1 村上泰亮『反古典の政治経済学』上・下(1992 ) 第一章 思想の解体する

 村上泰亮『反古典の政治経済学』上・下(1992 ) 2000.11.29
ソフトパワー班(1 ・2 ・3 ・5 ・7 章)/メタ班(8・9・10・11・12章)
第一章 思想の解体する時 上杉 諭司
第一節
思想の世紀末
・20 世紀末は、人々が思想をもてなくなった時代
この「思想」とは何か
「思想」=最も広い意味での「反省」。これなしには社会は成立しない。
人間は一貫した筋道を追及するが、制度が豊かさと安全を保障する現代の高度大衆消費社会
では、人々は一貫性の追求を放棄しようとし、それを互いに許し合おうとしている。
⇒「感性の時代」の到来 but これは未来からの逃避であり、思想の喪失を償いはしない。
●保守と進歩の対立
・近代以降の観念。これらは近代史の中で二転三転し、人々の理解を混乱させた。
⇒対話を含んだ、社会民主主義的政策に対して積極的か消極的かというような対立の穏健化
が、政治対立の構造を安定化させ、戦後西側世界の繁栄に寄与した。このような思想の対立は、
東側の共産主義国では許されなかった。
・マンハイム・・・保守主義的姿勢は近代特有の進歩思想に対する反作用
進歩主義−ひたすらに高次の法則や理念を追求しようとする姿勢 (超越論型の反省)
保守主義−常に具体的な生活世界やその歴史に照合しようとする姿勢 (解釈論型の反省)
しかし、その背後には、より基礎的な人間の心的姿勢の差が潜んでいる。
⇒ここでいう「反省」=世界の再解釈→人間の武器であり、重荷である。人間はこの重荷
から抜け出せず、それと共に進歩・保守両主義は永遠に残る。
第二節
自由の再定義
・思想の自由主義・・・反省や批判といった人間特有の特性の発揮に対して障害がないこと。
・行動の自由主義・・・人間の欲求の充足行為に対して障害のないこと。
(消極的自由)
⇒普通言われているのは「行動の自由主義」
これは、人間の欲求の充足行為が何の抑制もなしに自由放任されるとき、互いに他人を傷つける
可能性が高いというジレンマが含まれる。
⇒行動の自由の理念 二次元的構成は避けられない。
イデア・平等・幸福などの行動を超えた抑制理念
・行動の自由は、あくまで現実の平面への思想の自由の投影。この自由は、他の価値によって制
約され、どこまでも後退しかねない。
⇒自由論の原点は、反省の自由、思想の自由の問題に置かれなければならない。
⇒人間にとっては、この思想の自由の領域の確保が常に最大の関心事
・人間の抱くイメージ・・・自我(思想・反省)
、身体、他者が不可欠な要素。
⇒人間の行動の能動性(行動の自由)は、不断に解釈される世界(他人を含む)のイメー
ジへの適応の試み。
・しかし、行動と反省、あるいは行動と思想は、重複する部分はあるにしても同じではない。
第三節
三つの問題軸
1
・保守主義や進歩主義が今後取り組まなければならない問題・・・・・産業化と国民国家のあり方
・これらの問題軸は、人間のイメージする世界が、事物(自然)、他人、自分(自我)という要素から
構成されていることを念頭に置いており、これから以下の図式が浮かび上がる。
産業主義⇔反産業主義
ナショナリズム⇔インターナショナリズム
経済的自由⇔経済的平等
しかし、この図式は現時点での課題のニュアンスを十分に捉えきっていない。そこで、テーゼ・
アンチテーゼを超えたジンテーゼ型の概念を取り入れ、以下のように考える。
〔スーパー産業主義⇔反産業主義〕⇔トランス産業主義
〔ナショナリズム⇔インターナショナリズム〕⇔トランスナショナリズム
〔経済的自由⇔経済的平等〕⇔より広い意味の自由
この問題軸が示す様々な選択の可能性の中で、進歩主義と保守主義は位置付けは?
