伝賀茂真淵撰﹃源氏物語十二月絵料﹄︵翻刻︶

伝賀茂真淵撰﹃源氏物語十二月絵料﹄︵翻刻︶
仮名の﹁に﹂︵字母﹁示しとも読める。写した人が書き誤りに
① 底本の異体字・旧字体・略体は、通常の字体に改めた。
気づき﹁て﹂に直したと判断して、訂正後の本文のみ翻刻した。
源氏物語の中から十二ヶ月の絵になる場面を、賀茂真淵が選び出
当該学生は、次の通りである。
② 適宜、句読点を付けた。
清田康晃 浅田磨央 篠原三穂 芳賀理紗 飯塚智絵
二、書いた文字を擦り消したり、消さずに重ね書きしたりした箇所
したと伝える﹃源氏物語十二月絵料﹄︵埼玉県川越市立中央図書館
正成由美子 小堀奈穂 林真帆 夏秋まどか
はない。
③ 誤写かと思われる箇所には、右側行間に︵ママ︶と記した。
凡例
三、月の初めに付けられた○印は、朱で記されている。
蔵︶を、全文翻刻する。参考までに、巻頭と巻末の写真を掲載する。
一、翻刻は原文のままを原則とし、誤字・脱字・当て字・仮名遣い
四、朱筆で書かれた文字は、一箇所だけある。それは九月・関屋の
① 見せ消ちは二箇所あり、末尾の践文にあるのは、そのまま翻
等も底本の通りにしたが、読解や印刷の便宜を考慮して次の操作
巻の解説文で、﹁車をかきおろして﹂の﹁ろ﹂を朱で消して、右
翻刻および写真の掲載を許可していただいた当局に厚く御礼申し上
を行った。
八二
刻しか。もう一箇所は九月・関屋の巻の解説文にあり、﹁石山
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げる。なお解題は、本誌の次号に収める。
健
にまうて給はんと口﹂の口の箇所は、踊り字の﹁ことも、平
坪
本作品は岩坪ゼミで輪読し、担当者が翻刻をパソコンで入力した。
岩
巻頭
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横に﹁ろ﹂を朱書している。これは墨筆の﹁ろ﹂が判読しにくか
ったからであろう。
源氏物語十二月絵料
○正月
八二
詞に云、いとうらさかなるに、いつしかとかすみわたれる木すゑと
もの心もとなき中にも、梅はけしきはみほさぶみわたれる、とりわ
きて見ゆ。階かくしのもとの紅梅いとぅx’、さく花にて色つきにけ
右の詞のうち、霞みわたれる梢のありさま、又、白梅のっぽみ
たる、又、はや咲きの紅梅のありさまなとあるへし。又、はし
かくしのさまなと、かきやうあらんか。
又。
初子
あかしの姫君の御かたにて、わらは、しもっかへなと、おまへ
の山に小松引きあそふ所。姫君のさま、女房あまたさふらふ所。
源氏の君の居たまふさまも有へし。ひけ寵、わりこなと、もて
来たれるさま。っくりものふ写をすゑたる五葉の枝に、文をっ
けたる所なと有へし。
○二月
源氏の君、須麻に居給ふさま、海のけしきなと有へし。又、都
二条院にて紫の上のひよなあそひし給ふ所。源氏の君の鏡にむ
詞に云、二月廿日あまり、いにし年、京をわかれしとき云々。南殿
物かたりし給ふさまあるへし。
よ旦二位中将、来給へる事、此つまさに有。中将と源氏の君と
かひ給ひて鼻に、へにをつけてたはれ給ふ事なと有
末つむ花
り
此時、初瀬にまうて給はむとて、宇治の八の宮の所によらせ給
詞に云、きさらきのはつかの程に兵部卿宮、初瀬にまうて給ふ云々。
椎か本
又、
此前の詞に、わかきの桜の咲初てと有。
の桜は、さかり・になりぬらん云々。
たあるへし。
へいし、かはらけ、らいしなとやうのもの、とり・ならへたるか
とひ給ひて、源氏の君をむかへる所也。をしき、ついかさね、
こゝは右大臣の家にて、弓のけちにて、上達部、みこたち、つ
詞に云、やよひのはつかあまり云々。やかて藤の花宴し給ふ云々。
花宴
八の宮の家居は、あしろの屏風、萱か軒なと、事そきたるさま
水影云々。
そむるなと、いろくみわたさるゝに、河そひ柳のおきふしなひく
