天塩岳から名寄川合流点(名寄市)までで、山間部と名寄盆地南部を流れる。中流
部は名寄川合流点から問寒別川合流点(幌延町)までで、名寄盆地北部と山地間の狭隘地を流れる。下流部
は問寒別川合流点から河口(天塩町)までで、畑作・酪農地帯が広がる天塩平野やサロベツ湿原を流れてい
る。また、天塩川流域には森林・湖沼をはじめ豊富な自然環境が存在しており、希少な動植物も多数生息し
ている。天塩川流域の自治体は、上流部の名寄市・士別市・和寒町・剣淵町・下川町、中流部の美深町・中
川町・幌延町・音威子府村、下流部の豊富町・天塩町、計11自治体である(前掲図1を参照)
。
天塩川上流・中流部は内陸性気候、下流部は海洋性気候である。特に上流・中流部のある上川北部地域は、
年平均気温は5.7~6.6℃で、冬の最低気温は−30℃、夏の最高気温は30℃に達し、寒暖差がおよそ60℃と
非常に大きい。なお、昼と夜の寒暖差も大きく、農産物の糖度が高まるといったメリットがある。降水量は
2~6月が少なく、9~11月が比較的多い。天塩川流域の最大積雪深は道内他地域より深い。1~3月は1
m以上になり、札幌・富良野の約2倍である。天塩川流域の年間日照時間は1,297時間で、道内他地域と比
較して15~30%程度少ない。
天塩川流域は、総土地面積に占める森林面積の比率が約7割と高い11)。上流部・中流部を中心に森林資源
が豊富で、木材を利用した加工業も下川町を中心に盛んである。森林種別面積は天然林が6割程度、森林蓄
積量は徐々にではあるが、近年では増加する傾向にある(森林に関しては第4節第2項も参照)
。
天塩川流域における11自治体の人口は82,463名である(平成22年国勢調査速報値)
。このうち、名寄市と
士別市に人口の63%が集中しており、人口密度が10人/km2以下の人口希薄自治体も複数存在する。これら11
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自治体はいずれも人口減少に見舞われており、全自治体が過疎地域指定を受けている。11自治体の直近5年
間における人口減少率12)は北海道平均-2.1%よりいずれも高く、特に名寄市・幌延町を除く9自治体の減少
率は-6~-10%程度で非常に高い。また、和寒町・剣淵町・下川町・美深町では高齢化率が30%を超えてい
る13)。天塩川流域の産業別就業人口を北海道平均と比較すると、1次産業が25%程度(北海道平均10%)と
高い一方で、3次産業は50%(同65%)と低い。天塩川流域の産業構造は農林漁業の比重が高いという特徴
があると言える。
(2)天塩川流域の農業
表1に天塩川流域の農業概 表1 天塩川流域の農業概況
況、表2に農業産出額を示し
単位:戸、ha、ha/戸、%
販売農家戸数
た。まず、農家戸数の減少率
2005年
変化率(2000-05)
耕地面積
1戸あたり
(2007年)
耕地面積
和寒町
322
-19.9
剣淵町
403
-14.6
6,500
16
士別市(註1)
827
-22.9
17,000
21
市・中川町、2割以上の和寒
名寄市(註1)
840
-14.8
10,500
13
町・士別市・美深町・音威子
下川町
171
-7.6
3,610
21
美深町
235
-23.7
5,080
22
音威子府村
23
-34.3
1,830
80
耕地面積は、北海道平均
中川町
76
-18.3
3,700
49
16ha/戸と比較すると、美深
幌延町
114
-7.3
8,230
72
豊富町
196
-
13,320
68
天塩町
172
-
10,800
63
3,379
-
85,180
-
6.5
-
7.3
-
だが、1割以下の下川町・幌
延町、1割台の剣淵町・名寄
府村と幅がある。1戸あたり
町以南の6市町はほぼ同水準
にある。音威子府村以北5町
計
道内シェア
村は酪農地帯ということもあ
4,610
14
り、北海道平均より1戸あた
資料:農林水産省「2005年世界農林業センサス」、「作物統計」(耕地面積)より作成。
り耕地面積は大きくなってい
註:1)名寄市は旧名寄市と旧風連町の合計、士別市は旧士別市と旧朝日町の合計。
る。
表2
天塩川流域の農業産出額
表2 天塩川流域の農業産出額
単位:千万円
和寒町
剣淵町
士 別 市 (註1)
名 寄 市 (註1)
下川町
美深町
音威子府村
中川町
幌延町
豊富町
天塩町
計
道内シェア
農業産出額合計
変化率( 2005-00 )
2005年
389
-13.7
434
-3.1
1,037
-10.8
974
4.5
191
1.6
466
15.3
36
-36.8
141
-7.2
423
5.5
670
5.5
470
-2.9
5,231
4.9
耕種計
米
348
401
643
769
50
126
17
25
4
6
3
2,392
4.2
畑作物
127
104
310
383
10
33
967
8.2
57
195
139
101
3
19
7
7
0
1
529
2.8
畜産計
野菜
165
103
192
288
36
71
9
17
1
4
2
888
3.4
40
33
394
205
141
340
19
116
419
664
467
2,838
5.7
資料:農林水産省「生産農業所得統計」より作成。
註:1)士別市は旧士別市と旧朝日町の合計、名寄市は旧名寄市と旧風連町の合計。
2)畑作物は「麦類」「雑穀」「豆類」「いも類」、野菜は「野菜」「果実」「花き」「工芸農産物」などの合計。
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天塩川流域における農業地帯構成は極めて多様である。
農業産出額から大まかな傾向をみると、米・畑作物・野菜中心の和寒町・剣淵町・士別市・名寄市、酪農
を主とした畜産が中心の下川町と美深町以北の6町村である。名寄市・士別市・和寒町は米が3割程度と高
く、中川町・幌延町・豊富町・天塩町は畜産(≒酪農)が9割以上を占める。2000年と2005年を比較して農
業産出額が減少しているのは、和寒町・剣淵町・士別市・音威子府村・中川町・天塩町の6市町村で、特に