①「進歩」という概念の克服ないし高次化が基本テーマ
⇒この変化の中心は、思想の対立図式の消滅にあるのではない。
②単純な一方向の選択は取りえないだろう。
第二章
産業化からトランス産業化へ
第一節 スーパー産業化と反産業化
●産業化・・・機械・エネルギー・情報の質的深化と量的拡大。
⇒これは「自然」を人間の役に立つように、平均的人間が自然の把握・操作・改変を推進す
るという人間中心的な思想。
「スーパー産業化」もこの「産業化」の流れの上にある。質
的深化・量的拡大を止める制度や思想は今のところ存在しないが、エネルギー消費や環境
汚染の問題が浮上。
●反産業化・・・産業化の論理を拒否
⇒環境主義 社会工学的な環境主義・・・・・人間中心的な産業化の論理に発する
技術ペシミズムに基づく環境主義 反産業主義ではない
・両者は思想としての強さはない。真の反産業化の思想を完成させるためには、世界全体に関わ
る価値の中に人間の価値が包摂され、人間中心主義は王座から降りなければならない。
・反産業主義の考え方は、自然のホメオスタシス・バランス、調和が秩序の原型
but 「自然」とは、人間が得手勝手に見た自然であり、狩猟・農業・産業社会のなど各段階に
応じて取られてきた人間の解釈。人間も「自然」の一部であることは否定できない。
これらの考え方があるが、反産業化を導く思想の到来には多くの困難がある。
第二節
トランス産業化
・将来、産業化は抑制の方向性に向かわざるを得ないだろうが、現時点の主流派は近代科学を含み、
人間中心主義を含んだスーパー産業化である。
⇒これにブレーキかける状態を築き上げるまでの過程を合理的進歩の形で描くことはできな
い。今後は、広い意味での保守と進歩の対立の図式が生まれるだろう。
(保守主義が主導権を握
り、進歩主義が常に異議を唱える)
2
第三章 ナショナリズムとトランスナショナリズム 土田真紀子
第一節
ナショナリズム
・
「脱正戦論の定理」…複数の正義(国民国家システム)の並存を維持
代表となる特徴は BOP、合法的戦争.また、対照的なのは「帝国」におけ
る「正戦論的システム」
(単数の正義ないし秩序を認める)
・
ウェストファリア以降成立した欧州の「古典的ナショナリズム」の持つ条件
①
・
国民国家そのものの存在 ② 国民国家システムの存在
ナショナリズムの区別
システム的ナショナリズム(古典的、ヨーロッパ的、条①②を満たす)
素朴なナショナリズム(しばしば反発的、非ヨーロッパ的、条件①のみ)
・
3 つの局面
第一期 ウェストファリア条約∼18c 末…私闘の激化避けるため国際法が登場
第二期 ナポレオン戦争∼第一次大戦…脱正戦論の黄金期、
しかし 19c 後半には技術革新で BOP 崩壊
第三期 戦間期…民族自決原則でダブルスタンダード(=文明の正義)崩壊、
植民地では「反発的ナショナリズム」が育つ
・ 第二次世界大戦の意味…古典的脱正戦論に代わり「反文明(ファシズム)に対
する正義の戦い」という論理が持ち出される
第二節
トランスナショナリズム
インターナショナリズムをトランスした(乗り越えた)もの、
ある意味国家を否定するがアナーキーではない.世界国家が必要
・世界国家形成のために乗り越えるべき境界
①国境(領土性)②目に見えない国境(文化的個性)
・a「正戦論型」世界国家論と、b「平和論型」世界国家論
a:冷戦(正戦論)が戦後の相対的な平和を維持してきた一部分
→冷戦崩壊でその平和が崩れる可能性
b:それを成立させるための世界的な思想・理念が未熟
第三節
トランスナショナリズムに対する流れと障害
トランスナショナリズムが国民国家に代わるには現実的な誘因条件が必要
・19cまでナショナリズムし産業化(経済的自由主義)と調和
・経済的ボーダレス化
1.
企業の多国籍化が進み、本国の利益に反する行動をとる
→経済的な意味での国境の消滅
2.
国家は国境外での権益を持つ
→その領土性は象徴的な役割を果たしてきたため用意に変化しない
3.
