集 特 石綿による健康障害 石 綿 っ て 何 ? ●石綿肺 石綿(アスベスト)とは,繊維状をした鉱物です。石綿 吸入した石綿粉じんが肺の中に沈着して線維化をおこ は,紡織性,抗張性,耐摩擦性,耐熱性,断熱性,防音性, します。石綿肺は,じん肺の一種です。自覚症状は, 耐薬品性,絶縁性,耐腐食性,親和性,経済性に優れ, 体動時の息切れ,から咳,呼吸困難,胸痛,血痰などです。 建材や自動車部品などに広く使用されました。主な石綿は, X 線写真,CT では下肺野に陰影が認められ,気管支鏡 クリソタイル,アモサイト,クロシドライトです。 検査などで得られた検体には石綿小体が認められます。 これまで世界で使用された石綿の9割以上はクリソタイ 石綿吹き付け作業,石綿紡織業などの高濃度ばく露で ルです。アモサイトとクロシドライトは,吹き付け石綿と あれば 10 年未満のばく露期間であっても発症しますが, して過去に大量に使われましたが,1975 年以降,吹きつ 通常は石綿ばく露から 10 年以上経ってから初期病変が け石綿は禁止され,1995 年には輸入 ・ 使用が原則禁止とな 現れます。 りました。また,2004 年にはクリソタイル等の石綿を 含有する製品の製造が禁止されました。 ●肺がん 一方で,石綿繊維は髪の毛の数千分の1と大変細く, 主な原因は,肺に取り込まれた石綿繊維の物理的刺激 人の鼻毛や気管支の繊毛を通り越して,肺の奥の肺胞にま とされています。喫煙と深い関係があり,石綿と喫煙の で到達して障害を起こします。 相乗作用により,著しく肺がんの危険が高くなります。 石綿のばく露から肺がんの発症までに 15 ∼ 40 年の期間 があり,ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが 石綿が原因で発症する病気は? 知られています。早期に発見するためには,CT 検査と 図1 主な石綿関連疾患 喀痰細胞診検査が必要です。 図3 喫煙と石綿ばく露による肺がんのリスク(コホート調査) 胸膜中皮腫 肺がん 石綿肺 報告者(年) 石綿(−) 石綿(−) 石綿(+) 石綿 (+) 喫煙(−) 喫煙(+) 喫煙(−) 喫煙 (+) Hammond ECら (1979) 1.0 10.9 Meurman LOら (1979) 1.0 McDonal JCら (1980) 1.0 1.0 * Morinaga Kら (1992) 5.2 53.2 12.0 1.6 19.0 11.8 12.8 25.0 4.1 11.9 48.3 *Morinaga らの石綿ばく露者は石綿肺疾患者 出典:職業性石綿ばく露と石綿関連疾患 森永 謙二 著 三信図書 びまん性胸膜肥厚 腹膜中皮腫 ●中皮腫 中皮は漿膜(しょうまく)と呼ばれる透明な膜で,肺, 心臓,消化器などの臓器の表面と体壁の内側を覆い,臓 出典:アスベスト汚染と健康被害 森永 謙二 著 日本評論社 器がスムーズに動くのを助けています。中皮腫は,この 図2 石綿粉じんのばく露量,潜状期間および合併症 漿 膜の表面にある中皮細胞に由来する腫瘍です。発生 部位別頻度は,胸膜>腹膜>心膜>精巣鞘 膜の順です。 症状は,胸膜中皮腫では息切れ・胸痛・咳,腹膜中皮腫 石綿ばく露量 では腹痛・腹部膨満,心膜中皮腫では不整脈・息切れ・ むくみ,精巣 鞘 膜中皮腫では鼠 径から睾丸部の腫瘤と 石綿肺 肺がん 痛みなどです。 石綿ばく露から中皮腫の発症までの期間は,肺がんよ り長く,年数を経るほど発生頻度が高くなります。 胸膜プラーク 硝子化 石灰化 悪性中皮腫 ●胸膜疾患 10 20 30 40年 出典:職業性石綿ばく露と石綿関連疾患 森永 謙二 著 三信図書 2 2006年(平成18年)4月25日発行 Vol.36 【びまん性胸膜肥厚】 胸膜には,肺側の臓側胸膜と外側の壁側胸膜があり ます。