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ご参考資料
2016年
12月6日
Vol. 14
“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
初回コール見送りの理由
バーゼル規制の自己資本要件を満たすため新たに各種証券が発行されています。伝統的な株式や債券に見ら
れる価格変動等のリスクに加え、新たな証券には趣の異なるリスクが内包されている場合もあり注意が必要です。
資本性証券のコール・スキップ・リスク:スタ
ンダードチャータード初回コールを見送り
バーゼル規制の枠組のもと、銀行の自己資本として算入
可能となる資本性証券(一般債権に比べて返済の優先順
位が劣後する優先出資証券や劣後債など)が多く発行さ
れています。そのような証券には様々な条件が付与され
ており、思わぬリスクも発生しています。例えば、英スタン
ダードチャータード銀行が2016年11月1日に7—9月期の決
算発表で、2006年12月に発行した資本性証券(永久債、6.
409%クーポン)の初回の期限前償還(初回コール日:2017
年1月30日)を見送ると発表しました。
市場では「暗黙の了解」として、初回のコール日に償還さ
れることが慣例でした。この慣例が崩れたことで、同証券
価格は償還されないリスクを反映して急落しました(図表
1参照)。また、同様の(償還されない)リスクが想定される
他の証券の一部も連想で下落しました。
資本性証券のコール・スキップ・リスク:
主な内容と注目点
今回、市場で見られた初回の期限前償還見送り(コール・
スキップ・リスク)に対する主な課題を検証します。
Q1: そもそも、コール・スキップ・リスクとは?
A1: スタンダードチャータード銀行は決算資料で初回コ
ールを見送る計画を公表しているため、当該永久債(6.40
9%クーポン、2049年償還)を例に説明します。
当該永久債は2006年12月に発行され、その後年2回、約
10年にわたって固定クーポンが支払われてきました。
2017年1月に発行者は初回償還(コール)に当該永久債を
償還させるか、それとも償還を見送り、以降は変動クーポ
ン(3ヵ月LIBOR+1.51%、概ね2.4%程度)を支払うかの選択
権があります(図表2参照)。
通常(?)であれば、同様の証券は初回のコールで償還さ
れることがほとんどです。しかしコール・スキップの公表を
受け、当該永久債の価格は約97から急低下、現在も70台
後半の取引となっています。他の銀行は、現時点では明
確にコール・スキップを表明していませんが、市場では同
様のリスクを懸念して値を下げる銘柄も見られます。
なお、コメルツ銀行もコール・スキップの可能性を示唆して
いますが、明確にコール・スキップを示唆していない点に
注意が必要です。
図表1:主な資本性証券の価格の推移
(日次、期間:2016年5月25日~2016年11月25日)
105
債券価格
100
95
90
85
スタンダードチャータード銀行
RBS
クレディアグリコール
80
75
16年5月
16年7月
16年9月
16年11月
※スタンダードチャータード銀行: 6.409% 永久債、RBS:7.64% 永久債、ク
レディアグリコール:6.637% 永久債
なお、ここでは永久債という一般的な表現を用いているが、例えば スタン
ダードチャータード銀行債は決算資料には非累積ドル建永久優先株($7.5億
non-cumulative redeemable preference shares)と記されている
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
図表2:コール・スキップのイメージ図
元本受
け取り
初回コール
2017年1月30日
償還
初回コー
ルまで固
定クーポン
(6.409%)
の受け取り
新たな
キャッシュ
フロー
償還見送り
初回コールが見送ら
3M LIBOR
れ変動金利(3ヵ月
LIBOR+1.51%の受 1.51%
け取りへ
そして償還
のはずが
スタンダードチャータード: 6.409% 永久債の主な概要
発行:
利払い日:
利率:
コール条項:
2006年12月(条件決定日)
当初は年2回、2017年1月30日以降は年4回
当初6.409%、2017年1月30日以降 3MLIBOR
+1.51%
初回2017年1月30日、それ以降は10年経過後
(次回は2027年1月、2037年1月等)
出所: 会社資料、ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作
成
記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企
業の売買を推奨するものではありません。
ピクテ投信投資顧問株式会社 4ページ目の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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ご参考資料
“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
資本性証券のコール・スキップ・リスク:
主な内容と注目点(続き)
図表3:比較対象銘柄の利回り
(日次、期間:2016年5月25日~2016年11月25日)
Q2: なぜ、市場の慣例を破ったのか?