音威子府村が-36.8%と非常に減少率が高い。このうち、和寒町・士別市・音威子府村・中川町は販売農家
減少率も高いため、農業基盤の劣化が懸念される。
天塩川流域内での農業産出額は523億円で、2000年と比較すると-1.6%の減少である。これは、北海道平
均が+1.1%の増加であるから、農業産出額の減少は天塩川流域に特有の要因があると考えられる。また、
北海道全体に占める天塩川流域のシェアは、販売農家戸数6.5%、耕地面積7.3%、農業産出額4.9%と高く
はない。さらに、耕地面積の割には、あまり農業産出額が大きくないように思われる。しかし、個々の農産
物生産量をみると、北海道全体で重要な地位を占める自治体もある。例えば、名寄市では全道第1位のもち
米、第1位のアスパラガス、第2位のかぼちゃ、第4位のゆりね、和寒町では第1位のかぼちゃ、第3位の
キャベツ、士別市では第4位の大豆、第6位の米、剣淵町では第5位の大豆などがある14)。
(3)天塩川流域の共通性とアイデンティティ
以上の分析から、天塩川流域の共通性を指摘する。
まず、天塩川流域に賦存する地域資源の特徴だが、流域面積の割には人口が少ないために開発が進んでお
らず手つかずの自然が残っていること、年間寒暖差が大きく積雪も多いことから季節の変遷が非常に明瞭に
感じられること、農林漁業に適した自然環境に恵まれ1次産業中心の産業構造を有していること、農業地帯
構成に多様性があり農産物によっては主産地が立地していることなどがある。
一方で、天塩川流域は流域内で共通する課題にも直面している。第1に人口減少による過疎の進行である。
流域内では全ての自治体で人口減少率が道内平均より高く、高齢化率が30%を超える自治体が4つ存在して
いる。一級水系流域では、天塩川流域が全国で最も人口減少率が高いという指摘もある15)。第2に、1次産
業の衰退である。農家戸数の減少や農業産出額の変化には自治体によって度合に差があるが、流域全体では
農業産出額が減少している。道内他地域より1次産業の比重が高い天塩川流域では、1次産業の振興は地域
社会の維持のために喫緊の課題であろう。
それでは、天塩川流域に住む住民は“天塩川流域の住民”としてのアイデンティティをどの程度持ってい
るのであろうか。現時点の住民意識を、2009年に上川支庁(当時)が実施した「天塩川流域に係る住民意識
調査」16)から検討する。天塩川流域の地理・歴史・利水・産業については、知っていると回答した人がいず
れも過半数以上を占めた。それに対し、天塩川が北海道遺産に登録されたこと、北海道遺産登録を活用した
地域振興の取り組みを知っていると回答した人は1~2割にすぎず、地元ですら周知されていない。このよ
うに、天塩川流域の基本情報は知っているが、それに関わる地域振興の取り組みは十分ではないというのが
流域住民の意識と思われる。なお、市町村の範囲を超えた流域管内での交流、天塩川流域に関する普及啓発・
学校教育は必要と回答した人が7割以上に達している点は注目される。流域住民は、天塩川流域を範囲とし
た地域振興や天塩川流域に関する理解醸成に対して、否定的でないと考えられる。
同じ水が上流から下流まで流れ、そして生活・産業活動上で必須の水を河川流域で共同利用するため、元
来、河川流域の住民は河川流域範囲に連帯意識やアイデンティティを持ちやすい。本節での考察から、天塩
川流域に共通するテロワールは存在し、住民意識の面でも天塩川流域というアイデンティティはある程度共
有されていることが明らかになった。天塩川流域を対象とする広域的な地域振興策の可能性が示唆されたと
言える。
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フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性 ──天塩川流域を対象として──
4. 天塩川流域における地域振興の課題と北海道版PNRの可能性
本節では、地域ブランド・道有林管理・下川小流域の事例から、天塩川流域における地域振興の課題を析
出した後に、PNRの制度から示唆を得たボトムアップ型地域振興策へのアプローチを明示する。
(1)天塩川流域における地域ブランドの課題とPNRからの示唆
1)天塩川流域における地域ブランドの取り組み
表3に示したのが、天塩川流域での
表3
天塩川流域における地域ブランド事例
表3 天塩川流域における地域ブランド事例
地域ブランドの取り組みである。農産
物、農林水産物を原料にした加工品な
どが中心になっている。これらの事例
から、地域ブランドの取り組みとして
の特徴を4点ほど指摘する。
第1に、数品目の地域産品が自治体
間で重複していることである。ただし、
品目の重複自体は地域ブランドにとっ
て問題とは必ずしも言えない。
第2に、比較的加工度の低い加工品
が多い。農産物そのものはもちろんだ
自治体名
和寒町
剣淵町
士別市
名寄市
下川町
美深町
音威子府村
中川町
幌延町
豊富町
天塩町
主な地域産品名
かぼちゃ、スイートコーン、馬鈴薯
かぼちゃ、たまねぎ、トマトジュース、ジンギスカン
ジンギスカン、スープカレー、士別ワイン
もち米、アスパラガス、ひまわり油
手延べ麺、木材加工品、トマトジュース
くりじゃが、羊加工品、シラカバ樹液
音威子府そば、木工芸品、羊羹
ハスカップ・加工品、肉加工品
トナカイ、サロベツ合鴨
乳製品、ジャム、山菜加工品
貝加工品、最中・羊羹
資料:各自治体ホームページなどより作成。
が、加工品だったとしても製造工程が
単純で、原材料の種類も少ない品目が大半である。原材料の種類が多く加工度が比較的高いと思われるのは、
士別市のスープカレーなどである。加工度の低さは、天塩川流域内で製造業があまり発達していないことに
由来すると考えられる。
第3として、地域産品の生産・加工・販売に関わる主体が、どの程度地域内に存在し、どの程度多くいる
かということである。当然、地域産品に関係する主体が地域内に多くいるほど、地域経済への波及効果は大