戦後世界における相互依存関係の加速的進行
→国民国家の建前を崩さない実行可能な手段として最もたやすい
・文化的ボーダレス化
情報の共有→必ずしも解釈の共有、もしくは知恵・知識の伝達につながらない
3
第五章 古典的観念の終焉 香月太郎
第一節 2つのダイナミックス
・「産業化」と「ナショナリズム」は自らを破壊する因子を生み出しつつある
Ⅰ「古典的ナショナリズムの衰退」
領土国家から通商国家へ/古典的な「国民国家システム」の衰退
Ⅱ「古典的な経済自由主義の機能不全」
スーパー産業化→開発主義 developmentalism の登場
第二節
国民国家システムの衰退 ―古典的ナショナリズムの終焉―
[戦間期の三つ巴状況]
[戦後期の三層構造]
① 国際連盟的な脱正戦論┬→国際連合的な脱正戦論→機能不全
├→①米ソ冷戦の正戦論…仮想的に対する軍事同盟
└→②集団安全保障同盟内の脱正戦論…武力非行使制約
② 「持たざる国」の正戦論 →破綻
③ 反植民地主義の正戦論 →③新興独立国家の正戦論…民族自決
・冷戦終了の意味=安定的システムとしての米ソ冷戦的正戦論の消滅
「新しい南北問題」…先発国の現状維持指向と後発国の自己主張の正面衝突
「新しい東西問題」…先発諸国間のコンセンサスの不一致
● ナショナリズムの今後のダイナミックスの3つの選択肢
(1) 単数の正義の世界の再建
(パックス・アメリカーナの再現)
(2) 複数の正義のシステム 第1類 (国民国家システムの拡張、国連中心主義)
(3) 複数の正義のシステム 第2類 (国民国家間グループ主義ないしその複合体)
第三節
通商国家化 ―媒介的現象―
・相対的平和と自由貿易体制→国際市場の相対的意味の増大
・集団安全保障体制の定着、半植民地主義の普及/通商国家型開発主義
→通商国家 trading state 化
→「安全保障=通商グループ」主義
* 通商国家化の負の副産物…「取り残されたナショナリズム」の主張
第四節
産業化の拡散
◎ スーパー産業化は後発国の経済発展を促進するのか、阻害するのか?
スーパー産業化
①量的拡大…ボーダーレス・エコノミーの傾向
資本流動性/企業の多国籍化/環境破壊の規模拡大
→領土国家主義との摩擦、各国社会特有の制度との衝突
②質的拡大…情報化
フレキシブル生産システムへ、民衆の政治的判断への影響
・①②の相乗効果=「技術のボーダーレス化」
先発国から後発国への技術伝播の加速化、対処の仕方により政治経済体制も変化
4
・産業化のパターン
古典的経済自由主義…民主化→産業化(欧米)
開発主義
…産業化→民主化(日本、NIES)
* 長期的視点で見れば、産業化と政治的民主化は互いに手を携えて進んできたのであり、その
間の手順前後をとがめる事に大きな意味はない
第五節
多元史観へ ―産業化概念の再反省―
・近代の単系史観=一定の社会への収束を予想する進歩史観/唯一の大きな力が歴史を動かして
いるという「一元史観」
→「単一要因優越説」:社会のある特定の側面が原因となり、他のすべての側面が結果となる…
近代の経済的要因偏重主義
⇒歴史現象を詳しく見れば、社会の各側面の動きは独立である
社会変容は多元的な波として現れる
* 一元史観の破綻例としてのイギリス…第6章
第七章 費用逓減の経済学 福田綾子
第一節
開発主義における政治と経済
・前章までから得られる結論 ①資本主義と産業化は区別すべき
②産業化には、古典的な経済自由主義と開発主義の2形態ある
⇒古典的な政経分離の観念を捨てる必要。
前近代社会 ―→ 産業化 資本主義的産業化 ―→ 民主化
議会民主制は不向き=開発主義が有利 経済面では開発主義・政治面では議会民主
政
・議会民主政と開発主義の両立の条件:官僚制が柔軟かつ中立であること
第二節
新古典派的な費用逓減分析―幼稚産業論批判―
・限界費用逓減の命題(←→限界費用逓増の法則 )
↑ ・実証的根拠ナシ
・実際の産業・企業行動にはほとんど見られない
・産業化=マクロ的に見た一人あたり生産性の向上
・マーシャルの問題=費用逓減下の競争の謎
・「生産関数」=理想化された分析概念
資本設備が一定→短期生産関数…実際企業の行動が当てはまる可能性あり
資本設備が可変→長期生産関数… 可能性なし