A2:同行の説明は今回の決定について、金利の節約と
いった内容を述べています。以下は、推察を付け加えると
総合的に経済的に有利と判断したためと思われます。
7.0
金利の節約という点は、平易に理解するとクーポン支払
いが減らせるということです。当該永久債が固定利付き
債とみなされたときの類似の資本性証券(スタンダード
チャータード永久債 7.014% 永久債、次回コール2037
年)の利回りは概ね現時点で6.5%程度、コールスキップを
表明した時点で6.2%程度です(図表3参照)。
また、スタンダードチャータード銀行は自己資本比率など
バーゼルⅢに向け資本に組入れ可能な証券の保有を維
持したいと考えていたとすると、初回コールに向け次の選
択が考えられます。
①市場慣行に従い6.409%永久債を早期償還して、同様の
永久債を発行する(そのとき求められる利回りは先の証
券が一つの目安)
②早期償還を見送り、3ヵ月LIBOR+1.51%を支払う
金利の節約といっているのは①と②の差で、②を選択し
た場合、今後10年程度は現在の3ヵ月ドルLIBOR(当該永
久債はドル建のため)に1.51%を上乗せした約2.4%のクー
ポンの支払いとなり、①に比べ1年で大雑把にみて4%程
度の節約が期待されます。
6.2
%
6.8
6.6
6.4
6.0
スタンダードチャータード銀行
5.8
5.6
16年5月
16年8月
図表4:スタンダードチャータードの主なB/S項目
(四半期、期間:2015年10-12月~2016年7-9月期)
百万米ドル
ここで、改めて初回コールを見送った理由を考えます。ス
タンダードチャータード銀行のような巨大銀行はCET1比
率以外にも、様々な財務比率をクリアする必要があり、資
本性証券の保有を減らすことは、財務比率の悪化を招く
恐れがあり、初回コールをしたとしても、バーゼルⅢの資
本算入条件を満たす同様の永久債を発行する必要があ
る可能性があります。
2 0 1 6 年9 月 2 0 1 6 年6 月 2 0 1 6 年3 月
バランスシート
顧客向貸出
266,027
265,874
257,763
預金
382,421
371,698
365,626
CET1比率(完全適用ベース)
13.00%
13.10%
13.10%
総資本比率(段階適用ベース)
20.50%
19.50%
19.60%
292,055
293,226
295,310
41,999
40,315
40,741
744,721
731,131
745,761
5.60%
5.50%
5.50%
739,937
729,426
738,595
資本比率
リスク・アセット
Q3:当該永久債の発行体に経営の問題はあるのか?