きくなる。この点から考えると、対外的に有名な地域産品だったとしても、地域産品の生産・加工・販売を
地域内でおこなってはいるが、
地域内で関係する主体の数はさほど多くないと思われる事例も見受けられる。
第4に、第3点目と関係するが、地域産品が地域の理念やアイデンティティを体現しているかである。一
般的に地域内で関係する主体の数が増えるほど、地域産品のコンセプトは地域の理念やアイデンティティに
接近する。この点は地域ブランド戦略の目的とも関係するので、後ほど詳述する。
2)名寄ひまわり油にみる地域ブランドの課題
つづいて、名寄市のひまわり油を具体的な事例として、地域ブランドが直面する課題を検討する。日本で
のひまわり栽培は緑肥・観光用途が中心である。だが、名寄では過去にひまわり油を域外企業に委託製造し
ていた経験があった。そこで、2008年、名寄市立大学道北地域研究所によるひまわりの試験栽培・搾油がき
っかけとなり、再びひまわり油へ注目が集まった。2009年には地元農家グループと地元飲食業者が連携して
農林水産省の補助事業に申請、採択され、飲食業者が出資して名寄市内に搾油施設を建設した。搾油された
ひまわり油は、
「北の耀(かがや)き」という商標名で販売されている。名寄産ひまわり種子100%利用で、
機能性成分として注目されるオレイン酸を多く含有するひまわり油である。
名寄ひまわり油の地域ブランドとしての課題だが、第1に生産面で、具体的にはひまわり栽培技術と搾油
技術の確立である。日本では油糧作物としてのひまわり栽培がほとんどなされていなかったこともあり、農
業試験場などでの研究蓄積があまりない。長年ひまわりを栽培してきた農家が技術指導をしているが、ひま
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名寄市立大学
道北地域研究所
年報 第29号(2011)
わり種子の低収量が問題になっている。種子収量の低さは、ひまわり油の生産量、工場の稼働率にも直結す
る。搾油に関しても試行錯誤の中で実施されており技術の確立が急務だが、公的に入手できる技術情報がほ
ぼない状態である。種子と油の安定的な生産のために、栽培・搾油技術の確立が急務であろう。
第2として、販売面の課題である。2010年11月からひまわり油の本格的な販売を開始しており、インター
ネット販売、地元のホテル・販売店・道の駅、札幌のアンテナショップ・新千歳空港といった販売チャネル
を持つ。現状では、お中元への対応・東京での店頭販売・地域イベントでの販売が喫緊の課題になっている。
だが、ひまわり油を担当する専属の営業担当者の配置ができず、積極的な影響活動ができていない。地域ブ
ランドの最大の課題は販売である。販売によって地域産品の再生産ができるかどうかが、地域ブランドの成
否を左右する。
第3に、ひまわり油に関わる主体の数である。2010年現在での地域内の主体は搾油施設を運営する飲食業
者、名寄ひまわり生産組合に加入する農家11戸、ひまわり油を販売する業者などであるが、広がりを見せつ
つある。名寄の養豚業者が豚の飼料にひまわり搾油粕を給与する「ひまわり豚」の取り組みを始めているほ
か、名寄市も2011年度より種子代補助目的で油用ひまわり栽培振興補助金3,000円/10aを交付することにな
った(対象面積35ha、予算総額105万円)
。また、2011年に名寄のひまわりを題材にした映画が公開されるの
に併せて、商工会議所を中心にひまわりの観光利用の取り組みが活発化している。このように、関係する主
体が地域内で増加している点は評価できる。
第4に、地域ブランドの目的に関する点である。地域ブランドの目的は、単に地域産品を作り出すことで
はない。地域ブランドの目的は、地域産品(観光といったサービスを含む)を通じて、消費者の“地域”に
対するブランド認知を向上させることで地域産品の差別化を図ることである。消費者のブランド認知に影響
を与えるのは、地域産品の物性的機能だけではなく、地域産品を通じて表現される地域ブランド・アイデン
ティティ(消費者に伝えたい地域の理念)もある。地域ブランドの目的を達成するためには、競争力のある
地域産品を個別に作り出すのではなく、地域で共有できる地域ブランド・アイデンティティを体現する地域
産品コンセプトの設定、統一的な地域ブランド・アイデンティティを介在させた地域産品間のコンセプトの
調整が重要になる。ひまわり油は、こういった点も今後の課題になってくると思われる。
3)北海道版PNRによる広域的地域ブランド創設のメリット
最後に、以上の地域ブランドを巡る課題がPNRの制度的活用によって、どのように解決されうるのか示す。
PNRが目指すのは天塩川流域といった広域的な地域ブランドの創設である。一見すると、広域地域ブランド
によってなよろブランドのような個別の地域ブランドが埋没してしまう懸念があると思われるが、広域地域
ブランドの創設は個別の地域ブランドにとって以下のメリットがある。
第1に、販売・マーケティング面での規模の経済性である。例えば、全国メディアでのプロモーション、
各地での物産展開催、営業担当職員の確保は個別地域では容易ではないが、天塩川流域ブランドの下に各地
域が一本化して協同組織を作ればハードルは確実に下がる。統一ブランドマーク導入による商品コンセプト
の共有化を通じた製品の品質保証コスト・包装コストの低減、また研究開発コストの低減といった効果も期
待できる17)。
第2に、強固な広域ブランドの確立による個別ブランドの補強である。PNRは地域内のステークホルダー
の議論によるPNR憲章(=地域ブランド・アイデンティティ)作成を制度的に義務づけているため、地域で
共有されうるアイデンティティが明確になる。何もなければこういった議論の枠組みは作りづらいであろう
が、PNR指定の結果、補助金が交付されるとなれば関係主体のインセンティブも働きやすい。地域ブランド・
アイデンティティの共有化と、第1点目の販売力の強化により、PNRにもとづく広域ブランドはブランド・
パワーを持ちうる。こういった強固な広域ブランドに、各地域の個別ブランドが“ぶら下がる”ことで個別