:::実質的な意味を持つのは、投資のタイミング・技術変化等を考慮した概念、
「長期生産
軌跡」
・幼稚産業論の批判
*幼稚産業とは:生産水準を(何らかの政府介入によって)ある最小限の水準まで引き上げ
てやれば、供給関数(限界費用関数)が下方にシフトして、世界市場で競
争できるようになる産業
5
政府による限界費用関数のシフト=事後的な費用逓減にすぎない
第三節
幼稚産業に代わるもの
Ⅰ.新古典派的な長期生産関数分析
・長期費用逓減産業
①企業がたどるのは、長期平均費用軌跡であって、長期平均費用曲線ではない。
②利潤極大行動は市場シェア極大行動の形をとり、独占や共謀的寡占に向かう価格引き下
げ競争が引き起こされる。→産業の崩壊
過当競争 妥当競争
シェア競争に走り、妥協・強調の可能性が小さい…→独占・寡占へ
③政府の介入の目的:自殺的価格競争の抑制(政府主導の一種の価格カルテル)
Ⅱ.その他の幼稚産業論の試み
・実行による学習理論…「学習カーブ」現象の理論化
・マーシャルの外部経済の理論…労働力の質の一般的向上、物的環境の整備
第四節
費用逓減の反古典的分析
重要なテーマ:①技術革新…理論的革新から応用的革新まで様々。常に組織革新を行う。
→応用型革新の拡大は、予測可能性を高める。
→内生化された技術革新は経営的意思決定の中に繰り込まれ、経営者
の
思い描く「限界費用軌跡」に反映される。
②不確実性…第2次産業革命以来の技術革新の連続的・恒常的流れを、単なる
与
件として処理することはできない。
→経営者は、実際、不確実性をいかに予測して投資するかにかかっている。
技術進歩が予測可能である証拠…企業が R&D 投資を活発に行っているという事実
→技術伝播に基づく「費用逓減の経済学」を考えざるを得ない。
・マーシャル問題再考
*長期的意思決定
技術:創造型→応用型
所有と経営の分離
→短期的意思決定によって維持されてきた市場の存続を危うくしている
→後発国における表れ…長期的視野の資本主義=開発主義
・産業政策の必要性:条件:費用逓減状況、経済的意思決定の視野の長期化
目的:競争維持
第八章 「システムとしての開発主義」 前田 信太朗
第一節 産業政策
■ 「産業政策」の定義
特定の費用逓減的産業における適切な競争状態の維持が目標となる政策。
■ 「産業政策」の哲学
6
費用低減という潜在的な成長能力を有している産業において、競争的な環境を維持しようとす
る政策。つまり、競争の持つ動機付けの力を生かそうとする政策。
→理念的には「反計画経済的」でなければならない。
■ 「産業政策」の政策手段
【「産業政策」の不可欠な構成要素】
①重点産業の指定(targetting)
②産業別指示計画
③技術進歩の促進
④価格の過当競争の規制
【場合によっては必要な補助的政策】
⑤保護主義政策
⑥補助金政策
【基本的には不必要な政策】
⑦投資競争の規制
⑧金融部門の統制
⑨参入規制
■ 「産業政策」の理想型の要素
①重点産業ごとの指示的計画
②技術革新の促進
③価格や投資における過当競争の抑制
→根幹には、重点産業ごとの「仕切られた競争」の体制の維持。
第二節 開発主義の政策体系
■ 「開発主義」の政策体系---8 つの制度的要請
①資本主義原則(i. 私有財産制、ii. 市場競争原則)
②産業政策
③輸出振興政策(=輸出に適した産業の指定)
④中小企業育成政策
⑤分配平等化政策
⑥農民に対する平等化政策
⑦教育政策
⑧公平で有能でネポティズムを超えた近代的官僚制
■ 開発主義の基本的骨格
①「開発主義」→費用逓減下における資本主義の一様態。≠計画経済。
②費用逓減下の抑制なき資本主義→極度にダイナミックであると同時にリスクが高い→「産業
政策」によるリスクの抑制=過当競争の維持・多占状況の維持という目標。
③「分配主義」も、開発主義の実行から生まれる派生的な混乱のリスクの回避を目的とする。
④中立的で有能な官僚制の存在が不可欠。
第三節 非開発主義的な失敗例
■ ラテンアメリカの失敗の原因
7
第一次産品輸出重視+輸入代替工業化の方針を切り替えなかったこと。
=技術革新や需要の世界的・長期的な動向を軽視して「静学的な比較優位基準」に従ったこと。
→「開発主義」を採用しなかったこと。
■ ラテンアメリカとアジア NIES の比較