A3:当該永久債の初回コールが見送られたのは、あくま
で経済合理性を求めた判断であると考えます。
例えば、スタンダードチャータード銀行の最新の決算
(2016年7-9月期)を見てもCET1比率(完全適用ベース)
は13.0%と高水準です(図表4参照)。資本不足を懸念する
水準であるとは考えにくいと思われます。
また、11月後半にFSB(金融安定理事会)は定例改定でス
タンダードチャータード銀行をG-SIB(システム上重要な
巨大銀行)に昨年同様指定しています。
16年11月
※図表3:比較対象銘柄はスタンダードチャータード銀行7.014% 7/29/2049
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
レバレッジ
Tier1資本(完全適用ベース)
トータル・レバレッジ・エクスポージャ
レバレッジ比率
四半期平均エクスポージャ
出所:会社資料(決算報告)を使用しピクテ投信投資顧問作成
一方、当該永久債(6.409%)はバーゼルⅡ対応の資本性証券
として発行されましたが、クーポンが固定から変動に変わる時
点でステップダウンするなど、バーゼルⅢ資本性証券として
資本算入条件を満たしていると考えられます。
(ご参考)主な資本算入条件
その他Tier
◎永久債であること ◎初回コールまでの期間が5年以上
◎ステップアップ等の償還を動機付ける条件が含まれない
◎継続企業としてのトリガー など
記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企
業の売買を推奨するものではありません。
ピクテ投信投資顧問株式会社 4ページ目の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
資本性証券のコール・スキップ・リスク:
主な内容と注目点(続き)
したがって、当該永久債の予め定められた割合分は(経
過処置により)、初回コールを見送ってもその他Tier1に算
入されると見られます。
まとめると:
1. 自己資本比率を維持したいなどの理由により、資本
性証券を維持する必要がある。
2. なお、株式発行が出来るほど、業績が好調ということ
も無く、仮にコールしたとするなら資本性証券で調達する
必要があり、そのコスト(利回り)は相対的に高い。
3.一方、コールを見送った場合(今回のケース)、コスト
の観点からは3ヵ月LIBORプラス1.51%ですむ。
Q4:スタンダード・チャータード銀行の経営に問題が見ら
れないのに初回コールが見送られたのならば、他行で
も、同様のことが起きる可能性はあるのでは?
A4:あると考えるのが自然と思われます。
例えば、コメルツ銀行も(2017年6月30日に初回コールを
迎えるバーゼルⅡ用のTier1資本性証券を念頭に)初回
コール見送りの可能性を示唆しています。他の銀行が発
行した資本性証券にも、特にステップダウン債には初回
コール見送りの可能性があると見られるものもあります。
欧州債券市場:
今後のポイント
バーゼル規制が導入されて長い年月が経過しました。
バーゼルⅠでは自己資本比率という概念が導入され、Ⅱに
おいては主に分母のリスクアセットの定義が精緻化されまし
た。バーゼルⅢでは分子である資本がゴーイングコンサー
ンキャピタル(Tier1)とゴーンコンサーンキャピタル(Tier2)と
して整理されると共に、自己資本比率で把握しがたいリスク
指標としてレバレッジなど他の指標が導入されました。
このような流れの中で、2016年はAT1債(その他Tier1)のリ
スクであるコールスキップが発生しました。また、ドイツ銀の
クーポン支払に懸念が起きたのは、業績悪化懸念により
(翌年の)分配可能額が減少、クーポンが払えないリスクが
高まったことが背景です。
AT1債のリスクというと、事前に定めた財務条項(トリガー)
に抵触することで債券が株式に転換されるトリガーリスクが
思い起こされます。一方で、コール・スキップや、クーポンが
支払われない(分配可能原資不足)リスクは、市場のあわて
ぶりを見ると、現実の問題としての認識が低かったのかもし
れません。
Q5:初回コールで償還されるか見分ける方法はあります
か?
A5:残念ながら、初回コールが見送られるリスク(コール・
スキップ)を予想することは出来ないでしょう。ただし、次
のような点に注目すべきと思われます。
①初回コール前後で利払いが大きく低下する。
②資本性証券の組入を維持するインセンティブが強い。
バーゼルⅢでは様々な指標をクリアする必要があり、資本性
証券を各行の資本政策に活用することが想定されます。このよ
うな証券を維持するニーズが強いことも、コールを見送る条件と
考えられます。
③他の資本性証券を発行する計画が当面ない
コール・スキップは過去に例が無いわけでなく、経済合理性が
高まっていることから、今後増えるのかも知れません。ただし、
今回のスタンダードチャータード銀行のケースで学んだことは、
コール・スキップの影響は市場の様々な証券に影響を与えるた
め、今後発行を考えている発行体にとっては発行コスト上昇を
含めて経済合理性を考える必要があります。
上記が見分ける方法として考えられますが、あくまで参考
に過ぎない点に注意が必要です。
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