PDF版560kb

名大病院かわらばん P-05
名大病院かわらばん P-04
2009年3月1日発行
通刊72号
2009年3月1日発行
予防医療部の廃止にあたり
予防医療部
丹羽
利充
1. 診療内容
疾患を予防することは21世紀医療の重要な柱となることが予想されています。予防こそ最高の治療といわれています。
予防には一次予防, 二次予防, 三次予防があり, 一次予防は
「発症予防, 健康増進」, 二次予防は
「病気の早期発見, 早期治
療」, 三次予防は
「病気の進行予防, 再発予防」
であります。三次予防は臨床医学そのものであり, 予防医療部では, 一次予防, 二次
予防を担当してきました。
予防医療部では, 一次予防としてワクチン接種, 禁煙指導, 栄養指導, 運動指導, 市民公開講座などを行ってきました。
ワクチンとし
ては, 肺炎球菌ワクチン, インフルエンザワクチン, A型肝炎ワクチン, B型肝炎ワクチン, 破傷風ワクチン, 狂犬病ワクチン, 日本脳炎ワ
クチン, 風しんワクチン, 麻しんワクチン, 水痘ワクチン, おたふくかぜワクチン, 二種(破傷風・ジフテリア)混合ワクチン, ポリオワクチン,
コレラワクチン, BCGワクチンの接種を行ってきました。
二次予防として人間ドック
(トータルヘルスチェック)
を行ってきました。人間ドックとして基本ドックの他に, 脳ドック, メタボリックシンドロー
ムドック, ダイエット指導ドック, 雇用時健診, 中国ビザ健診, 肺癌ドック, 心臓病ドック, ウイルス抗体セット, 心臓病, 胃, 腎臓・泌尿器疾
患, 糖尿病, 動脈硬化症, 高脂血症, 甲状腺疾患, アレルギー疾患, 骨密度, 腫瘍マーカー, 乳癌, 子宮癌・卵巣癌, 感染症, 性感染
症, 睡眠時無呼吸症候群などの各種オプション検査を行ってきました。
人間ドックは, 放射線部・科, 検査部, 消化器内科, 呼吸器内科, 産婦人科, 眼科など多くの診療科の協力を得て行ってきました。
あ
りがとうございました。
2.診療実績
2008年度は2007年度よりさらに6.8%増加しています。
2008年のワクチン接種は1,252件(インフルエンザワクチン500件, その他752件)
でした。1997年度から2000年度は大幸地区で,
それ以外は鶴舞地区で診療を行いました。
収益
(千円)
100,000
※2001年度 大幸地区改修工事に伴い休診
トータルヘルスチェック実績表
80,000
2,490件
64,598,045円
60,000
990件
34,407,366円
40,000
20,000
4件
169,722円
0
1995
1,631件
44,560,102円
2,505件
72,503,257円
2,465件
82,848,343円
2,030件
52,461,094円
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
年度
3.教育・研究
名古屋大学大学院医学系研究科博士課程の健康社会医学総合管理医学予防医療学に在籍した大学院生は10名で, このうち
現在5名が在籍しています。海外からの留学生が4名います。特筆すべきは, 榎本篤先生(現在は名古屋大学高等研究院特任講師)
による尿酸トランスポーターURAT1遺伝子の発見がNature(2002年)
に掲載され学位論文になったことです。
外国人研究員として, ドイツから1名, ブルガリアから2名, リトアニアから1名,中国から1名が予防医療部に在籍し共同研究を行いま
した。
予防医学講座と協力して, 基本ドック受診者を対象に, 遺伝子多型とドック検査結果との関連を検討してきました。
アルコール感受
性多型(ADH2, ALDH2), たばこ感受性多型, 炎症関連多型, 高血圧関連多型, URAT1遺伝子多型, 抗加齢遺伝子である
Klotho遺伝子多型を解析しました。他の診療科との共同研究として各種の遺伝子多型を解析しました。
予防医療部の英語論文として, 1996年30編, 1997年33編, 1998年25編, 1999年18編, 2000年21編, 2001年25編, 2002年25編,
2003年16編, 2004年10編, 2005年11編, 2006年8編, 2007年9編, 2008年10編の計241編が掲載されました。
4.予防医療部の沿革
名古屋大学医学部附属病院分院の統合に伴う改組により, 1995年4月1日に予防医療部が設置されました。発足時の教官は直江
知樹助教授(1995年11月1日〜1996年11月30日, 現在は血液内科教授), 浅田義正講師(1995年12月16日〜1998年4月15日, 現在は
浅田レディースクリニック院長)
でした。教授ポストと看護婦長ポストの純増が認められ, 下方薫教授(1996年8月16日〜2002年4月15日,
その後, 呼吸器内科教授から現在は中部大学教授)
が着任されました。直江先生が難治感染症部に移られ, 私(丹羽利充准教授,
1996年12月1日〜2009年3月31日)