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フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性 ──天塩川流域を対象として──
ブランドのパワーを補強できる。別の言い方をすれば、個別ブランドに強い広域ブランドの目印を付けるこ
とで、消費者のブランド認知を高められると考えられる。例えば、東京という広域ブランドと、その中にあ
る新宿・原宿・巣鴨・浅草といった個別ブランドの関係がある。東京は絶大なブランド・パワーを持ち、消
費者は個々の地域をあくまでも東京の中にある一地域として認知している。逆に言うと、広域ブランドのア
イデンティティに埋没しない具体的で個性的なアイデンティティを持たなければ、個別ブランドは広域ブラ
ンドに埋没してしまうことになろう。
(2)天塩川流域における道有林管理の現状と課題
1)天塩川流域における道有林の位置づけ
天塩川流域の中心地である上川北部地域は士別市、名寄市、和寒町、剣淵町、下川町、美深町、音威子府
村、中川町の2市5町1村から成り、合計面積は419,740haである。そのうち森林面積は324,312ha、森林率
は77%である。森林所有は国有林162,256ha(森林面積の50%)
、道有林81,585ha(同25%)
、市町村有林14,048ha
(同4%)
、大学演習林19,345(同6%)ha、私有林47,078ha(同15%)に別れている。大学演習林は、音
威子府村と中川町に位置する北海道大学中川研究林である。
道有林81,585haは士別市内に5,137ha、
名寄市内に9,864ha、美深町内に51,653ha、
音 威 子 府 村 内 に 14,415ha、 中 川 町 内 に
516ha所在し、これらを管理しているのが、
美深町内に管理事務所を置く上川総合振
興局北部森林室(以下、上川北部森林室)
である18)。上川北部森林室は、北海道が
2010年4月に支庁制度改革を行って上川
支庁が廃止され、上川総合振興局が発足
するに伴い、同年同月にそれまでの上川
北部森づくりセンターを再編して発足し
た19)。道有林は、上川北部地域において
国有林のちょうど半分の面積であるもの
の、8万ha余の広大な森林を有し、その
森林管理のあり方が天塩川流域の自然環
境や社会、経済などに与える影響は非常
図3 上川北部地域における道有林の管理区域
資料:筆者作成。
に大きい。その管理区域を表したのが図3
である。天塩川の中流域部分に、天塩川
を両側から挟む形で展開している。
2)道有林管理の方針転換──公益性の全面的重視へ──
道有林も国有林と同じく、戦後の長いあいだ林業経営を第一義的課題としていた。しかし、天然林資源の
枯渇に伴う伐採量の減少、木材価格の停滞から下降への社会的変化などにより次第に道有林野事業特別会計
の歳入が減少することとなった。
いま上川北部森林室の管理区域について森林伐採量の推移を概数で示すと、
1975年19万m3、1985年13万m3、1995年7.5万m3、2000年5.5万m3、2005年5万m3、2009年3.5万m3と、大幅に
減少している20)。
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名寄市立大学
道北地域研究所
年報 第29号(2011)
このような伐採量の減少は、道有林の管理方針に転換を迫ることとなった。道有林の会計は2002年度より
特別会計を廃止して北海道の
一般会計に編入され、同時に
重視する機能に応じた森林の区分
管理目的がそれまでの林業経
営重視から森林環境の保全を
【全国的な指標による区分】
重視した方針へと大転換し
た。
その具体的表現を、森林の
森林と人との共生林
( 9%)
水 土保全林(91%)
機能区分に見ることが出来
資 源の循環利用林(0%)
る。図4は2002年に定められ
た道有林基本計画における森
【道有林ではさらに細分化】
林の機能区分であるが、「水
土保全林」91%、「森林(も
り)と人との共生林」9%、
生態系保全の森(3%)
「資源の循環利用林」0%で
生 活環境保全の森(1%)
図4
道有林の森林機能区分
図4 道有林の森林機能区分
ある。木材の生産機能を重視
する「資源の循環利用林」が
文化創造の森(5%)
資 料 : 北 海 道 「 道 有 林 の 森 づ く り 道 有 林 基 本 計 画 」 2002年 よ り 作 成 。
ゼロになっている。ところが、政府が2006年9月に定めた全国の森林(2,530万ha)に関する機能区分は、
「水
土保全林」67%、
「森林と人との共生林」13%、
「資源の循環利用林」20%である21)。国の森林機能区分につ
いても「資源の循環利用林」が少なすぎるなど、評価が別れているが、道有林の森林機能区分はそれよりは
るかに極端な内容で、公益性の絶対的重視を打ち出している。なお道有林基本計画は「森林と人との共生林」
9%をさらに「生態系保全の森」3%、
「文化創造の森」5%、
「生活環境保全の森」1%に細分している。
いずれにしても2002年の道有林基本計画により、道有林はそれまでの林業経営重視の方針を全面的に転換し
たのである。
3)公益性重視を基軸にした地域とのつながり
林業経営重視とはすなわち木材生産重視であるが、この場合、道有林と地域とのつながりは当然にも木材
の生産と流通を中心にしたものとなる。しかし、木材生産重視から公益性重視に転換すれば、地域における
道有林の存在意義は自ずから違ってくる。森林の公益性や環境問題などに関する諸課題を介在せしめて、道
有林と地域との新たな関係が形成される。その価値尺度はさし当たり、①上川北部森林室の整備管理計画策
定などに地域住民の声がどのように反映されるのか、②上川北部森林室が森林に関する環境教育や啓蒙運動
を通じて地域住民とどのような関係を持つのか──、
主としてこの2点に求めることが出来ると言ってよい。
①整備管理計画策定などに当たっての課題
道有林基本計画に基づいて上川北部森林室の森林管理を定めているのは、整備管理計画書である。5年ご
