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ボルドーの赤ワイン 平岩堅太郎 <はじめに> 前回のシャンパン入門は

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ボルドーの赤ワイン
平岩堅太郎
<はじめに>
前回のシャンパン入門はお蔭様で大変好評でした。これに気を良くしまして、ワイン全
般について知りたいとの御要望に答えるべく解説を数回のシリーズでお届けします。今回
と次回の2度に渡り、
ワインの女王と賞されるボルドーの赤ワインについて述べてみます。
<地理>
ボルドー市はフランス南西部、
大西洋に注ぐジロンド河の支流のガロンヌ河左岸にあり、
2000年前のローマ時代よりワインを生産し、1000年前より世界に輸出している世
界最大のワイン輸出港です。ここで云うボルドーとはジロンド河下流左岸のバー・メドッ
ク地区、中流及び上流のサン・テステーフ村、ポーイヤック村、サン・ジュリアン村、マ
ルゴー村等のあるオー・メドック地区、ガロンヌ河左岸のグラーヴ地区、ジロンド河のも
う一つの支流のドルドーニュ河右岸のポムロール地区、サン・テミリオン地区、北のドル
ドーニュ河と南のガロンヌ河に挟まれたアントル・ドー・メール地区等を指します。ボル
ドーは77、000ヘクタールの畑から年間4000万ケース(1ケースは1ダース)を
生産し(赤ワイン/白ワイン=3)
、とりわけ上質な格付け銘柄第1級品は年間10万ケー
スも生産され、その大部分が一流レストランにストックされます。
<歴史>
ボルドーのワインはイギリス人によって育まれたと聞くと意外に思われるかもしれませ
んが、これは紛れも無い歴史的事実です。1152年アキテーヌのエレオノール妃は仏国
王ルイ7世と離婚し、アンリ・プランタジネットと再婚。この時に持参した土地の一部が
ボルドーでした。アンリは1154年に英国王ヘンリー2世となり、この時からボルドー
は英国領になりました。住民はジュラートなる議会を持つ自治を与えられ、ワイン通商を
支援する英国王室に対して親近感を持つ様になりました。1337年に百年戦争が勃発し
た時もボルドーは英国側につきました。1453年に英国が敗れてアキテーヌは仏国領と
なり、暫く辛い時代も有りましたが、1461年ルイ11世はボルドーに対して商業上・
財政上便宜を復活させました。
17世紀の後半ボルドーは高級ワインの中心地へと発展しました。アルノ・ド・ポンタ
ックは世紀末に南のグラーヴのブドウ園から得た利益を北のメドックの開発に投資しまし
た。ニコラ・セギュール公爵はボルドー市議会議長であると共に有名なムートン、ラツー
ル等を有するメドックの大地主でもありました。
ボルドーにとって18世紀ルイ14世、15世の時代はベル・エポック(良き時代)と
いわれ大いに繁栄しました。ガラス瓶、コルク栓が発明され、ワインの輸出が更に盛んに
なり、輸出の75%がボルドー産でした。
19世紀半ばボルドーの富と名声は頂点に達し、1855年ナポレオン3世の命を受け
てシャトーの格付けが行なわれました。
19世紀後半ブドウの木が枯れる病気が大流行し、生産量が大幅に落込みました。原因
はシラミの仲間のフィロキセラという害虫で、これが根に寄生すると対抗上ブドウは根こ
ぶを作ります。すると栄養が上に行かなくなくなり、やがてブドウの木は枯れてしまいま
す。二硫化炭素の注入などが多少有効でしたが、手間がかかり、また引火しやすい事もあ
って特効薬にはなりませんでした。発見・命名者であるジュール・エミール・フランショ
ンはアメリカの品種の中に害虫に免疫を持つものがあるのに気付き、アメリカの株にフラ
ンスの株を接木する事によりこの病気から逃れることに成功しました。これによりフラン
