日本学術振興会 ストラスブール研究連絡センター 活動報告 2014 年 4

2014-2015 No. 1
JSPS Strasbourg Office Quarterly
April - June 2014
日本学術振興会
ストラスブール研究連絡センター
活動報告
2014 年 4 月~6 月
目次
宮本博幸新センター長就任
2014 年 4 月 1 日付けで、中谷陽一前センター長に代わり、宮本博幸千葉工
業大学教授が、新センター長に就任しました。(p.2)
日仏合同フォーラム「航空と宇宙における最新の
動向:知的で且つ環境にやさしい近未来の技術と
応用」を開催
2014 年 6 月 12 日(木)~13 日(金)、フランス・トゥールーズ市内にて、日仏合
同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向:知的で且つ環境にやさしい近
未来の技術と応用」を JSPS ストラスブール研究連絡センター、トゥールーズ大
新センター長就任
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イベント
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日仏合同フォーラム
「航空と宇宙における最新の動向:
知的で且つ環境にやさしい近未来
の技術と応用」
JSPS フランス同窓会総会
JSPS サマープログラム
プレ・オリエンテーション
欧米短期選考会
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8
8
8
事業説明会・研究所訪問
INRA Versailles-Grignon
ENPCI ParisTech
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10
学の主催により開催しました。(p.2~7)
JSPS サマープログラム プレ・オリエンテーションを
実施
2014 年 6 月 2 日(月)、夏季に 2 ヶ月日本に滞在し、日本での研究生活を体
験するサマープログラムの今年度フェローを対象としたプレ・オリエンテーション
をパリ・CNRS 本部で実施しました。(p.8)
ヴェルサイユ及びパリにて事業説明会を開催
学術セミナー
水資源の危機~富栄養化水源池
への適応~
ダンスと科学
フェライト磁石の産学共創研究
日本園芸の黄金期
超分子化学:新しい分子フラスコ
を作る!
フェロモンによる害虫防除:殺虫
剤に依存しない農業をめざして
安心・安全な食料生産のための精
密農業
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その他の活動
2014 年 4 月 29 日(火)にフランス国立農学研究所(INRA)ヴェルサイユ=グリ
ニョン研究センターを、また 6 月 19 日(木)にパリ市立工業物理化学高等専門
大学(ESPCI)を訪問し、JSPS 事業説明会を実施しました。(p.9~10)
来会・訪問
コラム
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新センター長就任
2
就任挨拶
本年 4 月に中谷陽一先生の後任として、ストラスブール研究連絡セン
ターに着任しました宮本博幸です。約 40 年前、フランス政府給費留学生
として、ストラスブールのとなり、ナンシーに留学・学位取得後、帰国し大
学に勤務してきました。その間、何度か日仏シンポジウムに関わり、フラン
スの大学との研究交流・留学生の受入などをしました。当センターはフラ
ンスを始め、南ヨーロッパ各国を活動の対象としています。フランスにある
研究連絡センターが、なぜ首都のパリではなく、東の端のストラスブール
にあるのか、しばしば尋ねられます。さまざまな理由があるでしょう。フラン
ス地図を拡げたとき、ストラスブールは東端ですが、ヨーロッパ地図で見る
と、欧州連合(EU)のほぼ真ん中に位置します。いまでは国境を越えた共同研究が当たり前になりつつあり、今後はヨーロッ
パにある4つの研究連絡センターが連携して活動することも重要になってくるでしょう。
これまでストラスブール大学始め、関係機関と築いてきた絆をもとに、日本とフランス、そしてヨーロッパ各国にある大学・研
究機関との多面的な研究交流と、それを支えるヒューマンネットワークの構築に邁進していきたいと思います。引き続きストラ
スブール研究連絡センターへのご支援をお願い申し上げます。
1951 年生 1979 年 Institut National Polytechnique de Lorraine,1980-1989 東京女子医科大学医用工学研究施設,1989 INSERM U103
研究員,1989-2014 千葉工業大学情報工学科(教授).専門:情報工学・人間工学
日仏合同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向:
知的で且つ環境にやさしい近未来の技術と応用」を開催
France Japan Academic Forum "Recent Advances in Aeronautics and Space:
Smart and Green Technologies and Applications for the future"
2014 年 6 月 12 日(木)~13 日(金)、JSPS ストラスブール
研究連絡センター、トゥールーズ大学の主催により、日仏合
同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向:知的で且つ
環境にやさしい近未来の技術と応用」を開催しました。
会場となったのは 15 世紀に建造されたアセザ館で、パス
テルという藍染料の交易で富を築いた豪商の館です。現在
はバンベルグ財団美術館としてルネッサンスから 19 世紀の
美術品を収蔵しています。
【写真(左)
:アセザ館】
【写真(下)
:会場の様子】
Dr. Thierry Lebey(CNRS LAPLACE)及び趙孟佑教授
(九州工業大学)の日仏両国サイエンティフィック・コーディネ
