平成27年度 福井県立高志高等学校SSH『理数科課題研究報告書』 根粒菌の効果的な増殖について Effects of root nodule bacteria on the growth of plants 川端 友希 島田 まりあ 野坂 正明 Tomoki Kawabata Maria Shimada Masaaki Nosaka Abstract Bacteria called rhizobia gives nutrients to the soil. And if it is possible to produce them efficiently, we can change the soil which has no nutrients to the soil with nutrients. We study a method that can efficiently produce rhizobia. 要約 根粒菌はマメ科植物の根に共生し、空気中の窒素を取り込み、植物の栄養分に必要不可欠なアンモニ アを合成する。根粒菌が多ければ、もともと栄養分の少ない土地でも植物を育てられると考え、根粒菌 を効果的に増殖させる方法について調べた。発根したシロツメクサの根に、市販の種子粉衣剤の「まめ ぞう」および根粒から抽出した根粒菌を接種し、根粒の着生数への影響を調べた結果、すべての区画に おいて根粒の着生はみられなかった。また「まめぞう」および根粒菌抽出液をそれぞれシロツメクサの 種子に接種し、根の伸長と根粒の着生数とを比較した結果、まず根が伸長し、その後根粒が着生すると 考えられる。次に、NAA を加えた培地に根粒菌抽出液をシロツメクサの種子に接種したものを無菌播種 し、NAA が根の伸長に与える影響を調べた結果、根の伸長はホルモンフリーと根粒菌抽出液の組み合わ せが最も大きかった。 はじめに (2)培地条件 素寒天培地、ジェルライト 2g/L を加えたムラ シゲ・スクーグ培地にスクロース 30g/L を添加 したものと、無添加のものの 3 種類を 25 本ずつ、 計 75 本用意した。 (3)培養条件 明期 16 時間、暗期 8 時間に設定した 23℃の培 養器内で行った。 ゲンゲやダイズなど多くのマメ科植物は、緑肥 として広く使われている。マメ科植物では、共生 している根粒の中で根粒菌が窒素固定を行い、土 地が肥沃になる。そこで、シロツメクサを使って 痩せた土地を肥沃な土地に変えることが出来な いかを考えた。まずシロツメクサの種子を無菌播 種し、どの培地が発根に適しているかを調べた。 また発根した根に市販の種子粉衣剤の「まめぞ う」および根粒から抽出した根粒菌をそれぞれ接 種し、根粒の着生数への 影響を調べた。さらに「ま めぞう」および根粒菌抽 出液をそれぞれシロツメ クサの種子に接種し、根 の伸長と根粒の着生数と の関係を調べた。 B.結果 ムラシゲ・スクーグ培地はスクロースを添加し たものと無添加のもののどちらもコンタミネー ションを起こした。素寒天培地は播種後 2 日後か ら発根したが、6 日後から伸長が止まった。 C.考察 ムラシゲ・スクーグ培地がコンタミネーション を起こした理由は、殺菌が不十分でシロツメクサ の種子の内部に侵入した細菌が増殖したからだ と考えられる。また素寒天培地が播種 6 日後から 伸長が止まった理由は、6 日目までは種子内の栄 養分によって伸長したが、それ以降は栄養分がな くなったため、伸長が止まったと考えられる。 実験Ⅰ 無菌播種における各培地の影響 シロツメクサの種子を無菌播種する際に、素寒 天培地および、ムラシゲ・スクーグ培地にスクロ ースを添加したものと無添加のものの 3 種類の培 地では、どの培地で根が育ちやすいかを調べた。 実験Ⅱ A.材料および方法 (1)植物材料 園芸店で購入したシロツメクサの種子を用い た。 根粒菌の接種による根粒の着生数 への影響 発根したシロツメクサの根に「まめぞう」およ び根粒菌抽出液を接種したものをグロスポーチ 内で培養し、根粒の着生数を調べた。 34 平成27年度 福井県立高志高等学校SSH『理数科課題研究報告書』 A.材料および方法 (1)植物材料 無菌播種により発根させたシロツメクサの根 を用いた。 (2)培地条件 キムタオルをハイポネックス希釈液(5000 倍) に浸し、発根したシロツメクサの根に蒸留水、 「ま めぞう」、根粒菌抽出液をそれぞれ接種した。 ①ハイポネックス希釈液+蒸留水 ②ハイポネックス希釈液+「まめぞう」水溶液 ③ハイポネックス希釈液+根粒菌抽出液 (3)培養条件 実験Ⅰと同様の条件で行った。 B.結果 図1 根の伸長については、実験区①③で 11 日目以 降、根の伸長が緩やかになった。実験区②は実験 区①③に比べて根の伸長が大きく、17 日目以降も 根の伸長が見られた。(図1) B.結果 写真1 すべての区画において、根粒の着生はみられな かった。(写真1) 図2 C.考察 根粒を乳鉢ですりつぶした抽出液を用いたが、 ハイポネックス希釈液により根粒菌の濃度が低 下したため、根粒が着生しなかったと考えられ る。 実験Ⅲ 根の伸長と根粒の着生数との関係 写真2 写真3 根粒の着生数については、実験区①は根粒が着 生せず(写真2)、実験区②は 14 日目から根粒の 着生がほとんどなくなった。実験区③は 9 日目か ら根粒が着生しなくなったが、14 日目以降、また 根粒の着生数が増加した。(写真3)(図2) 「まめぞう」および根粒菌抽出液を、それぞれ シロツメクサの種子に接種したものを無菌播種 し、根の伸長と根粒の着生数との関係を調べた。 A.材料および方法 (1)植物材料 園芸店で購入したシロツメクサの種子を用い た。 (2)培地条件 素寒天培地を基本培地とし、シロツメクサの種 子を次の各溶液に浸して無菌播種したものを 20 本ずつ用意した。 ①蒸留水 ②「まめぞう」水溶液 ③根粒菌抽出液 (3)培養条件 実験Ⅰと同様の条件で行った。 C.考察 根の伸長は実験区②が良く伸びているが、これ は「まめぞう」に含まれるアゾスピリラム菌が植 物ホルモンであるオーキシンを合成し、それが根 の伸長を促進したためだと考えられる。また根粒 が着生した 11 日目以降、実験区①③は根の伸長 が緩やかになったことから、まず根がある程度伸 長し、次に根粒の着生が起こると考えられる。 35 平成27年度 福井県立高志高等学校SSH『理数科課題研究報告書』 実験Ⅳ 植物ホルモンと根粒菌が根の伸長に 与える影響 れる。また、根粒菌は無機塩類の存在下では、根 の伸長を促進させるはたらきがあると考えられ る。 根の伸長を促進する植物ホルモン NAA を加えた 培地に、根粒菌抽出液をシロツメクサの種子に接 種したものを無菌播種し、NAA と根粒菌が根の伸 長に与える影響を調べた。 今後の課題 NAA の濃度を低濃度に設定し、シロツメクサの 根の伸長における NAA の最適濃度を調べたい。ま た、他の植物ホルモンについても、根の伸長に対 する最適濃度を調べたい。 A.材料および方法 (1)植物材料 園芸店で購入したシロツメクサの種子を用い た。 (2)培地条件 ジェルライト 2g/L を加えたムラシゲ・スクー グ培地を基本培地とし、次の各濃度の NAA を加え たものを用意し、シロツメクサの種子を蒸留水お よび根粒菌抽出液に浸して無菌播種したものを 10 本ずつ用意した。 ① ② ③ ④ NAA ホルモンフリー 蒸留水 ⑤ NAA NAA 0.1μ molℓ 蒸留水 ⑥ NAA NAA 1μ molℓ 蒸留水 ⑦ NAA NAA 10μ molℓ 蒸留水 ⑧ NAA 謝辞 本研究を進めるに当たり、京都学園大学バイオ 環境学部の大城閑教授より多くのご助言とご教 示をいただいた。心から御礼申し上げる。 ホルモンフリー 根粒菌 0.1μ molℓ 根粒菌 1μ molℓ 根粒菌 10μ molℓ 根粒菌 (3)培養条件 実験Ⅰと同様の条件で行った。 B.結果 図3 根の伸長については、実験区⑤の伸長が最も大 きく、次に実験区①②⑥の伸長が大きかったが、 その他の実験区では根の伸長はほとんど見られ なかった。(図3) また、すべての実験区におい て根粒の着生はみられなかった。 C.考察 オーキシン系植物ホルモンである NAA は、高濃 度では根の伸長を阻害する。この結果から NAA の 最適濃度は 0.1μmol より低濃度であると考えら 36
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