が予防医療部教官となりました。浅田先生が退職され, 関戸好孝講師(1998年11月16日〜2005年3
月31日, 現在は愛知県がんセンター分子腫瘍学部部長)
が予防医療部教官となりました。2002年4月16日に下方先生が呼吸器内科
に移られたあと, 私と関戸先生で予防医療部の業務を行い, 2005年4月1日に関戸先生が愛知県がんセンターに移られてからは私が
予防医療部の業務を行いました。2004年4月1日から現在まで私が部長として勤務しております。
2009年3月31日に予防医療部が廃止されることになりました。関係する各診療科・部には大変お世話になり, ありがとうございました。
ここに厚く御礼申し上げます。
私事ながら, 2009年4月1日からは名古屋大学医学部尿毒症病態代謝学寄附講座教授として勤務しています。今後とも益々のご指
導とご支援をお願い申し上げます。
かわらばん
4
日本は「はしか」を輸出しています?(はしかを流行させないために)
野球は日本ではとても人気のあるスポーツで, リトル
小児科
伊藤
嘉規・小島
勢二
指しています 。麻しんを
リーグのレベルも高く, 世界大会での活躍も目にします。
排除するためには, 麻し
一昨年, 日本の少年が米国での世界大会中に「麻し
んの 患 者 数を現 在 の
ん」
( 一般に「はしか」
とよばれている病気は, 正式には
100分の1にして, 麻しん
「麻しん」
といいます。)になり, 現地の人や飛行機の同
のワクチンを2回うけた人
乗者にうつしたことが現地では大きな問題となりました。
がワクチンをうけるべき人
選手たちの活躍以上に, 麻しんを
「持ち込んだ」
ことが
の95パーセント以上にな
有名になってしまったのです。実は, これまでにも海外
ることなどが目安です。南
への修学旅行生が麻しんを持ち込むなどの「前科」が
北アメリカ大陸では2000
あり, 日本は「麻しんの輸出国」
として名指しで非難され
年に, お隣 の 韓 国 では
ています。麻しんがすでになくなっている米国のような国
2 0 0 6 年にすでに達 成さ
にとってはなんとも迷惑な話であることは容易に理解で
れていますが, 日本は2012年に間に合うのかとても心
きます。
細い状況です。
伊藤
嘉規
麻しんは麻しんウイルスによって生じる病気で, 10日
昨年全国で最も麻しん患者が多かったのは神奈川
間を越えるほどの高熱や咳, 全身にひろがる発しん
(赤
県で, 約3,500人でした。
ここ愛知県では約200人でし
いぶつぶつ)
などの激しい症状が特徴です。麻しんはこ
た。今年は(この原稿を書いている時点で)愛知県は
のように「重い」病気で, 肺炎や脳炎をおこした場合に
神奈川県についで全国で2番目に多くなっています。麻
は命に関わります。
これが, 古くから
「命定め」の病気と
しんは春から夏にかけて流行しますので私たちのまわり
して知られている所以です。
さらに, 麻しんは非常に感
で麻しんが流行しないか注意することが必要です。み
染力が強く, 例えば, 体育館の様な広い場所でも, 麻し
なさまのまわりで, 麻しんのワクチンを受け忘れている方
んの人が一人いるとそこにいる多くの人たちにうつるほ
(特に中学1年生と高校3年生の方)がお見えでしたら
どです。
この麻しんを治す特効薬はありません。
しかし,
198件
169件
164件
122件
109件
6,476,593円 7,745,028円
4,519,726円 5, 222,759円 6,349,593円
1996
健康講座
通刊72号
ぜひワクチンを受けるようにおすすめ下さい。
現在, 私たちがあまり麻しんをおそれることなく生活でき
るのはなぜでしょうか。それは効果の高いワクチンがあ
るからです。
ワクチンがしっかりと使われている国では,
すでに麻しんは過去の病気になっています。麻しんのワ
クチンを接種すると, 95%の人が麻しんにかかりにくくな
ります。
しかし, このワクチンをうけた人の一部は免疫が
ない状態のまま残ることと, ワクチンをうけて麻しんにか
かりにくくなった人で, 何年かすると免疫が弱くなる人が
いるため, 全体で95%の人がワクチンをうけていないと
麻しんの流行はなくならないと考えられています。
日本で
は, ワクチンをうけた人の割合はまだ十分でなく, 昨年も
1万人以上の方が麻しんにかかっています。
こうした状況を改善しようと, 2006年から麻しん風しん
ワクチンを2回うける
(1歳児と小学校入学前一年間の
幼児)
ことになり, 昨年からは, 中学校1年生と高校3年
生に定期接種(積極的に勧める対象, 無料でうけるこ
とができる)の機会をつくることになりました。
しかし, 中
学生や高校生にうけてもらうのは容易ではなく, 名古屋
市では昨年6月30日までの集計でワクチンをうけた中学
校1年生は18.5%, 高校3年生は18.6%となっています。
現在, 日本は2012年までに
「麻しんを排除する」
ことを目
かわらばん
5