スのブドウの木は復活することができました。この病気の流行は結果としてフィロキセラ
の影響が少なかったイタリアやスペイン、ポルトガル等の他地域のワイン生産をより盛ん
にしました。
<地区別特徴と代表銘柄>
ボルドーの主要地区は北から1)メドック地区、2)グラーヴ地区、南グラーヴの3)
バルサック、ソーテルヌ地区、ドルドーニュ河北の4)ポムロール地区、5)サン・テミ
リオン地区です。地区別に特徴と代表銘柄を以下に示します。
1)メドック地区
サン・テステーフ村は粘土の割合が多い分土質が重く、精緻性に欠けるようですが、豊
潤さとしっかりしたコクがあります。代表銘柄はシャトー・コス・デストーネル(以下シ
ャトーを略します)
、モンロース、カロン・セギュール等です。
ポーイヤック村は砂利混じりの土が多く、カベルネ・ソービニヨン種により、酒躯の充
実したスケールの大きいワインを産出します。代表銘柄はラフィット・ロートシルト、ム
ートン・ロートシルト、ラツールです。
サン・ジュリアン村はポーイヤック村と次に出てくるマルゴー村の中間の性格のワイン
を産出します。代表銘柄はデクリュ・ボーカイユ、レオヴィル・ラス・カズです。
マルゴー村は砂利層が深く、繊細で優雅な長く余韻を引く風味を持つワインを産生しま
す。代表銘柄はマルゴー、ラコンブ、ブラーヌ・カントナック等です。
2)グラーヴ地区
ボルドー市の南に位置し、砂利が多く、酒躯が有って性格のはっきりしたワインを産出
します。代表銘柄はオーブリヨン、ラ・ミッション・オーブリヨン、ドメーヌ・ド・シュ
バリエ等です。
3)バルサック、ソーテルヌ地区
赤ワインも有りますが、甘口の白ワインが特に有名で、代表銘柄はデイケム、クーテ、
クリマン等です。
4)ポムロール地区
リブールヌの町の周囲に位置し、生産量は少ないものの高品質のワインを産出する新し
いスターです。粘土質の土壌で主にメルロ種が用いられ、デリケートで早く熟成し、まろ
みの有る柔らかさと素晴らしい色を持ちます。代表銘柄はペトリュス、ラフルール、トロ
タノワ等です。
5)サン・テミリオン地区
ドルドーニュ河右岸に位置し、8世紀の巡礼者の聖エミリオンに因んでつけられた町で
岩を切出した跡のカーブ(地下倉)と石造りの教会堂が有名です。粘土の割合が多い土壌
でポムロールに似た性格のワインを産出します。代表銘柄はシュヴァル・ブラン、オーゾ
ンヌ、フィジャック等です。
<畑の格付け>
1855年ナポレオン3世はパリ万博の開催にあたり、フランス最上のワインを出す為
に格付けを命令しました。これを受けてボルドー商工会議所は仲買人に依頼し、主に当時
の市場価格を基礎にした優劣リストを作成しました。これが「ジロンドにおける特級銘柄
の格付け」と呼ばれるものでした。60の特級(グラン・クリュ・クラッセ)を5段階の
等級に分け、最高のものを第一等特級(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ)とし、こ
れにはメドック地区のシャトー・ラツール(以下シャトーを略します)、ラフィット・ロー
トシルト、マルゴー、グラーブ地区のオーブリヨンの4銘柄が選ばれました。
(1973年
からムートン・ロートシルトが加わり5銘柄に)第二等にはデクリュ・ボーカイユ等14
銘柄が、第三等にはカロン・セグール等14銘柄が、第四等にはプリューレ・リシーヌ等
10銘柄が、第五等にはポント・カネ等18銘柄が選ばれました。特級クラスの下が一級
(グラン・クリュ)
、その下のクラスが二級(クリュ・ブルジョア)とされ、これは格付け
されませんでした。
ボルドーのワイン業界の閉鎖性や、当時の交通不便、市場性の無さからグラーブ地区(オ
ーブリヨンを除く)
、
ポムロール、
サン・テミリオン地区は格付けの対象から外されました。
時代の移り変りと共にこれらの地区のワインもよく知られる様になり、グラーブ地区では