ーターの尽力により、同フォーラムでは航空と宇宙をキーワ
ードとして幅広い専門分野の日仏研究者・産業界の専門家
11 名が最新の研究成果を発表し、博士課程学生や若手研
究者を含む聴衆と活発なディスカッションが行われました。参
加者数は延べ 62 名でした。
日仏合同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向」
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6 月 12 日(木)開会挨拶
フランス側サイエンティフィック・コーディネーターの Dr. Thierry Lebey の司会のもと、はじめに JSPS 西井知紀総務企画部
長より、JSPS およびストラスブール研究連絡センターの活動紹介、そして本フォーラムが日仏の産学官研究者の協力関係構
築の一助となるよう祈願する旨スピーチがありました。続いて、ポール・サバティエ大学 Alexis Valentin 副学長より、大学を代
表して本フォーラムを通じた日仏学術交流を歓迎する旨挨拶がありました。さらに、宮本博幸センター長、トゥールーズ国立
工科大学 Olivier Simonin 学長、サン・テグジュペリ技術研究所 Gilbert Casamatta 所長よりご挨拶いただきました。
【西井知紀総務企画部長】 【Alexis Valentin 副学長】
【宮本博幸センター長】
【Olivier Simonin 学長】
【Gilbert Casamatta 所長】
6 月 12 日(木) Scientific Program
招待講演
Dr. Alain Gleyzes (フランス国立宇宙センター CNES)
「Pléiades システムは軌道上でフル稼働」
“Pléiades system is fully operational in orbit”
トリノ協定により,フランスは,CNES が中心となり,オーストリア,ベルギー,スペイン,スウェーデ
ンとの共同プログラム,Pléiades(光学高分解能地球観測システム)を進めている。Pléiades は民
生用と防衛用のデュアルシステムである。
2011 年,2012 年に衛星 2 機が軌道上に投入されており, Pléiades は 4 帯域のマルチスペクトル画像と高解像度全色画
像を提供する。新たに開発された新技術により,衛星の質量,慣性を減らすことで機敏性を確保している。パンクロマティック
センサでは地上 70cm の分解能を,また 4 帯域のセンサでは 2.8m の分解能を得ており,取得画像帯は 20km 幅となってい
る.制御モーメントジャイロスコープの利用によって俊敏な制御が可能であり,ステレオ画像を広範囲にわたり,また瞬時に得
ることができる。また,180 度の間隔で周回する 2 機の衛星のお蔭で地球上のどの地点も毎日観測することができる。
CNES トゥールーズにあるデュアル地上センターは防衛,民生の両ミッションを遂行することを前提に衛星と実時間で通信
している.このデュアルセンターは,一方ではフランス,スペイン等の防衛用に,他方,民生用に対応しているが,データ処理
後ユーザに提供している.衛星への指令は東アジア,ヨーロッパ,北アメリカ上を通過するときにアップロードされる。
日仏合同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向」
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6 月 12 日(木) Scientific Program
趙 孟佑 (九州工業大学教授)
“Green and smart ways to survive in space”
人工衛星が宇宙環境で生き残るためには、帯電·放電への対策が必要である。高エネルギー電子
との遭遇によって、衛星は大きく負に帯電し、衛星内の電位差が広がることによって放電が発生す
る。衛星帯電·放電の対策としては、できるだけ事象の上流側での対策が望ましい。半導電性コーテ
ィングや受動的電子エミッタ、フィルムによる初期放電防止等の対策について、小型衛星による実証
結果の紹介がなされた。
Dr. Virginie GRISERI (Laplace, University Paul Sabatier)
“Investigation on the effect of electronic irradiation on dielectric materials used in space
environment”
宇宙環境において、高エネルギー電子との遭遇によって、衛星内の絶縁体に電子が侵入し、放電
に至る危険がある。絶縁体内での電子の挙動、特に輸送過程を評価する必要がある。Paul Sabatier
大学でなされている、絶縁体内の電荷センサーの開発状況について紹介がなされた。日本の情報通
信研究機構や東京都市大学と連携して、パルス型電子音響法に基づいたセンサーが開発されてい
る。
木村 真一 (東京理科大学教授)
“On-orbit intelligence for smaller and smarter remote sensing”
本セッションでは小型衛星の可能性と展望について 2 件の講演があり、関連する内容について討
議が行われた。まず、日本側から東京理科大学の木村真一氏により、「 On-orbit intelligence for
smaller and smarter remote sensing」というタイトルで、衛星群での地球観測を小型衛星を用いて低コ
ストにより実現する可能性について講演があった。ゲリラ豪雨や土砂災害など局所的な現象への関
心から、地球観測の時間・空間分解能を高める必要性から、地球観測システムのコスト低減が求めら
れていること、そのために小型衛星に期待が集まっていることが紹介された。また低コスト化を実現す
る方策として、民生技術の積極的な活用や、オープンソースを活用した搭載計算機の自律化・高機能化の試みについての
事例が紹介された。
Dr. Didier Alary (エアバス社)
“Small satellites : a fashion or a clear trend ?”
