コメント:パネル「21世紀の中小企業金融」 金融庁 木下信行 各報告は、金融機関の自己資本比率と貸し渋りの関係、貸出市場におけるリスク情報の 整備、中小企業貸出におけるリスクとリターンの関係の 3 点を共通の軸としている。以下 ではこれについて、役所の立場を離れてコメントする。 まず、自己資本比率規制は、金融機関の破綻が、預金保険を通じて最終的には財政負担 にもつながるということから、ディスクロージャーと監督行政の整合的運用によって、金 融機関の市場規律に基づく健全化努力を促すために導入されたものである。現在では、一 斉検査による財務状況の確定、公的資金による資本増強等を経て、自己資本比率が直接に 問題となる金融機関は例外的になっており、貸し渋りの要因とはいえない。現時点の金融 システムの問題は、自己資本ではなく収益性にあり、わが国の金融機関の利鞘を、不良債 権処理コストや外国の金融機関の利鞘と比べると、極めて薄いものにすぎない。 次に、貸出市場におけるリスクとリターンの関係については、貸出市場は、価格シグナ ルによって需給がクリアされるという市場本来の機能が発揮しづらいものとみられる。こ れは、貸出市場が相対の市場であること、貸出は情報の非対称性が著しい金融商品である ことによるが、現実の問題としては、基礎的データが未整備であることも大きく影響して いる。中小企業庁が現在進めているCRDは、この点に関する市場インフラのひとつとし て有効だと考えられ、その他にもデータベースが開発されるほか、その標準化の動きも始 まっている。 第三に、中小企業向け貸出の市場構造については、従来、金融機関による採算割れの低 金利貸出が信用割当現象を起こす一方、これからはずれた場合には、例えば商工ローンの ような高金利貸出を利用せざるをえないという問題があった。現在、金融機関はミドルリ スク市場に進出し始めており、情報インフラの整備もあいまって、貸出市場は、リスクと リターンの連続的な関係が確保された市場へと移行していくことが期待される。 金融システムの今後の健全性は、結局、企業の採算性如何であるが、厳しい国際競争の なかで、企業の前向きのリストラが早期・円滑に行われることが重要である。この点につ いては、企業のガバナンスに関する民事法制が重要な影響をもち、とりわけ倒産法が重要 である。従来の法制のもとでは、例えば中小企業のオーナーのビジネスモデルが陳腐化し ていても、ぎりぎりまで債権者が企業のガバナンスに関与しえず、関与可能となったとき には清算せざるをえないという状況であった。この状況は、幅広く利用可能な企業再建の 枠組みである民事再生法の導入により、変革していくことが期待される。現状ではなお「事 実上破綻」等という報道が行われているが、その意義の正確な認知が望まれる。
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