1953年にオーブリヨン以外に赤ワインを造る12のシャトーと白ワインを造る8つの
シャトーが格付けされました。
続いてサン・テミリオン地区でも1955年に格付けされ、
別格がオーゾンヌ、シュバル・ブラン、一等に11の、二等に13のシャトーが選ばれま
した。ポムロール
地区では別格がペトリュス、有名が26の銘柄に格付けされました。
「ジロンドの格付け」はオイルショックの年の1973年、最初の格付けから118年
も経って漸く改定されました。何たる怠慢でしょう。クリュ(畑)は同じでも時代によっ
て持主が変化する、つまり熱心さや経営方針が変ることから、この格付けも随時見直され
るべきものです。ミシュランやゴー・ミヨーによるレストランの格付けの如く毎年行なう
ことは不可能ですが、数年に一度位は見直す必要が有ると云われています。
<美味しさの秘訣>
ボルドーワインの美味しさの秘訣はいったい何処に有るのでしょう。ワインの品質決定
の四要素は1)土、2)気象、3)ブドウの品種、4)ビンを扱う人と云われています。
まずボルドーの土壌は表面が砂利質で水はけが良く、ブドウは根を深く張る事が出来ます。
又、粘土質の貧弱な養分が却って良い結果を生むと云われています。次にボルドー地方の
気候は温暖で日照時間が長い事が有利に働きます。又、ジロンド河が日夜の温度差を減ら
し、周囲の森が塩害・風害を防止します。ボルドーのブドウの品種は誉高いカベルネ・ソ
ービニオン種が主で、他に香りの良いメルロ種、少しだけ質の劣るカベルネ・ブラン種、
プチィ・ベルド種等が有り、これらをブレンドする事により、複雑な味を生み出します。
最後に人に関しては栽培・醸造に熱心で近代経営を行なっており、これらの四要素の相乗
効果により、美味しいワインが生産されるのです。
<ビンテージ>
ブドウの収穫をビンテージと呼びます。大豊作はグラン・ミレジムと呼ばれ、ボルドー
地区の60年以降では64年、70年、73年、79年、86年がそれに相当します。酷
暑の年で収穫時に雨が降らなければ極めて上質なワインが約束されます。これをグッド・
ビンテージと呼び、61年、66年、70年、75年、78年、82年、86年、89年
がこれに相当し、殊に61年のラツールは伝説的です。82年のマルゴー、ムートン、8
6年のムートン、89年のラフィット、オーブリオンは大いに期待されます。5ー12年
も経っているのにまだ期待される段階に留っているのは偉大なワイン程熟成に時間がかか
り、15年から30年もねかせる必要が有るからです。それにしても随分気の長い話です
ね。94年は90年代始めての期待されるビンテージですが、惜しむらくは収穫時に雨が
降ったそうでグッドに次ぐエクセレント・ビンテージが予想されます。
ポムロール、サン・テミリオン地区のグッド・ビンテージは61年、70年、75年の
ペトリュス、70年、75年のシュバル・ブランで、出荷量が少ない事から価格は極めて
高いものとなります。
逆に品質の良くないプアー・ビンテージの年も有り、63年、67年、68年、69年、
71年、72年、74年、84年、87年、91年、92年がこれに相当し、ねかせてお
いてもしょうが無いので早く飲んでしまったほうが良いでしょう。
ビンテージの良し悪しに関してはビンテージ・チャートでも調べられますが、時に間違
いも見受けられる為、年季の入ったワイン・ソムリエ(ワインの給仕係)に相談してみる
のが一番です。
<デカンテング>
上質な赤ワインは16゜Cから18゜C(フランスでは室温、日本では冷やす)が一番
美味しく飲める温度です。カーブ(ワイン倉庫)で横にして保存されたビンを一日立て置
き、オリを底に沈めます。翌日飲む前にワインに空気を触れさせて生気を与えるデカンテ
ングを行ないます。ブーション(コルク栓)を抜き、下からローソクをネックに照し、ワ