古典的な自由主義的経済政策を採ったラテンアメリカ→長期的に見て失敗。
開発主義的政策を採ったアジア NIES→長期的に見て成功。
第四節 開発主義と古典的な経済自由主義
■ 開発主義と古典的な経済自由主義の異質性
古典的な経済自由主義→経済を均衡論的・静学的な視点からしか見ていない。
開発主義→技術革新を含んだ産業化という動学的な視点から経済を捉えようとする。
■ 開発主義の抱える二つの問題点
①大衆民主主義化への傾向
②官僚制の硬直化=個別産業と担当省庁の癒着
第九章 国際経済の多相化 寺本邦仁子
第一節 開発主義の国際的含意
*開発主義が世界経済全体に与える影響
①国際通貨制度
②海外援助・海外投資 国際公共財の問題
③先端企業についての産業組織論的問題
*古典的な自由経済モデルの問題点
①恒常的・連続的な技術革新と意思決定の長期化による自由主義経済の様相の複雑
化
②産業化の拡散と通商国家化が生み出す貨幣・金融・投資の問題
*パックス・アメリカーナ
・西側社会の政治経済の安定化→通商国家化・開発主義=産業化の拡散
経済大位置主義の後発国の驚異的成長
第二節 国際公共財の再検討1 −国際通貨−
●貿易の拡大は基本的に望ましい
*国際公共財[国際通貨・後発国援助]の必要性
・国際通貨−計算単位・支払手段・蓄積手段
貨幣の実質価値の普遍性
→公共財=貨幣価値維持のための制度
*通貨価値の安定性→変動相場制では失格
①貿易縮小効果−不確実性増大の下では貿易に関する長期的な経営への意欲減退→経
営視野の短期化
②市場の安定化効果−企業経営の視野短期化により費用逓減傾向の生み出す市場の不
安定性がやわらげられる
8
③篩い分け効果−輸出への「血気」の有無で企業と国家を区別
☆通商国家と古典的経済自由主義国とのコントラストを明確にしている
☆技術革新の拡張効果と変動為替レート制のもたらす縮小効果・安全化効果が綱引き
をしている状態
*国際通貨量のコントロール
・理論モデルとしての変動相場制
−為替レートの変動を犠牲にする代わりに国際通貨量のコントロ
ールという問題を消滅させる
→実際には為替レートの大幅な変動は容認できない
・為替相場制下では輸出入に歪みが生じる
−資本不足国では為替レートが輸出に不利・輸入に有利に働く
・変動相場制の構造的問題
−資本過不足の偏在が激しいと不均衡をさらに強める
→格差を持続するメカニズムを内在している
①資金の過不足を起こさないような国内政策
②中心的先進国の資本供給の責任
第三節 国際公共財の再検討2 −海外投資および援助−
*開発主義的経済−産業内過当競争・産業間の成長の不均一性・資金の格差
→費用逓減産業によって牽引される成長経済に固有な特徴
古典的競争では解決できない
⇒停滞地域・産業に対する援助や保護が不可欠
●国際システムの安定のためには新しい制度・レジームが必要
→経済的利害の衝突の調整(国際的分配)
*国際公共財・分配−財ではなくレジーム・ルールであり理解という名の共約性の追求
分配は結果の平等ではなく機会の平等を目指す
第四節 国際的産業政策の可能性
*世界経済における重要なテーマ
国家間にまたがる先端産業のあり方の問題/開発主義国への対応の問題
*古典的な理解に対する注意
①「新保護主義」と「保護主義」は単純に同一視できない
②日本やアジア NIES による輸出はカルテルや優遇措置に支えられているわけではな
い
⇒世界的な開発主義に対応するには世界的な産業政策が必要
*変動為替レート制下の国際システム維持の為の条件
①各国(特に主要国)が資金の過不足を起こさないこと
②主要国に対して必要であれば投資が行われる事
③開発途上国に対して技術移転を伴う対外投資ないし援助が行われる事
9
*多目的(polymorphic) なシステム
・国民国家に関する従来の観念の克服が新しいルール作りの為に必要
・複数の行為の形の共存を認める必要性
第十章 新しい国際システムのシナリオ ―多相的な自由主義のルール―
第一節 ナショナリズムの経験の再検討
*ナショナリズムの3つの波
①第 1 次大戦後の東欧中央における独立国の誕生
→国際連盟という「修正された国家システム」に支持されることを期待
⇒ヴェルサイユ体制的幻想の保持
②第 2 次大戦後の全世界にわたる植民地の独立