とに改定する10ヵ年計画であり、現行の計画は2007年度から2016年度の10年間を対象にしている。現行計画
の策定作業が本格化したのは2005年度だった。同年7月20日に市町村関係者や関係団体、およそ20人ほどに
参集してもらい森林の見学と討論を行う「森づくり現地検討会」を開催した。そのなかで、希少な動植物の
保護に関する意見、樹木の天然更新を重視すべきとの意見、森林環境教育の重要性を訴える意見などが提示
された。また2006年2月21日~23日は上川北部森林室側が地元市町村を訪問し、3月8日には関係団体およ
そ20人に美深の森林室庁舎に集まってもらい、いずれも整備管理計画策定に向けた意見交換を行った22)。
もとより、こうしたプロセスを経て整備管理計画を策定する姿勢は非常に重要である。多様な職業、利害
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フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性 ──天塩川流域を対象として──
関係、関心を持つ人たちが集まり、それぞれの立場から多様な意見を提示すれば、より広い地元住民の声が
整備管理計画に反映する可能性が広まる。だが、実際上こういう場に集まるのは、木材について上川北部森
林室と直接的な利害関係を有する人か、森林の環境的意義によほど深い関心を寄せている人などにどうして
も限られる。こうした制限的要因を改善するのは現実的にかなりの困難を伴うが、次の整備管理計画策定作
業では一段と前向きの努力が期待される。
②環境教育に果たす役割
森林管理体が、森林や木材の多様な意義をいろいろな形態で地元住民に伝えることを、ここでは環境教育
と総称することにしよう。従来より、地元住民に対する道有林の環境教育には定評があったが、2002年度以
降は道有林の抜本的方針転換を受けて、それが特に目立つようになったと言われている。
表4は、2007年度から2009年度の3年間につき、上川北部森林室が実施した「協働の森づくり」
、つまり
地元住民への環境教育に関する数字である。1年間52週のうち、実施回数の少ない2009年度でも2週間に1
回、最も回数の多い2008年度は4週間に3回のペースで実施している。
この「協働の森づくり」
表4
上川北部森林室「協働の森づくり」実績
表4 上川北部森林室「協働の森づくり」実績
年度
件数
2007
2008
2009
35
38
25
は上川北部森林室管理課
のなかの専門的担当者が
参加延べ人数(人)
児童・生徒
695
840
897
教師
99
111
85
一般住民
1,640
1,833
1,186
計
2,434
2,784
2,168
中心になって実施し、同
課内の他部門担当者及び
他の課(森林整備課、普
及課)の構成員が必要に
資料:上川北部森林室資料より作成。
応じて支援する。専門的
担当者は、休日に「協働の森づくり」に従事する場合が少なからずある。しかし、子供たちや住民の新鮮な
驚きや満足の声に接すると心が洗われた気持ちになり、地域の環境教育における道有林の役割と意義を再認
識できるという。
実績のなかでは児童、生徒に対する「協働の森づくり」が少なからぬ割合を占めている。これらは小学校、
中学校の総合学習に組み入れて実施する場合が多い。他方、一般住民に対しても児童・生徒以上にサービス
を提供している。
「協働の森づくり」の具体的メニューは、
「林業体験」
、
「木工作」
、
「観察会」
、
「森林環境学
習」
、
「パネル展」
、
「その他」の6種類に分類されている。一回の「協働の森づくり」で行われる事業が、こ
れら6種類のうち1種類に該当している場合もあれば、2種類に該当しているときもある。上川北部森林室
が単独で開催するものよりも他の機関との協働、共催が多い。しかし協働、共催といっても、そのほとんど
は上川北部森林室が中心になって実施する。環境教育に参加する小・中学生、一般住民は上川北部森林室の
地元5市町村はもとより、他の上川北部自治体にも及んでいる。
4)環境教育と北海道版PNRとの距離
道有林がその森林機能区分から「資源の循環利用林」を全面排除したことに対する評価はさまざまであり、
筆者(神沼)も少なからず否定的見解を持っている23)。だが、そのような基本方針に由来するゆえかと思わ
れるが、上川北部森林室における住民環境教育の質と量は注目に値する。しかも上川北部森林室は上川北部
の全市町村を対象に環境教育を実践しているので、天塩川の中流域を貫く横断的な役割を担っている。
天塩川流域について北海道版PNRを展望するとき、流域の住民が学習を重ねて地域の自然環境をよく知る
ことが不可欠である。そのような課題と上川北部森林室の環境教育を結びつけて考えると、その環境教育が
北海道版PNRの展開に向けて果たす役割は非常に大きなものがある。
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道北地域研究所
年報 第29号(2011)
(3)PNR型の地域振興策を天塩川流域に応用する場合の優先事項──下川小流域の経験から──
PNRを活用したボトムアップ型地域
表5
下川小流域管理システム推進協議会構成
(2010年度)
表5 下川小流域管理システム推進協議会構成
(2010年度)
振興策を天塩川流域に応用するメリッ
トは、次の2点に集約される。第1に、
既存の行政区分を超えた広域的な地域
振興策が可能であること、第2に住民・
行政・議会・企業など地域のあらゆる
ステークホルダーが参画し、それらの
間の議論を通じて地域振興策を立案・
実施できる制度的枠組みであることで
ある。しかし、メリットはデメリット
と裏腹であり、成功事例を短絡的に地
域に落とし込むのは危険である。
ここでは、天塩川支流の名寄川地域
に位置する下川町の取り組みからPNR
型の地域振興策が適切に機能するため
に注目すべき点を明らかにし、優先的
に取り組むべきポイントを指摘したい。
下川町は天塩川流域においては名寄川