インをオリが入らない様慎重にデカンターに移し替えます。レストランではワイン・ソム
リエがタート・バン(テーステング・カップ)にワインを注ぎ適不適を判断します。従っ
て一流レストランでデカンテングされたワインは不適なものは無く、客が気に入らないと
云って下げてもらっても勘定にカウントされます。
デカンテングはクレープ・シュゼットを作る時の様な一種のショーであって不必要との
意見も有りますが、ワインに生気を与える事と見ていて楽しい事からこの作法は廃れるこ
とは無いと思われます。
<テーステング>
大ぶりのワイングラスに1/3程ワインを注ぎ、まず真上から見て美しい張りと色を見
ます。次にグラスを目の高さ迄挙げて光にかざし、濁りが無い事を確認します。メドック
はビロードのつや、サン・テミリオンはサテンの輝きと表現されます。グラスの脚を静か
に回し内側に垂れる雫を見ます。これはフットと呼ばれ、上質で熟成されたワインの証と
されます。
次に香いを嗅ぎます。グラスの脚を強く回してワインに空気を触れさせます。グラスに
鼻を近付け大きく吸入して香いの印象を云います。バラの香り、木いちごの香り、オレン
ジの皮の香り等と表現します。若いワインの持つ果実香をアロマ、熟成後の複雑な香りを
ブーケと呼びます。
最後が味です。口に含んでクチャクチャさせてから飲み下し、残り香も楽しみます。味
は渋味、酸味、甘み(丸み)を吟味します。これを精一杯の言葉で詩的に表現するのがフ
ランスのエリートだそうですがちょっとキザですね。
テーステングは色調、清澄のサイトに満点で3点、香いのスメルに同6点、味のテース
トに同8点、総合判定のオーバーオールに同3点の合計20点満点で判定します。種々の
バリエーションが有りますが、これがスタンダードとされています。それなりのジャッジ
が出来る様になるにはかなりの資本投下が必要となるでしょう。
<料理>
上質なワインは一流レストランで飲むのが賢明です。と云うのは一般家庭の料理ではワ
インが勝ちすぎてしまうからです。あくまでも料理が主役で、ワインは脇役であり、絵画
に例えれば料理がタブロー(油絵)で、ワインは額縁に相当します。貧弱なタブローに豪
華な額縁ではマッチしません。どうしても家庭で上質なワインを飲みたいなら奥様にうん
とリキを入れて料理してもらいましょう。
ボルドーの赤ワインは仔羊、牛、鹿、鴨、鶏、フォアグラ、リドボー(仔牛の胸腺)
、ロ
ニヨン・ド・ボー(仔牛の腎臓)等肉料理なら何でもマッチします。最良の組合わせは素
人では見つけられないことも多いので、遠慮無くワイン・ソムリエに聞いてみましょう。
プロの立場から最良のチョイスが得られる筈です。食後のチーズにも赤ワインは合います
から最後の一杯を残しておくと良いでしょう。
ディナーが終る前にソムリエにワインラベルを剥がしてもらっておきましょう。コレク
ションしておくと当時のシーンが呼起こされ、素晴らしい思い出として心に残ります。
ボルドーワインはクラレットと呼ばれ、英国王室で愛飲され続け、その伝統は現在でも
変りが有りませんが、この日本でも昔から宮中晩餐会で飲まれています。それが証拠に次
の晩餐会のメニューの新聞発表の中におそらくラツール、ラフィット・ロートシルト、ム
ートン・ロートシルト、マルゴー、オーブリヨンのうちのどれかの名前を見つけられるで
しょう。素晴らしい料理にプルミエ・グラン・クリュ・クラッセのボルドーこそ究極のも
てなしです。
<参考文献>
1)Hugh Johnson: The world atlas of
wine, 3rd edition, Mitchell Beazley.
2)アレクシス・リシーヌ、山本博訳:新フ
ランスワイン、柴田書店。
3)増井和子:ワイン紀行、文芸春秋社。
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