→東西冷戦体制に支えられた
⇒植民地主義からの性急な脱却を図る
③社会主義連邦内の共和国や衛生国の自立の試み
→文化面でのアイデンティティの要求
⇒国民国家のそれに準ずる政治的経験・制度的実績の蓄積
新しい共和国連合への含み
第二節 ナショナリズムを引き継ぐもの
●文化的共同体 natio 同士の対立に対処するアプローチ
*正義(正戦論)のアプローチ(超越論的)
全ての natio のもつ世界イメージを普遍的正義に従わせて等質化しようとする
⇒文化の共有化
←コミュニケーション活動の高まり
*ルール(脱正戦論)のアプローチ(解釈学的)
全ての natio の独自性を認めた上で共約可能性を探り共通のルールの追求を図る
⇒文化の共約可能性⇔文化の共有可能性→共約可能性の限界の存在
国連の限界⇒地域的安全保障同盟の有用性
第三節 地域的安全保障同盟の可能性
*『ルールのアプローチ』の趣旨を投影した国際システム
①実際性−安全保障や経済面での紛争を調整し解決する実践的なルールの提供
②多元性−各々の文化圏の natio の個性が公認される事
③開放性−各々の文化間でミニマムな共約可能性の増大が促進されるような配慮
*国連のルールに実効性がないときの可変の方向
①より狭い国家連合あるいは協力の作成
②解決すべき問題を重点的に限定する
⇒地域的集団安全保障同盟の形成へ
*地域的集団安全保障同盟の要件
10
①安保理・総会のような二重構造の廃止/②地域の限定
③大国の参加を積極的に求める/④発言権の平等
⑤大国が複数の連合に責任ある立場として参加
⇒経済的な国家連合との相互作用が問題
第四節 経済連合の多様性 −開発主義との関係−
*経済連合の標準的形態
・相互補完的経済連合−垂直的分業:戦前のブロック主義
・相互代替的経済連合−水平的分業:EC
*経済統合の狙い
・従来の経済統合理論−貿易だけを静学的にのみ問題とする
・現代の経済統合理論−驚異的に緊密化、多次元化、動態化しつつある経済的相互補
完関係からこれまでにない広い意味の補完の利を得
ようとしている
*東アジアは経済統合すべきか?
・東アジア−水平的関係と垂直的関係が混合して「雁行的分業」
⇒東アジア圏内の国々は各々開発主義をとっており現時点では域内の資本自由化制
度を整備する事が先
*経済政策的連合−特定の経済政策維持についてのみ成立する政治的連合
⇔経済的連合−経済的利益を上げるためには政策を特に選り好みしない
→新ブロック主義 ex.OPEC
⇒問題の焦点は開発主義
後発国の開発主義が世界経済のルールの一部として公認されないとそれに対抗する手段と
して経済政策的連合を形成する可能性がある
→①日本を除く東アジア諸国の態度/②欧米先進国の態度/③日本の態度
第五節 新しい経済自由主義のルール
●古典的経済自由主義−費用逓増傾向を前提とした考え
●開発主義−費用逓減を基本的状況としそれを生かす考え
*経済自由主義:長所―政府介入の問題なし/世界的調整機能の存在不要
短所―費用逓減のもつ潜在的成長力を生かせない
*開発主義:産業化理論の徹底化
長所―費用逓減の利点を生かす
短所―政府介入の拡大・慢性化
開発主義は産業間の調整を行う政府が存在する限りで有効
国際経済の視点からの再検討
・後発国待遇を停止するルールの国際的含意による確立
・開発主義を公認する(基本ルールにはしない)
*多相的な経済自由主義ルール
①先進国は開発主義を捨てて経済的自由主義を採用
②後発国には開発主義を公認・技術移転を円滑化
11
③各国市場制度の個性を認める
*新しいルールの世界システムを成功させるか否かは大国にかかっている
日本の「国としての開発主義」からの脱却と「企業の開発主義」の問題
第十一章 技術・経営・議会政 −三つの問題点の覚書− 赤間圭祐
第一節
技術発展の視覚から
Ⅰ.古典的ナショナリズムの衰退についての予測:旧ソ連 ・中国の国内政治
国連の機能についての評価:悲観論
今後の国際紛争=旧ソ連・中国の分解ないし内部動乱に関するもの→拒否権行使の可能性
Ⅱ.古典的経済自由主義の衰退についての予測:開発主義の拡大、技術発展の可能性
アメリカの経済力の相対的低下、アジア NIES 中心の「国としての開発主義」の相対的比重の
増大傾向など、明らかに「衰退」を思わせる現象は多い。