小流域という位置づけにあり、流域の
特徴が一定程度まとまっている地域と
見なすこともでき、下川小流域での経
験は流域全体の資産として活用しやす
い。
下川町では FSC森林認証 24)を取得す
るにあたって下川小流域管理システム
推進協議会(以下、協議会)を設立し、
国・道・町の森林関係者はもとより、
建設業協会、労働団体、環境団体、消
費者協会など多様なステークホルダー
が名を連ねており、一見すると上記のP
NRの第2のメリットに見るようなボト
ムアップ型の森林政策を議論できる枠
組みのように見える(表5参照)
。しか
し、多様なステークホルダー間の議論
を通じて森林政策を立案・実施できる
枠組みとしては機能しておらず、毎年
のFSC森林認証審査時に必要最低限の
活動を行うのみとなっている。
●役 員 構 成
役職名
会長
副会長
3名
所属
備考
下川町森林組合
下川林産協同組合、㈱下川木工場
下川町ふるさと開発振興公社クラスター推進部
●協 議 会 構 成
区分
組合長
社長
部長
27名
所属
備考
上川北部森林管理署
上川総合振興局 北部森林室 普及課
下川町
下川町森林組合
下川町森林組合
下川林業研究会
下川林産協同組合
㈱丸昭高橋工務店
三津橋農産㈱
山本組木材㈱
下川製箸㈱
㈱下川木工場
(協 )ウ ッ デ ィ し も か わ
14名
㈱ニチモク林産北海道 下川工場
下川町ふるさと開発振興公社クラスター推進部
地域関係団体 北はるか農業協同組合 下川支所
下川町商工会
下川町建設業協会
連合北海道下川地区連合会
下川町教育委員会
下川商業高等学校
下川自然を考える会
下川消費者協会
翔林業グループ
下川町森林愛護組合連合会
北海道猟友会名寄支部下川部会
13名
NPO法 人 森 の 生 活
林業・
木材加工業
関係団体
7名
所属
上川北部森林管理署流域管理調整官
下川町・地域振興課
建設林務課
建設林務課
建設林務課
下川町森林組合・総務課
業務課
次長
課長
建設林務課長
組合長
専務
代表
事務局長
社長
社長
社長
社長
社長
理事長
工場長
部長
支所長
事務局長
会長
会長
教育課長
校長
会長
会長
代表
会長
部会長
代表
行 政 (国 有 林 )
行 政 (北 海 道 )
行 政 (町 有 林 )
森林管理
私有林所有者
〃
民間木材産業組織
建築業・工務店組織
木材加工業者
〃
〃
〃
〃
〃
民間産業組織
〃
〃
〃
労働者組織
教育関係組織
〃
環境団体
消費者組織
森林関係組織
〃
〃
●実 務 委 員 会 構 成
●C o C 専 門 委 員 会 構 成
区分
委員
下川製箸㈱
三津橋農産㈱
山本組木材㈱
下川町森林組合
㈱丸昭高橋工務店
7名
所属
(オ ブ ザ ー バ ー 2名 )
NPO法 人 森 の 生 活
下川林産協同組合
オブザーバー 下川町・建設林務課
下川町ふるさと開発振興公社クラスター推進部
下川町森林組合
なぜ機能しないのであろうか。最大 資 料 : 下 川 小 流 域 管 理シ ス テ ム 推 進 協 議 会 資 料よ り 作 成 。
の要因として挙げられるのは、事務局 註 : 順 不 同 。
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備考
国有林
主幹
地域振興
主 査 (林 業 振 興 ) 町 有 林 管 理
主 事 (林 業 振 興 ) 林 産 振 興
森づくり専門員 町有林管理
課長
事務局
課長補佐
森林管理・事務局
備考
社長
社長
社長
加工課 課長
社長
代表
木材加工業者・代表
木材加工業者
〃
〃
建 築 業 ・工 務 店
森林関係組織 (ト
ドマツ精油製造 )
事務局長
事務局
主 事 (林 業 振 興 ) 林 産 振 興
次長
民間産業組織
業務課 課長補佐
認証機関連絡対応
フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性 ──天塩川流域を対象として──
機能の弱さである。協議会事務局は設立から現在に至るまで下川町森林組合の職員が通常業務と兼務してい
る状況であり、認証維持審査時に事務局機能の強化について2年連続で次のような指摘を受けている。
「特
定された課題の継続的な改善について進捗を確実に管理するためにグループ事務局機能を町役場に移管する
ことも含め強化について検討の余地がある」25)。
「前回の維持審査において、グループ事務局機能を町役場
に移管することを観察事項として挙げたが、町役場主導でのFSC認証推進のメリットのひとつは、地域内
外の関連企業に対し等しく声を掛けることが可能であり、企業に対しCoC認証26)の啓蒙や認証取得を勧めや
すい点にあると考える。今後、町役場主導での認証材の販売に力を入れることを期待したい」27)。
この下川小流域管理システム推進協議会での経験から、天塩川流域においてPNRによるボトムアップ型地
域振興策を進めるにあたっては、事務局機能に注意を払う必要がある。過去から現在に渡り天塩川流域に関
わる計画や取り組みには様々なものが見受けられるが、広がりや継続性を持った取り組みへと発展していな
いのは、事務局機能が弱かったためと推察される。
ただし、
単に天塩川流域の地域振興という漠然としたテーマで専属の事務局スタッフを配置してしまうと、
各自治体の総合計画に見られるような総花的な活動になる可能性が高く、行政職員ほどの人数が確保できな
い中で力が分散してしまい、目に見える成果を出しにくい。目に見える成果が見えないと、財政的に余裕の
ない状況で専属の事務局を配置しておくことは困難となり、元の木阿弥となってしまう。長期的な展望を描
きつつ総合的な議論と取り組みを進めていくことはもちろん必要だが、まずは分野を絞って時流に適った施
策で一点突破し、成功体験と評価・信頼を得た上で、全面展開していく、そうした2段構えの取り組みが有
効である。
ここでも下川小流域での経験が役立つ。下川町は急激な過疎化を地域振興へのエネルギーへと転換し、行
政主導から住民主導まで様々な取り組みが展開され、それぞれが高い評価を受けている。その中でも森林・