次いで、フランス側から Airbus 社の Didier ALARY 氏により、「Small satellites : a fashion or a clear
trend ?」というタイトルで、近年注目されている小型衛星の発展の可能性について講演があった。電
子技術の進歩や、民生技術の積極的な活用によって、衛星搭載機器の高機能化・ダウンサイジング
が進んできており、地球観測衛星を中心に小型化・高機能化の動きがあることが報告された。その一
方で、通信衛星等はリソースが最も重要な要素であることからむしろ大型化していく傾向にあることか
ら、小型衛星か効果的に活用されるか否かは、アプリケーションに強く依存することが指摘された。圧
倒的小型衛星として誕生した CubeSat は機能性を拡充するために、サイズが大きくなる傾向にあるこ
とから、50kg級の地球観測衛星は小型衛星の活躍が期待される分野として指摘された。小型衛星がより低コストを実現し効
果的に活用されるためには、低コストな打ち上げ手段の拡充が期待されることが議論された。
日仏合同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向」
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6 月 12 日(木) Scientific Program
石川 隆司 (名古屋大学教授)
“«Overview of recent advanced composites research in Japan: Key issue for green and smart
technology”
複合材料、特に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、航空宇宙機の構造重量を軽減し、省エネルギーを実
現する技術の中心的役割を果たしている。特に最新の航空機では、複合材料が空虚構造重量に占める割合は
50%以上に達し、それを支える研究が、日本をはじめとする先進国で精力的に実施されている。
この講演では、まず、日本で開発されている 90 人乗りの旅客機:MRJ-90 の、低コスト型の複合材料である
VaRTM 技術で製造した CFRP 尾翼の開発を支える基礎研究として、翼構造の部分構造である VaRTM- CFRP
補強パネルの疲労に関する研究について紹介した。注目する部位は、補強材の切り落とし部先端であり、ここの層間破壊の進展に注目し
た疲労試験の解析と実験を実施した。層間破壊の進展速度は、一寿命を超えたあたりから減速する。この原因が、数値解析により、大変う
まく説明された。
第2のトピックとして、VaRTM とプリプレグのハイブリッド複合材料を使用した構造の実飛行証明の研究を紹介する。この研究の目的は、
製造コストの低減であり、胴体パネルを例とした試算では、製造コストが半分となる。胴体のデモ構造も試作されたが、それを飛行実証する
のは、莫大な予算を要するので、目的物をビジネスジェット機のスピードブレーキに変更して飛行実証を実施した。飛行実証の前に地上試
験で設計負荷に耐えることを確認して、米国での飛行試験を成功裡に終了した。
次のトピックは、CFRP 構造の耐雷性に関する研究である。CFRP の主翼への適用が進むにつれて、その耐雷性の研究が重要視されてき
ている。JAXA が行った初期的な研究では、模擬雷を落とした時の挙動が実験的に解明され、損傷を支配する重要な数値として、電流値
の二乗の時間積分値が重要であることが判明した。
次のトピックとして、ジェットエンジンの高温部に用いるセラミックス複合材料の荒しい製造方法の研究と、ジェットエンジンのファンに用い
る CFRP 複合材料の高速衝撃に対する挙動解明研究の要点を紹介した。
最後に、名古屋大学に最近設立されたナショナルコンポジットセンター(NCC)の研究の方向性や、保有設備について簡単に紹介した。
NCC では、最初のプロジェクトとして、熱可塑性 CFRP を適用して自動車の軽量化を目指す研究開発を実施している。
Prof. Colette Lacabanne (CIRIMAT、ポール・サバティエ大学名誉教授)
“Electrically conductive polymer based composites for aeronautic applications”
まず、カーボンナノチューブ(CNT: 細長比[アスペクト比]が 100 以上、1000 程度まで)を分散した高分子基複
合材料の導電性について検討を行った。力学特性も良好で、導電性のある複合材料を得ることができた。この
CNT 複合材料は、体積含有率(Vf) = 5%以下という低いパーコレーション*限界を有しており、その電気伝導度
は 10-1 s/m 程度で上限となる。この値は、導電性材料としては、やや見劣りがしており、導電性を上げるには、
本質的に高い導電性を持つ、金属のナノ繊維を混合した複合材料のほうが適していると考えられる。
そこで、次のステップとして、溶液ルートの合成法によりアスペクト比が 200 に達する銀ナノ繊維を合成した。そ
して、この銀ナノ繊維を混入した熱可塑性樹脂を基材とする複合材料を試作した。基材樹脂としてはいろいろなものが使用されたが、その
一つに、共同研究を行っているアルケマ社が開発した PEKK (Poly-Ether-Ketone-Ketone)がある。これらの樹脂を基材とする複合材料の導
電性と金属ナノ繊維の体積含有率の関係を調べた。この複合材料は、Vf = 0.6%以下という極めて低いパーコレーション限界を有している
ことが判明した。また、この複合材料における金属ナノ繊維による力学特性の改善効果も調べた。この複合材料の導電性は、200 s/m 程度
に達することが解った。
結論としては、銀ナノ繊維を始めとする金属ナノ繊維は、高分子複合材料の導電性を改善する手段としては大変将来性のある方法であ
り、これを構造材料として使用できる熱可塑性複合材料の実現が可能であり、航空機構造の耐雷性が改善されることが期待される。また、
付帯的な事実として CNT を強化材とする複合材料は、導電性材料としてより、帯電防止材料として期待されることも判明した。
* 介在物がつながりあって、導電性が一挙に高まる現象のこと
日仏合同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向」
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6 月 13 日(金) Scientific Program