又、詞に、はるくと霞わたれる空に、ちるさくらあれは今ひらけ
柳もいたうしたりて、ついちもさはらねば、みたれふしたり云々。
詞に云、おほきなる松に藤の咲かゝり・て、月影になひきたる云々。
源氏の君、常陸宮をとひ給ふ所。
蓬生
○四月
へる也。宇治のけしきを書へし。
なるへし。
御さきの露を馬のむちして、はらひつゝいれたてまつる云々。
あふひ
又、
胡蝶
六条の御息所の車あらそひの所。ここはがきやうにて、おもし
○三月
むらさきの上の春のおまへより、秋好の中宮の御方へ、わらは
ろく侍るへし。
○五月
はヽき木
八三
に蝶鳥の舞の装束させて、桜、山吹をかめにさして、もたせて
奉り給ひし事、有。此所に、やよひのはつかあまりの頃とあり。
こゝはさまく書事あるへし。
又。
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花ちる里
又、
台なと、源氏の君のおまへのかたに有へし。
をへたてへ空蝉のあり・さまをも書へし。酒、さがな?こ、灯
の兄弟、又、小君なとゝおほしきわらは、三四人、有へし。簾
蛍とひちかひたるなとあれは、それらのさまを書へし。紀の守
こ心雨夜のものかたりのつよさにて五月也。詞に、やり水の事、
源氏の君、方違にて、紀の守か中川の宿にやとり給へる所。こ
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六月の絵には、蓮のありさまかぅんも、よく侍るへし。
又、池の蓮の花のさかりの事、わかなにも、まほろしにもあり。
このあゆ、石ふしなと、てうするさまなと、書やうあるへし。
るしけに聞ゆれは、水の上むとくなるけふのあつかはしさかなと有。
の、おまへにて、てうしまゐらす云々。せみのこゑなとも、いとく
詞に云、にし川よりたてまつれるあゆ、ちかき川の石ふしやうのも
六条院の東の釣殿にて人々、逍遥し給ふ所。
常夏
八四
詞に、さみたれの空、めつらしう晴たる雲まに云々。さゝやかなる
家のこたち、よしはめるに、よくなることをあつまにしらへて云々。 ○七月
詞に云、秋になりぬ。初風すーレく吹出て云々。夕月夜はとくいり
かゝり火
の君の車とIめ給へるさま、空には郭公の鳴て、すくるかた
て、すこし雲かくるゝけしき、をきのおとも、やうくぁはれなる
こゝは中川の女の家のまへを、源氏の君のすき給ふ所也。源氏
あるへし。
ほとになりけり。御ことを枕にて、もろともにそひふし給へり云々。
けれと云々とあれは、こゝは六月の事也。
此つよさの文に、さ月のころほひより物し給ひし人なんあるへ
夕顔の宿のまへに、源氏の君の車とぐの給へる所。
夕顔
明石
又、
るやう、書やうあるへし。池にかゝり火のありさまを書へし。
こゝは源氏の君と玉かつらの君と、ことを枕にてそひふし給へ
ふをめして、ともしつけさせ給ふ。
おまへのかゝり火のすこしきえかたなるを、御ともなる右近のたい
又、
○
六
月
此つまさに、七月廿よ日のほとに、又かさねて京へかへり給ふ
ちにて、狩衣すかたにて、御ともつかうまつるさまを書へし。
こゝは源氏の君、直衣にて、月毛の駒にのり・たまひ、惟光、か
月毛の駒よわかこふる雲ゐにかけれときのまも見む
て給ふ。惟光なとはかりを、さふらはせ給ふ云々。歌に、秋のよの
詞に云、十三日の月、はなやかにさしいてたる云々。御馬にて、い
源氏の君、をかへの宿をとひ給ふ所。
有。これも書やうあるへし。
あれたる家の月なと、もりたるを、めつらしとおほしたる事、
夕顔には、八月十五夜、夕顔のやとに源氏の君のやとり給ひて、
る事なと有。八月の絵には、これなとも書やうあらんか。又、
中の君にみせ給ひし事あり。其あさかほを、扇の上にのせ給へ
又、宿木に、八月はかり源中廸言の君の、あさかほの花を折て、
なるに、山里のありさまのいとゆかしけれは云々。