林業の分野は従来から高い評価を受けていたが、時代の最優先課題が環境、持続可能な社会づくりへと世界
レベルで明確になるにつれ、循環型の森林経営とゼロエミッションの木質資源加工がますます高い評価を受
けるようになり、ついには全国で6ヶ所選定された環境モデル都市(現在は13ヶ所)の中でも最も小さな自
治体として全国的な注目を集めるまでになった。様々な取り組みの中でも環境関連の取り組みが全体をリー
ドし、地域ブランドとなっているのは明らかである。
また、一点突破、全面展開の取り組みの有効性は、下川町に拠点を置く特定非営利活動法人森の生活にお
いても見られる。抽象的な「自然」体験ではなく「森林」に特化した体験事業を地道に積み重ねて一点突破
を図った結果、
核となる森林体験事業と連関する形で下川町森林組合から精油などの製造販売事業を継承し、
町が建設した宿泊施設の指定管理者ともなり、有給スタッフ9名体制の事業型NPOへと展開している。
天塩川流域で最も成果を出しやすいのは、この下川小流域での環境モデル都市としての取り組みを流域展
開することであろう。下川町にとっても、住民生活・福祉・医療・教育など多くの分野は単独で対処するの
は困難で、広域での取り組みが必要不可欠であり、流域全体の持続可能な発展なくして存続は危うい。同時
に、広域で取り組むことにより、お互い強みをもつ地域資産を持ち寄り相乗効果で地域ブランド力を高める
ことができるというメリットがある(PNRのメリット1)
。
この流域展開にあたっては、下川町の得意分野である木質バイオマスエネルギーやカーボンオフセットの
流域普及と並行して、天塩川流域の生物多様性を保全して経済活動へと結びつける展開が有効であろう。
持続可能な社会を目指す環境関係の活動は、気候変動への対処を最優先課題としつつも、昨年名古屋で国
際会議が開催されたように、生物多様性保全にも力を注ぎつつある。最近では、人間活動が生態系に与えた
影響を、その場所とは異なる場所に多様性を持った生態系を構築することにより、補償する環境活動である
生物多様性オフセットの議論が巻き起こっており、賛否両論はあるものの、カーボンオフセットに続き、生
物多様性保全に対し何らかの形で経済的な見返りを得る仕組みが動き始めている。エコツーリズムやヘルス
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年報 第29号(2011)
ツーリズムの収益力を強化することで生物多様性保全への投資を回収するという手法もある。
わが国において生物多様性、生態系を保全していく上で流域は極めて重要な概念であるが、いくつもの行
政区分をまたぎ複雑な利害関係をはらんでいる流域全体での連携は非常に困難な作業である。だからこそ成
功事例が必要であり、その点では、天塩川流域は流域面積に対して人口も人口密度も低く、生物多様性を回
復させる取り組みや様々な利害調整を行う上でのハードルが相対的に低いため、社会実験的な取り組みを行
う適地と言える。天塩川流域は、この社会実験適地という特性を前面に出し、生物多様性保全と生活保全を
両立する「環境共生流域」を目指し、世界の持続可能性に貢献するための投資を重点的に受けるべく各方面
へ積極的にロビー活動すべきである。
現在、国では、環境モデル都市の発展形として「環境未来都市」28)の制度設計をしている段階であり、先
陣を切って活動している下川町と連携して流域単位での環境未来都市構想を描けば、世界中のグッドプラク
ティスを集積した環境共生流域のモデルを世界に示すことができるのではないだろうか。この場合重要なの
は、地域の雇用つなぎのために緑の公共事業を誘致するという発想ではなく、世界のグッドプラクティスを
地域に最適化したシステムとして編集し、他地域へのコンサルティングへと展開する知的産業を地域に創造
し、投資を回収する計画を持つことである。また、所得と知的水準の高い人材が行き交うことになるため、
そうした層を顧客として想定した商品・サービスを開発すると同時に、地域への愛着が芽生えた人びとに地
域振興へ参画してもらう仕組みづくりも必要であろう。
以上を整理すると、PNRを活用したボトムアップ型地域振興策を天塩川流域で応用するにあたっては、以
下の2点を優先事項として提案したい。第1として、住民・行政・議会・企業など地域のあらゆるステーク
ホルダーが参画し、それらの間の議論を通じて地域振興策を立案・実施していくために専属の事務局を配置
する。第2に、社会実験適地という特性を前面に出し、一点突破、全面展開の方針に沿って、
「環境共生流
域」を目指す。
5. おわりに
本論文の課題は、フランス地域自然公園制度(PNR)による地域振興策の特徴を明らかにし、PNRの天塩
川流域における地域振興への適用可能性を探ることであった。自然環境・社会・産業、そして住民意識の面
からも、天塩川流域は広域的な地域振興単位として成立しうることが示唆された。また、天塩川流域におけ
る地域ブランドの取り組みの問題点を、PNRの制度を応用して一定程度改善できる方向性を見出すことがで
きた。道有林管理の面では、整備管理計画への地域住民の参画や道有林を通じた環境教育に対する地域住民
の意識の高まりなど、PNRを制度的に導入する下地が整備されつつあることが明らかになった。下川小流域
での取り組みからは、天塩川流域へPNRを導入するにあたってはボトムアップ型地域振興策の立案・実施過
程を調整する専属の事務局を置く必要があること、社会実験適地としての天塩川流域の特性を活かして「環
境共生流域」を目標に先進的に取り組んでいくべきことが示された。以上を総括すれば、天塩川流域にPNR
を導入する場合、
“環境との共生”が天塩川流域のアイデンティティの有力候補になると考えられる。
なお、本論文はフランスPNRをそのまま日本へ制度的に輸入すべきと主張しているわけではないことに留
意願いたい。PNRは、フランス独自の地方分権改革と農村振興政策を経て現在の制度的枠組みになっており、
そのまま日本へ直輸入はできないと思われる。本論文では、日本の地域振興政策でも注目するべきPNRのエ