神武 直彦 (慶応義塾大学准教授)
“Smart space applications and capacity buildings for innovative social services”
観測衛星、測位衛星、通信衛星といった宇宙インフラの開発は日々進歩し、また、地上における携帯電話網や
センサネットワークの普及も急速に広がりつつある。そのような技術の進歩は社会における様々な社会サービスを
再構築し、革新する可能性をもっている。われわれは、社会課題を解決するために宇宙技術と地理空間情報を活
用した革新的なサービスを創出するためのコンソーシアム GESTISS(http://gestiss.org)を 2012 年に設立し、日本の
みならずアジア各国の大学や企業と連携をして教育研究やプロジェクトを実施している。この活動によって、既存
のシステムや設備をそれぞれ改良するだけでなく、宇宙インフラと地上インフラを統合しながら新たなサービスを創
出し、また、そのための人材を育成する仕組みを実現しており、本発表ではその背景と現状、今後のビジョンについての発表がなされた。
Dr. Stéphanie Remaury (フランス国立宇宙センター研究員)
“New thermal control coatings developments: “Green” paints and X-chromic devices”
フランス国立宇宙研究センター(CNES)の材料・コーティング研究所では、宇宙機の温度を制御するためのコー
ティングの研究を過去数年間実施してきている。REACH や RoHS、COV といった欧州の環境規制では、塗料に関
する変更を施行してきており、いくつかの塗料成分および溶剤は数年後に利用が禁じられる。そのため、CNES や
MAP は革新的な宇宙用「グリーン塗料」をロケットや人工衛星で利用することを提案し、新しい安全工業プロセス
を準備する機会に恵まれた。また、CNES の研究所においては、サーモクロミック、エレクトロクロミックのように、温
度、湿度、pH、電界あるいは磁界といった、外界からのさまざまな刺激によってひとつ以上の物性が大きく変化す
る新しい材料を開発している。CNES と Thalès Alenia Space は、これらの材料を使って、2 年程その評価をしてき
た。この活動の目的は、既存の材料との比較を行うことであり、本発表では、これらのグリーン塗料およびサーモクロミック、エレクトロクロミック
デバイスについての発表がなされた。
麻生 茂 (九州大学教授)
“Aircraft design and feasibility study on electric plane toward green flight technology”
環境適合型飛行技術は、将来の航空宇宙工学に向けたキーテクノロジーの一つである。本講演では電動飛行
機に関する日本の研究と我々の研究室での小型電動飛行機についての最新の研究について紹介した。電動飛
行機は飛行中に燃料が減少しないところが化石燃料で飛ぶ飛行機との相違点であり、このため新しい概念設計法
(重量推算法や計算ツール)を開発し、概念設計を行うとともに小型電動飛行機のトータルコストと化石燃料を使う
小型飛行機のそれとの比較を行った。小型電動飛行機は、化石燃料の小型飛行機と比べて値段は高いものの、
20 年間のトータルコストは安いことがわかった。また、電動飛行機は騒音及び環境適合の点でも優れている。小型
電動飛行機は次世代の輸送システムとして十分に達成可能なシステムといえる。電気自動車用電気モーター、リチウムイオンバッテリー、コ
ントローラー及び飛行機のプロペラからなる電動パワーシステムについての基礎的な実験的研究では、この電動パワーユニットは高い効率
で十分な推力を出すことができることを証明した。
Dr. Jean-François Genest(エアバス社最高科学責任者)
“A new architecture for electricity generation onboard telecommunications satellites”
近年、通信衛星が必要とする電力エネルギーが増加しており、現在では、20kW にまで達している。しかしなが
ら、現有のガリウムヒ素の多接点型高効率太陽電池を使ってもこれだけの発電量を賄うには高コストになってしま
う。このため衛星の製造において太陽発電のためのコストは衛星全体のコストの 20%以上に達しているのが最近
の傾向である。このコストを削減するにはもっと多くの多接点光発電子セルの高効率化以外にはなかなか有効な
方法がなく、衛星搭載の電力発生方法を根本的に変える技術的なブレークスルーが必要である。そのブレークス
ルーは、これまでの人工衛星のアーキテクチャー(基本構成)を根本的に変えるようなものになるに違いない。それ
が、太陽エネルギーを熱に変え、熱を電気に変える熱音響機関(thermoacoustic engine)である。これは非常に高い効率を持っており、ピスト
ン等の可動部品がなく、メンテナンスフリーという特徴をもっている。講演では、熱音響機関の概要とともに、その開発において著者らが経験
した問題点や解決可能と考えてられている対策についても説明があり、将来は 200~500kW までの応用を視野に入れているという内容が紹
介された。
日仏合同フォーラム「航空と宇宙における最新の動向」
7
1 日目の最後にはエアバス社を含む本フォーラム関連専門
家によるラウンドテーブルが設けられ、今回の各セッションと
関連した最新の研究とその実用化、また航空産業やその将
来展望にも及ぶ幅広く興味深い議論がもたれました。
【エアバス本社にて】
2 日目のフォーラム終了後にはトゥールーズ郊外にあるエ
アバス本社を訪問し、大型旅客機 A380 の製造工程を見学し
ました。機体はフランス、ドイツ、イギリス、スペイン 4 カ国で機
体パーツを作成し、ベルーガと呼ばれる機体部品を輸送する
【ラウンドテーブルの様子】
貨物機で運ばれ、最後にトゥールーズとハンブルクで組み立
てが行われます。
本フォーラム開催により、講演者をはじめ参加者の多くにとって、新たな関心事項、また、新たな研究者ネットワーク形成の
契機を見つける機会となったことが期待されます。なお、フォーラムの準備・開催にあたっては、同窓会会長 Dr Isabelle Sasaki
の絶大なる支援をいただきました。ご協力ありがとうございました。
JSPS フランス同窓会総会
2014 年 6 月 12 日(木)、フォーラムの開催に合わせて JSPS
【2014 年 6 月~ 同窓会幹部】
フランス同窓会の総会が行われました。はじめにストラスブー