びまん性胸膜肥厚は臓側胸膜の線維化ですが, 壁側胸膜と癒着して,両方に病変が見られることが多 いです。息切れや肺機能の低下が起こります。 健康診断(石綿障害予防規制第40条) 石綿障害予防規則が2005年7月1日に施行されました。 【良性石綿胸水】 石綿による石綿肺,肺がん,中皮腫等の健康障害を早期 石綿胸膜炎ともよばれ,通常は片側に胸水を認めま に発見するため,事業者には,石綿作業従事者に対する健 す。約半数は自覚症状がなく検診などで発見されます。 康診断を行うことが義務づけられました。 症状は,胸痛,発熱,咳,呼吸困難などです。約半 【健康診断の対象】 数は,治療をしなくても自然軽快します。また,良性 石綿胸水と診断された後,経過観察中に中皮腫があら われる場合もあります。 ⑴特定石綿等を製造し,もしくは取り扱う業務に常時従 事する労働者 ⑵製造等禁止石綿等を試験研究のために製造し,もしく は使用する業務に常時従事する労働者 ⑶事業場の在籍労働者で,過去においてその事業場で石 労災補償について 綿を製造し,または取り扱う業務に常時従事したこと 石綿ばく露作業に従事したことがあり,かつ下記の疾病 を発症した場合には,労災補償の対象となる可能性があり ます。それぞれの疾病ごとに認定要件が定められています。 のある者 【健康診断の実施時期】 ⑴雇い入れ時又は当該業務への配置替えの際 ⑵定期健康診断(6ヵ月ごとに1回) 石綿肺,肺がん,胸膜・腹膜・心膜又は精巣鞘 膜の 中皮腫,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚 【健康診断の項目】 ⑴一次健康診断 ①業務の経歴の調査 このうち原発性肺がん * と中皮腫にかかる認定の流れを 下図に示します。 *肺に発生したがん ②石綿によるせき,たん,息切れ,胸痛等の他覚症状 又は自覚症状の既往歴の有無の検査 ③せき,たん,息切れ,胸痛等の他覚症状又は自覚症 図4 原発性肺がんにかかる認定の流れ 第1型以上の 石綿肺所見有り? 原発性肺がんにかかる労災請求 は い いいえ 状の有無の検査 ④胸部のX線直接撮影による検査 ⑵二次健康診断 (一次健康診断の結果,医師が必要と認めた場合) 職業ばく露作業 従事歴10年以上有り? ①作業条件の調査 ②胸部X線直接撮影による検査の結果,異常な陰影が 胸膜プラーク 所見有り? 胸膜プラーク 所見有り? ある場合で,医師が必要と認めるときは,特殊なX 線撮影による検査,喀痰の細胞診又は気管支鏡検査 石綿小体・ 石綿繊維が有り? 石綿小体・ 石綿繊維が有り? 診療部 副部長 金敷 真紀(医師) 業務上 業務外 本省協議 図5 中皮腫にかかる認定の流れ 中皮腫にかかる労災請求 は い いいえ 石綿健康診断を開始しました 胸膜、腹膜、心膜又は 精巣鞘膜の中皮腫か? 当協会では,平成 18 年 4 月 1 日から石綿健康診断 第1型以上の 石綿肺所見有り? を開始しました。 事業所のほか,石綿による健康不安をお持ちの個人 職業ばく露作業 従事歴1年以上有り? 胸膜プラーク 所見有り? の方も受診いただけます。 詳細は,下記までお問合せください。 胸膜プラーク 所見有り? 【お問合せ先】 石綿小体・ 石綿繊維が有り? 石綿小体・ 石綿繊維が有り? 《事業所でお申込みの場合》 事業調整部渉外課 本省協議 業務上 業務外 個別判断 ☎029(241)0542 《個人でお申込みの場合》 診療所 出典:石綿による疾病の認定基準が改正されました ☎029(241)0053 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 2006年(平成18年)4月25日発行 Vol.36 3
© Copyright 2024 Paperzz