①
アメリカ経済は再活性化し、相対的低下の傾向に歯止めがかかるという逆の予測
・
アメリカ経済が20世紀型の「旧い」産業に重点をおいている限り、世界の中でのアメリ
カ経済の相対的比重が再び拡大に向かうことはない。
・
アメリカ経済が再びリードするようになるチャンスは、21世紀型の「新しい」産業が本
格的に発展するときに訪れる。その発展開始のタイミングがいつ来るのか、それに遅れな
いようにアメリカ国内の態勢を整えられるかが重要。これには今後の技術発展のダイナミ
ックスを展望する必要がある。
②
・
開発主義の成功は長くは続かないという反論
いったん蓄積された人的資産はあらゆる手段を使って前進を図る。当分の間は国としての
開発主義政策はとり続けられる。
・
「雁行形態」という比較的抵抗の少ない調和的な可能性がある。
●技術革新のダイナミックス
・
過去二百年間の産業化の歴史には波動とその周期性がみてとれる
→経済的不況局面=新技術の頻出する創造的な局面
経済的好況局面=技術の応用が需要の造出につながる応用的な局面
・
産業化の波動は、四半世紀波・半世紀波・一世紀波の3つの層から成る。この周期性は単
なる繰り返しではなく、むしろらせん的運動。産業化の進行につれて、突破の起こりうる
国あるいは産業の範囲が広がっていく。
●雁行形態の可能性
・
少数国だけが技術的に突出するのではなく、多数国が「雁行的」に発展する形
①
先頭国が「新しい多層的な経済自由主義のルール」にしたがって技術を譲り渡し、更に新
しい技術を創造していくという役割を果たす
②
それと同時に、ある需要が先頭国で飽和すると後発国がそれをバトンタッチする
→「新しいルール」が定着するための理想的な配置は、相対的先発国と相対的後発国の間のこ
のような経済的相補関係。先進国の経済自由主義と後発国の開発主義がバランスしながら発
展していく可能性は十分にある。
●企業(経営としての)開発主義
・
第二次大戦後、経営の意思決定の視野が長期化
→費用逓減傾向を生かした経営方式の体系的開発
12
→「過当競争」という競争の不安定性(日本企業の特異性として批判される)
→過当競争を標準状態とするような国際経済システムは維持不可能
●「企業の開発主義」が今後自然に沈静するか?
・
費用逓減の二つの状況と二つの対応
①
差別化商品:過当競争の危険は少ない
②
同質的商品:政府介入が必要なまでの過当競争
→今後しばらくを担う産業は「軽薄短小」産業=多品種少量生産・差別化の産業
・
21世紀型システムでの高度大衆消費:体化された情報投入量の大きさに特徴をもつ財
→生産体系は「柔軟な製造システム=FMS」化
⇒同質的商品について展開されてきた「開発主義」の役割は縮小
・
しかし商品差別化がまだ不徹底な過渡期には開発主義がしばらく優位を占める
→解決策:個々の先端産業ごとの「国際的な産業政策」
Ⅲ.大国間の摩擦克服能力についての予測 ・選択の無理:日米間の異質性論議の行方
第二節
日本企業の異質性の視点から1 −系列化と雇用慣行−
●系列化
①
融資系列・株式持ち合い系列:横の系列・金融的、グループ内異業種間の相互調達関係
②
下請け系列:縦の系列・実物的、特定の最終製品生産のためで最も成立しやすい
③
流通系列:縦の系列・実物的、流通制度のヒエラルキー
・
系列は政府介入で生まれたものではなく、個々の企業の長期的な経済効率追及の産物
→しかしそれを違反とみなすルールはありうる=「組織の理論」
・
系列外企業も系列に参入するチャンスがある(参入・脱退に時間はかかる「中間組織」
)
●雇用慣行
・
第二次大戦以降の技術革新の恒常化→「労働者の企業定着化」傾向
→熟練労働者の流出を食い止める制度の工夫の違いが各国の企業経営を分岐させる
*
アメリカ:職業ごとに定められた先任権制度、レイオフ多用←「機会主義」
*
日本:職務間労働移動制・終身雇用制、レイオフを避ける←「調和的関係」
第三節
日本企業の異質性の視点から2 −株式持ち合いと金融政策−
●株式持ち合い
・
株式持ち合いは経済自由主義のルールに違反するか?
→スーパー産業化:企業の永続的集団化傾向を伴う
⇒乗っ取り防止の工夫は必ずしも禁止されない
・
株式持ち合いは競争を実質的に制限することになるのか?