会長: Dr. Isabelle Sasaki
ル研究連絡センターの 2013 年度の事業説明会、フォーラム
副会長:Prof. Marie-Aleth Lacaille-Dubois,
の実施状況について報告がありました。その後、フランス人学
Dr. Anne-Lise Poquet-Dhimane
生(L3-D1 の修士相当の学生)を日本へ派遣し、その支援に
書記:Dr. Lucille Joly-Pottuz
ついて活発な議論が交わされました。最後に、任期満了を迎
会計:Dr. Jean Suisse 会計副担当:Dr. Frédéric Gillot
えるいくつかの役職について選挙を実施し、役員が交代しま
その他幹部:Dr. Jacques Fattaccioli, Prof. Marie-Claire Lett,
した。
Prof. Brigitte Senut, Dr.Bernard Chenevier
イベント
8
JSPS サマープログラム プレ・オリエンテーション開催
2014 年 6 月 2 日(月)、フランスで 2 回目となるサマープログ
JSPS 東京本部の安原幸司人物交流課外国人特別研究員
ラム・プレ・オリエンテーションを、パリの CNRS 本部において
係主任よりサマープログラムについて説明がありました。続い
開催しました。日本行きを間近に控えたフランス国内 13 名の
て 久 田 副 セ ン タ ー 長 よ り JSPS 事 業 に つ い て 、 Chantal
参加者全員が出席し、CNRS 及び JSPS 関係者から情報提供
Khan-Malek CNRS 国際研究協力ヨーロッパ部門アジア・パ
を行うとともに、渡航前に参加者が知り合い、情報交換を行う
シフィック渉外担当課長より CNRS 事業についてそれぞれ説
機会としました。
明がありました。
出発前の参加者達にとって一番関
心が高かったのは、2 名のサマープロ
グラム参加経験者による体験談でし
た 。 Mme Camille Ndebeka-Bandou
(2013 年度サマー参加者、東京大学)
と Mme Sophie Buhnik (2010 年度サ
マー参加者、大阪市立大学)は、日
本滞在が特別な経験であったことを
【Mme Sophie Buhnik】
それぞれの視点から発表しました。学生のうちに海外を経験
することが有意義であることは誰も疑わないが、その目的地
をヨーロッパ内でなく、遠く離れた日本にすることで、より多文
化を実感できること、また、日本の
高温多湿な夏の過ごし方、蚊対策
【サマープログラム・プレ・オリエンテーションの様子】
等について、質疑応答を含めて活
発な意見交換が行われました。
当 日 は 、 初 め に 歓 迎 と 開 会 の 挨 拶 が Patrick Nedellec
CNRS 国際研究協力ヨーロッパ部門アジア・パシフィック担当
部長、中谷陽一前センター長、宮本博幸センター長 3 名から
述べられ、続いて出席者が順に自己紹介を行いました。
【Mme Camille Ndebeka-Bandou】
欧米短期選考会
2014 年 6 月 2 日(月)、サマープログラム・プレ・オリエンテ
これに対して、Alain Fuchs 会長からは中谷陽一前センター
ーションの開催と合わせて、パリの CNRS 本部にて欧米短期
長が日本とフランス、とりわけ JSPS と CNRS との共同事業推進
選考会を実施しました。Pascal Breuilles CNRS 主任研究員、
に多大な貢献をされたことに対
Chantal Khan-Malek CNRS 国際研究協力ヨーロッパ部門アジ
して、お礼の言葉が述べられま
ア・パシフィック渉外担当課長、Mme Gulnara Le Torrivellec
した。
CNRS 国際研究協力ヨーロッパ部門日本・韓国・台湾・イスラ
エル・トルコ担当職員が出席し、平成 26 年度第 2 回外国人特
別研究員(欧米短期)選考会を開催しました。
その後、宮本博幸センター長、中谷陽一前センター長が
Alain Fuchs CNRS 会長を表敬訪問しました。中谷陽一前セ
宮本博幸センター長からは
就任の挨拶、引き続き CNRS の
協力を得て、日仏学術交流のさ
らなる発展のため邁進していく
旨、述べられました。
ンター長より退任の挨拶があり、ストラスブール研究連絡セン
ター開所以来の長年にわたる CNRS の協力に謝辞が述べら
れました。
【選考会の様子】
事業説明会
INRA Versailles-Grignon
9
http://www.versailles-grignon.inra.fr/
2014 年 4 月 29 日
最後に Bertrand Dubreucq 主任研究員の案内により、細
(火)、フランス国立農
胞・生物画像プラットフォームを見学しました。主に DNA,
学研究所(INRA)ヴェ
RNA の分析を担当している Kaori Sakai 調査担当技官によ
ルサイユ=グリニョン研
り、画像を見ながら細胞を切り取る様子を実演していただきま
究センターを訪問し、
した。
事業説明会を実施しま
午後からは JSPS 事業説明会を実施しました。約 20 名の参
した。
加があり、フランスで活躍している日本人研究者の方の姿も
当研究所はフランスにある 17 の地方センターのうちのひと
ありました。事業説明会の際には、JSPS 同窓会員である
つで、イル=ド=フランスを中心に各研究機関や大学の依頼を
Jasmine Burguet 研究員と Hélène Kiefer 研究員(2004 年外
受けて分析を行い、植生学、農学、環境学、食物・栄養学の
国人特別研究員、東京大学) に体験談を報告していただき
分野で知識と専門技術を提供しています。ヴェルサイユ宮殿
ました。
に続く広大な敷地に温室や農園を有し、25 の研究ユニットに
約 1,400 人の研究者、エンジニア、スタッフが勤務していま
す。
Akira Susuki 主任研究員、 Jasmine Burguet 研究員(2004
年サマープログラム、岡山大学)の案内により、午前中は 3 つ
の研究室を訪問しました。化学・代謝プラットフォームでは、
主に一次代謝および二次代謝、植物ホルモンのシグナル伝
達、細胞壁(セルロースとポリフェノール)をテーマに研究が
行われています。François Perreau 研究担当技官より、試料を
加熱して分析する場合、加熱せずに分析する場合など、その
方法について説明を受けました。
【事業説明会の様子】
続いて Christian Meyer 主任研究員の案内により、温室を
事業説明会終了後には