詞に云、八月中の十日ばかりなれは、野へのけしきも、をかしき頃
○九月
へきせんしくたり云々とあれは、この十三日の月は七月の十三
日也。
夕霧大将、小野にゆき給ふ所。山里のけしき秋草のやうなと、
夕霧
又。
と書やうあるへし。
夕霧の君の、紫の上をひそかにかいまみ給へる事あり。これな
野分吹いてへそれをあらしたる所。野分の吹たるによりて、
秋好の中宮のおまへに、色々の秋草をうゑさせ給へるを、八月、
野分
又。
こ`と、有へし。
杉の下に車をかきおろして、とこまれる也。こゝはさまく書
空蝉は常陸より・のほるほとにて、あふ坂の関にて行あひ奉りて、
此所は、源氏の君は石山にまうて給はんとて、いてたち給ふに、
さるかたにをかしう見ゆ。
かたともの、色々のあをのつきくしきぬひもの、くゝりのさまも、
むらくをかしうみえわたる、関屋より、さとくつれいてたる旅す
詞に云、九月つこもりなれは、紅葉の色々こきませ、霜かれの草、
関屋
さまく書やうあるへし。
八五
○八月
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まゐらせ給ふ所。
秋好の中宮より紫の上の御かたへ、紅葉、秋の花なとをつみて。
をとめ
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る所なとをかこ吠めつらしく侍らんか。
青海波まひ給ふ所は常にかきなれたれは、此かさしをさしかふ
将さしかへ給ふ云々。
八六
はのうすもの、かさみ、いといたうなれて、らう、わたとの;てり
なるわらはの、こきあこめ、しをんのおり・ものかさねて、あかくち
色々の花もみちをこきませて、こなたに奉らせ給へり・。おほきやか
えもいはすおもしろし。風うちふきたる夕くれに、御はこのふたに
詞に云、冬になりゆくまゝに川つらのすまひ、いと心ほそさまさり
君なとを書へし。
大井の里の冬のすまひのありさま、明石の上、入道の北方、姫
薄雲
○十一月
詞に云、なか月になれは、もみちむらく色つきて、宮のおまへ、
はしをわたりてまゐる云々。
所。
朱雀院に行幸ありて、源氏の君と頭中将と、青海波をまひ給ふ
もみちの賀
又、
とひく所なと有へし。
るやうなと、殿上人の笛をふくさま、すたれのうちにて女のこ
木枯の女の宿に、殿上人の来たりたる所。残りの菊、紅葉のち
はよさ木
○十月
らしかるへし。
此青摺は新嘗会の時の小忌衣也。此ありさまなと、絵にはめつ
けにめやすくて云々。
の頭中将、蔵人の少将なと、をみにて、青すり・のすかたとも、きよ
大将とのよ石たち、わらは殿上し給ひてまゐり給へり云々。御をち
詞に云、五せちなといひて、そこはかとなく今めかしけなるころ、
まほろし
又、
あれは、はしめは十一月也。
此つまさに、うちなきっよ9くすほとに、しはすにもなりぬと
て云々。
に云、かさしの紅葉ちりすきて云々。おまへなる菊をゝりて左大
詞
○十二月
あさかお
雪まろめする所。こゝは常にかきなれたれは、絵の料にはい
よき所也。
又、
玉かつら
年のくれにかたくへ、きぬをくはり給ふ事あり。源氏の君と
紫の上と、きぬの色合なと、さため給ふ所。このくはり給ふき
ぬなと、書やうあるへし。
詞に云、としのくれに御しつらひのこと、人々の御さうそく、やむ
ことなき御つらにおほしおきてたり云々。
又、行幸に、大原野のみゆきの事、有。又、まほろしに、御仏
名の事ありて導師に盃をたまふ事あり。これらなとも十二月の
絵によく侍るへし。
蒜居翁、伊勢物語、源氏物語ともの絵の料とて、おけ
くかきおかれたるあり。又さらに源氏物語のうちにて、
十二月の絵料かき出られたるは、屏風絵なとかぐんだ
めにとの心しらひにおはんけんかし。あな、みやひの
心すさひや。
伝賀茂真淵撰﹃源氏物語十二月絵料﹄︵翻刻︶
演臣
と
巻末
八七