ッセンスとして、主に、既存の行政区分を超えた広域的な地域振興策が可能である点、地域のあらゆるステ
ークホルダーが参画して立案・実施するボトムアップ型地域振興策を制度的に可能にしている点の2点に注
目した。今後は、地域振興・地域資源に関わる既存の行政機構と地方分権改革の中で地域振興の取り組みに
はどのような問題点があり、そして、これらエッセンスを活かした地域振興制度をどのように作り上げるべ
きか検討するとともに、この制度改変によって各分野で具体的にどのような影響が生じうるかを解明してい
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フランス地域自然公園制度(PNR)を活用したボトムアップ型地域振興の可能性 ──天塩川流域を対象として──
く必要がある。
【註】
1) 北海道遺産は、地域活性化を目的として、北海道遺産協議会が次世代に引き継がれるべきものとして選定した有形
無形の財産のことである。2011年1月現在、52件が選定されている。天塩川が北海道遺産に選定されたのは2004年
である。
2) 本論文で用いる道北地域とは、神沼ほか〔2008〕における「道北地域」の概念を指す。
3) 本節の記述は、フランスPNR連合会La Fédération des Parcs naturels régionaux de Franceのホームページ、石井〔2002〕
、
山本ほか〔2009〕を参照している。
4) 石井〔2002〕p.177を参照。
5) フランスの地方制度は、コミューン(commune)・県(départment)・地域圏(Région)の3層の行政組織となってい
る。それぞれの数は、最小行政単位のコミューンが約3万6,000、県が96、地域圏が22となっている。山本〔2005〕
pp.264-265を参照。
6) フランスPNR連合会ホームページ、http://www.parcs-naturels-regionaux.tm.fr/fr/approfondir/territoires-remarquables.
asp?op=territoires-remarquables-criteres-classement、2011年1月29日アクセス。
7) 山本ほか〔2009〕pp.15-16を参照。
8) 以下は、石井〔2002〕pp.178-179を参照。
9) ワインとテロワールとの関係は、ブランド化された地域産品とブランド・アイデンティティ(ブランドの理念)と
の関係に置き換えて捉えることもできる。近年では、テロワールをブランド論的に拡張して把握することが重要と
思われる。
10) 以下の自然環境に関する記述は、国土交通省河川局資料「天塩川水系流域及び河川の概要」2002年11月、
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/021115/pdf/s2_1.pdf、
2011年1月29日アクセスを参照。
11) 以下の記述は「北海道林業統計」より。
12) 2005年と2010年の比較。いずれも国勢調査より。
13) 2005年の国勢調査より。
14) 「平成17年北海道農林水産統計年報」より。なお、名寄市のもち米生産量は全国第1位でもある。
15) 山下〔2006〕を参照。この文献によると、天塩川流域での森林・水田の減少、畑地の増加と都市化も指摘している。
16) 天塩川流域における11市町村の住民458名が回答。うち、60歳以上で5割、50歳以上で7割と中高年が多い。
17) 以上の分析は、Aaker(1991)における多国間で用いられるグローバル・ブランドと一国内で用いられるローカル・ブ
ランドの関係性の議論を参考にした。
18) 以上の各種数字は「北海道上川北部森づくりセンターの概要」
(2009年10月)より。
19) 本文中には上川北部森づくりセンター当時の状況を意味する箇所もあるが、組織名称は現在の上川北部森林室です
べて統一した。
20) 上川北部森林室「道有林上川北部管理区の概要について」2010年10月8日。
21) 2006年9月8日閣議決定「森林・林業基本計画」
。
22) 北海道上川北部森づくりセンター「北海道有林野
上川北部管理区
平成19年整備管理計画書
平成18年度策定」
。
23) 神沼〔2010〕pp.1-5を参照。
24) FSC森林認証制度とは、森林管理協議会(FSC)が、森林の環境保全・地域社会への貢献・持続可能な経済の3条件
を充足する活動を実施する林業者を認証する国際的な制度である。
25) 「森林管理認証(FM)第1回維持審査結果報告」、2009年9月2日より。
26) CoC認証とは、FSCがFSC認証制度で認証した林産物製品を普及させるため、製造・加工・流通の全課程において、
認証材にその他の材が混入しないように管理・製造されていることを認証する制度である。
27) 「森林管理認証(FM)第2回維持審査結果報告」、2010年8月24日より。
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名寄市立大学
道北地域研究所
年報 第29号(2011)
28) 「環境未来都市」構想有識者検討会ホームページ、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kentoukai/index.html、2011
年1月29日アクセス。
【参考文献】
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山本美穂・古井戸宏通・鯨井祐士〔2009〕「翻訳資料と解題:フランス地域自然公園(PNR)40年史」
『林業経済』第62巻
第3号、2009年6月、pp.11-29。
〔付記〕
本論文は、平成22年度名寄市立大学特別枠による研究・事業支援「『地方自然公園』制度を活用したボトムアップ型地
域振興の可能性──天塩川流域を対象として──」における成果の一部である。
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