見学しました。光、温度などの環境要因を詳細に設定できる
Jean-Pierre Bourgin 研 究 所 の
温室があり、さまざまな植物を指定された条件下で育成する
David Bouchez 所長と面会し、所長
ことが可能との説明がありました。温室内では各個体に対し
より研究所の紹介を行っていただ
て均質な環境が保たれるように、一定の時間間隔で動くパレ
きました。その後、宮本センター長
ットに入った培養培地の上に載せられています。各サイクル
より JSPS およびセンターの活動を
で、それぞれの個体を計量し、条件にしたがって水やミネラ
紹介し、意見交換を行いました。
ルが添加され、モニターで記録・管理されています。
【David Bouchez 所長】
【(左から)Akira Suzuki 主任研究員、宮本博幸センター長、
【温室】
久田淳子副センター長、Jasmine Burguet 研究員】
事業説明会
10
ESPCI ParisTech
http://www.espci.fr/
2014 年 6 月 19 日
続いて Ricardo Lobo 主任研究員の案内により、物理学•
(木)にパリ市立工業物
材料研究(LPEM :Physique et Etude des Matériaux)研究室
理化 学 高 等専 門 大学
を見学しました。当研究室は、CNRS とピエール・マリー・キュ
(ESPCI ParisTech)を訪
リー大学(UMR8213)との共同研究ユニットで、主にナノ物
問し、JSPS 事業説明会
理、ナノ構造とナノ材料、低次元強相関電子系の 3 つの分野
を実施しました。パリの
にわたって研究が行われています。訪問の最後に、液体窒
カルチェ・ラタンに位置
素を用いた超伝導による磁石の浮上実験を行ってくださいま
し、1882 年に創立された由緒あるグランゼコールで、ピエー
した。
ル・マリー・キュリー夫妻ほか7名のノーベル賞受賞者を輩出
している名門校です。 17 の研究室があり、その分野は生物
学、量子物質物理、合成化学など多岐にわたっています。
物 理 学 と 異 機 種 環 境 の 力 学 ( PMMH : Physique et
Mécanique des Milieux Hétérogènes)では、流体力学、ソフト
マター・物理化学・生物学、固体力学と統計物理学の分野に
はじめに、Jean-François Joanny 校長、Jérôme Lesueur 研究
おいて研究が行われています。薄いフィルムに特別なカット
部長、Bénédicte Ravier, Jean-Baptiste d'Espinose 国際担当の
を入れることで一瞬にして三日月や螺旋状に規則的なモチ
出迎えを受け、JSPS およびセンターの活動について紹介し、
ーフを形成する様子を見学しました。
意見交換をしました。
最 後 に 、 ソ フ ト マ タ ー と 化 学 ( MMC : Matière Molle et
Chimie)研究室では、François Tournilhac シニアリサーチフェ
ローよりポリマー材料に関するプレゼンテーションが行われま
した。同研究室では、強固で不溶性という特質を有しながら
可鍛性を示す材料の開発を目的に日々研究が行われていま
す。
午後から実施した JSPS 事業説明会には 12 名の参加があ
りました。同窓会員である Laurent Daudet(2002 年招へい短
期、国立情報学研究所 NII)より日本での滞在経験が発表さ
れました。震災の影響でスケジュールの変更を余儀なくされ
た同氏ですが、2012 年に来日し、わずか 1 ヶ月間の滞在中
【(右から)Bénédicte Ravier 国際担当、Jean-François Joanny
に東京大学、産業技術総合研究所、NTT、理化学研究所、
校長、Jérôme Lesueur 研究部長、Jean-Baptiste d'Espinose 国
東京理科大学の研究室を訪問しました。フェローシップ終了
際担当、宮本博幸センター長、久田淳子副センター長】
後、同氏は NII の客員教授に採用され、論文の共同執筆と
いう成果をおさめています。また、フランス人学生を NII での
インターシップへ派遣したり、また日本人学生を研究室に受
ESPCI ParisTech では 4 つの
け入れたりする協力体制ができたとの報告がありました。
研究室を見学しました。はじめ
に、化学・生物学とイノベーショ
ン ( CBI : Chimie, Biologie et
Innovation)研究室を見学し、ハ
イドロゲル薄膜を有する液体カ
プセルの開発について説明を
受けました。紫外線や酸化によ
る品質劣化を防ぐことができ、
この技術は化粧品などに応
用されています。
【Jérôme Bibette 主任研究員】
【事業説明会の様子】
学術セミナー
11
4 月 14 日(月) 第 137 回学術セミナー
清水 和哉 (東洋大学講師)
「水資源の危機 ~富栄養化水源池への適応~」
“Water Scarcity - Adaptation to the eutrophic water reservoirs”
人間活動に由来する排水からの窒素やリンによって水源が汚染され富栄養化が進行している。ひ
とたび富栄養化すると水利用上に極めて重篤な問題を引き起こす有毒物質やかび臭物質を産生す
る藍藻類が高密度に増殖する(アオコの顕在化)。そのため、富栄養化した水源を利用する際にコス
トやエネルギー、水処理薬剤を多く使用して水処理しなければならない。これを解決するひとつの手段として生物学的浄水処
理法が注目されている。この方法は低コストおよび低エネルギー、低技術で様々な場所において用いることができる。本セミ
ナーでは、有毒物質とかび臭物質を処理することを目的とした生物学的浄水処理方法について説明した。
5 月 5 日(月) 第 138 回学術セミナー
水村 真由美 (お茶の水女子大学准教授)
「ダンスと科学」
“Dance and Science”
ダンスは、芸術であり、身体運動である。プロダンサーが行う踊りは、運動として多様かつ非日常的
であり、一流の競技スポーツと同様に、運動としての魅力を多く含んでいる。お茶の水女子大学は、
日本で舞踊を専攻できる唯一の国立大学法人である。また舞踊を学部から博士後期課程まで専攻
できる国内唯一の大学となる。バレエダンサーの経験をもち、ダンスを科学的に研究したいという希望からスポーツ科学を専
攻し、お茶の水女子大学の教員となった。以降、運動生理学およびバイオメカニクスの手法を用いて、ダンサーの身体また動