①
系列内での商品調達を優先すれば取引が制約され、効率を犠牲に
②
競争の実質的制限の可能性は個々の市場条件により異なる
⇒全面禁止はバランスの取れた判断とはいえない
●金融システム
・
金融制度の優劣をどれが最も経済自由主義的かという基準で決定することはできない
13
→金融制度の国際的相違は相互に認めざるを得ない
・
金融資産は領土的な国境を突破、財と財の仕切りを乗り越える(グローバル化・証券化)
→金融資産の不安定性への政策:「多相的な経済自由主義のルール」
Ⅳ.自由民主主義の能力についての予測・選択の無理
第四節
民主主義批判の視点から −自由と平等−
●自由主義と民主主義
・
自由主義は誰に対しても決定への参加が常に開かれること
=機会の平等への要求を導き出す(弱い意味で「民主主義的」
)
→多数決制はやむを得ずとられた便宜にすぎない
→民主主義がメカニカルな多数決制になると自由主義と民主主義は対立概念になる
・
技術主義・「多相的な経済自由主義」は過渡期のプランに過ぎない
しかし経済自由主義⇒技術自由主義⇒情報自由主義という変転の連鎖とも言える
*
今後の世界システム=異質性を抱え込みながら一つのルールを模索,異質への理解
第十二章 理解についての理解
第一節
文化説明の三つの型
●三つの行為と三つの文化
①
事物を志向する行為:対自然(技術)の文化
②
他者を志向する行為:対他者(集団ないし組織)の文化
③
自己を志向する行為:反省行為としての文化(狭義の文化あるいは文化的表現)
⇒偏った理解を避けるためには三つの文化を区別する必要がある
第二節
若干の哲学的準備
●「理解」の理解のための「現象学的」枠組み
・
志向性の前提(素朴な意識は対象を志向しており、内的自我それ自体には気づかない)
・
身体性の前提(素朴な意識は自分の身体を他の事物から識別している)
・
他者性の前提(素朴な意識は他の意識をもつ存在と交信できると信じている)
・
文脈的全体性の前提(素朴な意識も様々な文脈の積み重ねからなる全体であり、その地平
は常に特定の対象を越えて広がっていく)
・
反省の前提(人間の意識は本来反省的。人間の世界解釈は本来は解釈それ自身に言及し一
連の再解釈を生み出していく。反省において初めて自我が顕在化)
●反省=後反省的意識が前反省的意識に言及すること
・
反省行為において自我は、顕在化した前反省的自我と潜在的な後反省的自我との二重の意
味を持つ
*反省の型−全体的反省:反省行為がすべての対象に及ぶ(人文・社会科学)
−部分的反省:反省による再解釈が一部の対象に限定される(自然科学)
*全体的反省−超越論的反省:後反省的自我を重視、生活世界を超越する認識主体として自我
を生活世界から切り離す
−解釈学的反省:前反省的自我を重視、生活世界を構成する要素として自我を生
活世界の中に再び埋め込む
14
●超越論的反省
・
自我は前反省的な素朴な意識を超える立場、素朴な意識を相対化・低次化
・
超越論的自我にとっての「対象」は前反省的世界イメージ→対象の高次化
・
超越論的認識=「法則認識」
→自我を顕在的に自覚しようとする限り超越化の過程は終わることなく続いていく
→神智論的な修行・絶対的存在の導入(有史宗教の誕生)
●解釈学的反省
・
高次の後反省的自我が、それが今超越したばかりのシステムにおける低次の前反省的な自
我へと呼び戻され、新旧のイメージが重ね合わされる
・
解釈の努力を評価し正当化するような高次の認識主体は存在しない。解釈の努力は自らの
手で自らを根拠づける以外に途がない(
「解釈学的循環」の問題)
・
解釈学的方法が関心をもつのは、まさに生きられつつある具体的な人間の総体であり、こ
の総体性を経由することによって、真・善・美に到達することが期待されている
●保守・進歩、自由主義、個人主義について
・
最も一般的な意味の進歩主義と保守主義の対立は、超越論的思考と解釈学的思考のディア
レクティークな関係であり、反省する動物としての人間において常に見いだされる
→二つの姿勢の対立を生み出す基本構造=「自由主義」
・
自由主義的な社会を存続させるための鍵
→異なる人々と社会の姿を重ね合わせ共約点を探っていく努力=解釈学的反省
・
思想の営みにおける個人の尊重は、真正の自由主義からも必然的に導かれる
→しかし行動の個人主義は反省を伴わない限り自由主義そのものと矛盾することになる
第三節
日本文化のいわゆる「曖昧性」
・
日本文化が曖昧との批判は、欧米起源の超越論主義=進歩主義の視点にほかならない
・
有史宗教と古代宗教の混合(有史宗教の影響が弱かった)
・
絶対的人格神を想定せず、高度に知的な形態と卑俗な民衆形態とへの分裂を特徴とした東
方型有史宗教
・
救済をもたらす超越論的絶対者への到達を現世の中に見出そうとする傾向
・
歴史を通じて日本人の対応は伝統主義的であると同時に、変化受容的であった
*
今必要なのは自文化を棄てることなしに、他国の文化を理解し応用することであり、共通
の宗教や科学よりもむしろ、伝統や教養のあり方についての寛容であり共約可能性の拡大
である=「解釈学的思考」の必要性
15