作に関する研究を学生達と共に行ってきた。世界一の長寿国として知られる日本ではあるが、健康寿命の観点から考えると、
高齢者の寝たきりや要介護といった問題は深刻化している。自立した生活を一生可能にするためにも、定期的な運動習慣は
欠かせない。運動の中にあって、ダンスは文化的魅力に富むだけでなく認知症になるリスクを軽減する運動としても昨今の研
究成果から注目されている。ダンスは、プロが踊る巧みな運動としての特性から、我々の身体にさまざまな効果をもたらす運
動としての可能性までを内在している。日本では、2020 年の東京オリンピックに向けて、スポーツに関わる科学的研究は益々
発展することが予想される。スポーツと同様、運動であるダンスを対象とした科学的研究も、今後もますます行われるに違いな
い。2010 年には、こうした活動を活性化するために日本ダンス医科学研究会は設立された。日本人スポーツ選手が海外で活
躍することに、スポーツ科学研究が貢献するように、日本人ダンサーの活躍に、ダンスの科学的研究が貢献できるよう、今後も
研究を続けていきたいと考えている。
5 月 26 日(月) 第 139 回学術セミナー
中村 裕之 (京都大学教授)
「フェライト磁石の産学共創研究」
“Classical iron-based permanent magnets: a basic study based on industrial demands”
永久磁石にはいくつかの種類があるが最もよく目にするのはフェライト磁石である。たとえばマグネ
ットクリップなどに使われている磁石である。古典的な磁石であり研究の余地など残っていないように
見える。磁石としての性能もネオジム磁石に代表される希土類磁石には遠く及ばない。しかし、実
は、生産の現場では次世代のフェライト磁石を開発すべく熾烈な戦いが行われている。本セミナーでは、フェライト磁石の開
発の現状、フェライト磁石が未だに有用である理由、基礎研究が必要とされる訳、産業界と学会との共創研究の可能性、につ
いて我々の最近の取り組みに基づいて紹介した。
学術セミナー
12
5 月 30 日(金) 第 60 回 JSPS - UDS 合同セミナー
Mme Sophie Le Berre
「日本園芸の黄金期 (17 世紀から 19 世紀にかけて)」
L’âge d’or de l’horticulture japonaise(17e au 19e siècle)
2014 年 5 月 31 日~8 月 31 日、ストラスブール大学植物
園において「日本の植物展:日出ずる国の伝統と植物園」
が開催されました。今年はアルザスと日本の友好 150 周年
にあたり、在ストラスブール日本国総領事館の共催によ
りこの催しが企画されました。センターではストラスブー
【Mme Sophie Le Berre】
【会場の様子】
ル大学と共催のもと、第 60 回 JSPS - UDS 合同セミナーを開催しました。日本園芸の専門家である Mme Sophie Le Berre を
講師に招き、「日本園芸文化の黄金期(17 世紀から 19 世紀にかけて)」をタイトルにご講演いただきました。会場には 200 名
を超える参加があり、日本文化への関心の高さを窺うことができました。
5 月 31 日(土)「日本の植物」展 オープニングセレモニー
2014 年 5 月 31 日(土)10 :00 よりストラスブール大学植物園において「日本の植物展」の
オープニングセレモニーが行われました。在ストラスブール日本国総領事館 長谷川 晋 総
領事、ストラスブール大学アラン・ベレッツ学長、日仏大学会館マリー=クレール・レット館長
より挨拶が述べられました。会場内はわさびや柚子など日本原産の植物に関するパネル展
示があり、園内にある農園にはシソ、セリなどの植物が栽培されていました。また、展示会開
催中には園内に茶席が設けられ、生け花体験や書道など、地域住民の方にも気軽に日本
文化を体験できるイベントが企画されました。
【会場に飾られた生け花】
【パネル展示】
【茶席】
6 月 10 日(火) 第 140 回学術セミナー
吉沢 道人(東京工業大学准教授)
「超分子化学:新しい分子フラスコを作る!」
"Supramolecular Chemistry: Let’s Make Molecular Flasks!"
錬金術の時代から、化学者はガラスフラスコを使って、化合物を合成したり保存したりしている。化
合物の分析のための装置は様々な開発がされてきたにもかかわらず、ガラスフラスコは今でもなお、
化学の研究の中心的役割を担っている。フラスコの形や大きさは、系全体の性質に影響するが、フ
ラスコ内の分子の反応や相互作用には影響しない。もし、分子サイズのフラスコ、すなわち「分子フラスコ」を使うことができれ
ば、分子の性質を自在に制御できることが期待できる。本セミナーでは、これまで研究してきた私達の分子フラスコについて、
それらの構造や性質を紹介した。
学術セミナー
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6 月 17 日(火) 第 141 回学術セミナー
小川 欽也(信越化学工業)
「フェロモンによる害虫防除:殺虫剤に依存しない農業をめざして」
"Pheromone use for insecticide-free agriculture"
1985 年に始まったフェロモンを使用した交信攪乱法による害虫防除は, 殺虫剤使用に比べていく
つかの利点をもっている。フェロモン使用は、(1)成虫のステージで実施するため比較的容易に防除
ができること、(2)農業従事者、地球環境、天敵、消費者への悪影響もないこと、(3)連年使用をして
も抵抗性の発現が問題になりにくいこと、などの理由で大いに期待された。そして、綿害虫、森林害虫、リンゴ害虫、ブドウ害
虫、モモ害虫などを中心に 2000 年までに 60 万 ha にも達した。しかしその後の普及は期待したほど、進んでいない。
本セミナーでは, 普及を阻んでいる原因について解析し,その対策を考察したい。フランスのワイン生産関係者がフェロモ
ン使用 の実施方法を改善した暁には, フランスが安全で美味なワインの製造王国としての位置を維持することができると期
待される。
6 月 23 日(月) 第 142 回学術セミナー
近藤 直教授(京都大学大学院農学研究科)
「農産物情報に基づく安心・安全な食料生産のための精密農業」
“ Food Safety and Security and Precision Agriculture Based on Agri-Product Information”
世界人口が 2045 年には 90 億人になると予測されており、その時にはアジアとアフリカの人口比率
が現在の 70%から 80%に増大する。その近未来の食料生産のためにはアジアおよびアフリカでの食
料増産のための生産技術を開発と同時に、食料生産とトレードオフの関係にある環境保全を維持す
る必要がある。その相反する問題の解決には最小の投資で最高の収量および品質の食料生産を可能とする情報に基づい
た精密農業が必須である。センシング技術、自動化技術によって得られる農産物情報は消費者のための安心・安全な食料
生産にも寄与する。
14
4 月 1 日(火) 櫻井瑠衣国際協力員着任
その他の活動
6 月 5 日(木) ECAM Strasbourg-Europe 訪問
ストラスブール郊外にある同校を訪問し、学校見学をしまし
4 月 2 日(水) 宮本博幸センター長着任
た。その後、Mathieu Grosjean 国際マネジメント部門長と面
会し、日本の大学との学生交流の可能性について意見交換
4 月 8 日(火) ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラ
を行いました。
ム水間英城次長、荒井崇同職員来会
4 月 25 日(金) 横浜国立大学片平剛戦略企画室改革推進
6 月 4 日(水) 日本学術振興会東京本部国際事業部人物
課副課長来会
交流課安原幸司主任、貴船永津子係員来会
4 月 28 日(月) フランス同窓会ヴェルサイユ地区支部会
6 月 18 日(水) フランス同窓会パリ地区支部会
ヴェルサイユ地区の同窓会員が集まり、日仏の学術交流促
パリ地区の同窓会員が集まり、日仏の学術交流促進につい
進について意見交換しました。
て意見交換しました。
5 月 2 日(金) 在ストラスブール日本国総領事館訪問
6 月 23 日(月) 日・南欧フォーラム打ち合わせ
宮本センター長就任の挨拶のため、在ストラスブール日本国
2014 年 10 月にストラスブールで開催予定のフォーラムにつ
総領事館を訪問し、長谷川晋総領事、和田潔首席領事、望
いて、打ち合わせを行いました。
月久子領事と面会しました。
出席者:Prof. Pierre Braunstein(ストラスブール大学教授、CNRS 主
任研究員)、Mme. Sandrine Garcin(ストラスブール大学職員)、中
谷陽一前センター長
5 月 5 日(月) 経済フォーラム 2015 打ち合わせ
6 月 24 日(火) 名古屋大学医学部大学院精神健康医学学
2015 年 6 月にストラスブールで開催予定のフォーラムについ
生相談総合センター古橋忠晃助教来会
て、打ち合わせを行いました。
出 席 者 : Prof. Francis Kern ( ス ト ラ ス ブ ー ル 大 学 副 学 長 ) , Dr.
Michèle Forté ( ス ト ラ ス ブ ー ル 大 学 社 会 科 学 部 講 師 ) , Prof.
Jean-Alain Héraud(ストラスブール大学応用理論経済学研究室教
授)、 Prof. Marie-Claire Lett(ストラスブール大学教授、日仏大学会
館長)、中谷前センター長
6 月 2 日(月) 在仏科学技術関係機関会合
在フランス日本国大使館池田一郎一等書記官(科学技術担
当官)のご発案により、在仏科学技術関係機関の関係者が
集まり、日仏の学術交流促進について意見交換しました。
出席者:日本原子力研究開発機構パリ事務所桜井聡所長、早川剛
所長代理、経済協力開発機構日本政府代表部釜井宏行一等書記
官、宇宙航空研究開発機構調査国際部パリ駐在事務所荒木秀二
所長
6 月 3 日(火)フランス地方協会訪問
パリにあるフランス地方協会を訪問し、オート=ノルマンディ
地方議会 Nicolas Mayer-Rossignol 議長、 Jean-Louis Zoël
オート=ノルマンディ地方経済大使と面会しました。オート=
ノルマンディ地方と日本の産学研究機関・大学との連携の可
能性について意見交換しました。
その他の活動
15
行事予定
・2014 年 10 月 17 日(金)~18 日(土)、日・南欧フォーラム「無機化学とその周
日本学術振興会ストラスブール
辺領域」(JSPS ストラスブール研究連絡センター、ストラスブール大学共催)を開
研究連絡センター
催します。日仏コーディネーターは東京工業大学穐田宗隆教授、ストラスブー
ル大学 Pierre Braunstein 教授です。プログラムや参加登録に関する情報は本セ
42a, avenue de la Forêt-Noire
ンターのホームページをご覧ください。
67000 Strasbourg France
TEL: +33 (0)3 68 85 20 17
FAX: +33 (0)3 68 85 20 14
[email protected]
表紙の写真
http://www.jsps.unistra.fr
トゥールーズのジャコバン修道院付属教会の回廊。ジャコバン修道
院とその建築群はトゥールーズ市内でも有名な建造物のひとつです。
中世南フランスにおいて台頭していた異端カタリ派を一掃するために
初めて建設されたドミニコ会の修道院です。南フランスにおけるゴシ
ック芸術の最高峰のひとつに数えられています。現在、回廊では展覧
会やコンサートなどさまざまなイベントが行われています。
センター長 宮本博幸
副センター長 久田淳子
国際協力員 櫻井瑠衣
コラム「ストラスブールと偉人たち」
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749.8.28 – 1832.3.22)
1770 年春、リラやマロニエの花が次々と咲き乱れる美しい季節に、ドイ
ツの詩人ゲーテはストラスブールへやってきました。1770 年から 1771 年
の 1 年間、ゲーテはストラスブール大学に在籍し、法学を学びました。そ
の傍らで医学にも強い関心を示し、医学部の授業にもたびたび出席してい
たそうです。現在、大学広場にはゲーテの立像があります。
21 歳のゲーテはこのアルザスの地で人生の春も謳歌します。ストラスブ
ールから約 35km 離れたセッセンハイムという村を訪ねたゲーテは、牧師
の娘フリデリーケと恋に落ちます。ゲーテは学業を終えると同時にフリデ
リーケのもとを去りますが、この出会いは詩人としてのゲーテに多大な影
響を与え、有名な抒情詩「野ばら」は彼女に贈られた詩といわれています。
櫻井
瑠衣(国際協力員
横浜国立大学)
写真(左):Place de l'Université「ゲーテ立像」
写真(中央)
:ゲーテが暮らしていた通り
写真(右):セッセンハイム「ゲーテの納屋」